鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか? 「頭痛から解放されるために」編

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 鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。

筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化、等々。

これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。

解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。東洋医学の治療は、東洋医学独自の病の見立てである「弁証」と、状況に応じた対処の仕方「論治(選穴、取穴、刺鍼施灸、手技)」によって成り立っています。西洋現代医学、東洋医学と、背景にある考え方が違っていても、治療にあたって用いるツボが同じになることは珍しいことではありませんが、日本において、患者さんが東洋医学の病名や用語を口にすることは、まずありません。よって現代医学的な診断を参考にしながら、東洋医学的な分析をしつつ、ことにあたる必要があります。

鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、主に現代医学的観点から病態を捉える、治癒率向上を図る、鍼灸適応不適応の再確認、といったことと合わせて、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代針灸臨床論』」という科目に対しての理解をより深めることを目的の一つとしています。非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。

※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。

〇遠隔療法と反射について

 肩が凝っているときに、その凝っている筋肉に鍼灸をすると、コリが和ぎます。その理由は、筋肉の伸長収縮度合いが正常に戻ったり、凝っている部分の血流が促進されることで、疲労物質の滞りが解消されたりするからです。ですから症状が出ている(凝っている)部分に鍼灸をすることには意味があります。では鍼灸が、内臓の異常に働きかけるためにはどうしたらよいでしょう?内臓に直接鍼を打つといった方法もありますが、受け手の負担も大きく、一般的ではありません。そこで反射(東洋医学なら経絡)といった概念が用いられます。

 反射とは、刺激に対して無意識(大脳を介さず)に、機械的に起る身体の反応のことです。例えば、熱いものに手を触れたとき即座に手を引っ込めるのは反射によるものですが、このようなことが起こるは、身体を守るために、考えてから引っ込めたのでは遅いからです。鍼灸刺激によって反射(体性内臓反射)を起こし、生体に元々備わっている治癒力が賦活(活性化)されます。

・内臓体性知覚反射

 内臓の異常は、その内臓を支配している自律神経とほぼ同じ脊髄反射区の皮膚領域を過敏にし、普通では痛みとはならない程度の皮膚刺激でも、その部位に疼痛また異常感覚を伴なうようになるというもの。

・内臓体性運動反射

 内臓異常による求心性の興奮は、対応する体壁(皮膚や筋肉)に運動性の変化として、筋緊張・収縮などを起こすというもの。いわゆる凝りの現象で、内臓疾患による筋性防御のあらわれ。

・内臓体性栄養反射

 交感神経を切断すると支配下の筋群は緊張を失って代謝障害に陥る。内臓に慢性疾患が長期に渡ると、体壁に萎縮・変性があらわれてくるというもの。

・内臓体性自律系反射

 皮膚にある汗腺、皮脂腺、立毛筋、および末梢血管系を支配する自律神経系の反射で、交感神経性皮膚分節の領域に反応があらわれるというもの。

汗腺反アセアセとして、立毛筋反射は鳥肌、皮脂腺反射は皮脂として、皮膚血管反射は皮膚の冷え、ほてりとなってあらわれる。

・体壁内臓反射

 一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄の同じ高さに神経支配を受けている内臓に反射作用があらわれるというもの。このときに、内臓にあらわれる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)である。鍼灸などの体性(体壁)刺激が内蔵に影響を与える反射。

体壁:胴体(=体幹)の内臓を守るように取り囲んでいる、筋肉と一部では骨でできた壁のこと。胸部の胸壁、腹部の腹壁に分けられる。

 鍼灸適応となる頭痛には主に次のようなものがあります。

 筋緊張性頭痛・頚性頭痛(大後頭神経痛・小後頭神経痛・後頭下神経痛)、片頭痛(拡張型頭痛)、群発性頭痛。

★鍼灸適応となる頭痛は、筋緊張性頭痛(収縮型頭痛)、頚性頭痛(大後頭神経痛・小後頭神経痛・後頭下神経痛)、片頭痛(拡張型頭痛)、群発製頭痛等、機能性頭痛!

鍼灸師が頭痛に対して行うことは、鍼灸適応か不適応かを見極めた上での、頭痛の緩和軽減および頭痛予防のための鍼灸です。頭痛から逃れるためには、他の疾患同様、患者さん自身の生活習慣が非常に重要である。

頭痛治療は、局所治療としては、痛む部位(ツボ・筋肉・圧痛点)に鍼灸等を行います。簡単にいえばこれだけです。全身治療としては、主に中医学的に状況をみて(弁証)、しかるべき部位に鍼灸等を行行います。

★頭痛に対しての鍼灸治療=局所治療+全身治療

〇鍼灸が有効な頭痛(鍼灸行うにあたっての鑑別判断)

 初診の方が、頭痛の真っ最中に「この痛みをなんとかしてほしい」と鍼灸院に来院されることはあまり(ほとんど)ありません。もし、吐き気を伴なうなど、いつもの頭痛と違うと感じたら、急いで病院に行く必要があります。

★いつもと違う頭痛は病院へ!

鍼灸治療の対象となる頭痛は、一般的に、緊張型頭痛、片頭痛(拡張型頭痛)と呼ばれる、緊急を要さないものです。緊急を要す頭痛は主に 頭蓋内の病変によって起こるもので、 急性硬膜下出血、クモ膜下出血、髄膜炎、脳腫瘍などがあります。

★鍼灸不適応の頭痛は、急性硬膜下出血、クモ膜下出血、髄膜炎、脳腫瘍等!

頭蓋内(頭蓋骨内)にある脳は、3種の膜(頭蓋骨側から硬膜・クモ膜・軟膜)に包まれています。硬膜やその周辺にある太い血管周囲には知覚神経が存在しますが、脳内に痛覚はほとんどありません。脳内出血やクモ膜下出血による激しい痛みは、出血によって頭蓋内圧が上昇し、硬膜や血管周囲の知覚神経が刺激されるために起こります。

★脳内に痛覚はほとんどない。出血によって頭蓋内圧が上昇し、硬膜や血管周囲の知覚神経が刺激されて痛みは起こる!

頭蓋内には、その内圧を一定に保とうとするシステムがあります。そのため、脳腫瘍の場合、良性の脳腫瘍が成長がゆっくりだと、腫瘍がかなりの大きさになるまで頭痛が生じないことがあります。慢性頭痛で緊急を要するものはほとんどありませんが、改善しないまま、漫然と治療回数を重ねることには注意が必要です。

★頭蓋内にある内圧を一定に保とうとするシステムによって、腫瘍が大きくなるまで痛みを感じない!

 頭部前方部の痛みや頭蓋内の痛みの刺激は、主に三叉神経を通して脳内に伝わります。三叉神経は顔面にも広く分布しているため、顔面領域の痛みが頭痛として感じることがあります。例えば、アイスクリームを食べたときや副鼻腔炎によって起こる痛みは三叉神経の興奮によるものです。

★頭部前方部、頭蓋内の痛みの刺激を脳内に伝えるのは三叉神経。顔にも分布している!

◎鍼灸が不適応な頭痛

〇急性硬膜下血種

 交通事故、高所からの落下、ケンカで殴られる、ゴルフボールが当たるなど強い打撲によって、硬膜下の静脈が切れて出血する。傷口は小さくても止血できないため、数時間後に血腫が広がり、脳実質を圧迫することで意識消失にまで至る。

 アスピリンやワーファリンと呼ばれる、血液を固まりにくくする薬を服用していると、打撲が軽微なものであっても出血しやすくなる。

受傷直後から意識障害が出るのが典型的。

★急性硬膜下血種の多くは受傷直後から意識障害が出る!

〇クモ膜下出血

 先天的にある脳動脈瘤が、なんらかのきっかけ破裂する。この時の噴流様に動脈出血が出血し、硬膜や血管周囲の知覚神経が刺激されるため、バットで殴られた様な激しい痛みが生じる。出血により脊髄液も赤くなるので、脊髄穿刺により、血性髄液が認められれば確定診断となり、緊急手術が必要となる。40歳以上の女性に多く発症。

★クモ膜下出血は脳動脈の破裂、要緊急手術!

〇髄膜炎

 風邪などをきっかけに細菌やウィルスが髄膜に侵入、 カビなどの病原体の感染、または、がんや自己免疫疾患などにより、 髄液が炎症を起こし、発熱、頭痛など感冒症状が現れる。 重症化すると意識消失やけいれいんなどを起こす。

★髄膜炎は多くは風邪をきっかけに細菌やウィルスが髄膜に侵入!

※髄膜刺激症状

物理的要因や感染によって、脳脊髄液が刺激されると髄膜刺激症状を生じる。その3大症状は、頭痛・項部硬直・ケルニッヒ徴候&ブルジンスキー徴候。これらが全身に及んだのが後弓反張で、破傷風で出現する。

★髄膜刺激症状の3大症状は、①頭痛、②後部硬直、③ケルニッヒ徴候&ブルジンスキー徴候!

〇項部硬直

 仰向けで、患者の後頭部に手を当てて、頭を持ち上げようとすると、胸まで持ち上がってしまう。髄膜炎になると、これ以上髄膜を刺激しないようと反射的に筋肉が硬直して起こる。

★仰向けで、患者の頭を持ち上げようとすると胸まで持ち上がる!

〇ケルニッヒ徴候

 仰向けで膝を伸ばしたまま下肢を挙上させると痛みを生じ、膝が曲がってしまう。

★仰向けで、膝を伸ばしたまま下肢を挙上させると痛みを生じ、膝が曲がる!

〇 ブルジンスキー徴候

 仰向けで、患者の頭を他動的に前屈させると、股と膝が曲がってしまう。

以上が鍼灸の不適応となる頭痛である。

◎鍼灸適応の頭痛

 鍼灸の適応となる頭痛は、緊張型頭痛、片頭痛(拡張型頭痛) と呼ばれる慢性頭痛。鍼灸治療を行うに当たり、大後頭神経痛、小後頭神経痛、後頭下神経痛などに分類する。

★鍼灸適応となる頭痛は、慢性頭痛!

〇大後頭神経痛(上天柱と玉沈 )

 筋肉(頭半棘筋)の収縮により大後頭神経が圧迫されることで起きる頭痛。

・頭半棘筋:起始→T7~C3の横突起・停止→後頭骨上項線と下項線の間。両側収縮で頭を反らせる。片側収縮で後ろを振り返る(頚椎回旋)。頭部を支え、脊柱を安定させるための重要な筋肉で、頚部立位 (とくに頭部が前方に出た不良姿勢) が長時間に及ぶと緊張しやすくなる。

 大後頭神経は、第2頚神経(C2神経)後枝の別称で、運動枝と感覚枝の混合性の神経です。C1C2の椎体間から出て、頭半棘筋を運動支配し、後頭部から頭頂部(百会辺り)に至る皮膚を知覚支配。

★大後頭神経は、頭半棘筋を運動支配、後頭部から頭頂部を知覚支配、ツボなら上天柱!

・上天柱と玉沈

 頭半棘筋停止部に位置する上天柱(膀胱経)は頭半棘筋の緊張を緩和させる(頭半棘筋刺激点)ための、上天柱の上1寸にある玉沈(膀胱経)は大後頭神経ブロック点としての重要なツボ。この二穴は、髪を触る、押圧する等で痛みを誘発するバレーの圧痛点となる。非誘発時には無症状。

※大後頭神経の末端は、三叉神経第Ⅰ枝(眼神経)末端と吻合しているため、大後頭神経痛は眼痛や顔面への放散痛への原因となる。このことから、頚痛と眼痛には密接な関係があることがわかる。

※バレーの圧痛点: フランス人医師バレーが19世紀に報告したもの。神経痛がある場合に見られる末梢神経にそった局在圧痛点。例えば、 坐骨神経痛では多くの場合、坐骨神経が坐骨切痕より出る部位に圧痛が認められる。

★上天柱は、大後頭ブッロク点であり、バレーの圧痛点!

〇小後頭神経痛(天窓と完骨)

 小後頭神経が周辺筋肉の緊張によって起こる頭痛。小後頭神経は、頚神経叢(C2C3前枝)から出発し、「天窓穴(小腸経)・後頭隆起の高さで胸鎖乳突筋の後縁」から浅層に出て、後頭部の胆経ルートを上行します。圧痛点として完骨穴(胆経)があります。知覚性の神経。

※大後頭神経痛、小後頭神経痛は、緊張型頭痛に分類もしくは緊張型頭痛を誘発するものとされる。鍼灸治療では神経やツボを明確にすることが重要となるため、このような分類を行う。

小後頭神経痛は、頭部胆経領域(項部~側頭部~耳部)の表在性(チクチク、ピリピリ)の痛みが生じる。

※大後頭神経痛は混合性の神経なので、項部のコリ(筋肉の緊張)を生じるが、小後頭神経は知覚性(運動枝はない)なので項部のコリは生じない。つまり項部にコリがあった場合、大後頭神経が興奮(緊張)しているということになる。

★小後頭神経痛の圧痛点は、天窓と完骨!

〇後頭下神経痛(天柱と風池)

 後頭下神経は、頚神経第1枝(C1)後枝の運動枝。運動枝であるということは、この神経の過緊張により後頭下部筋がコルということ。ツボでいえば天柱(膀胱経)、風池(胆経)。

★後頭下神経痛(コリ)は、天柱と風池!

〇緊張型頭痛

 緊張型頭痛は、成人の有病率が約20%~40% 、頭痛の70~80%を占める。身体的(長時間のうつむき姿勢など)、精神的ストレス(人間関係、環境の変化など)をきっかけにして、主に後頚部筋や頭蓋周囲の筋肉やその周辺の神経が持続的に過度に緊張し、筋肉に疲労物質がたまり頭痛が起こる。痛みのためにさらに筋肉が収縮するという悪循環が生まれる。

片頭痛のようなズキズキした痛みではなく、重く締め付けられるような感じで、頭重と表現されることもあります。時々起こるタイプ、毎日起こるタイプがあり、何日も続くこともあります。

 頚や頭を支える筋肉の収縮により、頭の位置情報が脳に正しく伝える機能が一時的に低下し、めまい(フワフワしためまい)を生ずることがあります。これは緊張型頭痛にみられる特徴的な随伴症状です。

★緊張型頭痛はズキズキではなく、重く締め付けられるような感じ(頭重)!

〇頚性頭痛

 頚椎や頚部筋に異常があることで生ずる頭痛を頚性頭痛とよぶ。つまり緊張型頭痛の多くが該当する。

頚性頭痛の痛みは頭部の各所に起こり、例えば眼窩後部(大後頭三叉神経症候群)が痛むこともある。痛みが後頭部、後頭下部、頚部から始まった場合、頚性頭痛が強く示唆され、 後頭部、後頭下部、頚部 のコリや痛みを緩和させることで、それと関係している頭痛も軽減される可能性が大きくなる。緊張しやすい部位には、後部筋以外では、頭蓋周囲の筋肉が挙げられる。また、胸鎖乳突筋(頚の横の筋肉)も本人が意識しないうちに凝っていることがある。(後述)。

★頚性頭痛のは後頭部、後頭下部、頚部のコリを緩和させることで頭痛も軽する!

・後頭部筋の緊張

 後頭部筋の緊張は、頭に重石を載せられているように感じるものが多く、これは大後頭神経(C2C3後枝)の運動枝支配である後頚筋(表層より僧帽筋頭板状筋頭半棘筋後頭下筋群)の緊張によるもの。

★後頭部筋由来の頭痛は、僧帽筋、頭板状筋・頭半棘筋・後頭下筋群)の緊張によるもの!

・頭蓋周囲筋の緊張

 頭蓋周囲筋が緊張するときつい帽子を被った感じになる。これは後頭前頭筋(顔面神経支配)、耳介筋(顔面神経支配)、側頭頭頂筋(顔面支配)、側頭筋(三叉神経支配の咀嚼筋)の緊張によるもの。

★きつい帽子を被った感じの痛みは、耳介筋、側頭頭頂筋、側頭筋の緊張!

〇片頭痛(拡張型頭痛)

 働き盛りの女性に多く、月経の前や月経中に起こりやすい人もいる。おおよそ10~15歳頃から始まり年齢とともにひどくなる傾向がある。

頭痛持ちの人であっても、常に頭痛が起きているわけではなく、体調不良などの内的要因、気候などの変化による外的要因により頭痛を発症する。鍼灸治療などにより、頭痛が起きない、もしくは頭痛が起きても軽くて済むよう日頃から体調管理に努めることが大切である。 頭痛が起きている時間は4~72時間くらいと幅がある。夕立のように発作的に起こり、ひどくなるとズッキンズッキンと脈打つように痛み、動くとつらくなる。その点が緊張型頭痛と異なる。悪心嘔吐をともなうことも少なくない。名前のごとく片側が痛むことが多いが、両側が痛むこともある。

★片頭痛は、働き盛りの女性に多く、月経の前や月経中に起こりやすい人もいる!

〇片頭痛(拡張型頭痛)の原因

 片頭痛の原因として、三叉神経血管説がある。

何らかの原因で、視床下部のセロトニン分泌量が減少すると、三叉神経末端から血管拡張物質が放出され、血管拡張により炎症が拡大。セロトニン減少の原因には、遺伝、ストレス、疲労、月経周期、天候などがある。

★セロトニン分泌減少により、三叉神経末端から血管拡張物質が放出される!

緊張して作業している時は、脳内セロトニンもしっかりと分泌されているが、週末に寝過ぎや二度寝などでリラックスし過ぎると、脳がセロトニンを出す必要がなくなったと判断して、量を減らしたために片頭痛が起きやすくなるのではないか、と考えられている。

★リラックスのし過ぎにより、脳がセロトニンが不要と判断してしまう!

そのため、片頭痛の予防としては、週末であっても生活のリズムを崩さない、単にリラックスするのではなく、リフレッシュするような活動をするといったことが推奨される。

セロトニンには、ノルアドレナリンやドーパミンの暴走を抑え、心のバランスを整える働きがある。セロトニンを増やすことで精神的な安定が得られるといわれ、オキシトシン、ドーパミンと合わせて、幸せホルモンと呼ばれる。

生理痛時に生ずる頭痛は、片頭痛であることがわかっている。 セロトニンの作用を考えれば、生理時の頭痛も、気分が落ち込むのも納得がいく。

★月経時の頭痛はセロトニン減少による片頭痛!

〇ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、CGRP

 三大脳内伝達物質として、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンがある。

・ノルアドレナリン:不足すると無気力状態になり、血圧が下がる。過剰になれば、攻撃的、ヒステリックになり、血圧や心拍が上がる。ストレスにうち勝とうとするときに分泌される。

★ノルアドレナリンは、不足すれば無気力、過剰になれば攻撃的、ヒステリック!

・ドーパミン:不足すると、ものごとに無関心になる、性機能低下、運動機能低下し、パーキンソン病ではドーパミンが不足します。過剰になると、自分が制御できなくなる。病名としては、過食、アル中、統合失調症など。

★ドーパミンは、不足すると無関心、性機能低下、過剰になると自分が制御できない!

・セロトニン:幸福感をもたらし、気持ちを安定させる。ノルアドレナリンとドーパミンのバランス調整をする。

★セロトニンは、幸福感をもたらし気持ちを安定させる。不足するとノルアドレナリンとドーパミンのバランスが崩れる!

・CGRP:片頭痛の発作に関与するとされる神経物質。光と音、匂いといった外部からの刺激によって三叉神経から放出されます。CGRP受容体に結合すると血管を拡張させて炎症を引き起こす。

 片頭痛の原因として、まぶしい光(ショーウィンドーの証明、映画のスクリーンの光、太陽光など)が指摘されている。

片頭痛を起こしやすい人は、何らかの理由で脳が光に対して過敏に反応してしまい、脳の血管が大きく拡張してしまってズキズキとした痛みが起こる。対策としては、サングラス、日傘、ツバの広い帽子の着用。

★CGRPは、光、音、匂いによって三叉神経から放出。CGRP受容体に結合し血管を拡張させて炎症を引き起こす!

😊セロトニン不足は頭痛だけでなく、不眠症や精神疾患、認知症などを引き起こす確率が高くなると考えられています。セロトニンの分泌を促すには、太陽光を浴びる、適度な運動(おすすめは散歩、ウォーンキング)が有効です。生活のリズムを調えるためにも運動は朝日を浴びながらというのが理想的。またセロトニンの材料となる栄養の摂取も必要です。大豆製品を炭水化物やビタミンB6(サバなど)と一緒に摂取するとよいといわれますが、栄養はバランスが大事。できる範囲でできることやりましょう。

〇片頭痛の治療薬

・トリプタン製剤片頭痛の治療薬

血管拡張を解消する薬。トリプタンはセロトニン似た物質で、減少したセロトニンの代わりに三叉神経に作用し興奮を抑える。その結果、血管を拡張させるCGRPの放出するが抑えられ、痛みの解消に働く。トリプタン製剤は片頭痛前兆期には効果があっても症状の激しい時にはあまり効かないようである。

★トリプタン製剤はセロトニンの代わりに三叉神経に作用し興奮を抑える!

・抗CGRP抗体

血管を拡張させるCGRPをブロックする薬で、アメリカでは2020年6月に承認。皮下に注射すると効果が1~2カ月続く。片頭痛は脳にいったん記憶されることで、発症と記憶が繰り返され悪循環になりがち。抗CGRP抗体の注射による予防によって、この悪循環を断ち切り、片頭痛が起きにくくなることも期待されている。

★抗CGRPで血管拡張物質の(CGRP)をブロックする!

〇薬の飲みすぎによる頭痛

 薬を飲みすぎると、脳など中枢神経での痛みの感受性の変化によって、痛みに敏感になる。これにより、少しの刺激でも頭痛が起きやすくなって、頭痛の頻度が増えると考えられている。このような場合、薬に頼らない治療を考える必要がある。

★薬の飲みすぎによって、痛みに敏感になる!

〇群発製頭痛

 片頭痛と同じく、血管と血管周囲の三叉神経が関係している。また、頭蓋内に入る頚動脈が拡張されることで起こり、その場所は眼の奥辺りです。血管が拡張されることで起こるということですから、拡張型頭痛の一種と定義することができるが、片頭痛は痛みのためにじっとしているの対し、群発性頭痛は、片側の眼の奥の方(内頚動脈の炎症)にえぐられるような激しい痛みが出現し、じっとしていられないといった特徴がある。また、片頭痛は女性に多いのに対し、群発性頭痛の多くは男性(20~30歳代)に多い。

★群発性頭痛は拡張型の一種だが、痛みのためにじっとしていられない!

さらに、片頭痛は悪心嘔吐を伴なうことが多いのに対して、群発性頭痛には見られない。

血管拡張により、交感神経を障害(抑制)すると同時に、周囲の炎症を起こし副交感神経が過活動となり、群発性頭痛特有の自律神経症状(眼の充血、鼻閉、鼻水)を呈す。

群発性頭痛は一度起こると、群発性地震のように、1~2ヵ月間、連日ように起こるためこのように呼ばれる。1回の発作は1時間程度で、非発作時に頭痛はない。

治療は、血管拡張なので、片頭痛と同じくトリプタン製剤が有効。

★群発製頭痛は、血管拡張により交感神経を抑制、副交感神経が過活動して(目の充血、鼻閉、鼻水)を呈す!

〇頭痛の鍼灸治療

頭痛時に行う鍼治療は、結論からいえば、主には、現代医学的鍼灸なら「痛いところ、もしくは圧痛点に刺鍼する」ことになる。その多くはツボ(正穴)に一致する。中医学的には、局所治療(痛みのあるところ)だけでなく、証(その人のタイプ)に対する治療も重要。臨床上、多く用いる穴は、上天柱(天柱)、下玉沈、玉沈、風池。

よく使うツボ

〇天柱・上天柱(大後頭神経・膀胱経・頭半棘筋→後頭下筋群)

上天柱:後頭骨-C1椎体間・外方1.3寸。天柱の上1寸。頭半棘筋から大後頭直筋と刺入。後頭部痛、眼精疲労などに用います。

天柱:C1-C2椎体間・外方1.3寸。上天柱の下1寸。

後頭下筋群へのアプローチということであれば、上天柱が効果的。

◎後頭下筋群について

 後頭下筋群とは、頭半棘筋の下層の、最深部にある筋で、大後頭直筋小後頭直筋上頭斜筋下頭斜筋の4筋からなります。前方へ移動する頭部を後ろへ引いて支える役割がある。

★後頭下筋群は、前方へ移動する頭部を後ろへ引いて支える役割がある!

 天井にペンキを塗るなど上を見る姿勢や、体幹部が前傾姿勢にある時に頭を引き起こす姿勢が長時間続くと本筋は過緊張を起こし、側頭部に放散痛を生じる。第1頚神経(C1)後枝により運動支配。

★上を向く姿勢、前傾姿勢時に頭を引き起こすことで過緊張、側頭部に放散痛を生じる!

 後頭下筋群のうちの3筋(大後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋)によって、後頭三角がつくられる。後頭三角中央の間隙の深部には、椎骨動脈や後頭下神経がある。

★後頭下筋群のうちの3筋(大後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋)によって、後頭三角がつくられる!

 後頭下筋群が緊張すると、頭(頚)の可動域が減り、顎を引いて自分のおへそを見る動作がしづらくなる。あるいは、うつ伏せの状態から、頭を上に上げにくくなる。後頭下筋のコリは、緊張性頭痛の原因をつくりやすく、本人が無自覚であっても、このコリが原因で不眠症や気分不快となることが多くある。

★無自覚であっても、後頭下筋群のコリが原因で不眠症や気分不快となることが多くある!

 また、後頭下筋群には、重力に対する頭位の位置関係を判断するセンサーがあり、その情報が中枢に伝達することで平衡感覚を判断する一つとなる。後頭下筋群の緊張時に(とくに左右差がある場合)、動揺性のめまい(フラフラ感)が生じることがある。

★後頭下筋群には、重力に対する頭位の位置関係を判断するセンサーがある!

〇後頭下筋群(天柱・上天柱)への刺鍼

 頚部深層にある後頭下筋群( 大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋) の緊張を弛めるためには、天柱(後頭骨とC1椎体間。後正中より外方1.3寸)などの穴から深刺。表層より頭半棘筋→大後頭直筋の順に入る。

★後頭下筋群への刺鍼は天柱や上天柱から!

一般的に天柱や上天柱からの深刺はうつ伏せで行う。うつ伏せや坐位(上半身は直立)であまり効果が出ない場合のやり方として、机の前に座位にて、体を前方に倒し、机の上に置いた枕におでこをつけた状態で行う。(似田先生考案)

※筋緊張に対する鍼治療は、問題の筋肉を緊張させて刺鍼することで効果が上がる。その際の注意点として、患者さんが倒れないような体位にしておくことが必要。

★筋緊張に対する鍼治療は、筋肉を緊張させた状態(臥位より坐位)での刺鍼がより効果的!

〇下玉沈 (大後頭神経・膀胱経・頭半棘筋) ・玉沈(大後頭神経・膀胱経・僧帽筋)

玉沈はバレーの圧痛点、下玉沈は頭半棘筋停止部。

後正中線(督脈)上、下から瘂門風府脳戸とあり、それぞれの外方1.3寸(膀胱経)に、下から下玉沈玉沈とある。

脳戸や玉沈は僧帽筋停止外縁部の刺激になる。また玉沈は大後頭神経が浅層に出てくる部位で、圧痛が多く現れる点(バレーの圧痛点)。

下玉沈は、頭半棘筋の停止部で、刺激価値が大きいツボ。

※バレーの圧痛点:神経痛がある場合に見られる末梢神経に沿った局所圧痛点。例えば、坐骨神経痛では、坐骨神経が坐骨切痕より出る部位に圧痛が認められることが多く、圧痛は時に下肢の坐骨神経領域に放散する。大後頭神経では玉沈。

★玉沈は大後頭神経のバレー圧痛点!

〇風池(大後頭神経と小後頭神経の間・胆経・頭板状筋)

 風池は、乳様突起と瘂門(C1C2棘突起間、左右天柱の間)。つまり、これは後頭骨-C1間に取ることを意味し、上天柱と大差ない(対側眼球に向けて刺鍼した場合)。

※伏臥位で、風池からベッド面に対して直刺すると、後頭三角の間隙に入る。この深部には椎骨動脈があるという解剖学的要所。

★風池刺鍼は、対眼球に向けて!

神経の走行から見た刺鍼点

〇大後頭神経痛

 対症治療の目標は興奮した神経を鎮静化させることである。大後頭神経は頭半棘筋を貫き、上項線から後頭骨浅層を走行するので、頭半棘筋停止部付近にある上天柱、下玉沈が治療点として効果的。頑固な痛みが頭皮上に確認できれば、多壮灸を行うこともある。

★大後頭神経痛(後頭部の痛み)には上天柱、下玉沈が有効!

〇小後頭神経痛

 小後頭神経痛では、その走行上に風池、天窓(頚神経叢)といったツボがあり、圧痛がみられればこちらに刺鍼します。小後頭神経痛は、頻度としては多くない。

★小後頭神経痛には、風池、天窓!

その他の治療部位(筋肉から見た刺鍼部位)

その他に、痛みが現れることが多い部位(トリガーポイント)があれば、そこへの刺鍼も行う。

〇胸鎖乳突筋(後天窓)

 胸鎖乳突筋には、頚部を回旋させる以外に、頭を支える役割がある。この筋が緊張すると後頭部→側頭部→前額部や目の周囲へと痛みが波及していく。多くの場合患者さん本人は胸鎖乳突筋のコリを自覚していない。

★頭を支える胸鎖乳突筋。胸鎖乳突筋のコリを多くの患者は自覚していない!

 本筋の緊張をみるため、胸鎖乳突筋をつまむようにする。すると予想外に痛むことがある。つまんだまま患者さんが左右に頚を回旋させると、治療にもなる。

 臥位でも刺鍼はできるが、患部の筋肉が緊張していたほうが治療効果が高いため、可能であるならば座位で刺鍼する。刺入点としては、肩甲挙筋、中斜角筋、後斜角筋が付着する上部頚椎(C1~C4辺り)の横突起。この部位に指針すると、その表層にある胸鎖乳突筋(後縁)刺激にもなる。

※前斜角筋は、頚椎上部横突起に付着するが横突起の前側に付着する。

★上部頚椎(C1~4辺り)への刺鍼は、肩甲挙筋、中斜角筋、後斜角筋、胸鎖乳突筋刺激になる!

〇僧帽筋(肩井)

 僧帽筋は主に肩甲骨と鎖骨を動かす。とくに肩甲上部を挙上させるための筋であって、頭蓋の姿勢や動作にはあまり関与しない。項部にある天柱穴の筋隆起は、僧帽筋ではなく、頭半棘筋の隆起です。肩井(僧帽筋中)付近に圧痛が生ずると、側頭部胆経領域に放散痛を生じることがある。

★肩井(僧帽筋中)に圧痛が生ずると、側頭部胆経領域に放散痛を生じることがある!

〇頭板状筋、項部外方(下風池・完骨)

 下風池・完骨への刺鍼の場合、対象となる筋肉は頭板状筋になり、頭板状筋を伸張させた上での刺鍼がより効果的となる。下風池は片頭痛の際に圧痛が多く見られる。

※風池は前述を参照

※風池からベッド面に対しての深刺は、後頭三角の間隙に入る。この深部には椎骨動脈がある。

★下風池・完骨刺鍼は頭板状筋刺激!

〇後頭前頭筋(後頭筋:玉沈)(前頭筋・頭維)

 後頭前頭筋とは、後頭筋と前頭筋の総称で、中間に帽状腱膜を挟む二腹筋である。この筋肉は、もともと動物が敵を威嚇するため、頭皮を緊張させ頭毛を逆立て自分を大きく見せようとするための筋肉でである。

後頭前頭筋は純運動性で知覚成分がない。後頭筋は後頭部の、前頭筋は前頭部のコリを引き起こします。

 前頭筋緊張 → 頭維穴から前額髪際方向に水平刺

 後頭筋緊張 → 玉沈から脳戸方向へ水平刺

と刺鍼する。

★前頭筋緊張→頭維。後頭筋緊張→玉沈から脳戸へ水平刺!

〇側頭筋(側頭部にある圧痛硬結部。 率谷、天衝、浮白、目窓、正営、承霊、脳空など )

 側頭面全体(起始)と下顎骨の下顎枝(停止)をつなぐ筋肉で、強く噛みしめると、側頭筋の一部が緊張する。この緊張部もしくは周辺の圧痛硬結部に刺鍼する。刺鍼した状態で、噛みしめる動作を繰り返すことで運動鍼の効果が得られる。

側頭筋は咀嚼筋の一つで、三叉神経第Ⅲ枝が支配する。

側頭筋のトリガーポイントは、耳介つけ根の上端辺りから後方3~4cmの辺りに円弧を描く範囲内(胆経ライン)に現れる。ここの硬結に骨際を狙うように刺鍼。

★側頭痛に対して、刺鍼した状態で噛みしめ動作を繰り返す!

鍼灸刺鍼部位のまとめ

〇神経

・大後頭神経( 玉沈、下玉沈、上天柱、天柱、下天柱 )

・小後頭神経(後天窓、完骨)

※小後頭神経上に位置するツボは、使用頻度はあまり多くない

・後頭下神経(後頭下筋群):(上天柱もしくは風池から深刺)

〇筋肉

・膀胱経:後頭筋(後頭前頭筋)、頭板状筋、頭半棘筋、後頭下筋群

・胆 経:僧帽筋、側頭筋、側頭頭頂筋

・胃 経:前頭筋(後頭前頭筋)

・膀胱経+胆経(膀胱計と胆経の間):胸鎖乳突筋

〇ツボ

・膀胱経(大後頭神経):玉沈、下玉沈、上天柱、天柱、下天柱

・胆 経(小後頭神経):完骨、風池、下風池(緊張型頭痛で用いることはあまりないが片頭痛では多用)

・胆 経(側頭部に位置するツボ):率谷、天衝、浮白、目窓、正営、承霊、脳空など

・膀胱経+胆経(膀胱計と胆経の間): 天窓2(喉部の高さ、胸鎖乳突筋の後縁)

 頚部や頭部の筋緊張は、頭痛だけでなく、頭顔面部を中心とする種々の関連症状をもたらす。眼精疲労、顎関節症、頚部コリ等は、緊張型頭痛と関連する症候群であることが多く、これらの症状へのアプローチが緊張型頭痛を緩和させることにつながる。鍼灸以外にもストレッチ、筋運動および神経促通運動などの方法も積極的に取り入れるといい。

〇圧痛の調べ方

 頭部の前後左右は筋組織が豊富だが、頭頂部あたりに筋肉はない。しかし押圧すると、圧痛を認めることが少なくない。これは皮膚知覚の支配神経を刺激するため。

一般的には、百会を境界として、百会の前方は三叉神経第Ⅰ枝の知覚支配、百会の後方は大後頭神経、頭部側頭面は小後頭神経支配。

似田先生によれば、頭皮の痛みは、百会と左右頭維を結んだ三角形内、つまり三叉神経第Ⅰ枝興奮によるものが多いということ。

★百会の前方は三叉神経第Ⅰ枝知覚枝、百会の後方は大後頭神経、頭部側頭面は小後頭神経支配!

〇片頭痛の鍼灸治療

 片頭痛の際、下風池(C3C4頚椎棘突起間、後正中線より外方1.3寸、頭板状筋)に硬結や圧痛が現れることが多くある。そのメカニズムの仮説(坂井文彦医師)

a.「片頭痛圧痛点」は、片頭痛の脳血管から首の表面の神経に伝わってくるのではないか。換言すると、脳の中で起こっていることが神経を通じて体の表面まで伝わってきた場所だろうこと。

b.片頭痛に悩む人の脳には、痛みの記憶回路ができてしまい、それが「片頭痛の圧痛点」として首にに反映されているのではないか。そして片頭痛の記憶が増えてくると、脳の引き出しから、「片頭痛で痛い」という信号を出しやすくなる、その信号を探知するための窓口が「片頭痛の圧痛点」であろう。

★片頭痛は、下風池に硬結や圧痛が現れることが多い!

 後頚部を治療点にするということでは緊張型頭痛と片頭痛は共通している。しかし、緊張型頭痛は軽い運動や散歩をしたほうが血行がよくなり症状が緩和するのに対し、片頭痛は体を動かしたり、痛みがひどくなることがある。片頭痛がリラックスする(リラックスし過ぎ、副交感神経の過剰活動)ことで、脳が、痛み緩和物質であるセロトニンの分泌を制限し過ぎたためと考えられる。つまり、体を動かしたほうが、片頭痛の予防には効果的である。また、痛みが現れている最中で、体を動かすことで一時的に痛みがひどくなったとしても、その後痛みが軽減することもある。

★緊張型頭痛と片頭痛は共に後頭部が治療点。緊張型は運動がよい。片頭痛はその限りではない!

〇片頭痛体操(坂井文彦医師)

正面を向いたまま、上半身を左右に回旋させる。この動きにより、頭板状筋が収縮伸張を繰り返すことになる。単に頚を左右に回旋させるだけでもOK。このときに圧痛点を押圧しながら行えばさらによい。

局所の血流を促すような運動も有意義だが、できるならば体調のよい(頭痛が出ていない)ときに全身のストレッチ、軽度の有酸素運動(散歩など)を行いたいもの。

★頚の回旋運動だけでなく、全身の運動を行えばさらに効果的!

〇上部頚椎への刺鍼

片頭痛の痛みは、神経性因子と血管性因子の複合。前者に対する治療とは、脳動脈に分布する三叉神経の治療をいう。頭蓋内については鍼灸で直接アプローチはできないから、三叉神経-大後頭神経症候群の治療と同じように扱う。

 具体的には、頭にある上位頚神経(C1~3)へ刺激を加え、上位頚神経の興奮を取り除くような鍼が有効との見解がある。

★片頭痛の痛みは、神経性因子と血管性因子の複合!

〇足趾間刺鍼とグロムス機構

 似田先生は、鍼灸臨床の駆け出しの頃、臨床経験不足を補うために、玉川病院症例検討会の報告資料(先輩達の残した症例報告数千例)を読みあさった。そして分かったことは、上衝タイプ(のぼせて赤ら顔)の強い頭痛には、足趾間の最大圧痛部を刺激すると頭痛が改善したとの報告が多かったとのこと。

 また似田先生なりに患者の足趾間圧痛を多数調べて分かったことは、足趾間の最大圧痛点は、第3・4間に出現することが多いことであった。似田先生はこれを内侠谿と名付けた。実際の臨床では内侠谿に限定することなく、足趾間の最大圧痛点に2~3分間置鍼する。これだけで痛みがとれてくることを多数確認した。ただし弱い頭痛ではあまり効果がなかった。

★内侠谿は第3・4足趾間、侠谿は第4・5足趾間(胆)!

 鍼灸が効果があるか否かは、治療時の頭痛の拍動性か非拍動性かに関係し、非拍動性タイプは有効となる場合が多いとのこと。

 足趾間の圧痛点に刺鍼で頭痛が改善する理由は、グロムス機構の機序が考えられる。グロムス機構とは、動静脈吻合あるいは動動脈吻合をいう。一般的に血液循環は動脈→毛細血管→静脈と移行するが、全部の血流が毛細血管まで達するのではなく、一部は小動脈から小静脈へとショートカットする。この血行動態の変化を起こす水門に相当するのがグロムス機構である。

 グロムス機構の性質として、例えば1ヵ所の水門が閉じると、それが全身のグロムスの水門も閉じられるという仕組みのこと。つまり足母趾部グロムス水門を閉じると、脳内のグロムスも閉じ、血流が減少するという機序が考えられるとのこと。

★足趾間の圧痛点に刺鍼で頭痛が改善する理由は、グロムス機構の機序が考えられる!

☯東洋医学で頭痛を捉える

中医学的鍼灸による頭痛治療および予防

中医学的に頭痛を見た場合、まずは外感性頭痛と内傷性頭痛とに分類する。

〇外傷性頭痛

 体力低下により正気が弱っているところに、風、寒、湿、熱などの外邪が身体・頭部に侵入し、それにより頭部の気血の流れが悪くなることで頭痛が起こる。

★外傷性頭痛→風、寒、湿、熱などの外邪による!

〇内傷性頭痛

 生活の不摂生や精神的ストレス(七情)によって、気血水の状態が悪くなり頭痛が起こる。主には、肝陽の亢進、痰濁、血瘀、気血両虚、腎虚などがある。

便宜上、外傷性頭痛と内傷性頭痛に分類するが、双方は関りをもち、頭痛の発症頻度を下げ、また痛みの軽減を図るためには、日頃の養生が非常に重要である。

★内傷性頭痛→七情による!

睡眠と頭痛の関係

 睡眠不足や疲労によって頭痛が起こりやすくなる。頭痛をよくするためには、質量ともに充実した睡眠が非常に大切。先述の通り、片頭痛は、休日に、寝すぎや二度寝をしたときに起こりやすい特徴がある。休日であっても、生活のリズムを大きく乱さないようにする。

★血管拡張型頭痛は二度寝に注意!

頭痛と冷えとの関係

 水や空気など、自然界では温かいものは上へ、冷たいものは下へ行くのが普通の姿である。暖房をつけた部屋では、熱が天井の方にこもる。人間の体においては、 頭が冷えていて足が温かいのが健康な状態であり、人体は自らの力によって、頭寒足熱を保っている。生命力が低下して熱が上に上がりっぱなしなると頭痛が起きやすく、頭痛をよくするためには、冷え症の改善が非常に重要となる。

★頭痛をよくするためには、冷え症の改善が非常に重要!

頭痛と食事の関係

 頭痛に効くと謳われている食品や栄養素がある。例えばアボカド、ナッツ類、青魚。これらは、ビタミンEを多く含み、血液循環をよくすることで頭痛の緩和に有効とのこと。また、脳内でセロトニンが不足することが頭痛の一因になると考えられているため、セロトニンを増やすアミノ酸が多く含まれているマグロ、サケ、レバー、また緑黄色野菜、大豆、ひじき、納豆なども頭痛の予防に効果的。もちろん、これらの食品を積極的に取るのはとても有意義なことではあるが、特定のものだけを食べていては健康的とはいえない。摂取した一つ一つの栄養が体の中でしっかりと使われるために、バランスのよい食事を心がける必要がある。

★バランスの取れた食事+頭痛に効く食品!

☯東洋医学から頭痛をとらえる

1.総説

1)「脳は髄の海」すなわち脳は髄の集合体。

 骨髄と脳髄はともに骨に囲まれた中にあるという共通点がある。古人は手足に力を入れると、手足が振えるのは骨髄の作用だと考え、その新玉(あらたま)である脳髄は脳卒中時の半身不随などから類推して、運動機能の中枢と捉えたと考えられる。

2)清竅のエネルギー源

 脳には清竅(身体上部にある穴=耳・目・鼻・口)を正常に機能させるためのエネルギー供給源としての役割もある。清竅の供給源としての脳髄があるが、脳髄にエネルギーをもたらすのは、後述するように蒸し器上部の孔から吹き上げる水蒸気と考えたようである。

※髄は、血の凝固濃縮されたもので、血は食物中の脂分を原料として、脾でつくられる。

※昔の中国人は、感情起伏と心拍数が相関することから、精神作用は「心」で行うと考えた。

※「竅」とは、身体にある孔をいう。この中で、身体上部にある孔をとくに清竅という。上昇する清気(清陽)に養われるため。

〇蒸し器と生理機序

 古代中国医学では、体幹内蔵の生理機序を、蒸し器(=蒸籠)から類推し、頭蓋部を鼎(かなえ)に例えた。鼎とは三足が付いた中国古代の鍋状の器で、下から火を焚いて中の肉類などを煮るための道具。

※天鼎穴とは、頭を脊柱と左右胸鎖乳突筋の、計3本脚で支えることから名付けられた。

・蒸籠の基本構造

蒸籠は下段には水、中段には食物を入れる。人体でいえば、下段に腎水を入れ、火で熱することで、水蒸気が上がる。水蒸気の一部は蒸籠上部にある空気穴から外に漏れ、鼎を加熱し、気のエネルギーを放出することで上鍋中の脳髄の栄養に消費される。

 水蒸気の大部分は上に行くにつれ、冷やされ水源になり、元の腎水に還る。

 脳髄に行く2つのエネルギーは気と血である。気の正体は、腎陽によって温められた腎水(水蒸気)であり、腎水中に栄養素が含まれている。

 血は、食物を原料として脾で製造されたものが、心のポンプ作用により全身に巡る。その一環として、血の一部が脳に流入する。

 つまり、気・血・水の過多、過少によって頭痛が起こる。巡りがスムースであれば、頭痛は起こらない。これは頭痛に限らず、他の病気とまったく同様である。

〇気血津液学説

 中医学では、人体は気・血・津液、それに精・神という成分により構成されると考える。大雑把にいえば、気は生体エネルギー、血は血液、津液は正常な体液成分(正常な血の構成成分でもある)、精は気の元となる生命エネルギー、神は情緒・感情・意志などの精神的要素である。

〇肝の疏泄作用

 肝には血を蔵する作用の他に、疏泄作用がある。疏泄とは「のびのびさせる作用」のことで、現代医学でいう甲状腺ホルモンの類に相当する。肝の疏泄機能を蒸篭に例えれば、蒸籠内におかれた強制換気装置(=ファン)に類するものと考えられる。

・甲状腺ホルモン

 甲状腺ホルモンの働きには、①物質代謝の亢進、②発育促進、③精神機能刺激などの働きがある。

①物質代謝の亢進:甲状腺ホルモンは骨格筋、心臓、腎臓、肝臓などの多くの臓器の酸素消費を高め、基礎代謝を亢進する。また、代謝の増大により体温を上昇させる。

②発育促進:成長ホルモンの働きを助け、骨や歯の発育を促す。また中枢神経細胞の発育を促す。

③精神機能刺激:精神活動一般にも影響を与える。甲状腺ホルモンが欠乏すると精神活動が鈍くなる。

〇脳は脾・肝・腎の三蔵と密接に関係する

 血は食物を原料として脾で製造されたものだが、血は心のポンプ作用により、全身各所に送られ、脳にも届けられる。この働きは「心は血脈を主る」と表現される。

〇肝と腎は相互に補完関係にある。=肝腎同源

 血が不足すると、まずは肝に備蓄された血を血管に放出する。それでも不足の場合、腎で精を血に変化させる。一方、精が不足すると腎で血を精に変換する、このように、腎における精・血の物質変換作用を、腎の気化作用とよぶ。

※気の5作用

気の作用には、気化、温煦、防衛、推動、固摂がある。

・気化:精が気に、気が血や津液に変化したり、津液が汗や尿となって体外に出る働き。

・温煦:臓腑・器官など一切の組織を温め、体温を保持する働き。

・防衛:体表において、外邪の侵入を防御する働き。

・推動:人の成長・発育や、一切の生理活動および新陳代謝をする働き。

・固摂:血・津液・精液などをつなぎ留める働きで、血が脈外へもれないようにしたり、汗や尿がむやみに漏れ出るのを防ぐ働き。

2.外感頭痛と内傷頭痛

 治療にあたっては外感頭痛か内傷頭痛かの判別をする必要がある。

1)外感=実証(感冒の部分症状としての頭痛)

①病態:生活の不注意などにより、外邪(感染症)が身体に侵入して起こる。

 外邪=風・寒・暑(熱)・湿・燥・火(自然界以外の熱)

 ・風邪 寒邪→気血運動障害

     熱邪→炎上

     湿邪→「脾は湿を嫌う」→清陽が頭部に到達しない。

 脾気の運動は昇、胃気の運動は降。消化された飲食物の清陽なるものは、脾の昇清作用により上に昇り、痰濁なるものは胃の和降作用により下に降りる。脳を栄養するのは、この清陽であるが、湿(粘)度が高いと洗濯物が乾きにくいのと同じで、清陽は頭に達しにくくなる。

②症状の特徴

 急に発病し、疼痛も激しく持続性がある。

 肝の昇発作用:肝は気を上昇させる。

 肺の粛降作用:吸気時の作用。大気中の清気や、脾から運ばれた栄養分を下行させる。

 肺の宣散作用:呼気時の作用。体内の濁気・食物の栄養成分、衛気を皮毛や気道に散布する。

 脾の昇清作用:①脾は食物の清の成分を上昇させる。(脾の運化作用の一部)

        ②内臓を所定の位置に保つ(下垂を防ぐ)

 腎の納期作用:腎は栄養物や代謝産物を下行させる。(肺の粛降作用の補佐)

2.内傷頭痛

 緩慢に発病。脾・肝・腎と密接な関係

1)肝陽亢進による頭痛=実証(脱水による頭のノボセ感)

 腎水不足で、肝を冷やすことができない。すると肝陽は過熱して上方に舞い上がる。すなわち脱水による頭部過熱にともなう頭痛である。

2)腎虚による頭痛=虚証(老化、脳軟化による頭のぼんやり感)

病態:腎虚→髄海が空虚になる

  腎虚には、腎陰虚と腎陽虚がある。ここでは腎陽虚をさしている。

※腎陽虚と腎陰虚の相違 

 蒸し器の底にある水自体を腎陰、蒸し器が火にかけられて温まった水を腎陽と称する(温めるのは三焦の火)。腎陽虚とは、温まっていない水のことで、したがって蒸気が十分に立ち上がらない。

腎陰虚とは、蒸し器の水が少ない状況で、空焚き状態となるので、やはり蒸し器の蒸気は上がらなくなる。

 もしくは、腎陽とは体に備わった生命力であり、腎水とは体に備わった水分であり、腎陽によって温められれば「温まった腎水」と考える。

症状:疼痛は激しくなく、時々頭痛が起こり、疲れると増強する。

3)痰濁による頭痛=実証(脳卒中予備群の頭重)

病態:痰濁→清陽が頭部に昇らない。

 津液の循環不全によって痰(ドロドロの廃液)が生じている。

 ※痰濁が清竅を塞げば、脳卒中発作になる。

症状:前額部痛、頭がぼんやりする。

舌脈:舌苔白膩(白くて厚い。ねっとりしている)、脈滑(湿)

治療方針:化痰降逆(痰濁の徐去をはかり、絡脈の通りを良くする)

 任脈、足陽明経穴を取穴、瀉法

処方例:中脘(任)、豊隆(胃)、合谷(大)、頭維(胃)

※陽明経(胃経、大腸経)は多気多血の経なので、痰濁に使用。とくに胃経の絡穴である豊隆は痰濁に多用される。

4)瘀血による頭痛=実証(頭部外傷による頭痛)

病態:頭部外傷→絡脈が阻滞→瘀血

症状:瘀血の痛みの特徴

 →刺痛・鋭痛・部位が一定(固定痛)

5)気血両虚による頭痛=虚証(気力・体力不足者の頭重)

病態:気虚→清陽が頭に上らない ≒低血圧

   血虚→頭部を栄養できない ≒貧血

 要するに、食べられないので気力もない。食べられない←脾気虚がベースにある。

   血 虚   → 気を養えない(栄養できない)

    ↑                  ↓

   血を頭に推動できない   ←    気 虚

 

  「気=トラック」、「血=トラック荷台上の燃料」と考える。

  燃料がないとトラックが走れない。

  走れないと、必要とする場所に燃料を届けることができない。

症状:虚寒状態:隠痛(我慢できるが持続的な痛み)

 気虚症状:動くと疲れる、息切れ、自汗

 血虚症状:顔色不良、不眠多夢、動悸、目のかすみ

舌脈:舌質淡(血虚所見)、脈細(=血虚)、無力(=虚状態)

治療方針:補気養血

 足陽明胃経、足太陰脾経、鍼灸補法(気血の生成を促すため胃腸機能を高める)

処方例:百会(督)、心兪(膀)、脾兪(膀)、足三里(胃)、三陰交(脾)

※脾兪、足三里、三陰交刺激で、脾胃の機能を高める。百会と心兪刺激で気虚症状を改善させる。

〇頭痛診療に際しては、経絡弁証することも多い。

 前頭痛→足陽明胃経  側頭痛→足少陽胆経  後頭痛→足太陽膀胱経  頭頂痛→足厥陰肝経

 頭頂痛以外は、経絡の走行に従っているので理解は容易。痛みがどの経絡上にあるかの判断に基づき選穴する。

〇四総穴

 委中→腰背の病、合谷→面目の病(顔とくに目)

 列缺→頭頂の病、足三里→吐腹の病(腹と脇腹)

☯東洋医学から顔面痛を捉える

1.総説

〇痛みは、熱との関りが深い

〇化火:長期間動かないものは熱を発生させる。例)麺や味噌の発酵

 狭い部屋に、人を大勢押し込めれば、部屋が人熱れ(ひといきれ)で熱くなる。

 蒸し器の上部にある穴が塞がっているれば、内圧は上昇して高温になる。

〇顔面痛の診療では、六経弁証することが多い。

 顔面前部→足の陽明胃経  側頭痛→足の少陽胆経

※六経弁証:外感病を弁証する方法。

①太陽経病:太陽経(小腸・膀胱)は身体の外衛をなしていて、多くの場合、外邪は太陽経から侵襲する。太陽部位とは、「上」と「表」、具体的には頭頂より背中、脊柱、腰、踵に至るまでを指し、病邪がからだの表在や身体上部に停滞するものをいう。病状としては、浮脈、頭痛、悪寒、発熱、項背部痛など。

②少陽経病:少陽経病の病位は、太陽経病(表)から離れているが、まだ陽明(裏)には入っていない状態で半表半裏に位置する。少陽部位とは、両耳の前後より、脇下、季肋、脇腹、足部に至るまでを指す。病邪が太陽の表部を過ぎてやや内方に侵入した状態で、未だ裏位には達していない。病状としては、往来寒熱、胸脇苦満、口苦、口渇、吐き気、食欲不振など。(三焦・胆)

③陽明経病:陽明部位とは、「下」と「裏」、具体的には、目、下唇、心、胸、腹、髄、股、膝、脛、肘、指に至るまで。太陽経病が治癒せず、病邪が裏に入ると陽明経病となる。つまり熱が裏位と下(陽明部位)にある状態で、病状は腸の部位に現れやすい。症状としては、膨満、便秘、口渇、身体深部の熱感など。陽明経病は外感病の熱盛期に現れ、実熱証に属す。(大腸・胃)

④太陰経病:太陽、少陽、陽明の病期で治癒に至らず、気血が虚してきて太陰病期への移行する病期。脾は太陰に属しており、陽明胃とは表裏の関係にある。脾陽の不足により、邪は寒湿と化す。よって太陰経病証の性質は、裏虚裏湿に属す。脾・肺)。腹痛、下痢、腹の冷え、食欲不振などがみられる。

⑤少陰経病証:少陰経病証は、気虚、血虚が進行し、臓腑の機能も衰えた状態。とくに心腎の機能が衰退する。少陰経は心腎に属しており、この心と腎は水火の臓である。(心・腎)よって、全身の倦怠、四肢の冷え、下痢、脈弱などが現れる。

⑥厥陰経病証:臓腑の機能がさらに衰え、重篤な病状に陥った状態。正気と邪気とが内にて抗争し病変は複雑に現れる。しかし厥陰は肝に属し、胆を絡い、胃を挟んでいることから、この病証には肝胆、胃の病証が現われやすい。(心包・肝)

弁証は臨機応変に用い、六経弁証を行うときも常に、「陰陽、虚実、寒熱、表裏」(八綱弁証)と組み合わせる必要がある。

2.外感=寒邪(感冒時の部分症状としての顔面痛)

病態:寒邪の吸引性 →経脈が拘急(筋や関節が緊張)し気血が滞る。

 →顔面の経絡に伝達

 気虚(生気不足)があれば、カゼをひきやすい。

症状:悪寒、発熱、鼻汁

 疼痛は、冷やすと増強、温めると軽減 ←寒証の特徴

舌脈:舌質淡(=血虚、陽虚、寒証)、脈浮(=表証)緊(=痛)

3.内傷

内傷病:精神の過労(七情)や飲食の不節制などで内臓を害して起こる病。 

 教科書では、「肝胃の火」として一括して取り扱っている。

1)肝火上炎=実証(ストレスによる顔面充血、怒り、頭にくる状態)

病態:ストレス → 肝気鬱滞 → 肝鬱化火 → 肝火上炎

 我慢に我慢を重ね、最後に爆発

症状:突発性、灼熱性の疼痛、顔面の特定部に触れると痛み誘発

舌脈:舌質紅(=熱)、舌苔黄(=熱)で乾燥

   脈弦(=肝)細、あるいは脈洪数(=熱)

治療方針:清瀉肝火(肝の火を瀉し、清熱をはかる)

 足厥陰経、鍼瀉法 

 処方例:陽白(胆経)、太衝(肝経原穴・兪穴)、陽陵泉(胆経合穴)、蠡溝(肝経絡穴):内果上5寸、脛骨内側面上の陥凹部。

※「清熱」とは、身体内部の熱を冷ます治療で、「解熱」は身体外部(体表)の熱を冷ます治療。一般的に、熱病には浅く刺して痰を出す。例えば三陵鍼で大椎や井穴から刺絡する。熱邪が裏に入った場合には深刺して置鍼を行い、熱が退くをもって止める。

2)胃火(上炎)=実証(胸やけ、辛い食べ物による顔面紅潮)

病態:「胃に食物停滞→化火(胸やけ)、辛い食物 →胃熱」→上炎

症状:灼熱性の痛み、口渇、便秘

舌脈:上述「肝火」と同じ

治療方針=清瀉胃火(胃の火を瀉し、清熱をはかる)

 手足陽明経、鍼瀉法

 処方例:四白(胃経)、下関(胃経)、合谷(大腸経原穴)、内庭(胃経榮穴)

3)陰虚=虚証(虚火上炎)(脱水による顔面発赤)

※肝腎陰虚とは?(脱水状態の長期化で、陰虚による虚熱が著しい状態)

 肝陰虚と腎陰虚の合併を肝腎陰虚とよぶ。腎陰とは蒸し器の底にある水そのものをいい、腎陰不足とは、その水が不足している状態をいう。

 肝陰とは肝の中にある血液や水液などの陰性の液の総称で、肝の気の「昇」の運動性を制御している。もし肝陰が不足すれば、肝の気の昇性運動を引き戻せない。ところで肝陰を潤している元は、腎水から立ち昇る水蒸気なので、腎陰虚状態が続く(=空焚き状態が続く)と、肝も次第に乾燥して肝陰虚を併発する。

 すなわち肝腎陰虚とは腎陰虚が長期化して発展した結果として起こり、腎陰虚に比べてさらに乾燥した状態である。

 血は肝に貯臓され、精は腎に貯蔵される。ゆえに肝腎陰虚になれば、血と精も不足し、頭蓋内を栄養できなくなる。

 肝血不足=目のかすみ、爪の異常

 腎精不足=排尿異常、難聴、足腰の冷え

 ⇒ 両社が合併 

肝腎陰虚の主要症状は、①五心反熱、②盗汗、③不眠

※外感の熱は「熱」そのままだが、内傷の熱をとくに「火」とよぶ。

病態:腎精不足 →肝腎陰虚による脱水 →虚火 →顔面に炎上

症状:病歴が長い。疼痛は激しくはなく、疲れで増強。熱(口・喉の渇き、盗汗、疲れで増強)

※五心煩熱の五心とは、左右の手掌、左右の足底、そして胸中(両乳の間)の計5つ。すなわち元来発汗しやすく、発汗することによって放熱しやすい部位である。脱水状態で発汗したくてもできず、煩熱状態になる。煩熱状態とは、発熱と同時に胸苦しくなるので、裏熱が盛んになって生じる。盗汗によって夜間に水分が蒸発して脱水になる。舌質紅で、数脈を呈する。

 五心煩熱=陰虚で、蒸籠自体の温度が過熱している状態。

現代医学では脱水の治療には、生理食塩水などの輸液を行う。

治療方針:益陰清熱(陰を補い、さらに清熱をはかる)

 表治→顔面痛に対して  本治→腎陰を補う

 清熱→手足陽明経・足厥陰経、鍼瀉法

    四白(胃)、下関(胃)、陽白(胆)、合谷(大・原)、太衝(肝・原)

 補陰→足少陰経・足太陰経、鍼補法

    照海(腎)、三陰交(脾)

☯東洋医学で顔面麻痺を捉える

1.総説

〇顔面麻痺=「口眼歪斜」

〇麻痺は気虚が主因となることが多い。

 ・気虚による血脈停滞(気は血水を回すエネルギーなので)

 ・顔面病変

   痛←火

   痙←気滞(七情変調による気の過剰停滞。実証)

   麻←気虚

〇顔面には六陽経が巡るので、寒さに強い。顔面麻痺は陽経との関係が深い。

・顔面麻痺の分類と機能障害

 顔面神経は、運動成分、感覚成分(舌の前2/3の味覚)、副交感成分を併せ持つ混合神経。

 顔面神経(狭義)

  運動線維-顔面表情筋支配の本幹→顔面表情筋麻痺

      -アブミ骨筋神経(アブミ骨筋運動支配)→聴覚過敏

  中間神経(感覚、副交感性)

   膝神経節-鼓索神経(舌前2/3の味蕾に分布)→味覚障害

            (顎下腺・舌下腺に分布)→唾液分泌異常

       -大椎体神経(涙腺に分布)→涙分泌障害

★顔面神経麻痺の症状は、顔面筋麻痺、聴覚過敏、味覚障害、唾液分泌以上、涙分泌異常!

2.風寒(寒冷により生じた末梢性顔面麻痺、ベル麻痺の類)

 外感:風+(寒、湿、熱)が関係。とくに風寒による顔面麻痺が多い。

 病態:寒邪 →虚に乗じて陽明・少陽部を侵襲 →経気の巡り、経筋の栄養不良

 舌脈:舌苔博(=表)白(=表)

    脈浮(=表)緊(=寒)または浮緩(=ゆったりした脈。水分過剰、脾胃)

※ベル麻痺:片側の顔面神経を起こす病気。それ以外の症状などはみられない。 これに対して、麻痺を起こしている側の耳に帯状疱疹ができたり、難聴がおこったり、、めまいを伴ったりするものはハント症候群という。ハント症候群の原因は水稲帯状疱疹ウィルス。

六経弁証:随伴症状の違いにより、さらに次のように分類する。

※六経弁証は、太陽 → 少陽 → 陽明 → 太陰 → 少陰 → 厥陰と進む。

1)少陽タイプ=実証

 症状:病が顔面側部に波及 

    耳後や耳下の疼痛(顔面神経膝神経痛)、聴覚過敏(アブミ骨神経麻痺)

 治療方針:散風通絡(風邪の除去をはかる)

    手足少陽経 →陽白(胆)、太衝(肝・兪土原)、風池(胆)、陽陵泉(胆・合土)、蠡溝(肝絡、内果上5寸・骨上)

2)陽明タイプ=実証

 症状:病が顔面正面に波及しているもの

    麻痺側の舌前2/3の味覚減少または消失(鼓索神経麻痺)

 治療方針=散風通絡(風邪の除去をはかる)

    手足の陽明経 →下関(大)、合谷(大)、四白(大)、足三里(胃)

3)肝血虚=虚症

 病態:顔面麻痺が長期化 →肝血虚(肝に貯蔵してある血が底をつく)

 ※肝血虚:血虚=貧血であり、組織が機能を営むのに必要な血液が不足している状態。肝は目の筋や機能を主るので、肝血虚は眼精疲労の筋やひきつれ、筋力低下が起こる。

 症状:患側緊拘縮または萎縮

 治療方針:補益肝血

 処方例:手足陽明経 →下関(大)、合谷(大)、四白(大)、足三里(胃)

に加え、三陰交(脾)

※教科書には内傷の顔面麻痺の記載がないが、たとえば脳卒中後遺症(=中風)でも半身不随の部分症状として一側の顔面麻痺が生ずることが多い。これは肝風内動によると解釈できる。

☯東洋医学で歯痛を捉える

1.総説

〇歯=骨余 歯質は(骨髄←腎)で決まる。

 髪=血余

 ※余物なので、歯や髪がないことで、病気とはいえない。

〇上歯(犬歯から奥)=胃経  胃熱→口臭、口渇

 治療穴→足三里(合土)、内庭(榮水)

 下歯(犬歯から奥)=大腸経 大腸熱→便秘(通ぜられれば痛む=不通則痛)

 治療穴→手三里、合谷(原)

 永久歯の数は32本、乳歯の数は20本。犬歯は、前正中を基準として、3番目の歯。

2.実火=実証(食物が原因の歯痛)

 病態:胃・大腸経の火、辛甘の食物→胃腸の熱盛→陽明経へ侵襲→歯肉に上炎

 症状:(実火・風火共通)激しい歯痛、歯肉の腫脹・発赤・頬部の腫れ

    実火独特→口臭、口渇、便秘

 舌脈:舌質紅、舌苔黄、脈洪数または滑数

 治療方針:瀉火止痛(胃腸の実火を清熱することにより歯痛をはかる)

  手足陽明経、鍼瀉法 

  処方例:下関(胃)、頬車(胃)、合谷(大原)、内庭(榮水)、上巨虚(大・下合穴)

 ※熱をとるには、五行穴中の榮穴を使う。

  肺→魚際、大腸→二間、胃→内庭、脾→大都、心→少府、小腸→前谷

  膀胱→通谷、腎→燃谷、心包→労宮、三焦→液門、胆→挟谿、肝→行間

  臓は榮火穴、腑は榮水血となる。

    経脈の状態

井 出る所(泉より湧き出る)  心下満(心窩部膨満感、イライラ)     肝の井穴・大敦

榮 溜る所(ゆっくり流れる)  身熱(熱感。身体から熱が抜けない)    心の榮穴・少府

兪 注ぐ所(急に深い処に流入) 体重節痛(体が重い、関節が痛む)     脾の兪穴・太白

経 行く所(なだらかに流れゆく)喘咳寒熱(呼吸困難や咳、体温の変動)   肺の経穴・魚際    

合 入る所(深部の水が合し大海に注ぐ)逆気而泄(のぼせ、咳嗽、嘔吐、下痢)腎の合穴・陰谷

〇「合穴は内府を治す」

 五行穴中の合穴には、気を降ろす作用がある。さらに「合穴は内府を治す(合穴は腑の病を治す」とされる。上述と併せて、体幹の腑の気逆症状を、引き下げる目的で、腑に属する六経絡を用いて治療する。

 ※榮穴・兪穴は、経脈の病を治すとされ、経筋の病証(≒整形外科疾患)に用いる。

 ただし、手所属の腑の三経(大腸経、三焦経、小腸経)の合穴は、その位置が上肢にある関係で、気を降ろす効果が弱いので、下肢に下合穴なるものを設定した。

 手の三陽経  大腸経  小腸経  三焦経

  合 穴   曲池   小海   天井

  下合穴   上巨虚  下巨虚  委陽

 足の三陽経  胃 経  膀胱経  胆 経

  合 穴   足三里  委中   陽陵泉

3.風火=実証(余剰のものが歯に加わって痛む。カゼをひいた際の歯痛など)

 病態:風邪の侵入 →風火 →陽明経へ侵襲 →歯へ

 症状:実火・風火の共通点→激しい歯痛、歯肉の腫脹・発赤、頬部の腫れ

    風火独特→カゼ症状(悪寒、発熱)

4.虚火(上炎)=虚証(歯に必要な栄養分が少なくなって痛む)

 病態:腎陰虚(老人)→歯髄空虚、栄養不良 →虚火上炎

 ※腎は骨を主るので、老人では骨折しやすく背中も丸くなる。と同時に骨余である歯は、老人は脆くなる。

 症状:歯の鈍痛、時々起こる歯痛、歯肉が萎縮、眼精疲労、目の渇き 

    歯痛は午後・夜間に増強 ←老化現象の一環。一日の後半のほうが疲れがたまる。

 舌脈:舌質紅、舌苔少、脈細数(陰虚)

 ※陰虚=脱水による虚熱。熱証なので舌質紅で数脈となる。 

  細脈は、血虚(すなわち陰虚の徴候)があり気は正常であることを示す。

  舌苔は、他の動物と同じく、水分がないと育たず、舌苔少は脱水を意味する。(砂漠をイメージ)

  熱証の舌苔であれば、苔は生い茂り、舌苔黄~黒になる。(熱帯雨林をイメージ)

  

 治療方針:慈陰清熱(腎虚の不足を補い、虚火の清熱をはかる)

   局所取穴により、局所の経気の流れを改善。

   足少陰経(腎)に補法。手足陽明経に平補平瀉(大・胃)

  処方例:下関(胃)、頬車(胃)、合谷(大・原)、太谿(腎、兪土原)、行間(肝、榮火)

☯東洋医学で眼精疲労を捉える

〇五行

1.総説

 肝は目に開竅する。肝の五官は目。

  五官は開竅(開いている穴)と一致する。

  五官:肝→目、心→舌、脾→口、肺→鼻、腎→耳

〇目には、腎精と肝血が注いでいる。

 目の過使用や老化により、目への精血の供給が間に合わないと眼精疲労が生ずる。

  腎:精を蔵す。静が化生して血になる。

  肝:血を蔵す。精が不足すると、血が精に化生する。

 精と血は、腎の気化(物質転換)作用で 、精は血に、血は精に変換できる。⇒「清潔同源」

〇目ヤニ(眼脂)は、津液が熱せられてできる。

 麦粒腫(ものもらい)もその典型→二間(大・榮水)に灸。

2.肝血虚=虚証

 病態:肝血不足 → 肝血虚(目を栄養すべき肝血の不足)

 症状:眼精疲労、目の渇き、目のかすみ、視力低下、目の張痛、胸脇苦満

 ※胸脇苦満:邪気が半表半裏にあり、正気と邪気が横隔膜あたり(陰であると胸、陽であると腹の間)で抗争している状態

 舌脈所見:舌質痰、舌苔薄、脈細

 治療方針:補益肝血(肝血の不足を補う)

  足厥陰経、鍼補法。太衝(肝)、風池(胆) 

3.肝腎陰虚=虚証

 病態:腎陰虚者(虚弱体質や老人)→長期化→肝腎陰虚

 ※腎水欠乏状態が長期間続くと、蒸し器内の湿度が低くなり、水蒸気ではなく熱風が舞い上がる状態になる。すると肝も乾燥し(=肝陰も欠乏。陰の代表は血)、肝の気の運動性である「昇」を肝陰が食い止められない。 

 症状:肝血虚症状+腎陰虚症状(めまい、耳鳴り、健忘)

 治療方針:補益肝腎(肝血と腎精の不足を補う)

 処方例:足少陰、足厥陰、鍼補法

  肝血虚治療穴+太谿(腎、兪土原)、三陰交(脾)

☯東洋医学で眩暈(めまい)を捉える

1.総説

〇「眩」=目がかすむ、目の前が暗くなる・・・・・・・失神性めまい

 「暈」=周りがぐるぐる回る。揺れ動いて見える・・・回転性めまい・動揺性めまい

〇肝のめまい=激しい回転性

 痰濁や虚証のめまい=動揺性

 軽傷のものは発作時間は短く、安静にして目を閉じていれば治まる。本病症は高血圧、動脈硬化、貧血、神経症、頚椎症、メニエールなどに現れることが多い。

2.実証=肝の問題

 肝の病態的特徴は「動」と「昇」。

1)肝陽上亢

 病態:情志の失調により肝を損傷し肝陰が不足して、肝陽の上昇で起こるめまい。また房事過多などにより腎陰が不足しても肝陽は上昇する。

  腎陰虚(慢性消耗性疾患、房事過多など)→肝腎陰虚→肝陽上亢

  蒸し器の水が空で、蒸気が昇らず、空焚き状態→熱風が頭部を襲う(熱射病のような)

※老人はなぜ陰虚になりやすいか?

 ①蒸し器から出る水蒸気の量(火力不足、水不足)と質(精の不足)の低下。

 ②老人は、腎機能が低下しているので、尿の濃縮力が低下し、薄い尿が多く出てしまうので、脱水傾向→腎陰虚になる。こうした場合、普通ならば口渇を感じるが、老人は喉の渇きに対する感受性も低下していて、水を欲しないことが多い。

 精子は精そのものである。精は普段は腎中に溶け込んでいるが、射精する場合、抽出されて精が放出される。老人は精を製造する力が不足していて、房事過多では精を放出することで腎の機能低下に拍車がかかる。

 主症状:眩暈、耳鳴り+陰虚症状(五心反熱、盗汗)

 舌脈:舌質紅(熱)、舌苔少または無

 脈弦(痛、肝)、数(熱)細(血虚、肝)

 治療方針:平肝潜陽(肝陽の亢進を押さえ、必要に応じて腎陰を補う)

      足厥陰経、足少陽経に瀉法(肝陽の亢進に対し)

      足少陰経(腎陰虚に対し)に補法。

      処方例:風池(胆)、侠谿(胆、榮水)、陽輔(胆、経火)、太衝(肝、兪土源)太谿(腎、兪土源) 

      ・風池:瘂門穴と乳様突起の間

      ・侠谿:第4中足指節関節の前、外側陥凹部

      ・陽補:外果の上4寸の前3分

3)痰濁

 病態:飲食不節(暴飲暴食)や労捲(過労)などにより脾胃を損傷すると、運化機能が低下し痰濁が生じる。この痰が中焦に阻滞するため清陽が昇らず、また痰濁が頭部に直接影響し起こるめまい。

 飲食不節→痰濁発生→頭部に痰が流入

 脾の機能が低下し。不要物が腎水に流入。これを加熱すると水蒸気になり、さらに肺の宣発作用で全身に巡らす。頭部にも痰が流入し、脳髄機能(五感機能、運動機能)を定価させ、頭がぼんやりする。 

 症状:頭重、頭がぼんやりする

 舌脈:舌苔厚膩、脈濡滑

 治療方針:健脾化痰

 処方例:脾は生痰の源であるため、中脘、内関により健脾和胃、降逆去痰をはかる。

     また陰陵泉(脾、合水)、豊隆(胃、去痰)。頭維(局所)を取穴。

     ・豊隆:外果の上8寸。条口の外方に1寸隔てた陥凹部。

2.虚証

 蒸籠穴から脳髄に行く蒸気量(=気)不足、あるいは脳髄を栄養する血の不足。これら気・血の不足により脳髄機能低下した状態。

1)気血両虚(胃腸機能低下による栄養不良が原因となった貧血)

病態:

①脾胃虚弱→気血の生成悪化→気血両虚

 気虚:清陽が昇らない →眩暈

 血虚:脾気虚→脳を十分に栄養できない(食べても栄養にならない)→眩暈、元気が出ない

②慢性疾患→気血の消耗→気血両虚

③出血過多(吐血、下血、崩漏(不正出血))など →気血不足

主症状:よく眩暈が起こる。横になると軽減。疲れると誘発。

舌脈 :舌質淡(虚証) 脈細無力(血虚、陰虚)

治療方針:補気養血(脾気の機能向上をはかり、気血の生成を促す)

 足太陰経、足陽明経、背部兪穴。鍼にて補法、灸を併用

処方例:百会、脾兪、足三里、三陰交

2)腎精不足(老人性のめまい)

病態:①先天的に腎精が不足→髄海不足→眩暈

   ②老化、房事過多など→髄海不足→眩暈

腎精とは?

 腎に蔵される精のことで、生殖や発育を主っている。腎精の衰えが老化。

 髄は腎精から生ずるので、老化すると髄海である脳も萎縮する。腎精は、後天の精(脾で生成された栄養分)で補充されるが、そのためには腎陽の温煦作用が必要。

 症状:眩暈、精神疲労、健忘、耳鳴り

😊頭・顔面部の痛み、顔面麻痺、歯痛、眼精疲労、眩暈の原因も、他の病気と同じく、次のどれかにあります(複数の場合もある)。        

 外因:「風・寒・暑・湿・燥・火」→温度や湿度、気候の変化など。六淫ともいう。

 内因:「怒・喜・思・憂・悲・恐・驚」→過ぎた感情(精神的ストレス)。七情ともいう。

 不内外因:飲食(の不摂生)、労捲(過労)、房事、外傷。

現在進行形でこれらのストレスを受けているのであれば、なるべく、その場から早く身を遠ざけること、もしくはストレスを減らすことが必要です。ストレスを受け続けながらの治療では、なかなか効果が現れません。

  

 

  

 

kiichiro

鍼灸師。東洋医学について、健康について語ります。あなたの能力を引き出すためには「元気」が何より大切。そのための最初の一歩が疲労・冷え症・不眠症をよくすること。東洋医学で可能性を広げられるよう情報を発信していきます。馬込沢うえだ鍼灸院院長/日本良導絡自律神経調整学会会員/日本不妊カウンセリング学会会員//日本動物愛護協会会員