鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか?「背腰痛をやわらげるために」編

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はじめに

 鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。

筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化、等々。

これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。

解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。東洋医学の治療は、東洋医学独自の病の見立てである「弁証」と、状況に応じた対処の仕方「論治(選穴、取穴、刺鍼施灸、手技)」によって成り立っています。西洋現代医学、東洋医学と、背景にある考え方が違っていても、治療にあたって用いるツボが同じになることは珍しいことではありませんが、日本において、患者さんが東洋医学の病名や用語を口にすることは、まずありません。よって現代医学的な診断を参考にしながら、東洋医学的な分析をしつつ、ことにあたる必要があります。

 鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、主に現代医学的観点から病態を捉える、治癒率向上を図る、鍼灸適応不適応の再確認、といったことと合わせて、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代針灸臨床論』」という科目に対しての理解をより深めることを目的の一つとしています。非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。

※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。

〇遠隔療法と反射について

 肩が凝っているときに、その凝っている筋肉に鍼灸をすると、コリが和ぎます。その理由は、筋肉の伸長収縮度合いが正常に戻ったり、凝っている部分の血流が促進されることで、疲労物質の滞りが解消されたりするからです。ですから症状が出ている(凝っている)部分に鍼灸をすることには意味があります。では鍼灸が、内臓の異常に働きかけるためにはどうしたらよいでしょう?内臓に直接鍼を打つといった方法もありますが、受け手の負担も大きく、一般的ではありません。そこで反射(東洋医学なら経絡)といった概念が用いられます。

 反射とは、刺激に対して無意識(大脳を介さず)に、機械的に起る身体の反応のことです。例えば、熱いものに手を触れたとき即座に手を引っ込めるのは反射によるものですが、これは身体を守るために、考えてから引っ込めたのでは遅いからです。鍼灸刺激によって反射(体性内臓反射)を起こし、生体に元々備わっている治癒力が賦活(活性化)されます。

・内臓体性知覚反射

 内臓の異常は、その内臓を支配している自律神経とほぼ同じ脊髄反射区の皮膚領域を過敏にし、普通では痛みとはならない程度の皮膚刺激でも、その部位に疼痛また異常感覚を伴なうようになるというもの。

・内臓体性運動反射

 内臓異常による求心性の興奮は、対応する体壁(皮膚や筋肉)に運動性の変化として、筋緊張・収縮などを起こすというもの。いわゆる凝りの現象で、内臓疾患による筋性防御のあらわれ。

・内臓体性栄養反射

 交感神経を切断すると支配下の筋群は緊張を失って代謝障害に陥る。内臓に慢性疾患が長期に渡ると、体壁に萎縮・変性があらわれてくるというもの。

・内臓体性自律系反射

皮膚にある汗腺、皮脂腺、立毛筋、および末梢血管系を支配する自律神経系の反射で、交感神経性皮膚分節の領域に反応があらわれるというもの。

汗腺反射発汗、立毛筋反射は鳥肌、皮脂腺反射は皮脂として、皮膚血管反射は皮膚の冷え、ほてりとなってあらわれる。

・体壁内臓反射

一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄の同じ高さに神経支配を受けている内臓に反射作用があらわれるというもの。このときに、内臓にあらわれる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)等がある。 

鍼灸などの体性(体壁)刺激が内蔵に影響を与える反射。

体壁:胴体(=体幹)の内臓を守るように取り囲んでいる、筋肉と一部では骨でできた壁のこと。胸部の胸壁、腹部の腹壁に分けられる。

〇鍼灸が有効な疾患、病院に行くべき疾患 

 病院に行ったけどよくならなかったから鍼灸院に来た、という人が多いのは事実ですが、当然、病院で対処すべき背中や腰の痛みもあります。 鍼灸師が、背中や腰が痛い人に行うことは、「病態(鍼灸治療の範疇か)を見極め、鍼灸適応のものに対して症状緩和のために鍼灸をする」です。

背腰痛には、主に運動器(骨や筋肉など)の異変によるもの、内臓異変によるもの、精神的なものがあります。背腰痛に伴い、発熱、血尿、安静時にも痛むなどの症状がみられたら、まずは病院に行く必要があります。病院検査で異常が認められず、病院での治療(投薬、牽引、低周波など)をしているのによくならないといった場合、鍼灸治療を受けるのも選択肢の一つです。このブログでは、主に運動器の異変による背腰痛(椎間関節性腰痛、筋筋膜性腰痛、側弯症、脊椎圧迫骨折、変形性脊椎症、脊椎分離症・脊椎すべり症・仙腸関節部の異常、瘀血性腰痛)について述べていきます。 このブログは、筆者が鍼灸専門学校の学生のときのカリュキュラムだった「似田先生の『現代医学針灸論』」を、より深く理解することを一つの目的としています。

椎間関節性腰痛

 背骨は24個の椎骨が重なってつくられる。上の椎骨と下の椎骨を連結させる椎間関節突起のトラブルによって椎間関節性腰痛は起こる。

 椎間関節性腰痛には慢性、急性があり、慢性のものは主に椎間関節の加齢変性、急性のものは腰に過度な負担のかかる急激な動作で関節包内の関節滑膜が挟まり、関節包が炎症を起こす。

・慢性痛 → 椎間関節の加齢変性

・急性痛 → 関節包の炎症

★椎間関節腰痛には慢性痛と急性痛がある。

 この関節包の炎症が脊髄神経後枝内側枝に興奮伝達される。部位的には背部一行上(棘突起直側から外方2cmの範囲)で圧痛がある。

★脊髄神経後枝内側枝の興奮は背部一行上の圧痛!

内側枝の興奮は脊髄神経後枝外側枝にも伝達される。この痛みは同神経走行上の、患部から外下方45°方向に放散され、その部位(臀部の外側辺り)に撮痛を認める。

★脊髄神経後枝外側枝の興奮は臀部外側の圧痛!

また、棘突起直側の深部筋である短背筋群の知覚も後枝内側枝なので、椎間関節の炎症と同様に、外下方45°に放散痛および撮痛を生じさせる。

★短背筋群の損傷も後枝内側枝の興奮となり、外下方45°に放散痛および撮痛を生じさせる!

短背筋群の筋緊張が後枝痛を惹起したものは筋々筋膜性腰痛で、椎間関節の捻挫が後枝痛をもたらしたものは椎間関節性腰痛ということになる。

・椎間関節の炎症(椎間関節痛):後枝内側枝の興奮による痛み→背部一行上(棘突起外方1.5~2cm)。刺鍼点は棘突外方2cm。

・椎間関節の炎症(放散痛): 後枝外側枝の興奮による痛み →患部から外下方45°方向(臀部外側)。

・椎間関節直側の短背筋(深部筋)の痛み( 筋々膜痛 ):後枝内側枝の興奮による 筋々膜痛 →(棘突起の直側)。 刺鍼点は棘突直側から外方5分。

〇鍼灸治療

 後枝症候群をつくる原因には、短背筋群の緊張によるものと、椎間関節捻挫によるものがあり、この二つの鑑別と治療は次のようになる。

①挟脊(短背筋)の圧痛

  棘突起直側に圧痛を認めます。短背筋群の筋々膜症。側臥位で、症状部(自覚痛部)から内上方45°の棘突起直側(外方5分)から深刺し、短背筋群まで刺入。4番程度の鍼で、棘突起の縁に沿って椎弓根まで刺入。

・棘突起直側に圧痛 → 短背筋群の筋々膜症

・短背筋刺鍼 → 棘突起外方5分

・刺鍼点 → 棘突起直側

★短背筋の緊張→夾脊に圧痛!

②椎間関節部の圧痛

 棘突起直側に圧痛所見はなく、腰殿筋症状部から45°内上方で、棘突起外方2cmの部を押圧して圧痛があれば、椎間関節性腰痛の疑いが強い。側臥位または伏臥位にて、2寸4番程度の鍼を用いて、棘突起外方2㎝あたりから深刺し直刺して骨に当てる。

鍼先を骨にぶつけて数秒間雀啄を続けると、症状部に至る鍼響きを得ることができる。

必ずしも椎間関節に命中しているとは限らないが、骨膜刺激はよく響く。後内側枝は上下の椎体に枝を送っているということで、椎間関節の痛みに対しても効果がある。

・棘突起外方1.5~2cmに圧痛 → 椎間関節の炎症

・椎間関節刺鍼 → 棘突起外方2cm

・刺鍼点 → 棘突起外方2cm

★椎間関節背腰痛→棘突起外方2寸に圧痛!

〇特殊な後枝症候群

①T4症候群

 T4症候群とは、胃の働きを制御している中部胸椎(T4椎骨)が、T3、T5、T6椎骨の近傍を通る交感神経や血管などが圧迫刺激して「逆流性食道炎」などの症状が現れるもの。カイロプラクティックの概念。胃の知覚は内臓の中では敏感だが、横隔膜に比べると鈍感。心窩部痛の多くは横隔膜過敏によるものと考えられる。

・横隔膜中心部→ C3~C4神経支配

・横隔膜辺縁部→ T7~T12肋間神経支配

★T4症候群とは、T4椎骨がその近傍を通る交感神経や血管を圧迫し逆流性食道炎などが現れるもの!

その他、上肢の痺れもT4症候群に多く、その背景には、猫背やスウェイバック姿勢(猫背に反り腰が加わった姿勢)によって、上後挙筋が硬直するため。

上後挙筋: C6、C7頚椎とT1、T2棘突から始まり、第2~5肋骨に停止。吸気時に第2~5肋骨を持ち上げ、吸気を助ける。

★T4症候群に上肢の痺れが多いのは、猫背やスウェイバック姿勢によって上後挙筋が硬直するため!

T4 近傍の障害によってなぜ上肢症状が出るのかといえば、ここを通過する交感神経はT4胸椎の椎傍神経節からは出ずに、そのまま3分節~6分節ほど上行し、上部の頚部の神経節(椎傍神経節)から出て、そこで腕や手に行く神経(脊髄末梢神経)と合流したうえで頚部や上肢の筋・皮膚血管に分布するため。

★T4症候群は、T4近傍を通過する交感神経は、そこではなく、少し上の分節から出るため!

〇T6~7挟脊穴刺鍼

 熟練を必要とするT6~T7棘突起直側(挟脊穴)から直刺して骨にぶつけ、その後1㎝ほど引き抜いてやや外側に鍼を向けると、少し深いところまで刺鍼できるようになる。鍼先を骨にぶつけるように数秒間タッピング(雀啄)すると、肋間神経刺激→横隔膜辺縁部刺激となり、鍼響きはあたかも胃に響いているように感じる。T4症候群とは、この現象のことと考えられる。

★T6~7夾脊刺鍼は少し外方をねらい、鍼先を骨に当てる!

※撮診法について

 撮診は、成田夬助氏が考案した手技。西洋での皮膚巻き上げテスト(Skin rolling test)と同様のもの。皮膚と皮下組織を手指でつまむようにして、そのときの患者の訴え(痛みの有無)や検者の指の感覚で異常を調べる。健常部に比べて異常部位は、皮下組織が厚く不安定感がある。この異常部を有痛帯ともよび、石川太刀雄氏のいう内臓体壁反射の一部と解釈される。健常部位はつまんでもあまり痛くないが、異常部位はつねられたような鋭い痛みを感じる。

※スキンロールは、そのまま治療にもなります。

これは脊髄神経前枝・後枝の皮膚に分布する知覚神経である皮神経の興奮と考えられるが、解剖学書等に描かれている末梢神経分布図とは微妙に異なるので、矛盾をかかえることになる。ただし上記方法で撮痛を見出し、その源流部である背部一行に刺鍼することで、大きな治療効果が得られるのは疑いようのない事実なので、少なくとも鍼灸治療法としては実用的な意味があるといえる。

★撮診時の撮痛は脊髄神経後枝の皮膚に分布している皮神経の興奮!

😊撮診(スキンロール)はそのまま、治療にもなります。自覚している背腰痛がなかったとしても、やって(やられて)みると多くの人が、とても痛がります。どれくらい痛いかというと「のたうち回るほど」、「笑っちゃうほど」です。実際にのたうち回ったら施術できませんので、足をバタつかせるほど。しかし続けていると痛みは徐々に和らいでいきます。筋と皮膚がくっついていたものを剥がすわけですから、その後いろいろな動作が軽やかになるし、その刺激によって内臓の調子も整います。終わったあとはスッキリです。ちなみにまったく痛くない人もいます。

②メイン症候群(=胸腰椎接合部症候群)

 胸腰椎移行部(T12/L1間)の椎間関節捻挫に伴う後枝興奮のこと。メインが提唱しました。臨床上高頻度。胸椎間は回旋の可動性があるが、腰椎間は屈曲伸展の可動性のみで回旋の可動性はない。上体を大きく回旋した場合、T12/L1間の椎間関節に強い力学的ストレスが加わる。

このとき上殿皮神経が圧迫を受けて発症する。上殿皮神経とはL1~L3脊髄神経後枝外側枝の別称。上殿痛(腸骨稜の辺り)大腿外側~大転子部痛ソケイ部~陰部痛という3つの領域に痛みを起こす。上殿皮神経の走行を調べるには撮診が便利。腸骨稜辺りの痛みを訴えるものに関しては腰椎移行部の異常を疑う。

上記症状に対しては、T12棘突起下直側の夾脊または椎間関節刺で再現痛が得られ、直後から痛みが軽減するという経過を辿ることが多い。

★体を捻る動作でT12/L1椎間関節に加わった力学的ストレスによって、上殿皮神経興奮。これがメイン症候群!

側弯症

 背骨が左右に湾曲したもの。多くは、背骨自体の回旋を伴う。左右の肩峰の高さの違い、肩甲骨の突出、腰の高さの非対称、胸郭の変形を伴なうことが多い。日本での発生頻度は1~2%程度で低いとはいえない。

①機能性側弯症

 疼痛、姿勢、下肢長差などの原因による一時的な側弯状態で、湾曲は軽度で捻じれを伴わず、その原因を取り除くことにより側弯は消失する。

②構築性側弯症

 脊椎の捻じれを伴った脊柱の側方への湾曲であり、本来の正常の状態に戻らなくなったもので、次のように細分化する。

・特発性側弯症:原因不明。全側弯症の70%を占めます。思春期(二次成長期)に悪化することが多く、これをとくに思春期特発性側弯症といい、11歳以下の女子の多くみられます。

・先天性側弯症:脊椎の形が先天異常。成長期に左右の成長の差が出て側弯症に発展します。

★構築性側弯症の7割が特発性。多くは思春期に悪化する!

〇理学検査

①立位検査:肩の高さの左右差。肩甲骨の高さと突出の程度に左右差の有無。ウェストラインが左右非対称であるかどうか。

②前屈検査:両方の掌を合わせ、肩の力を抜いて両腕を自然に垂らし、膝を伸ばしたままでゆっくりと前屈。肋骨や腰が左右のいずれかに盛り上がり、左右の高さに差があるか。

③脊柱のレントゲン:側弯の角度

★側弯症は、立位、前屈、画像で検査する!

〇現代医学的治療法

装具療法(進行防止目的)、手術療法など。運動療法、マッサージやカイロプラクティックは矯正効果はなく、有効性は科学的に確認されていない。

★側弯症は、運動療法、マッサージ、カイロプラクティックの矯正効果はない!

〇機能性側弯症に対する鍼灸院での治療

 機能性側弯症に対して、これまでも整体的技法が行われてきた。これは側弯を是正するとともに、側弯によって二次的に生じた、頭痛・頚肩コリ・腰殿痛などの自覚症状を改善することを目的としている。

※機能性側弯症:運動習慣や姿勢、左右の脚長差により脊柱が捻じれ、湾曲するもの

★機能的側弯症に整体的技法の目的は、側弯の是正と、二次的疾患の改善!

〇操体法(橋本敬三氏)

 身体の歪みは、左骨盤が高い場合でも右肩が低くなっているとは限らない。椅坐位と立位で、左右の肩峰の左右の高さを比較し、骨盤の左右の高さを比較してみる。

骨盤の左右の高さに差がある場合、見かけ上の下肢長にも異常は反映され、骨盤が下がっている側の下肢が長く見える。短く見える下肢を、床に置いた本やレンガの上に乗せて、骨盤の左右の高さが同じになるようにすると、敷物の高さを記録することで下肢長の差を知ることができる。

★左骨盤が高いからといって、右肩が低くなっているとは限らない!

①肩峰の高さに左右差があるなど、機能的側弯の場合

上部脊椎の歪みを矯正。坐位にさせ、上体を上下左右あるいは回旋させる操体法を実施。

②骨盤の高さに左右差がある場合機能的側弯の場合

下部脊椎と骨盤の歪みを矯正。

★操体法の基本は、①気持ちのよい方に向けて動かす。②「溜め」をつくってから瞬間脱力!

3.筋々膜性腰痛

1)筋々膜性腰痛とは

 背腰部の過伸展や捻転→筋々膜のトリガー活性化→脊髄神経後枝が筋膜を貫く部位で刺激されて後枝興奮。

なお腰背筋の代表といえるのは脊柱起立筋で、棘突起に近い側から、棘筋(頭棘筋・頚棘筋・胸棘筋)、最長筋(頭最長筋・頚最長筋・胸最長筋)、腸肋筋に分類される。

最長筋は細分化されますが、この筋は脊柱を支え、固定するための機能が中心で、寝ている時以外は常に緊張状態にある。

 ・棘筋(頭棘筋・頚棘筋・胸棘筋)

 ・最長筋( 頭最長筋・頚最長筋・胸最長筋 )

 ・腸肋筋

 ・腰方形筋

★最長筋は脊柱を支え、固定するのが仕事。寝ている時以外は常に緊張状態!

不正動作により突発的に生ずる痛みは、大腰筋・腰方形筋・短背筋群(半棘筋、長短の回旋筋、多裂筋)の問題とされている。これらの筋群は、腰椎に付着しているという共通性がある。

急性腰痛は表層筋(脊柱起立筋)の障害なのに対し、慢性痛では表層筋の障害と深層筋(多裂筋、長・短回旋筋、腰方形筋)の2つがあります。

 ・大腰筋

 ・腰方形筋

 ・短背筋群(半棘筋、長短の回旋筋、多裂筋)

★不正動作により突発的に生ずる痛みは、大腰筋・腰方形筋・短背筋群(半棘筋、長短の回旋筋、多裂筋)の問題!

〇短背筋の筋々膜性腰痛

①短背筋の構造

 棘突起外方5分で背腰部督脈に伴走するラインを背部一行線(または夾脊)とよぶ。この部には、頭・頚・胸の半棘筋多裂筋長回旋筋短回旋筋・棘間筋がある。基本的には骨盤もしくは腰椎横突起を起始とし、それより上部の腰椎棘突起を結んだ筋で、靴紐様の構造になっている。すべて脊髄神経後枝支配という点では背部の表層筋と同じ。

※腰半棘筋というのはなく、半棘筋(胸半棘筋)はT7まで。

★夾脊部にある筋は、頭・頚・胸の半棘筋、多裂筋、長・短回旋筋、棘間筋!

 短背筋は文字通り短く深部にある(※長回旋筋は短回旋より長いということ)。表層筋である起立筋は体幹運動の運動源だが、短背筋群は、こうした脊柱運動の際の上下近傍の椎体のアライメントを整えるという役割がある。

★短背筋の働きは、上下近傍の椎体のアライメントを整える!

 頭・頚・胸の半棘筋、多裂筋、長・短回旋筋、棘間筋、横突間筋の5つからなる。

 短背筋は短い、すなわち起始と停止の距離が短く、「遊び」がないので脊椎捻挫の衝撃を受け流すことが難しく、筋ダメージを受けやすい特徴がある。

 脊柱運動の際に、椎体間は微妙にずれることになるが、ずれる動きの方向は頚椎・胸椎・腰椎などの部位によって異なる。これはそれぞれの関節刻面の形状によって決まる。

 ・頭頚胸の半棘筋

 ・多裂筋

 ・長回旋筋

 ・短回旋筋

 ・棘間筋

★短背筋は起始と停止の距離が短いために衝撃を受け流すことが出ない!

②腰椎々体間の可動(多裂筋)

 腰椎体間の動きは屈曲・伸展のみで回旋は可動性がない。腰椎の屈伸の主動作筋は多裂筋であって、多裂筋は腰部と仙椎部で発達している。第5腰椎の前後運動は第1仙椎は可動性がないぶん、多裂筋の緊張が生じやすくなります。

★腰椎屈伸運動の主動作筋は多裂筋!

このような場合、L5S1間の一行線や仙椎一行の圧痛があれば多裂筋の緊張を考え、同部一行に多裂筋に至るまで深刺すると効果的。

「L5-S1-上後腸骨棘」を結んでできる三角をカリエの腰痛三角(沢田流小腸ユ)といい、筋膜性腰痛の好発部位。

★L5S1間の一行線の圧痛は多裂筋の緊張。カリエの腰痛三角は筋膜性腰痛の好発部位!

③胸椎々体間の可動(長・短回旋筋)

 長・短回旋筋は、胸椎部で発達している。それは胸椎回旋時に回旋し過ぎるのを防ぐため。

★長・短回旋筋が、胸椎部で発達しているのは、胸椎回旋時に回旋し過ぎるのを防ぐため。!

 胸椎部の上下胸椎間を少しずつ回旋させることで、全体として大きな左右回旋運動が可能になる。しかしT12椎体は回旋可能だが、L1椎体は回旋の可動がないので、この椎体間に力学的ストレスが生じ、長・短回旋筋の痛みが生じる。

T12-L1間の椎間関節性変化および短背筋群の痛みは頻繁に起こるものであって、これをメイン症候群とよぶ。

T12-L1間の椎間関節性変化および短背筋群の痛み、それにまつわる障害がメイン症候群!

④頚椎々体間の可動

 屈伸(頭・頚半棘筋、胸半棘筋)と回旋(主動作筋は長・短回旋筋)

 頭蓋骨は重いながら、各方向への可動性も大きい。ゆえに多くの筋に支持されている。頚椎は前後屈と左右回旋の可動性に富む。ただしC7椎体に続くT1胸椎は回旋運動はできても前後屈の可動性がない。頭を無理に前後屈させると、C7T1椎体間に力学的ストレスが生じ、大椎・治喘あたりの強い痛みやコリが出現しやすくなる。

★頭を無理に前後屈させると、C7T1椎体間に力学的ストレスが生じ、大椎・治喘あたりの強い痛みやコリが出現する!

 頚部の前後屈制限を伴う痛みの場合、頭・頚部半棘筋を刺激するだけでなく、多くの場合胸半棘筋を刺激する必要がある。

 半棘筋が発達しているのは胸椎と頚椎部で、腰椎との関係は深くない。

※半棘筋の「半」とは、体の上半分(T10)より上という意味で、半棘筋には頭・頚・胸の三種類があり、腰部以下には存在しない。半棘筋の基本的な役割は、頭蓋骨を自由に動すこと。胸半棘筋は重い頭蓋骨を支える目的で存在すると考えられている。

★頚部の前後屈制限を伴う痛みの場合、頭・頚部半棘筋を刺激するだけでなく、胸半棘筋も刺激するべし!

〇短背筋に対する運動鍼法

 短背筋に対する鍼治療は、背部一行刺鍼が効果良好。それでも痛みが減らない場合、運動鍼を併用することもある。

 胸椎部症状の場合、立位にて胸椎部一行線上に刺鍼したまま、上体のひねり動作を数回行う。腰椎・仙椎症状の場合、立位にて腰部一行に刺鍼したまま、おじぎ動作を数回行う。あるいは立位でできる限り前屈させた姿勢で、腰部一行反応点(痛みのある部位)に刺鍼する。

★短背筋対する鍼治療は、背部一行刺鍼が効果良好!

〇腰方形筋性腰椎

①腰方形筋の構造

 起立筋は仙骨に向けて幅が狭くなっている関係で、腸骨稜上縁にあるのは起立筋ではなく、腰方形筋になる。本筋は第12肋骨からの骨盤の間に走る。腰神経叢支配。腰背筋ではなく、腹筋群に分類される。

★腸骨稜上縁にある筋は腰方形筋!

※かつては、腹筋力が弱いと腰部筋に、より体重負荷が加わるので腰痛になるとされ、腰痛治療には腹筋強化が重視れた。しかし現在では腰痛の腹筋の関与はあまりないとされている。

②腰方形筋性腰痛の治療

 患者が痛みを感じるのは、腰方形筋の起始部である腸骨稜が多いので、腰宣穴力鍼穴が代表圧痛点となる。側臥位で、これらの点を押圧すると、圧痛点が明瞭になる。

・腰宣(ようぎ):L4棘突起下の外方3寸。大腸兪の外方1.5寸、腸骨稜上縁

・力鍼(りきしん):L4棘突起下の外方4寸。腸骨稜上縁

★腸骨稜部に圧痛があれば、刺鍼点は腰宣や力鍼!

 まれに腰方形筋停止である第12肋骨部(胃倉)に痛みが出ることがあります。側臥位にて、この部を母指腹で深々と押圧すると圧痛が明瞭になる。

★腰方形筋の緊張が第12肋骨部(胃倉)に痛みが出ることがある!

※胃倉:教科書の胃倉は、T12棘突起下外方3寸。ここでは側臥位にて、腰方形筋が第12肋骨に付着している部に胃倉を取る。起立筋の外縁を触知し、その筋の外縁を押圧。脊柱方向に押圧し、最も指が沈む方向を把握。そこが起立筋と腰方形筋のつくる筋溝であり、深部には横突起の先端がある。指の沈む方向に沿い、2.5~3寸の5~10番鍼を5㎝程度刺入する。

胃倉は代田文誌氏が腹痛の特効穴として「胆石疝痛に用いると、疼痛が頓挫できることが多い」と記しているが、尿路結石痛にも有効。胆石疝痛には、側臥位にて魂門(肝兪外方1.5寸)から水平刺鍼(起立筋と肋骨間に刺入)することによって鎮静化が望めるが、炎症性化膿性疾患のため、抗生物質による除菌治療が必要となる。

★胃倉はT12棘突起外方3寸!

③腰宣や力鍼からの深刺

側臥位で、腰宣や力鍼から腰椎横突起方向へ2寸以上深刺すると、大腰筋刺鍼になる。

★側臥位で、腰宣や力鍼から腰椎横突起方向へ2寸以上深刺すると、大腰筋刺鍼!

〇大腰筋性腰痛

①大腰筋の基礎知識

 大腰筋(大腰筋+腸骨筋=腸腰筋)とは、T12~L4腰椎から大腿骨の小転子にかけて走る筋で、腸骨筋は骨盤から大腿骨 小転子の間に走る筋。腸骨筋は走行途中で大腰筋と同じ束(腱)になり大腿骨に付着しているので、腸腰筋とよばれる。

起始:浅頭は第1胸椎~第4腰椎までの椎体および肋骨突起。深頭は全腰椎の肋骨突起。

停止:大腿骨の小転子

支配神経:大腿神経 

作用:股関節の屈曲(大腿の前方挙上)

★大腰筋の作用は、股関節の屈曲!

 腰神経叢はL1~L3脊髄神経前枝で構成されるが、腸腰筋中を走行しているので、腸腰筋の過緊張によって腰神経症状を生ずることも多くある。具体的には大腿前面、大腿外側、大腿内側痛を生じます。また腸腰筋は大腿骨小転子に停止するので、鼠径部から大腿小転子部の痛みを生ずることがある。

大腿前面・大腿外側・大腿内側の痛み

★腸腰筋の過緊張によって、腰神経叢(L1~L3脊髄神経前枝で構成)症状を生ずることが多くある!

②大腰筋性腰痛の症状・所見

a.T12~L5の脊柱傍の痛み(腸骨稜に圧痛なし)

b.大腿痛とくに鼠径部、大腿前面の痛み

c.大腿骨小転子付近の圧痛

d.大腿挙上困難

e.中腰姿勢で痛みが少なく、無理に上体を起こすと腰痛憎悪(腸腰筋伸張痛)。何らかの原因で大腰筋の持続的過収縮が生じると、中腰姿勢になります。中腰姿勢が続くとバランスをとろうとして、二次的にアウターマッスルである腰背筋の収縮をきたし、腰背筋の筋々膜痛としての症状を呈するようになる。

f.朝起きた時に痛むことが多い。←持続的収縮状態にある腸腰筋を無理に伸張したため。

g.背腰筋緊張状態の合併がない場合、腰部起立筋に顕著な圧痛は見られない。

T12~L5の脊柱傍の痛み、鼠径部の痛み、大腿骨小転子付近の圧痛、大腿挙上困難

※大腰筋が硬くなる要因:老化、座りっぱなし、冷え、使いすぎ、骨格の問題(内股など)

★大腰筋性腰痛は、鼠径部や大腿前面も痛むのは腰神経叢が圧迫されるため!

③大腰筋刺鍼(似田先生)

 一般的には伏臥位にて力鍼穴(L4L5椎体棘突起の外方4寸で腸骨稜外縁)から内方に向けて深刺して大腰筋中に刺入。

★大腰筋刺鍼は伏臥位で力鍼穴から内方に向けて刺鍼!

側臥位で行う方法もあり、そのメリットは大腰筋を触知しやすく、刺鍼もしやすいため。側臥位、3寸5~10番の鍼を用い、ヤコビー線の高さで、起立筋外縁を刺入点として、椎体横突起方向に7~8㎝刺入。鍼先が患部へ届くと、ズーンと重く響くような感覚が腰全体に広がります。これは大腰筋を包む腰仙筋膜深葉が刺激されるため。

★側臥位は、大腰筋を触知しやすい!

側臥位で大腰筋が触知しづらい結果、上になっている側の大腿部を自分(患者さん)のお腹に近づけるよう、強く股関節を屈曲させるようにすると、さらに大腰筋を触知しやすくなる。

★側臥位+上側の股関節屈曲でさらに大腰筋が触知しやすくなる!

④大腰筋刺鍼アドバンス(大腰筋を緊張状態にしての刺鍼)

 大腿を挙上しづらいという訴えに対して、立位で踏台に患足を乗せた姿勢にする。その姿勢を保持したまま、上述の大腰筋刺鍼を行う。ときには置鍼した状態で、患足に力を入れ、健足を少々宙に浮かせた状態にして、大腰筋刺鍼に雀啄手技を加える。

★患足を台に乗せ立位。→大腰筋刺鍼+雀啄!

〇外志室刺鍼

 広範囲な鈍痛では、深層筋(胸腰腱膜)の緊張を疑い、側臥位の外志室刺鍼が有効になることが多くある。外志室刺鍼は深部の筋膜を広域に刺激する目的で胸腰筋膜深葉を刺激するもの。またこのあたりに位置する腰神経叢を刺激することにもなる。

刺鍼部位は、立位時にできる腰の横のシワを目安に、腰椎横突起を目指す感じに刺入。

★広範な鈍痛には外志室刺鍼!

脊椎分離症と脊椎分離辷り症

1)病態

 正常な脊椎でも第5腰椎と仙椎の関節面(矢状面)は、水平線から30°傾斜している。この傾斜角を腰仙角という。この傾斜があるためL5椎体は元来前方への力学的ストレスが作用している。脊椎の上関節突起と下関節突起の間、すなわち椎弓根部が離れて椎体が分離したものが脊椎分離。

★第5腰椎と仙椎の関節面(矢状面)は水平線から30℃傾斜している!

なお脊椎分離した者は、無症状者でも5%にみられるが、スポーツ選手で発生頻度が高い。

腰椎々間板の変性が著名になると、分離のある脊椎が、これにより上位の椎体とともに辷っていくことがあり、これが脊椎分離症。いずれもL4-L5間に好発する。

少年野球など、10代前半の頃の激しい運動が原因とされる。

★脊椎分離症の好発部位はL4-L5間!

2)症状

本症はX線にて診断されるが、多くの場合、患者の現在抱える腰痛とは関係がない。本症特有の症状はないが、腰椎前弯が増強するので、それにより筋々膜性腰痛や椎間関節性腰痛が生じることがある。

★脊椎分離すべり症特有の症状はない。痛みは腰椎前弯増強による筋々膜性腰痛や椎間関節性腰痛!

3)所見:階段変形、腰椎前弯の増強

4)一般治療:自覚症状がなければ治療の必要なし。自覚的な痛みの大半は別の機序による。

脊椎圧迫骨折

1)病態・症状

大部分は骨粗鬆症が基盤にあり、転倒やくしゃみなどをきっかけとして椎体が圧迫骨折したもの。受傷とと同時に骨折部を中心に激痛が生じ、座位ときに臥位変換も困難になる。老人や閉経後の婦人に多い。下部胸椎と上部腰椎に好発。

★脊椎圧迫骨折が多いのは下部胸椎と上部腰椎!

※受傷直後に痛みを伴わず、時間がたった後にX線にて骨折を認める、通称「いつの間にか骨折」がある。

2)所見:圧迫骨折部棘突起の圧痛や叩打痛(+)。損傷部に相当する椎体の棘突起が突出する。

3)鑑別:脊椎圧迫骨折の原因の大部分は骨粗鬆症だが、カリエス(骨の結核)や癌の骨転移のこともある。←X腺で鑑別

★脊椎圧迫骨折の原因の大部分は骨粗鬆症。カリエスや癌の骨転移もある!

4)一般治療

痛みは安静臥床で約1か月後、骨折部が癒合して治癒。亀背や円背、背が縮むなどが後遺症となる。とにかく安静臥位の保持が重要。神経根症のない場合、入院の必要はない。

★椎体圧迫骨折は、安静臥位の保持が重要!

5)鍼灸治療

 圧迫骨折部を軽く押圧するだけで、患者は非常に痛がる。この脊柱の高さの一行線上に、太めの鍼(4~8番)で、置鍼5分間。これでかなりの鎮痛が期待できる。

★圧迫骨折と脊柱の高さと同じ一行線上に太めの鍼で置鍼5分!

〇骨粗鬆症

1)骨代謝とは

 骨は常に破骨細胞による骨吸収(=破壊)と、骨芽細胞による骨形成(=再生)とを繰り返している。この骨代謝のサイクルは約4か月。破壊される骨の量が増えたり、再生される骨の量が減ると、骨の密度が低下して骨粗鬆症となる。

★骨代謝の破壊量 ↑もしくは再生量 ↓で骨粗鬆症となる!

2)骨粗鬆症の概念

 骨粗鬆症とは骨密度が低下している状態。「骨強度」骨密度(骨の量的強度)と骨質(骨の質的強度)の二つの要因からなり、骨強度=骨密度×骨質で示される。

★骨強度=骨密度(量)×骨質!

3)症状・所見

骨粗鬆症では易骨折(骨折しやすい)となる。好発部位は、脊椎圧迫骨折、大腿骨頚部骨折、橈骨下端骨折。椎体の変形には次の3種がある。

・楔状椎 → 椎体前方の変形

・魚 椎 → 椎体中央の変形で凹レンズ様

・扁平椎 → 椎体後方の変形

★好発部位は、脊椎(下部胸椎と上部腰椎)、大腿骨頚部、橈骨下端!

4)分類

①低回転性骨粗鬆症(原発性骨粗鬆症):骨吸収・骨形成ともに減少しつつ骨量減少。骨粗鬆症の大多数(老年性・閉経後骨粗鬆症)

★低回転性骨粗鬆症は老年性!

②高回転性骨粗鬆症(続発性骨粗鬆症):骨吸収・骨形成ともに増加しつつ骨量減少。副甲状腺機能亢進症など。

★高回転性骨粗鬆症は副甲状腺機能亢進症など!

※副甲状腺ホルモン(バラトルモン)は、血中Ca低下時に分泌促進し、Ca低下を防止する役割がある。破骨細胞による骨吸収を促進、すなわちCaを骨から奪うので骨粗鬆症になる。

★副甲状腺ホルモン(バラトルモン)は、血中カルシウム濃度を保つために骨からCaを奪う→骨粗鬆症!

5)診断

骨密度:骨密度1.0g/㎝3以下が異常。50歳異常の女性25%、60歳以上の女性の50%が骨粗鬆症。cm3

★50歳異常の女性25%、60歳以上の女性の50%が骨粗鬆症!

6)予防と薬物治療

 骨密度と筋肉量維持には、日々のウォーキングが有効。このウォーキング法は「歩数」と「運動強度」の2つの観点から考える必要がある。運動強度を上げるためには、早歩き、坂道を上がる等。

〇骨粗鬆症に用いられる薬

①ビフォスフォネート:商品名はベネット錠など。破骨細胞機能を抑制。消化管からの吸収が悪く、副作用として胃腸障害。

②テリパラチド :商品名テリボン。骨芽細胞機能を促進し、骨密度だけでなく骨質も改善。週1回、1年半継続注射する。

③エストロゲン製剤:女性ホルモン剤。更年期女性で、骨からCaが溶け出すのを抑える。

😊骨粗鬆症予防のために、どんな運動をやればいいか?とりあえずは、とにかく歩けばいいと思います。もちろんやり過ぎはだめですが、やらな過ぎもだめです。理想を言えばいろいろありませんが、歩くことにプラスしてスクワットなどの筋力運動ができればなおいい。骨粗鬆症に特化したものとしては、背伸びをしてから、踵をストンと落とす運動があります。そのとき体に伝わる振動によって骨密度がアップします。運動して、栄養を取って、しっかり眠る、これを繰り返すことで体は強く、健康になっていきます。カルシウムが骨になるためにはビタミンDが必要ですから、日光を浴びることもヒジョーに重要です。

〇変形性脊椎症

1)病態

椎間板の退行変性により、椎間(孔)の狭小、椎体縁の骨棘形成などの骨変化をきたす病態。

40歳以上の年齢層に多い。老人になれば変形性脊椎症と骨粗鬆症といった脊椎の変形は、程度の差こそあれ誰でも存在する。

★変形性脊椎症は、椎間板の退行変性、椎体縁の骨棘形成!

2)症状

 腰痛(とくに起床時痛、動作開始時痛)、老人性円背。下肢に行く神経を絞扼した場合には下肢痛や下肢のしびれが出現。

★変形性脊椎症は、腰痛、円背、下肢痛・しびれ!

〇瘀血性腰痛の鍼灸治療

1)概念

瘀血とは、流れない血のことさす東洋医学の概念。瘀血性腰痛とは、腰部の静脈の循環障害が痛みの原因となった腰痛をいう。

★瘀血性腰痛とは、腰部の静脈の循環障害が痛みの原因となった腰痛!

2)病態生理

 静脈には弁がない(動脈には血液の逆流を防ぐための弁がある)。椎間孔をくぐりぬける椎間静脈や椎間板にまとわりつく椎骨動脈は、体内のさまざまな圧力に依存し、ときには逆流も起こる。

★椎間静脈や椎間板にまとわりつく椎骨動脈は、体内のさまざまな圧力に依存、逆流も起こる!

 腰椎下部から仙椎上部にかけて、脊柱付近の静脈鬱血賀あると、産生した痛み物質や虚血のために、腰部に痛みを訴えるようになる。なんとか静脈圧を高めて静脈血を流そうとして、普段ならば少量の血液しか流れていない末梢静脈の細い枝にも、多量の血液がながれるようになり、それを細絡として観察できるようになる。

※細絡:くも状血管拡張。この浅在静脈は通常肉眼的には見えないが、皮膚乳頭下層(表皮と真皮が接する部分)動静脈吻合枝が、局在の毛細血管の上昇にともなって代償的に拡大し視認できるものをいう。

★細絡とは、静脈鬱血時、静脈血を流そうとして静脈圧が高まった結果現れたもの!

3)症状と診断

瘀血性腰痛は、慢性腰痛として出現する。(血が貯まるのに時間が掛かる)。慢性腰痛を訴えているが、筋緊張や背部一行の圧痛があまりない場合では、瘀血性腰痛を疑う。

★慢性腰痛で、筋緊張や背部一行の圧痛があまりない場合、瘀血性腰痛かも!

痛む部位(L5~S1棘突起周囲)に一致した細絡があれば診断はほぼ確定するが、細絡がなくても瘀血性腰痛でないことを否定できない。

★細絡は瘀血性腰痛の診断基準の一つ!

4)鍼灸治療

①細絡(+):細絡から刺絡する。刺絡できない時は、灸頭鍼などで強力加熱して血行促進させるが、灸頭鍼による加熱は苦痛を増すことがあるので注意。

★瘀血性腰痛に対しては、刺絡や灸頭鍼がよい!

②細絡(-):L5~S1棘突起辺りの、深鍼。これで放血することがある。放血しない場合は、委中あたりの膝窩静脈から刺絡することで、腰部静脈の減圧をめざす。

局所の灸療は、灸療部の周辺に毛細鬱血が現れることがあり、これに刺絡してもよい(光藤英彦)。

※膝窩静脈からの刺絡は、腰部の大静脈の血流に変化を与えないが、毛細静脈は変化しているのかもしれない。この変化は現状では測定不能(光藤英彦)。

★刺絡する部位は、L5~S1棘突起辺り、だめなら委中!

〇効かせるための鍼の技法

1.緊張している筋への置鍼

 最も普通なのは、緊張している筋中に10~15分置鍼する方法。すると緊張していた筋は痙攣(鍼がギュッとつかまれる感じ)を起こし、数分以内に筋は弛緩する。患者を痛みが出る姿勢にして行う圧痛部への刺鍼は、効果を倍増させる。

★筋緊張部の筋中に置鍼。痛みが出る体性ならさらに効果倍増!

2.緊張している筋の表層皮膚への皮内鍼(円皮鍼)

皮膚からの刺激は筋と同一脊髄分節中に入る。この時皮膚痛覚は、筋々膜の痛覚と比べて伝達速度が速いので、筋々膜からの求心性の痛みを反射的に遮断します。(ゲートコントロール理論)

★皮膚痛覚は、筋々膜の痛覚より伝導速度が速いため、筋々膜からの求心性の痛みを反射的に遮断!

3.運動鍼法

 筋の伸張痛を緩めたり、皮膚のツレをとる手段として、運動鍼法は置鍼法に比べ、はるかに効果的である。おもに筋々膜性疾患に適応がある(よく効く)。筋の収縮時痛であれば、速効的な鍼灸治療はないが、置鍼+温熱を行うと、やや改善する。これを繰り返すことで、良好な治療効果が得られる。

★運動鍼>置鍼。運動鍼≒置鍼+温熱!

1)直接運動鍼

 短縮筋を伸張させての刺鍼は、筋紡錘の放電が盛んになるので非常に効果的である。臨床に頻用される神経筋促通手技といえる。

①痛む体位をとらせ(多くは上体前屈)、痛む部位を患者の指で示させます。

②この部位に寸63番で運動鍼を実施(細すぎると有効となりにくい)。

表層筋膜下に刺入し、上体の前屈動作を5回程度実施

③鍼を抜き、次にどこが痛むかを指で示させ、再び支持部に運動鍼を実施。

★短縮筋を伸張させての刺鍼は、筋紡錘の放電が盛んになるので非常に効果的!

※痛みが来院時の1/3程度になるか、痛む部位を示せなくなる(鈍痛様になる)まで繰り返す。治療の直後効果を痛みゼロにすることは、むしろ好ましくない。保護スパズムを完全消失させると、痛んだ筋肉に再度の強い負荷が掛かり、前回以上に強い筋スパズムが瞬時に起きる。

※スパズム:意図せずに起こる筋の収縮。

★保護スパズムを完全消失させるのは好ましくない!

2)関節運動鍼

①患者に痛む姿勢をとらせ、痛む部位を指で示させ、そこに印をつける。

②伏臥位にさせ、印の部位に寸6#3で運動鍼(膝を相互に屈伸左右5回づつ)。

③動作に応じて鍼体が動くことを確認。動かない場合は鍼の深度を増す。

※伏臥位での刺鍼は治療効果は劣るが、他の治療への移行がスムーズ。

★伏臥位→刺鍼→膝の屈伸!

4.腰痛の特効穴

1)中封(肝・経金)

位置:仰臥位。足関節前面、前脛骨筋腱の内側圧痛部。

意義:脚腰の痛み。前脛骨筋腱の内方5mmを刺入点とし、前脛骨筋腱の下方をくぐり、また下の骨面に接触するように斜刺すると、置鍼数分以内に体動できるようになることが多い。

★中封は腰痛に効く!

〇操体法

①仰臥位で両膝を屈曲。

②術者は両手を患者の側部におく。

③患者はかかとを視点として圧痛のあった側の足指を反り返らせ、足背部を徐々に持ち上げていく。

④術者はそれに対し、若干の抵抗を加える。

⑤ペタンと脱力させると、圧痛のある筋緊張は消失。

⑥これを2~3回反復。

注意:保護スパズムを緩和すると体動時の筋の伸張痛は改善する。しかし脊椎を守るために必要な筋緊張が取れてしまう。患者は「治った」と思って自由に動くと、突然激しい保護スパズムが再来し、その時の痛みは中封刺鍼でも改善しなくなる。痛みが軽減しても安静厳守が必要。

2)委中

操体法の膝倒し運動

3)腰腿点

適応:腰背部の軟部組織障害による痛み全般(腰痛だけでなく背部痛にも効果あり)

体位:椅子に腰かけ両手をベッド上に置く。

位置:2ヶ所(左右で4ヶ所)。

刺鍼:寸3#3にて、直刺約1㎝して鍼響を得ます。置鍼した状態で腰の前屈動作を数回実施させ抜鍼。

似田先生の意見:腰腿は腰部の痛みだけでなく、背部や頚部の痛みに著効することがあるが、実用性に乏しい。腰腿点の遠位部には、寝違え時に用いる落枕穴がある。これらの穴は脊柱関連の痛みという共通がある。

★腰腿点は脊柱関連の痛み全般に有効!

5.ウィリアム体操

 腰痛体操の代表、腰仙角を減少させて骨盤の後傾を促し、また腹筋の強化を目的とする。3ヶ月以上継続する。目的にかなっていればどのようなものでも構わない。継続が重要。

★脚・腰・腹筋の体操をしよう!

第4節 臀部痛

〇臀部の皮膚と筋

皮膚痛の存在は撮診法で確認する。(先述)

1)上殿部皮膚

①支配神経:運動→上殿神経

      感覚→上殿皮神経(L1~L3後枝の別称)

②鍼灸治療:L1~L3~一行刺鍼、腰宣(ようぎ)(L4棘突起下外方3寸腸骨稜上縁)、力針(L4棘突起下外方4寸で腸骨稜上縁)

★腰宣・力鍼は、上殿皮神経刺激!

2)仙骨外縁部皮膚

①支配神経:運動→中殿神経

      感覚→中殿皮神経(S1~S3後枝の別称)

②鍼灸治療:S1~S3高さの多裂筋刺鍼

★仙骨外縁部(S2の高さまで)(多裂筋)刺鍼は中殿皮刺激!

2)下臀部皮膚

①支配神経:運動→下殿神経

      感覚→下臀皮神経(後大腿皮神経の分枝)

※後大腿皮神経は仙骨神経叢(S1~S3)から起こる。

②鍼灸治療:坐骨神経刺鍼局所深刺

後枝興奮の治療点は、背部一行刺鍼。小後頭神経の直接治療点は、頚神経叢(天窓)になる。

★下臀部皮膚刺鍼は、坐骨神経刺鍼局所深刺!

〇臀部筋のコリと鍼灸治療

1)神経支配と鍼灸治療点

 背腰部の筋は、脊髄神経後枝が運動支配しているが、臀部は脊髄神経前枝(=仙骨神経叢)が運動支配している。

★臀部は脊髄神経前枝支配!

具体的には、上殿神経は中・小殿筋を運動支配し、下臀神経が大殿筋を運動支配しています。

★中・小殿筋は上殿神経(脊髄神経前枝)、大殿筋は下殿神経(脊髄神経前)支配!

上・中・小殿筋のコリに対する鍼治療は、ふつうに各筋の緊張部に刺鍼する。

大殿筋を支配する下殿神経は、坐骨神経とともに梨状筋下孔から出るので、坐骨神経時に同時に大殿筋の緊張を伴いやすく、坐骨神経B点刺鍼で代用できる。

※中・小殿筋を支配する上殿神経は梨状筋上孔から出る。

※上殿神経、下殿神経はともに仙骨神経叢の枝!他に、後大腿皮神経、坐骨神経、陰部神経がある。

★坐骨神経痛→大殿筋(下殿神経)緊張→下殿神経は坐骨神経とともに梨状筋下孔から出る→坐骨神経B刺鍼!

2)大・中・小殿筋のトリガー放散部位

 大中小殿筋にトリガーが生ずると、下肢への放散痛が生ずることが確認されている。とくに中殿筋が緊張しても下肢症状はあまり生じないのに対し、小殿筋のトリガーを刺激すると、大腿~下腿の外側や後側の痛みが生ずることが興味深い。

★小殿筋のトリガーを刺激すると大腿~下腿の外側・後側の痛みが生ずる!

また小殿筋放散痛は、下臀部にみられることも特徴的である。このような下肢症状パターンがあれば、小殿筋刺鍼(すなわち中殿筋の深部にまで刺入)を行い、大腿症状を軽減できることが多くある。

※小殿筋・中殿筋を緩めるには、健側臀部をベッドにつけた横滑り姿勢(姐さん座り)にし、腸骨稜外部の圧痛を調べ、圧痛点に刺鍼すると効果的。

★小殿筋刺鍼で大腿症状を軽減する!

〇仙骨部症状の鍼灸治療

1.仙腸関節の機能異常

1)仙腸関節の解剖

 仙骨と腸骨のつくる関節を仙腸関節という。仙腸関節は後方を強靭な後仙腸靭帯、仙結節靭帯、骨間仙腸靭帯、仙棘靭帯で結合されており、可動域は小さい。その関節面は荷重線に対して垂直に近く、荷重に対して剪断力を生じやすい構造をしている。

・腸骨前方変異(仙骨後方変位)→後仙腸靭帯に伸張ストレスが掛かる

・腸骨後方変異(仙骨前方変位)→仙結節靭帯に伸張ストレスが掛かる。

★仙腸関節の靭帯は、後仙腸靭帯、仙結節靭帯、骨間仙腸靭帯、仙棘靭帯!

2)仙腸関節の関節包の遊びは3mm程度で、中腰になった状態で一番遊びが大きい。この姿勢で重いものを持ったり、捻ったりなどの異常な外圧がかかると、関節の遊びを超えて、関節面は少しずれた状態になる。この状態のまま上体を伸ばすような、遊びの少ない位置に戻った時、関節は少しずれた状態のままロックされ、可動性が失われる。するとこの関節に関係する筋肉に次第にスパズムが生じて、痛むようになる。

・中腰になった時(仙骨が後方変位)に伸張ストレスが掛かるの後仙骨靭帯。その後、上体を伸ばしても後仙骨靭帯はストレスを受け続けるのではないか。

★仙腸関節の関節包の遊びは3mm程度。一番遊びが大きい中腰になった状態で、重いものを持ったり、捻ったりなどの異常な外圧がかかると、関節の遊びを超えて、関節面は少しずれた状態になる!

3)症状・診断

 仙腸関節自体には知覚神経が分布していないが、仙腸関節の異常可動により、後仙腸靭帯など周囲靭帯が緊張し、仙腸関節の鈍痛を訴える。この痛みは長時間の立位や坐位により出現する。横になっていると痛みは消失します。

主な関連痛は、上後腸骨棘付近痛(82%)・鼠径部痛(55%)・坐骨結節痛(52%)。

★長時間の立位や坐位により仙腸関節の周りの靭帯が緊張→鈍痛!

①放散痛部位にツボ反応(ー)

 腰仙部痛を訴えているが、患者自身痛む部がはっきりせず、「ここら辺」といって、大きく指で円を描きます。検者が患者さんの訴える部位の圧痛や硬結を探そうとしても特別な反応は発見できない。

★仙腸関節の痛みは不明確。「ここら辺」!

②静的腰痛

立位や坐位など長時間同じ姿勢を続けて、はじめて次第に痛みが出てくる。これに対して通常の腰痛は動的腰痛であり、動作時に直ちに痛みが出てくる。

③理学テスト

理学テストで明瞭にはできないが、仙腸関節部の圧痛(+)。

a)患者の訴える放散痛部位に異常は見つからない。

b)仙腸関節部の圧痛(+)→ワンフィンガーテスト(+)

※仙腸関節の圧痛の把握の仕方

 患者によっては、仙腸関節周囲の疼痛を自らの指頭で指摘できることもあるが、圧痛点を患者自身が見つけられない場合も多くある。圧痛点不明な場合、立位にして腹を壁につける。この状態で仙腸関節周囲を指頭で押圧し、圧痛点を発見する(何ヶ所かみつかる)。伏臥位や側臥位でツボを探索してもうまくいかないことが多い。

★仙腸関節の痛みは、異常所見はみつからない。しいていえば同部の圧痛。立位 で!

④理学テスト2

a)ゲインズレンテスト

 患者をベッドの端におき、健側の膝を屈曲して胸に抱えるようにします。賢者は患側下肢をベッドの端から出して過伸展させる。普段感じているのと同じ部位に同じような痛みが再現されれば仙腸関節由来の疼痛と診断される。このときに患側腸骨は健側と比較して前方回旋している。つまり伸張ストレスを受けているのは、仙結節靭帯と考えられる。

 ・ゲインズレンテストで伸張ストレスを受けるのは後仙腸靭帯ということになる。

  →仙骨前方変異

・脚を組んだ場合、伸張ストレスを受けるのは脚が上の方の仙結節靭帯

  →仙骨後方変位

★ゲインズレンテストで、伸張ストレスを受けるのは後仙腸靭帯!

★脚を組んだ時、伸張ストレスを受けるのは足が上の仙結節靭帯!

b)ワンフィンガーテスト

 自覚痛の最も強い部位を、患者自身の指頭で指し示すよう指示。仙腸関節部を指すものを陽性とする。

4)治療

①側臥位での仙腸関節運動鍼法

患側下と患側上のふ2つの方法がある。患側上の方法は、斜め上に刺入するというやりにくさがあるが、運動鍼を併用できるメリットがあり、効果も大きい。

a.治療側を上にした側臥位

b.左右の上後腸骨棘を結んだ線を引く。その中点で後正中線上と、患側の上後直骨棘を結んだ線の中点を刺鍼点に定める。

c.中国鍼2.5寸にて、ベッド面に対して45°の角度で斜刺し、腸骨と仙骨の間隙に3㎝ほど刺入すると、鍼先が骨間仙棘靭帯にぶつかる。この時、症状に一致した響きが得られればトリガーポイントに当たったとの確証がもてるので治療効果も得られやすい。

d.置鍼した状態で、健側の大腿を腹に近づける動作を10回ほど反復。その間術者は、鍼をタッピングし続け、もう片方の手で骨盤を上からベッドに押し付けて仙腸関節が開くような力を加えます、その後抜鍼。

★患側上の仙腸関節刺鍼は刺鍼しづらいが、運動しやすいメリットがある!

②仙腸関節神経ブロック法

 医師の行う方法。ベッドの手前に立たせ、両手をベッドの上において、上体を30°屈曲位で安定させる。仙腸関節上内方から斜め下方に23Gブロック注射針を入れて、骨間靭帯に入れる、痛みが症状部に放散すれば成功、この後に局麻液を注射。

★患者上体30°屈曲状態で、仙腸関節上内方から斜め下方にブロック注射!

※2ヶ月来の左上殿部~大腿外側痛という症例。

 先ずは患側上の側臥位で2寸鍼を使って上記方法を施行。患部に響かせることはできず、治療効果も乏しかった。そこで今度は立位前屈30°で、両手をベッドにおく姿勢で同じ刺鍼を行ったところ、患部にズンと響かせることができ、症状も非常に軽減。

 後者の方法は、前者に比べ、立位で上体屈曲させて行うということで、仙腸関節周囲の筋や靭帯が張り詰めた状態にあるせいか、症状部に響かせやすいことが推察される。本法では2㎝ほど斜刺すると抵抗のある組織に当たるが、抵抗ある中を刺入していき、症状部に響きを得ることができれば成功。抵抗ある組織とは、ある程度の柔らかさがあることから後仙腸靭帯ではなく、多裂筋なのかもしれない。(似田先生)

★仙腸関節刺鍼時に鍼がとらえるのは、後仙腸靭帯ではなく、多裂筋かもしれない!

③仙腸関節のストレッチ

 仙腸関節を水平面上でみると、仙骨は腸骨にㇵの字型にはめ込まれている。仙腸関節は上体を前屈すると少し緩むので、このとき仙骨は前方(腹側)に動きやすくなる。また上体を反らすときつく噛みこむことになる。仙腸関節のズレの多くは、上体前屈時の仙腸関節が緩んで関節が動きやすくなった時に生じる。したがって矯正は、患側下肢を引くようにベッドに乗せ、この姿勢を1回1~3分保持する

★仙腸関節の矯正は患側の腸腰筋のストレッチをするように!

※AKA療法

 仙腸関節のズレには、種々のマニプレーション(徒手療法)が試みられていて、その一つであるAKAが有名。本法は仙腸関節の隙間を手で広げたり、関節同士を辷らしたりすることで動かなくなっていた仙腸関節の動きを回復させようとするもの。治療時間は5~10程度。治療中患者は仙腸関節を触られたと感じるだけで痛みはない。この技術の習熟は難しいとされ、効果が出なかった場合、術者の技術不良によるものか、AKA自体の限界なのか区別できない欠点もある。

★AKAで効果がなかった場合、術者の技術不良によるものか、AKA自体の限界なのか区別できない!

④骨盤矯正ゴムベルト療法

a.ゴムバンドを左右の上後腸骨棘を中心軸として覆うように巻き付ける。

b.仙腸関節の上に親指を入れ動かせる程度のきつさにする。

c.肩幅程度に足を広げて立つ。腰を水平に、大きく円を描くようにゆっくり回す。朝晩2回、左回しと右回しをそれぞれ50回行う。

仙腸関節矯正ベルトを使っての腰回し運動は、ロックされた仙腸関節が外れるキッカケそをつくる。仙腸関節部筋や靭帯の緊張をゆるめる目的がある。

★仙腸関節矯正ベルトを使っての腰回し運動は、ロックされた仙腸関節が外れるキッカケそをつくる!

2.坐骨結節滑液包炎

1)症状:下臀部~大腿後側の動作時痛。ピッチング動作で軸足の坐骨結合がビクンと痛む。

2)理学所見:坐骨結節付帯着部筋を伸展させ、痛みが出る姿勢をさせての坐骨結節(≒承扶)を触診すると強い圧痛出現。

3)病態:サッカー選手や野球選手のピッチャーなど、大きく開脚して力を入れることの多い者では、その都度軸足の坐骨結節部の筋付着部に力学的ストレスが加わり、我慢してこの運動を強制して行ううちに、坐骨結節の滑液包炎を生じるまでになる。痛みがしつこく難治であって、スポーツを辞めることや、手術に至るケースもあります。

★坐骨結節滑液包炎はピッチャーン等の軸足側に生じる!

4)治療

 仰臥位で、患側下肢を持ち上げるように股関節を屈曲させ、術者は患者の膝窩の辺りに首を潜り込ませて、この肢位を保持。この状態で患部(坐骨結節部)刺鍼。その後置鍼したまま、股関節の伸展と前屈の自動運動を5~10回行う。

★坐骨結節包炎は、仰臥位で股関節屈曲状態で運動鍼!

3.仙結節靭帯痛

1)症状:下殿部~大腿後側痛、陰部神経症状(肛門や肛門奥の鈍痛)

2)理学所見:皮下組織の厚い部にあるため、触診して確かめることは困難

3)病態:ランニングやストレッチ体操のような、繰り返される大腿の大きな動作により、仙結節靭帯のTPが活性し、下臀部~大腿後側痛出現。この靭帯深部には陰部神経が走行するため、陰部神経絞扼障害が出現することもある。

4)治療:伏臥位で、仙結節靭帯に相当すると思える部に。3寸#10にて深刺し、下腿組織にに当てる。3~5本集中置鍼(10~20分間)。

★仙結節靭帯痛は、ランニングやストレッチ体操のような、繰り返される大腿の大きな動作により、仙結節靭帯のTPが活性し、下臀部~大腿後側痛出現!

腰痛と疲労との関係

 慢性腰痛でも 急性腰痛でも 、多くの場合、当該筋の活動が低下していることを機に生じる。オーバーワークや睡眠不足によって、体全体および局所組織の代謝が悪くなり、筋肉内に疲労物質が溜まる。加えて、脳内の痛みに対する閾値が下がり、痛みに対して敏感になることで、慢性腰痛となる。このようなとき、 本人に疲労の自覚症状がなかったとしても、筋肉の柔軟性は低下して急性腰痛を起こしやすくなる。

 疲労を溜めない、もしくは疲労を速やかに除去するためには、質量ともに充分な睡眠と栄養バランスのとれた食事をとらなければならない。他の疾患同様、予防がとても重要である。鍼灸も痛くなってから受けるよりも、日頃から予防養生として行うのが望ましい。

★急性腰痛の背後に慢性腰痛がある!

😊薬、徒手療法、鍼灸等々、然るべき治療を行っているにも関わらず、腰痛が治らない人がいます。手術をして痛みが治まったのも束の間、再発する人もいます。腰痛は痛むのは腰ですが、それを認知するのは脳であるため、精神的ストレスによって痛みが生まれたり、痛みが増幅することがあり、そういったケースが非常に多いのが腰痛と言われています。

おさらい

以下、本章ででてきた筋肉。(筋筋膜性腰痛時の多用される筋肉)

・脊柱起立筋(棘筋、腸肋筋、最長筋)

・短背筋(長・短回旋筋、多裂筋、胸半棘筋)

・腰方形筋

・大腰筋:力鍼穴(L4L5椎体棘突起の外方4寸で腸骨稜外縁)から刺鍼

・腰仙筋膜深葉

その他、鍼が狙うべき対象となるものとして、

・脊髄神経後枝(腰椎棘突起骨膜)

・椎間関節

・仙腸関節(主に後仙腸靭帯)

・前脛骨筋腱の内側 (中封)

・腰腿点

☯東洋医学で背腰痛を捉える

 東洋医学では、病気の原因(病因)には以下のようなものがあると考える。

・外因(六淫):気温や温度などの環境。風・寒・暑・湿・燥・火があり、人体にとって害となるほどであれば、それは外邪(寒邪や風邪など)となり、病因となる。

・内因(七情):過度の感情、精神的ストレス。怒・喜・思・憂・悲・恐・驚がある。

・不内外因:飲食不摂、労捲、房事過多など。

 これらによって、体内を巡る気血津液が不足したり、流れが悪くなることで病気になる。背腰痛も同様である。とくに背腰部の痛みを引き起こす原因には以下のようなものが多い。また東洋医学でいわれる「不通即痛、即通不痛」は、本来体内を巡る気血津液が通なければ痛み、通れば痛くないという意味。ということであれば、気血津液の流れを阻害するものはすべて病因となり得る。なかでも肝鬱を引き起こす「怒」の感情は腰痛の病因となる可能性が高い。

〇寒湿による腰痛

 寒冷(寒邪)と湿気(湿邪)という邪気によって起こる腰痛。寒さや湿気によって組織の機能が低下し筋肉などが損傷する。寒邪によって起こる腰痛は実証だが、その前段階と内寒(冷え症・虚)や痰湿ががあることも少なくない。温めると軽減する。

治療方針は、温養散寒。

〇腎虚による腰痛

 「腰は腎の府」であり、腰痛の多くは腎虚との関りがある。腎は精を蔵し、水を主るが、これらの機能は内因によって障害される。また腎は膀胱と表裏の関係にあり、膀胱の経絡は背腰部を通る。寒や湿などの外邪の侵入により、気血津液が滞れば腰痛となる。

治療方針は、補腎温陽。陰虚の症状が強ければ補腎養陰。

〇血瘀による腰痛

 患部で血の流れが滞ることによる腰痛。治療方針は活血化瘀血。

😊腰が痛いとき、温めたほうがいいか、冷やしたほうがいいか?結論からいえば、患部が熱をもっている以外は温めたほうがいいです。これは急性期であってもです。腰痛には、①急性腰痛、②慢性腰痛、③慢性腰痛があって時々痛みがひどくなる(慢性期の中の急性腰痛)があります。湿布薬は体を冷やします。急性腰痛の痛みを一時緩和させることを目的に用いるのであればともかく、湿布薬はその名の通り「経皮消炎鎮痛剤」ですから、湿布の頻用は体を冷やし、血流を阻害します。長い目で見たときに腰痛にとって、いいものではありません。

中央林間うえだ鍼灸院 

kiichiro

鍼灸師。東洋医学について、健康について語ります。あなたの能力を引き出すためには「元気」が何より大切。そのための最初の一歩が疲労・冷え症・不眠症をよくすること。東洋医学で可能性を広げられるよう情報を発信していきます。馬込沢うえだ鍼灸院院長/日本良導絡自律神経調整学会会員/日本不妊カウンセリング学会会員//日本動物愛護協会会員