鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか?「腰下肢痛をやわらげるために」編

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はじめに 

 鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。

筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化、等々。

これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。

解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。東洋医学の治療は、東洋医学独自の病の見立てである「弁証」と、状況に応じた対処の仕方「論治(選穴、取穴、刺鍼施灸、手技)」によって成り立っています。西洋現代医学、東洋医学と、背景にある考え方が違っていても、治療にあたって用いるツボが同じになることは珍しいことではありませんが、日本において、患者さんが東洋医学の病名や用語を口にすることは、まずありません。よって現代医学的な診断を参考にしながら、東洋医学的な分析をしつつ、ことにあたる必要があります。

 鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、主に現代医学的観点から病態を捉える、治癒率向上を図る、鍼灸適応不適応の再確認、といったことと合わせて、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代針灸臨床論』」という科目に対しての理解をより深めることを目的の一つとしています。非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。

※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。

〇遠隔療法と反射について

 肩が凝っているときに、その凝っている筋肉に鍼灸をすると、コリが和ぎます。その理由は、筋肉の伸長収縮度合いが正常に戻ったり、凝っている部分の血流が促進されることで、疲労物質の滞りが解消されたりするからです。ですから症状が出ている(凝っている)部分に鍼灸をすることには意味があります。では鍼灸が、内臓の異常に働きかけるためにはどうしたらよいでしょう?内臓に直接鍼を打つといった方法もありますが、受け手の負担も大きく、一般的ではありません。そこで反射(東洋医学なら経絡)といった概念が用いられます。

 反射とは、刺激に対して無意識(大脳を介さず)に、機械的に起る身体の反応のことです。例えば、熱いものに手を触れたとき即座に手を引っ込めるのは反射によるものですが、これは身体を守るために、考えてから引っ込めたのでは遅いからです。鍼灸刺激によって反射(体性内臓反射)を起こし、生体に元々備わっている治癒力が賦活(活性化)されます。

・内臓体性知覚反射

 内臓の異常は、その内臓を支配している自律神経とほぼ同じ脊髄反射区の皮膚領域を過敏にし、普通では痛みとはならない程度の皮膚刺激でも、その部位に疼痛また異常感覚を伴なうようになるというもの。

・内臓体性運動反射

 内臓異常による求心性の興奮は、対応する体壁(皮膚や筋肉)に運動性の変化として、筋緊張・収縮などを起こすというもの。いわゆる凝りの現象で、内臓疾患による筋性防御のあらわれ。

・内臓体性栄養反射

 交感神経を切断すると支配下の筋群は緊張を失って代謝障害に陥る。内臓に慢性疾患が長期に渡ると、体壁に萎縮・変性があらわれてくるというもの。

・内臓体性自律系反射

皮膚にある汗腺、皮脂腺、立毛筋、および末梢血管系を支配する自律神経系の反射で、交感神経性皮膚分節の領域に反応があらわれるというもの。

汗腺反アセ汗として、立毛筋反射は鳥肌、皮脂腺反射は皮脂として、皮膚血管反射は皮膚の冷え、ほてりとなってあらわれる。

・体壁内臓反射

一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄の同じ高さに神経支配を受けている内臓に反射作用があらわれるというもの。このときに、内臓にあらわれる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)である。 

体壁:胴体(=体幹)の内臓を守るように取り囲んでいる、筋肉と一部では骨でできた壁のこと。胸部の胸壁、腹部の腹壁に分けられる。

〇腰下肢痛とは

 腰下肢痛とは単なる腰痛とは違い、下肢(足)の痛みやしびれを伴なうもの、もしくはその可能性のあるものこと。例えば、腰椎椎間板ヘルニでも、腰痛のみ、下肢痛のみ、腰痛と下肢痛の両方のケースがある。腰の痛みよりも下肢症状の方が強い場合もある。腰から下肢に走行している神経が、腰部において何らかの物理的ストレスを受けると、その症状が下肢に出る。 疾患名でいえば、腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎椎体骨折、腰椎すべり症など。また股関節や臀部の筋肉、その周辺部の障害であれば痛みは同部位かそれよりも下位に出る。梨状筋症候群、股関節症など。

・腰椎椎間板ヘルニア

・脊柱管狭窄症

・腰椎椎体骨折

・腰椎すべり症

・梨状筋症候群

・股関節症(先天的・後天的)

※ 画像で器質的変化が確認されても、どこにも痛みがでないことも珍しくない。

★下肢痛がでる疾患は、腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎椎体骨折、腰椎すべり症、裏上院症候群、股関節症!

腰神経叢症状

〇腰神経叢の構成

 腰仙椎から出る体性神経前枝は、腰神経叢(T12~L4)から出る枝と、仙骨神経叢(L4~S3)から出る枝に大別できる。

・腰神経叢: T12~L4前枝

・仙骨神経叢:L4~S3前枝

★腰神経叢 はT12~L4前枝、仙骨神経叢はL4~S3前枝!

 腰神経叢は第12胸神経~第4腰神経の前枝から構成される。筋枝は腹筋、大腿の内側面の筋を支配し、皮枝は外陰部、鼠径部、大腿の前面、内側面および下腿の内側面に分布する。すなわち腰神経の興奮は、大腿神経の分枝でもある伏在神経以外は、膝関穴(肝)より末梢の症状は出現しない。当然ながら坐骨神経痛症状も出現することはない。(坐骨神経は仙骨神経叢前枝)

・腰神経叢筋枝:腹筋、大腿内側面の筋

     皮枝:外陰部、鼠径部、大腿前面、内側面、下腿の内側面

★坐骨神経は仙骨神経叢前枝!

・腰神経叢からは大腿神経(筋枝と皮枝)、閉鎖神経、がつくられ、下肢に向けて走行している。大腿神経知覚枝は前皮枝(大腿前面の知覚)と伏在神経(下腿内側の知覚)に分かれる。その他、腸骨下腹神経、陰部大腿神経、外側大腿皮神経、腸骨鼠経神経 などがある。

・腰神経叢→大腿神経(前皮枝と伏在神経に分かれる)、閉鎖神経、腸骨下腹神経、陰部大腿神経、外側大腿皮神経、腸骨鼠経神経

★大腿神経は筋枝と皮枝に分かれ、皮枝は前皮枝と伏在神経に分かれる!

腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎椎体骨折、腰椎すべり症などの状態によって、腰神経叢や仙骨神経叢が障害され、腰や下肢に痛みやしびれなどの症状が現れるが、現れる部位やどの神経が障害されているかによって呼び方が変わる。例えば、腰椎椎間板ヘルニアでも、何番のヘルニアかによって、大腿神経痛が出る場合もあれば、坐骨神経痛が出る場合もあるということです。

★腰椎椎間板の障害で、大神経痛が出ることもあれば、坐骨神経痛が出ることもある!

腰神経への刺鍼

〇大腰筋刺激点:外大腸兪穴、力鍼穴

 大腰筋が緊張すると腰神経叢が圧迫刺激され、腰深部や腰神経叢を構成する神経枝領域(腸骨下腹神経、陰部大腿神経、腸骨鼠経神経)への放散痛が生じる。まれに閉鎖神経を刺激することで大腿内側への放散痛がでることがある。これに対する刺針点は、外大腸兪または力鍼(L4棘突起下外方4寸)ないし腰宜(大腸兪・同外方3寸)となる。各正中線に向けて60°の角度で刺入し、大腰筋を狙う。

大腰筋が緩むことによって、腰神経叢の圧迫ストレスが緩和し、痛みが軽減するということ。

 ・大腰筋(腰神経叢の枝支配)→起始:T12~L4までの椎体と椎間板 停止:大腿骨の小転子

 ・外大腸兪(力鍼):L4L5間、棘突起より外方4寸

 ・腰宜(大腸兪): L4L5間、棘突起より外方3寸

★大腰筋緊張による痛みの部位は、腰深部、下腹部、外陰部周辺、大腿部外側、大腿部内側!

〇大腿直筋刺激:髀関(胃)(一本鍼伝書では居髎)

 腰神経叢の主要枝である大腿神経は大腿直筋を含む大腿四頭筋の運動支配と、大腿前面皮膚を知覚支配している。大腿前面痛では、まずは大腿直筋の筋膜症を考える。

 ・大腿神経→大腿四頭筋を運動支配、大腿前面皮膚を知覚支配

※髀関:上前腸骨棘の下方。縫工筋と大腿筋膜張筋の間

★大腿前面痛では、まずは大腿直筋の筋膜症を考える!

 上前腸骨棘の最前側端には外側に大腿筋膜張筋、内側には縫工筋がある。ここ(両筋のに境目)に髀関を取穴する。この腱間を潜るように深く押圧すると大腿直筋がある。押圧部は大腿直筋のトリガーポイントに相当する。

 刺鍼して大腿に響きを与えられない場合、所定の鍼を刺した状態でTPを活性化させるために、患側大腿を少し挙上させて大腿直筋を緊張させた姿勢を保持してもらい、雀啄を行うと響きやすい。刺入深度は2寸弱。

・髀関(胃経):大腿筋膜腸筋と縫工筋の境部、曲骨の高さ

        大腿筋膜腸筋 :起始→上前腸骨棘 停止→脛骨外側顆

        縫工筋: 起始→上前腸骨棘 停止→脛骨粗面の内側

★大腿前面に響かせるためには、大腿部の挙上&雀啄!

〇外側大腿皮神経刺激:髀関浅刺

 髀関への刺鍼は2寸弱ほど刺入するが、「皮膚に鍼尖を接したのみでも鍼の響きのある場合もある」というのは、縫工筋緊張により大腿外側皮神経が絞扼された結果と思われる。 

 きついズボンをはいたり、肥満や妊娠などで、鼠経靭帯が圧迫されると、本神経が絞扼され、大腿外側部に痛みを訴えることがあります。

★きついズボン、肥満、妊娠が鼠経靭帯を絞扼、外側大腿皮神経を圧迫!

〇閉鎖神経と大腿内転筋刺激:力鍼

 腰神経叢からは閉鎖神経(L2~L4)が出ている。これは骨盤の閉鎖孔を通過し、大腿内側を走行し、大腿内転筋群の運動と大腿内側の知覚をラケット型に支配している。

★閉鎖神経→大腿内転筋群の運動、大腿内側の知覚!

①腰神経叢刺激(力鍼深刺)

 鍼灸治療は閉鎖神経刺激を目的に、L3レベルの腰神経叢刺激(側臥位で大腸兪か力鍼刺鍼)を行う。

 薄筋、短内転筋、長内転筋、大内転筋、 はいずれも閉鎖神経支配。

・力鍼:棘突起下外方4寸

★内転筋の痛みには力鍼から腰神経叢をねらう!

②大腿内転筋の圧痛点に運動鍼

 大腿内転筋群は、恥骨筋・腸内転勤・短内転筋・大内転筋・薄筋の5筋で構成されている。この中で、とくに特徴のある筋は、大内転筋と長内転筋。大腿内転筋として強大なのは大内転筋であり、局所治療点は陰包あたり。また長坐位開脚姿勢で状態を前屈させるストレッチで、身体の硬い人は、大腿内側基部に長内転筋の伸長が妨げられ、痛みを感じて十分に前屈できない。この場合の局所治療点は足五里(肝)や陰廉(肝)になる。

★大内転筋群は、恥骨筋・腸内転勤・短内転筋・大内転筋・薄筋の5筋!

 大腿内側の圧痛点探索は、患側を下にした側臥位で行うと、圧痛点が把握しやすい。刺鍼は仰臥位、刺鍼して、股関節の内転・外転の自動運動が効果的。

・陰包(肝):曲泉と足五里を結ぶ線上(肝経)で大腿骨内側上顆の上4寸

・足五里(肝):気衝(曲骨の外2寸)の外下方3寸、 動脈拍動部

・陰廉(肝):気衝(曲骨の外2寸)の外下方2寸、動脈拍動部

※坐位で両足裏を合わせる内転筋群のストレッチも有効です。

★内転筋の痛み予防に足裏合わせてパタパタ運動!

◎仙骨神経叢症状と腰椎椎間板ヘルニア

 〇骨盤について

 腸骨と仙骨は、①仙腸関節、②靭帯、③恥骨結合の3つにより結合している。主要な靭帯は、後仙腸靭帯、仙棘靭帯、仙結節靭帯の3つ。

★仙腸関節をつなぐ主要な靭帯は、後仙腸靭帯、仙棘靭帯、仙結節靭帯の3つ!

仙骨と腸骨がつくる空間は、仙棘靭帯により上部を大坐骨孔、仙棘靭帯と仙結節靭帯間を小坐骨孔とに区別する。大坐骨孔は梨状筋を境として、さらに梨状筋上孔と梨状筋下孔に区別する。

・仙棘靭帯より上→大坐骨孔

・仙棘靭帯と仙結節靭帯の間の空間→小坐骨孔

・大坐骨孔は梨状筋を境にして、上が梨状筋上孔、下が梨状筋下孔

★大坐骨孔(梨状筋上孔、梨状筋下孔)、小坐骨孔(仙棘靭帯と仙結靭帯間)!

〇大坐骨孔 

梨状筋症候群として、大坐骨孔中央にある梨状筋が、臨床的に重要。

→梨状筋緊張に伴う坐骨神経障害(臀下肢痛)の施術が重要。

★大坐骨孔の中央を梨状筋が横切る!

〇小坐骨孔

→陰部神経障害(勃起障害、陰部痛、排尿困難)に対する施術が重要。陰部神経は、梨状筋下孔から骨盤上に出て、仙棘靭帯の上を通過して再び骨盤内に入る。

★陰部神経→梨状筋下孔から骨盤上に出て、仙棘靭帯の上を通過した後、再び骨盤内に入る!

〇仙骨神経叢について

仙骨神経叢は第4腰神経~第5仙骨神経の前枝から構成され、以下の神経が出る。

・上殿神経(L4~S1):梨状筋上孔から出て、中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋を運動支配。

・下殿神経(L5~S2):梨状筋上孔から出て、大殿筋を支配。

・後大腿皮神経: 梨状筋下孔を通り、大腿及び膝関節後面の皮膚に分布し、臀部と会陰へ分布する枝も出す。

★仙骨神経叢からの分枝は、上殿神経・下殿神経・後大腿皮神経!

・坐骨神経(L5~S2):梨状筋下孔から大腿後方に出る。大腿二頭筋長頭と大内転筋の間を垂直に下行、大腿屈筋群(大腿二頭筋・半膜様筋・半腱様筋)と、大内転筋の一部を支配。膝窩の上方で外側の総腓骨神経と内側の脛骨神経に分枝する。

※下肢症状、とくに下腿以下の痛み・知覚鈍麻訴えでは、まず坐骨神経痛を考える。以下、坐骨神経の分類。

坐骨神経痛 → 根性坐骨神経痛:椎間板ヘルニア

      → 非根性坐骨神経痛 → 大腰筋症候群

                 → 梨状筋症候群

★臀部から下肢・下腿にかけての痛みやしびれ・知覚鈍麻は、まず坐骨神経痛を考える!

◎腰椎椎間板ヘルニア

〇椎間板ヘルニアとは 

 椎間板ヘルニアとは、後頭骨-C1間とC1-C2間を除く椎体間には、椎間板があり、脊柱の可動性をよくすることと重量負荷の際のクッションの役割がある。椎間板には中心ゼリー様の髄核があり、その周辺を線維輪がとり囲んでいる。

 衝撃や老化などで線維輪に亀裂ができると、髄核はその亀裂から外に脱出する。飛び出した髄核や隆起した線維輪により神経が圧迫されたことで、神経痛などの種々の症状が起こる。なお50才以上で髄核はチーズ上に脱水してくるので、髄核の脱出は起こらない。

★椎間板は50才を過ぎると水分が失われ、髄核の脱出は起こらない!

〇神経根症とは

 脊髄神経後根の圧迫や破壊によって生ずる神経様疼痛、デルマトームに沿う知覚低下をもたらす状態を神経根症とよぶ。最近まで神経根症とは、神経根が骨棘や脱出したヘルニアによって機械的に圧迫されたことで起こると考えられていた。実際にも脱出したヘルニアを手術により摘出すると、多くの患者がこれまでつらかった下肢症状が大幅に軽くなったのだが、遺体の病理解剖では、ヘルニアがあっても臨床症状のない者は多く存在していた。

★椎間板ヘルニアがあっても症状が出ないことは多い!

 末梢神経は、発達した神経周囲膜と神経上膜をもつことで、圧迫や牽引などの機械的ストレスが及びにくいのに対し、脊髄後根(髄液中に浮いて存在)は、このような皮膜がないので、末梢神経よりも機械的外力に弱く、浮腫を起こしやすい。

★脊髄後根は、末梢神経のような膜をもたないため、機械的によわく浮腫を起こしやすい!

 したがって、浮腫→組織圧→神経線維の脱髄→脱髄部からの自発性興奮(=自発痛)という病理機序で症状を生むというのが最近の考えである。脊髄神経後根の圧迫だけでは痛みは出ない。痛みは椎間板ヘルニア症状ではなく、筋膜由来だったということになる。ゆえに安静にしたり、鍼灸治療やトリガーポイント注射等により、症状を軽くすることが可能。

★椎間板ヘルニアの痛みは、浮腫→組織圧→神経線維の脱髄→脱髄部からの自発性興奮(=自発痛)。よって鍼灸適応!

※筋膜は一つの薄い構造ではなく、筋上膜・筋周囲膜・筋内膜の三種構造になっている。ミカンを例にとれば、筋上膜は、皮と実の間にある白く薄い皮、筋周囲膜は房の一つ一つを隔てる薄皮、筋内膜は、一房の中にある多数の粒々を構成する薄皮。末梢神経線維も神経走行中に筋や関節の動きから保護する必要から、筋肉同様の膜に覆われ、神経上膜・神経周膜・神経内膜という名称がついている。

★筋上膜-皮と実の間にある白く薄い膜、筋周囲膜-房の一つ一つを隔てる薄皮、筋内膜-房の中にある多数の粒々を構成する薄皮!

〇分類

 椎間板ヘルニアは、椎間板隆起型(膨隆型)と、髄核脱出型に大別される。いずれも神経根を圧迫させる。症状が強いのは髄核脱出型だが、髄核は自然吸収されやすく、自然治癒されやすい。腰椎椎間板ヘルニアは20~40才の男性に多い。後縦靭帯があるので、髄核が後正中方向に脱出することはあまりないが、髄核脱出型の一部には、中心性ヘルニアもある。中心性ヘルニアにより脊髄を圧迫した場合、両側性の腰下肢症状だけでなく、膀胱・直腸障害が起こり手術の対象になります。

※脊髄の靭帯は前方から、前縦靭帯、後縦靭帯、黄色靭帯、曲間靭帯の順に並ぶ。黄色靭帯には知覚がない。

★中心性ヘルニアによる脊髄の圧迫は、両側性の腰下肢症状以外に、膀胱直腸障害が起こる可能性あり!

〇理学検査

①SLRテスト

下肢伸展挙上テスト。ヘルニアの診断にもっとも重要な理学テスト。仰臥位で両下肢をのばす。検者は被験者のアキレス腱部をつかみ、患側下肢を膝を曲げないで、徐々に挙上させる。(膝の曲がりをふせぐために、検者の片手は被験者の大腿前面に添える)。

評価:L5とS1神経根症時(+)。60°以上痛みなく上がれば正常。下肢に痛みが放散して挙上不可の時は、その角度を記録。

※ラセーグテスト(ブラガードサイン)

SLRテストで痛みがでなくても、患側足関節を他動的に背屈させると疼痛が誘発されれば陽性となり、下肢痛は股関節や腸腰筋などの筋群の疾患ではなく、腰部神経根の伸展によるものと判別される。

※ボンネットテスト(梨状筋テスト)

 SLRテストで痛みが出現したら、下肢を疼痛がなくなるところまで下げて股関節を内転させる。この時痛みが再び出現するれば陽性。意義はSLRテストと同じ。

★SLR、ラセーグテスト、ボンネットテストはワンセット!

②FNSテスト(大腿神経伸展テスト)

方法1:伏臥位で患側の足を90°屈曲位。検者の片手を患者の仙骨部にあてて保持し、もう片方の手を大腿前面にあて、大腿を持ち上げ大腿前面に放散する痛みの有無をみる。

方法2:伏臥位で膝を他動的に屈曲。この時、大腿前面の牽引痛のため屈曲できないものを陽性とする。

評価:L2~L4神経根症時(+)、中心はL4。

★大腿神経伸展テスト→大腿前面をストレッチ!

・ケンプテスト

立位で患者の骨盤を固定します。肩を後方に押さえて側屈、回旋させる。つまり腰椎椎間孔を圧迫して神経根症疼痛を誘発させている。

評価:側屈させた側の坐骨神経の走行に一致して疼痛が出現すれば陽性、腰椎椎間板ヘルニアまたは脊柱管狭窄症を疑う。この2疾患はSLRテストで鑑別する。SLR正常なら脊柱管狭窄症、SLR陽性ならば腰椎椎間板ヘルニアを疑います。

★ケンプテストは立位で側屈と回旋!

★腰椎椎間板ヘルニアの理学検査は、SLRテスト、FNSテスト、ケンプテスト!

〇高位診断(痛み原因とその部位を特定するための診断)

腱反射、筋力検査、知覚検査の3方向から検査を行い、統合判断する。

★注意:第1胸神経以下の脊髄神経は、上位椎体の番号が脊髄神経の名称になる。たとえばL4-L5椎体間から出るのは4神経。一方L4-L5間の椎間板ヘルニアにより圧迫されるのはL5神経根であり、L5神経根症としての臨床症状を呈する。すなわち下位椎体の番号がヘルニア症状となる。

L4椎間板(L4とL5の間)のヘルニアでは、L5神経根が圧迫を受ける。L5椎間板(L5とS1の間)でヘルニアでは、S1神経根が圧迫を受ける。

・L4神経根:L4/L5椎体間(L3-L4椎間板ヘルニア)、PTR ↓、足関節背屈力(前脛骨筋) ↓、踵立ち✕。足部小趾側の知覚を支配。

・L5神経根:L5/S1椎体間(L4-L5椎間板ヘルニア)腱反射正常、母趾背屈力(長母趾伸筋) ↓、踵立ち✕。母趾から小趾までの足甲部を知覚支配。

・S1神経根:S1/S2間(L5-S1椎間板ヘルニア)、ATR、母趾末節骨底屈力 (長・短母趾屈筋)↓、爪先立ち✕。足部の母指球部・内踝側を知覚支配。

〇踵立ち困難:L5神経根症では長母指伸筋の筋力低下のため、足前部が下に下りてしまう。L4神経根症では前脛骨筋の筋力低下のため足関節背屈ができない。

〇爪先立ち困難:S1神経根症。腓腹筋の筋力低下のため、踵を上げられない。

注:神経根障害の症状は、支配神経デルマトームの下肢部知覚低下。下肢神経痛は梨状筋の大腰筋の緊張による、神経走行途中の神経絞扼障害で生ずる。腰椎椎間板ヘルニアによって、坐骨神経痛を生じるわけではないとのこと。

★ 腱反射、筋力検査、知覚検査の3方向から検査を行い、統合判断 !

〇現代医学での治療

①薬物療法

 最近では、坐骨神経痛の痛みは、神経因性疼痛(神経そのものの異常興奮)ではなく、MPS(筋膜性疼痛)ではないかと考えられている。ゆえに神経痛改善薬リリカは坐骨神経痛に対してあまり効果はないとのこと。

★神経改善薬リリカは坐骨神経痛に効かないのは、坐骨神経痛は筋膜性疼痛だから!

 坐骨神経痛と言われているほとんどの痛みが本物の神経痛ではなくて、坐骨神経周囲のfascia異常と思われ、筋膜(fascia)異常であるのであれば、 fasciaリリースが有効であると考えられる。

★坐骨神経痛のほとんどはfascia異常。だからfasciaリリースが有効!

②手術療法と予後

 菊池臣人医師が、患者が納得して椎間板ヘルニア手術を承諾したものの、患者が逃げ出して結局手術しなかった50名に対し、5年後の状態を調査したところ、症状なしが50%、症状あるも障害なしが40%以上、日常生活に困るような障害がある者は5%以下だったとのこと。

★手術をしなくても、5年間で50%は症状がなくなった!

 結局、ヘルニアが存在していても、神経の走行が変化したり、椎体の可動域が減ったりなどして90%以上の人は改善している(下肢に麻痺が生じていたり膀胱直腸障害があれば、迷わず手術の適応になる)。

★ヘルニアがあっても90%の人は改善!

 福岡県立医科大学整形外科教室の研究では椎間板ヘルニアにより飛び出た髄核は白血球により貪食(白血球が異物として認識し食べて分解)され、平均3.5カ月程度で自然治癒することが報告された。要するに現在では、腰椎椎間板ヘルニアにより手術まで至るのは、限られたものだけということ。この新事実は、保存療法の一環として行う、鍼灸治療も価値があるといえることになる。

★飛び出た髄核は白血球に貪食される!

 高齢者に生じる坐骨神経痛は、変形性脊椎症によるものが多く、根本治療はできないが、鍼灸その他の理学療法により、ADLを良好な状態を保つことが大切であると考えられる。

※ ADL(Activities of Daily living):移動、排泄、食事、更衣、入浴などの日常生活動作のこと。

★最近では、椎間板ヘルニアの手術はあまり行われない!

神経根症の鍼灸治療

①神経根部への刺鍼

 坐骨神経痛は、神経根性坐骨神経痛と非神経根性坐骨神経痛に大別できる。根性の痛みは、これまで椎体と椎体の間にある椎間孔から脊髄神経がでる部分(=神経根部)の圧迫痛だとみなされてきた。そこで神経根症に対して、ペインクリニック科では神経根ブロックが行われてきて、ある程度の症状緩和がされてきたが、症状は再発しやすく、完治に至る方法でもなかった。

★根性の痛みは、これまで椎体と椎体の間にある椎間孔から脊髄神経がでる部分(=神経根部)の圧迫痛だとみなされてきた!

 このような神経根ブロックの方法にしたがって4症例にX線透視下で神経根部に+通電刺激したところ、どれも著効が得られたという報告がある。この作用機序としては、神経を鍼で刺激→神経血流の増大→神経損傷の修復と考えられる。(井上基治他、「根性坐骨神経根症に対する神経根鍼通電療法の開発と有効性」明治鍼灸大学 第30号 1-8(2002)。

★神経ブロックは、神経を鍼で刺激→神経血流の増大→神経損傷の修復!

 このような治療法に理論的な妥当性があるが、実際に下部頚椎や上~中部腰椎の神経根症に対して神経根刺鍼を試みても、解剖学的に鍼先は神経根に入り込むことはできず、その手前の筋層にしか達しない。さらに坐骨神経痛の場合、障害のある神経根(L4~S3)周囲を刺激することは腸骨に邪魔されて不可能。要するに鍼でできることは、神経根周囲刺鍼だったり、腕神経叢、腰神経叢の筋々膜への刺鍼だったりということになる。ゆえにX線非透視下で、解剖学的には精密でない刺鍼でも、多くは症状部の上下肢に放散痛を与えることができる。刺鍼で再現痛(症状に一致する痛み)が得られれば、治療効果が高くなるという考え方も昔からる。

★事実上(解剖学上)、神経根刺鍼は無理!

②非神経根症の鍼灸治療

 非根性坐骨神経痛とは、坐骨神経が走行部分での神経絞扼障害の結果として起こる。代表的な神経絞扼障害には、腰神経叢部における神経絞扼障害や梨状筋症候群がある。

 梨状筋症候群では、坐骨神経ブロック点刺鍼が本治療法となる。変形性脊椎症や椎間板ヘルニアでは外大腸兪刺鍼とともに実施する。これらの治療を行って下肢症状が非常に改善すれば、下肢症状部に対する局所治療は行う必要はないが、治療直後効果を少しでも高めるため、多くは実際には局所治療も併せて行われる。

★代表的な神経絞扼障害は、腰神経叢部における神経絞扼障害、梨状筋症候群!

①外大腸兪刺鍼

 大腸兪の高さの外方から、外志室刺鍼と同じ要領で刺鍼する。ほぼ(腰方形筋→大腰筋腰→神経叢刺鍼)になるが、深刺すると、仙骨神経叢を刺激できる。

②坐骨神経ブロック点刺鍼(中国流環跳)→梨状筋症候群の頁参照

・腰神経叢における神経絞扼障害

・梨状筋症候群

★坐骨神経痛への刺針は、腰神経叢刺鍼と坐骨神経B点刺点!

梨状筋症候群

〇梨状筋症候群とは(似田先生の考え)

従来的には緊張した梨状筋が、坐骨神経を圧迫刺激し、坐骨神経痛を著す病態を梨状筋症候群とよんだ。しかし臀部で坐骨神経を圧迫しても坐骨神経の知覚成分は上行性なので下肢痛をもたらさない。

★臀部で坐骨神経を圧迫しても下肢痛は起こらない!

ゆえに梨状筋の筋膜痛だけでなく、坐骨神経(混合性)の運動線維成分が下肢の運動支配筋(前脛骨筋、長短腓骨筋、下腿三頭筋など)を緊張させ、それぞれの筋が二次的に筋膜症を生ずるのでないか。

★坐骨神経痛の下肢症状は、二次的な筋膜症ではないのか?!

症状・所見

主に梨状筋のトリガーポイントから起こる関連痛。梨状筋の起始(膀胱兪)と筋腹(坐骨神経ブロック点)にTPsが出現。臀部~大腿後部痛~下腿痛となる。腰痛は生じない。

★梨状筋症候群は、梨状筋のTPから起こる関連痛!

・仰臥位下肢伸展位で、被験者の患足は外旋位傾向にあるが、これは梨状筋などの股関節外旋筋が緊張短縮しているため。

★仰臥位下肢伸展位で、被験者の患足は外旋位傾向にあるのは、股関節外旋筋の緊張短縮のため!

・K.ボンネットテスト  

 患者の股関節と膝関節を屈曲させ、つぎに患側の足関節を健側下肢の外側に移動させ、さらに膝関節部を押さえて健側方向に圧迫(内転)させる。このとき坐骨神経に沿った疼痛の誘発が認められれば陽性。

※注意:K.ボンネットテストは梨状筋症候群のテストだが、ボンネットテストは腰部神経根テスト。→下肢を内旋挙上により痛みが出現する。

・椎間板ヘルニアが神経根症状なのに対し、梨状筋症候群は神経絞扼障害。神経絞扼障害では、神経根症状は出現しない。すなわち筋力低下(-)、下肢腱反射正常であり、デルマトームに一致した神経症状を呈すこともないし、SLRテストで異常をみることもない。

・筋力低下(-)、下肢腱反射(正常)、デルマトームに一致した痛み(-)、SLRテスト(-)

★梨状筋症候群は神経根がやられるわけではないので、神経根症状はない!

〇坐骨神経ブロック点刺鍼(梨状筋刺激を介して)

側臥位(シムス肢位)で上後腸骨棘と大転子を結んだ線の中点から、線と直角に交わったところから3cm下の点を取穴。大殿筋→梨状筋と刺入。

★上後腸骨棘と大転子を結んだ腺の中点から、線と直角に交わったところから3cm下!

 梨状筋を刺激することで間接的に坐骨神経に影響を与えれば、電撃様鍼響が下腿~足に放散する。この刺激を避けて、坐骨神経からやや離れた筋緊張部に刺入する方法も行われるが、電撃様鍼響の有無と治療効果には大きな違いはないよう。

※次髎・中髎の高さで、仙骨外縁に圧痛があれば梨状筋起始(膀胱兪に相当)にも刺鍼する。

★梨状筋症候群と大腰筋緊張は神経絞扼障害!

陰部神経絞扼障害

〇陰部神経の解剖生理

 陰部神経は、肛門挙筋と外肛門活躍筋・尿道括約筋の運動を支配していて蓄便・蓄尿時に漏れを防ぐ役割と、排便・排尿時に意志により、大小便を我慢する役割があります。生殖器を支配しています。肛門、外生殖器の皮膚知覚もつかさどっています。

 陰部神経叢は第2仙骨神経~第4仙骨神経の前枝から構成されていて、尾骨に向かって斜めに下る。

 陰部神経:S2~S4前枝

 陰部神経の分枝は次の通り。会陰神経、後陰茎神経、後陰唇神経、陰背神経、陰核背神経、下直腸神経、骨盤内臓神経。

★陰部神経の働きは、肛門挙筋・外肛門括約筋・尿道括約筋の運動支配、肛門・外生殖器の皮膚知覚支配!

〇陰部神経痛の原因と症状

原因:長く座っている。座っている姿勢が悪い。自転車によく乗る。出産。お尻を強打。

症状:慢性的な肛門の痛み、肛門の奥の痛み、会陰の痛み、性器の痛み、骨盤の痛み(尾骨も含む)。

★陰部神経痛の原因は、長く座っている。座っている姿勢が悪い。自転車によく乗る。出産。お尻を強打!

〇陰部神経刺鍼

①陰部神経刺鍼の方法

 患側上の側臥位。上後腸骨棘と坐骨結節を結んだ中点を取り、その線上で1寸下方に陰部神経刺激点をとる(三等分して、坐骨結節側から1/3とする方法もある)。3寸8番鍼で皮膚面に対して直刺し、陰部に響かせる。響かせた後、通常5~10分間置鍼。

★上後腸骨棘と坐骨結節を結んだ中点を取り、その1寸下方が陰部神経刺激点!

②仙棘靭帯を目標にした陰部神経刺鍼

・仙棘靭帯部

 陰部神経が絞扼されやすい部として、仙棘靭帯のところ(仙棘靭帯の上)で陰部神経が通る部と、アルコック管部がある。前者の刺入部位は、上述の仙骨棘靭帯部(陰部神経)を直刺深刺。(陰部神経を目標とするか、仙棘靭帯を目標とするかの違い)

 骨盤を背面から見ると、仙棘靭帯は仙結節靭帯の後ろ(腹側)に隠れるように存在している。

★骨盤を背面から見ると、仙棘靭帯は仙結節靭帯の後ろ(腹側)にある!

〇陰部神経管(アルコック管)での絞扼

①病態

 陰部神経管はアルコック管とよばれる。内閉鎖筋の内側に沿って位置するトンネル状構造をしている。アルコック管に内陰部動・静脈および陰部神経が通る。内閉鎖筋の深部には肛門挙筋がある。

※内閉鎖筋は、股関節外旋6筋のうちの一つ。他、梨状筋、上双子筋、下双子筋、外閉鎖筋、大腿方形筋。

★アルコック管を通るのは、内陰部動静脈と陰部神経!

内閉鎖筋の起始は、寛骨内面で閉鎖膜の周囲。途中坐骨結節を超える部分で走行が直角に折れ曲がり、大腿骨転子窩に停止。作用は大腿骨外旋、神経支配は仙骨神経叢(L5~S3)。内閉鎖筋は、閉鎖孔を内側から閉鎖している。このような解剖学脆弱性から、内閉鎖筋は緊張を強いられて、アルコック管が圧迫されて陰部神経の神経絞扼障害を起こすことがある。

★内閉鎖筋は内側から閉鎖孔を閉鎖している。走行が直角に折れ曲がる。内閉鎖筋の緊張により、アルコック管が圧迫されて陰部神経絞扼障害を起こすことがある!

 これが陰部神経が絞扼されやすい2番目の部位(1番目は仙棘靭帯上)になる。陰部神経圧迫により、肛門症状・泌尿器・婦人科症状・膀胱直腸症状や間欠性跛行症状が出現しやすくなる。

★陰部神経圧迫により、肛門症状・泌尿器・婦人科症状・膀胱直腸症状や間欠性跛行症状が出現!

②長強穴外方3cmからの直刺

 骨模型で計測すると、患側上のシムズ肢位から長強穴(尾骨下端)の外方3cmを刺鍼点とし、直刺8㎝すると閉鎖膜の内方に至る。なおこの刺鍼途中で肛門挙筋を通過する。

★陰部神経刺激点は、患側上のシムズ姿勢で尾骨下端の外方3cmから直刺8cm!

 痔疾などの肛門痛とは異なり、肛門の奥の奥の鈍痛を感じた場合、これまでは肛門挙筋痛として捉えられてきた。このような患者さんに直腸内指診をすると、圧痛のある索状の陰部神経を触れ、患者さんは、その痛みはいつもの痛みと同じであると認めるとのこと。陰部神経痛時には、排便障害(便が出にくい)が生じる例もある。本刺鍼は、骨盤神経(S2、3、4)の副交感神経症状(副交感神経の活動低下)による排便障害にも、効果が期待できる可能性がある。

★長強外方3寸深刺は、陰部神経痛時に伴ってでる排便障害(副交感神経の活動低下)にも効果が期待できる!

 実際に2つの症例では、従来の陰部神経刺鍼よりも肛門部に強く響くとの申告があり、試みるべき方法と考えられている。長強の外方3cmから直刺すると、直腸壁の外方に達し、内肛門括約筋(副交感神経の骨盤神経支配)・肛門挙筋・外肛門括約筋中(体性神経支配で運動・知覚性の陰部神経支配)に刺入できると思われる。ここを通過し、最終的には内閉鎖筋・閉鎖膜・外閉鎖筋に鍼先が達することになる。(※内閉鎖筋と外閉鎖筋は起始・停止が同じ。外閉鎖筋は内閉鎖筋の1/5の体積)

・長強穴外方3センチから刺鍼

→ 内閉鎖筋・閉鎖膜・外閉鎖筋に鍼先が達する。

★長強外方3cmからの刺鍼は、最終的には内閉鎖筋・閉鎖膜・外閉鎖筋に鍼先が達する!

③坐骨結節内縁から骨に沿わせる鍼

 閉鎖孔の内閉鎖筋の内縁部にアルコック管はある。この部に鍼先を誘導するには、患者さんを仰臥位にし、術者は患者の半身を折るように姿勢を持続するべく補助しつつ、坐骨結節の内縁の圧痛を調べる。圧痛があるようならば、3寸#8相当の中国鍼でアルコック管に向けて8㎝程刺入。陰部神経を刺激すると陰部に響きがある。

★長強から3cmから刺入or坐骨結節に沿わせてアルコック管を狙う!

〇陰部神経刺鍼をより効かせるために

①運動鍼併用

 臀部深部筋は、上双子筋、下双子筋、梨状筋、内閉鎖筋があって、どれも股関節外旋作用がある。したがって、四つ這いで陰神経刺鍼をした状態で、臀部を自力で左右に動かす動作が陰部神経運動鍼法になる。実践的には四つ這い位で、上下に臀部を動かしたり、正座位近づいたりなど色々な動作を行う。その時、同時に鍼に旋捻術(一方向に鍼を回転させ、組織をからめる)を併用するとさらに効果的。

★四つん這い+陰部神経刺鍼+運動+旋捻術!

②低周波通電は効果なし。灸も効果なし。(梨状筋症候群に対してということ)

③5~10分置鍼より、20分間の置鍼が効果があったという例がある。

④肛門奥の痛みやEDに対して、陰部神経刺鍼はあまり効果はなく、関節性跛行症状には効果があるよう。肛門奥の痛みには、長強から外方3cmから直刺は試みる価値のある方法。

★陰部神経刺鍼は肛門奥の痛みやEDにはあまり効果ない。関節性跛行に効果あり!

〇仙結節靭帯刺鍼

①原因:ランニング等の繰り返される大腿の大きな動作により、仙結節靭帯のトリガーポイントが活性化する。

★ランニング等の繰り返される大腿の大きな動作により、仙結節靭帯のトリガーポイントが活性化する!

②症状:臀部~大腿後側痛出現。この靭帯深部には陰部神経が走行するので陰部神経絞扼障害(肛門や肛門奥の鈍痛)が出現することがある。

★梨状筋症候群により陰部神経絞扼障害(肛門や肛門奥の鈍痛)が出現することがある!

③理学所見:側臥位。仙結節靭帯を押圧して圧痛をみます。

④刺鍼:側腹位。第4仙骨孔の高さで仙骨外縁部と、坐骨結節を直線で結び、その線上を3カ所程度太い鍼で刺鍼し、5分間置鍼。

★陰部神経絞扼障害時、ねらうのは陰部神経か仙結節靭帯!

坐骨神経痛による下肢症状の治療

〇坐骨神経における標準的な下肢治療穴

 坐骨神経痛による下肢痛では、腰部の大腸兪や臀部の梨状筋部に圧痛点が出現することが多く、そのまま鍼灸の治療点となる。

★坐骨神経痛時の圧痛点はそのまま刺鍼点となる!

それに加え、下肢症状部位の圧痛点にも施術することは、広くおこなわれている。経絡派では、下腿前面は胃経、外側は胆経、後側は膀胱経、内側は脾経・腎経・肝経などと分類し、現代針灸派は、坐骨神経または坐骨神経分枝の神経や支配筋を刺激することになる。

①大腿後側(坐骨神経):大腿二頭と半腱様筋の筋溝にある殷門・承扶

②下腿前側(深腓骨神経):前脛骨筋にある足三里・上巨虚・条口・下巨虚、長趾屈筋にある豊隆

③下腿外側(浅腓骨神経) : 長趾伸筋にある陽陵泉、 短趾伸筋にある懸鐘、足根洞にある丘墟

膝窩筋にある委中、腓腹筋にある承山・承筋

★坐骨神経痛時、下肢症状部位の圧痛点に刺鍼する!

下腿膀胱経沿いに痛みを訴えていても圧痛点が不明瞭な場合、立位で患側の脚をつま先立ちすると、下腿三頭筋が緊張するので、この状態で圧痛点を探して反応点に刺鍼し、踵上下の自動運動をする。

★立位で、下腿三頭筋を収縮させ、圧痛点に刺鍼+カーフレイズで効果的!

⑤下腿内側(脛骨神経):ヒラメ筋起始にある地機

※下腿後側症状と下腿内側症状は、ともに脛骨神経症状(神経痛または運動神経支配の筋緊張)治療。

★下腿内側の痛みに対しては、ヒラメ筋、脛骨神経、地機(脾)!

⑥仙骨外縁(大殿筋起始部にある膀胱兪・中膂兪 )下殿部(承扶)

★仙骨外縁の痛みには、膀胱兪・中膂兪 !

まとめ:殷門・承扶 ・足三里・上巨虚・条口・下巨虚、豊隆 ・陽陵泉・懸鐘・丘墟 ・地機

★大腰筋(腰神経叢)、梨状筋(坐骨神経)だけでなく、末梢の圧痛点にも刺鍼する!

〇神経根症状と神経根刺鍼の是非

 末梢神経の知覚神経は上行性で、運動神経は下行性であるので、腰臀部における純粋な神経圧迫では運動麻痺や筋力低下は生じるものの、知覚神経症状である痛みやピリピリ・ビリビリ感を起こさないはずである。

★腰臀部における純粋な神経圧迫では、知覚神経症状である痛みやピリピリ・ビリビリ感を起こさないはず!

私たちが神経根症状と考えている痛みは、神経の圧迫によるものではなく、神経周囲のファシア(≒筋膜)興奮によるものと思われる。例えば、臀部の坐骨神経ブロック点に指針すると、下肢に電撃様鍼響が得られるのは、坐骨神経の知覚神経線維ではなく、運動神経線維刺激による下肢筋が痙縮し、その結果としてのものであるということになる。

★神経根症状と考えられている痛みは、神経の圧迫によるものではなく、神経周囲のファシア(≒筋膜)興奮によるもの!

 神経根症に対して、ペインクリニックで行われる神経根ブロック(注射+麻酔)が著効に至らないの対し、鍼灸治療がこの術式をまねた4症例にX線透視下で神経根部+通電刺激したところ、どれも著効が得られたという報告がある。この事象が意味するものは、「鍼+通電」はこれよって神経血流が増大し神経の修復がなされたが、 一方(注射+麻酔)では神経血流が増大されず、よって神経の修復もされなかった。 たと推察される。

★「鍼+通電」は神経血流増大→神経修復。「注射+麻酔」は神経血流増大せず→神経修復せず!

 神経根刺鍼とはいっても、実際には神経根周囲刺鍼で、この周囲の筋緊張が緩まることで、痛みが緩和されると思われます。

★神経ブロックの正体は、実は「神経周囲の筋緊張の緩和」である!

〇ハムストリングスに対するPNF

ハムストリングの筋肉が過収縮した結果、大腿後側~下腿後側 の運動時痛が生じ、またSLRテストで下肢が充分に上がらない場合がある。この場合、ハムストリングスのPNFが有効。

★ハムストリングの過緊張にはPNFが有効!

・ホールドリラックス

 ホールド(保持)とは、筋肉の長さに変化はないが、筋肉に力が入っている「等尺性収縮」を意味します。ホールドリラックスとは、相反抑制のことで、患者と術者の力が拮抗している状態です。

筋肉は収縮した後、柔軟性が高まるという特性を利用したもので、伸張させると痛みがでるという場合に有効な手段となります。

★ホールドリラックスは等尺性筋収縮!

・コントラクトリラックス

短縮性収縮をコントラクト(収縮)といいます。ハムストリングのコントラクトリラックスは、

①ホールドリラックスと同じ状態から、患者が挙げようとする下肢に弱い抵抗を加え、結果的にゆっくり(おおよそ6秒かける)と下肢挙上になるようにするものです。

★コントラクトリラックスは短縮性収縮(6秒)!

脊柱管狭窄症

脊柱管狭窄症は、脊柱管が狭窄し、神経根・馬尾神経・脊髄が圧迫を受け、諸々の症状を呈す病態です。下位腰椎レベル(L3~L4、L4~L5)に好発するので、馬尾障害性が多い。ちなみに脊髄の下端はL2椎体の高さ。その下は馬尾となる。

★脊柱管狭窄症は、(L3~L4、L4~L5)に好発するので、馬尾障害性が多い!

 後天性に脊柱管が圧迫を受ける原因としては、椎間板ヘルニア、脊椎すべり症、黄靭帯肥厚などがある。老人男性に多い。

★後天性に脊柱管が圧迫を受ける原因としては、椎間板ヘルニア、脊椎すべり症、黄靭帯肥厚など!

・症状・所見

 診断が馬尾性脊柱管狭窄症であっても、神経根部も影響を受けることが多いので、多くは臨床上は①と②を同時に訴える。

★馬尾性脊柱管狭窄症であっても、神経根部も影響を受けることが多い!

①神経根圧迫

 神経根刺激症状が出る、下部腰椎レベルの脊柱管狭窄症が多いので、仙骨神経叢から出る神経が侵害され、とくに坐骨神経(大腿二頭筋、下腿部諸筋)や上殿神経(中・小殿筋)のコリや痛みを訴えます。

★脊柱管狭窄症の神経根圧迫症状は、仙骨神経叢からの分枝圧迫による坐骨神経や上殿神経支配のコリや痛み!

②馬尾神経圧迫

 機械的圧迫とそれに伴う神経の阻血性変化により、下肢の神経痛とともに神経性の間欠性跛行がでる。(圧迫は軽度なので、運動負荷が少ない場合は間欠性跛行を出現しない)。10分間程度歩行し間欠性跛行が出現時、しゃがんで腰を曲げると、脊柱管の圧迫の程度が減るので、一時的に症状が軽快する。

※間欠性跛行:安静時や歩行開始時には症状がないが、500メートル以内の歩行で疼痛や脱力により、足が前に出にくくなる状態。脊柱管狭窄症性と動脈閉塞性間歇性跛行症性のものがある。

※ 動脈閉塞性間歇性跛行症:間歇性跛行症状出現時、腰を曲げても直ちに症状改善せず、数分間の経過を要す。足背動脈拍動(-)、鼠経動脈拍動(+)~(-)。

★脊柱管狭窄症の馬尾神経圧迫症状は、下肢の神経痛と神経性の間歇跛行!

〇脊柱管狭窄症の鍼灸治療

本章は鍼灸適応と不適応の境界領域にある疾患である。自覚症状の軽いものに限り、鍼灸は有効。脊柱管狭窄症の手術の有効率は約50%と必ずしも高くない。膀胱直腸障害のあるものは手術療法を行うほかない。

★脊柱管狭窄症の手術の有効率は約50%と必ずしも高くないが、膀胱直腸障害のあるものは手術療法しかない!

・陰部神経刺鍼の適用

 似田先生によれば、馬尾脊柱管狭窄症に対し、陰部神経刺鍼を行うと、患者の約半数程度で症状が速効的に軽減する印象があるとのこと。この刺鍼は、陰部神経刺激であると同時に、内閉鎖筋刺鍼にもなっていることが関係らしい。要するに内閉鎖筋緊張だけでも泌尿器症状を発症していることが示唆される。

★内閉鎖筋緊張だけでも泌尿器症状を発症する!

馬尾部分の脊柱管が狭窄して上記症状が出現しているのであれば、手術以外に治療する方法がないということになるが、30年くらい前から陰部神経刺鍼が上記症状の改善に一定の効果が知られている。つまり、脊柱管狭窄症と診断されたものであっても、厳密にいえばそうではなかったものに、陰部神経刺鍼などの鍼灸が有効と考えられる。

★脊柱管狭窄症と診断されたもののなかに、そうではないものがある!

これまで陰部神経刺鍼で、なぜ間欠性跛行が改善するのか不明であった。しかし最近になって陰部神経刺鍼では、結局閉鎖膜部分の内閉鎖筋の緊張を緩めているとのではないかという考えが生まれてきた。内閉鎖筋は大腿骨の転子窩に停止するため、閉鎖筋の緊張により大腿の動きは悪くなると予測される。ちなみに閉鎖孔が閉鎖膜で覆われるのは、骨盤内臓器が外に出るのを防いでいるという見解がある。

★陰部神経刺鍼は内閉鎖筋を緩める!

股関節疾患

〇股関節の構造

 完骨臼蓋と大腿骨頭との間に形成される臼状関節。大腿骨頭と臼蓋の回りを関節包が覆うように取り囲んでいる。

 大転子はローゼル・ネラトン線(矢状面上でみたとき、45°股関節屈曲位で上前腸骨棘と坐骨結節を結んだ線)上にある。大腿骨頭は、スカルパ三角(=大腿三角)すなわち鼠経靭帯、縫工筋、長内転筋で囲まれた部位に位置します。股関節脱臼では、大腿骨頭がスカルパ三角の位置からずれる。

★股関節脱臼では、大腿骨頭がスカルパ三角の位置からずれる!

※股関節は臼状関節で、肩関節のような球状関節と比べて、関節窩は深く安定性が高い反面、運動性は低い。したがって、股関節は肩関節に比べて脱臼は起こしにくいが、一旦脱臼を起こすと整復は難しくなる。

★股関節は脱臼を起こしにくい反面、脱臼すると修復困難!

 〇股関節のROMと主動作筋

・股関節の運動方向

①屈曲:~125°

②伸展:~15°

③外転:~45°

④内転:~20°

⑤外旋:~45°

⑥内旋:~45°

〇股関節の主動作筋

股関節屈曲筋(腸腰筋と大腿直筋)と股関節外転筋(中・小殿筋)が特に重要。

★股関節屈曲筋(腸腰筋と大腿直筋)と股関節外転筋(中・小殿筋)が特に重要!

①屈曲:主→腸腰筋 補→大腿直筋

 大腿直筋の起始は下前腸骨、停止は膝蓋骨を経由して脛骨粗面です。本筋は2関節筋(股関節と膝関節をまたぐ)であり、股関節屈曲作用と下腿伸展作用を併せもつ。それ以外の四頭筋の起始は大腿骨頭の大転子にあるので、股関節屈曲作用はありません。

★大腿直筋は、「起始:下前腸骨棘、停止:脛骨粗面」の二関節筋。作用は股関節屈曲と下腿伸展!

②伸展:主→大殿筋 補→ハムストリングス筋

 ハムストリングス筋とは膝窩に腱をもつ筋の総称で、大腿後側にある。半腱様筋、半膜様筋は内側腱を、大腿二頭筋は外側腱を構成。

★大腿後側部は、外側から大腿二頭筋の短頭、長頭、半膜様筋、半腱様筋!

③外転:主→中殿筋

補→小殿筋、大腿筋膜張筋、側殿部にある筋群。

④内転:主→長内転筋 補→短内転筋、大内転筋、薄筋、大腿内側筋群

⑤内旋:股関節外転筋と同じ

※歩行の際には、遊脚期は、大腿を少し外転しつつ前方へ繰り出す。外転の際には同時に内旋もする。(尻を振るということ)

⑥外旋:臀部深筋群(梨状筋、上双子筋、内閉鎖筋、下双子筋、大腿方形筋、外閉鎖筋)

★外旋六筋は、梨状筋、上双子筋、内閉鎖筋、下双子筋、大腿方形筋、外閉鎖筋!

〇先天性股関節脱臼

 先天性関節脱臼とは、出生時に関節包がゆるみ、大腿骨骨頭が関節包をつけたまま関節外に脱臼した状態。

★先天的股関節脱臼とは、出生時に関節包がゆるみ、大腿骨骨頭が関節包をつけたまま関節外に脱臼した状態!

生後3カ月以内におこることもある。女児が男児の10倍多い。成因として、 子宮内の体位(逆子、骨盤分娩。正常は頭位分娩)、股関節周囲の靭帯の弛緩。出生後の原因としては股関節伸展位の他動的強制がる。

★先股脱の成因として、 子宮内の体位(逆子、骨盤位)、股関節周囲の靭帯の弛緩。出生後の原因としては股関節伸展位の他動的強制!

 3~4ヵ月検診で発見されることが多い。わが国では25年前までは、乳児の1%にみられる、かなり頻度の高い疾患だったが、現在は育児法の改善(予防運動にともなって、0.3%にまで減っている。大転子の高位(ローゼル・ネラトン線を基準として) がみられる。

★先股脱は育児法の改善に伴い、1%→0.3%!

・症状・所見

①新生児・乳児期

 脱臼位にある場合は、股関節は軽度屈曲・内転・外旋位という特徴的な姿勢をとる。 骨盤が傾くために脱臼側の下肢は短縮して見え、脱臼が高度であれば、実際に脚長差が出現してくる。 仰向けで両膝を立てたとき、脱臼側の脚が健側に比べて短くなり、患側のお尻が出っ張って(膨らんで)見える。(→アリス兆候)

★先股脱。脱臼側の脚が健側に比べて短くなり、患側のお尻が出っ張って(膨らんで)見える。(→アリス兆候)!

②乳児期(歩行開始後)

処女歩行が遅い、トレデレンブルグ兆候などがみられる。

★先股脱。処女歩行が遅い、トレデレンブルグ兆候!

・トレンデレンブルグ徴候

方法:患側の足で片足立ち、骨盤の傾斜をみる。健常者では骨盤を水平保持できる。健側の骨盤が降下すれば陽性。このテストによって、中殿筋(股関節外転筋)の筋力低下、股関節筋の支持力をみる。

※中殿筋麻痺はトレンデレンブルグ徴候、大殿筋麻痺は登攀性起立(下肢帯筋の低下。膝を伸ばして、両手を使って床や自分の足(膝上辺り)に体重をかけながら立ち上がる。(代表疾患は筋ジストロフィ)

★先股脱。患側の足で片足立ち。骨盤を水平保持できなければ(+)!

〇異常歩行

・片側性先股脱時

 患側の脚は短縮している時、歩行のたびに肩の沈下を繰りかえす。これを墜落性歩行(または弾性墜落性歩行)と呼ぶ。

★片側性先股脱。墜落性歩行(歩行のたびに肩の沈下を繰りかえす)!

・両側性先股脱時

 臀部を後方に突き出して歩行。これをあひる歩行(= 動揺性歩行)と呼びます。筋ジストロフィーでもあひる歩行をみる。

★両側性先股脱。あひる歩行(臀部を後方に突き出して歩行)!

〇整形外科的治療

 整復操作後、3~4ヵ月間リーメンヒューゲル装具で固定する。治癒率は、亜脱臼は100%、完全脱臼で90%。年長になるほど整復は困難になります。放置すれば中年以降、変形性股関節症となる。

★先股脱は、早期に リーメンヒューゲル装具で固定する!

〇変形性股関節症

①一次性変形性股関節症 

 原因となる外傷や股関節の形態の異常がない原因不明の場合。老化やその他の原因により負荷に耐えられなくなり発症すると考えられている。欧米では90%を占める。

★一次性変形性股関節症(形態異常なし)。老化やその他の原因により負荷に耐えられなくなり発症!

②二次性変形性股関節症

 先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全などの、骨・関節の異常や外傷などにより、二次的に発症した場合。日本では80%を占める。

 発症する時期は10代~老年まで種々。臼蓋形成不全等があっても、10~20代は不具合を感じることは少なく、多くの場合30~40代で変形性股関節症を発症する。

★二次性変形性股関節症(形態異常あり)。先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全等!

※臼蓋形成不全

 先天的に臼蓋(お椀上になっている股関節側の部分)の発育不良で皿のように浅いため、大腿骨頭をしっかりはさみこめず、はみ出した状態。大腿骨頭をうける臼蓋の面積が狭いと、その狭い接触面に集中的に力が加わることになり、軟骨の摩耗が激しくなります。

臼蓋形成不全を基盤とした股関節症患者は、 骨盤側の屋根の浅さを補おうと、骨盤を前傾させる傾向がみられます。

★臼蓋形成不全は骨盤前傾傾向!

〇X線写真によるステージ分類

若い頃は股関節の周囲の筋肉も豊富で、かつ軟骨の摩耗も少ないので、40代で痛みが出現することが多い。

①前期:骨の変形のみで、軟骨はすり減っていない。

②初期:関節裂隙がわずかに狭小。骨軟化(X線で正常な骨に比べ、白く写る)あり。

③進行期:関節裂隙が明らかに狭小。骨嚢胞(骨の空洞)と骨棘形成を認める。

④末期:骨頭と臼蓋間の軟骨がすり減ってまったく消失。(=関節軟骨は摩耗しつくしている)。股関節の拘縮もみられ、痛みの程度も強く日常生活にも不便が生じる。手術の適否は、X線所見だけでは決まるわけではない。「疼痛」が評価項目としても、もっとも重要視されており、疼痛の程度(=安静時も痛むという状況)によって、手術を決断することが多い。

★変股脱のX線写真によるステージ分類4期に分類される!

〇疼痛の進展

 初期は運動後や長く歩いた後などに、股関節に限らず臀部や大腿部、膝上部などに鈍痛が出ることが多いが、この痛みは数日すると治まる。

 やや症状が進む、「始動時痛」(動作開始時に股関節辺りに痛み)出現。さらに進行すると歩行時に股関節の前後が痛み、途中休息なしには歩けない、などの「運動痛」が出現。最終的には「安静時痛」も出現し、痛みの程度も次第に増してくる。

 拘縮がひどくなると骨盤が傾いて悪い方の足が短くなったように感じられる。また痛い方の足をかばって歩こうとする。痛みのために活動量が減って中殿筋などの筋力が衰えると、悪い方の足を着いたときに身体が傾くため、肩を揺らして足を引きずるおうに歩き方「跛行」になる。

★変股脱。鈍痛 → 始動痛 → 運動痛 → 安静時痛!

〇変形性股関節症の理学テスト

①パトリックテスト=ファーブル徴候(→4の字テスト)

股関節を他動的に、屈曲+外転+外旋させる。大腿を屈し、外踝を反対側の進展した脚の膝部分にのせ、膝部を床方向に押しつける。疼痛を訴えるものが陽性。股関節障害、仙腸関節障害、股関節脱臼で開かない。

★変股脱。4の字テスト!

②トーマス屈曲テスト(→ 膝抱え込みテスト)

 仰臥位で、患側下肢は伸ばしたまま、健側の膝と股関節を十分に曲げ、膝部を胸に近づけるようにする。すると骨盤は後継する。もし股関節が固いと、患側の大腿部が床から離れてしまう。

★変股脱。膝抱え込みテスト!

③オーベルテスト (→ 中殿筋筋力テスト )

 患側上の側臥位。患側の大腿をやや伸展位に保持。膝屈曲位にして、検者は膝内側に手を入れ、膝関節を他動外転する。この姿勢を保持するように指示して検者の手を離す。

健常者であれば、股関節外転状態を保持できるが、中殿筋(股関節外転筋)前部線維筋力低下時は、大腿外転位を保つことができない。

※膝伸展位でこのテストを行えば、大腿筋膜張筋の問題と示唆される。

★変股脱。中殿筋テスト!

★変形性股関節症の理学検査は3つ。パトリック(4の字)、トーマス(膝抱え)、オーベル(中殿筋)!

〇変形性股関節症の鍼治療

 鍼灸は鎮痛および、中小殿筋の緊張緩和に効果がある。しかし股関節変形が高度に進行すると、上半身の重量を股関節で支えられなくなるので、このような姑息的方法で対処しづらくなり、鍼灸した日は鎮痛できても、翌日は元に戻るなるなど短時間の効果しか得られなくなる。この段階を迎えたのであれば、手術が必要になる時期ともいえる。

★変股脱。鍼灸で効果が不十分であれば手術を検討!

1)痛みの由来

 関節症では関節可動域は減少するが、関節そのものが痛むわけではない。軟骨がすり減って、骨同士がぶつかるから痛むというのは間違いで、変形性股関節症の痛みは、股関節周囲筋の筋膜痛によるものが主体。ただし股関節包由来の痛みの場合もあって、この場合には股関節の内旋・外旋の可動域制限、またKボンネットテスト陽性、ボンネットテスト陽性など、異常がみられる。

★骨同士がぶつかって痛いのではなく、股関節周囲筋の筋膜痛もしくは関節包由来のもの!

2)臀部筋に対する治療

 股関節を外側から覆うように、小殿筋があり、小殿筋を覆うように中殿機がある。股関節が上体の重さを支えきれないと、股関節の保護スパズムとして、小・中殿筋に筋緊張が発現するようになる。

★股関節が上体の重さを支えきれないことにより、小・中殿筋が緊張する!

①中殿筋トリガーへの治療(臀部への関連痛部位)

 ・腸骨稜、仙腸関節周辺

 ・臀部下方、大腿後方上部と大腿後方上部外側

 ・腰部最下端

※変形性股関節症の人は、骨盤前傾位になっていることが多いが、この理由は、骨盤前傾位になると中殿筋の筋活動が弱まり、歩きやすくなるため。中殿筋を緩めることによって、股関節症状の改善が期待出きる。

★変股脱の人が骨盤前傾位になるのは、中殿筋の筋活動を弱めて歩きやすくするため!

②小殿筋のトリガーへの治療(大腿への関連痛と鍼灸治療)

 変形性股関節症で下肢症状を伴なえば、小殿筋の関連痛を考慮する。大腿外側痛では、小殿筋前部のトリガーの放散痛を呈し、大腿後側痛では小殿筋後部のトリガーの放散痛を呈す。

★変形性股関節症で下肢症状を伴なえば、小殿筋の関連痛を考慮する!

・小殿筋に対する刺鍼法

 側臥位で、腸骨稜の最高位(ヤコビー線と接する部位)と大転子の中点に印をつける。この部位もしくは、この部位よりやや前方が小殿筋刺鍼に適当。押圧力を深層に伝えるように、術者の体重をゆっくりとかけて、圧痛を探る。

★小殿筋の部位は、腸骨稜の最高位(ヤコビー線と接する部位)と大転子の中点!

 側臥位にて側線上で腸骨稜縁の下を刺入点とし、腸骨に鍼先がぶつかるくらいの深刺。鍼は中殿筋→小殿筋と貫く。2寸以上#5以上の針で置鍼。

★小殿筋刺鍼は、側臥位、腸骨稜縁の下が刺入点。腸骨に鍼先がぶつかるくらいの深刺!

 このように深刺ししても固い筋中に入ったような手応えがない場合、姉さん座り(ベッド上で、術者に対して後ろ向きに正座、次いで横座)で、側殿部の圧痛点を探り、その方向に深刺する。

 この体位では、上体を起こす必要から、中・小殿筋は強く収縮している。この強い緊張状態で刺すことで、大きな効果が得られるやすくなる。

★小殿筋刺鍼。側臥位に手応えがないなら、お姉さん坐りで!

・股関節裂隙へ刺鍼 

変形性股関節症の大部分は、側殿筋の中・小殿筋に出現する。それは歩行時は中・小殿筋筋活動が不可欠であるため。このよう場合、側臥位で腸骨稜の下方1~2寸の部にある中・小殿筋緊張を緩める鍼が効くことが多い。

★変形性股関節症の大部分は、側殿筋の中・小殿筋に出現する!

 しかし股関節ROM制限はあるが、臀部の圧痛が判然としない場合、股関節関節包への刺鍼が有効となる。似田先生がみた、数名のある患者さんでは、鼠経溝外方の腸骨筋部の痛みを訴えていたが、以下に記す刺鍼でこの痛みが解消されたとのこと。

★股関節ROM制限はあるが、臀部の圧痛が判然としない場合、股関節関節包への刺鍼が有効!

立位で上半身の体重が骨盤の股関節臼蓋に下向きに負荷が加わり、大腿骨頭との連続部分の関節包には慢性的な張力が作用している。この場合、治療点は関節包上部になる。

 患側上に側臥位で、3寸#8針で、大転子から上方3~4cm(一横指半)の部分から直刺深刺。

★股関節関節包に刺鍼するには、大転子から上方3~4cm!

 同じ要領で1cm刻みで3本程度刺入した方がより確実です。7~8cm入れると鍼響が得られます。5~15分間置鍼後抜鍼すると、股関節ROMが拡大している場合が多くあります。

★股関節刺針のポイントは中殿筋、小殿筋、関節裂隙!

・変形性股関節症の徒手整復的ストレッチ

 外傷性股関節脱臼とは、外力が作用して股関節が脱臼した状態をいう。オートバイ事故によるものが多く、また車に乗っていて、障害物にぶつかって急停車した際、膝部をダッシュボードにぶつけて股関節脱臼する場合もあります。大腿骨頭のズレ方は、後方脱臼によるものが95%であり、5%が前方脱臼。外傷性股関節脱臼では、多くの場合、発症直後に徒手整復が行われるが、この手技は先天性股関節脱臼にも有効ではないかと考えられる。(似田先生)

★外傷性股関節脱臼はオートバイや車の事故によるものが多い。95%が後方脱臼!

・やり方(右股関節症)として

 ①患者は仰臥位。術者は患者の右側に、患者側を向いて立つ。

 ②術者は右足をベッド上に乗せたて膝になる。患者の右膝を曲げた状態で、患者の下腿(なるべく膝関節に近い側)を、術者の右大腿上に乗せる。

 ③術者の左手を患者の右上前腸骨棘に置き、術者の右手は上から、患者の足首をつかむ。

 ④ベッドに乗っている術者の右足の足関節を伸展させる(爪先立ちになる)。さらに患者の下腿に乗っている左手に少々下向きの力を加える(※足方向に引っ張り過ぎると悪化することがあるので要注意)。この動作で、患者の右側骨盤は少し浮き上がる。

 ⑤上前腸骨棘を押さえている術者の左手は、この浮き上がるのを防ぐように、ベッドに押しつけるべく力を加える。

 ⑥ゆっくりと間欠性牽引を10回程実施。施術前、アリス兆候で患側膝の高さが健側に比べて低位だったのが、本手技後は改善されることが多い。

★アリス兆候:変股脱の検査。仰臥位で膝を立てる。膝頭の位置が、患側が健側に比べて低くなる。

★股関節脱臼は徒手矯正を試みる!

〇グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)

 アスリートの鼠径部周囲に出現する慢性障害は、真の原因を特定しにくいため症候群とよぶ。キック動作やランニングなどの繰り返しの運動によって、鼠径部、股関節周辺、骨盤にメカニカルなストレスが加わって炎症が生じ、痛みとなる。タックルなどで直接股関節筋周辺に打撲を受けた場合でも発生する。また、他部位の可動域制限や機能障害を代償した結果である場合もある。

 多くは1~2ヵ月の安静で軽減するが、緊張が高い鼠径部周辺筋への刺針刺激やストレッチだけでは改善しないこともある。グロインペイン症候群は

★グロインペイン症候群は、刺針刺激やストレッチだけでは改善しないこともある!

〇ドーハの分類

①内転筋関連(グロインペインの最多原因)

 症状:内転筋群の起始部周囲の疼痛、大腿内側に放散する疼痛

 所見:内転筋の圧痛と内転筋抵抗運動の疼痛、内転筋群の伸長痛

 ☆仰臥位で、股関節屈曲位(屈曲45°・両膝を立てる)にて両膝関節の間に拳を入れ、これを押しつぶすように股関節を内転させる。この時、疼痛が誘発されれば陽性。

★グロインペインの最多原因は股関節内転筋関連のもの!

②腸腰筋関連

 症状:大腿近位前面の疼痛。内転筋より外側。

 所見:腸腰筋部の圧痛(鼠径部の上方もしくは下方)。股関節屈曲抵抗時に疼痛、伸張痛

☆股関節屈曲時の抵抗時の鼠径部痛、もしくは股関節伸張時の鼠径部ストレッチ痛。圧痛による診断は確実性に乏しい。

★グロインペインは腸腰筋関連のものもある!

③鼠径部関痛

 症状:活動時に悪化する鼠径部の疼痛。

 所見:鼠経管の疼痛と圧痛。くしゃみや咳での疼痛。

    触知できる鼠経ヘルニアがないことが条件(あれば鼠経ヘルニアとして対処)。腹筋の抵抗運動での疼痛。

★グロインペイン。鼠径部関連のものは、鼠経管の疼痛と圧痛。腹筋の抵抗運動での疼痛!

④恥骨関連

 症状:恥骨結合部の疼痛と隣接する骨の疼痛。

 所見:恥骨結合と隣接す骨に限局する圧痛。腹筋と内転筋の抵抗で疼痛誘発する場合あり。

☆徒手検査は必要なく、圧痛をもって診断される。

★グロインペイン。恥骨関連のものは、恥骨結合と隣接す骨に限局する圧痛!

⑤股関節関連痛

 症状:股関節周囲の疼痛、ひっかかり、クリック、可動域制限など。

 所見:一つの所見で明らかとはならない。股関節に関する所見を複合的に確認。股関節障害による鼠経部障害による鼠径部関連痛として捉える。

※ドーハ分類:2014年にドーハで行われたカンファレンスによって定められた 。

★股関節の分類は、内転筋関連、腸腰筋関連、鼠経靭帯関連、恥骨関連、股関節関連の5つ!

〇鼠経部腸骨筋に対する治療

 変形性股関節症では、鼠経靭帯外1/3の処(=外衝門)に圧痛をみるこが多くある。この部の圧痛は、腸腰筋とくに腸骨筋の圧痛を意味する。

★鼠経靭帯外1/3の処(=外衝門)の圧痛は、腸腰筋とくに腸骨筋の圧痛を意味する!

というのは腸骨筋は腸骨稜内面上部を起始とし、関節前面に接触、そして股関節を軸に、鋭く後下方にカーブして大腿骨小転子に停止しているので、股関節と腸骨筋の間で摩擦されて炎症や癒着が起こりやすい。とくに腸腰筋が短縮している時、鼠径部痛をきたすことがある。

★グロインペイン。股関節と腸骨筋の間で摩擦されて炎症や癒着が起こりやすい!

 鼠経痛時、パトリックテスト肢位をさせ、鼠経溝外方で上前腸骨棘部を深く押圧して腸骨筋の圧痛や股関節前面の圧痛を調べる。

★グロインペイン。パトリックテスト肢位にて、鼠経溝外方で上前腸骨棘部を深く押圧して腸骨筋の圧痛や股関節前面の圧痛を調べる!

ペインクリニックでは、腸腰筋膜下ブロックとよばれる方法があり、次のようなもの。注射針を鼠径部下腸骨筋に刺入。股関節にぶつかるまで深刺し、癒着を剥がすように局所麻酔を注入する。木村裕明医師 によれば、かなり力を入れないと剝がれないとのこと。

★ペインクリニックで行われる「腸腰筋膜下ブロック」とは、鼠径部下腸骨筋に刺入。股癒着を剥がすように局所麻酔を注入するというもの!

〇長内転筋に対する治療

 長内転筋は股関節内転筋群の主動作筋で恥骨外端から起始している。パトリックテストの肢位をすると、隆起して摘まみやすくなる。股関節外転不十分な者に対して、陰廉や足五里から刺針して長内転筋を緩めると、外転角が増す(あぐらをかけるようになる)ことが多い。筋肉の固さによる股関節外転制限は、当該筋を緩めることで可動域が大きくなることが期待できるが、亜脱臼などによる制限であれば有効とはならない。

・陰 廉(肝):気衝穴(曲骨穴の外2寸)の下外方2寸

・足五里(肝):気衝穴(曲骨穴の外2寸)の下外方3寸

・陰 包(肝):曲泉穴と足五里穴を結ぶ線上で、大腿骨内側顆の上4寸

 大腿内転筋群には、閉鎖神経が運動支配(知覚も)しているので、閉鎖神経刺鍼を行うのも有効。これは患側を下にした側臥位で、大腿内側の圧痛点に刺針する。

★陰廉・足五里への刺鍼で長内転筋をいるめることで、股関節の外転角が増す!

〇大腰筋刺鍼

 外志室から大腰筋あるいは腰神経叢に対して深刺すると、鼠径部に針響が至ることがある。これは、腰神経叢の枝の一つである腸骨鼠経神経に影響を与えたためと思われる。

 要するに腰神経叢が過敏になれば、鼠径部が痛むことがあり、このような場合は外志室からの深刺で有効なると考えられる。

★自覚痛、圧痛、撮痛を手掛かりに刺針する。股関節痛の場合は、腸骨筋、長内転筋、大腰筋が緊張していることが多い!

🌞本編で登場したツボ刺鍼点

腰宜、力鍼、髀関、大腿内転筋圧痛点(陰廉、足五里、陰包)、 坐B点、 腰椎神経根周囲点、 慇門、浮郄、その他下肢圧痛点 、外長強、内承扶、中殿筋、小殿筋、外衝門、その他下肢圧痛点

〇腰神経叢

 ①腰宜→大腰筋、腰神経叢

 ②力鍼→大腰筋、腰神経叢

 ③外志室→大腰筋、腰神経叢

 ④大腿内転筋圧痛点(陰廉、足五里、陰包)

〇仙骨神経叢、腰椎椎間板ヘルニア

 ⑤座B点(坐骨神経)

 ⑥腰椎神経根周囲点→腰神経叢(仙骨神経叢ではない)

 ⑦慇門(膀胱経)→後大腿部のほぼ中央、承扶穴と委中穴の中間

 ⑧浮郄(膀胱経)→委陽穴の上1寸、大腿二頭筋の内縁

 ⑨その他、下肢の膀胱経・胆経の穴

〇脊柱管狭窄症

 ⑩外長強→陰部神経

 ⑪内承扶→陰部神経

〇股関節症

 ⑫小殿筋→関節裂隙、上殿神経

 ⑬中殿筋→関節裂隙、上殿神経

 ⑭外衝門→鼠径部腸骨筋

😊一般的に、解剖学や生理学に基づいて行う鍼灸を「現代学的鍼灸」、気血水、五臓、陰陽、経絡といったものをベースに考え、これらの状態をよくすることを目的に行う鍼灸を「中医学(東洋医学)的鍼灸」とよびます。

 東洋医学の言葉に、「急なれば標を、緩(慢)なれば本を(治す)」というのがあります。急性期のものであれば、まずはそれに対処し、慢性疾患であれば根本治療をしなさい、という意味です。

 病気にならないのが理想ですが、理想どおりに行かない現実があります。体を良い状態にする、もしくは良い状態を保つためには、質量ともに充分な睡眠、ちゃんとした食事、適度な運動が不可欠で、これらの実践によって鍼灸はより効果の高いものとなります。

また根本がよくなり自然治癒力が高まれば、対症療法は必要なくなります。

現代医学的鍼灸にも、中医学的鍼灸にも、それぞれ優れたところがあり、状況に応じて、最も有効と思われる方法を用いるべきであると考えます。

 

kiichiro

鍼灸師。東洋医学について、健康について語ります。あなたの能力を引き出すためには「元気」が何より大切。そのための最初の一歩が疲労・冷え症・不眠症をよくすること。東洋医学で可能性を広げられるよう情報を発信していきます。中央林間うえだ鍼灸院院長/日本良導絡自律神経調整学会会員/日本不妊カウンセリング学会会員//日本動物愛護協会会員