鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか?「肩関節痛から逃れるために」編

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はじめに

 鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。

筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化(白血球の増多など)等々。これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。

解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。

鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムであった、「似田先生の『現代針灸臨床論』」という科目に対しての理解をより深めることを目的の一つとしています。非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。

※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。

〇遠隔療法と反射について

 肩が凝っているときに、その凝っている筋肉に鍼灸をすると、コリが和ぎます。その理由は、筋肉の伸長収縮度合いが正常に戻ったり、凝っている部分の血流が促進されることで、疲労物質の滞りが解消されたりするからです。ですから症状が出ている(凝っている)部分に鍼灸をすることには意味があります。では鍼灸が、内臓の異常に働きかけるためにはどうしたらよいでしょう?内臓に直接鍼を打つといった方法もありますが、受け手の負担も大きく、一般的ではありません。そこで反射(東洋医学なら経絡)といった概念が用いられます。

 反射とは、刺激に対して無意識(大脳を介さず)に、機械的に起る身体の反応のことです。例えば、熱いものに手を触れたとき即座に手を引っ込めるのは反射によるものですが、このようなことが起こるは、身体を守るために、考えてから引っ込めたのでは遅いからです。鍼灸刺激によって反射(体性内臓反射)を起こし、生体に元々備わっている治癒力が賦活(活性化)されます。

・内臓体性知覚反射

 内臓の異常は、その内臓を支配している自律神経とほぼ同じ脊髄反射区の皮膚領域を過敏にし、普通では痛みとはならない程度の皮膚刺激でも、その部位に疼痛また異常感覚を伴なうようになるというもの。

・内臓体性運動反射

 内臓異常による求心性の興奮は、対応する体壁(皮膚や筋肉)に運動性の変化として、筋緊張・収縮などを起こすというもの。いわゆる凝りの現象で、内臓疾患による筋性防御のあらわれ。

・内臓体性栄養反射

 交感神経を切断すると支配下の筋群は緊張を失って代謝障害に陥る。内臓に慢性疾患が長期に渡ると、体壁に萎縮・変性があらわれてくるというもの。

・内臓体性自律系反射

皮膚にある汗腺、皮脂腺、立毛筋、および末梢血管系を支配する自律神経系の反射で、交感神経性皮膚分節の領域に反応があらわれるというもの。

汗腺反アセ汗として、立毛筋反射は鳥肌、皮脂腺反射は皮脂として、皮膚血管反射は皮膚の冷え、ほてりとなってあらわれる。

・体壁内臓反射

一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄の同じ高さに神経支配を受けている内臓に反射作用があらわれるというもの。このときに、内臓にあらわれる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)である。鍼灸などの体性(体壁)刺激が内蔵に影響を与える反射。

体壁:胴体(=体幹)の内臓を守るように取り囲んでいる、筋肉と一部では骨でできた壁のこと。胸部の胸壁、腹部の腹壁に分けられる。

肩関節痛とは

 肩関節が痛むものはすべて肩関節痛である。外傷などによる急性のもの、とくに原因に思い当たることのない、いわゆる五十肩とよばれる慢性的な肩関節周囲炎、スポーツ障害によるものなどがある。

★肩関節痛には、外傷性などの急性のもの、慢性的な肩関節周囲炎(五十肩)、スポーツ障害等!

第1節 肩の動きと作用筋

1.肩関節の種類

  肩の動きは、上腕骨と肩甲骨の関節窩の間でつくられる肩甲上腕関節(狭義の肩関節)の他に、機能的肩関節である肩甲胸郭関節(肩甲骨と胸郭の間)の可動性が大きく関係している。

他に上腕骨外転時に重要となるのが第2肩関節といわれる、上腕骨と肩峰の間隙部分である上腕肩峰関節である。その他、胸骨-鎖骨間の胸鎖関節、肩甲骨鎖骨間の肩鎖関節がある。

★5つの肩関節、肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節、肩峰上腕関節、胸鎖関節、肩鎖関節!

2.肩関節の可動域

  いわゆる肩関節の可動域は、外転・内転・前方挙上(屈曲)・後方挙上(伸展)・外旋・内旋という6方向だが、同時に肩甲骨の動きも伴うもので、肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の動きが合成されて全体の可動域が測定される。

3.肩関節の機能

  自動ROM・外転-外転90°可  →肩甲胸郭関節の筋性障害

         -外転90°不可 →他動ROM外転-90°以上可→肩関節の筋障害

                       -90°不可 →凍結肩

1)自動ROMと他動ROMの違い

 ①自動ROM制限あり→患者自身の筋力または関節に異常あり。

 ②筋肉または関節のどちらに異常があるかの判別は、他動ROMを調べる。

 ③自動ROM制限があるが他動制限なし→筋力に問題あり。

 ④自動ROM制限があり、かつ他動→関節機能に異常あり。

2) 外転90°の境界から推定できること

 ①外転90°未満では肩関節(=肩甲上腕関節)を動かす筋力(棘上筋や三角筋)の問題を疑う。

★肩外転90°できないのは棘上筋の筋力不足!

 ②外転90°以上できる場合、肩関節ではなく、肩甲胸郭関節の上方回旋での肩甲骨外縁と上腕骨間の筋(小円筋・肩甲下筋)伸張性の問題を疑う。

※この二つの筋は、肩甲骨の内転作用がある

★肩90°以上できるがそれ以上できない場合は、小円筋と肩甲下筋の柔軟性不足!

 ③肩甲骨の動きと肩甲骨-上腕骨間の動きの状況は、結帯動作と結髪動作のテストを調べるのが有効。

※結滞動作では、C7棘突起と母指頭の距離、結髪動作では、肩甲骨下角と中指の距離を測る。

★肩甲上腕関節の動きの状況は、結帯動作と結髪動作で調べる!

3)肩関節外転運動の筋活動

 ①肩甲上腕関節(いわゆる肩関節)の関節面はもともと噛み合わせがゆるい。凹面である肩甲関節窩は広く、この凹面上を、小さな凸面である上腕骨頭が動く構造になる。肩関節を外転させるには、まず上腕骨頭回転の軸を固定するために、棘上筋が上腕骨頭を体幹側に引き寄せる。

★肩関節外転のために、まずは棘上筋によって上腕骨頭が体幹側に引き寄せられる!

 ②回転軸を固定した後に、棘上筋だけでなく三角筋中部線維が収縮して上腕骨の外転運動が行われる。

★肩外転は、棘上筋によって上腕骨頭引き寄せの後、棘上筋と三角筋の収縮によって行われる!

4)手掌を上にしないと外転180°できないことの意味

 ①外転90°までは、手掌を下にしても動かすことができても、それ以上の外転角にすると上腕骨大結節が肩峰に衝突(=インピジメント症候群)して、それ以上外転不能となる。

★手掌が下を向いたまま(上腕骨内旋位)では、肩外転時に上腕骨大結節と肩峰が衝突するため、それ以上外転不能!

 ②上腕骨の大結節が肩峰にぶつからないようにするには、上腕骨を外旋し、上腕骨大結節を肩峰に潜らせる必要があります。そのためには手掌を上に向けた状態(外旋位)で外転させることで、外転180°はできるようになる。

 ③上腕挙上では上腕骨の外旋運動がともなう必要があります。この外旋運動は、肩関節肩腱板(棘上筋、棘下筋、小円筋)の筋収縮により起こります。肩腱板の障害では外転90°未満になることが多い。その代表疾患は肩腱板炎、肩腱板断裂’(完全、部分とも)。

★肩外転90°不能原因の多くは肩腱板炎、肩腱板断裂!

第2節 結滞動作制限・結髪動作制限の鍼灸治療

第1項 結帯動作制限と治療

1.結帯動作の制限因子と治療方法

 エプロンやブラジャーを結ぶような動作を結帯動作といい、これは、伸展+内旋の動作、大便後、お尻を拭くというのも結帯動作である。多くの場合、結帯動作は、結髪動作とともに肩関節ADL障害をきたす。結帯動作で収縮するのは肩甲下筋だが、障害筋は引っぱられる筋であって、緊張過多なので伸張できないことが症状を生む。問題筋は棘下筋・小円筋・烏口腕筋になる。術者は、患者に結帯動作を支持し、その時どこか痛むのか聴取することで障害筋の発見に努めるようにする。

〇結帯動作=肩の伸展+内旋

・棘下筋(上部)-肩外旋+肩外転 →肩内旋に拮抗する動き

・棘下筋(下部)-肩外旋+肩内転 →肩内旋に拮抗する動き

・小円筋    -肩伸展+内転+外旋 →肩内旋に拮抗する動き

・烏口腕筋   -肩内転+屈曲補助 →肩伸展に拮抗する動き

★結帯動作で伸張する筋(問題筋)は、棘下筋・小円筋・烏口腕筋。屈曲は肩甲下筋!

〇それぞれの筋の作用 

 ・棘下筋(上部):上腕骨の外転、外旋

 ・棘下筋(下部):上腕骨の内転、外旋

 ・小円筋:上腕骨の伸展、外旋、内転

 ・烏口腕筋:上腕骨の内転、屈曲の補助

★結滞動作=伸展+内転!

1)棘下筋と天宗

 結帯動作は、手背を腰の部分につけることが動作開始ポジションとなる。この姿勢は肩関節の内旋を強く強制することになる。これは棘下筋の伸張を強制される状態となる。

★手背は腰につける動作=肩関節内旋(棘下筋の伸張)を強制!

棘下筋のトリガーが活性化されると、上腕前面~外側の放散痛を生ずることが知られている。要するに棘下筋の筋が厚い部分(天宗あたり)を押圧しながら、結帯動作を行うと肩甲骨内側筋(菱形筋や肩甲挙筋)が緩むので、可動域が改善される。鍼なら天宗あたりの圧痛硬結を数ヵ所発見し、そこに置鍼した状態で、結帯動作の運動心を行うようにする。

★天宗を押圧しながら結帯動作=菱形筋や肩甲挙筋が緩む!

上腕外側は腋窩神経の分枝である上外側上腕皮神経知覚枝支配。(腋窩神経は小円筋・三角筋を運動支配。腋窩神経はさらに肩関節包下方を知覚支配)。

この解剖学的性質から、中国では上腕外側痛に対する局所治療として肩髃から曲池方向に水平刺する治療が多用されているそうだが、多くの場合、一時的効果に留まる。

★上腕外側痛に対して行われる肩髃から曲池への水平刺の効果は、一時的なもの!

天宗運動鍼の効果的な方法を説明する。シムス肢位(患側上)で手掌をベッドにぴったりとつけ、肘を90度屈曲位にする姿勢にする。ついで天宗圧痛点に置鍼した状態で、肩を回すようにすると肩甲骨が上下内外に動き、棘下筋に刺激を与える方法がある。どの程度の強さで運動鍼するかの刺激量を患者自身で決めることができる。我慢できないほどの痛みにならない程度に10回ほど回す。

※シムス肢位:左側を下にして横向きに寝る姿勢

★天宗運動鍼はシムス姿勢で行う!

2)小円筋と肩貞(小腸経)

 小円筋は肩甲骨の後面外縁下部の1/2から起始し、上腕骨大結節の下部に停止する。作用は上腕の伸展・内転・外旋。本筋の緊張は、肩関節の内旋困難になる。本筋の緊張を緩和させるには患側上の側臥位で、術者は肩甲骨外縁1/2のところを母指でさぐり、30秒間程、腕を持ち上げる(外転させることで小円筋のストレッチになる)。その時、片方の手で患者の肩関節が挙がらないよう、押し下げる力を与える。

〇結帯動作で伸張する筋(問題筋)は、棘下筋・小円筋・烏口腕筋。屈曲は肩甲下筋!

〇小円筋-肩伸展+内転+外旋 →拮抗する(やりにくい)動きは、肩屈曲、外転、内旋

★小円筋の緊張でやりにくくなる動作は、肩屈曲、外転、内旋!

鍼治療では、側臥位で肩貞(腋窩横紋の後端から上1寸、小円筋部)を刺入点とし肩甲骨外縁に向けて刺鍼し、上腕伸展運動の介助運動を行う。

※肩貞(小):腋窩横紋の後端から上1寸。

★小円筋刺鍼は肩貞穴から肩甲骨外縁に向けて、前額面上で水平刺、矢状面で直刺!

 ※棘下筋と小円筋の機能の相違点

棘下筋も小円筋も共に上腕の外旋作用がある。棘下筋は上腕を背中側に引く作用(上腕の内転)。小円筋は上腕の外旋作用。たとえば空手の右手正拳突きの動作の際、左手は腕を引き(棘下筋)つつ、外旋させて脇を締める動作(小円筋)をする。

★メインの作用は、棘下筋-上腕内転。小円筋-上腕外旋!

3)烏口腕筋と天泉(心包経)

・烏口腕筋:上腕の内転・屈曲の補助。水平屈曲。

・天泉:腋窩前縁から曲沢に向かうこと下方2寸(上腕二頭筋の長頭と短頭の間)。

結帯動作で、上腕内側が痛むという場合、烏口腕筋の伸張痛を考える。術者の母指と示指・中指で烏口腕筋を摘まみ上げる(もしくは押圧する)ようにし、患者は上腕を伸展させる。鍼の場合、烏口腕筋に刺鍼してこの動作を行い、運動鍼効果をねらう。

★結帯動作時の上腕内側の痛みは、烏口腕筋の伸長痛!

4)内旋動作時の関節包を緩める運動療法

結帯動作障害である伸展制限と内旋制限を同時に治すのが難しい場合、個別に内旋制限の治療から行う。

患者仰臥位、患側肘部の下に畳んだバスタオルを入れて肘を少し浮かした状態にする。次に患者は肘を90度に曲げ、そこから上腕を内旋させる。術者は、患者の上腕内旋運動に抵抗をかけるようにする。

★結帯動作障害と関係する筋は、棘下筋、小円筋、烏口腕筋!

第2項 結髪動作(または上腕外転)制限と治療

1.結髪動作(上腕外転の制限)と治療方法

 結髪動作とは、頭髪を後頭部で結ぶ動作のことで、肩関節の屈曲と外旋それに加えて肩甲骨の上方回旋の合成動作によるものである。肩関節の外転制限があっても90°以上可動できる場合は、肩甲骨の上方回旋運動制限(僧帽筋上部線維や前鋸筋の筋収縮力)および肩甲骨と上腕骨を結ぶ筋の過収縮(肩甲下筋や大円筋の伸張障害)が問題となる。なお棘下筋の緊張過多を結髪動作制限の原因にしている成書も多いよう。

★結髪動作=肩の屈曲+外旋+肩甲骨の上方回旋に障害!

2.肩甲下筋・大円筋刺激(停止は共に小結節)

 実際上は収縮力不足ではなく、肩甲下筋や大円筋の伸張不足が問題。そのベースには肩甲下筋や大円筋の過緊張がある。肩甲骨外縁を押圧しつつ、上腕外転運動が被験者の側頭部にくっつくくらいの強さで行いたいところではあるが、痛みのために上腕の挙上制限があり、同筋を伸ばせない場が多くある。さらに大円筋に対しては、肩甲骨外縁下角肩(横刺)甲下筋に対しては肩甲骨内縁と肋骨間に長鍼を刺入(水平刺)し、上腕外転運動を行う方法がある。

★結髪動作は大円筋・肩甲下筋の伸張不足。肩外転でストレッチされる!

1)大円筋刺鍼

 大円筋の痙縮痛の放散痛は、三角筋後部線維部に出現するという点で、棘上筋の放散痛とは違う。

 患側上の側臥位で、できる限りの結髪動作体位をとる。すると肩甲骨が下角が外に出てくる。この状態で肩甲骨外縁~肩甲骨下角外縁に位置する大円筋に刺鍼し、その状態で、術者が患者の肘を少しずつ押し、上腕の外転角を強める運動鍼を行う。

★大円筋は外縁下角が刺鍼点。刺鍼+上腕外転の運動鍼!

☆猫の背伸びポーズにての大円筋刺鍼

 四つん這いになりお尻を引く、でネコの背伸びポーズといわれる体勢がある。このポーズは上腕骨を強く挙上させることで、肩甲骨-上腕骨間にある大円筋をストレッチさせている。この体勢のまま、大円筋刺となる肩貞や肩甲骨下角あたりに刺鍼するという方法もある。術後、上腕骨自動外転角が広がれば成功。

★猫のポーズは大円筋ストレッチ。+肩貞刺鍼もOK!

2)肩甲下筋刺鍼

  肩甲下筋拘縮の放散痛は、後方四角部に出現します。肩甲骨内縁(膏肓)から肩甲下筋刺鍼する。治療側(患側)上の側臥位。膏肓あたりから肩甲骨と肋骨(胸郭)間に向けて、5~7cm水平刺し、ズンという鍼響を肩甲骨裏面に得ることができる。さらに強い響きが必要であれば、刺鍼したまま肩関節の自動外転動作を行う。これは肩甲骨-肋骨間のファッシア(筋膜)癒着を剥がす目的がある。

・大円筋 :起始-肩甲骨外側下縁、下角  停止-上腕骨小結節髎

・肩甲下筋:起始-肩甲骨前面  停止-上腕骨小結節、肩関節包

★結髪動作に関係する筋は、肩甲下筋、大円筋!

🥰以上、結帯動作障害に関係する棘下筋・小円筋・烏口腕筋、結髪動作障害に関係する肩甲下筋・大円筋とそれぞれの筋の筋緊張を緩めるための刺鍼部位および刺鍼法について記しました。これら肩関節周りの筋の緊張は、いわゆる四十肩・五十肩においての2次的障害部位であり、多くの場合原疾患ではありません。四十肩・五十肩は、最初に肩関節周囲の骨・軟骨・靱帯・腱・滑液包などに炎症が起こります。これにより肩関節の可動域制限が生じます。肩を動かすことによる痛みが出ないようにと、肩を動かさなくなった結果として、周辺の筋肉の柔軟性の低下や拘縮が起きるということです。つまりどの筋であっても、筋の過緊張によって関節の運動制限が起きているのであれば、当該筋への刺鍼は可動域を拡げるために有効となりますが、そうでない場合、関節可動域が大きく改善するということには至りません。※諸組織が炎症を起こす理由には、加齢、使用過多、不良姿勢(が影響するインピンジメント)などが考えられています。また糖尿病の人は、高血糖のために損傷部が血行不良となり五十肩になりやすいことが指摘されています。

★肩甲骨に付着する筋肉は17個

 ①僧帽筋

 ②三角筋

 ③広背筋

 ④上腕二頭筋

 ⑤上腕三頭筋(長頭)

 ⑥前鋸筋

 ⑦棘上筋

 ⑧棘下筋

 ⑨肩甲下筋

 ⑩小円筋

 ⑪大円筋

 ⑫肩甲挙筋

 ⑬大菱形筋

 ⑭小菱形筋

 ⑮烏口腕筋

 ⑯小胸筋

 ⑰肩甲舌骨筋(下腹)

第3項 肩甲上腕リズム異常の臨床的意味

1.肩甲上腕リズムとは

 肩甲上腕リズムは、コッドマンによって発見された。上腕外転角というのは、肩甲胸郭関節外転角と肩甲上腕関節の外転角を合成した角度のこと。健常者ではそれらの動く角度の比率は1:2になる。

健常者では上腕外転90°の時、肩甲上腕関節60°外転、肩甲骨は30°外旋状態になる。凍結肩などで肩甲上腕関節の可動性を失った状態でも肩甲骨が60°になるので、上腕外旋角(肩甲骨外旋角)として記録される。

肩甲上腕関節の外転制限角は「肩甲上腕関節」-「肩甲上方回旋角」の値になる。

★肩甲上腕リズムは、肩甲胸郭関節外転角(1):肩甲上腕関節の外転角(2)!

2.肩甲上腕リズムを利用の臨床応用

 肩関節疾患では、上腕外転制限をみることが多いが、肩甲上腕関節制限なのか、肩甲骨上腕回旋制限なのかの区別をする必要がある。

例えば患側が右肩だとする。両腕を90°外転させ、その時の左右肩甲骨の上方回旋の可動性を比較する。健側である左に比べ、右肩甲骨の上方回旋が強い場合、肩甲上腕関節の可動性が悪いために、右肩甲骨の強い上方回旋で代償していることになる。

★肩甲胸郭関節の動きで、肩甲上腕関節の動きを代償(トリックモーション)する!

第3節 肩関節疾患と鍼灸治療

<第1段階>関節か、筋腱か?

自動肩ROM≒他動肩ROM ―――― A.関節の問題

自動肩ROM<他動肩ROM ―――― B.肩部筋腱の問題

自動ROM不能、他動ROM正常 ―― C.肩腱完全断裂 → 鍼灸不適応

<第2段階>

A.肩関節自体の問題か?

肩関節の熱感・発赤

(+)→ 鍼灸不適応(肩峰下滑液包炎・外傷など)

(-)→ 上腕引き下げテスト(+)→ B.肩部の筋腱の問題

(-)→ 50歳前後か(-) → B.肩部の筋腱の問題

(+)→ 運動痛(+)で可動域制限(-)時 → 癒着性関節包炎急性期

(+)→ 運動時(-)で可動域制限(+)時 → 癒着性関節包炎慢性期

B.肩部の筋腱の問題か?

ヤーガソン・スピード・ストレッチテスト

(+)→ 上腕二頭筋長党頭腱々炎

(-)→ 腕落下テスト(+)→ 腱板断裂

(-)→ 有痛孤、ダウバーンサイン(+)→ 腱板炎(腱板断裂を含む)

★肩の理学検査

※上腕引き下げテスト:

ヤーガソンテスト:上腕二頭筋テスト。肘90°屈曲、前腕中間位から、検者が前腕を回内させようとするのに逆らって前腕を回外方向に力を入れる。肩部前方(上腕二頭筋長頭付着部)に痛みが出れば(+)

スピードテスト上腕二頭筋テスト。「肘90°屈曲、前腕回外肢位」を保とうとする。検者は片手で上腕二頭筋を触る。一方の手は前腕部におき、前腕を伸展させる方向に力を入れる。上腕二頭筋長頭付着部に痛みが出れば(+)

ストレッチテスト:検者は患者の後方に立ち、一方で手の上腕(肘の上方)を持ち、他の手で前腕(手関節の上方)を持ちながら、肘伸展位のまま上肢を後方に挙上(ストレッチ)させます。肩関節前面に疼痛を感じたら、今度は上腕をその位置に固定したまま肘を屈曲させます。この時、肩関節前面の疼痛が消失したものを陽性とします。

有痛孤棘上筋テスト。上腕の他動外転30°~110のところで痛みを発するもの。

ダウバーンサイン:肩峰下滑液包炎をみるテスト。肩峰下部(外側大結節)の圧痛を確認した後、他動的に上腕を他動外転させ、痛みが消失すれば(+)。他動外旋により肩峰下滑液包と大結節部が肩峰下に滑り込み、圧迫が取れるため圧痛が消失する。

1.上腕二頭筋腱長頭腱々炎

1)病態

 上腕骨頭結節間溝における上腕二頭筋長頭腱の腱炎。上腕二頭筋には、長頭腱と短頭腱がある。長頭腱の起始は肩甲骨の関節上結節であり、短頭腱の起始は烏口突起。

 長頭腱は上腕骨頭部で、大結節と小結節のつくる結節間溝を通過する際、折れ曲がるように走行を変えるので、力学的ストレスが加わりやすい。

2)分類

①上腕二頭筋長頭腱炎

 野球選手の30代頃に多くみられます。投球時のコックアップ(手首を過伸展させる動作)期から加速期に痛む。(投球時のリリース期以降は肩関節後方の障害を受けやすい)

★上腕二頭筋腱炎は野球選手の30代に多い!

②上腕二頭筋腱炎を合併している五十肩

 40~50才代にあっては、上腕二頭筋腱炎部の炎症が、肩甲上腕関節にまで拡大し、癒着性関節包炎となって五十肩症状に移行する。

★40~50代は上腕二頭筋腱炎→肩甲上腕関節炎→癒着性関節包炎!

3)症状:外旋時の肩関節前面痛、上腕から前腕への放散痛(他動ROMは正常)

  結節間溝の圧痛(+)

  ヤーガソン、スピード、ストレッチテスト陽性

  理学テスト陰性でも、結節間溝からその下方(肘方向)に圧痛があれば、本症と推定する。

★上腕二頭筋腱炎はヤーガソン(患者前腕回外痛)、スピード(上腕二頭筋アイソメトリック痛)、ストレッチ(上腕伸展痛)が陽性!

4)治療法 

 上腕二頭筋腱々炎は腱板疾患に紛れて存在することが多くある。独立した病態としての上腕二頭筋長頭腱々炎では、結節間溝部(=肩前穴:肩髃穴下1寸)を取穴。肩前穴から曲池方向に斜刺し、鍼先を上腕二頭筋腱長頭腱に刺入。軽い雀啄を行い抜鍼。上腕二頭筋長頭腱炎の炎症は、肩峰下滑液包の炎症が上腕二頭筋長頭部に拡大した場合の方が多く、肩腱板に対する治療(肩髃刺鍼など)を併用することになる。前肩髃の圧痛点を押圧しながら、肩関節の外転自動運動が効果的。

★上腕二頭筋腱炎は、肩髃を押圧しながら外転運動が効果的!

  ※肩前:上腕骨頭前面、結節間溝部(上腕二頭筋長頭が通る)。肩髃のおおよそ1寸下

  ※肩髃:肩峰と上腕骨頭の間。上腕90°外転時、肩関節付近にできる2つの窪みのうち、前方の窪み

  ※肩髎:上腕90°外転時、肩関節付近にできる2つの窪みのうち、後方の窪み。

      似田先生→肩峰外端の後下際。大結節を挟んで、前方が肩前。後方が肩髎。

★上腕二頭筋長頭腱炎は、野球肩の中で最も多い!

2.肩腱板炎

1)肩腱板の問題

 棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋は、上腕骨頭付近においては、共通の板状の腱となり、上腕骨頭に付着している。これを肩腱板(または肩回旋筋腱板)という。

  棘上筋、棘下筋、小円筋 → 大結節に停止。

  肩甲下筋 → 小結節に停止。 大円筋 → 小結節稜に停止。

  うち内旋に作用するのは肩甲下筋のみ。他の肩腱板筋は外旋に作用する。

 肩腱板、とくに棘上筋につづく腱板部分は、肩峰下滑液包や肩甲棘に圧迫されたり、摩擦されたりするために虚血が生じやすく、変形・断裂・石灰沈着などを引き起こしやすい部位。この部はレネ・カリエ博士は危険区域と称した。

★棘上筋につづく腱板部は、石灰沈着の好発部位!

 肩腱板のすぐ上には肩峰下滑液包があり、腱板の炎症は二次的に肩峰下滑液包炎を起こしやすい。肩峰下滑液包炎の程度が強ければ、夜間痛関節の腫脹・熱感などの急性の関節炎症々状を併発する。

 肩腱板炎は肩腱板部分断裂との判別が、問診や理学検査のみからはつきづらい。しかし高齢者ではほとんどが肩腱板の部分断裂である。

★画像なしで、肩腱板炎と肩腱板部分断裂の判別はつきづらいが、高齢者はほとんどが過腱板の部分断裂!

※腱板断裂:加齢により筋組織が脆くなると、外傷などがなくても自然と腱板が断裂する(断裂が多いのは棘上筋・棘下筋)。腱が切れても、肩が痛くなるのは30%であり、70%の人は切れていることにも気づきません。

★加齢により自然と腱板断裂する。70%はの人は切れていることに気づかない!

2) 診断(肩峰板炎単独の場合)

 痛みによる肩関節の自動運動制限。他運動は正常、大結節圧痛(+)

①有痛孤(ペインフルアークサイン)(+)、②ダウバーンサイン(+)

※有痛孤:肩関節を自動外転すると外転(最大外転位から内転)時、60 ~ 120 °の範囲で疼痛強く出る。棘上筋の力学的ストレスを診るテスト

②ダウバーンサイン

上肢を下垂した肢位で、大結節の圧痛を認めるが、肩関節を外転位にすると、大結節が
肩峰下に隠れるので圧痛が消失する現象。

★腱板炎では有痛孤・ダウバーンサインが(+)!

3) 肩腱板炎と腱板部分断裂の治療

①肩髃から棘上筋腱への刺鍼

 肩腱板の多くは棘上筋腱に相当する腱板部位に限局して痛む。棘上筋腱は、大結節(肩髃)に付着するので、その経穴部位である圧痛のある部(巨骨)に刺鍼し、鍼先を棘上筋腱に入れる。

★肩腱板の多くは棘上筋腱に痛み。刺鍼点は巨骨!大結節なら肩髃!

 肩髃穴から肩甲上腕関節内に刺入するには、肩甲上腕関節の関節裂隙を広げて行う。肩関節部を外転すると、上腕骨大結節の隆起が烏口肩峰靭帯を通過する必要があるため、肩腱板の力で上腕骨が下方に押し下げられるので、それを利用する。しかし外転90°近くになると、上腕骨自体が肩髃刺鍼を邪魔するので、45°前後の外転姿勢に保持する。さらに肩関節内に刺入するには肩関節部筋を弛緩させるのも重要なので、助手に前腕を保持してもらうか、前腕を机などに置いて肩部筋を脱力させる。この姿勢で、床面と水平に刺入する。

★肩関節を45°外転させて刺鍼。このとき、脱力させるために前腕を机におく!

②肩髎(三)から肩髃(大)への透刺(柳谷素霊の方法)

 棘上筋に連続した肩腱板部の痛みに対しては、2寸鍼を用いて、肩髎(三)から肩髃(大)への透刺を得意としていたとのこと。

★柳谷素霊の得意技。肩髎(三)から肩髃(大)への透刺!

③巨骨から棘上筋への刺鍼

巨骨から直刺深刺すると、僧帽筋→肩峰下滑液包→棘上筋→肩甲骨に入る。棘上筋の障害部は棘上筋の筋よりも腱部なので、巨骨から肩峰方向に刺鍼して棘上筋腱に当てるようにする。

★実際の刺入点は肩井!

体位:側臥位でタオルを畳んだマクラにして頚を側屈位に。

注意点:刺入点は肩井。

刺鍼:3寸鍼を用い、肩井を刺入点として巨骨方向に斜刺し、鍼先を棘上筋腱部付近に到達させる。巨骨から棘上筋腹に中に直刺しただけより効果的。

五十肩で最も痛みやすいのが棘上筋。棘上筋の起始部がダメージを受ける。当該部を押圧しながら肩の挙上をして可動域の改善を診ていくようにする。

★五十肩で最も痛みやすいのが棘上筋!

3.インピジメント症候群

1)概念

  インピジメント症候群とは肩を挙げたり動かしたりするときに腱板や滑液包などが肩関節で「衝突したり挟まる」ことで痛みを起こして、それ以上に動かすことが出来なくなる症状の総称。

★インピジメント症候群とは、肩関節における腱板や滑液包の衝突のこと!

2)エクスターナルインピジメントまたは肩峰下インピンジメント症候群

  肩甲上腕関節外転時、肩腱板の筋力低下やで、上腕骨頭を肩甲骨に十分に引き付けられないまま、上腕を外転させて回転軸が不安定となり、上腕外転時に肩峰下滑液包や腱板が烏口肩峰アーチに圧迫される状態。肩腱板炎や肩腱板部分断裂の誘因となる。

  ※他に、インターナルインピンジメントがある。肩関節外転時に、上腕骨頭が肩甲骨の関節唇に衝突する状態。投球障害肩はこのケースであることが多い。

 ・エクスターナルインピジメント:肩峰下滑液包や腱板が烏口肩峰アーチに圧迫

 ・インターナルインピンジメント:上腕骨頭が肩甲骨の関節唇に衝突

※烏口肩峰アーチ:烏口突起と肩峰と、両者を結ぶ烏口肩峰靭帯とでつくられるアーチのこと。

★上腕骨頭が肩甲骨の関節唇と衝突。インターナルインピジメント!

3)症状:外転60~120°での肩関節運動時(肩腱板炎と同じ)

4)理学テスト

 ①ペインフルアーク(+)

 ②インピンジメント徴候

  検者は被検者の肩甲骨を押さえながら、もう片方の手で、軽度に内旋させた上肢を他動的に(自動的でも)前方挙上すると痛みが誘発される。

★インピジメント症候群は上腕内旋位で肩外転で痛みが誘発される!

5)鍼灸治療 

  肩腱板の筋力低下あるいは肩腱板の筋の間違った使い方により、上腕骨頭を肩甲骨側に引きつけることができないわけだから、術者は上腕骨頭を下方へ押しつけることで上方への滑走を防ぐ。これにより正しい筋の使い方ができるよう、患者さんが学習する。

  この訓練時に、痛みが出現することがあれば疼痛をもたらしている筋に浅刺し痛みを軽減させ、訓練を続行できるようにする。

★インピジメント症候群は筋肉(棘上筋)の再教育が重要!

6)現代医学的治療

  急性期はRICE処置を行い、慢性期は、通常リハ訓練で経過は良好。ステロイドの肩峰下滑液包への注射。ときに肩峰前下面の切除手術。

★五十肩はリハ訓練で治癒しなければ、肩峰下滑液への注射!

4.肩腱板断裂

1)病態

  肩腱板の断裂で、棘上筋腱が大結節に付着する付近に好発。外傷性と非外傷性(=老化現象)がある。肩腱板の完全断裂では、上肢の外転は90°以上は自力は困難だが、他動では挙上制限はない。不完全断裂(部分断裂)や微小断裂の場合は自力で90°以上外転ができるため、腱板炎との区別が難しい。

★肩腱板の断裂は、棘上筋が大結節に付着する付近に好発!

2)診断

  外傷性の場合、肩の打撲や強打の既往があり、腱板炎よりも罹患年齢が高い傾向にある。完全断裂やそれに近い状態だと、腕落下テストが陽性になる。

①腕落下テスト

 肩関節を外転できない、もしくは他動によって外転肢位になってもそれを保てない。あるいは、肩外転肢位から、上肢をゆっくり降下させようとしても、途中からストンと落ちてしまう。

②腕神経叢麻痺との鑑別

 突然腕が自力では挙がらなくなったというとき、多くの場合、肩腱板断裂を思い浮かべる。しかし痛みがまったくないのであれば、腕神経叢麻痺の可能性もある。腕神経叢麻痺は自然治癒することが多い。

★突然腕が自力では挙がらなくなったら肩腱板断裂OR腕神経叢麻痺!

3)治療:肩腱板断裂では、保存療法をしても効果が期待できない。2~3年経っても90°以上の自力上腕外転できない場合、凍結肩ではなく腱板断裂なので、治癒のためには要手術ということになる。

★腱板断裂は、自力上腕外転ができなければ手術!

5.石灰沈着性腱板炎

1)病態

  老化等によって腱板が劣化し、体液が滲出、その体液から産生された石灰が肩関節の後上部の隙間にい集まり塊をつくる。とくに棘上筋腱部における石灰沈着部が肩峰下滑液包に触れた際に、突然激しく反応して肩関節の激痛を生じ、肩の運動(自動他動共に)が不能となる。

★老化→腱板劣化→体液滲出→石灰沈着!

2)診断

  突発的な肩関節激痛。X線画像で石灰沈着を確認。激痛のため肩関節の自動運動不能。肩関節の他動運動は異状なし。 上腕骨大結節の圧痛が顕著。

3)整形外科での治療:疼痛局所に麻酔剤注射。難治性のものは、石灰沈着剥離手術。

★石灰沈着性の五十肩、難治であれば石灰沈着剥離術!

4)鍼灸治療

  痛みが激しい場合、鍼灸での鎮痛は困難。

  大野安持(鍼灸師、柔整師、放射線技師)氏は、X腺で大結節付近の石灰沈着を確認し、2寸10番針で石灰沈着部に確実に鍼先を向けて6方向から直刺し、それに低周波置鍼通電(1~10Hz)を10~15分間行した。この方法により鍼による石灰沈着のが破潰され、鍼通電による除痛や筋運動が可能になることから疼痛が激減すると述べているとのこと。10例中ほぼ全例で鎮痛改善。鍼を石灰沈着部ではなく、筋運動点に刺鍼して通電したものは疼痛の軽減は認められない。疼痛が軽減したら次に滑車運動(棒運動でも可)を5分間行う。これ(鍼通電+滑車運動)により石灰沈着が周囲に分散するそう。刺鍼通電法で石灰が破潰しないものは鎮痛できないとのこと。(大野安持:「石灰沈着性腱板炎 石灰沈着に対する針の応用」医道の日本 昭和61年11月号)

★石灰沈着には局所の刺鍼パルス!

6.野球肩(=水泳肩)

1)病態

  野球肩での投球や水泳(クロールやバタフライ)の際に肩関節痛を生ずる症候群。投球時、加速期には肩関節前方が過緊張に、フォロースルー期には肩関節後方が過緊張状態になる。

★加速期には肩関節前方が過、フォロースルー期には肩関節後方が過緊張状態になる!

2)分類

①肩前方の障害:上肢を挙上するスポーツでの使い過ぎでよくみられる。

 上腕二頭筋腱炎(最多)、肩峰下滑液包炎、肩腱板損傷などの病態になる。

②肩後方の障害:肩腱板後方にある棘下筋腱と小円筋腱は、フォロースルー(腕の振り抜き)の時、肩から上腕骨頭が抜けないように緊張を強いられる。肩関節部の四角間隙にある腋窩神経や上腕回旋動・静脈の神経血管障害を起こすことがある。

※小円筋・大円筋・肩甲下筋・上腕骨でつくられる肩後部の間隙

★棘下筋腱と小円筋腱は、フォロースルー時、肩から上腕骨頭が抜けないように緊張を強いられる!

7.弾発肩甲骨症候群

1)病態

  肩関節や肩甲骨を動かすたびに、ゴリゴリ・ボキボキといった音がするものを弾発肩甲骨症候群という。音のみであれば、骨がすり減るなどの悪化の心配はない。

  弾発肩甲骨症候群は、肩甲下滑液包炎の一部に分類される。肩甲骨は元来可動性に富むので、肩甲骨下組織との間の3ヵ所に肩甲下滑液包が存在し、周囲組織との摩擦を防いでいる。肩甲下滑液包内の滑液量が増したり滑膜が肥厚すれば、摩擦が増え、滑液包炎が生じて動きにより音がするようになる。

  腕を挙げる時、肩甲骨は上方回旋(左右の肩甲骨上部は近づき、肩甲骨下部は遠ざかる)し、腕を後に回す時に肩甲骨は下方回旋(左右の肩甲骨上部は遠ざかり、肩甲骨下部は近づく)する。しかし肩甲骨周囲筋が固く可動性が悪いと、肩甲骨の滑走がしにくくなる。

★肩甲骨下組織との間の3ヵ所に肩甲下滑液包が存在している!

2)運動療法

  滑液分泌を正常化させるには、温罨法や運動療法が基本。

  前鋸筋のストレッチには、「肩甲骨はがし体操(四つん這いの体勢で、数秒間前鋸筋をのばす。=立甲)」も有効です。また背中を丸めるようにしながら、ボクシングのストレートパンチを打つように、前鋸筋を収縮(肩甲骨を前に出す)させるのも併せて行うのもよい。

★前鋸筋のストレッチには「立甲」!

①菱形筋と肩甲下筋のストレッチ 

 指先を肩関節部に置き、肘を前後に振る(肩甲骨の外転・内転)、また肘をグルグル回す

(肩甲骨を上下内外に動かす)体操を行い、菱形筋や肩甲下筋の柔軟性を高める。ただし体操をしても、音の問題はすぐには改善しない。

★指先を肩関節において、肘で円を描く!

②キャットエクササイズ

 菱形筋と肩甲下筋のストレッチとして、四つん這いで背中を丸める。丸めて5秒保持、背中を反らせて5秒保持。これを10回繰り返す。

3)鍼灸治療

  肩甲骨内側炎から1cmほど刺鍼し、肩甲骨を動かす。坐位または患側上の側臥位で行う。

第4節 いわゆる五十肩

 肩関節疾患は、最初は色々な診断名が付けられるが、それが治癒しない場合、最終的には凍結肩という単一の病態へと収束されていく。

★肩関節疾患は、最後はみな凍結型!

1.疾患の基本的な移行

  腱板の炎症→炎症が肩峰下滑液包に拡大し、滑液包内の水分が減少が粘性が増大して癒着性滑液包炎に→炎症が肩甲上腕関節全体に拡大し癒着性関節包炎(=凍結肩)に→6ヵ月~2年の経過で自然治癒。

★腱板の炎症→肩峰下滑液包に拡大→滑液包内の水分減少→癒着性滑液包炎→癒着性関節包炎→6ヵ月~2年で自然治癒!

 この流れの中で、最も痛みが激しい時期は肩峰下滑液包炎の頃で、この時くらいまでを五十肩疼痛期(=Freezing phase)とよぶ。五十肩疼痛期は疼痛中心で肩関節拘縮は目立たない。術者の介護によって上腕の運動制限はあまりない。

 炎症自体が落ち着くとともに、滑膜の癒着が始まる頃から、五十肩拘縮期(Frozen phase)に移行する。五十肩拘縮期は要するに凍結肩の時期であり、痛みは減少するが、術者が介助しても肩関節の可動域は制限される。

 肩腱板炎、肩腱板部分断裂、上腕二頭筋長頭腱々炎

  ↓

 肩峰下滑液包炎

  ↓

 癒着性滑液包炎

  ↓

 癒着性滑液包炎(凍結肩)

★五十肩拘縮期(凍結肩の時期)。痛みは減少するが、術者が介助しても肩関節の可動域は制限される!

2.五十肩(疼痛期)Freezing phaseの病態生理

1)棘上筋の退行変性

肩関節の外転運動は、骨頭を上方に引っぱる三角筋と、体幹側に引きつける棘上筋が協調して円滑に行うことができる。三角筋も棘上筋も老化するが、老化のスピードが早いのは棘上筋である。棘上筋の老化によって、肩関節を外転させようとするときに、上腕骨を体幹に引きつける力が不足する。これにより上腕骨頭を軸にした回転運動がが起こらず、上腕骨頭は上方に辷るような動きになります。この状態で上腕を外転させようとすると、上腕骨大結節は烏口肩峰アーチの下をくぐることが出来ず、上腕外転90°前後までの可動になる。この時、上腕骨頭と烏口肩峰との間で棘上筋が挟まれるようにインピンジメント(衝突)を起こす。

★肩関節外転運動は、骨頭を上方に引っぱる三角筋と、骨頭を体幹側に引きつける棘上筋の協調運動!

 無理をして上腕を動かそうとした結果、肩関節の外転・外旋筋である棘上筋・棘下筋の運動支配神経である肩甲上神経が過敏になる。

★上腕の無理な運動によって、肩甲上神経が過敏になる!

2)腱板炎が炎症拡大して滑液包炎に

  肩腱板に生じた炎症は、すぐ上方に接する肩峰下滑液包に波及し、摩擦を減らすために滑液量が増えたり、滑膜が肥厚してくる。この状態を肩峰下滑液包炎とよぶ。

★腱板炎に炎症→峰下滑液包→滑膜肥厚!

滑液包の体積が増すので、肩峰下との摩擦はさらに増加し、痛みも増大する。筋の滑りが悪くなった結果、上腕をぐるぐる回すと、その度に肩峰の奥あたりがコキコキあるいはジャリジャリ音を発することもある。このとき、音がするというあたりに術者の手を当てると、振動を感じる。

★肩峰下との摩擦はさらに増加し、痛みも増大!

 ※腕や肩を回すと音が鳴る場合、肩峰下部の音であれば滑液包炎を考え、肩甲骨内側炎であれば弾発肩甲骨症候群を考えます。

・肩峰下部の音であれば滑液包炎

・肩甲骨内側炎であれば弾発肩甲骨症候群

 肩峰下滑液包炎では、三角筋中部線維の付着部に限局した圧痛(滑液包~腱板部局所)が生じる。さらに滑液包に線維化がみられ伸張性が低下するようになる。関節とつながる筋(とくに肩甲下筋)にも索状の線維化がみられます。

★肩峰下滑液包炎では、三角筋中部線維の付着部に限局した圧痛(滑液包~腱板部局所)が生じる!

 肩関節に炎症が生ずると、肩関節部以外に、肩甲骨上や肩甲骨内縁、後頭部にも痛みが出てくるようになる。

★肩関節の炎症は、肩甲骨上や肩甲骨内縁、後頭部にも痛みが出てくる!

 滑液包炎の炎症の程度が強ければ自発痛が出現し、とくに夜間痛で眠れないほどになることもある。とくに夜間に増大するのは、循環血液量が減少するため。また気温の低下なども影響すると考えられている。普通、患側肩を下にして寝ると痛みが増大します。

★滑液包炎の強い炎症により夜間痛出現!

3)夜間痛

  仰臥位で就寝している時の夜間痛は、肩関節がベッド面から浮き上がっている状態で、肩関節が自重で下がる時に発症している。この場合、タオルを畳んで肘下に入れると、肩関節に加わる力が減るので、痛みが軽減する。

★仰臥位時は肩の下にタオルを入れると痛み軽減!

  患側上の側臥位で寝たときに痛む場合、腕が内転して無理がかかっているので、脇の下にマクラをはさんだり、体の前のマクラに腕を乗せるなどの対処法がある。

  寒冷時期には、掛布団の上から肩をすっぽりと覆う毛布やマフラーの使用も推奨されます。

★患側上の側臥位時、脇の下に枕をはさむ、体の前の枕に腕を乗せて痛み軽減!

3.慢性期(拘縮期)Frozen phase の病態生理

①滑液包の水分が乾いて粘性増加し癒着

 炎症が自然消退する過程で、元来はゼリー状だった滑液が、水分が失われて接着剤様になり、腱や骨に癒着するので上腕の運動制限が起こる。炎症が消退すると運動時痛はなくなるが、運動制限は持続する。これを癒着性滑液包炎とよぶ。癒着性滑液包炎を放置すると三角筋と肩腱板の動きが不安定になり、運動神経とその支配筋も癒着が拡大することがある。

★炎症が消退する時期、滑液の水分が失われ接着剤様になり、腱や骨に癒着して上腕の運動制限が起こる!

②癒着性滑液包炎の癒着範囲拡大により凍結肩へ

 癒着性滑液包炎の癒着範囲拡大により癒着性関節包炎(=凍結型)になる。凍結型になると、自動・他動とも運動制限は生じるが、疼痛は軽くなる。この状態になっても6ヵ月~2年後には、回復期 Recovery phaseとなり、徐々に可動域が拡大してくる。凍結した肩関節自然治癒するメカニズムは分かっていない。

★凍結型になると、自動・他動とも運動制限は生じるが、疼痛は軽くなる!

4.五十肩との診断条件

①50才前後。若い頃は若い枝木と同じで火はつきにくい。老木だと火はつきやすく、燃えるのも早いが火は大きくなりにくい。ある程度古く干からびていて、身がまだしっかりある50才頃が最も火は大きくなりやすい。火とは炎症のこと。

②肩関節ROMの制限(自動、他動とも) 特に外転、外旋運動が制限される。

・結帯動作:肩関節の伸展+外転+外旋の複合動作。帯を結ぶ時のように手を腰に回し、できるだけ上方に移動させ、母指とC7棘突起の距離を測る。

★結帯動作評価では、母指とC7棘突起の距離を測る!

・結髪動作:肩関節の屈曲+外転+外旋の複合動作。髪を後で結ぶように、手を後頭部に回す動作が出来るか否かをみる。中指と同側の肩甲骨下角の距離を測る。

★結髪動作評価では、中指と同側の肩甲骨下角の距離を測る!

③肩甲上腕リズムの異常

 正常では肩甲上腕関節外転角と肩甲骨上方回旋と肩甲上方回旋角の比率が2:1になる。凍結肩では肩甲上腕関節が十分に外転できず、代償として肩甲骨上方回旋角が大きくなる。

★肩甲上腕関節外転角が不十分、代償として肩甲骨上方回旋角が大きくなる!

④上腕骨引き下げテスト(-)

 上腕骨を強力に下方に引き下げ、肩峰と上腕骨頭との間に生ずる間隙を触知するテスト。

 間隙の拡大を触知できるものを陽性ないし正常、できないものが陰性。

 本テストが陰性のものは狭義の五十肩(=凍結型で病気には無関係)であり、陽性のものを非凍結型または正常。

※狭義の五十肩であっても若干は拡大を触知できる。まったく動きを触知できない場合には、関節癒合(結核など)の可能性もある。

★上腕骨引き下げテスト。間隙が触知できれば正常、できないものが陰性→五十肩!。

5.肩関節拘縮期の治療

  五十肩は発症してから、疼痛痙縮期→拘縮期→回復期と進んでいく。関節痛が激しい疼痛痙縮期には、ステロイドや抗炎症剤を用い、温熱療法などを行う。この時期は運動療法はまだ行わず安静が基本。拘縮期に入ったら振り子運動(コッドマン体操)などのリハビリを行い、回復期には水泳などを積極的に行う。

★五十肩の運動療法を始めるのは拘縮期に入ってから!

1)古典的運動療法

  五十肩を改善させる運動として、コッドマンのアイロン体操、滑車体操、棒体操、壁体操などが知られる。

  運動療法は、慢性期に入り、痛みが和らいでから行うようにする。運動後、痛みが30分以上続くようであれば運動量を減らす。10~20回を1セットとし、なるべく1日に3~4セット行えるとよいでしょう。他動運動はあまり効果的ではないため、筋パルスも期待できない。

★五十肩の他動運動と筋パルスは期待薄!

2)わが国の伝統の徒手矯正手技の応用

  癒着している肩関節腔を拡げる手技として、江戸時代の華岡青洲らが行っていた肩関節脱臼整復法に準拠しているものがある。肩関節脱臼に対してのものとは異なり、ゆっくりと持続的な間歇的牽引10~20回程度行う。完全に関節が癒着していれば効果はない。

★五十肩。ゆっくりと持続的な間歇的牽引10~20回。完全に関節が癒着していれば効果はない!

3)PNF(固有受容性神経筋促通法)手技

  五十肩に対するホールドリラックス

  カリエ博士はこれを「リズミックスタビリゼーション(律動固定)」と名付けている。

 ①患者は術者の指示に従い、上腕を左右に動かす。その時術者は患者の上腕を持って腕の動きと逆方向に力を入れる。

 ②患者、術者とも筋力を使っているのだが、その力が拮抗しあっているため、上腕はあまり動かない(等尺性筋収縮)。

 ③力を入れた主動作筋に対して、反対側になる拮抗筋は反対側は緩むという性質を使用したもの。これをⅠa抑制とよぶ。筋の緊張を緩めることで関節の可動域の拡大を図るというねらい。(筋肉は筋収縮した後、伸張性が増すという性質があるため、主動作筋にも働きかけていることになる)。肩関節付近の最大圧痛点に浅刺した状態で行うことで、より効果的になる。

 ④鍼灸治療では、肩関節付近の最大圧痛点に浅刺した状態で本法を行う。

★刺鍼+ホールドリラックスで効果大!

6.肩手症候群

1)病態生理と症状

 肩手症候群とは、脳卒中後、心疾患、頚部痛、上肢の外傷などに続発して生じた、肩関節の痛みと手がむくむ状態のこと。

 病態生理は不明だが、身体の各所(心・脳・骨・関節・筋など)に発生した外傷性あるいはその他の病変が痛みの刺激として脊髄に至り、そこで脊髄介在ニューロンを介して病的な脊髄路を形成し自分自身を再強化し続けるようなかたちで交感神経興奮状態が持続するとされる。

★肩手症候群は、痛み刺激→脊髄→病的な脊髄路形成→交感神経興奮状態の持続!

ようするに脳血管障害や心筋梗塞などの生命の危機に対処するため、頚部交感神経が興奮することで、上肢の血流障害が起こるのではないか、ということのようである。

★つまり肩手症候群は、脳血管障害や心筋梗塞などの生命の危機に対処するため、頚部交感神経が興奮することで、上肢の血流障害が起こる!

2)病期と症状

 第1期は熱い時期、第2期は冷たい時期、第3期は最終段階。第1期の治療は、消炎鎮痛剤投与、頚部交感神経ブロック、リハ訓練などを行う。第2期になると治療効果が現れにくくなり、薬物療法は無効となる。リハ訓練が治療の中心となる。第3期はではいかなる治療も効果がほとんど効果がみられなくなる。

★治療の効果はいかほどか?!

〇第1期

発病後より3~6ヵ月間。

肩:自発痛・運動時痛・運動制限。

手指:痛み、腫脹、熱感、運動制限。

〇第2~3期

2期は1期に続く3~6ヵ月。3期はそれ以降。

肩:痛みは改善、または凍結肩(関節拘縮)。

手指:痛みは改善、または皮膚や筋委縮、関節拘縮。

3)鍼灸治療

第1期はリハビリ訓練期間と一致。リハ訓練と並行し、鍼灸治療を行うのが望ましい。リハは勿論のこと、鍼灸も発症早期から開始した方が治療成績がよいことが知られている。とくに急性期はリハに比べても鍼灸治療に効果がある。通常、円滑なリハ訓練を阻害しているのが痛みと筋拘縮なので、これらを鍼灸で軽減させながらリハでADL(日常生活動作)拡大を目指すという役割分担になる。

★鍼で痛みを軽減させ、リハを行う!

 ただし現状では病院サイドでは鍼灸を考慮の対象にしていないことが多く、患者さんが自ら鍼灸を申し出ても、入院期間中であればその要望は叶わない。通常、発症後6ヵ月経過後は、外来で週一回程度のリハ訓練を行うのが一般的だが、その段階で鍼灸を始めても、効果は劣るものとなる。

★鍼灸治療開始は早くスタートするべし!

 普通は肩関節症状に対しての鍼灸は、鎮痛とROM拡大を目標に、いわゆる五十肩に対する施術を行う。また手指症状に対しても鎮痛とROM拡大を目標に、指間鍼や指先刺絡を行う。交感神経興奮が関与している点に留意し、星状神経節刺激を目的として坐位での大椎一行深刺を併用することもある。もっとも自然経過の中で、リハ訓練や鍼灸治療と無関係に、改善に向かうこともある。

★肩関節症状に対して、交感神経興奮を鎮めるために星状神経節(大椎一行深刺)を行うこともある!

第5節 アナトミートレインと遠隔取穴

1.アナトミートレイン理論

 アナトミートレイン(anatomy train 直訳では解剖列車)とは、解剖学的筋膜の連結線のことをいう。身体の筋は筋膜で繋がっており、線のような繋がりが全身12本あると考えられている。肩関節と体幹を繋ぐアナトミートレインは4本あるが、肩関節挙上と関係するのは深層深層バックアームラインと深層フロントアームラインの2本。

★アナトミートレインとは、解剖学的筋膜の連結のこと!

1)深層バックアームライン

 肩関節の後方挙上動作時に、筋々膜が緊張する流れ。患者椅坐位。術者は患側の腕をゆっくりと後方挙上させる。もし可動性不十分な場合、腕骨・清冷淵・天宗といったツボを圧迫しつつ、他動的に後方挙上させる。これで可動性が拡大した場合、それぞれの障害筋をストレッチさせた体位で、筋上のツボに刺鍼し運動鍼を行う。

 菱形筋・肩甲挙筋→上腕三頭筋→尺骨骨膜→小指球筋

 腕骨(小)・清冷淵(三)・天宗(小)

★深層バックアームラインは、小腸経と三焦経!

2)深層フロントアームライン

肩関節の前方挙上動作時に、筋々膜が緊張する流れ。患者椅坐位。術者は患側の腕をゆっくり前方挙上させる。もし、可動性不十分な場合、魚際・手三里・中府といったツボを圧迫しつつ他動的に前方挙上させる。これで可動性拡大した場合、それぞれの障害筋をストレッチさせた体位で、筋上のツボに刺鍼し運動鍼を行う。

 小胸筋→上腕二頭筋→橈骨骨膜→母指球筋

 魚際(肺)・手三里(大)・中府(肺)

★深層フロントアームラインは、肺経と大腸経!

3)アナトミートレインと奇経の関連

 似田先生によれば、奇形八脈で重要なのは、陰蹻-任脈、陰維脈、陽蹻-督脈、陽維脈の6本の流れであるとのこと(衝脈と帯脈は女性の初潮から閉経限定)。

 深層バックアームラインは陽蹻脈の流注に類似しており、深層フロントアームラインは陰蹻脈の流注に類似している。奇形八脈は、立位で上肢を上に挙げた状態で、気系の各脈は縦走している。ただし帯脈と衝脈は例外である。以下、帯脈と衝脈に関する似田先生の見解。

帯脈:ズボンが落ちないようにベルトをするのと同様、子宮内分泌物が下に落ちないように帯脈で支えている。そして帯脈の力が乏しくなると帯下が生じる。ここから発展し、帯脈の支配が弱まると、月経不順、帯下、子宮脱などが生じると考えられるようになった。

衝脈:「衝」とは下から突き上げる力や勢いを意味している。もとの意味は妊娠初期に現れるつわりのことだったと考えられる。これが意味拡大して、悪心嘔吐を含めて考えられるようになったと推察する。

4)腕骨刺鍼

 小指球筋→尺骨々膜→上腕三頭筋→肩回旋筋群→菱形筋・肩甲挙筋のラインが捻じれてつっぱる。この一連の機能筋膜連結を、深層バックアームラインとよぶ。

 単に腕を後方挙上させただけでは痛まず、とくに手関節の捻じれが機転となることから、小指球筋(腕骨穴を押圧した状態で、結帯動作を行うと、可動域が改善されることが多々ある。改善された場合、腕骨穴に刺鍼した状態で、結帯動作を行わせるとよい。

★腕骨に刺鍼したまま、結帯動作を行う→結帯動作改善!

4)清冷淵刺鍼

 腕骨刺激と同じ発想で、上腕三頭筋起始の清冷淵を押圧しつつ、肘の屈伸運動を行い、結帯動作の軽減をみたら、そのまま続けて清冷淵の運動鍼を行います。

清冷淵:手少陽三焦経。肘頭から肩髎穴に向かい上2寸。

★清冷淵に刺鍼したまま結帯動作を行う→結帯動作改善!

3.肩関節前方挙上障害に対する深層フロントアームラインを使った治療

1)魚際刺鍼

 上腕挙上させた時、母指球→橈骨々膜→上腕二頭筋→小胸筋がつっぱる。この一連の機能的筋膜結合を深層フロントアームラインとよぶ。母指球筋(母指内転筋、母指対立筋など)を押圧する目的で、魚際と合谷を同時につまみつつ、肩関節外転運動を行う。可動域が広がるようであれば、続けて運動鍼を実施する。これは大胸筋・小胸筋が緩んだ結果である。

魚際:手太陰肺経。第1中手指節関節の上、橈側陥凹部、表裏の肌目。

★魚際と合谷に刺鍼したまま肩関節外転→外転ROM拡大!

2)手三里刺鍼

 手三里当たりで橈骨輪状靭帯・腕橈骨筋・長橈骨手根屈筋間あたりには外側筋間中隔(屈筋と伸筋の境にある筋膜)があり、筋の重責が発生しやすい部位。ここを術者の2~5指等で押圧しつつ、前腕の回内・回外を10~20回行い、その後に上腕挙上すると滑走性が高まり挙上しやすくなる。

手三里:手陽明大腸経。前腕後橈側、曲池の下2寸。

★手三里を押圧しながら前腕の回内回外→上腕挙上ROM拡大!

※五十肩に対する条口穴刺鍼について

 40年ほど前、中国から「五十肩(広義)に対し、条口から承山に透刺すると効果あり」とのニュースが届いたそうです。実際に条口(足三里の下5寸前脛骨筋上)から承山(委中の下8寸で腓腹筋がアキレス腱に移行する部)に透刺するには4寸鍼が必要になりますが、健側の条口から承山にむけて1寸程度直刺でも効果を上げることができます。刺鍼したまま患側の肩関節の自動運動を行います。

 似田先生によれば、追試してみて効く場合も効かない場合もあるようです。なかには肩関節に直接鍼を行っても効果がないのに、同方法で予想外に腕が上がることあったそうですが、持続性に乏しいとのこと。

 なぜ条口から深刺するのか?アナトミートレインの考えでいえば、肩関節挙上時に腕橈骨筋あたりの手三里を刺激することになります。条口は前脛骨筋ですが、腕橈骨筋と前傾骨筋は構造的類似性があります。前脛骨筋で条口を選ぶ理由は、同筋でもっともボリュームがあるところという点いなります。条口を押圧しつつ、肩を挙上もしくは運動鍼を行います。

条口:足陽明胃経。足三里から解谿に向かい下5寸。豊隆と同じ高さ。

★五十肩の治療に条口穴に刺鍼する理由。アナトミートレインの考えからいえば、手三里(腕橈骨筋)刺激だが、手三里と条口は構造学的に似ているため!

☯東洋医学的に肩関節疾患を捉える

 「不通即痛、通即不痛」とは、「通らなければ痛み、通れば痛くない」という意味。ここで通るものは気のこと。この原則に則って治療を行う。肩関節の疾患は、気血津液や臓腑の弁証と合わせて、経筋を念頭に置いた治療が有効である。経筋とは、経絡走行上にある筋肉のこと。筋肉を単体でみるのではなく、「経」は縦のつながりを意味することからも分かるように、筋肉の作用の結果としてあらわれる人体の動きの面から経絡をとらえたものと考えることができる。経絡が臓腑との関りをもつのに対し、経筋は臓腑との関りをもたない。

◎肩を走行する経絡(経筋)

            末梢穴            患部穴       下肢の経穴

・肩前面:手太陰経 - 尺沢           雲門         陰陵泉、地機

・肩側面:手陽明経 - 曲池、手三里、合谷    肩髃         条口、足三里、蘭尾

・肩後面:手少陽経 - 外関           肩髎、天髎、臑会   陽陵泉

・肩甲骨:手太陽経 - 後谿           臂臑、天宗、肩貞   承山

 患部穴、末梢穴、下肢の経穴を組み合わせて治療を行う。下肢の経穴とは、例えば肩前面(雲門辺り)の痛みだった場合、同じ太陰経の陰陵泉を取る。肩髃辺りの痛みなら、同じ陽明経の条口、足三里、蘭尾(圧痛の強いもの)を取るという具合である。

 取穴の順番としては、下肢穴、手末梢穴、患部穴の順で取り、刺鍼したまま肩の運動(痛みを誘発する運動等)をするとよい。

〇帯脈

痛む部位が特定できず、全体が痛むというときは帯脈穴の圧痛を調べ、圧痛があればそこに刺鍼する。

帯脈:臍と同じ高さの脇腹。帯脈は足少陽経の穴だが、ここでは奇形八脈として取る。帯脈はその名の通り胴体をグルリと帯のように締めつけている経脈であり、その代表点である帯脈穴に刺鍼することで、締め付けていた帯が緩むように腕が上がるのではないかと推察される。

〇条口と承山

条口は肩前面、承山は肩後面の痛みに有効。この2穴を同時に取る。運動を加える。

「東洋医学見聞録(医道の日本社)・西田皓一」

 

 

 

kiichiro

鍼灸師。東洋医学について、健康について語ります。あなたの能力を引き出すためには「元気」が何より大切。そのための最初の一歩が疲労・冷え症・不眠症をよくすること。東洋医学で可能性を広げられるよう情報を発信していきます。中央林間うえだ鍼灸院院長/日本良導絡自律神経調整学会会員/日本不妊カウンセリング学会会員//日本動物愛護協会会員