鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているか?「下腹部症状をやわらげるために」編

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はじめに

 鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。

筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化、等々。

これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。

解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。背景にある考え方が違っていても、用いるツボが同じになることは珍しいことではなく、これはある意味では当然ともいえます。

鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代鍼灸臨床論』」という科目に対しての理解をより深めることを目的のひとつとしています。

※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。

〇遠隔療法と反射について

 肩が凝っているときに、その凝っている筋肉に鍼灸をすると、コリが和ぎます。その理由は、鍼の刺激によって筋肉の伸長収縮度合いが正常に戻ったり、凝っている部分の血流が促進されることで疲労物質の滞りが解消されたりするからです。ですから症状が出ている(凝っている)部分に鍼灸をすることには意味があります。では鍼灸が、内臓の異常に働きかけるためにはどうしたらいいでしょう?内臓に直接鍼を打つといった方法もありますが、受け手の負担も大きく、一般的ではありません。そこで反射(東洋医学なら経絡)といった概念が利用されます。

 反射とは、刺激に対して無意識(大脳を介さず)に、機械的に起る身体の反応のことです。例えば、熱いものに手を触れたとき即座に手を引っ込めるのは、考えてから引っ込めたのでは遅いからです。鍼灸刺激によって反射(体性内臓反射)を起こし、生体に元々備わっている治癒力が賦活(活性化)されます。

・内臓体性知覚反射

 内臓の異常は、その内臓を支配している自律神経とほぼ同じ脊髄反射区の皮膚領域を過敏にし、普通では痛みとはならない程度の皮膚刺激でも、その部位に疼痛また異常感覚を伴なうようになるというもの。

・内臓体性運動反射

 内臓異常による求心性の興奮は、対応する体壁(皮膚や筋肉)に運動性の変化として、筋緊張・収縮などを起こすというもの。いわゆる凝りの現象で、内臓疾患による筋性防御のあらわれ。

・内臓体性栄養反射

 交感神経を切断すると支配下の筋群は緊張を失って代謝障害に陥る。内臓に慢性疾患が長期に渡ると、体壁に萎縮・変性があらわれてくるというもの。

・内臓体性自律系反射

皮膚にある汗腺、皮脂腺、立毛筋、および末梢血管系を支配する自律神経系の反射で、交感神経性皮膚分節の領域に反応があらわれるというもの。

汗腺反アセ汗として、立毛筋反射は鳥肌、皮脂腺反射は皮脂として、皮膚血管反射は皮膚の冷え、ほてりとなってあらわれる。

・体性内臓反射

一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄の同じ高さに神経支配を受けている内臓に反射作用があらわれるというもの。このときに、内臓にあらわれる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)である。 

◎下部消化器とは

 下部消化器とは、小腸、虫垂、大腸、結腸、直腸をいい、これらの臓器にまつわる症状が下部消化器症状で、疾患名でいえば腹痛、下痢、便秘、虫垂炎、痔等。

〇下腹部痛

 強い下腹部痛を起こす疾患には、急性虫垂炎(極期)、腸重積、子宮外妊娠破裂、卵巣嚢腫茎捻転、腹膜炎等。強い痛みや発熱を伴なう下腹部痛は鍼灸不適応。急いで病院へ。

※腸重積:腸の一部が隣接する腸内にはまり込んでしまう状態

 鍼灸に来院する可能性のあるものは、下記のもので痛みは基本的に鈍痛。

  ・下痢便秘 ― 血便(-):過敏性腸症候群

        ― 血便(+):大腸癌や潰瘍性大腸炎

  ・下血   ― タール便 :胃十二指腸潰瘍、胃ガン

        ― 鮮血便  :直腸癌

  ・不正出血        :生理不順、腰仙部痛:婦人科疾患

  ・排尿痛         :腎尿路結石膀胱系疾患

〇自律神経を調整する4パターン

①交感神経の興奮を鎮める  → 腹背部穴     →交感が抑えられた結果、副交感が優位になる

②副交感神経の興奮を鎮める → 耳介肺区・八髎穴 →副交感が抑えられた結果、交感が優位になる

③交感神経を活発にする   → 坐位で強刺激。交感神経を活発にし副交感神経を抑制。

                例)深腓骨神経(蘭尾)・大腿神経(梁丘)への強刺激で蠕動抑制

④副交感神経を活発にする  → 抹消穴 例)足三里→胃蠕動活発。

◎内臓体壁反射の反応点

・上腹部痛に関与する神経は、交感神経、頭部副交感神経(迷走神経)、横隔膜神経

・下腹部痛に関与する神経は、交感神経、仙部副交感神経(骨盤神経)の2系統

※内臓は交感・副交感の自律神経によって支配されているが、臓腑によって優位に支配する神経があり、状況に応じて、またその特性を考慮しながら適宜鍼灸を行う。例えば、小腸、虫垂、大腸は交感神経優位臓器である。本臓器の病変によって交感神経が興奮する。治療はこの興奮を鎮めることを目的とする。治療ポイントとして考えられるのは、T10~12デルマトーム内にある腹部穴(天枢・大巨・帰来)等、背部穴(胆兪・脾兪・胃兪)など。

脊髄神経は体幹背面が胸神経後枝に、体幹前側面が胸神経前枝に支配され、後枝では起立筋部、前枝では腹直筋部から末梢神経枝が深層から体表に出現し、各筋にコリと深部痛が生じる。ちなみ自律神経反応としては、皮膚のザラつき、冷え、発汗などが現れる。(これらの反応を手掛かりにするが、わからない場合もある)

しかし、本臓器の特徴として脊髄神経後枝反応は現れず(腰背の皮膚や筋に反応は出ない)、前枝反応のみが現れる。よって天枢・大巨・帰来が最優先穴となる。

なお本臓器は骨盤神経(副交感神経)(-)であるため、八髎穴に鍼灸をしても、反応は薄く、治療効果も低い。

第1節 下腹痛と体壁反応

〇小腸・虫垂・大腸(下行結腸まで)

・交感神経(+):T10~12。骨盤神経(-)。天枢、大巨、帰来。

〇S状結腸~直腸

・交感神経(-):L 1~ 3。 骨盤神経(+)。耳介肺区、八髎穴。

★小腸、虫垂、大腸は主に交感神経(T10~12)支配!

〇S状結腸~直腸(上行結腸→横行結腸→下行結腸→S上結腸→直腸)

・副交感神経:L1~3。骨盤(+)

※小腸~横行結腸は、交感神経>副交感神経

 下行結腸~直腸は、交感神経<副交感神経

※大腸の前半は吸収作用があるが、後半は貯蔵する意味しかない。

※下行結腸~直腸は「交感神経<副交感神経」である。副交感神経の過活動によって蠕動亢進となり痙攣性便秘等を生ずる。最優先治療点は耳介肺区や八髎穴。蘭尾や梁丘の強刺激。

★S状結腸、直腸は主に副交感神経(L1~3)支配!

1.小腸、虫垂、大腸(下行結腸まで)の体壁反応点

1)交感神経興奮により派生した脊髄反応と治療点

 交感神経>副交感神経優位なので、上中腹部の治療と同じ。

 交感神経>副交感神経ということは、交感神経の興奮を鎮めることを目的に刺鍼するということ。交感神経が活発になると消化機能は停滞する。症状としては食欲減退、悪心・嘔吐等。ツボとしては、天枢、大巨、帰来。

★小腸、虫垂、大腸(下行結腸まで)は、上腹部と同じく交感神経>副交感神経!

 これらの内臓は上腸間膜神経節支配で、T10~12交感神経領域。

 T10-天枢(臍外方2寸)

 T11-大巨(天枢下2寸、石門外方2寸)

 T12-帰来(天枢下4寸、中極外方2寸)

 この体壁領域上に交感神経反応点が出現するが、元来交感神経反応は検出しづらいため、交感神経興奮に引きずられて生ずる同一脊髄分節の脊髄反応を診療に用いることになる。

★交感神経反応は検出しづらいため、同一脊髄分節の脊髄反応を捉える!

 脊髄神経は体幹背面が胸神経後枝に、体幹前側面が胸神経前枝に支配され、後枝では起立筋部、前枝では腹直筋部から末梢神経枝が深層から体表に出現し、各筋にコリと深部痛が生じる。ちなみ自律神経反応としては、皮膚のザラつき、冷え、発汗などが現れる。

・体性神経反応:感覚神経→深部痛、運動神経→コリ

・自律神経反応:皮膚のザラつき、冷え、発汗

★脊髄神経反応として、起立筋部、腹直筋部にコリと深部痛が出現!

 ただし上記臓器の特徴として脊髄神経後枝反応は現れず、前枝反応のみが現れる。この腹直筋上の反応が内臓体壁反射理論による治療となる。腰背の皮膚や筋に反応は出ない。

2)小腸、虫垂、大腸(下行結腸まで)の治療ポイント

 前枝-「小腸~大腸(下行結腸まで)」

 T10~12腹直筋(天枢~帰来)。

★下部消化器の特徴として、脊髄後枝反応(交感神経反応)は現れない。前枝反応のみ!

2.S状結腸~直腸(交<副)の体壁反応点

1)交感神経興奮により生じた脊髄神経反応と治療点

 下腸間膜神経節支配で、かつL1~3交感神経領域支配であるが反応は弱いので、臨床では重視しない。

★下部消化器の症状(痛み等)は背中に出ない(お腹が痛くなっても、背中は痛くならない)ので、大腸兪等への刺鍼はそれほど用いない!

😊下腹部にある臓器は、下部消化器、泌尿器、生殖器(男性・女性)です。これらの臓器疾患の症状(痛み等)は腰部や腹部に現れます。が下部消化器と泌尿器の反応は腹部にのみ現れ、腰部にはほとんど現れません(現れるのは交感神経反応に引きずられて生じる脊髄反応)。ちなみに上部消化器である胃の不調が背中の痛みとして現れることはあります。よって泌尿器疾患や婦人科疾患の治療では腹部穴や中髎穴を使い、下部消化器疾患ではあまり背部穴を重視せず、主として腹部穴を使います。もちろん消化器症状に対して背腰部兪穴を使っていけないわけではありません。

2)副交感神経反応と治療点

 内臓体壁反射による交感神経の反応はT1~L3のデルマトームの範囲内に出現するので「胸腰系」とよび、副交感神経を「頭仙系」とよぶ。この頭仙系は、頭部副交感神経系と仙部副交感神経系の2つに区分される。

★内臓体壁反射(交感神経反応・T1~L3)を胸腰系、(副交感神経反応)を頭仙系と呼ぶ!

 頭部副交感神経は第Ⅲ(3)、Ⅶ(7)、Ⅸ(9)、Ⅹ(10)脳神経線維中にあるが、頭部副交感神経を代表するのは、第Ⅹ(10)脳神経(迷走神経)。

 頭部副交感神経異常の治療点としては、耳肺区刺激がよいという考えがある。この応用が、痩身耳鍼。

★頭部副交感神経を代表するのは第Ⅹ(10)脳神経(迷走神経)!

 S状結腸~直腸は、副交感神経優位支配。副交感神経は特定部位の体壁反射は起さない。臍から下に位置する臓器の副交感神経成分は骨盤神経に含まれている。骨盤神経はS2~4後仙骨神経孔(八髎穴)から出ている。その中心のS3後仙骨孔の中髎を骨盤神経に対する代表刺激点(骨盤内臓平滑筋の筋緊張を緩める作用)とすることが多い。

※骨盤神経:膀胱・尿道に分布する末梢神経(副交感神経)。求心路として内臓知覚を伝え、遠心路として膀胱、尿道平滑筋を機能させる。排尿、排便、勃起、射精などを調節する。

・排尿 -交感神経活動で畜尿、副交感神経活動で排尿

・排便 -交感神経活動で蓄便、副交感神経活動で排便

・男性器-交感神経活動で射精、副交感神経活動で勃起

★骨盤神経(副交感神経)の代表刺激点は中髎!

〇頭部副交感神経

・神経線維:迷走神経中の副交感神経成分

・支配内臓:臍から上の臓器

・施術部位:耳肺区

・上部消化器疾患には有効(下部消化器疾患には無効)

〇仙部副交感神経

・神経線維:骨盤神経(S2~4)

・支配内臓:臍から下の臓器

・施術部位:八髎穴

・下部消化器疾患に有効(上部消化器疾患には無効)

※中髎刺鍼適応の整理 

①の用途ではS2の次髎を使い、②③の用途はS3の中髎を使う

①仙骨神経後枝および仙骨神経叢(L1~S3)刺激点 

 坐骨神経痛、仙腸関節捻挫の治療点として→臀部方向へ鍼響

②骨盤神経刺激点(S2~4):下部骨盤内臓器の副交感成分治療点→鍼響なし

③陰部神経刺激点(S2~4):泌尿生殖器、婦人科臓器の運動・知覚異常の治療点→陰部や肛門へ鍼響

★坐骨神経痛・仙腸関節捻挫には次髎、

下部骨盤内臓器、泌尿生殖器、婦人科臓器疾患に対しては中髎!

3)陰部神経の機能と治療点

 内臓全般は自律神経が支配しているが、意志によりある程度制御ができる部分は脊髄神経支配。その脊髄神経とは呼吸調節を可能とする横隔膜神経(C3~4)と、大小便の我慢を可能にするのは陰部神経(S2~4)の運動線維によるもの。

★呼吸調節→横隔神経(C3~4)、大小便の我慢→陰部神経(S2~4)は脊髄神経も!

 陰部神経の知覚成分に関しては、生理痛、排尿痛、痔痛などの治療で重要となる。

 → 陰部神経刺激により、生理痛、排尿痛、痔痛が緩和される。八髎穴(中髎)、中極。

 陰部神経が重要になるのは、泌尿器科と婦人科(詳細は後述を参照)。陰部神経を刺激するには中髎でもよいのだが、中髎刺鍼で響かすことは不確実なので、実際には次の2つの方が確実性がある。

★陰部神経が重要なのは、泌尿器科と婦人科!(下部消化器ではない)

①中極刺鍼

 陰部神経の終枝である陰茎背神経を刺激できるので、鍼響は亀頭に至る(女性では陰核背神経を刺激して陰核に至る)。

※陰部神経からの分枝は、下直腸神経、会陰神経、陰茎背神経

※陰部神経からは、肛門の知覚や運動を支配する会陰神経が分かれるので、中極や関元からの刺鍼は、肛門に鍼響を与えることも原理的にはできるはずだが、実際にはペニスに響いてしまうことが多い。

★中極刺鍼は、陰部神経から分枝している陰経背神経を刺激し、鍼響は亀頭に至る!

4)S状結腸~直腸の治療ポイント

 骨盤神経(中髎)→骨盤内臓←陰部神経刺鍼(中極)

 ※便秘治療では、上記の他に、左下行結腸~S状結腸に対する直接刺激が行われる。これを内臓刺という。

※S状結腸~直腸は交感神経反応は出現せず、仙部副交感神経反応が出現する。したがって骨盤神経刺激に相当する八髎穴の施術を行う。内臓体壁反射治療理論としては腹部や大腸部の施術は意味がない。

※中髎刺鍼の鍼響:刺鍼方向により鍼の肛門括約筋の部に、あるいは臀部後側に鍼響が達する。肛門に達する鍼響は、肛門神経、肛門挙筋神経の走行に一致。この神経は第3仙骨孔内側端から出ている(代田文誌)。

★※便秘治療は、中髎(骨盤神経)、中極(陰部神経)、衝門、府舎、腹結(左下腹部・内臓刺)刺激!

体壁内臓反射の治療は基本的に、

弛緩性便秘(副交感不活発)でも、痙攣性便秘(副交感過活動)でも、内臓直刺はOK。

弛緩性便秘に耳介肺区、八髎穴は✕。抹消穴はOK。

痙攣性便秘に末消穴は✕。耳介肺区、八髎穴はOK。

しかし痙攣性便秘に末消穴(蘭尾)を使えば、「痙攣が余計にひどくなり、便秘が悪化する」とはならない。むしろ末梢穴強刺激により、痙性は落ち着き、便秘は改善の方向へいく。

※耳介肺区は上腹部(臍から上)消化器の治療には効果があっても、下腹部(臍より下)の消化器疾患には効果なし(薄)といわれる。

😊耳介肺区や八髎穴刺激は副交感神経の働きを抑えます。つまり痙性便秘は改善、弛緩性便秘は悪化する可能性があります。また、下痢(機能性)は蠕動運動の過剰ですから、下痢にも耳介肺区や八髎穴は効果があるかもしれません。

第2節 鍼灸院での下腹診察と鍼灸治療

 急性腹症は緊急外科手術が必要で、急性腹症で鍼灸院に来院することはほとんどない。疑いがあればすぐには病院に行く必要がある。

 下腹痛にも強い痛みと鈍痛があるが、鈍痛で慢性的な痛みが鍼灸院に来院する。すでに医療にかかり、診断も一応ついているケースが大半を占める。医療にかかっても改善しない場合(自律神経がらみや難病)や、同様の症状を繰り返す場合に鍼灸に来院することになる。

★下腹部部の痛み、鍼灸適応は鈍痛!

〇下腹部痛の診断ツリー

・慢性下腹痛(独歩来院)

  ↓ バイタルサイン異常 →専門医

  ↓ 筋性防御(+)、ブルンベルグ徴候(+)→専門医へ

  ↓ 癌疑診基準 →専門医へ

 痛む部位を自分の指頭で示せる、体動に痛む

 →yes:体壁痛

 →no :内臓症

     ・右下腹部痛 →回盲部ガス? 慢性虫垂炎?

     ・下腹部中央痛→排尿症状(+)→泌尿器疾患

            月経・不正出血 →婦人科疾患

     ・左下腹部痛→下痢(+)便秘(+)→過敏性腸症候群

           →便秘(+)腹痛(-)→常習便秘 

           →血便(+)→潰瘍性大腸炎、大腸ガン

※重篤所見は不正出血と血便。悪性疾患を考慮して原因追及すべき。

※ブルンベルグ徴候:患者の腹壁を手で垂直に圧迫し、その手を急に離すと鋭い痛みを感じる

★急な腹痛み、強い腹痛はまずは病院へ!

第3節 下痢

下痢の定義:1日2回以上、軟便以上の柔らかい便が出ること。排便回数は関係ない。ちなみに正常便は、1日1回で200g。

第1項 急性下痢

1.急性単純性下痢

1)症状・病態生理 

 暴飲暴食(不消化物の多量摂取、アルコール等の過飲)は、胃腸機能低下が起こるので、本来持つ消化吸収作用を胃腸が拒絶する。そのため蠕動運動亢進となり、内容物をそのまま下の消化器に送る状況になる。

※以下は同じことを別の角度から見ている

 ①大腸通過時間短縮による便中の水分吸収時間低下による下痢、②蠕動運動亢進、③腹痛(+)

★暴飲暴食は、本来の消化吸収作用が行われなくなり、蠕動運動亢進から下痢となる!

2)治療:規則正しい食生活をする。原因が明瞭なので医療を受診することは少ない。

★下痢の原因がなんであっても、暴飲暴食は止めろ!

2.食中毒

 急性下痢で、鍼灸に来院することはまずないが、急性下痢の代表ともいえる中毒の知識は必要と考える。

1)毒素型

①特徴:細菌の数は関係なく、細菌が産生した毒素を直接摂取することで発生する。

 ・毒を飲んだことと変わりないので、抗生物質は無効。

 ・平熱もしくは微熱

 ・潜伏期間が短い。経過が急で、数時間~半日で治癒に向かう。

②種類:ボツリヌス菌(エキソトキシン毒)と黄色ブドウ球菌(エンテロトキシン毒)

 a.エンテロトキシン毒素:粘液水様便

 b.エキソトキシン毒素:運動系が障害を受ける。とくに呼吸筋麻痺で死亡する。知覚は侵されない。消化器症状(+)

 1984年、辛子蓮根→ボツリヌス菌集団食中毒。不十分な衛生管理で、原材料である辛子に菌が付着。

 2000年、雪印の低脂肪乳→黄色ブドウ球菌食中毒。熱殺菌が不十分だった。黄色ブドウ球菌は熱に強い。

★毒素型:細菌が産生した「毒素」を直接摂取することで発生するので抗生物質は無効!

2)感染型

①特徴:ある程度多量の細菌を摂取しなければ発症しない。

 ・細菌が体内で増殖するのに時間がかかる→潜伏期間が長い(12~14時間)

 ・発熱(+)38℃、ときに40℃

②種類:腸炎ビブリオ、サルモネラ、カンピロバクター、腸管出血大腸菌(O157)等

 a.腸炎ビブリオ:水溶性粘液血便

 b.サルモネラ食中毒:海苔の佃煮様血便

 c.病原性大腸菌:膿粘血便

※2002年、かいわれ大根→腸管出血性大腸菌が検出。カイワレ大根水栽培に使用した地下水が原因。

★感染型:多量の細菌を摂取しなければ発症しない!

3)食中毒の特徴的症状

①潜伏期間:最短はブドウ球菌で3時間、最長はカンピロバクターで2~11日。

②死亡率が高いのは、ボツリヌス菌で腸管血性大腸菌(O-157)。

 食中毒を起こす細菌は、普通は人から人へと感染しないが、O-157は感染することがある。

③高頻度の細菌性食中毒は、サルモネラ、ウェルシュ、カンピロバクター、ブドウ球菌

④ウィルス性の急性下痢は、診断は難しいが、症状は激しくなく自然治癒しやすい。

★ボツリヌス菌(O-157)は死亡率が高い!

4)食中毒性下痢に対する裏内庭の多壮灸について

①位置:足裏。足第2指根部の横紋から、3分ほど促心側に上がった処。足の第2指の指頭に墨をつけ、折り曲げて足底に墨が転写される部。

②方法:通常は100壮以上。熱さを感ずるまで実施する。すぐに熱く感じるようであれば効かない(深谷伊三郎)

③考察:裏内庭の効能は、食傷による腹痛である。本穴はデルマトームは八髎穴と同じ断区で、治効も八髎穴と似ている。興奮している副交感神経を鎮静化させる作用。裏内庭の灸は、食中毒の他に、胃痙攣、つわり、胃痛にも適応があるとされている。

※沢田流では、裏内庭に灸して、熱さを感じなければ食中毒の診断が可能だとした。しかし下痢していない者に裏内庭に灸しても半数は、感じない。また食中毒患者でも熱く感じる者がいる。例外も多い。

★食中毒には裏内庭の多壮(100壮)灸!

第2項 慢性下痢

 慢性下痢とは、1日に3回以上、3週間以上、下痢が続く状態をいい、強い腹痛や脱水による急激な体力消耗がないものを慢性下痢という。回数が少なくても軟便ということもある。慢性下痢は、現代医学的治療でも簡単には治せないものが多い。慢性下痢の大部分は大腸に原因(機能性原因)がある。とくに過敏性腸症候群によるものが多い。

 ・小腸の水分分泌亢進(浸透圧性下痢):腹痛(-)、代表:吸収不良症候群

 ・大腸の水分吸収低下(=蠕動亢進) :腹痛(+)、代表:過敏性腸症候群

★慢性下痢を鍼灸治療だけで治そうとしてはいけない!

1.過敏性腸症候群

1)分類

 ストレスで蠕動運動亢進すれば下痢、蠕動運動が分節主体になれば便秘。

①便秘型:痙攣性便秘に分類。腸の蠕動運動が、便を下方に抽送させることではなく、分節運動主体になっている。

★痙攣性便秘は、腸の運動が分節運動主体になっている!

②下痢型:腸からのセロトニン過剰分泌による。脳はストレスを感じると、ストレスホルモン(ノルアドレナリン、ドーパミン等)を分泌し、交感神経緊張状態になる。脳がストレスホルモンを分泌すると、腸はそれに呼応して、セロトニンが大量に分泌する。セロトニンの作用で蠕動運動亢進するので、腹痛・下痢が起こる。

 ストレス 

   ↓

   脳 → ストレスホルモンであるノルアドレナリン・ドーパミン分泌(交感神経緊張状態)                                         

             ↓

     腸からセロトニン大量に分泌→腸の蠕動運動亢進(副交感神経過緊張)→(腹痛・下痢)

         

※セロトニンは蠕動運動を調節している。セロトニンを活性化させる因子は、歩行・咀嚼・規則正しい運動・太陽光。セロトニン分泌鎮静させるのはストレス。セロトニンは腸でつくられ、その95%は胃腸にあり、5%だけが脳にある。

 腸におけるセロトニンの役割は、脳における作用とは全く異なる。食べ物が消化吸収しやすいかどうかを判断して、セロトニンの分泌量を調整することで適度に腸の蠕動運動を起こす機能がある。

★脳のストレスホルモン分泌に腸が呼応して、腸からセロトニンが大量に分泌される。セロトニンによって蠕動運動亢進、下痢!

③下痢便秘交代型

※下痢と便秘の両方があれば、病型としては「下痢」に入れる。

★セロトニンの大量分泌によって蠕動運動亢進で下痢、腸の痙攣で便秘!

〇主な脳内伝達物質の作用

「心の三原色」ともいわれている。3者がバランスよく機能すれば白色(=平常心)

赤:「ドーパミン神経」 青:「ノルアドレナリン神経」 緑:「セロトニン神経」

★心の三原色とは、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン!

・ドーパミン「快・やる気」麻薬的作用

プラスの作用:意欲、快感。※セロトニンにより、欲望の暴走を抑える。

制御できない場合:欲望の暴走(満足できない)。薬物・アルコール・ギャンブル依存症

・ドーパミン「快・興奮」覚醒剤的作用。

プラスの作用:活力・エネルギー源。※セロトニンにより(動物脳の暴走)を制御

制御できない場合:ストレスに過剰反応すると、不安神経症やパニック障害

★ドーパミンはやる気!

・セロトニン「快・不快の抑制」。精神安定剤的作用。

プラス面の作用:安定と落ち着き。ドーパミンの「欲望の暴走」。ノルアドレナリンの「動物脳の暴走」を制御

制御できない場合:やる気がない、勇気がない。

①快楽主義:ドーパミン↑ かつ セロトニン↓ 麻薬的

②燃え尽き症候群:ノルアドレナリン↑、かつ セロトニン↓ 覚醒的

③うつ病:セロトニン欠乏というよりも、セロトニン枯渇している状態。うつ病の治療薬として使用されるSSRIやSNRIという抗うつ剤も、脳内でのセロトニンの濃度を高めるなどの作用を期待された薬物。

※セロトニンを鍛えるには、適度な運動、太陽光を浴びる、規則正しい生活(早寝早起き)など、極当たり前のことが有効となる。

※アドレナリンは脳内ではほとんど分泌されず、また、副腎髄質で分泌されたアドレナリンは血液脳関門を通過することができないため、精神的な作用には関与しない。

※ノルアドレナリンはストレスがかかると放出され、心拍数を上げたり、血液量を増やしたりして、活動しやすい状態をつくる。 一方、ストレスになるようなツライ状況を乗り越えたときの達成感、うれしい気持ち、快感をもたらすのがドーパミン。

★セロトニンは「快・不快の抑制」!

2)症状

 精神的な大事件(入社試験、卒業試験など)プレッシャーがかかると、その前後に左下腹部の腹痛を伴なう下痢が起こる。ひどい場合は粘液便となり、下痢してもまだあとにつかえている気がする。突如として起こるのが特徴。

①ストレス(+)→腸内自律神経の乱れ→蠕動運動の乱れ→下痢・便秘

②休日や睡眠中などで、交感神経が休まる時は症状がない。

★過敏性腸症候群の痛みは突如現れる!

3)治療

 対症療法として抗コリン剤(副交感神経遮断剤。蠕動運動を止めることで腹痛を止める作用)、精神安定剤。もちろん、生活の見直しと改善は重要。

 実際には、薬物療法でコントロールできない患者は非常に多く、これは鍼灸も同じ。

 2008年から、男性(女性は治験に応募が集まらなかった)下痢型過敏性腸症候群に対しては、塩酸ラモセトロン(製品名はイリボー錠。セロトニン阻止剤。セロトニンは腸を動かし下痢をもたらすが、この働きを阻止する作用)が認可された。対症療法と異なり、長時間の効果があるとのこと。

Qイリボーを服用することで、うつ病になることはないのか?

Aない。イリボーの受容体をブロックするのであって、セロトニンが分泌されなくなるのではない。

★「下痢型過敏性腸症群イリボー錠」は長時間の効果がある!うつになることもない!

😊先に記したように、セロトニンはドーパミンやノルアドレナリンを抑制し、精神のバランスをとるための脳内物質です。そのセロトニンが一過性に過剰分泌によって下痢になるのであるならば、下痢をすることで精神のバランスが取られ、下痢は生体にとって必要な反応とも考えられます。しかしその反応は、非常事態下におけるものです。頻繁にそのような事態(下痢や便秘、腹痛)になるのであれば、やはり過敏性腸症候群を根本的に解決していかなければなりません。

4)鑑別診断

R/O 糖尿病性下痢

 糖尿病では全身の神経・血管がやられる。自律神経も障害を起こすので、腸の機能も狂う。糖尿病性下痢は夜間の下痢が多い。一方、夜間は神経が最も休まるときなので、過敏性腸症候群では夜下痢することはない。

★糖尿病性下痢は夜間に多い。過敏性腸症候群では夜下痢することはない!

R/O 甲状腺機能亢進症

 甲状腺機能亢進症者の40%は腸管蠕動運動亢進のために下痢する。主症状は心悸亢進、頻尿(100~120/分)、体温上昇、精神的不安定。

★甲状腺機能亢進症の下痢は、心悸亢進、頻尿、体温上昇が伴なう!

2.吸収不良症候群

1)原因・病態

 吸収不良症候群とは、小腸からの栄養の消化吸収が障害された状態。

 腸疾患、膵疾患、胆のう疾患などで、消化酵素分泌不全が生ずる(わが国では手術後が多い)ことにより、小腸で消化吸収障害が起こる。栄養物質の吸収力が不足するので、 体重減少、全身倦怠感、貧血が起こる。

 消化酵素分泌が低下するので「浸透圧性下痢」となる。これは、小腸内の浸透圧が高まる結果、体液が腸管内に大量に引っぱられ、多量の水が大腸にいく化学的変化が起こるため。

★吸収不良症候群は、腸、膵臓、胆のう疾患で、消化酵素分泌不全が生じることで下痢になる!

<腸の水分処理>

 小腸は1日10ℓの水を処理している。10ℓの水が流入(口から3ℓ・唾液1ℓ・胃1.5ℓ・胆汁と膵液1.5ℓ・腸液3ℓ)し、一方小腸で9.5ℓを吸収している。小腸を通過した残り0.5ℓを、大腸で0.4ℓ吸収する。大腸での吸収は意外に少ない。

★小腸は1日に9.5ℓ、大腸は0.5ℓの水を吸収している!

2)症状

 腸の機械的運動とは無関係→腹痛は、あまり強くない(便意を我慢できる)。

 下痢は1日1~2回。水溶性の下痢にはならない。(代謝性に大腸水分吸収増大)

 栄養吸収力不足により、体重減少、貧血、浮腫、舌炎(ビタミンB6不足)

★吸収不良症候群は、体重減少、貧血、浮腫、舌炎になる!

3)代表疾患

①胃、小腸切除:吸収部分の減少による下痢

②慢性膵炎、膵臓癌:慢性下痢(膵液分泌低下により、脂肪を分解できず脂肪性下痢)

③乳糖不耐症:牛乳を飲むと下痢する。先天性に二糖類分解酵素であるガランターゼ不足による。本人が自覚しているので、臨床上はあまり問題にならない。

★吸収不良症候群になる代表疾患は、胃、小腸切除、慢性膵炎、膵臓癌!

3.その他の慢性下痢

1)潰瘍性大腸炎:膿粘血便、発熱、右下腹部痛を伴なう

 安倍晋三さんは、中三の時以来、潰瘍性大腸炎の持病があったが、当時開発されたアサコールを服用して以来、血便下痢の回数も大幅に減り、多忙であっても体調が良いとのこと。メサラジン(商品名アサコール)は軽~中症の潰瘍性大腸炎に対する薬で、活性酸素を除去する働きがあり、組織の障害を抑制することで炎症を抑える働きがある。

★安部さんが服用していたのはアサコール!

2)クローン病:浸透圧性下痢、血便下痢

 腸の侵襲部位で、広く浅いのが→潰瘍性大腸炎、深く狭いのが→クローン病

※クローン病:小腸や大腸などの粘膜に慢性的な炎症を引き起こす病気。原因不明、難病指定。

★クローン病で下痢になる!

3)大腸ガン:腸管の通過障害。腹痛を伴なう。とくに血性下痢。

★クローン病、大腸ガンで下痢になる!

4)腸結核:浸透圧性下痢

腸結核:結核菌が腸に感染することによって起こる感染症。

★腸結核で下痢になる!

5)冷えによる下痢

冷えると腸の血管の収縮に伴って蠕動運動が過活動の状態になり、下痢を起こす。

😊下痢を引き起こす原因には、病気も含めてさまざまあります。鍼灸が適応となるのは機能性の下痢です。ウィルス性や細菌性下痢、病気に伴う器質性の下痢は病院での治療が必要です。もし、内臓疾患等の病気に伴う下痢に対して鍼灸を行うのであれば、体調をよくすることを目的とし、結果的に下痢症状の緩和するといったものになります。

第4節 便秘

1.大腸の運動機能

大腸は、蠕動運動、分節運動、逆蠕動をしている。逆蠕動は、盲腸と上行結腸で行われる運動。分節運動は、局所的に収縮を起こす運動で、内容物を運ぶことに無関係だが、内容物を攪乱する(この間に水分吸収と細菌による内容物の分解が起こる)働きがある。これらの3つの動きを繰り返すことで、内容物をこね回し、水分を吸収している。 

 盲腸と上行結腸内にある内容物は液状で、それが粥上になったら、横行結腸へと少しずつ運ばれる。半粥状になるのは下行結腸。

 S状結腸に留まるのが固形物としての便で、直腸に一定の量の便が溜まると、直腸排便反射が起こる。 

 トイレに行き排便の準備が整うと、大脳から排便を抑制していた刺激がとれ、排便の指示が出される。横隔膜の呼吸停止、腹筋を緊張させて腹壁内圧を増加させると同時に内肛門括約筋、外肛門括約筋が弛緩し排便される。このとき蠕動運動が増加し、便の排出を助ける反射が起こる。

★正常便のためには、正しい蠕動運動が行われるべし!

2.下行結腸以下に起こる蠕動と大蠕動 

 大腸が内容物を運ぶのは、主に蠕動運動による。それでも大腸内の便塊の移動は、安静時で分速1mm程度と遅い。下行結腸から直腸にかけて、1日に数回、大蠕動とよばれる通常の蠕動運動の200倍の速さの蠕動が起こり、この時が排便のよいタイミングとなる。食事を取ると胃壁が刺激され、それが大腸を反射的に動かす。これが大蠕動。この一連の流れを「胃・結腸反射」と呼ぶ。

★食事により胃壁が刺激され、大腸が反射的に動く、これが大蠕動。大蠕動は通常の蠕動運動の200倍の速さである!

3.便秘の定義と分類

 「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」が便秘。

 排泄物が長時間腸内に留まり、水分が吸収されて排便困難となる。毎日排便があっても苦痛や残便感などの不快感を伴なう場合には「便秘」とみなす。

・器質性便秘:巨大結腸症、結腸・直腸ガン、粘液水腫、脳卒中後遺症

・機能性便秘:結腸性便秘-弛緩性便秘

            -痙攣性便秘(=過敏性腸症候群)

・直腸性便秘

★鍼灸適応となる便秘は、機能性便秘(弛緩性便秘と痙攣性便秘)!

第1項 常見の便秘

※便秘が女性に多い理由

 a.男性に比べて、女性は腹筋や横隔膜が弱いこと、解剖学的に腸が圧迫されやすいこと

 b.プロゲステロン(黄体ホルモン)の影響

 プロゲステロンは、排卵に備えて腸管内から水分を溜めこむ作用があるため便を硬くしてしまう。また子宮などを緊張させ腸の働きも鈍くする。プロゲステロンは排卵後から月経前(もしくは妊娠中)に最も多く分泌される。この時期に一致して体温次上昇と水分貯留(浮腫)が起こる。これは月経前症候群の症状である。

常習便秘には、痙攣性便秘、弛緩性便秘、直腸性便秘がある。器質性疾患による便秘は除外する。

★プロゲステロンは排卵に備えて腸管内から水分を溜めこむ。だから女性は便秘になりやすい!

1.痙攣性便秘(緊張性便秘)

1)病態

 大腸運動を支配する迷走神経(副交感神経)の過緊張のため腸が痙攣し、下方に押し出せない状態。便秘型の過敏性腸症候群(後述参照)。

 ストレスや何らかのプレッシャーなどで交感神経が活発になり、同時に副交感神経も緊張過多となった病的状態のため腸が正常に働かない。旅行などで便秘になるのも、いつもと違う場所で寝るといったストレスなど。

★過敏性腸症候群(痙攣性便秘)はストレスが原因!

2)症状

 腹痛(+)。兎糞便。グル音増強。左下腹のS状結腸部に強い痛み。若年・壮年期に多い。

 胃-大腸反射が強いので、食後すぐにトイレに行きたがるが便は出ない。緊張性便秘者は副交感神経が緊張しているが、その根本原因はストレスなので、交感神経緊張症も出現する。

※緊張性便秘の「緊張」とは副交感神経の緊張(活動)のこと。緊張(活動)し過ぎにより腸が痙攣し便秘になる。

★痙攣性便秘は、交感と副交感が共に緊張!

😊環境が変わることがストレスとなり、下痢になったり便秘になったりします。修学旅行中に一度も排便がなかった、という経験のある人もいるようです。これは頻繁に便意に襲われる(下痢)よりはいい、むしろありがたいかもしれません。しかし旅行中だけではなく、日頃から便秘というのはよくありません。便秘を不快に感じていないのであれば問題がないかといえば、そうではありません。便秘の程度にもよりますが、便秘は、便秘自体の不快感に悩まされるだけでなく、大腸癌など他の病気の罹患率が高くなるといった話もあります。やはり積極的に改善していくべきと考えます。

2.弛緩性便秘

1)病態:大腸の蠕動運動が低下することにより、大腸内の糞便通過時間が長くなり、水分が多く吸収された結果、便が固くなって引き起こされるもの。

横隔膜の衰えと大腸下垂が関与している。また残渣食の摂取(食物繊維不足)などにより、胃結腸反射が鈍感になり起こる。

 大腸管がたるみ、緊張力のない状態(運動性低下、腹圧低下)、高齢者や内臓下垂者(とくに横行結腸の下垂)に多い。肩こり、頭痛、めまい、倦怠感などを伴なうこともある。

 横行結腸下垂の原因としては、腹筋力低下や横隔膜の筋力低下が問題にされている。横隔膜の筋力低下の原因としては胸式呼吸の習慣が指摘されている。これらの筋力低下があれば排便の時の便を押し出す力が弱くなり、腸の蠕動運動が弱まる。

※低残渣食:胃腸に負担のかからないよう調整された食事のこと。最も負担のかかるのは食物繊維。

※横隔膜は胃腸の状態や位置を正常に保つ役割もある。

★弛緩性便秘の予防改善のためには、繊維質を取り、腹式呼吸等で横隔膜を鍛える!

2)症状 

 腸管に加わる圧力→腹痛(-)

 腹痛なく便意は少ない。胃大腸反射も少なく自律神経の不安症も少ない。要するにすべてが鈍い。気持ちの影響もあまり受けない。下剤の効きも悪い。

※うつ病や薬剤でも弛緩性便秘は起こる。

※弛緩性便秘は常習便秘と合併しやすく、とくに高齢者の傾向が強い。

★弛緩性便秘は、すべてにおいて鈍い!

😊弛緩性便秘は老人や内臓下垂者、つまりは虚証者に多い。弛緩性便秘を改善すべく、繊維質の摂取や、腹式呼吸はやって損はない。やったほうがいいですね。繊維質の摂取はともかく、横隔膜を鍛えるのであれば腹式呼吸にこだわる必要はなく、全身を使い、継続できるものであればどんな運動でもかまいません。

3.直腸性便秘

 糞便が直腸に達しても排便が起こらない便秘。

 通常、糞塊が下行結腸にある間は便意を感じない。糞塊が直腸に入って初めて便意を感じる。

 便が直腸に入ると、直腸内壁が伸張しその刺激は骨盤神経を経て脳に伝わり便意となる。しかし排便を我慢すると、排便抑制の刺激が骨盤神経(副交感神経)、陰部神経(体性神経)に伝わり、内・外肛門括約筋を緊張させて便意は消失する。このように排便を我慢する機会の多い人は、やがて機械的な刺激によっても便意を感じなくなり、慢性便秘症に移行しやすくなる。

 直腸性便秘は排便は一応正常であるが直腸部に糞塊が残り、常時残糞感を強く感じる。

 症状:腹痛(-)、便意(-)

★便意を我慢することで、慢性直腸性便秘になる!

1)骨盤底筋協調運動障害

 腹圧をかける時に外肛門括約筋や恥骨直腸筋にも力が入ってしまい、肛門が締まって、便が排出されにくくなるもの。原因不明。

 通常は、排便しようとして腹圧が上昇し、骨盤底筋はゆるんで下降、肛門と直腸の角度(肛門直腸角)が直角になり、スムーズな排便となります。

★骨盤底筋協調運動障害は外肛門括約筋や恥骨直腸筋にも力が入ってしまう!

〇排便時の体勢

 仰臥位や立位姿勢では肛門直腸角はほぼ直角になり、排便しずらい。そのかわり脱糞もしづらい。便座に座る座位の姿勢では、肛門直腸角が水平に近くなるので排便しやすい。

 寝たり立ったりしている時は、恥骨直腸筋と浅部肛門括約筋の働きにより直腸と肛門の角度は鋭角で、直腸に便が溜まっても体を伸ばしていると安易に出ない仕組みになっている。トイレにしゃがんだ姿勢では体を前に折り曲げる為にこの角度が鈍角になり、便が出やすくなる。

★ウンチングスタイルは肛門直腸角が鈍角になって排便がしやすくなる!

 これらのことにより、高齢者や障害をもっている方が寝たままで排便をするのは、解剖学的な見地からみても非常に難しいことが分かる。ただし加齢や障害によって神経・筋活動が低下すると、骨盤底筋筋力が低下するので直腸-肛門角を鋭角に形成できずに、失禁しやすい状況になることもある。

 排便時、洋式便器では上体を前方に傾斜させ、踵を浮かせた姿勢にすると、直腸-肛門角が直線状態になり、排便しやすくなる。排便のしやすさという点では和式トイレの方が適しているということになる。

★肛門直腸角を鈍角にするため、洋式トイレなら踵を上げろ!

R/O:直腸瘤

 直腸の壁に何らかの問題がある場合、長時間強く息み続けると、直腸に溜まった便の圧力でポケット(直腸瘤)ができる。直腸瘤は高齢者女性に特有のもので、出産や子宮摘出のために直腸壁が脆弱になって起きるケースもある。直腸瘤の治療には手術が必要となる。

4.常習性便秘の病態生理

1)胃結腸反射の消失

 大蠕動後は、排便のチャンス。大蠕動を活発にするには、胃結腸反射を使用することなので、排便のためには朝食を取ることが重要。大蠕動が起こるのは胃結腸反射によるものだとされていたが、以下のテレビ放送では、大蠕動は睡眠中にだけ起こるとのこと。

☆NHK「ためしてガッテン」<出た!「便秘」新対策で劇的改善SP 2016.9.14>

 睡眠中は副交感神経優位になっているので、通常の蠕動運動は活発になるが、大腸の大蠕動も睡眠中に起こるという。蠕動運動が活発になれば大腸内ガスの移動も活発になるので、おならも出やすくなる。すなわち一般的に日中よりも夜間就寝中の方がおならの回数は多くなることが生理的である。

 睡眠中のおならの数が少なければ、大蠕動が起きていないので、大腸内の糞便は下行せず、便秘になりやすい。大蠕動が起きにくい原因として次の理由がある。

 ①熟睡できていないので、副交感神経優位になっていない。夜中にすぐに目覚めるなどと訴える。

★熟睡できないと、副交感神経が優位にならないため便秘の一因となる!

 ②腸内ガスが多量にあって、大蠕動を邪魔している。腸内ガス(食べ物を分解する時に出るメタンガスや水素ガス)が溜まることで腸が張り、大蠕動が起きるのを邪魔している。要するに大蠕動を起こすには、腸内ガスを抜くこと、すなわち睡眠中におならがたくさん出ることが望ましい。

 「不眠 → 交感神経優位のまま → 大蠕動起きず → 便秘」というパターンから、

 「熟睡 → 副交感神経優位状態 → 大蠕動活発化 → 排便」というパターンにするためには、

 不眠を解消すること同時に、就寝前に次の運動がお勧め。

その対処法:うつ伏せゴロゴロポーズ

a.座布団やクッションをお腹(おへそ周辺を目安に)に当てて伏臥位になって10分間寝る。

 大腸のガスは空気よりも軽いので、出口である直腸の方に向かいやすい。うつ伏せで寝転がるということは大腸部分よりも肛門のほうが位置が上になるということである。

b.10分経ったら、体を左右に転がすように傾ける動きをゆっくりと5往復程度行う。

c.この方法で、常習性便秘の8割に効果があったとのこと。

★熟眠、運動、便通は三位一体!

2)排便反射の消失 

 S状結腸内の糞便が直腸に移行し、糞便が直腸壁を伸展すると、その刺激が骨盤神経の知覚線維(内臓求心性神経)を求心路として仙髄の中枢(延髄)へ刺激が到達、同時にその情報が大脳に達して便意をもよおす。

 しかし状況が困難で排便を我慢すると、排便抑制の刺激が骨盤神経、陰部神経に伝わり、内・外の肛門括約筋を緊張させ便意は消失する。

★便意を我慢するべからず!

5.肛門挙筋痛

 立ち座りの時、尾骨~骨盤底筋に感じる強い痛み。肛門挙筋の過剰収縮、同筋の肥厚によるとされる。尾骨外縁の会陽穴あたりに圧痛が出現。その圧痛点に2寸#4程度の鍼で深刺すると有効とされる。実際に似田先生は、この治験が数例あるとのこと。

★会陽部の痛みは肛門挙筋の痛み。本穴に刺鍼する!

第2項 注意すべき便秘

1.直腸癌・大腸癌

早期の段階では自覚症状はほとんどない。進行した場合の症状としては、血便、下血(腸からの出、下痢と便秘の繰り返し、便が細い、残便感、お腹が張る、腹痛、貧血、体重減少など。

 直腸癌では通過障害による腸閉塞が起きやすい。血便が少量ならば外見から判断できず、大便潜血反応を調べる。便が詰まって腹腔内圧が高まることで、排便前に痛むようになる。

★排便前の痛みなど、異常があれば病院へ!

2.癒着による腸狭窄 →本来離れている臓器がくっついてしまうことを癒着といい、開腹手術や虫垂炎、子宮内膜症などの強い炎症によって起こる。小腸や大腸が癒着を起こすと腸閉塞になることもある。

★小腸や大腸の癒着によって腸閉塞になることも!

3.巨大結腸症 

結腸(大腸)の神経異常や炎症性疾患などの病気が原因となり、結腸の蠕動(ぜんどう)運動が正常に行われず、腸が大きく膨らむ病気。

 先天的にアウエルバッハ神経叢が欠落している場合もあり、腸の運動が起こらない。アウエルバッハ神経叢(腸の蠕動調整・制御)とマイスネル神経叢(腸の分泌調整・制御)は、上腸間膜動脈神経叢から起こる。

※アカラシア:食道から胃への食物の流れがスムーズに行われなくなってしまう病気。食道壁の一部のアウエルバッハ神経叢欠落のため、胃に食べ物を送りにくい。そのため噴門は狭く、食道は拡張状態となる。難病指定。

★先天的な病気に伴う便秘がある!

4.鬱病

 鬱病の際に、体内において分泌不全となっているセロトニンは、9割が腸管でつくられ、腸の動きを活発にし、自律神経のバランスを整えることに関わっている。セロトニン不足が、鬱病時に便秘や下痢が多い原因の一つとして考えられている。

 鬱病は、鬱状態のほかに、不眠・便秘がよく併発する。治療は抗鬱剤に加え、睡眠剤と緩下剤(軟便となり排便回数が増える薬剤)を投与することが多い。

※宿便:宿便(便秘)により、肌が荒れやすくなるといわれる。宿便とは、腸の壁に長時間にこびりついている古い便と認識される。腸壁からは常に粘膜が分泌され、またとくに小腸では1日で細胞が入れ替わっているので、宿便ということはあり得ないともいわれます。

 しかし便秘になると肌が荒れる傾向になるのは事実。それは小腸の絨毛細胞から取り込まれた物ではなく、腸の細胞の間が開いて取り込まれた物質が悪影響を及ぼしたと考えられている。

★便秘になると肌が荒れるのは、小腸の絨毛細胞からではなく、腸の細胞の間が開いて取り込まれた物質が悪影響を及ぼしている!

第5節 下痢・便秘の鍼治療

第1項 排便のしくみ

1.診断名と腹痛・下痢・便秘の症状の組み合わせ

 ①胃に食べ物が入り、その刺激で大腸の蠕動運動が起こり、便が直腸へ送られ直腸内圧亢進(糞便)

  ↓

 ②直腸が拡張し糞便があるという情報が、骨盤神経(副交感)により、

  ↓

 ②仙髄の排便中枢(腰・仙髄)へ伝わる→大脳へ(便意)→ 便を出すor我慢の指令を出す

  ↓ ①骨盤神経(副交感)

   直腸収縮、内肛門括約筋弛緩

  ↓ ②陰部神経(体性)

   外肛門括約筋弛緩、骨盤底筋緊張

  ↓ ③腹筋・横隔膜緊張による「いきみ」

  ⇒①②③によって排便される。

 直腸内に糞便が溜まれば便意が生じ、自律神経とくに骨盤神経(副交感)の作用により排運動が起こる。ただし排便我慢は、意志により陰部神経を興奮させることで外肛門括約筋の強度収縮が可能となる。骨盤神経(副交感)が働かなければ蠕動が起きず(弛緩性便秘)、働き過ぎれば分節運動主体となり緊張性便秘となる。したがって排便障害(便秘)の鍼灸治療は骨盤神経刺激(骨盤神経活発化)が主体となる。

弛緩性や直腸性の便秘であれば、骨盤神経の働きを活性化させるために骨盤神経(八髎穴)を刺激し、痙攣性の便秘であれば、骨盤神経の働きを抑制させるために、やはり骨盤神経(八髎穴)を刺激する。

※末梢穴(梁丘や血海など)は副交感神経の働きを活発化するので、弛緩性や直腸性の便秘には効果的。末梢穴を痙攣性の便秘に用いる場合は強刺激する。

★排便を運動を起こす神経は骨盤神経!

・小腸

 原因 :水分分泌亢進と栄養吸収力低下

 症状 :下腹痛(-)、軟便・異臭便

 診断名:吸収不良症候群

※吸収不良症候群とは、消化・吸収の働きが低下し、食物中の栄養素が十分に吸収されずに起こる病気の総称。栄養の吸収は主に小腸で行われるため、吸収不良が起こるのは小腸粘膜の異常による場合がほとんど。

★消化が十分に行われないために、吸収不良となることもある!

・下行結腸

 原因 :蠕動運動亢進、分節運動亢進、大蠕動運動低下

 症状 :蠕動運動亢進 →下腹痛(+)、下痢 →急性下痢(食中毒)

     分節運動亢進 →下腹痛(-)、便秘 →痙攣性便秘

     大蠕動運動低下→下腹痛(-)、便秘 →弛緩性便秘

・直腸

 原因 :炎症による反応性亢進、直腸の反応性低下

 症状 :炎症による反応性亢進の場合 →下腹痛(+)、裏急後重 →食中毒

     直腸の反応性低下の場合   →下腹痛(-)、便秘   →常習性便秘

※裏急後重:しきりに便意を催すのに排便が少量で、すぐまた行きたくなる状態。赤痢の代表的特徴。常見では細菌性食中毒。

①下痢+下腹痛(+)=急性下痢(食中毒)

 →蠕動運動亢進すると大腸通過時間が短く。大腸管が水分を吸収する時間が少ないので下痢になる。交感神経興奮させて腸の蠕動運動を鎮める。(腰神経叢刺激⦅外志室⦆、梁丘刺刺激)

 →直腸の炎症では裏急後重(渋り腹)が生ずる。直腸の局所治療点である。会陽刺激で直腸粘膜の過敏性を鎮める(副交感神経緊張を鎮める)。古来から、裏内庭多壮灸が効くとされている。

②下痢+下腹痛(+)=(寝冷え)→内温低下で小腸の吸収力低下。臍塩灸。

③下痢+下腹痛(-)=吸収不良症候群。速効がある鍼灸治療なし。脾虚証の治療?

④便秘+下腹痛(+)=痙攣性便秘。瀉法的内臓刺により蠕動運動を鎮静化、腰神経叢刺激(外志室)※この場合の外志室刺鍼は、外志室から椎体前面に鍼先をもっていくよう斜刺。

⑤便秘+下腹痛(-)=弛緩性便秘、直腸性便秘 ←常習性便秘の大部分。補法的内臓刺により蠕動運動を活発化。骨盤神経叢(中髎)。常習性便秘に対しては、直腸壁の過敏性をとる会陽刺激。

※痙攣性便秘:精神的ストレスによるものが多い(過敏性腸症候群)

※弛緩性便秘:食物繊維の不足など、不規則な食生活によるものが多い

★裏内庭、梁丘、臍、外志室、会陽を用途に応じて!

2.蠕動状況による便秘と下痢の相違点

 蠕動亢進では腹痛(+)、蠕動正常ないし低下では腹痛(-)。蠕動亢進時、それが蠕動運動主体なら下痢となり、分節運動主体であれば緊張性便秘になる。蠕動運動は、近位結腸は迷走神経(副交感神経)、遠位結腸以下は骨盤神経(副交感神経)により促進され、腰部交感神経により抑制される。蠕動運動を止めるには、理論的には腰神経叢刺激(L1~3)への直接刺激、または腰神経叢から伸びる枝(深腓骨神経や大腿神経)を刺激する。その代表穴として、大腿神経支配である血海や梁丘が知られる。

※深腓骨神経や大腿神経への適度な刺激は胃腸の蠕動運動が活発化(副交感神経活発化)する。ゆえに蘭尾や梁丘の強刺激は蠕動運動を瀉すために用いられる。蘭尾や血海・梁丘(胃・郄)は急性下痢に用いられる。施術法としては、腹に響かせ、5分置鍼。

※八髎穴もいい。

 ・蠕動運動亢進で腹痛(+)、蠕動運動正常は腹痛(-)

  → 蠕動主体なら下痢

  → 分節主体なら便秘

 ・近位結腸-迷走神経支配(副交感神経)

 ・遠位結腸-骨盤神経支配(副交感神経)

※沢田流では、大腿外側皮神経上では足陽関穴(胆・寒府穴)が、下腹の冷え込みを治す穴として有名。沢田健によれば、寒府は内傷ではなく外感性の足から忍び寄る冷えに対して適応があり、主に灸治療するとのこと。

※足陽関:腓骨頭前下縁に陽陵泉をとる。その上3寸で腸脛靭帯の後縁。腸脛靭帯と大腿二頭筋腱の間。

★蠕動運動亢進を止めるには、蘭尾(奇)、血海(脾)、梁丘(胃)の強刺激!

3.下痢と便秘の鍼灸治療目標

 下痢か便秘かという症状別ではなく、腹痛の有無で判断する。腹痛があれば、蠕動運動亢進であることを意味し、その蠕動の運動様式により、下痢になったり便秘になったりするという訳である。蠕動運動亢進状態を是正するには、中髎刺鍼して骨盤神経興奮を鎮めることと、蠕動運動亢進状態にある腸管への内臓刺を行う。

・痛みあり → 中髎+腸管直接刺激(蠕動亢進是正)

・痛みなし → 鍼灸不適応

★蠕動運動亢進(腹痛あり、副交感神経過緊張)を是正→中髎刺鍼にて骨盤神経興奮を鎮める&腸管への直接刺!

 腹痛や下痢の代表は、吸収不良症候群であるが、これは鍼灸適応外になる。腹痛のない便秘には、弛緩性便秘や直腸性便秘が該当する。これらは腸管に直接刺激を加えて、揺り動かすような内臓刺を行う以外の治療法しか思いつかない(似田先生)。

・痙攣性便秘:蠕動運動亢進を是正するために、中髎(副交感神経)刺鍼により骨盤神経興奮を鎮める。もしくは耳介肺区。

・弛緩性便秘:左外志室、腰宜、天枢、四満、秘訣

・直腸性便秘: 同上

※吸収不良症候群:消化・吸収の働きが低下することで、食物中の栄養素が十分に吸収されずに起こる病気の総称。悪性疾患などの治療目的のため手術により消化器を切除した場合や、小腸粘膜の障害に関連して起きる。

★痙攣性便秘は蠕動是正し、弛緩性便秘、直腸性便秘の鍼灸治療は、腸管への直接刺だけ!

第2項 下痢の鍼灸対症療法

1.小腸性下痢(吸収不良性下痢)

 寝冷えなどで生ずる下痢・腹痛。腹が冷えて生じた下痢は、あまり腹痛のないものが多い。腸内温度低下で小腸の吸収力低下。臍を中心とした箱灸、温案療法を実施。とくに臍部は皮下脂肪がなく腹膜につながっているので、臍部の温熱刺激は、低下した腸の核心温度を上昇させるのに効果的。ただし冷えによる小腸性下痢は、一過性で間もなく自然治癒する。鍼灸に来院することはあまりない。

※鶏鳴下痢:早朝、ニワトリが鳴く頃に生ずる下痢のこと。冷えが原因であることが多い。鶏鳴下痢には崑崙がよく効く(代田文誌)。

※臍上の塩灸では、効果を上げるのに1時間を要するので非現実的(木下晴都)。

★臍上の塩灸は、効果を上げるのに1時間を要するので非現実的!

2.大腸性蠕動運動亢進による下痢(森秀太郎「はり入門」より)

 腹鳴・腹痛を伴なう下痢は、腸の蠕動運動亢進状態であることを意味している。このような状況で鍼灸は奏功しやすい(高熱を伴なう細菌性下痢を除く)。治療方針は下痢を止めるというより、腹痛をとることを心掛ける。腹痛が少なくなり、腹部の不快感がとれれば自ずと下痢も止まる。

★腹鳴・腹痛を伴なう下痢は鍼灸が効く!

第3項 便秘の鍼灸対症療法

常習性便秘に分類される、緊張性便秘、弛緩性便秘、直腸性便秘の対象鍼灸治療について。

1.下行結腸に対する腰部からの刺鍼

 内臓体壁反射の理論では、大腸は上行結腸~下行結腸までは交感神経が主導権を握り、その反応は背部に現れる。さらに大腸は、上行結腸と下行結腸が後腹膜臓器であって、下行結腸を刺激する目的として、左大腸兪・左腰宣(ようぎ=別称、便通穴)などを刺激する。

 下行結腸は、腰方形筋の深部にあるので直刺深刺すると内臓刺ができる。この部は皮下脂肪や筋組織が豊富(下図では少なく表現されているが)なので、深刺すべきである。上行結腸と下行結腸の内縁には腎臓(T12~L3の高さ)があるので、下行結腸に刺入する際には、腸骨稜(L4の高さ=腸骨稜上縁)から実施することで、腎臓に刺入するのを予防できる。

・腹膜内器官:腹膜に覆われた腔にある臓器

・腹膜後器官:腹膜に覆われておらず、腹膜後壁より後方に位置する臓器

  腎臓、膵臓、十二指腸、上行結腸、下行結腸~直腸、尿管

★下行結腸の反応は背部に現れる、よって左大腸兪・左腰宣への深刺!

1)左肓門外方(郡山七二『鍼灸臨床治法録』)

 志室の上1.5寸。L1棘突起下外側8cmの部。下行結腸刺激。脊柱の方に向けて圧すると広背筋、外腹斜筋を触知できる。その筋群を直刺する方向と角度で4cm刺入し、強刺激する。「これだけで必ずといってよいほど通じがある」と記している。

※似田先生の意見:横行結腸は腹直筋の直下で比較的浅層に位置してるのに対し、下行結腸は左下腹部の小腸の奥にある。下行結腸への刺入は、郡山七二のように、横腹から刺入する方法も一理ある。ただし普通は、伏臥位で腰方形筋の腸骨稜起始部(=便宜穴)から直刺深刺する。

★下行結腸刺激は、左肓門外方よりも伏臥位で便宜穴から直刺深刺!

2)便通穴(=腰宣)

 便通穴とは木下晴都氏が命名した。腰宣穴に相当するのだが、左腰宣穴のみ便通穴とよぶ。

 L4棘突起左下外方3寸。腰方形筋の外で、腸骨稜の直上を取穴。やや内下方に向けて3cm刺入。

 森秀太郎著「はり入門」では、「深さ50mmで下腹部に響きを得る」とある。下行結腸内蔵刺になる。

★左腰宣穴のみ便通穴とよぶ!

2.小腸に対する腹部からの刺鍼

 以下に記す天枢や四満は、左下腹部からの刺鍼になる。深刺しすれば腹筋群→腹膜→大網→腸間膜→小腸へと入ります。響かせるのが秘訣とのことですが、響かせるとは、筋膜や腹膜に鍼で刺激を与え、腹部肋間神経を刺激することを意味すると解釈する。

★天枢や四満は深刺しで、腹部肋間神経を刺激!

1)天枢深刺(森修太郎「はり入門」医道の日本社)

 森修太郎が最も重視していたのが天枢への雀啄鍼。森氏の天枢鍼は、臍の外方1.5寸にとっている(教科書的には臍の外方2寸)。15~30mm直刺し、腹腔内に鍼先を入れ、腹腔内刺入を目標としている。中国の文献では、天枢から深刺し、下腹から下肢へ引きつれるような鍼響を得て、初めて効果が出ると説明しているものもある(似田先生)。

 同書に、下腹部の張り、頭重、肩こり、腰痛など便秘による不快感は、便通さえあれば解消する、とある。

森修太郎:元社団法人日本鍼灸師会副理事長・元社団法人大阪府鍼灸師会会長     

★便秘の治療に、森修太郎は天枢への雀啄鍼を最重要視!

2)四満移動穴(柳谷素霊「秘伝一本鍼伝書」医道の日本社)

 教科書の四満は、臍下2寸に石門をとり、その外方5分。柳谷素霊の四満は、臍下2寸に石門をとり、その左外方1寸の部をとる。実証者の便秘には、2~3寸#3で直刺、2寸以上刺入して、上下に鍼を動かす。この時、患者のこぶしを握らせ、両足に力を入れしめ、息を吸って止め、下腹に力を入れさせる。肛門に響けば直ちに息を吐かせ、抜鍼する。虚証者の便秘については、寸6#2で直刺深刺。鍼を弾振させて、肛門に響かせる。この時患者は口を開き、両手を開き、全身の力を抜き、平静ならしめる。いずれも肛門に響かないと効果もないと考えてよい、とある。

★実虚ともに響きが重要!

3.下行結腸・S状結腸に対する骨盤内筋の筋膜刺激

 腸周囲の筋々膜緊張あるいは癒着が腸管の通過障害を起こしているとの考えがある。この場合、腸骨筋や内閉鎖筋の緊張が問題となる。また腸内の癒着予防は、便秘予防が重要。

1)腸骨筋刺鍼としての左府舎刺鍼

 教科書の府舎は、恥骨上縁から上1寸の前正中線上に中極を取り、その外方4寸で、鼠経溝の中央から一寸上を取穴する。府舎を便秘で使うとしているのは、森秀太郎(『はり入門』医道の日本社)で、寸6の6番の鍼で、やや内方に向けて10~30mmほど刺入すると、下腹部から肛門に響きを得る、とある。左府舎からの直刺は下行結腸に入れるというより、その外方にある腸骨筋に入れて響かせることを意識していると思われる。

 似田先生の意見:腸骨筋は大腰筋の影に隠れて一見目立たない筋だが、骨盤内で広い体積を占めている。腸骨筋が股関節に癒着して鼠径部痛を起こすことが知られている。鼠径部外端から内方1/3の部から刺鍼することは、この部に糞塊を触知できる弛緩性便秘の治療に使えると主張する者もいる。

★腸骨筋が股関節に癒着して鼠径部痛を起こす!

2)秘結穴(左腹結移動穴)

 秘結穴は、(木下晴都『最新鍼灸治療学』医道の日本社)に載っているツボ。

 一般的な左腹結部位(臍の外方3.5寸に大横をとり、その下方1.3寸)では効果が期待されないと記されている。仰臥位、左上前腸骨の前内縁中央から右方へ3cmで脾経上を取穴。3~4cm速刺速抜する。この刺鍼は、鍼先が腹膜に触れるため、約2cmは静かに入れて、その急速に刺入し、目的の深さに達した途端に抜き取る、とのこと。

※似田先生の意見:本穴の刺法も、前述の府舎と同じように、腸骨筋刺鍼になると予想する。

★秘結穴も腸骨筋刺鍼!

3)内閉鎖筋緊張に対する陰部神経刺鍼

 骨盤の閉鎖孔を内側から塞いでいるのが内閉鎖筋。内閉鎖筋が緊張すれば、陰部神経や陰部動脈を圧迫して泌尿器科症状を生ずることがある。また左内閉鎖筋が緊張すれば、S状結腸を圧迫することで便秘になることも指摘されている。左内閉鎖筋への刺鍼とは、左陰部神経刺鍼に他ならない。陰部神経刺鍼は、陰部神経刺鍼は、陰部神経への刺激かつ内閉鎖筋への刺激になる。

 側臥位。3寸鍼を使用。上後腸骨棘と坐骨結節を結んだ中点から、一横指下方を刺入点と定め、閉鎖孔へ向けて深刺することが内閉鎖筋刺鍼になる。

★内閉鎖筋の緊張は陰部神経や陰部動脈を、左内閉鎖筋はS状結腸も圧迫する!

4.直腸性便秘

 便が直腸に来ているのに、便意が起こらず、ぞの結果便の回数が減ったり、便が硬くなってしまう便秘。通常、糞塊が下行結腸にある間は便意を感じない。糞塊が直腸に入って初めて便意を感じる。便が直腸に入ると、直腸内壁が伸張しその刺激は骨盤神経(副交感神経)を経て脳に伝わり便意となる。しかし便意を我慢すると、排便抑制の刺激が骨盤神経、陰部神経に伝わり、内・外肛門括約筋を緊張させで便意は消失してしまう。このように排便を我慢する機会の多い人は、やがて機械的な刺激(機械的下剤等)によっても便意を感じにくくなり、慢性便秘症に移行しやすくなる。

 直腸性便秘は排便は一応正常であるが直腸部に糞塊が残り、常時残便感を強く感じる。

 症状:腹痛(-)、便意(-)

※機械的下剤:便に含まれる水分を増加させることで、硬くなった便を軟らかくする効果を持つ薬。

★普通は便が直腸に入れば便意が起こる!

1)会陽刺鍼 

 結腸~S上結腸は、副交感神経(骨盤神経)により運動支配されているので、教科書的にはS2~4骨盤神経狙いで、次髎~下髎を考えることになる。ただし実際にはあまり効果は得られない。そこで支配神経に働きかけるのではなく、鈍感になった直腸壁にダイレクトに刺激をしたらよいかもしれないとする発想から、会陽から肛門に響かせる方法が存在する。

 会陽(膀):長強の外方5分

★会陽刺鍼は直腸壁をダイレクトに刺激する!

第6節 虫垂炎と鍼灸治療

1.病態と症状

 虫垂は回盲便直下の盲腸に開口する指のような形をした突起。虫垂は規則的に食物を取り込み、そして排泄しているが、その機能は不明。免疫に関与しているとの説もある。

 虫垂炎の病理は、粘膜の潰瘍→閉塞(寄生虫、食物の種、糞石など)→拡張(内分泌貯留による)→炎症・細菌感染→穿孔による腹膜炎と移行する急性化膿性炎症。

虫垂は欠かせない存在であるとされる理由は、善玉菌の備蓄機能を備えているためと考えられている反面、虫垂は潰瘍性大腸炎の元凶であるという相反する意見もある。

★虫垂の働きは善玉菌の備蓄!

2.症状

 腹痛、発熱、悪心嘔吐を主徴とする。初発は心窩部痛で始まることが多い。

 虫垂の収縮と拡張が腹痛を生む。細菌感染や炎症が発熱や白血球増多を生ずる。

内臓痛期:痛みは心窩部にある。腸管の痙攣が症状を生む。

関連痛期:虫垂に強い炎症をきたせば、疼痛部位は下腹(T11~12の前面)に移動して疼痛は激しくなる。

体性痛期:炎症が腹膜に波及すれば、患部に限局した強い痛みが出現。

 筋性防御(+)、ブルンベルグ(+)

★虫垂炎で、筋性防御、ブルンベルグ徴候が出るのは体性痛期(炎症が腹膜に波及)!

3.虫垂炎の圧痛点

 ①マックバーネー点:臍と右腸骨稜を結び、腸骨稜から1/3の点

 ②マンロー点:臍と右腸骨稜を結び、臍側から1/3点

 ③ランツ点:左右の腸骨稜を結び、右腸骨稜から1/3の点

 ④ラップの四辺形:臍と恥骨を結んだ線、臍からの水平線と右上前腸骨棘から垂直に伸びた線が交わる点、右鼠経靭帯。これらに囲まれた四辺形。

 ⑤ローゼンシュタイン徴候:左側臥位で右下腹の圧痛点を圧迫すると、仰臥位で圧迫する時より強い痛みを訴え現象。

 ⑥ロブジング徴候:下行結腸から口側に向かって圧迫したとき、回盲部に疼痛を訴える。

★マックバーネー、マンロー、ランツ、ラップの四辺形、ローゼンシュタイン、ロブジングとくれば虫垂炎の圧痛点!

4.虫垂炎の現代医学的治療

 穿孔や腹膜炎への移行を回避するため、早めの手術による虫垂切除を行うことが多いようだが、回復してみて本当に手術が必要な状態が3割だったとする報告がある。実際は、即座に手術が必要なケースは、診断が遅れて炎症が進行し破裂寸前になったような、ごく少数の例外的ケース。大半は、強力な抗生剤で処置するだけで、手術は回避できるとのこと。

★虫垂炎は、不必要な手術が多数行われている!

5.虫垂炎の鍼灸治療

1)内臓-体壁反射治療:右下腹部のT11~L1領域の反応点刺激。背腰部の施術は不要。

2)遠隔治療

①梁丘:膝蓋骨外上角から上方2寸、大腿直筋と外側広筋の筋溝を取穴。大腿神経刺激。大腿神経は腰神経叢から出る。腰神経叢L1~3は、小腸兪~大腸兪(S状結腸の手前まで)を支配。

②蘭尾:足三里の下2寸。深腓骨神経刺激。蘭尾とは中国語で虫垂のこと。虫垂炎の特効穴として中国で発見された。強刺激を行う。

※森修太郎「はり入門」では、上巨虚(足三里の下3寸)の高さで、脛骨骨際に取穴。10~15mm刺入とある。

 刺鍼で鍼響を下腹にもっていくと効果的になる。

☆梁丘や足三里などの刺鍼は、通常であれば末梢側に響きが得られるが、腹部症状に対処するためには、腹部に響きを与えると治療効果が上がるといわれている。

鍼響を上に向けるには、所定の深さまで刺鍼し、末梢に鍼響が得られることを確認後、刺鍼部位から1~2cm末梢足を指頭で強圧し、その状態で鍼を雀啄するようにするとよい。ただしこの強圧をするためには、助手などの人でが必要。手技鍼する一方で、押圧すると力不足でうまくいかない。

★虫垂炎治療のツボは、梁丘、蘭尾、足三里、上巨虚。肺腰部は不要!

3)虫垂炎の鍼灸の治療成績

 中国の成績(上海、広東、桂林の各病院)によれば、鍼治療により92%に回復や軽減をもたらすが、1年半後の追跡結果では結局炎症が再発し、42%が虫垂突起の切除を必要とした。(ニーダム他著「中国のランセット」)

★虫垂炎に対しての鍼治療は、結局再発するものが多い!

第7節 痔疾患と鍼灸治療

1)痔とは

 痔とは、痔とは肛門病の総称です。痔核(いぼ痔⦅内痔核・外痔核⦆)、痔瘻(あな痔)、裂肛(切れ痔)などがあります。

※内痔核が肛門外に飛び出すものが脱肛

 痔核←循環障害(1/2)、痔瘻←細菌感染(1/4)、肛門裂創←物理的外傷(1/4)

★痔は3種類。いぼ痔、あな痔、切れ痔!

2.肛門の解剖と機能

①肛門長は約3cmで、その奥には直腸がある。肛門を収縮させるため、内肛門括約筋・外肛門括約筋に二重の筋層に囲まれている。また肛門を持ち上げるため、上方に肛門挙筋がある。

★肛門の筋肉は、内肛門括約筋・外肛門括約筋、肛門挙筋の3つ!

②肛門外端から1.5cm内側に、歯状線がある。歯状線は、便内容物が液状なのか固体なのかを判別し、便の硬軟も判別する機能をもつ。体調不良時には、歯状線の判別力が低下することがあるので、ガスを出そうとして便が出てしまうことがある。歯状線より上が直腸で知覚はない。歯状線より下が体外で、体外は脊髄神経支配であって知覚に富む。つまり内痔核は痛くなく、外痔核は痛みを感じるということ。

★歯状線は、便内容物が液状なのか固体なのかを判別。体調不良時判別力低下!

③肛門は直腸静脈叢の一部である内痔静脈叢と外痔静脈叢とで二重に取り巻かれている。排便でいきむと、少々血液が流れ込んで鬱血する。これは、便が通るときのクッションの役割をしていることになる。

 歯状線を境にして、粘膜の直腸部分には知覚神経がないため痛みを感じないが、皮膚である肛門の部分は知覚神経が豊富にあるので痛みを感じる。内痔静脈叢は歯状線内、外痔静脈叢は歯状線外。

※「痔」の語源:元々は「峙」と書いた。孔の周りに立ちはだかるという意味がある。いつの間にかヤマイダレがつき、疾病を意味するものになった。

★内痔静脈叢と外痔静脈叢はクッションの役割!

3.痔核(いぼ痔)

1)病態生理(肛門上皮滑脱説)

 痔核とはシコリのことで、肛門内にできるのが内痔核、肛門外にできるのが外痔核。

 人間は直立するので、静脈還流は四つ足動物よりも悪くなる。とくに直腸~肛門管の静脈(上・中・下直腸静脈)には静脈便がないため、粘膜下の内痔静脈叢が鬱血し、静脈瘤を形成しやすい。排便時の肛門周囲の静脈叢伸縮→静脈血管の弾性消失→静脈鬱血(血栓)という機序。

 内痔核の発生部は上直腸静脈終枝の静脈叢にあり、外痔核は、下直腸静脈が肛門の皮膚に分布する部に発生する。病理学的には痔核は、血管が拡張・蛇行した静脈流様病変で、大便の摩擦により静脈の支持組織が滑脱した結果が内痔核だとするのが、現在主流の学説のよう。

 (旧説)

 排便時のイキミにより、直腸下部と肛門にある静脈血流が一時的に止まり、これが静脈瘤ができる原因となるという説。しかし今日では、肛門部の静脈瘤はだれにでもあり、それは便のストッパーとしての役割を果たしていることが明らかとなった。

★いずれにしても、静脈還流の悪さから痔となる!

2)外痔核と内痔核の比較

・外痔核                         

 頻度:少

 患部:歯状線の下側

 痛み:あり

 出血:止血しやすい(血栓できやすい)

 重症度:重症はない

・内痔核

 頻度:多

 患部:歯状線の上側

 痛み:なし

 出血:出血しにくい(血栓できにくい)

 重症度:軽度~重度

3)内痔核

①症状:粘膜部の障害なので痛み(-)。出血は止まりにくい。

②重症度

 内痔核は、4段階に分類される。

 ・脱肛:肛門クッションが元の解剖学的位置から引き離され弛緩し、下垂して肛門外へ飛び出した状態。内痔核のⅢ度以上のタイプに生ずる。脱肛はすぐに中に戻れば痛みはないが、戻らない状態が続くと腫れて内出血を起こし、強い痛みを生ずる。放置すれば癌化することも。

★内痔核が重症化すると、脱出したまま戻らなくなり、腫脹、内出血により強く痛む!

③内痔核の治療

1度:温罨法や鎮痛座薬治療

2度:内痔核硬化療法。注射薬であるALTA(商品名:ジオン注射)を内痔核に注射して、痔核内に流れ込む血液量を減らして痔を硬くし、直腸粘膜に癒着固定させる。注射は内痔核(知覚がない)部に行うので、痛むことはない。2~3日の入院が必要。

3度以上:結紮切除術。腰椎麻酔下で、内痔核に注入動脈を根本の部分でしばり、痔核を放射線状に部分的に切除。1~2週間程度入院が必要。

※昔の内痔核の手術は、ホワイトヘッド手術といい、痔核だけでなく、周囲の肛門上皮も全てリング状に取り除いてしまうものだった。この手術は非常に痛いことで有名。後遺症として腸の粘膜が、かなり手前まで下がってくる脱肛状態となり問題だった。

④外痔核の治療:硬化療法が使えないので、局所麻酔して痔を切開摘出。

★内痔核も軽度のうちは温罨法のみで治癒。重症化すれば手術!

4.肛門周囲膿瘍と痔瘻(あな痔)

痔瘻とは肛門内から外皮まで管ができるもの。「瘻」とは直腸肛門管と交通のある管の意味

1)概念:肛門の細菌感染症。肛門周囲膿瘍とは、痔瘻に至る途中過程。半数の者は肛門周囲膿瘍に留まり、残りの半数は痔瘻まで進展する。

★肛門周囲膿瘍は、痔瘻に至る途中!

2)原因

 肛門小窩(歯状線の凹んだ部分)に糞便が付着

 →炎症を生じて肛門周囲に膿が溜まり非常な痛みと発熱(=「肛門周囲膿瘍」状態)

 →膿胞が破れて後、管状の空洞(瘻管)ができる。 

 →この瘻管から細菌侵入し炎症惹起する。

※肛門周囲膿瘍:①肛門小窩(歯状線の凹んだ部分)に糞便が付着→②炎症を生じて肛門周囲に膿が溜まる。痔瘻に至る途中過程。

★肛門を清潔に!

3)症状

①肛門周囲潰瘍:非常な痛みと発熱(排膿すると疼痛発熱はなくなる)

②痔瘻:肛門掻痒感、下着が汚れる(下痢する者は肛門小窩が不衛生になりがち)

★肛門周囲潰瘍で痛みと発熱を生じる!

5.肛門裂創(裂肛・切れ痔)

1)病態生理

 排便の際の肛門部外傷。とくに硬い便をいきんで排泄する際に生じやすい。破れるのは歯状線と肛門縁間にある1.5cmくらいの部位。

 排便時刺激による会陰神経の興奮→内括約筋の痙攣

 →これがトリガーとなりさらに陰部神経興奮し続ける(痛みが続く)

※陰部神経

仙骨神経前枝(S2~4)で構成される。陰部神経は、下直腸神経・会陰神経・陰茎背神経の3枝に分かれる。

・下直腸神経:肛門の活躍筋の運動

・会陰神経 :会陰部の知覚

・陰茎神経 :外尿道括約筋の運動、陰茎の知覚

★肛門裂肛(切れ痔)の予防は、便秘を予防すること!

2)症状と現代医学的治療

 外傷程度が軽い場合は便は軟らかくしておけば自然治癒する。しかし硬い便を繰り返し出すと同じ部位が何回も切れ、肛門潰瘍となり肛門が狭くなり(=肛門狭窄)、このためさらに切れやすくなるという悪循環が生じる。この場合には潰瘍部分の切除必要。

★便秘→肛門出血→肛門潰瘍→肛門狭窄→肛門が切れやすくなる!

3)症状:排便時の激痛と出血、排便時の痛みと、その後しばらく続く痛み。

6.鍼灸院における痔疾の診察

 痔疾の治療で、最も注意すべき疾患は大腸癌や直腸癌である。「大便に血が混じる」という訴えのみでは、癌と痔疾と区別がつかない。直腸癌やS結腸癌に痔疾の合併しているケースもある。疑わしい場合は直腸内診を依頼すべく、専門病院に転送する。

★大便に血が混じるのは、癌と区別がつかない!

1)痔疾や裂肛:排便時の痛みと出血、便に血が混じると訴える。

 便通異状なし(排便時の痛みの恐怖から排便を我慢し、便秘になることがある)

R/O:直腸癌、S状結腸癌→便秘ときに下痢、細い便、粘血便

★細い便、粘血便は直腸ガンの疑いあり!

2)痔瘻:肛門周囲の痒み、下着が汚れる

R/O:外陰部掻痒症

 外陰部から肛門にかけて頑固な掻痒感。視診上変化はない。原因不明だが、更年期障害のホルモン異常、妊娠、アレルギー、糖尿病、精神的因子などを考慮。

★肛門周囲の掻痒感は、更年期障害のホルモン異常、妊娠、アレルギー、糖尿病、精神的因子!

7.痔疾の鍼灸治療

1)鍼灸の適否

 痔核は治しやすく、脱肛は非常に治しにくい。裂肛は軽症であれば自然治癒し、重症であれば潰瘍部に切開手術が必要となるので鍼灸不適応。痔瘻は不適応で手術しない。したがって鍼灸適応は痔核のみ。

★鍼灸は適応は痔核のみ!

2)内痔核に対する長強外方をとり、そこから外方3cm。直刺で2寸ほど深刺すると肛門挙筋中に入る。この刺鍼は肛門静脈叢にも影響を与え、静脈鬱血を改善させると考えられる。普通は10分間程度置鍼する。肛門静脈叢、肛門神経(陰部神経の分枝)、肛門挙筋の三者に影響を与える。肛門が気持ちよく温まり和らいだ感じが得られる。

★内痔核には長強外方刺鍼!

3)痔核に対する、痔核自体への施灸

 外痔核または3度以上の内痔核では、肛門から露出しているので、痔核そのものに施灸可能だが、羞恥心の強い部であるとともに、非常に熱く感じる。

★痔核への直接灸は恥ずかしい&熱い!

4)特効穴

①百会の灸(代田文誌「鍼灸治療基礎学」医道の日本社)

 代田文誌氏は、「鍼灸治療基礎学」の中で、百会の灸は痔疾には効くが、脱肛には効かぬと記している。石坂宗哲氏は、百会は小児脱肛には効くと記している。

★百会は脱肛には効かない!小児脱肛には効く!

②沢田流孔最(代田文誌「鍼灸治療基礎学」医道の日本社)

取穴:沢田流では尺沢から太淵までを1尺と定めたとき、尺沢から3寸下方で手三里より1寸側方で腕橈骨筋上。最高過敏点の硬結を取穴。痔核の位置によって本穴の圧痛は移動する。左右を比べ、圧痛の強い側を取穴するとある。沢田流孔最は標準孔最より、やや上方に位置する。

適応:痔痛、痔核、痔出血、痔瘻、裂肛、脱肛に効くが、脱肛には効かないこともある。灸治が適する。

★孔最は脱肛には効かないこともある!

小松福松氏:左右の沢田流孔最を調べて、圧痛や硬結の多い方が患部である(必ず患側に強く発現する)。まず硬結を目標に5~7壮施灸する。そして硬結は、翌日になれば必ず移動している。毎日移動している硬結を求めて、その中心に施灸する。そのうち硬結の移動が止まる。この時が治癒の近づいた印である。(現代日本の鍼灸 医道の日本社)

考察:三島泰之氏は、次のように述べている。「痛みを我慢する姿勢は、歯をくいしばり、上下肢を含めた全身に力を入れた状態になる。昔の排便スタイルでは、膝を相当窮屈に曲げた状態で、手は自然と結ばれ、前腕は屈筋に力が入った状態になる。痔の痛みの中での排便のポーズは、この延長上である」(「今日から使える身近な疾患35の治療法」医道の日本社)

 これと同様の考え方だが、小宮猛史氏は、実体験から排尿困難時に排便姿勢をしつつ両側の合谷を押圧しながらイキむと大便が出やすくなると書いている。(ブログ「JTDの小窓」より)

★両側の合谷を押しながらイキむと大便が出やすい!

 これらのことから、孔最や合谷の刺激を有効にするには、仰臥位で施灸するのではなく、坐位で強く手を握りしめた肢位で行うべきだというヒントが生まれる。

※孔最の「孔」とは貫通している穴を意味する。これに対して「穴」は貫通していない「穴」の。つまり凹みのこと。

★痔の特効穴は百会と孔最!

😊人体に無数にあるツボ(WHOで決められたツボは361穴)には、さまざま名前がついています。人差し指と親指が交わった部分にある「合谷」は、そこを谷に見立てたことに由来します。足三里は足にあって、外膝眼の下3寸にあるから。孔最はというと、孔は肛門を指し、そこの病に最も効くとの意味でつけられています。このように、一つの特定された病気の治癒に用いられることから命名されたツボはほとんどないことからも、痔疾患の治療に孔最は外せないといえるかもしれません。

◎本章で出てきたツボ一覧(21穴)

中髎 :(膀)第3後仙骨孔

中極 :(任)神闕の下4寸、曲骨の上1寸

府舎 :(脾)大横の下4寸3分、衝門の上7分。任脈より外方3.5寸

腹結 :(脾)大横下1寸3分

裏内庭:(胃)足の第2指を折り曲げて、第2指の腹が足裏につくところ

外志室:(膀)L2~3棘突起間外方3.5寸の外

梁丘 :(胃)膝蓋骨外上角より上2寸

血海 :(脾)膝蓋骨外上角より上3寸

足陽関:(胆)陽陵泉の上3寸。腸脛靭帯と大腿二頭筋腱の間

臍  :(任)臍中央

会陽 :(膀)尾骨下端(長強)外5分

腰宜 :(奇)腸骨稜上端骨

天枢 :(胃)臍の外方2寸

四満 :(腎)石門の外5分

秘結 :(奇・胃)臍の外方3.5寸が大横、その下1.5寸。左腹結移動穴

肓門 :(膀)L1~2棘突起外方3寸

大腸兪:(膀)L4~5棘突起外方1.5寸

蘭尾 :(奇・胃)足三里の下2寸

足三里:(胃)外膝眼の下3寸の骨際

百会 :(督脈)頭のてっぺんよりやや後方

孔最 :(肺)太淵の上7寸、尺沢の下3寸

☯東洋医学からみた下部消化器症状

〇下痢

 東洋医学では下痢のことを泄瀉といい、泥状便や水様便を頻回に排出する状態です。本病症には急性泄瀉と慢性泄瀉がある。前者は外邪、飲食不節、により実証のものが多く、後者は肝脾不和、脾胃虚弱、腎陽虚などがあり、病態を見極めた上で治療して行くことが重要である。

・外邪による泄瀉

 外邪とは、気候や気温、湿度などの外部の環境のことで、風・寒・暑・湿・燥・火がある。下痢を引き起こす外邪は主に寒と湿、取り分け湿邪は下痢の原因となる。湿邪により脾が影響を受け、脾陽の働きが低下し、運化機能が失調することで下痢となる。湿と寒が合わさると寒湿泄瀉、湿と暑熱が合わさると湿熱泄瀉となる。

治法:散寒化湿

・飲食不節による泄瀉

 過度の飲食、とくに油っこい物、なま物、冷たい物などの食べ過ぎや不衛生な物を食べて、脾胃を損傷し結果起こる泄瀉。

治法:清熱利湿、健脾益気

・情志失調による泄瀉

精神的なストレスにより起こる泄瀉。ストレスが強すぎる肝脾不和タイプと、脾胃が弱いために少しのストレスにより起こる脾虚肝乗(土虚木乗)タイプがある。現代医学でいうところの過敏性腸症候群にほぼ該当する。

治法:疏肝健脾

・腎陽虚による泄瀉

老化や久病により腎陽が虚して、脾陽を温煦できなくなり、運化機能が失調して起こる泄瀉。

治法:温腎健脾

実際は、複数の証が複雑に絡んでいる状況が多くあります。四診(望診、聞診、問診、切診)などから状況を判断し、取穴、手技手法を行っていく必要がある。

😊急性の下痢に対して鍼灸を行うことはあまりありません。慢性の下痢は現代医学的病名でいえば吸収不良症候群や過敏性腸症候群です。慢性の下痢を治癒させるのは現代医学でも簡単ではなく、東洋医学的治療を行う際には、下痢という症状だけでなく、気血水、五臓、陰陽の観点から病態を捉え、治療いていかねばなりません。

  

〇便秘

東洋医学では便秘のことを大便秘結、大便難、大便不通といいます。排便時間の延長、便意はあるが排便困難の状態です。鍼灸の対象で多いのが、習慣性(慢性)の便秘です。

・熱秘

 辛い食べ物を多く摂取することで津液を損傷し、そのために胃腸が燥熱の状態になって起こる便秘。

・気秘

 情志の失調(精神的ストレスによる気の不足)により気機が停滞し、消化機能の働きが悪くなることで起こる便秘

・虚秘

 病後や産後、または老化により気血が回復しないために、消化機能の停滞、腸の潤いの不足となり起こる便秘。

・冷秘

下焦の陽気が虚すこと(つまりは冷えによって)で、温煦機能が低下して起こる便秘。

😊下剤の長期服用は、その習慣性によって量が増える傾向があり、薬剤を増やさないためにも鍼灸の存在価値があるといえます。弛緩性便秘は原因が食生活(食物繊維不足など)にありますから、まずはそこを正さねばなりません。また老人性など虚(体力不足)の便秘であるならば、食生活の見直し改善や適度な運動、睡眠の質を上げるといったことが特に重要になります。便秘という一症状を念頭に起きつつ、身体を多角的に見て体質を判断していく対応が必要となります。

 

kiichiro

鍼灸師。東洋医学について、健康について語ります。あなたの能力を引き出すためには「元気」が何より大切。そのための最初の一歩が疲労・冷え症・不眠症をよくすること。東洋医学で可能性を広げられるよう情報を発信していきます。中央林間うえだ鍼灸院院長/日本良導絡自律神経調整学会会員/日本不妊カウンセリング学会会員//日本動物愛護協会会員