㋮肩こり治療の実際

マニアック

肩こりとは

肩こりとは、肩甲上部、肩甲帯(骨)周囲筋の過緊張状態により、その部分の疲労感、張る感じ、痛み、鈍麻感を自覚し、押圧すると痛みもしくは気持ちよさがあるもの。

※「肩こり」といったときの「肩」には、首スジや首の付け根の部分も含まれます。通常「肩」という場合、「肩関節」のことをさすので、あえて「頚(首)こり」ということもあります。

肩こりの正体は筋緊張です。筋緊張は全身種々の筋で起こりますが、大腿四頭筋が緊張して硬くなっても、これをコリとは感じません。コリと感じるのは、頚・肩甲上部・上背部程度です。

筋が縮む、筋が固まる、コリができる。これらは同じことを示していて、その機序は次の通りです。

〇筋収縮の機序

骨格筋と腱には、筋の収縮に伴う筋と腱の長さや張力の変化を感受する受容器が存在します。その受容器としては、筋の筋紡錘と腱の腱紡錘(ゴルジ腱器官)があり、これらの受容器からの情報は、運動の反射性調節に重要な役割を持ちます。

骨格筋の収縮状態を感受する受容器は筋紡錘内に存在し、この末梢の受容器の求心性情報は、Ⅰa群求心性線維によって中枢神経に伝えられます。筋が伸展すると筋紡錘も伸展し、Ⅰa群求心性神経の活動が増加します。一方、筋が収縮して筋が短くなるとⅠa群求心性神経の活動は停止します。

筋の収縮に関する求心性神経に関する求心情報は、腱に存在する腱紡錘からのⅠb群求心性神経が興奮することによっても中枢神経に伝えられます。Ⅰb群求心性線維は、筋収縮により腱が伸展すると軽度に興奮します (等張力性収縮) 。筋の長さが変わらずに筋が収縮する(等尺性収縮)際には、Ⅰa群求心性線維の活動は変化しませんが、腱が伸展するのでⅠa群求心性線維が興奮して、その求心性情報を中枢へ伝えます。

筋紡錘内にある筋線維を錘内筋線維といいます。錘内筋線維は、求心性神経に加えて、中枢神経に起始する遠心性(運動性)神経の支配も受けています。中枢神経からの指令を錘内筋線維に伝えるこの遠心性神経は、γ運動ニューロンです(※錘外筋線維を支配するのはα運動ニューロン)。この2つのニューロンは上位中枢の支配も受けています。γ運動ニューロンはα運動ニューロンに比べて、細胞体は小さく、線維も細いもので、筋紡錘の感度を調節する働きをもっています。γ運動ニューロンは、錘内筋線維の両端に近い部分に終末します。γ運動ニューロンが興奮すると、錘内筋線維の両端が収縮し、その結果錘内筋線維の中央が部分が伸展されてⅠa群求心性線維の活動が増えます。γ運動ニューロンが働くと、Ⅰa群求心性線維の活動は著しく亢進します。

γ運動ニューロン興奮 → 錘内筋線維の両端が興奮 → 錘内筋線維の中央部が伸展 

→Ⅰa群求心性線維活動が増加 

また、筋の収縮と同時にγ運動ニューロンが働けば、Ⅰa群求心性神経の働きは抑制されないことになります。このように、γ運動ニューロンの活動による錘内筋線維の収縮によって、筋収縮の筋長に対する感受性あるいは感度を調節することができます。

〇Aγ運動ニューロンを賦活(活性)させるために

γ運動ニューロンを具体的に何をすればいいかというと、 脳幹網様体は筋肉からの情報だけでなく、大脳からの刺激も受けています。よって、肩こりを予防・解消するためには、筋肉に刺激を与えてAγニューロンを復活させつつ、大脳からのストレスを受けないようにするのがよいということになります。具体的には、 静かなところで、目を閉じて横になり、不快な刺激をシャットアウトするのが効果的です。

〇肩こりの機序

①持続的に、一定部位の筋を収縮せざるを得ない状態(デスクワークなど)が続くことで、上述した筋緊張を調整する機能が低下します。

②筋緊張を調整する反射をつかさどるためのセンサーが不良で、「筋緊張状態にある」という情報をキャッチできず、そのためⅠb群求心性神経も興奮せず、情報を中枢に伝達できなくなる。

センサー不良とは、腱紡錘にある受容器 (ゴルジ腱器官=センサー)の鈍化のことです。正常であれば、ゴルジ腱器官は引き伸ばし刺激を受けると、そこから発するⅠb知覚線維が興奮し、この情報を中枢に伝達し、中枢は腱が引き延ばされたと認識します。中枢は筋が断裂しないよう、Aα遠心性神経を通じて、反射的に筋弛緩命令を出します。すなわち腱を刺激すると、筋が縮みます。この「腱」紡錘の自筋を抑制するメカニズムを、Ⅰb抑制といいます。もしゴルジ腱受容器のセンサーが鈍化し、腱が伸ばされたという事態を感知しないと、筋を緩める命令も出ないということになります。

〇肩がこらないメカニズム

デスクワークなどの長時間にわたる筋の過緊張状態が続く

筋肉の過緊張により腱は伸ばされ、それにより腱紡錘内のゴルジ腱器官のⅠb群求心性神経が興奮する

Ⅰb群求心性神経によって伝えられた筋収縮および腱伸張の情報は中枢に届く

するとAα遠心性神経によって錘外筋へ、Aγ遠心性神経によって錘内筋へ指令が送られる

これにより腱紡錘内のゴルジ器官は収縮し、筋は伸展される(過緊張状態でなくなる)

今度は、伸展された筋肉(このとき腱は緩む)からⅠa求心性神経興奮によって、その情報が中枢に伝えられると

情報を受けとった中枢は、 α遠心性神経によって錘外筋へ、Aγ遠心性神経によって錘内筋へ指令が送られる

これにより筋は適度に収縮する

このようなメカニズムが随時働いていることで、筋は適度な緊張状態(過緊張状態にならずに)を保つことができ、通常肩は凝らない。しかし筋の過緊張状態が許容量を超えて長くなると、上述のように、腱紡錘(ゴルジ腱器官)にあるセンサーが鈍くなり、このメカニズムが働かなくなり、肩コリが生ずる。

〇Ⅰb抑制を利用した鍼灸治療例

①膝関節痛時、大腿四頭筋の緊張を弛める目的で、膝屈曲位にして大腿四頭筋の膝蓋骨停止部にある鶴頂穴に刺鍼し、大腿四頭筋を緩めます。

②後頚部筋を弛めるために、座位にて、患者さんが自身の臍を見る姿勢(頚部屈曲)にて、後頚部筋に刺鍼します。

☆Ⅰa抑制とは

Ⅰa抑制とは、「筋」紡錘は拮抗筋を抑制するというもの。Ⅰa知覚神経は筋紡錘中にあり、筋の伸展具合を中枢に伝えています。目的筋を大きな速度で伸張すると、筋紡錘が反応して「伸張した」という刺激をⅠa線維に送ります。Ⅰa線維からの情報を脊髄が受け取り、拮抗筋が弛緩します。Ⅰa抑制は鍼灸治療に応用できません。例えば、大腿四頭筋の緊張を弛めるために、拮抗筋である大腿二頭筋を緊張させても有効ではありません。

※Ⅰb抑制とは、 「腱」紡錘の自筋を抑制するメカニズム のこと。

肩こり治療の実際

〇肩こり治療(局所治療)に多く用いられるツボ

肩井、肺兪、心兪、膏肓、膈兪、肝兪、脾兪、肩中兪、肩外兪

〇肩井のこり

肩井は、僧帽筋のトリガーポイントにほぼ一致します。

位置:坐位。(両手を置ける場所があるとよい)。肩髃と大椎を結んだ中点の僧帽筋内。硬結部。

刺鍼:やや背中方向に直刺。

解剖:深刺すると、僧帽筋から棘上筋に至ります。深部には第2肋骨があります。

〇肩甲上部から肩甲間部のこり

肩甲上部から肩甲間部のこりは、大菱形筋・小菱形筋・肩甲挙筋への直接刺激となります。肩甲間部の筋は、表層から順に僧帽筋→大(もしくは小)菱形筋・起立筋群となります。僧帽筋は副神経と頚神経叢筋枝支配、大小菱形筋は肩甲背神経支配で、いずれも純運動神経などの痛むことはありませんが、肩甲間部筋のコリを生じます。

硬結を見つけ、そこに刺鍼しますが、肩外兪であれば肩甲挙筋、肺兪・心兪・膏肓であれば大・小菱形筋を刺激していることになります。

①肩外兪

位置:T1~T2棘突起間に陶道を取り、その外方3寸。肩甲骨上角で肩甲挙筋付着部。

病理:肩甲骨上角は、肩甲骨内上角滑液包炎を生じやすい。肩甲挙筋はハンガーのように、ぶら下がる上肢を引き止める役割をもっています。ストレスを受けやすいのは、その起始である肩甲骨内上角部です。

肩甲骨内上角炎では、内上角の骨変形と、それを取り巻く滑液包の肥厚・増殖・水腫などが生じます。

②膏肓

位置:第4胸椎棘突起下の外方3寸。大菱形筋部。

病理:肩甲患部は、皮膚表面と深部にある肋骨面の隆起との間にある、感受性に富んだ組織が圧迫されやすい構造になっています。とくに第5・6肋骨角付近は隆起しているため、膏肓に多く圧痛が見られます。

体位:該当筋を伸張状態にさせての刺鍼が効果的です。

③肩甲骨裏面(肩甲骨ー肋骨間への刺鍼)

肩甲骨は上腕の動きにつれて非常に運動量が多い。これは筋肉だけでなく、肩甲下滑液包に負担が掛かることを意味します。摩擦量を減じることが滑液包の役目だからです。肩甲骨の裏側がこるという場合、上記方法で肩甲下筋の筋緊張をゆるめる目的で、肩甲骨内縁から肩甲骨と肋骨の間隙に指鍼します。側臥位にて行い、運動鍼も可。

陳旧性で頑固な症状への対処として、いわゆる肩甲骨はがし・立甲(前鋸筋ストレッチ)を行います。

☆翼状肩甲とは

上肢を前方に突き出す時、通常であれば、肋骨を滑るように肩甲骨は上方回旋します。しかし長胸神経麻痺によって前鋸筋は緊張せず、肩甲骨内側が体幹から離れるようになります。これを翼状肩甲とよびます。

〇非整形疾患による肩こり

1)横隔膜反射

横隔膜隣接臓器(肺下葉、心臓、胃、肝、すい臓など)に異常が起こると内臓の異常反応が横隔膜に波及します。内臓知覚は元来敏感なものではありませんが、横隔神経は脊髄神経なので(内臓求心性神経ではなく)ので敏感です。内臓の痛みは、内臓からの直接的な情報ではなく、横隔膜反応としての訴えであることが多いです。

①横隔膜中心部

C3~C4脊髄神経支配。このデルマトームやミオトームは頚肩部を支配し、同部の皮膚過敏と筋のコリをもたらします。(C3:頚部 C4:肩甲上部)

②横隔膜辺縁部

肩こりとは直接の関係はありません。横隔膜付着部周囲の反応として、T7~T12デルマトーム・ミオオーム反応として、体幹側面(側胸部や側腹部)や季肋部や中背部に痛みやコリが現れます。いわゆる胃の六灸(膈兪・肝兪・脾兪)は横隔膜辺縁部の反応であり、多くは中腹部臓器の異常によって横隔膜が興奮した結果です。

2)血圧変動:高血圧値よりも、血圧が変動することによって肩こりなどの不定愁訴が生まれます。

3)直接刺激:肺尖部の異常(パンコースト腫瘍=肺尖部胸壁浸潤がん)

6.筋トーヌスを弛める全身治療

肩こりの局所治療について、こっている筋に対するトリガーポイント治療だけでなく、実際にはリラクゼーションによる全身的な筋トーヌス(安静時における筋本来がもっている筋緊張度。Aγニューロン興奮度)を弛めることを意図した施術も盛んに行われています。

1)抗重力筋に対する施術

筋肉は速筋と遅筋に大別できます。コリをもたらすのは、遅筋に多いので、コリの鍼灸治療では、遅筋を中心したほうが大きな効果を望めます。すなわち抗重力筋作用のある筋への施術が重要となります。なお重力に対抗して立位姿勢を保持する働きのある筋群を抗重力筋といいます。頚部伸筋群、脊柱起立筋群、ハムストリングス、ヒラメ筋は、とくに主要姿勢筋群と呼ばれます。

①速筋:白い色をしていて、収縮速度が速くて瞬発力を出すのに適している反面、持久力に乏しい。腕や手に多く、白身魚(タイやヒラメなど)の色、敵から逃げ、餌を捕まえる時のみ機敏な動きをします。白いのは血管が少ないため。

②遅筋:赤い色をしています。大脳皮質からの命令だけでなく、姿勢保持など、無意識下でも働いています。腰背・臀部・大腿・下腿など、体の姿勢を支える部分に多くあります。赤身魚(マグロやカツオなど)で、回遊魚(酸素を体内に取り入れるために一日中海中を泳いでいる)としての性質があります。血管が多いため赤身になり、疲労しにくい筋肉です。

7.リラクゼーションの鍼灸理論と方法

1)ストレス状態と脳幹網様体の過剰興奮

脳幹網様体とは、延髄・橋・中脳内部にある脳神経核(白色)と神経線維(灰白色)がネットワークを形成している部分のことで、白質中に灰白質が散在する外見をしています。大脳皮質の興奮は下行性に網様体賦活系を刺激し、末梢からの感覚刺激は、脳幹網様体を通過して、大脳皮質に伝達されます。

脳幹網様体を通過するインパルスの数に比例してヒトは意識レベルが決定されます。頭を使う仕事をしたり、痛みやかゆみ、身体運動をするなどでは、インパルス通過量が増大するので意識が高まります。とくに歩行やアクビは眠気覚ましとして効果的です。

2)リラクゼーションの方法

脳幹網様体を通過するインパルスが少なくなると意識は不鮮明になります。これは脱力状態=リラクゼーション状態になるということ。ちなみに精神安定剤は、脳幹網様体のフィルターを強化し、大脳皮質への情報量を少なくする作用があります。

リラクゼーションのためには、暑さ寒さ、明るさ、雑音の遮断、思い悩まない等の要件が必要です。これは睡眠導入のための環境と重なります。

小さな子供を睡眠に導くためには、揺りかごに揺られたり、母親に背中を撫でてもらったりすることが効果的です。大人でも、電車の中などで軽く揺られた状態で眠気を生じることがあります。軽度で気持ちのよい刺激を加えることは、不快な感覚を和ませることができるので、無刺激状態よりもリラックスできると考えられます。

快適なマッサージでリラクゼーションを図ることと同様、抗重力筋に行う軽い刺激の鍼治療もリラクセーション作用があります。リラクゼーションは脱力をもたらすので、※筋トーヌスのレベルを下げることができます。

※筋トーヌス:安静時の筋の緊張状態脳幹網様体について

脳幹網様体について

脳幹網様体とは、脳幹(中脳、橋、延髄からなる)にあって、神経細胞体と神経線維が交じって網目をなす構造をしています。末梢や大脳皮質からの刺激(情報)に応じて骨格筋の緊張を調整、また意識の水準を保つ働きをし、睡眠に関係しています。

1)運動調節

末梢や大脳皮質からの情報に応じて、骨格筋の緊張を調整して姿勢や体位を保ちます。体制脊髄反射には、伸張反射と屈曲反射があり、その違いは以下の通りです。

〇伸張反射:骨格筋が受動的に引き伸ばされると、その筋が収縮する現象。

〇屈曲反射:四肢の皮膚を強く刺激したとき、その部位の屈筋が収縮する現象。

交感神経緊張時は、即応体制状態であり、全身の筋トーヌスが亢進しています。部分的な症状として肩こりも出現しやすくなります。逆にいえば、筋トーヌスが亢進しているとリラックスできません。肩こりを予防改善のためには、筋トーヌスを低下させる必要があります。

2)意識保持

触、温、冷、視、味、臭、聴など、末梢からの感覚刺激を受け取り、末梢からのインパルスの量が意識レベルを決定しています。インパルスの数(刺激の量)が少なくなれば眠くなります。このような場合、体内からの刺激として大腿筋の活動(歩行)や咬筋刺激(あくび)が眠気覚ましに有効なことが知られています。

中央林間うえだ鍼灸院