太極拳で腎の充実を図る「尾閭中正」
腎虚とは生命力の低下
腎が弱ると、髪が薄くなる、耳が遠くなる、トイレが近くなる、腰が曲がる、不妊、といったことが起きます。どれも病気ではなく老化による現象です。歳を取らない人はいません。しかし、老化であるはずの現象が病的に起こっているのであれば打つ手はあります。そのために東洋医学では、斎下丹田を充実させることを大事としています。
斎下丹田
斎下丹田とは、おへそ(斎)の下にあって人間の重心がおかれるところ。丹とは、道教思想において不老長寿の薬「丹薬」のこと。その丹薬がつくられるということで「田」。人間のすべての生理活動は気(および血水)によって営まれています。大気中から取り入れた「清気」は、飲食物から抽出された「水穀の精微(後天の精)」といっしょになり、腎(斎下丹田)で先天の精と合わさります。ここ(ツボなら関元)を通った気はパワーアップして、のち、四肢体表、五臓六腑へと送られていきます。気はどんなに体中を巡ったとしても、常に斎下丹田に一定量が蓄えられています。ここが弱くなること(小腹不仁)は腎精の不足を示していて、気力、体力の低下から老化が早まったり、さまざな病気を引き起こしたりします。
斎下丹田を充実させるために
斎下丹田を充実させるためになにをしたらいいでしょう?まずは人間が動物として基本的なことをやります。栄養バランスのとれた食事、しっかりとした睡眠、適度な運動です。その上で、呼吸を意識する時間をつくる(例えば気功や太極拳をやる)ようにします。呼吸は肺だけでなく、腹(腎)で行うものです。そのときに意識するとよい(呼吸法などの効果が表れやすい)「(太極拳)要諦」の一つが「尾閭中正」です。
骨盤の位置を正しく
尾閭は「尾骨」のこと。尾閭中正とは、尾骨を正しい位置にすることで、ここでいう正しい位置とは、前でも後ろでもなく「真ん中」です。人間は犬や猫のように「尾(尾骨)」だけを動かすことはできませんから、尾閭を正しい位置にしようとしたら骨盤を正しい位置にすることになります。
スクワットとは違う、むしろ逆
スクワット時、スタートポジションからボトムポジションに移行する際(しゃがんでいく際)、お尻を後方に突き出すようにします、これが一般的。このとき腰椎(脊椎の腰の部分のカーブ)の前湾が強まります(反り腰になるということ)。尾閭中正はこれの逆で、腰椎の前湾をなくす(フラットにする)ようにします。これは太極拳を行うときなどの意識すべき姿勢要点の一つで、お尻を締める感じでやると感覚がつかめやすい。かといってお尻を締めすぎると腰椎が「後湾」してしまいますから気を付けて。すると腹筋にも適度に力が入ります。実際にやってみるとわかりますが、腰が反った状態よりも、腰椎がフラットになっている方が、お腹に力が入ります。お腹(腹筋群)が適度に緊張すると斎下丹田が充実します。
立身中正、虚領頂頚、含胸抜背との関係
尾閭中正は、立身中正や虚領頂頚、含胸抜背と一体のものです。意識を向けるところが違うということで、この中のどれか一つだけを抜き出して行うことはできません。脊柱の形態から考えると、虚領頂頚は頸椎、尾閭中正は仙椎(仙骨)や尾椎、含胸抜背は胸椎、立身中正は脊柱全体に視点を向けたものです。
太極拳要諦を活かす
太極拳は何のためにやるのか?おおよそ、強くなるため、健康になるため、競技太極拳として試合に勝つため、のどれかにあてはまります。つまり要諦が体現できているのであれば、より強く、より健康で、試合において勝つ可能性が高くなるということ。つまり目標が何であっても要諦を意識することが目標達成への近道ということです。
腎陽虚のファーストチョイス