鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか?「鼻・咽喉症状をやわらげるために」編

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はじめに

 鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。

筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化、等々。

これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。

解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。背景にある考え方が違っていても、用いるツボが同じになることは珍しいことではなく、これはある意味では当然ともいえます。

鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代針灸臨床論』」という科目に対しての理解をより深めることを目的の一つとしています。非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。

※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。

〇遠隔療法と反射について

 肩が凝っているときに、その凝っている筋肉に鍼灸をすると、コリが和ぎます。その理由は、凝っている部分の血流が促進されることで疲労物質の滞りが解消されたり、筋肉の伸長収縮度合いが正常に戻るからです。ですから症状が出ている(凝っている)部分に鍼灸をすることには意味があります。では鍼灸が、内臓の異常に働きかけるためにはどうしたらいいでしょう?内臓に直接鍼を打つといった方法もありますが、受け手の負担も大きく、一般的ではありません。そこで反射(東洋医学なら経絡)といった概念が利用されます。

 反射とは、刺激に対して無意識(大脳を介さず)に、機械的に起る身体の反応のことです。例えば、熱いものに手を触れたとき即座に手を引っ込めるのは、考えてから引っ込めたのでは遅いからです。鍼灸刺激によって反射(体性内臓反射)を起こし、生体に元々備わっている治癒力が賦活(活性化)されます。

・内臓体性知覚反射

 内臓の異常は、その内臓を支配している自律神経とほぼ同じ脊髄反射区の皮膚領域を過敏にし、普通では痛みとはならない程度の皮膚刺激でも、その部位に疼痛また異常感覚を伴なうようになるというもの。

・内臓体性運動反射

 内臓異常による求心性の興奮は、対応する体壁(皮膚や筋肉)に運動性の変化として、筋緊張・収縮などを起こすというもの。いわゆる凝りの現象で、内臓疾患による筋性防御のあらわれ。

・内臓体性栄養反射

 交感神経を切断すると支配下の筋群は緊張を失って代謝障害に陥る。内臓に慢性疾患が長期に渡ると、体壁に萎縮・変性があらわれてくるというもの。

・内臓体性自律系反射

皮膚にある汗腺、皮脂腺、立毛筋、および末梢血管系を支配する自律神経系の反射で、交感神経性皮膚分節の領域に反応があらわれるというもの。

汗腺反アセ汗として、立毛筋反射は鳥肌、皮脂腺反射は皮脂として、皮膚血管反射は皮膚の冷え、ほてりとなってあらわれる。

・内臓内臓反射

一つの内臓からの興奮が、他の内臓に反射作用を及ぼす場合。内臓内臓反射は主に副交感神経性であると考えられている。

・体性内臓反射

一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄の同じ高さに神経支配を受けている内臓に反射作用があらわれるというもの。このときに、内臓にあらわれる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)である。 

〇反射の応用

 内臓体性反射は、交感神経緊張、交感性反射の一面を観察していることになり、患者の示す反応点との関連が深い。生体反応点としての経穴との関係を考えてみても、全ての経穴にあてはまるというわけではないが、経穴とは人体の構造上の弱点(反応点・治療点)あたる場所であり、内臓体性反射のいずれかがあらわれた場所であるともいえる。臨床にあたっては、体表観察を通じて、内臓体性反射の諸相のあらわれを正確に把握することが大切である。

 知覚反射としては、知覚過敏や鈍麻があり、圧痛を伴なう硬結は運動反射の症状であり、萎縮、色素沈着などは栄養反射のあらわれである。自律系の反射の例としては、発汗、皮脂腺分泌、冷えなどの症状があり、それらのあらわれ方が、分節性にあらわれれば、その分節からの神経支配の内臓の機能異常が判定できるし、体表からの刺激で、その異常を調節することもでき、診断と治療の基礎となるものである。

 しかし、複雑な反応をみせる生体においては、横の反応帯である分節にそって内臓体性反射として現れる場合もあるし、おそらくは脊髄レベルよりも、より高次の中枢が関与しているものもある。

(「はりきゅう理論」社団法人東洋療法学協会編・教科書執筆委員会)

第1節 鼻の疾患

 現代医学的に鼻の症状には、鼻汁、くしゃみ、鼻閉、鼻漏、鼻茸などがあり、症状を引き起こす誘因に鼻炎(急性、慢性)、副鼻腔炎などがあり、さらにはその原因として、アレルギー体質、体調不良などがあります。

第1項 代表的鼻疾患

〇鼻疾患・鼻粘膜の炎症

・細菌性:風邪の二次感染で発症→「細菌性慢性鼻炎」(粘性鼻汁)⇔しばしば合併「慢性副鼻腔炎」(慢性鼻汁)

・アレルギー性:風邪を契機に発症→鼻アレルギー(水様性鼻汁)⇔1/3は合併「細菌性慢性鼻炎」(粘性鼻汁)

★鼻炎の原因は主に二つ。細菌性とアレルギー性!

1.急性鼻炎

1)概念:鼻粘膜の急性炎症。風邪ウィルス感染をきっかけとした、細菌の二次感染が多い。

★鼻粘膜の急性炎症は細菌の二次感染が多い!

2)症状

・鼻粘膜に分布する三叉神経刺激→くしゃみ

・鼻粘膜肥厚による鼻腔狭小→鼻閉

・鼻粘膜透過性大→鼻漏(血液成分が血管外へ染み出す)

※鼻粘膜の異物付着はクシャミとなり、気管(支)粘膜付着では咳となる。

★鼻炎から来る症状は、くしゃみ、鼻閉、鼻漏!

3)経過:大部分は間もなく自然治癒。慢性鼻炎に移行することもある。

★急性鼻炎のその後。自然治癒もしくは慢性鼻炎に移行!

2.慢性鼻炎

1)原因:物理的・化学的刺激・急性鼻炎による鼻粘膜への長期にわたる反復。誘因は、風邪・アトピー体質など。単純性と肥厚性に分けられる。

★慢性鼻炎は、急性鼻炎の反復。風邪やアトピー体質から!

2)分類

①慢性単純性鼻炎

 鼻腔粘膜組織は海綿体構造であり、鼻甲介は生理的に膨張収縮を繰り返しているが、本症は鼻腔粘膜に軽度の発赤腫脹が持続する状態。交代性鼻閉(側臥位で下側が鼻閉)。血管収縮剤(交感神経刺激剤アドレナリン)有効。

★慢性鼻炎は軽度に発赤腫脹が持続している。交感神経を優位にして血管を収縮させるのが吉!

②慢性肥厚性鼻炎

 鼻腔内の慢性鼻炎によって、鼻甲介とくに下鼻甲介が粘膜下結合組織増殖により肥厚した状態。恒常的な片側(両側も)鼻閉をきたす。血管収縮剤(点鼻薬)は即効性があるが、頻繁に使用することで効果は低下。

★肥厚性鼻炎による鼻閉に対して血管拡張剤は、頻繁に使用すると効果低下!

3)症状

①鼻閉、粘膜鼻漏、嗅覚減退

②頭痛、頭重

★慢性肥厚性鼻炎の症状は、鼻閉、粘膜鼻漏、嗅覚減退、頭痛、頭重!

3.慢性副鼻腔炎(蓄膿症)

 急性副鼻腔炎の繰り返しなどによる副鼻腔の慢性炎症。

1)副鼻腔とは

①前頭洞、上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞の4種ある。うち上顎洞が最大。

※大部分の副鼻腔の開口部は洞の下方にあるので、分泌物も溜まりにくい。しかし上顎洞は上方に開口部があり、分泌物や膿が貯留しやすい。

★副鼻腔は4つ。前頭洞、上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞!分泌が溜まりやすいのは上顎洞!

②鼻腔に接する頭蓋内の空洞で、開口部が鼻腔とつながる。

 ・上鼻道に開口:篩骨洞(後部)

 ・中鼻道に開口:上顎洞、前頭洞、篩骨洞(前部、中部)

 ・下鼻道に開口:鼻・涙管

 ・蝶形骨前洞窟に開口:蝶篩陥凹

★副鼻腔は、鼻腔の上・中・下道とつながる!

2)病態生理

 慢性鼻炎により鼻粘膜が充血、肥厚

  ↓

 副鼻腔開口部付近の粘膜も肥厚し、充血

  ↓

 副鼻腔開口部が閉鎖され、血流により副鼻腔は陰圧になり、貯留物を排泄できない。(本来は副鼻腔に溜まった分泌物は、生理的に外に排出される)

  ↓

 感染が起きる。

★慢性鼻炎から感染が起きる!

3)症状

 慢性副鼻腔炎時は、同時に慢性鼻炎も存在している。症状は慢性鼻炎に似ているが、膿性鼻漏が多量で、異臭があり、鼻周囲の圧痛出現する点が異なる。ときに鼻茸を合併。前頭洞の副鼻腔炎では攅竹付近、前額洞の副鼻腔炎では四白付近に重い感じがあり、押圧すると副鼻腔炎内圧上昇するとされ、鈍痛憎悪する。

★前頭洞の副鼻腔炎は攅竹、前額洞の副鼻腔炎は四白に圧鈍痛!

4)鼻茸(はなたけ)

 鼻の中にポリープという瘤のようなもの(鼻ポリープ)が生じたもの。副鼻腔炎に合併。副鼻腔炎で膿が流出する時、副鼻腔出口の粘膜も押し出されて水ぶくれ状態になり浮腫を生ずる。これが繰り返され、粘膜の一部が浮腫→腫瘤になる。鼻閉が生ずる。手術で摘出するのは容易だが、再発しやすい。

★鼻茸は手術しても再発しやすい!

5)治療

 抗生物質、上顎洞洗浄、ネオライザー(抗生物質を噴霧状にして鼻から送る)。しかしどれも根本的治療法に乏しい。

R/0 上顎癌:50才以上で鼻の癌では上顎癌が最多。その7~8割は慢性副鼻腔炎をもっている。血性鼻汁となる。

新しい治療:マクロライド療法

 通常の抗生物とは異なり、細菌タンパク質合成を阻害し増殖を抑える静菌作用や抗炎症作用が主な使用目的。少量の長期間服用を行う。これにはマクロライド系抗生物質の本来の働きである静菌作用の他に、鼻汁を抑えたり、排膿に必要な線毛運動機能を改善し、炎症を起こす物質の分泌を抑える働きがある。

※マクロライド療法は、細菌が増殖している急性期の状態にはまったく効果は期待できない、と唱える医師もいる。

★マクロライドは細菌増殖している状態にはまったく効果は期待できない!

4.鼻アレルギー(旧称:アレルギー性鼻炎)・花粉症について

1)免疫について

 細菌やウイルスから、体を守ってる防御システムのこと。人間の体には太古の昔から、病原体となる細菌その他の異物に対抗してきた。ある細胞が異物を認識すると。それに対応した免疫グロブリンというタンパク質ができて、それが免疫抗体として異物を抑え込み、体外に排泄してしまおうとする。なお免疫は英語でイグノというので、Igと略記する。Igにはいくつかの種類があるが、アレルギー反応に密接に関与するのはIgE抗体である。IgE抗体は、細胞の表面に付着し、そこで異物侵入に対処しようと待機している。そこにIgE抗原が侵入すると、IgE抗体は割れて中にあるヒスタミンが飛び出してくる。このヒスタミンが鼻アレルギー・蕁麻疹・気管支喘息などを引き起こす。これらIgEアレルギーは急速に起こる特徴がある。なおIgEアレルギー反応をⅠ型反応ともよぶ。

★免疫(Ig)にはいくつかの種類があって、アレルギー反応に関与するのはIgE抗体!

2)花粉症の機序

 花粉症とは、植物の花粉が原因で生じる季節性アレルギー性疾患の総称。主な症状は、アレルギー性鼻炎やレルギー性結膜炎。皮膚症状が出ることもある。

その機序は、まず花粉が鼻の中に入ると、花粉の外側についているアレルゲンが鼻粘膜に付着する。鼻の粘膜中の水分に触れると、花粉は殻を割って中身の胞子が飛び出す。胞子からはIgE抗原を出すことで、アレルギー反応として鼻粘膜に、くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどの強い症状を引き出す。

 花粉が割れるという現象は、実は花粉が受粉するときに必要な仕組み。花粉が鼻粘膜中の水分を雌しべだと勘違いして割れてしまう。

★花粉が鼻粘膜中の水分を雌しべだと勘違いしてしまう!

3)花粉症の症状

①反復性くしゃみ・多量の水様性鼻汁・鼻閉(発作時)

※ヒスタミンの作用

 分泌腺に作用:分泌過多(鼻腺分泌は副交感神経優位支配)

 神経に作用 :かゆみ、くしゃみ(鼻粘膜に分布する三叉神経刺激による)

★花粉が分泌腺に作用すれば鼻水過多、神経(三叉神経)に作用すればかゆみ、くしゃみ!

②鼻アレルギー者の1/3に、副鼻腔炎が合併

★鼻アレルギー者の1/3に副鼻腔炎が合併!

4)花粉症の治療

原因物質の回避が最重要であるということで、スギ花粉を鼻の中に入れないための対策としてマスクをしたり、鼻中に入った花粉を洗い流すために鼻うがいをしたり、アレルギー反応を弱める薬(抗ヒスタミン剤など)を飲むなどの対策が長年行われてきたが、どれも不完全。

★花粉症治療に完全なものはない!

①薬物療法

 数年前からは噴霧用ステロイド「ナゾネックス」が使われている。鼻粘膜でしか作用せず、肝臓ですみやかに代謝されるので、従来の経口ステロイド剤のような副作用は起きにくい。

 鼻水とくしゃみは、従来から抗ヒスタミン薬(メキタン、アレジオンなど)の内服治療が行われていた。この副作用としては喉がカラカラに乾燥することと眠気。これを起こりにくくしたのが、次世代の抗ヒスタミン剤であるアレグラ。アレグラで効かない重症花粉症にはザイザル(ヒスタミンH1受容体拮抗作用)を使用。ザイザルは一応眠くならない薬の範疇に入るが、アレグラと比べると非常に眠くなる。これで不十分ならステロイドを使用する。

  アレンジオン→アレグラ→ザイザル→ステロイド

★アレグラは副作用が起きにくい!

※抗ヒスタミン薬H1とH2

ヒスタミンの作用を特異的に遮断する薬を抗ヒスタミン剤とよぶ。これにはH1ブロッカーとH2ブロッカーがある。とくにH1ブロッカーのことを抗ヒスタミン薬とよぶことが多い。抗ヒスタミン薬は、種々のアレルギー性疾患(蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、花粉症、結膜炎)、痒みの緩和や酔い止め(副作用としての眠けを利用)などによく使われている。

 ヒスタミンは胃液成分を促進させる作用があるが、H2ブロッカーは、胃の壁に存在し胃酸分泌を促進するヒスタミンH2受容体に拮抗して、胃酸分泌を減らす作用がある。胃潰瘍・十二指腸潰瘍といった消化性潰瘍の治療に用いられる。

★H1ブロッカーはアレルギー性疾患、H2ブロッカーは胃潰瘍に!

②鼻腔内レーザー照射

 鼻の粘膜(下鼻甲介)にレーザー照射(約10分間)を行い、下鼻甲介の表面を焼灼し瘢痕化するという鼻粘膜局所の対症療法。肥厚性鼻炎と鼻アレルギーに適応があり。ほぼ1回の照射で治療修了する。治療効果は3ヵ月~2年続く。鼻粘膜全体を焼灼することは不可能なので、効果不十分の者も出てくる。治療に痛みを伴なうのも欠点。

★鼻腔内レーザー照射は粘膜全体を焼灼することは不可能!

③舌下免疫療法

 アレルゲン免疫療法(減感作療法)の一種で、アレルギーの原因物質(アレルゲン)を少しずつ体内に吸収させ、アレルギー反応を弱めていく治療法。花粉症の原因物質(スギ花粉の抗原希釈液を含ませたパン片)を経口で毎日投与することからスタートし、徐々に濃度を増やして服用間隔を延ばしていく。これを2年間行うとわずかに効果のあった者まで含めると7割の者に症状改善がみられた。

 平成26年4月からは保険認可になり、1ヵ月3千円程度で受けられる。今のとことスギ花粉しか適応がない。

★舌下免疫療法は2年間かけて行い、症状改善がみられた者は7割!

4.鼻孔付近へのワセリン塗布

 ワセリンは天然成分である石油を精製して作られた保湿剤(精製する際に不純物はほとんど取り除かれている)。肌に油膜を作り、肌からの水分蒸発を防ぐため、顔や体の保湿ケアに用いられることが多く。

 花粉症予防として、鼻粘膜に進入してきた花粉を鼻粘膜中の水分に触れさせないことを目的に使用される。鼻の症状を抑えることにより目の炎症(神経反射)も治まることも知られていて鼻バリアをすれば目のかゆみ症状も軽減される可能性が高いと考えられる。イギリスでは多く使用されているとのこと。

★花粉症予防にワセリン塗布もよい!

〇鼻閉・鼻汁

 鼻腔に病的変化が起き、鼻腔が狭くなることでその通気性が低下。 それに伴い、生理的な鼻呼吸ができなくなり、鼻閉(鼻づまり)となる 。 鼻閉により口呼吸が常態化すると、人体の生理機能に様々な悪影響(ウィルス感染しやくすなる、虫歯、歯周病、口臭、ほうれい線や口元のたるみ、睡眠時無呼吸、歯並びが悪くなるなど)を及ばす。

 鼻閉・鼻汁の診断手順

 ・血性鼻汁→進行性:癌(医療受診)

 ・粘性鼻汁→頻回の膿性鼻汁、鼻周囲鈍重、鼻茸→なし:慢性鼻炎

                       →あり:慢性副鼻腔炎

 ・水様性鼻汁、くしゃみ→鼻アレルギー

★血性鼻汁は癌の可能性あり!

第2項 鼻炎・副鼻腔炎・花粉症の鍼灸治療

 慢性鼻炎があれば慢性副鼻腔炎も存在。両者の共通症状は、鼻汁(粘性~黄色粘性)と鼻閉。ただし慢性副鼻腔炎では前頭部鈍痛や頬部鈍痛を訴えるの対し、慢性鼻炎では、これらの訴えは少ない。

 鼻炎と副鼻腔炎の治療は、鍼灸では治療は同様に行う。鼻炎と副鼻腔炎とは、鼻粘膜に連続性があり、支配神経も同一であることによる。施灸治療を中心に、半月~2ヵ月の反復刺激(自宅施灸)を与えて効果が生まれる。

★鼻炎と副鼻腔炎の鍼灸治療は同じ!

1.鼻周囲の神経刺激

 鼻腔と副鼻腔は三叉神経第1枝と第2枝により支配される。これらの神経を刺激すれば、鼻交感神経を緊張させ、血管収縮を引き起こすので、鼻閉や鼻汁に対しても効果がある。

★鼻腔と副鼻腔の支配神経は三叉神経第1と第2。これらの神経を刺激し、鼻の交感神経を緊張、血管を収縮させる!

1)三叉神経第1枝刺激

 上鼻甲介付近の炎症や腫脹では、三叉神経を介して頭重が起こる。慢性鼻炎や慢性副鼻腔炎の者は、前頭髪際付近に圧痛がみられるこが多く、圧痛があればこの圧痛点である顖会(しんえ・前髪際を入ること2寸)や上星(前髪際を入ること1寸)に長期的に透熱灸をする。

 これは三叉神経を刺激することで、鼻腔や副鼻腔に持続反復刺激を与えている。頭髪中に施灸するので、灸痕が目立たたないため、長期施灸を可能にする。施灸により長時間良好な状態を保つ間に、鼻粘膜の修復が行われ、施灸中止後も、症状は失状態を保つことが出来る。

 顖会:運動-なし。  知覚-眼窩上神経

 上星:運動-顔面神経。知覚-滑車上神経、上眼神経

 晴明:運動-なし。眼神経

 攅竹:運動-顔面神経。知覚-三叉神経(眼神経)-前頭神経→鼻網様体神経

 印堂:運動-顔面神経。知覚-三叉神経(眼神経)-前頭神経→鼻網様体神経

 挟鼻:運動-顔面神経。知覚-三叉神経(眼神経)-前頭神経→鼻網様体神経

 迎香:運動-顔面神経。知覚-上眼神経

★鼻炎・副鼻腔炎に上星や顖会に長期的に施灸!

①攅竹から睛明方向への水平刺

 刺鍼:眉毛内端を取穴、左右2本の鍼を用いる。ある程度刺入していくと鼻の刺鍼側に響く。深刺しすぎると針先は睛明に近付き、上眼窩内刺鍼と同様に皮下出血しやすいので要注意。

※印堂から鼻根方向に刺入しても同様の意味がある。ただし両側性に響かせるのは難しい。印堂には隔物灸も多用する。

★鼻炎・ 副鼻腔炎に攅竹から晴明に水平刺!

②挟鼻

 刺鍼:鼻翼の上方の陥凹部で鼻骨の外縁中央を取穴し直刺。この部に円皮鍼をするのも可。円皮鍼では安全性に問題がある場合、バイオネックスゼロ(クサビ型をした金属突起の圧迫刺激)でもOK。鼻部の皮脂分泌は人によって異なるので、1日で円皮鍼がずれてくる者もあれば、1週間程度もつ者もいる。外出時など恥ずかしいのであればマスク着用。

※鼻網様体神経:知覚神経で鼻背、鼻粘膜(嗅覚部を除く)、涙腺に分布。

 揮発成分を含むワサビを食べると鼻がツーンとし、涙が出るのは、鼻網様体神経による。

★鼻炎・副鼻腔炎に挟鼻穴刺鍼!

③上唇鼻翼挙筋マッサージ刺激

 患者の鼻梁の外縁を指頭でこすると、プチプチした感触が得られるので、何回か指頭でこすりつけるようにマッサージすると、次第にプチプチがなくなり、症状もとれてくる。このマッサージにより、鼻腔が開いて呼吸が楽になる。ただし持続効果に乏しい。上唇鼻翼筋遺体は顔面表情筋の一つ(顔面神経支配)だが、同部を知覚支配している鼻網様体神経を知迎することになり、涙分泌を増やすので眼精疲労にも効果的。

※上唇鼻翼筋

 起始:上顎骨の内眼角部

 停止:上唇と鼻翼の皮膚

 作用:上唇と鼻翼を上に引き上げる

 支配神経:顔面神経

★鼻梁外縁を指頭でマッサージ。鼻腔が開いて呼吸が楽に!

2)三叉神経第2枝(上顎神経)刺激

 迎香:上顎神経→下眼窩下神経→外鼻枝

 外鼻枝は、鼻前庭粘膜に分布するが、鼻腔には分布しない。そのため迎香刺激はキーゼルバッハ部からの鼻出血には効果的だが、鼻炎や副鼻腔炎に対する治療効果は少ない。

①迎香:鼻孔の外方5分。鼻翼の外側にできる皺中にとる。直刺。

※キーゼルバッハ部:鼻中隔の前下端部の粘膜の部位。静脈が集まっているところで鼻血の好発部位。

★迎香は鼻炎・副鼻腔炎には今一つ!

3)後頭神経刺激

 三叉神経線維は三叉神経脊髄路というルートを持っている。外部から入力された感覚は、三叉神経を経た後、三叉神経脊髄路を経由して、すなわち一度、第2頚髄の高まで下行してから、再び上行して脳に行く。

 三叉神経→三叉神経脊髄路→第2頚髄まで下行→大後頭神経と連絡→再び上行→脳

 下行時には大後頭神経と連絡しているので、大後頭神経と三叉神経の間に、密接な関係を生ずる。眼精疲労時には後頭部痛も生じやすいのはこの理由による。天柱に刺鍼すると、三叉神経刺激症状(特に第Ⅰ枝の眼神経)に影響を与える。大後頭神経が興奮して三叉神経症状を生じたものを、大後頭神経-三叉神経症候群とよび、ペインクリニックでの通称も天柱症候群とよばれる。鍼灸臨床では、眼精疲労、鼻閉に天柱刺鍼を用いることが多い。

★大後頭神経-三叉神経症候群から、眼精疲労・鼻閉には天柱刺鍼を用いる!

2.顔面関連痛をもたらす筋刺激

 副鼻腔炎では、顔面部に鈍痛などの症状を生じる。

 副鼻腔炎の鍼灸治療で、

①経験的にも項部と上顔面部を使い、治療効果をあげていること。

②急性副鼻腔炎患者に、座位で頚部前屈すると顔面痛憎悪する例があった者に、伏臥位で頚部前屈させても顔面痛憎悪がなかったこと。

③頬骨筋を収縮させた状態(イーッと歯を見せる)では、顔面部圧痛憎悪したこと。

等から憎悪した顔面症状は、後頚部筋(後頭下筋、頭半棘筋、頚半棘筋、頭板状筋、頬骨筋、咬筋など)のトリガー活性の結果かもしれない。後頚部や顔面部の筋刺激の有効性が示唆される。<山田智子(六ケ所村尾鮫診療所>:第3回プライマリケア連合学会>

★副鼻腔炎時の顔面症状は、後頚部筋のトリガーが活性した可能性あり!

3.嗅覚障害

 嗅覚は鼻の天蓋部分で感知して、嗅神経を通じて脳の球嗅球へと行き伝導される。

1)原因と治療

①中枢神経嗅覚障害

嗅覚路(においの伝わる伝導路)の障害により生じる嗅覚障害。 原因は頭部外傷による脳挫傷が最も多く、脳腫瘍、脳出血、脳梗塞など。

 自動車事故などで頭部外傷すると、嗅覚受容器と脳を連結している1対の脳神経である嗅神経の線維が、鼻腔の天井の位置で損傷したり切断されると嗅覚が失われる、永久的に嗅覚を失う原因で最も多い。加齢による嗅覚障害もこのタイプ。

★中枢性嗅覚障害で多いのが交通事故!

②末梢性嗅覚障害

 末梢性嗅覚障害には、嗅粘膜が障害される「嗅粘膜性」と嗅神経が障害される「末梢神経性」がある。

インフルエンザウィルスなどのウィルス感染によって嗅覚受容器が一時的に障害されることがあり、風邪にかかってから数日から数週間にわたって、においや味がわからなくなることがある。まれに、嗅覚や味覚の消失がそのまま一生続く人もいる。

★風邪ウィルスの感染から嗅覚障害が生ずることも!

③呼吸性嗅覚障害

 副鼻腔炎、鼻中隔湾曲など。臭いを感じる嗅細胞のある鼻腔天井部まで吸気が到達できないことによる。このタイプには、スチーム(蒸気)吸入、スプレー状点鼻薬、抗生物質などで治療。ステロイド薬の点鼻および服用は、唯一確立された嗅覚障害に対する薬物治療。長期投与に注意。

★唯一の確立された嗅覚障害に対する薬物治療はステロイド薬!

2)鍼灸治療 

 鍼灸治療が効果的かどうかは、原因により異なる。呼吸性嗅覚障害に対しては、鼻の通りを良くする施術をすることで、嗅細胞にまで臭気を届けさせることを目的とする。要するに鼻閉に対する治療と同じように考える。鼻粘膜は三叉神経第2枝(上顎神経)が知覚支配している。この神経を刺激することで、鼻甲介(海綿体構造体)の充血度合を減らし体積を減らすことで空気の通りを良くする。

 挟鼻穴、攅竹穴に刺鍼し、鼻粘膜に響かせるようにする。また恖会穴に有痕灸を施す。

★鍼灸は鼻の通りを良くし、嗅細胞に臭気を届けるようにする!

※アレルギー性鼻炎における体質改善の意味(ようこそ山口耳鼻咽喉科より)

 アレルギー性鼻炎の代表的な発症機序である、特定の異種タンパク(アレルゲン)に対して抗体が作られ自己の免疫系が過剰反応して症状が出現するⅠ型アレルギーに限定していえば、現在の医療では抗体自体を直接減らす治療法はない。ただしアレルギーの発現に関しては、たとえ同じ抗体の量、同じ粘膜の状態でも自律神経に調節される体調によって症状の出方に大きな違いがある。

 鍼治療や星状神経節ブロックは、原則的には治療中のアレルギー反応を起こりにくくしたり自律神経失調を改善するもので、直接的な持続効果はないが、治療をある程度続ければ、治療中にアレルギー反応は抑えられることから徐々に粘膜が正常してゆくため、その後しばらく症状が出現しにくくなる。

例:1週間、外来処置や薬物治療すれば→直接アレルギー反応が抑えられるので、その間は調子がいい。

  2ヵ月、外来処置や薬物治療すれば→粘膜が正常化してゆくので、治療後もしばらくは調子がいい。

★現在、Ⅰ型アレルギーの抗体自体を直接減らす治療法はないが、自律神経を調節すれば症状は軽減される!

4.鼻出血と応急処置

 鼻出血の98%は、キーゼルバッハ部位(鼻中隔 前下部で、外鼻孔から1cm奥)から起こる。この部からの鼻出血が多い理由は、キーゼルバッハ部は血管に富むこと(毛細血管の集合体)と同時に、外力を受けやすい部だから。

 まれに鼻腔深部からも出血することがあり、耳鼻科的処置が必要になることがある。

 キーゼルバッハ部からの鼻出血の応急処置は、①椅子に腰かけさせ、下を向かせ(出血が喉の奥に流れないようする)、②次に前頭部にある髪の毛を2~3本引き抜くことで、粘膜に分布している三叉神経第1枝を刺激し、血管収縮させる。

★キーゼルバッハ部からの鼻出血の応急処置は、交感神経刺激!

第2節 咽頭の疾患

咽頭は、鼻腔から上咽頭、中咽頭、下咽頭、食道へと続く。

〇上気道

・鼻部:外鼻、鼻孔、副鼻腔

・咽頭:上咽頭(境界は軟口蓋)、中咽頭(境界は喉頭蓋)、下咽頭

・喉頭(C4~6棘突起間)

 男性ののどぼとけをつくる軟骨が甲状軟骨。甲状軟骨の下に輪状軟骨がある。甲状軟骨の上に喉頭蓋軟骨があり、喉頭蓋軟骨は喉頭蓋となり、咽頭と喉頭を境する。

★喉頭蓋軟骨によって咽頭(食道)と喉頭(気道)が分かれる!

〇下気道:気管、気管支

※舌骨はC3棘突起、喉頭蓋はC4棘突起の高さ、輪状軟骨はC6棘突起の高さ。

・食物道:口腔→中咽頭→下咽頭→食道

・呼吸道:鼻腔→上咽頭→中咽頭→喉頭→気管(気道)

★舌骨はC3棘突起、喉頭蓋はC4棘突起の高さ、輪状軟骨はC6棘突起の高さ!

・上咽頭

支配神経:三叉神経第2枝

症状:鼻~上顎の痛み

代表疾患:アデノイド、耳管狭窄(咽頭炎)

代表治療点:天柱

★上咽頭の代表疾患はアデノイド(扁桃炎)、咽頭炎。治療点は天柱!

・中咽頭

支配神経:舌咽神経

症状:舌根部~咽頭痛

代表疾患:扁桃炎(咽頭炎)

代表治療点:下耳痕(耳垂が頬部と付着している線の中央。聴会の下)

★中咽頭の代表疾患は扁桃炎、咽頭炎。治療点は下耳痕!

・下咽頭

支配神経:上後頭神経

症状:舌骨~喉の痛み(咽頭炎)

代表疾患

代表治療点:上喉頭神経内枝刺(洞刺、人迎)

★下咽頭の代表疾患は扁桃炎、咽頭炎。治療点は上後頭神経内枝刺!

・喉頭

支配神経:迷走神経

症状:咳嗽、嗄声

代表疾患:喉頭炎、反回神経麻痺

代表治療点:気管軟骨刺

※気管軟骨:

★喉頭の代表疾患は喉頭炎、反回神経麻痺。治療点は気管軟骨!

第1項 扁桃・咽頭の代表疾患

扁桃はのどにあるリンパ組織で、ウィルスや細菌などが体に侵入しないよう防御する役割をもつ。

1.嚥下困難の鑑別診断 ※「扁桃腺炎」は誤り

 鍼灸で適応なのは、痛みによる嚥下困難(舌咽神経興奮)であり、扁桃炎がその代表。嚥下困難の中には、「食物がつっかえる」ものがあり、食道の器質的疾患と心因性、老化および脳障害、神経変性による場合がある。

 嚥下困難-嚥下時痛による:扁桃炎

     -食物がつかえる-食道の器質的疾患(アラカシア、食道癌、食道憩室)

             -咽頭狭窄感(ヒステリー球)

     -老化による嚥下のための筋力低下・分泌低下

     -脳障害、神経変性によるもの

※アカラシア:食道から胃への食物の流れがスムーズに行われなくなってしまう病気。食道噴門のアウエルバッハ神経叢が欠落し、蠕動運動が円滑にいかない。大腸に生じたアウエルバッハ神経叢欠落は、巨大結腸症となる。

※巨大結腸症:結腸の蠕動運動が正常に行われず、腸が大きく膨らむ病気。

★扁桃炎に伴う嚥下困難には嚥下痛が伴なう!

2.急性扁桃炎

急性扁桃炎とは、中咽頭の一部である口蓋扁桃に急性炎症が生じた状態。

1)扁桃とは

 咽頭にはいくつかのリンパ組織の集合体がある。呼吸道・消化道入口として、咽頭を輪状に取り巻き、細菌やウィルスの体内への侵入を防いでいる。咽頭扁桃、耳管扁桃、口蓋扁桃、舌扁桃があり、これらのリンパ組織を総称してワルダイエルの咽頭輪とよぶ。

12時:咽頭扁桃(=アデノイド) 2時・10時:耳管扁桃

4時・8時:口蓋扁桃←目視できる  6時・舌(根)扁桃。

※アデノイド:咽頭扁桃のこと。しかしわが国では習慣的に咽頭扁桃肥大のことをアデノイドと呼んでいる。

★ワルダイエルの咽頭輪→咽頭扁桃、耳管扁桃、口蓋扁桃、舌扁桃!

2)原因:多くは感冒による免疫低下時、細菌の二次感染。

★扁桃炎原因の多くは感冒による免疫低下!

3)症状:高熱(39℃以上)、嚥下痛時(唾液を呑み込む際の咽頭痛←舌咽神経痛による)

  所見:開口して口蓋扁桃肥大と発赤をみる。

     顎下リンパ節腫脹(細菌の二次感染の所見)し、押圧で痛みを感じる。

  R/O 急性咽頭炎

 急性咽頭炎では微熱であり、扁桃炎のような高熱は起きない。また咽頭炎では咽頭痛はあるが、唾液を呑み込む際の嚥下痛はない。

★咽頭炎は微熱、扁桃炎は高熱!

4)治療:消化剤塗布、トローチ、抗生物質服用

5)合併症:急性中耳炎、急性糸球体腎炎、リウマチ熱

★扁桃炎の合併症は中耳炎、急性糸球体腎炎、リウマチ熱!

※扁桃周囲炎が周囲に波及したものを扁桃周囲炎、それが腫瘍を形成したものを扁桃周囲膿瘍とよぶ。高熱を発し、自発痛、嚥下痛が著しく、しばしば開口困難をきたす。治療は抗生物質を十分に投与。場合のよっては開排膿する。

★扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍の治療は十分な抗生物質、場合によっては開排膿!

3.慢性扁桃炎

1)原因:急性扁桃炎の反復や体質。

★慢性扁桃炎の原因は急性炎扁桃炎の反復や体質!

2)症状:平素は咽頭の自覚症状は少ないが、急性扁桃炎を反復しやすい。

  所見 :前口蓋弓(口を開けたときに見えるのどのヒダ)に限局性発赤があり、扁桃表面は肥厚し、凹凸が著しい。

★慢性扁桃炎があると急性扁桃炎を反復しやすい!

3)病巣感染とは

 慢性扁桃が原因となり、遠隔臓器に疾患を生じることがある。→腎炎、関節炎、心内膜炎、掌蹠膿疱症など(アレルギーⅢ型反応)

※掌蹠膿疱症:手掌や足裏に小さな膿疱が多数できる。扁桃炎などの細菌感染に続いておこったアレルギー。掻痒感はない。水虫との鑑別を要する。治療はステロイド外用薬のほかに扁桃炎の治療を行う。

★慢性扁桃炎(病巣)から生じる疾患に、腎炎、関節炎、心内膜炎、掌蹠膿疱症などがある!

第2項 扁桃痛・咽頭痛の鍼灸治療

1.洞刺

 人迎穴部に頚動脈洞があり、その血管壁刺鍼を、代田文誌氏は洞刺(頚動脈洞刺鍼の略)あるいは人迎洞刺と名付けた。頚動脈洞部を指頭で押圧すると血圧脈拍数が減る現象が起こる。これをツェルマックへ―リング反射(舌咽神経-迷走神経反射)とよぶ。

 へ―リング反射と同意義を持つものにアシュネル反射(眼球を強く圧迫)があり、アシュネル反射もまた脈拍数・血圧低下の有無を調べる。へ―リング反射やアシュネル反射(三叉神経-迷走神経反射)は、自律神経不安定症の状況を調べる際に使用する。とくに起立性低血圧の診察で用いる(アシュネル反射が起きれば陽性)。アシュネル反射は、副交感神経の迷走神経が刺激される→緊張緩和→血圧と心拍数が下がるという用い方もあるとされる。

★へ―リング反射、アシュネル反射の遠心路はともに迷走神経!

1)洞刺の術式

①仰臥位。枕をはずし首をやや後に反らす。

②頚動脈最大拍動部を発見する。後頭隆起の上縁の外側で、胸鎖乳突筋の内縁で、最も強く拍動を手に触れる処。

③この部に寸3#3程度の鍼で0.5~1.5cm。少しずつ直刺していき針先を頚動脈上縁に当てる。鍼柄から手を離した時、鍼体が脈拍と同調振動すれば当たったことを意味する。

★洞刺の際、頚動脈上に当たったかは、縁鍼体が脈拍の同調振動によって確認!

2)洞刺の作用機序と適応症

 洞刺は今から約50年前に代田文誌氏が創案したものだが、今日の薬物療法の進歩により、残念ながらその臨床的価値は低くなったといわざるを得ない。

①圧受容体刺激による血圧降下作用 

 頚動脈洞には血圧上昇を感知する圧受容器がある。

★洞刺は頚動脈洞にある血圧上昇感知受容力を利用した方法!

 血圧上昇時に伴う頚動脈血管の拡張→(舌咽神経)→延髄の血管運動→(迷走神経)→血管拡張による降圧

極端に降圧する恐れがあるので高血圧に対する場合7秒置鍼に留め、また両側同時に実施しないこと。昭和20年代頃までは降圧剤がなかったので、洞刺による降圧は有力な治療だった。現在では、廉価な降圧剤があるので、洞刺は顧みられなくなった。

★洞刺は降圧剤の登場により現在ではあまり行われない!

②化学受容体刺激による気管支拡張作用

 気管支喘息発作時に洞刺を行えば、瞬時に喘鳴が改善して呼吸が楽になると代田文誌氏は記し、多くの臨床発表をしている。この機序は不明であるが、次のように考えることができる(似田先生)。

 頚動脈小体は、血中酸素分圧の低下を感知する化学受容体。

 頚動脈小体が酸素部低下をキャッチ→(舌咽神経)→延髄の呼吸中枢→(迷走神経)→気管支拡張

 鍼で頚動脈洞を刺激すると舌咽神経を刺激するが、これを中枢では頚動脈小体からの信号であると誤認するので、呼吸中枢は血中酸素濃度を増やそうと迷走神経に気管支拡張命令を送るのではなかろうか? しかし発作時に鍼灸院に来院するのは困難。

 また現在の気管支喘息の治療は、発作を止めるのではなく、発作に至らないように処置することが主流。一方、入院レベルにある気管支喘息に対する洞刺の機会は、限られたものになっている。

★気管支喘息(血中酸素濃度低下)→洞刺→頚動脈小体→舌咽神経→脳(呼吸中枢)→迷走神経→気管支拡張!

③舌咽神経の鎮痛

 舌咽神経は、舌根部~咽頭、外耳道、鼓膜を知覚支配しているので、洞刺によりこれらに鎮痛効果をもたらす。その典型は扁桃炎時だであろう。速効しない場合、人迎部に3mm皮内鍼を皮下に斜刺し固定すると、おおむね24時間以内に鎮痛効果が得られるという。

(渡辺実:扁桃炎・口内炎の簡易療法、医道の日本 昭和58.8)

★洞刺は舌咽神経興奮(咽頭炎や扁桃炎)時に鎮痛効果あり。皮内鍼もよい!

④咳嗽、胆石疝痛の鎮静

 頚動脈洞には迷走神経が分布している。咳嗽や胆石疝痛は迷走神経過剰興奮なので、迷走神経の過敏を緩和させれば、これらの症状は治まる。

★洞刺は、迷走神経走行部疾患に働きかけるため、咳嗽、胆石疝痛に効果が期待できる!

2-1.口蓋扁桃刺(郡山七二「鍼灸臨床治法録」)

1)意義:口蓋扁桃周囲の静脈鬱血の改善?

2)術式:坐位。成人男子では2寸#5を使用。下顎角(エラ)の下から後上方に向かって、(すなわち腫れた口蓋扁桃を狙って)2.5cm刺入。局所に響かせる。角度を間違えると鍼響は舌先や舌根部周囲に来るが、その場合はやり直しする。

2-2.顎下リンパ節刺鍼(森修太郎「はり入門」)

1)意義:リンパ鬱滞の改善。

2)術式:顎下リンパ節に対し刺鍼(口蓋扁桃刺とほぼ同じ)。同書に、合谷、太衝を合わせて単刺もしくは置鍼せよとある。 

★口蓋扁桃刺が成功すれば局所に響き!目的は口蓋扁桃周囲の静脈鬱血の改善!

3)効果:急性扁桃炎には1回の施術で嚥下痛は解消する。慢性痛で扁桃肥大したものでも、少々気長に治療継続すれば縮小する。

★急性扁桃炎は1回、慢性扁桃炎は気長に。どちらも効果が望める!

3.治喘

1)意義:頭蓋骨機関全般の交感神経は、交感神経の上頚神経節から出発する。この上頚神経節と結ばれる体性神経はT1脊髄神経なので、大椎付近の刺激は、頚部交感神経節としての意義をもつ。

★治喘刺鍼→上頚神経節(体性神経)→頚部交感神経節刺激!

2)取穴:坐位。大椎(C7T1棘突起間)外側5分。

3)刺鍼:3~5番芯を6分~1寸刺入する。すると咽頭の方響くことが多い。

 ※中国では脊柱に沿って斜め下方に4~5cm刺入する。

★大椎刺鍼は治喘刺鍼と同じ機序と思われる!

4)効果:治療直後から喉の痛みが軽減したり解熱したりすることがある。

★大椎、治喘ともに速効性もある!

😊どんなに気をつけていても風邪を引くときは引く。という気もしますが、本当にそうか?本当のところ「どんなに気をつけようとしても、気をつけ切れるものではない」ではないでしょうか?速効性のある治療はありがたいものではあります。しかし見直し、改善すべき生活習慣が元のままであれば、発症を繰り返すことになるでしょう。やはり予防養生があってこその治療ということになります。

4.下耳痕穴刺鍼による舌咽神経刺激

1)意義:中咽頭知覚(舌根~扁桃)を支配する舌咽神経の直接刺激

2)似田先生は神経ブロックで用いられる刺鍼点である翳風を、鍼灸鍼で行ってもうまく響かせることは難しいことを経験から理解。そこで頬面の耳垂付着部後部の中点「下耳痕穴」を刺入点とし、直刺2cmする方法を考案。鍼は側頭骨茎状突起の前を通過する。耳奥に放散痛を得ること。

★耳痕、下耳痕は側頭骨茎状突起の前。中咽頭炎に!

舌咽神経の枝の鼓室神経は、鼓膜知覚も支配しているので、中耳痛にも適応がある。鍼灸臨床例では、難聴・耳鳴りに対し、この部に20分間以上置鍼する方法も用いられる。

 下耳痕穴から深刺すると鼓室神経刺激になるが、直刺浅刺すると顔面神経幹に当たる。これは顔面神経麻痺の治療に用いる。鍼が顔面神経に命中したか否かは、パルスをつないで顔面が攣縮することで確認できる。鍼響きは生じない。

※顔面神経:表情筋、味覚、顎下腺、舌下腺、涙腺を支配。

★下耳痕は深刺(2cm)で鼓室神経(舌咽神経)、浅刺で顔面神経!

5.合谷多数浅刺(柳谷素霊「秘伝一本鍼」)

1)方法

 取穴:直径1寸3分位の丸竹を患側に握らせた状態で、第1中手骨と第2中手骨の底間の硬結下際部に合谷をとる。

 体位:正座させ、両手を膝上大腿部に置き、腹部に力を入れさせ、健側の手も強く握らせ、かつ全身に力を入れるように指示する。

 刺鍼:寸3#2を使用。鍼先をやや上方硬結様横絡の下縁に入れるように傾斜させて刺入。刺鍼度は1分くらい、深くとも2~3分以内。細刺術。すなわち反復的に皮膚に刺鍼、そして直ちに入れ直す。皮膚が発赤するまで行う。

 鍼響:鍼先が皮膚に触れて直ちに鍼響が上腕の方に感痛することがあれば、それ以上深く刺さない。そうならない場合、徐々に刺すか、抜いてやり直す。鍼響が前腕に響くか、またはさらに上腕に上り、咽喉に達すれば成功。喉に至らなくても、反復刺鍼し、穴部が赤潮したり、軽く血が滲むようになれば、喉病患は軽減する。ことに扁桃炎に効あり。

※似田先生の見解

 合谷部の浅部筋となる第1背側骨間筋は正中神経、深部筋の母指内転筋は、尺骨神経支配。しかし合谷部皮膚は、特異的に橈骨神経皮枝の知覚支配である。合谷部皮膚刺激する治療として有名なのが、面疔に対する合谷多数球(桜井戸の灸)なので、皮膚刺激と筋刺激の効能は分けて考えるべきだろう。

・合谷:(浅部)第1背側骨間筋→正中神経

    (深部)母指内転筋  →尺骨神経

    (皮膚)       →橈骨神経皮枝

★合谷と肩髃は共に大腸経、顔面部の血流を促進させる効果あり!

6.上喉頭神経内枝ブロック刺

1)意義:下咽頭知覚(舌骨~喉)を支配する上喉頭神経知覚枝を直接刺激する。

※上部喉頭神経が興奮すれば喉頭異物感が出現する。

★喉頭の違和感には上喉頭神経内枝ブロック刺(人迎刺)!

2)術式

①甲状軟骨と舌骨の間隙の外方で、舌骨の大角の直下(=人迎)を刺入点とする。

 舌骨の大角の直下には甲状舌骨膜に孔が開いており、上喉頭動脈と上喉頭神経内枝が貫通している。

②ここより内方やや前方に刺入し、耳に放散痛が得られる部を探して2cm刺鍼する。

★喉頭の違和感に対して人迎刺を行う。刺入深度は2cm!

第3項 咽喉異状感症(咽頭神経症)と鍼灸治療

1.咽喉異状感症の特徴的症状

 咽頭異物感では、まず咽頭神経症(ヒステリー球、梅核気)を思い浮かべるが、以下の疾患を除外する。

※咽喉神経症(ヒステリー球、梅核気)

:器質的障害がないにも関わらず喉の奥に何かが当たっているような感覚のこと。

★咽頭異物感はまずヒステリー球(梅核気)を考える!

R/O 食道癌:「食べた物が下に入っていかない」と訴える。

R/O 喉頭癌:嗄声が初期症状。進行すると呼吸困難出現。

 器質的な異常が見つからない場合、気管神経症(心臓神経症、血管運動神経症、胃腸神経症などと同類)と断定されてしまうので、患者本人は苦悩する。咽頭神経症は、かつてはヒステリーの重要症状とされていたが現在は否定されている。咽喉異状感症の特徴は次のようである。

※神経症とは、痛みや違和感などの症状があるにもかかわらず、検査などでは異常が認められず特定の身体疾患と診断できないもの。こころの病とされる。

※血管を拡張や収集させる神経(自律神経)の障害をいい、血圧低下、頻脈、脈圧の縮小、皮膚の紅潮、呼吸困難、視力低下等がみられる。

★喉頭癌の初期症状には咽喉異物感、嗄声がある!

・食事摂取時には問題ない

・唾を呑み込む時は気になる

・痛みではなく、何かがつかえている感じ(患者自身、癌を心配している)

・数ヵ月~数年の期間で症状の悪化はない。(症状の悪化あれば他の疾患を考える)

・耳鼻科的検査で異常が認められない

★咽喉異状感症は、ほぼ症状の悪化はない(器質的疾患ではないため)!

2.嚥下のメカニズム

 嚥下は、主に舌の運動により食べ物を口腔から咽頭に送る「口腔期」、嚥下反射により食べ物を咽頭から食道に送る「咽頭期」、食道の蠕動運動により胃まで運ぶ「食道期」という一連の動作をいう。この中心は飲み込む動作である咽頭期になる。

〇咽頭期

①軟口蓋が挙上され、食塊の鼻腔への逆流を防ぐ。

②口蓋底や咽頭、喉頭が挙上され、喉頭蓋が下降し喉頭口を閉鎖。食塊が気管に侵入するのを防ぎ、食道へ通路を開く。

③咽頭収縮筋の収縮により食塊を食道へと送り込む。

★嚥下は口腔期、咽頭期、食道期に分類させる!

 非飲食時、食道口は括約筋により閉鎖されていて、口鼻から吸入した空気は気道に入ることで呼吸運動を行っている。しかし飲食時は口から入った食塊は咽頭に送り込まれ、喉頭蓋部で一部溜められる。次に自らの意志で飲み込む動作(舌骨上筋群の収縮により舌骨を挙上させる)を行うことで喉頭蓋が下がり、喉頭口は塞がれ、食塊は食道へと送り込まれる。

 飲み込み動作は舌骨の挙上を伴ない、舌骨の挙上は舌骨上筋群の収縮によるというのが重要。

★舌骨上筋収縮による舌骨挙上によって、物を飲み込む動作は行われる!

3.鍼灸治療と手技療法

 耳鼻科での検査で異常がみつからない咽喉狭窄感というのは、実は咽喉に異常があるのではなく、前頚部の筋緊張がもたらした自覚症状の可能性がある。この構想をもとに前頚部筋を緩める方法が整体的方法としていろいろ考察されている。具体的には舌骨上筋群・胸鎖乳突筋・広頚筋などの緊張を緩める。鍼灸では緊張部を押圧する代わりに刺鍼する。

★咽喉狭窄感の正体は前頚部の筋緊張の疑いあり。同部の筋を緩めるべし!

1)舌骨(=上廉泉)刺鍼 

 上廉泉:廉泉の上。廉泉は、喉頭隆起上際で舌骨との間。

 舌骨刺鍼は舌骨上筋刺激になる。舌骨筋緊張すると舌骨が挙上する。なお舌の根元は、咽喉奥にあるのではなく、下顎骨の後縁になる。

★咽喉狭窄感には上廉泉!

①舌根刺鍼は、舌扁桃刺激にもなり、舌下腺刺激にもなる。舌扁桃痛軽減や唾液分泌を促進させる意味もある。

②この部は舌咽神経神経支配が知覚支配しており、刺鍼すると舌根や咽喉に鍼響を与える。 

※唾液分泌が低下する原因には、不安・緊張(交感神経優位)・シェーグレン症候群・唾液腺障害・脱水・肝硬変・糖尿病などや服用薬剤(抗精神薬や降圧剤など)の副作用などがある。 また糖尿病や肝硬変などの合併症によるものもある。

★上廉泉刺鍼は、舌扁桃痛軽減や唾液分泌を促進させる!

2)舌骨上筋・広頚筋のストレッチ手技

①仰臥位。前頚上部の胸鎖乳突筋そして胸鎖乳突筋の内縁部を術者左手の母指以外の4指で軽く押圧する。

②その状態のまま右手の指先で顎下部を軽く押圧する。

③左手で前頚部の筋や皮膚を動きづらくしているので、右手指で額下部を押圧しても指はあまり沈まないが、そこを強めに押圧することで舌骨上筋をストレッチさせ、コリを軽くすることができる。本法は事実上皮下筋膜ストレッチ法でもある。

※単に、当該部位をマッサージしたりストレッチするだけでも良い。

★マッサージやストレッチは、まずはやることが大事!

3)胸鎖乳突筋のストレッチ手技

 本法は、Ⅰb抑制を使った筋緊張緩和手技に相当する。

①椅坐位で、頚の過伸展位をとらせ胸鎖乳突筋を伸張させる。

②その姿勢のまま患者自身(または術者)の両手をザビエルの肖像画のように胸元で交叉させ、左右母指で胸鎖乳突筋の起始部である鎖骨と胸骨部を順に軽く押圧する。

③過伸展位にした頚を左右に回旋することで、さらに胸鎖乳突筋を伸張させる。

④次第に胸鎖乳突筋の緊張が緩んでくるにつれ、喉の狭窄感も軽減する。

※Ⅰb抑制:筋が収縮(緊張)すると筋とつながる腱には伸張ストレスがかかる。そのストレス情報を中枢に伝える神経がⅠb求心性神経。Ⅰb求心性神経によって情報は中枢を経由して遠心性に筋に働きかけ、緊張していた筋の緊張が緩む。Ⅰb抑制とは、筋の緊張度を適度に保つために身体に備わっている機能。伸張させた筋に圧をかけることで筋はさらに伸張し、Ⅰb抑制のメカニズムが働く。

★治癒率を高めるために、いろいろな手技を使おう!

3)広頚筋ストレッチ手技

 下顎骨の下縁から、上胸部にわたる頚部の広い範囲の皮筋。首の表面のシワに関連する筋膜を緊張させ、口角を下方に引く働きをもつ。

 坐位で、口角を横に広げつつ下方に引き、前頚部に縦シワをつくるようにする。この動作を何回か繰り返す。

★広頚筋のセルフストレッチも咽喉狭窄感には有効!

第3節 喉頭の疾患

第1項 喉頭の構造と機能

喉頭は、いわゆる「のどぼとけ」のところにあって気管と 咽頭 をつないでいて、喉頭蓋基部~輪状軟骨の範囲をいい、ほぼ下咽頭の前方にある。 喉頭は気道の一部であり、喉頭では、鼻や口から取り込まれた空気は気管へ、飲食物は食道へと振り分けられる。 喉頭には左右一対の 声帯がある 喉頭症状とは咳と嗄声で、咳が出る代表疾患は喉頭炎、嗄声になる代表疾患は反回神経麻痺である。

★喉頭症状は咳(喉頭炎)と嗄声(反回神経麻痺)!

1.喉頭壁をつくる軟骨の機能

 喉頭壁をつくるのは舌骨と次の軟骨である。

①舌骨と喉頭蓋軟骨

 舌骨上筋収縮で舌骨挙上すると喉頭蓋が下に折れ飲み込みが起こる。

②甲状軟骨と輪状軟骨

 輪状軟骨は甲状軟骨と関節をつくる。これを支点に甲状軟骨が上下に傾く構造。

 輪状甲状筋収縮→甲状軟骨前下方に傾斜→内部の声帯やヒダ伸張→高い声。

 輪状甲状筋の起始は輪状軟骨、停止は甲状軟骨、上喉頭神経外枝の支配を受ける。本筋は鍼で直接刺激できる唯一の内後頭筋(発声に関与する筋)。一般に成人男性は女性に比べて、声帯ヒダが長いので低い声になる。

③披裂軟骨

輪状軟骨と関節を形成する三角状の軟骨。披裂筋収縮→左右披裂軟骨が回旋→声帯靭帯が伸張→高い声いなる披裂筋群は、すべて反回神経の支配。

★喉頭壁をつくるのは、舌骨、喉頭蓋軟骨、甲状軟骨、輪状軟膏、披裂軟骨!

2.発声

 喉頭腔の側壁には前後に走る上下2対のヒダがあり、上ヒダを室ヒダ(前庭ヒダ)、下ヒダを声帯ヒダとよぶ。1対の声帯ヒダの間の間隙を声門裂とよぶ。呼吸時には声門は完全に開いている。発声時には声門は閉じ、吐気流が声門振動させる。

※仮声帯:通常の声を出す時は、あまり働かない。その役割はあまり分かっていない。

★呼吸時には声門は完全に開いている。発声時、声門は完全に閉じる!

 息が、閉じた状態にある声帯の間を通過すると声帯が震え、声になる。声帯が閉じられていない場合には、息漏れした声(ささやき声)になる。

 喉頭腔は、声門上部・声門部・声門下部に分かれる。

 声門部は声帯上面から下方へ数mmの範囲をいう。声門上部には、仮声帯がある。

 声門下部は、輪状軟骨下縁に至る円錐形の部分をいう。

★発声時、声帯が閉じられないとささやき声になる!

3.喉頭の神経支配 

 喉頭粘膜知覚は、声門より上が上喉頭神経内枝、下が下喉頭神経が支配する。

 迷走神経-上喉頭神経-内枝(知覚枝):声門上の喉頭知覚、咳嗽反射

           -外枝(運動枝):輪状甲状筋(嗄声)

     -下喉頭神経(反回神経)-知覚枝:声門下の知覚

                 -運動枝:大部分の喉頭筋(嗄声、呼吸困難)

★喉頭の知覚・運動ともに迷走神経の分枝によって支配される!

第2項 咳嗽喀痰と喉頭の代表疾患

急性咳嗽喀痰(乾性・湿性)と慢性咳嗽喀痰(乾性・湿性)がある。

1.咳嗽、喀痰の鍼灸の適否

 咳は乾性咳(痰なし・コンコン)と保湿咳(痰を伴なう・ゴホンゴホン)に大別できる。一般に、乾性咳の方が軽症。

1)急性の咳嗽・喀痰

 ①乾性咳かつ、②ノドから込み上げるような咳、ならば上気道炎が疑わしいので、鍼灸単独治療可能。実際に鍼灸に来院することの多いのは、慢性喉頭炎であろう。

〇急性の咳嗽・喀痰の鑑別

・急性の咳嗽・喀痰

 -強い症状(激しい咳、呼吸音異常、消耗感)→ 肺炎(医療受診)

 -高熱+全身症状→インフルエンザ(医療受診)

 -咳は胸から出る感じ→(医療受診)

 -咳はノドから出る感じ→普通感冒・急性喉頭炎(鍼灸適応)

★激しい咳、呼吸音異常、高熱、消耗感は病院へ!

2)慢性の咳嗽・喀痰疾患

 慢性疾患で乾性咳、湿性咳の出る呼吸器疾患は非常に多く、鍼灸師が予想判断をすることは難しく、医療機関受診後の治療が前提。平熱で慢性咳嗽で来院するのは次の者が多い。

①上気道疾患:慢性扁桃炎、慢性咽頭炎

②下気道疾患:COPD(慢性閉塞性肺疾患)すなわち肺気腫・慢性気管支炎・気管支喘息

★喉頭、咽頭、扁桃、気管、肺の全ての病気で咳は出る!

〇慢性咳嗽の鑑別

・慢性の乾性咳

 -次第に憎悪傾向:初期の肺結核や肺癌(医療受診)

 -咳はノドから出る感じ:慢性喉頭炎→鍼灸単独治療可

 →咳は胸から出る感じ→まずは医療受診し病名を明らかにする

★慢性咳嗽は初期の肺結核や肺癌の可能性!

・慢性の湿性咳

 → 感染症 → 現代医学治療単独

 → 非感染症→ 重篤感(+)

       → 重篤感(-)→現代医学+鍼灸治療併用可

★慢性の湿性咳は感染症の疑いも!

2.急性喉頭炎

1)病態生理

 喉頭炎時の咳は、ノドから込み上げるような咳が特徴。本来咳嗽は、喉頭粘膜が異物や分泌物により刺激されると、上喉頭神経内枝を介して咳嗽反射が起こり、異物を気管内に入れるのを防ぐ役割がある。

★本来咳は、異物を気管内入れないために、咳嗽反射(迷走神経の分枝である上後頭神経内枝)よって起こる!

2)原因 

 感染性:感冒の部分症状として出現。鼻炎、咽頭炎を伴なうことが多い。

 物理・化学的刺激:音声酷使、喫煙、ガス、塵埃の吸入

★感染性の咳は、鼻炎、咽頭炎を伴なうことが多い!

3)症状:嗄声、咳、咽頭異物感、軽度の発熱

4)治療:声帯の安静を保つため、なるべく発生しないこと。吸入療法。

R/O 喉頭癌

 声帯癌が最も多く、ついで声門上癌、声門下癌の順。

 声門癌は高齢者で男性に多い。多くは扁平上皮癌。

 症状:声門癌では早期から嗄声を生じ、進行すれば咳嗽出現。進行すると失声、末期には声門狭小となり呼吸困難。5年生存率90%(声門癌)。

※扁平上皮癌:皮膚は表皮・真皮・皮下組織といった層構造を形成していて、扁平上皮癌はこのうち表皮に存在する表皮角化細胞と呼ばれる細胞が悪性増殖してできる癌

★喉頭癌は進行すると失声、末期には声門狭小で呼吸困難!

3.慢性喉頭炎 

1)原因:急性喉頭炎の反復、音声酷使、声帯ポリープ

2)症状:嗄声、咳、喉頭不快感

3)治療:急性喉頭炎に準ずるポリープであれば切除する。

〇のどに良いもの、咳に効くもの。

かりん:かりんの種に含まれるアミダグリンという配糖体には、煎じると咳止め作用のある成分に変わるという報告がある。

 ハチミツ:最近アメリカの研究で、ハチミツが小児期のシロップ状の咳止めと同等かそれ以上の効果があると明らかになった。ハチミツの中に存在する酵素グルコースオキシターゼが、過酸化水素をつくるが、これが強力な殺菌作用を持っている。またハチミツは、荒れた粘膜を保護作用もある。直後ハチミツをスプーン1~2杯を食すか、お湯でハチミツを溶かして飲む。ただし、1才未満の乳児には与えないように注意。 

 びわ(琵琶):気管を潤し、鎮咳作用がある。服用の一例として、びわの葉(裏面にある毛を刷毛で払い落とす)30g、竹筎(漢方薬)15g、陳皮6gを30㎖まで煎じて少量のハチミツを加えて、毎日2回に分けてのむ。体が熱っぽく、黄色の痰がある場合に適する。(梁 晨千鶴「漢方栄養新書」)

★工夫して、体に良いものを摂取しよう!

4.反回神経麻痺(=声帯麻痺)

 反回神経が何らかの原因によって障害を受けてしまい、機能が低下している状態。反回神経は声帯の動きを司る神経であり、麻痺が生じると、声がかれたり、食事の内容物などが気管内に入り込み、誤嚥起こしやすくなったりする。

1)反回神経の走行

 反回神経は迷走神経から分枝して喉頭内侵入する。この経路で、左反回神経は太い大動脈弓を迂回して上行するため圧迫を受けやすい。右反回神経は鎖骨下動脈を迂回して上行する。解剖学的面から、反回神経麻痺は、左側が右側より圧倒的に多く、3:1の比率である。1割ほどが両側性の反回神経麻痺になる。

※左側は大動脈弓の下、右側は鎖骨下動脈の下を通るので、圧迫されて嗄声や呼吸困難が起こりやすい。

★反回神経麻痺は解剖学の面から左側が右側の3倍多い!

2)原因

 喉頭周辺の腫瘍(食道癌や喉頭癌、甲状腺手術)や胸部大動脈瘤により、反回神経を圧迫。全身麻酔による長時間喉頭を圧迫。ただし特発性(=原因不明)であることが多い。

★反回神経麻痺の原因は、腫瘍、胸部大動脈瘤、特発性(最多)!

3)症状

 臨床上、声帯は一側の副正中意をとることが最も多いが、中間位や正中位である場合もある。

①一側性麻痺の場合、副正中位ならば嗄声をきたす。

②両側性麻痺では、声帯が開いていると嗄声がおこる。会話する場合は、何回も息継ぎをしながら、しかも枯れた声なので、聞く方は聞き取りづらい。

③両側性麻痺で、両側声帯が正中位で固定していれば、呼吸困難が起こる。

 反回神経麻痺で、声が出にくくなるのは、左右の声帯が開いているため、呼気による声帯の振動が起こりにくい。そのため患者は呼気量を増やして声を出そうとするので、発声の持続時間が短くなる。30秒以上が正常だが、ひどい場合は3秒以下になる。手術の適応となる目安は、10秒以下。

★反回神経麻痺は重症になると3秒も続けて声が出せなくなる!

4)治療

 原疾患が明らかであり治療可能ならば、その治療を行う。原因不明なものについては、ビタミンB1剤、ATP製剤、血管拡張剤、ステロイド剤などを適宜使用。これらの治療で、麻痺自体が改善されれば問題ない。例え治療しなくても健側声帯が正中を超えて患側まで動くのであれば代償作用が期待でき、嗄声の軽減も期待できる。そのためにも声を出すことがリハビリになるが、こうした治療で改善するのは、麻痺が軽度の場合のみ。

※ATP製剤:ATP(アデノシン三リン酸)は体内に広く存在し、体内で必要なエネルギーを供給する物質。ATPには血管拡張作用があり、臓器の血流を増加したり組織の代謝を賦活させ、これらの機能改善に作用する。

★まずは原因除去。発声練習も大事!

 6ヵ月間これらの保存療法によっても麻痺が治癒せず代償作用も起こらない場合、手術療法を検討。現在の医学では、動かない声帯を動かすことは不可能なので、閉鎖しない声門を元々狭くしておくことで発声時に閉鎖しやすくする。つまり、麻痺した声帯を内側に寄せる手術になる。声帯内BIOPEX注入術は一側性声帯麻痺に対し、声帯外側にリン酸カルシウム骨ペーストを注入して声帯裂を人工的に狭くするもの。

★声帯外側にリン酸カルシウム骨ペーストを注入し、声帯裂を人工的に狭くする!

第3項 喉頭疾患の鍼灸治療

 喉頭症状は、咳嗽(ノドから出る)と嗄声であるが、神経的・筋肉的に同一の障害になる。以下は便宜上、咳嗽の治療あるいは嗄声の治療に分類している。

〇喉頭症状(咳嗽、嗄声)の鍼灸治療点

・気管軟骨刺・・・・・迷走神経刺激 

 ※天突移動穴は、気管軟骨刺の特殊型

・輪状甲状筋刺・・・・声の高さを決定する筋刺激→声帯に影響を与える 

          上喉頭神経外枝刺激

・肩髃置鍼・・・・・・嗄声の遠隔治療

・下咽頭収縮筋刺・・・嗄声の局所治療

★反回神経麻痺と咳嗽の鍼灸治療点は、気管軟骨刺、輪状甲状筋刺、肩髃置鍼!

1.咳嗽の鍼灸治療

〇気管の解剖

 気管は第6頚椎の高さで、喉頭の輪状軟骨から下へ正中線に沿って垂直に下行し(ながさ10~13cm、直径やく2cm)。第5胸椎の高さで左右の気管支に分かれる。気管をつくっているのが気管軟骨。

1)天突移動穴刺

適応:嗄声、咳嗽

位置:標準天突穴のやや上方。坐位で、胸骨上端に指示先を当て、気管軟骨を撫で上げつつ爪先で押圧すると、気管軟骨上に咳を誘発する過敏点を発見できる。

刺鍼:坐位。寸3#2で、鍼が軟骨にぶつかって止まるまで直刺。深度は1~2cm。雀啄して抜鍼。

★天突移動穴の刺入深度は1~2cm!

2)気管軟骨刺

〇輪状軟骨から下が気管

適応:上位気管に起因する咳嗽、嗄声。※気管支や肺の病変による咳嗽には効果不確実。

位置・刺鍼:下咽頭神経を刺激するには、喉頭(第4~6頸椎の高さ・長5さcm)~気管軟骨の範囲に刺鍼する。5~7mm

 気管、喉頭ともに、前面と側面から4~5本づつ、1~2cm間隔で刺入。

効果:急性症では2~3回の治療でよいが、慢性では長期治療が必要。

 自宅では前頚部に知熱灸を行わせる。(郡山七二「鍼灸臨床法知治録)

★喉頭~気管にかけて前面と側面から4~5本づつ、1~2cm間隔で刺入!

2.嗄声の鍼灸治療 

 嗄声には声帯そのものの異常が原因である場合と、反回神経麻痺が原因である場合の2種類がある。最も頻度が多いのは、感冒や大声の出し過ぎによる一過性の声帯の炎症。他喫煙、飲酒など。安静にしていれば治る嗄声に対し、その治癒を促進させる程度の効果が針灸にあると考えられている。基本的に、喉頭周囲筋のコリを緩め、血流増加することを治療目標とする。

★嗄声の原因で多いのは感冒や大声の出し過ぎ。喉頭周囲筋のコリを緩めるべし!

1)輪状甲状筋刺

 輪状甲状筋は甲状軟骨下端と輪状軟骨を結び、輪状軟骨を甲状軟骨に近づける。高温を出すために重要な※3つの筋のうちの一つ。上喉頭神経外枝(運動線維)支配の筋で、発声時の音の高さを調整する作用がある。

※残り二つは胸骨甲状筋と腹筋

胸骨甲状筋は甲状軟骨を引き下げるために働く。

★高温だすために必要な筋肉は、輪状甲状筋、胸骨甲状筋、腹筋!

 嗄声の手技療法として、甲状軟骨と輪状軟膏の間を母指と示指でつまみ、大きく左右に揺り動かす方法が知られていることもあり、声の高低がコントロールしづらい場合、輪状甲状筋刺鍼が効果的となる可能性がある。

 本筋に刺鍼するには、甲状軟骨と輪状軟骨の前正中の間隙を触知し、これを基準点として左右に1cmほど移動した2点を刺鍼点とする。1cmほど刺入した状態で発声させるとよい。

★嗄声に対しての刺鍼。人迎の下!

2)下咽頭収縮筋刺鍼 

 下咽頭収縮筋とその周囲に注射すると、その直後より正常な声が出始めることがある。(枝川直義「ドクトルなおさんの治療事典」)

 咽頭腔を後方から包むように上・中・下の喉頭収縮筋がある。これらは互いに協調運動して嚥下機能を果たしている。

位置:甲状軟骨と輪状軟骨の左右外縁。

刺鍼:浅鍼を数本置鍼して、発声させる。

★人迎やその近辺に刺鍼したまま発声!

3)嗄声に対する肩髃刺鍼(長尾正人「肩髃の一本鍼」医道の日本、平10.7)

深谷流では臂臑の灸を推奨しているが、肩髃刺鍼は、臂臑(大腸経・肩髃穴の下3寸)より確実に効果がある。

★嗄声には臂臑よりも肩髃!

①位置:上腕を他動的に90度外転させた際にできる肩の2つの凹みの中の前方の凹み。肩峰突起中央の関節裂隙(大腸経)。取穴は圧痛に関係なく行う。

②刺鍼・手技:寸3#2で1cm刺入し置鍼または手技を行い。1~2分毎に「具合はどうか」と問い、症状消失を待って抜鍼。通常は10分間程度の置鍼。(5分では効果なし)

③意見:肩髃穴には、喉~頭顔面部の粘膜の炎症や浮腫を改善する作用あるらしく、「目の疲れ・麦粒腫・鼻づまり・耳管閉塞・口内炎・嗄声など」すなわち頭蓋内の粘膜腫脹症状?に「百発は百中的な効果が得られる」と長尾正人氏は記している。

★肩髃は頭蓋内の血流を促進!

3.反回神経麻痺に対する鍼灸治療の試行錯誤

 似田先生は非器質性の急性反回神経麻痺による嗄声に対する鍼灸治療を何度か試みている。現代学でも、発症後6ヵ月は自然治癒することもあるので保存療法で様子をみる。その後に手術するか否かを判定する。健常者では、持続発声時間30秒以上になるが、反回神経麻痺の者は、数秒~十数秒し声が続かない。持続発声秒数が短いほど重症すなわち左右声帯膜が開いた状態で固定されている。以下似田先生の症例。

症例1)

 治療前持続発声時間12秒。当初は2寸4番程度の鍼を用い、健側前頚部の気管軟骨壁へ数本刺入、30分ほど1ヘルツのパルス通電を行うという方法をとった。施術直後18秒に改善した。3日後に調べると施術前は12秒で治療後は18秒。すなわち治療直後効果のみの効果で、その後数回治療を重ねるも、それ以上持続発声時間が延長することはなかった。なお患側治療は無効だった

症例2)

 治療前に持続発声時間が2~3秒。声門裂の間隙が広い状態で固定されてしまったらしい。上記患者と同様の治療を1回行うも、まったく持続発声時間が延長しないので、次回治療することなく治療中止とした。

症例3)

 治療前持続 健側前頚部の期間軟骨壁へ数本刺入。30分ほど1ヘルツ通電し無効だった患者に対し、仰臥位にて甲状軟骨を苦しくならない程度に強圧しつつ発生させると、10秒→18秒と非常に良好な結果が得られた。この効果は再現性があったので、自分で甲状軟骨押圧しつつの発声訓練を行わせた。この患者は坐位で左右の治喘から中国鍼で直刺し、喉に響かせるようにすると、それだけでも10秒→15秒と発声秒数の延長ができた。

★鍼がなくても、灸や手指による圧迫+発声をやってみよう!

第4節 くしゃみ・しゃっくり

1)くしゃみの生理

 ホコリや化学物質、風邪ウィルス・鼻水などが鼻粘膜に付着すると、鼻粘膜に分布する三叉神経第1枝の分枝である鼻網様体神経が刺激される。これを外に排除しようとして、顔面神経が運動枝興奮し、瞬間的に強い吐気が鼻や口から放出される。この反射運動がくしゃみである。鼻アレルギーの際の重要症状。

 くしゃみは風邪やアレルギー性鼻炎などの症状のひとつでもある。また、くしゃみを繰り返すことで、体力を消耗する。鼻や耳などにダメージが蓄積されて疾病につながる可能性もあり注意が必要。高齢者で骨がもろくなっている場合、くしゃみによって肋骨などを骨折することもある。

※くしゃみと鼻漏は相関しやすい、同一神経のため。

★ホコリなど鼻粘膜→三叉神経第1枝(鼻網様体神経)刺激→顔面神経興奮→くしゃみ!

2)鍼灸治療(代田文誌「鍼灸臨床ノート第2集」医道の日本社)

 攅竹に鍼するとクシャミに速効がある。銀2番鍼で2~5mm刺入し、3~10秒置鍼する。撚鍼の方が痛くない。時に刺鍼すると逆にクシャミを誘発する者がいるが、それも間もなく治まり、後まで影響することはない。

★攅竹刺鍼はクシャミに速効!

2.しゃっくり(吃逆)

1)概念:横隔膜収縮(痙攣)と同時に声帯が閉じる現象で、声帯が閉じる時、独特の「ヒクッ」という音が出る。延髄呼吸中枢付近の、しゃっくり中枢を介して起こる。

★しゃっくりは横隔膜収縮と同時に声帯が閉じる現象!

2)原因

①横隔膜刺激:胃癌およびその転移、肋膜炎、心筋梗塞、膵炎

 日常的に起こるシャックリは、アルコール摂取、大量喫煙、早食い、一気飲み、食物とともに空気を呑み込むことで、胃泡が増大し、横隔膜を突き上げて刺激することで生ずる。この胃泡は、ゲップで解消できる。ゲップを誘発するには、炭酸水を飲むことが推奨できる。精神的ストレス、睡眠薬や抗がん剤などの強い薬の副作用などによっても起こる。

★しゃっくりは精神的ストレスや薬の副作用でも起きる!

②中枢疾患:しゃっくり中枢に対する抑制がとれると起こる。脳腫瘍、髄膜炎、多発性硬化症。

★しゃっくりは、脳腫瘍、髄膜炎、多発性硬化症などにより、しゃっくり中枢に対する抑制がとれると起こる!

3)鍼灸治療および鍼灸の場で利用できる治療

①最大呼気で息を止める

 10秒かけてゆっくり限界まで息を吐く(苦しくなっても急いで吐かない)。その後、5秒かけて吸う。次いで楽に呼吸する。

原理:限界まで息を吸うことで横隔膜が最大限下がる。次にそのまま息を止めることでしゃっくり、つまり横隔膜の痙攣が起きそうになっても肺には空気がたくさん詰まっているので、横隔膜は動けない。限界まで吐き出すのは、横隔膜に正常な動きを覚えさせるため。

★しゃっくりを止めるには肺に空気をたくさん入れて、横隔膜の動きを封じる!

②コップ逆飲み療法(西田皓一『東洋医学見聞録』医道の日本社)

 コップに水(できれば氷水)を入れ、コップの手前からではなく、向こう側から飲む。そうするためには、ぐっと前かがみになって息を止めなければならない。

 この作用機序として、桑満おさむ医師は、「口蓋垂を刺激して舌咽神経や迷走神経に影響を与えることにより、横隔膜の不随意運動による強直性痙攣を止める作用によるもの」と考察している。

③柿蔕湯(していとう):柿の蔕(ヘタ)の乾燥させたものを、煮詰めて服用する。柿蔕は漢方薬局で購入できる。精神安定剤のニトラゼバムよりも効果があるとのこと。

その他、レモンを噛む、紙袋の中で息をする、落ち着いて深呼吸、膝を抱えてうずくまる等。

④洞刺(どうし):シャックリに対しては洞刺が有効な場合が多い。特に左側が効果的で、洞刺すると間もなくシャックリがおさまる。(代田文誌「鍼灸臨床ノート」)

★好みの方法でくしゃみを止めよう!

😊くしゃみを止めるために鍼をするとか、しゃっくりを止めるために柿の蔕の乾燥させたものを煮詰めて服用するなど、あまり現実的ではない気がします。くしゃみの場合は、アレルギー性鼻炎などなかなかくしゃみが止まらない場合、一時的にでも効果があるのであればやってみる価値はあるかもしれませんが、そのために鍼灸院に行くのは大変です。

第5節 かぜ症候群

第1項 かぜ症候群の概略

1.かぜ症候群とは

ウイルスや細菌といった病原体によって引き起こされる上気道(鼻や喉)の一連の急性症状が起こる病態。主な症状は鼻症状(鼻水、鼻づまり)や喉の痛みで、発熱、頭痛、全身の倦怠感に加え、炎症が下気道(気管、気管支、肺)にまで広がることで咳や痰などが見られるようになる。インフルエンザや副鼻腔炎も、「かぜ」に含まれる場合もある。

★風邪症候群は上気道症状!

1)風邪ウィルスの分類

病因

病因の90%はウィルス性。残りの約10%は細菌、マイコプラズマ、クラミジアなどウイルス以外による感染。その種類(200種類以上)により、罹患季節や症状に違いが生ずるが、臨床症状のみから感染ウィルスの特定は困難。ウィルスはくしゃみや咳による空気感染である。低温や乾燥を好み、活動が活発かする。感染力も長期間持続するので冬に流行しやすい。

★風邪は臨床症状から感染ウィルスの特定は困難!

・普通感冒

原因:ライノウィルス、アデノウィルス、コロナウィルス、ノロウィルスなど。200種以上。

症状:急性鼻炎(くしゃみ、鼻水、鼻閉)全身症状なし。発熱は37℃~平熱。

★風邪ウィルスは200種以上!

・インフルエンザ

インフルエンザとは、インフルエンザにより引き起こされる急性ウイルス性疾患。11月頃から徐々に患者が増え始め、1月頃がピーク、4月過ぎに収束する傾向がある。

インフルエンザの典型的な症状は、急激な発熱や悪寒戦慄、のどの痛みなど、急激に出現する上気道症状。

★インフルエンザの典型的症状は急な発熱と悪寒戦慄!

原因:インフルエンザウィルス、A型B型C型の3種がある。A型が最も症状が強く感染力も大きい。世界的大流行をきたしやすい。

症状:A型:上気道+全身症状(関節痛、筋肉痛、消化器症状、悪寒戦慄)。肺炎を併発し重症化することあり。

   B型:下痢やお腹の痛み。

   C型:普通感冒と区別がつかない。

※ノロウィルス:普通感冒の一つ。(「お腹のかぜ」ともいい、急性胃腸炎はが突発的に発症。激しい嘔吐、下痢、腹痛と悪寒や発熱が起こる。ノロウィルス自体は強い悪性ではなく、1~2日で回復する。しかし免疫力の低下した老人や乳幼児では長引くことがある。

★インフルエンザはA型が最も強力。肺炎を併発し重症化もある!

2)下気道への病変の進展

 上気道炎の治癒が遷延したり症状が憎悪する場合は、下気道(気管支や肺)へ病変が進行している場合があり、重症化して気管支炎、細気管支炎、肺炎を合併することがある。

★インフルエンザは上気道から下気道へと進行することがある!

3.風邪の西洋薬物療法

1)対症薬物療法に否定的なアメリカ医療

 風邪の9割を占めるウィルス性のものは抗生物質無効(扁桃炎には有効)。医師が風邪の時に抗生物質を出すのは、二次的に生じる細菌感染ためだというが、抗生物質に予防効果はない。

※扁桃炎の原因菌にはレンサ球菌(A群β溶連菌)、ブドウ球菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌などがある。

★抗生物質はウィルスに効かない。予防効果もない!

2)インフルエンザワクチン集団予防接種の是非

 本ワクチンは、副作用の懸念と流行を阻止できないことから、1994年より任意に切り替えられ、児童への集団接種はなくなった。しかし老人はワクチンを実施した方が死亡率回避(8割)に有効性があるとし、現在は再考が迫られている。

 ワクチンは2~4週間々隔で原則2回摂取を受ける。費用は1回で3000~6000円。

※インフルエンザの治療薬

①リレンザ:1999年12月FDA認可。ウィルスが細胞外に放出されるのを阻害し、感染の拡大を防ぐ。ウィルス増殖そのものを抑えるわけではないので、自体を消去するわけではない。粉末薬で、口から吸入して使用する。発症48時間以内に使用。病気を治すというより、病気罹患期間を短縮するため。

②タミフル:2001年2月保険認可。リレンザをカプセル状の内服薬にしたもの。経口で1日2回5日間投与する。リレンザよりも効果がある。

③ゾフルーザ:錠剤を1回1~2錠服用するだけで効果が期待できる抗インフルエンザ新薬。H30.3.14保険認可。細胞内でのウィルス増殖そのものを抑える。ウィルス量が早く減るので、他人へ感染する可能性も低くなることが期待されている。

〇インフルエンザワクチン接種の是非

ワクチンを接種していればかかっても軽症で済むといった話があるが、正確なエビデンスはない。ワクチン接種により発病する人が20~30%少なかったというデータがある。

第2項 かぜの鍼灸治療

1.鍼灸院に来院する患者にとってのカゼ治療のニーズ(似田先生)

 カゼを自覚すれば医者にかかるのが普通なので、「カゼをひいたから鍼灸をしてほしい」という来院理由は非常に少ない。他の愁訴で施術していて、ついでに咽痛も治してほしい、咳も治してほしいなどというオマケ治療的なニーズがあり、また医療にかかってしばらく通院したり、治りきらないので、鍼灸で何とかならないかというニーズもある。

 かぜ症候群として捉えられる、一つは鼻炎~上気道炎(咳・鼻汁・咽頭痛)であり、もう一つは全身症状である。この全身症状としては発熱を含んでいる。

 感冒にかかったことを自覚すれば自分で安静にし、時には医者にかかるのが普通なので、鍼灸治療の出番はないかのようにみえる。しかし実際には鍼灸の常連患者に限れば、「早く風邪を治してほしい」などの訴えがある。

 感冒症状とは、咽痛、鼻汁鼻閉、咳嗽などの一連の上気道症状の他に、発熱やだるさなどの全身症状がある。本稿では後者の全身症状の鍼灸治療を取り上げることにする。

★風邪の諸症状(鼻炎~上気道炎)と(全身症状)に鍼灸で取り組む!

1)延髄(間脳)の体温中枢に働きかけることで解熱させる。

 以下は代田文彦先生の持論。カゼの初期とは、これから体温がぐんぐんと上昇する時である。これは免疫機能を高める目的で、髄の体温中枢が示した設定体温が高いことを表している。このタイミングで体を温めると、ウィルスを撃退しやすくなる。身体はこの設定温度にまで体温を上昇させようとするのだが、視床下部あたりに血流低下があれば、身体の深部温度の情報を正確に視床下部に伝達できず、その結果視床下部は誤判断をしてしまう可能性がある。

★視床下部あたりに血流停滞があれば、身体の深部温度の情報が正確に視床下部に伝わらない!

 代田先生は、銭湯で湯が熱過ぎて湯船に入れない時、首や肩にその湯(若干ぬるめ)を桶で何杯もかけ、その後に湯船に入る人を見て、こうした着想を得たという。それは視床下部の設定温度を一過性に狂わせるので、風呂の熱さに関して鈍感になるのではないかと考えた。

 この鍼灸治療としては、頚肩のコリを緩めるような治療をすることになる。その典型が風門の多壮灸(20~30壮)。

上気道に対応したデルマトームに灸熱を加えることで、一時的に交感神経緊張状態をつくり出すこと病邪に対処しようとするのか。あるいは間脳に刺激を与えて設定温度の変更を強いるのか。

※間脳:視床と視床下部とに分かれる。視床は皮膚および筋からの感覚刺激を大脳へ伝える伝導路の中継地点。視床下部は交感および副交感神経に対する指令を発する。自律神経の最高中枢。

※大椎・風門の多壮灸:発熱(解熱)や発熱をともなう頭痛に効果がある。しかし発熱は風邪感冒時の生理的現象なので解熱できない。「発熱→解熱」を速やかに行わせるために大椎の多壮灸が効果的ということではないか。

7壮では効かず最低20壮以上必要。灸すると背中にパッパッと熱さが広がる。施灸後は背中がポカポカ温まる。大椎の多壮灸はで効果がない場合には、瘂門の多壮灸に変更する。瘂門の灸は、クギを頭に打ち込まれたような強い感じならねば効果がない。(深谷伊三郎「お灸で病気を治した話」)いずれも坐位が望ましい。

★風邪の初期には風門の多壮灸!

2)発汗させることで解熱させる

 これから熱が上昇する気配(悪寒など)があったり、高熱時でも発汗しない状況では、発汗法を行う価値がある。鍼による発汗法としては、人体で最も汗のかきやすい部とされる上中背部(肩甲上部~肩甲間部の領域)に、速刺速抜を行うことで発汗が促進されるという発想がある。ただし散鍼では浅すぎて補法になる。交感神経緊張させることが必要なので、座位で施術し、1cm程度の深さに刺すような速刺速抜法が好ましい。

★上背部に鍼をして、発汗解熱!

※中医学でも外感風邪に対しては、清熱解表法すなわち「汗法」による解熱を行い、発汗作用のある葛根湯を処方する。

※発汗亢進や無汗は、血管運動神経や皮脂腺分泌の機能異常でも起こる。頚部、肩甲部のトリガー領域が消退すると、皮膚の分泌機能、肌や毛髪の質の改善がみられ、また無汗や発汗過多も改善するという報告もある。

★頚部、肩甲部のトリガー領域が消退すると、皮膚の分泌機能、肌や毛髪の質の改善!

3)交感神経緊張に移行させる(安保徹氏の考えをヒントに)

 カゼの経過は、発病後5日前までは進行期(=副交感神経優位状態)であり、その後に回復期(=交感神経優位状態)に変化して発病7~10日程度で治癒するという。副交感神経優位の状態とは、鼻水・発熱・だるさ・食欲不振などで、交感神経優位症状とは硬い黄色の鼻水出現であるが、この段階では元気を回復しており、日常生活ができるまでになっている。

 しかし中には7~10日どころか、数週間もカゼをひいている、カゼが抜けないなどという者がいる。これは、なかなか交感神経優位状態にできないためと考えられる(似田先生)。

 この時のカゼの治療は、交感神経優位にするような施術を行う。換言すれば「身体に活を入れる治療」を行う。具体的には西条一止氏らの研究により、「坐位にての施灸、鍼であれば浅鍼で速刺速抜」という方法が適していることが明らかになった。熱いバスタブに短時間入るというイメージになる。 

 この肢位にて上記道に対応したデルマトーム(T1~3中心)上の起立筋上すなわち膀胱経の背部兪穴ラインまたは同じ高さの夾脊穴に施術する。

※先述のとおり、浅鍼で速刺速抜では副交感神経優位になるとの説もある。どのタイミングで行うかの問題か?

★風邪の終了時期に交感神経が優位にならないのであれば活を入れる!

〇風邪の基本鍼灸治療

・風邪の進行期→

 :坐位にてT1~3デルマトーム上(起立筋で大杼~肺兪と夾脊および、大椎~身柱)

・風邪の回復期:伏臥位にて背部兪穴置鍼

・風邪の終了期:風邪が治り切らなければ坐位にての施灸

・対症療法-鼻炎:鼻周囲の三叉神経痛第1枝:挟鼻、晴明 

     -扁桃炎:迷走神経分枝の上後頭神経刺鍼。扁桃静脈うっ血改善目的に扁桃直刺 

     -咽頭炎:迷走神経分枝の上喉頭神経刺鍼

     -喉頭炎:迷走神経気管軟骨分布への刺激:天突、天突移動穴

・風邪をひきにくくする治療:大椎~身柱の自宅施灸

 ★風邪の時期によって、すべきこと、すべき施術が異なる!

😊風邪をひいている時に入浴やサウナに入るのはどうかの話は、その答えとして是も非もあります。体を温める、発汗によって解熱を図るということであれば、積極的に利用した方がいいとも考えられます。非の理由は入浴やサウナによって体力が奪われてしまうから。つまり体力が奪われるような入り方をしなければ問題ない、むしろ好ましいということになります。実際に入浴やサウナで風が治った(ような気がする)といった話も耳にします。風邪を引いたときに入浴やサウナを利用するかは、性格も含めて個人差によるところ大きいといえそうです。

〇本章に出てきたツボおよび刺鍼施灸部位一覧

攅竹:(膀)眉毛の内端陥凹部。運動-顔面神経。知覚-三叉神経第1枝(眼神経)

四白:(胃)瞳孔の下7分。眼科下縁の中央。運動-顔面神経。知覚-三叉神経第2枝(上顎神経)

顖会:(督)前髪際を入ること2分。正中線上。運動神経-なし。知覚-眼窩上神経。

上星:(督)前髪際を入ること2分。正中線上。運動神経-顔面神経。知覚-眼窩上神経。

晴明:(膀)内眼角の内1分。鼻根との間。運動-なし。知覚-三叉神経第1枝(眼神経)

印堂:(奇)左右眉毛の中央。正中線。運動-顔面神経。知覚-滑車上神経

挟鼻:(奇)鼻翼の上方の陥凹部で鼻骨の外縁中央。運-顔面神経。知-三叉神経第2枝(上額神経)

迎香:(大)鼻孔の外5分。鼻唇溝中。運動-顔面神経。知覚-三叉神経第2枝(上額神経)

天柱:(膀)瘂門穴の外1.3分。運動-副神経、頚神経叢筋枝、脊髄神経後枝。知覚-大後頭神経

合谷:(大)示指と母指が交わった示指より。運動-尺骨神経。知覚-橈骨神経浅枝

太衝:(肝)足の第1趾と第2趾が交わった陥凹部。運動-外側足底神経。知覚-深腓骨神経。

人迎:(胃)喉頭隆起の外方1.5寸。運動-顔面神経。知覚-頚横神経。

口蓋扁桃-下顎角の下。

治喘:(奇)大椎より外5分-定喘。1分-治喘。2分-肩中兪。

大椎:(督)第七頚椎棘突起下。運動-脊髄神経後枝。知覚-頚神経後枝。

上廉泉:喉頭隆起上際で舌骨との間が廉泉。その上。運動-なし。知覚-頚横神経。

天突:頚窩の中央。運動-頚神経叢ワナ。知覚-頚横神経。

天突移動穴。天突の上。

気管軟骨:第6頚椎~第5胸椎が気管。実際に刺鍼できるのは喉頭隆起~天突あたりまで。

臂臑:(大)肩髃穴から曲池穴に向かい下3寸。運動-腋窩神経。知覚-外側上腕皮神経。

肩髃:(大)腕を外転してできる肩の2つの凹みのうち、前。運動-腋窩神経。知覚-鎖骨上神経。

風門:(膀)第2・3胸椎棘突起間の外1.5寸。運-副、頚神経叢筋枝、肩甲背神経。知覚-胸神経後枝。

計22穴

☯東洋医学からみた鼻・咽喉症状

<鼻閉、鼻汁>

1.総説

 鼻は肺の窓口であり、湿(体内におけるムダな水分)は脾と関りが深い。よって鼻閉・鼻汁の治療にあたっては、まずは肺・脾の調整を考える。また体内において生ずる邪熱や、火の上炎は肝胆の失調によるものが多い。

★鼻炎・鼻汁(鼻淵)と関りの深い臓腑は、肺・脾・肝胆!

〇脳漏:昔の中国では、鼻の奥に脳があると考え、鼻汁を脳漏によると考えた。

〇鼻淵

 鼻淵は、粘い鼻汁を主症状とする病証のこと。本病症には虚実の2種類があり、実証の多くは感冒が長く治らないために、肺熱が鬱蒸したり、肝胆火盛で上炎するために起こる。虚証は肺、脾の虚損、または清粛無力(粛降機能の低下)、湿濁内聚(湿濁が集まること)によるものが多い。

★実証は、肺経鬱熱、肝胆湿熱、虚証は、肺気虚弱、脾虚湿盛!

「淵」とは、水が湧き出る処。転じて鼻から鼻汁が絶え間なく流れ出る状態。現代医学でいう副鼻腔炎(症状:鼻閉、生臭い鼻汁、嗅覚減退)

〇肺は鼻に開竅。肺の五官(=感覚器)は鼻

〇鼻症状=鼻の肺気不宣

 「不宣」とは、志をすべて述べ尽くさない様。つまり呼吸器障害のこと。

〇肺の宣発粛降作用 

 肺は宣発粛降作用により、水液の流れの管理調節をする。これを肺の通調水道作用とよぶ。

 肺から全身に散布される様式には「宣発(上向き、外向き)」の動きと、「粛降(下向き、内向き)」の動きの2つがある。

 宣発とは、昇発と発散のことで、その働きには、呼吸により濁気を吐き出す、発汗、気道粘膜の湿潤など、津液と気を全身に散布することなどがある。

 粛降とは、清気を吸い込み、臓腑を滋養しながら全身を巡ること。清気の目的地は腎。

水液を全身に行き渡らせるには、まず腎水を肺の吸気運動の力を使って上方にある肺に集める。次に肺の呼気運動の力を使って輸布する。このことから「肺は水の上源、腎は水の主源」と表現する。

★肺は水の上源、腎は水の主源!

1)息を吸う(粛降作用):肺が広がる(ジャバラが伸びる)→蒸籠上部の穴から清気を取り込む→蒸籠内の温度が冷え水蒸気は水滴になる→水滴が腎水に戻る。

★息を吸う→水滴が腎水に戻る!

2)息を吐く(宣発作用):肺がしぼむ(ジャバラが縮む)→蒸籠内の圧力が高まり、虫籠上部の孔から濁気を放出する一方、水殻の精微・衛気を皮毛に散布する。この結果、水液は皮毛を潤したり、衛気によって汗に気化され、排出する。

★息を吐く→濁気を放出、水液が皮毛を潤す。衛気によって汗を排出!

〇肺は百脈を朝ず

 「朝ず」とは「~に向かう」こと。つまり「全身の血管が肺に集まる」という意味。吸気時に肺は陰圧となり血が集まり、呼気時に肺は陽圧となり血を推し出す。

 呼吸数と脈拍数の相関は肺の作用で、精神興奮と脈拍数の相関は心の作用。

※古代中国医学には、動脈・静脈という区別がなく、血管はすべて脈とした。

★「肺は百脈を朝ず」とは、「全身の血管が肺に集まる」の意!

<肺機能の3構造>

①肺の機能の根元は、呼吸を伴なう宣発作用と粛降作用による。宣発作用によって体外に排出された気や津液の多くは回収されない。

②上記作用から次の3機能が生まれる。

「気(呼吸)を主る」=気に関係

「百脈を朝ず」=血に関係

「水道通調」=津液に関係

③「治節」は上記3機能のコントロール

★肺機能の3機能、気を主る、百脈を朝ず、水道通調!

2.実証の内傷(肝胆湿熱、脾経湿熱)

 肝においてストレスが、脾において食物が長期間停滞すると、次第に鬱熱が発生する。熱があると黄色く粘性の鼻汁、臭いのある鼻汁となる。

1)肝胆湿熱=実証(≒慢性副鼻腔炎)

 体内において痰湿過多の状態に加えて、肝の条達が失われ、気鬱化火して肝胆火盛となる。すると湿熱が生まれ、邪熱が上炎して鼻竅に影響すると鼻淵が起こる。

※条達:枝が伸びるように、四方に伸び通じること

 病態:

 飲食不節(辛、酒)、七情→肝胆の疏泄機能失調 →肝胆鬱熱発生→経絡に沿って脳を侵す→脳漏

 症状:鼻汁は黄色く濁って粘胃、量が多い、臭い、鼻閉、嗅覚減退

 治療方針:清瀉肝胆(肝胆の鬱熱を清熱し、さらに局所の改善をはかる)

  手陽明経、足厥陰経、鍼瀉法

 処方例:

 太衝(肝、兪土原)、風池(胆)、陽陵泉(胆、合土)、上星(督、局所)、迎香(大、局所)

★怒り(ストレス)は体内に火を生じ、痰と合わされば湿熱が旺盛となる!

2)脾経湿熱=実証(胃腸病に伴う鼻炎)

 病態:

 飲食不節(甘、脂)→湿熱発生→脾の運化機能失調→清気が昇らない→湿熱が陽明経脈に沿って鼻に影響→鼻淵

※鼻汁も痰の一つ。生痰の器は脾で、脾を治すことで鼻汁を改善しようとする。

※鼻は五行でいうと「金」。木侮金で、「木」の五味である「甘」の主である脾を整えることで金の作用を好転させる。

 治療方針:清熱去湿

 処方例:

 上星(督、局所)、印堂(督、局所)、迎香(大、局所)、合谷(大、原)、風池(胆)、脾兪(背部兪)、足三里(胃、合土)

★実証の内傷は、肝胆湿熱と脾経湿熱!

3.虚証の内傷(肺気虚、脾気虚)

 熱と無関係の鼻汁は、無臭の鼻汁、さらさらした鼻汁になる。

1)肺気虚(発熱のない感冒)

 病態:衛外機能低下(外邪を受けやすい)→感冒

    治節機能低下(肺機能不全)→五官である鼻に影響

 症状:鼻汁は白く粘い、量が多い、鼻汁に臭いなし、嗅覚減退、鼻閉

  随伴症状:頭重感、めまい。自汗、悪風、息切れ 

  舌脈所見:舌質淡、舌苔薄白、脈緩弱

  ※八裏の脈の一つ。元気がなく弱弱しい。

  ※自汗=昼間に、暑くもなく、労働もしていないのに出る汗→気虚証

   盗汗=寝入ってから出る汗で、目覚めるとすぐに止まる→陰虚証

 衛気の防衛作用とは、体表の肌表を保護して外邪の侵入を防ぎ、汗孔の開閉に関与し、発汗や温度調節を主るものをいう。したがって気虚になり、衛気が不足すると、不自然に汗が出てくる。これが自汗。

 一方、陰虚になり体内に熱が蓄積されると、逆に熱に寄り次第に体表まで熱が押し寄せ、津液がはじき出されると考える。これが盗汗。(中医学が熱→脱水と捉えるのに対し、現代医学では、脱水→発熱と捉える)

 治療方針:補肺益気(肺の機能向上をはかる)

 局所改善、手太陰経に鍼補法、手陽明経に鍼補法。

 処方例:上星(督、局所)、迎香(大)、肺兪(膀)、太淵(肺)、太谿(腎、兪土源)

★自汗→気虚証、盗汗→陰虚証!

2)脾気虚(生痰の器として脾、肺の機能障害による鼻汁)

 病態:消化吸収不良者の鼻汁

 (昭和30年代以前の子供は副鼻腔炎⦅蓄膿症⦆が多かった。低栄養と衛生環境の不良が原因)

 脾胃を損傷→気血生成不足→清陽が顔面に昇らない→鼻が気血の栄養を十分受けられない→邪毒が停滞→鼻淵

 主要症状:鼻症状+食欲不振、過労、思慮過度 

 随伴症状:脾に関係ある症状、気虚の症状を伴ないやすい

◎気虚の種類

〇肺気虚(上焦の気虚)

 病理:肺気損傷、脾虚→肺機能減退、衛表不固、津液輸送機能失調 

 症状:無力な咳嗽、喘息、自汗

〇脾気虚(中焦の気虚)

 病理:消化機能障害→脾胃軟弱

 症状:食欲不振、泥状便、腹部膨満感

〇腎気虚(下焦の気虚)

 病理:先天不足、労捲、老化

 症状:

    →固摂機能低下(腎気不固)→遺精、早漏、流産

    →納気機能低下(腎不能気)→喘息、呼吸困難

 ※気の固摂作用:氷を室温に放置すると、水蒸気を出しつつ水に変化する(津液とは津と液で、津は気に近く、液は血に近い)。このことから中医学では、氷とは気が凝縮した物質であり、気がなくなると物質は解体すると考え、気の固摂作用=血・月経血・精液・尿等を漏らさない作用と推察した。これらの異常症状があれば気不固とする。

※腎不能気:昔の中国人は、吸気の流入(特に深呼吸時の)は肺に留まらず、炉である臍下丹田(=関元)まで行き、フイゴの作用で精を燃やして活性化すると考えた。このために必要となるのが、腎の納気作用である。。腎の不能気では、浅呼吸状態や呼吸困難になる。

★虚証の内傷は肺気虚!

😊証とは、「タイプ」と考えることができます。例えば、鼻閉・鼻汁には、肝胆湿熱、脾経湿熱、肺気虚、脾気虚などの証(タイプ)があります。病気のタイプがあれば、人のタイプ(体質)もあります。気虚タイプ(気虚体質)、血虚タイプ(血虚体質)、血瘀タイプ(血瘀体質)等々。また、気虚の中にも、先に記しました通り、肺気虚、脾気虚、腎気虚などがあります。複数のタイプにまたがっている人もいます。肺気虚タイプの人は肺の病気に、脾気虚タイプの人は脾の病気に、腎気虚タイプの人は腎の病気になりやすいですが、肺気虚タイプの人が、脾や腎の病気にならないわけではありません。その時々の、その人の状態を把握しながら治療を進めていくことが大事であると考えます。

<感冒>

 東洋医学では、鼻や咽喉に現れる症状は風邪によるもの(感冒)やアレルギー(不内外因)として対応する。体質をベースに、引き金となる何らかのものが合わさり発症に至る。よって、表面的症状の根本にある状況を把握しながら治療を進めていくことが重要である。他、咽喉疾患には他嗄声(失声)がある。

感冒症状には、悪寒、発熱、頭痛、鼻汁、鼻閉などがあり、1年を通じてどの時期でも発症するが、とりわけ多いのが冬と春である。本病は外邪が肺を侵犯することにより起こる。上気道感染、流行性感冒は、本病の弁証論治を参考に治療していく。

感冒症状を引き起こすきっかけとなるのは風・寒・湿などの外邪だが、侵犯される者とされない者、またはされる時とされない時がある。不規則な生活、寒暖の不注意、過労などにより、腠理がゆるんで衛着不固となったり、体質が虚弱なために防衛機能が低下していると、邪気が皮毛や口鼻から侵入し感冒が起こりやすくなる。感冒症状に多いのは肺を中心としたものである。

〇風寒による感冒

方解:手太陰肺経の絡穴である列穴により、肺気の宣発を促し咳嗽を止める。太陽は全身の表を主どっているので、風門を用いて太陽の経気を調節し散風解表をはかる。また陽維脈は陽を主り、表を主どっているので、足少陽胆経とと陽維脈との交会穴である風池により表邪の除去をはかる。また太陰と陽明とは表裏の関係にあるので、手陽明大腸経の原穴である合谷により去邪をはかる。肺兪は肺衛の気の宣発を促す目的で用いる。

操作:0.4~0.6寸で、すべての穴に浅刺。吸角を施してもよい。

〇気虚による感冒

方解:解表作用をもつ風池、風門、肺兪により散寒宣肺をはかり、表邪を散じる。合わせて、扶正作用をもつ足三里、気海、関元により益気扶正をはかる。表邪を解表しやすくるために、正気を充実させる。

操作:風池、風門、肺兪は0.5寸にて直刺、瀉法。気虚がひどい場合以外は10~20分間置鍼。 足三里、気海、関元には鍼にて補法また灸を用いる。

😊東洋医学の「急なれば標を、緩なれば本を」という言葉は、急性期にあるものはまずは症状をやわらげることを目的とした治療を行い、慢性にあるものは根本治療を行う、という意味で、「緩なれば本を」には予防も含まれます。体質は個人によって異なり、予防のための鍼灸治療時に用いるツボは人によって異なります。しかし、感冒に限らず、体調を良好に保ち病気にならないめには、どんな体質のひとであっても、しっかりとした睡眠、栄養のバランスのよい食事、適度な運動、太陽光を浴びることが大切ということに変わりはありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

kiichiro

鍼灸師。東洋医学について、健康について語ります。あなたの能力を引き出すためには「元気」が何より大切。そのための最初の一歩が疲労・冷え症・不眠症をよくすること。東洋医学で可能性を広げられるよう情報を発信していきます。馬込沢うえだ鍼灸院院長/日本良導絡自律神経調整学会会員/日本不妊カウンセリング学会会員//日本動物愛護協会会員