鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか?「胸部症状をやわらげるために」編

最終更新日

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: %E6%B2%BB%E7%99%82%E4%B8%AD1.jpg



はじめに

 鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。

筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化、等々。

これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。

解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。背景にある考え方が違っていても、用いるツボが同じになることは珍しいことではなく、これはある意味では当然ともいえます。

鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代鍼灸臨床論』」という科目に対しての理解をより深めることを目的のひとつとしています。 非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。

※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。

※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。

〇遠隔療法と反射について

 肩が凝っているときに、その凝っている筋肉に鍼灸をすると、コリが和ぎます。その理由は、凝っている部分の血流が促進されることで疲労物質の滞りが解消されたり、筋肉の伸長収縮度合いが正常に戻るからです。ですから症状が出ている(凝っている)部分に鍼灸をすることには意味があります。では鍼灸が、内臓の異常に働きかけるためにはどうしたらいいでしょう?内臓に直接鍼を打つといった方法もありますが、受け手の負担も大きく、一般的ではありません。そこで反射(東洋医学なら経絡)といった概念が利用されます。

 反射とは、刺激に対して無意識(大脳を介さず)に、機械的に起る身体の反応のことです。例えば、熱いものに手を触れたとき即座に手を引っ込めるのは、考えてから引っ込めたのでは遅いからです。鍼灸刺激によって反射(体性内臓反射)を起こし、生体に元々備わっている治癒力が賦活(活性化)されます。

・内臓体性知覚反射

 内臓の異常は、その内臓を支配している自律神経とほぼ同じ脊髄反射区の皮膚領域を過敏にし、普通では痛みとはならない程度の皮膚刺激でも、その部位に疼痛また異常感覚を伴なうようになるというもの。

・内臓体性運動反射

 内臓異常による求心性の興奮は、対応する体壁(皮膚や筋肉)に運動性の変化として、筋緊張・収縮などを起こすというもの。いわゆる凝りの現象で、内臓疾患による筋性防御のあらわれ。

・内臓体性栄養反射

 交感神経を切断すると支配下の筋群は緊張を失って代謝障害に陥る。内臓に慢性疾患が長期に渡ると、体壁に萎縮・変性があらわれてくるというもの。

・内臓体性自律系反射

皮膚にある汗腺、皮脂腺、立毛筋、および末梢血管系を支配する自律神経系の反射で、交感神経性皮膚分節の領域に反応があらわれるというもの。

汗腺反アセ汗として、立毛筋反射は鳥肌、皮脂腺反射は皮脂として、皮膚血管反射は皮膚の冷え、ほてりとなってあらわれる。

・内臓体性反射

一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄の同じ高さに神経支配を受けている内臓に反射作用があらわれるというもの。このときに、内臓にあらわれる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)である。 

第1節 胸痛の鍼灸診療

〇胸痛とは、胸部に感じる痛みの総称のこと。

胸痛とよばれる疾患には主に、心臓から起こる胸痛(心臓痛)、胸腔内臓壁から起こる胸痛(肺など心臓以外)、胸壁から起こる胸痛に大別されます。また痛み以外の症状として動悸や息切れがあります。

・心臓から起こる胸痛(心臓痛)には、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、心膜炎、心臓神経症など

・胸腔内臓器から起こる胸痛には、解離性大動脈瘤、胸膜炎、気胸、気管支・肺疾患など

・胸壁から起こる胸痛には、帯状疱疹、肋間神経痛、胸郭部の筋々膜症、脊髄神経根痛、肋骨病変など

があります。胸痛には急性心筋梗塞や大動脈解離など重篤な疾患も含まれ、迅速な対応が求められます。

★胸痛は、「心臓から、胸腔内臓器から、胸壁から」起こるものがある!

〇胸痛の鑑別診断

 胸郭疾患では①胸痛部を指先で示すことが出来る。②体動時に生ずる痛み、という性質がある。

 ①②ともに満たす場合→胸郭疾患(肋間神経痛、胸郭部の筋々膜症など)

 ①②とも満たさない場合→虚血性心疾患

 ①を満たすが②を満たさない場合→心臓神経症

・鍼灸不適応

 →虚血性心疾患

  痛む部位-手掌全体で示す。

  動作時・深呼吸時-痛みに増減なし

・鍼灸やや適応

 →心臓神経症

 痛む部位-指頭で示す

 動作時・深呼吸時-痛みに増減なし

・鍼灸適応

 →胸壁疾患

 痛む部位-指頭で示す

 動作時・深呼吸時-痛み出現(憎悪)

第1項 虚血性心疾患の鍼灸治療

 虚血性心疾患とは、冠動脈が狭くなったり、閉塞したりすることで血流障害を起こす病気のこと。痛みは左肩から上肢にかけて放散することもあります。疼痛発作は一般的に数分以内に消失。ニトログリセリンの舌下投与により通常は1~2分以内で痛みは治まります。

 開業鍼灸にとって、虚血性心疾患の施術は、患者が現代医療の管理下のもと危険性を考慮した上で、治療を行います。鍼灸治療自体は禁忌ではない。

★虚血性心疾患は、現代医療の管理下で鍼灸治療せよ!

1.虚血性心疾患の痛み機序

            冠動脈の血流不足

               ↓

            心筋虚血→横隔神経興奮→頚肩部のコリ痛み

               ↓

  星状神経節興奮 ← 左T1~5交感神経興奮→→→左T1~5体制神経興奮

     ↓          ↓             ↓

  顔面症状      左胸痛         左胸痛~左上肢尺側への放散痛

 

①交感神経による心臓の支配は、左T1~5に関係があり、なかでも左T1~3の関与が大きい。この範囲内で、交感神経性デルマトームと体性神経デルマトームの体壁に反応が出る。

★交感神経による心臓の支配は、左T1~3に反応が出る!

②左T1分節に入る交感神経が強い場合には、腕神経叢を介して、とくにC8・T1支配領域である左上肢尺側に放散痛をもたらすことがある。

★心臓疾患は左上肢尺側に放散痛が出ることも!

③心臓に関係する最大の傍脊椎神経節は、星状神経節である。交感神経興奮の程度が強ければ、星状神経節(下顎神経節)や上・中頚神経節まで興奮し、頭顔面症状を呈する。

※星状神経節は、頚の前面、輪状軟骨(のど仏の下にある軟骨)の左右に位置している

★心臓に関係する最大の傍脊椎神経節は、星状神経節!

④心臓は横隔膜隣接臓器なので、横隔膜神経を興奮させ、C3C4デルマトームやミオトーム上、すなわち頚肩のコリや痛みを生ずる。

★心疾患は、横隔膜神経を興奮させ、頚肩部のコリや痛みを生ずる!

2.心疾患の体壁反応

 石川太刀雄氏の「内臓帯壁反射」によれば、虚血血管部位による反応点の大きな違いはあまりないよう。皮電点は皮膚の交感神経興度を電気的に調べるもので、撮診は皮神経の疼痛過敏帯を調べる方法。交感神経興奮が交通枝を介して体性神経を興奮させた場合、両者は同様の反応を示すことになると似田先生は考えているとのこと。撮診法に熟練すれば、軽度の皮下浮腫帯の存在も把握できるので、この場合には交感神経反応を捉えていることになる。

★撮診法を熟練すれば、交感神経反応(軽度の皮下浮腫)も捉えることができる!

3.心疾患時の横隔膜神経反応

 横隔膜の上に心臓が乗っている構造なので、心疾患時は横隔膜反応が出現することがあります。横隔膜反応とは、横隔膜隣接臓器(肺下葉、心臓、胃、肝、膵臓など)に異常が起こると、その異常が横隔膜に波及するというもの。本来の内臓症状に加えて、頚肩凝り、心窩部痛、中背痛などを起こします。たとえば肝臓は知覚に鈍感なため、肝臓自体の反応よりも横隔膜反応の方が強く出ます。

巨闕あたりは第6肋間神経が腹筋と皮膚知覚を支配しており、横隔膜辺縁部は第7~12肋間神経支配と構造的に近い。また心疾患時は心窩部が硬くなり痛むことがあり、これが腹症では「心下痞硬」とよび、心窩部のみならず、肋骨下縁全体が苦しくて痛む状態を、胸脇苦満とよびます。胸脇苦満は、肝胆疾患症状と理解されます。心下痞硬、胸脇苦満とともに横隔膜反応であると考えられます。

★心下痞硬、胸脇苦満はともに横隔膜反応!

4.筋や皮膚への刺激が心臓に与える影響

1)(フェリックスマン著「鍼の科学」医歯薬出版)に、狭心症や急性心筋梗塞の患者9名に対して、胸部の痛みを誘発する部位の真上にあたる皮膚にプロカイン局麻剤を浸潤したり、エチルクロライドで表面を冷却させると、多くの場合痛みが長時間にわたって完全消失する、とあるとのこと。

★胸部の真上の皮膚に局麻剤浸潤、あるいは表面冷却により痛みが消失!

2)一方、ネコの左側胸部皮膚に刺激性溶液を4週間塗布し続けることで、皮膚や皮下組織に紅斑や浮腫、さらには潰瘍を生じせしめるに至ったが、これにより大部分のネコでは陰性T波、房室ブロック、徐脈、不整脈、脚ブロックなどの心電図変化が生じた。心筋の毛細血管は拡張し、真菌の幾本かの線維には微少壊死がみられたとの、報告もある。

 これはあらためて体壁内臓反射の有効性が証明されたわけだが、刺激法や刺激量により、身体に与える影響が善にも悪にもなるということ。

※陰性T波:通常山型をしているT波が谷のようにへこんだ状態。心筋梗塞、高血圧や心筋症による心肥大、脳内出血などでみられる。

※房室ブロック:心房から心室への電気の流れ(刺激伝導)に障害がある状態。

※徐脈:1分間の拍動が50回未満の脈。房室ブッロク状態にあるとなりやすい。

※不整脈:心臓の脈拍が正常とは異なるタイミングで起きるようになった状態

※脚ブロック:心臓の右脚または左脚と呼ばれる部分を通過する電気刺激が部分的あるいは完全に遮断される伝導障害

★体壁内臓反射は、その刺激方法と刺激量が極めて重要!

3)大胸筋トリガーポイント活性は、体性-内臓反射による心機能障害を引き起こす。

 上室性頻拍の原因として、左胸筋のTPが、心疾患患者の61%にみられる(トラベルとサイモンズ)。

※上室性頻拍:心室以外の障害で生ずる発作性頻脈。心臓に異常な電気回路が存在するために発生する。心室性頻拍を生ずる代表疾患は、心筋梗塞、心筋症。

 心房頻拍は、異常な高頻度で興奮する組織が心房内に存在するために発生する不整脈。どれも発作が起こると、心拍数が突然いつもの2倍から3倍になり、その際に動悸や息切れを自覚。

★上室性頻脈では、左胸のTPが心疾患患者の61%にみられる!

5.似田先生の治療(左C6~7棘突起の傍点からの深刺)

 心疾患→二次的に生じた体壁の筋のコリ・痛み、という状況下で、体壁の筋のコリ痛みを緩める鍼灸のみで心疾患が改善するとは思えないが、自覚症状を緩和する効果はあるよう。

 治療点は、患者ごとに異なり、左前胸部や上~中背部の撮痛点を探索することになるが、左C6~7棘突起の傍点を刺激する機会が最も多い。これは「後頚部第6~7棘突起の外側で、椎骨すれすれに直視4cm以上が最良だ」とする郡山七二氏の見解をベースにしている。

 撮痛があれば、左T1~3の高さの起立筋部、左乳根部、左天地(心包経。乳中の外方1寸、第4肋間)、左食竇(脾経。乳根の外方2寸、第5肋間)あたりに治療点を求めることもある。視診すると、数分後から左胸部の苦しさが改善してくることが多い。

 現代西洋医学では、虚血性心疾患に対して、交感神経遮断剤(=β1ブロッカー)を使うことがある。これは心臓のβ受容体を遮断し、心臓の収縮力、心拍数の増加、血圧上昇など、交感神経緊張時に起こる変化を抑制することで、心筋の酸素消費量を抑える効果がある。

 鍼灸の上部頚椎刺激が虚血性心疾患に効果があるのなら、これはβ1ブロッカーと同じく、交感神経興奮を抑制する作用があると考えられる。

★虚血性心疾患に、鍼灸の上部頚椎刺激が効果があるのなら、交感神経興奮を抑制する作用があるということ!

〇気管支喘息の治療は交感神経興奮に誘導する。

 立毛、血管収縮(血圧↑)、散瞳、気管支拡張、心拍数↑ という状態にする。

<興奮状態にする>

 交感神経刺激剤(=気管支拡張剤)の使用

 アドレナリン、ノルアドレナリン

 鍼灸治療では、座位で大椎付近の強刺激にて交感神経を興奮させる。

※気管支喘息:空気の通り道である気管支(気道)が慢性的に炎症を繰り返すことで気管支が狭くなり、呼吸時にヒューヒュー、ゼーゼーといった音が聞こえる喘鳴や呼吸困難などの発作が生じる病気

★気管支喘息に対して交感神経を興奮させるべし!

〇高血圧、虚血性心疾患の治療は、交感神経遮断(結果的に副交感神経活性)に誘導する。

 血圧↓、縮瞳 という状態にする。

★高血圧、虚血性心疾患に対して交感神経興奮を遮断すべし!

<リラックス、睡状態にする>

 交感神経遮断剤(βブロッカー)の使用

 鍼灸治療では、T1~3傍刺鍼により交感神経興奮を緩和させる

鍼灸では大椎付近の刺鍼により、交感神経緊張の誘導にも、交感神経緩和の誘導にも用いられる。

★リラックスさせるためには、T1~3傍刺鍼により交感神経興奮を緩和させる!

ボスミン(アドレナリン)は交感神経刺激剤の中でも最も強力な薬剤の一つである。気管支喘息の発作時に使用する。この薬剤により気管支は拡張するのだが、同時に心臓の方にも働き、心臓に負担がかかってしまう(心拍数増大・急激な血圧上昇)。アドレナリンは交感神経末端から分泌されるホルモンであり、アドレナリン注射は交感神経刺激剤と同様の作用がある。

★ボスミン交感神経刺激剤。気管支拡張、心拍増大・急激な血圧上昇などの作用あり!

6.その他の鍼灸治療の文献

1)内関手技鍼

 内関(心):絡穴。

 中国では、内関穴に手技鍼を行うことは広く行われている。実際に内関穴に中国針30号(=和鍼10番相当)で手技鍼をすると、非常に強い響きが生ずる。

 緊急時、心臓痛で生きるか死ぬかという時には試みられるだろうが、わが国の鍼灸の環境下では例外的方法になる。

 理論的には、T1交感神経は頚部交感神経節→鎖骨下動脈→上肢動脈血管壁へと走行するので上肢の動脈血管壁に影響を与える刺激が有力な手段となる。すなわち内関穴刺鍼は、星状神経節刺(加えて大椎一行深刺)と同じ作用機序になる。

★内関刺鍼は、内関→正中神経→頚部交感神経節→鎖骨下静脈→冠状動脈拡張!

 岡孝和医師は内関手技鍼に対して次の研究を報告。虚血性心疾患患者3名の左内関に1番鍼を刺入、2分間雀啄し10分間置鍼を行ったところ、平均6%程度の冠拡張がみられ、ニトログリセリン舌下錠5mgでは平均15%の冠拡張がみられたという。

 つまり内関はニトロに及ばなかった。ただしニトロでは血圧、心拍数ともに増加するが、内関では変化しなかった。

★ニトロは血圧、心拍数も上昇してしまう。内関は血管拡張のみ!

 不安定狭心症1名(安静にしていても頻繁に発作出現)では内関刺鍼で狭心発作は消失し、運動負荷耐久も向上した。この患者は亜硝酸剤等の薬物療法でコントロール困難であった。鍼治療は冠動脈拡張という直接効果と、治療中止後も良好な経過を得るという長期効果の2つに分けて考えるべきである。不安定狭心症においては自律神経の不均衡が症状発現に大きく関与していることを考えると、治療はこの不均衡を調整する働きがあると思われると主張した。(岡孝和他「狭心症の針知慮」日本東洋医学雑誌 第38巻2号 1987)

★内関刺鍼には、冠動脈拡張と自律神経の不均衡を調整する働きがある!

※亜硝酸剤:ニトログリセリン。血管平滑筋弛緩作用をおこす狭心症治療薬。

※ニトログリセリンは狭心症の特効薬として知られている。というのは収縮した心臓の冠動脈を拡げる作用があるため。もともとダイナマイトの原料として開発されたが、群全にニトロに血管拡張作用があることが発見された。ニトログリセリンを結腸から吸収させて効果を得るので、舌下錠として使用する。

 ニトロ服用により全身の血管が拡張するので、血圧は下がる。すると心臓は血液の王繰り出しを強くしてやらねばならなくなり、かえって心臓の負荷が増してしまう。ニトロは狭心症の万能の特効薬ではない。使い方によっては、ニトロは狭心症に危険な場合もある。

 長い間、ニトロになぜ血管拡張作用があるのか分からなかったが、最近になり、体内で分解されてNO(一酸化窒素)を産生させることによるものだと判明。NOを含む窒素酸化物は大気汚染物質として悪名が高いが、体内でのNOは血管を広げて血圧を下げたりする。ただ量が過ぎれば害がある。

 NOの代表的な役割は、陰茎勃起作用、冠動脈狭窄など。

※ニトログリセリンは労作性狭心症に、アダラートなどのカルシウム拮抗剤は安静時狭心症に用いる。アダラートは舌下服用すると心臓由来の痛みは取れるが血圧は相当下がるので、低血圧の者には使えない。

★ニトロは労作性狭心症に使われる!

2.少沢刺絡

  急性の心臓発作に対しては、古来から少沢や少衝からの井穴刺絡がよいとされてきた。しかし開業鍼灸師にとっては、急性の心臓発作鍼灸禁忌でもあるので、こうした場面に遭遇する機会も殆どんない。治療原理は、グロムス機構を刺激することにある。動-静脈吻合や動-動脈吻合は、手足のみに存在する装置である。一つのグロムス機構が全体のグロムスに影響を与えるのだが、心臓や脳にはグロムス機構はないので、虚血性心疾患発作や脳卒中発作にしても、手足井穴から刺絡しても、効果のほどは疑問である(似田先生)。

※少沢:(小・井)第5指外側爪甲根部

※少衝:(心・井)第4指内側爪甲根部

★急性の心臓発作に対して、井穴刺絡の効果のほどは疑問!

〇狭心痛に対する瀉血治療について

1.狭心痛の灸急処置に対し、かつての西洋医学では瀉血が行われた。この狙いは、循環血液量を減らすことで、肺や心臓の負担(=酸素消費量)を減らすことにあった。

①心兪付近からの大量瀉血

・心筋梗塞の治験例(間中喜雄「鍼灸臨床医典」)

 心筋梗塞発作後1週間は横臥できず座っていた。背部の心兪付近から瀉血を大量に行うことで心の負担を軽減。かつその付近の鍼治療により、苦しさのため疲労硬直した筋肉を軟らかにすると苦悶感は大いに軽減した。心鬱血、肺鬱血、鬱血肝の所見がとれると、その後の状態は非常に改善され、15年経た現在でも元気に暮らしている。

★心筋梗塞発作後の局部筋疲労に、背部兪穴から大量瀉血が効果大!

②尺沢から100g瀉血(本間禅白「図解鍼灸実用経穴学」)

 尺沢(肺)。肘関節横紋上。上腕二頭筋腱の橈側

 尺沢は橈骨静脈部にある。この部は古くから瀉血に使われたところで、上焦の実証性の病に対して応用されてきた。新潟市の中島医師によれば、狭心症発作のとき、あるいは僧帽弁閉鎖不全の場合、尺沢より約10g瀉血すれば、肺の鬱血がとれて楽になるとのこと。

★上焦の実証性の病(心・肺の急性疾患)に尺沢瀉血(10g)が効果的!

2.古代鍼灸医は、井穴刺絡を急性心臓衰弱や発作性血圧亢進症のような心循環器系疾患に対する救急処置として使用していた。指の爪甲根部はグロムス機構の代表点であり、全身のグロムス機構に影響を与えることができる。グロムス機構とは、動静脈の吻合部による物理的血圧探知装置。手首足首、手足の指間に多く存在する。

★井穴刺絡が急性心臓衰弱や発作性血圧亢進症の救急処置効果的なのは、井穴がグロムス機構の代表点だから!

①少沢刺絡 

 急性心筋梗塞者に少沢刺絡(左右)を試み、心電図、血圧、臨床症状がともに改善した。(萩原正識ほか「急性心筋梗塞と鍼灸治療とくに刺絡について」全鍼誌33巻4号)

★少沢刺絡ににより、心電図、血圧がともに改善!

第2項 心臓神経症の鍼灸治療

1.心臓神経症の病態

 心臓神経症とは、胸の痛み、呼吸苦、動悸などの症状があるにもかかわらず、検査では異常が認められず特定の身体疾患と診断できないもの。

 精神的な原因により生ずる心臓の機能的障害。発作時は、狭心様の心臓部疼痛がある。疼痛発作とともに、脈拍増加または除脈、呼吸性不整脈、期外収縮などが生じ、死への恐怖感が生ずる。

 心電図検査なしには、器質的は心疾患と鑑別が困難なことも多い。

★心臓神経症は心電図がなければ、器質的な心疾患と鑑別が困難!

2.心臓神経症の鍼灸治療

似田先生は過去に心臓神経症の疼痛発作時に立ち会った経験が1例あるとのこと。

患者は呼吸困難や強い胸痛を訴えており、死への強い恐怖感をもっていた。この患者は、医師による鎮静剤注射が奏功して不安発作から脱したが、試しに鍼灸をしてみようというような状況ではなかった。早急に鎮静剤の注射を行うべきであり、鍼灸は不適であろう。

 非発作時には、効果があるかもしれない。以下に心臓神経症に鍼灸が効果があったとする報告は「心電図上に異常がない左胸痛」をその診断根拠としているらしい。実際には、上部胸椎の椎間関節症による体壁神経痛(疑似狭心症)である公算があり、心臓神経症とはいいづらい。(似田先生)

★心臓神経症とされるものでも、実際には胸椎の椎間関節痛(疑似狭心症)が多い!

1)督脈基本5穴(身柱、神道、霊台、至陽、筋縮)への灸

 心臓神経症者は上記5穴に反応が出ることが多い。同時に同じ高さの膀胱経や、四肢にも反応が出るが、督脈上へ15~20壮施灸することで、これらの反応点も消失し症状も消失することが多い。(深谷伊三郎「灸治療の臨床研究」鍼灸之世界社)

※身柱→T3、神道→T5、霊台→T6、至陽→T7、筋縮→T9棘突起下

★心臓神経症者は、身柱、神道、霊台、至陽、筋縮に反応(圧痛)が出る!

2)第5、6胸椎棘夾脊穴への鍼

①ある心臓神経症患者の第5、6胸椎棘突起(神道)に過敏点を認め、X線撮影で同部位での椎間関節可動性が制限されていることが認められた。そこで第5、6胸椎夾脊穴に刺鍼(1番鍼で刺鍼雀啄後1分間置鍼)したところ、1回の治療で9年間感じていた胸痛、過敏点ともに消失し可動性も回復した。(岡孝和:針治療が著効した心臓神経症1例、日本東洋医学雑誌第39巻1号、1988)

★9年間感じていた胸痛(心臓神経症)が第5、6胸椎夾脊穴への刺鍼1回で治癒!

②さらに17名の心臓神経症患者に同方法(ただし雀啄後2分置鍼で週1回施術で計3回)にて追試を試みた。その結果、過敏点は47%で消失、胸痛は1回の治療で71%の著効を得た。胸痛以外にも、呼吸困難感、肩凝り、背部痛、胸部圧迫感、動悸に対しては3回治療で50%の以上の症例で著効を得た。ただし全身倦怠感やふらつきに関しては有効度が低かった。(岡孝和:いわゆる心臓神経症患者における胸背部過敏点の臨床的意義の検討:日本東洋医学雑誌、第3 1巻1号、1 9 9 0)

★心臓神経症の諸症状が上背部督脈の穴、夾脊穴で著効!

第3項 胸壁性胸痛の鍼灸治療

1.胸壁性の胸痛の分類 

 胸痛の90%は虚血性心疾患ではなく、胸壁の問題である。脂質、血圧、糖尿病の異常がない場合には、冠状動脈疾患の可能性はほとんどない。(バーナードイン「治せる医師、治せない医師」

 胸壁性胸痛は、皮膚、深部痛覚(筋々膜、腱、骨膜)に分布する体性神経が胸壁性胸痛を起こすが、患者はこれを狭心症と誤認することがある。これを偽性狭心症あるいは疑似狭心症とよぶ。

※胸壁:胸を形作っている骨格とその周りの筋肉などの組織から成り立つもの

★胸痛の90%は虚血性心疾患ではなく、胸壁(筋、筋膜、腱、骨膜)の問題!

・筋々膜痛:大胸筋緊張など

・胸神経痛-後枝痛:胸椎椎間板関節症(T1~3)

     -前枝痛:肋間神経痛など

・骨膜痛:肋骨々折

※胸水が溜まるのは、肺実質ではなく、胸膜腔(壁側胸膜と臓側胸膜の間)

★体性神経の興奮によって起こる胸痛を狭心症と感じてしまう!

2.頚胸椎移行部を中心とした脊柱変化 

 胸部筋のコリや、胸神経後・前枝の運動神経線維の緊張でも、狭心症とほぼ同様の症状を訴えることがある。最も多いのはT4~7胸椎分節から生ずる。なお下部頚椎~頚胸椎移行部が最も多いとする見解もある。

★胸部筋のコリ、胸神経後・前枝興奮でも狭心症と同様の症状を訴えることも!

 症状は、まったく狭心症と同じ(胸が締めつけられ息がしづらい、動悸がする、背中が痛い、胸が痛い、心臓が苦しい)であって、この場合でも、ニトロは体壁の血行改善するためか有効になる。この治療には、撮痛帯から内上方に位置する夾脊刺鍼で、胸痛消失することが多い。

★偽狭心症でもニトロは効く。体壁の血行改善のため!

3.肋間神経痛

肋骨と肋骨の間を走る神経に痛みが生じるもの。原発性と続発性があり、続発性は病気や外傷、解剖学的な異常などにより生じる。

・原因(続発性)

病気:胸膜炎、肺癌、肺炎などの胸郭内病変、脊椎や肋骨の腫瘍、帯状疱疹など

外傷:肋骨骨折、肋軟骨炎など

解剖学的異常:椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、側弯症など

 特発性は比較的若い女性に多く、左側の第5~9肋間領域に多い。特発性は少なく大部分は症候性である。

※特発性:原因が特定できないもの

※症候性:病気が原因になっているということ。

★肋間神経痛は症状の一つであり、原発性と続発性がある!

2)肋間神経の走行と神経支配

①第1~6肋間神経

 肋間を胸骨縁に向かって走行し、前胸の肋骨に相当する部の肋間部の筋運動と深部知覚を支配。その皮枝は前胸壁皮膚知覚を支配。皮枝には外側皮枝の外側枝と内側枝、前皮枝の外側枝と内側枝がある。

★筋枝は筋肉の運動と知覚(深部知覚)を支配。皮枝が皮膚の知覚を支配!

・肋間神経(脊髄神経前枝⦅胸神経⦆)-筋枝

             -皮枝-外側皮枝-外側枝

                     -内側枝

                -前皮枝 -外側枝

                     -内側枝

※胸神経は交感神経を含む

②第7~12肋間神経 

 途中までは肋間部を走行するが、腋窩線あたりから内腹斜筋と腹横筋の間を走行し、腹白線に至る。腹壁筋の運動と深部知覚を支配。その皮枝は鼠径部を除く腹壁の知覚を支配。

★筋枝は筋運動と深部知覚を支配!皮枝は知覚を支配!

3)症状

 肋間神経が深層から表面に出る部に圧痛がみられ、次の3ヵ所が代表的圧痛点。

①脊柱点:脊柱外方3cmの処。胸神経後枝が表層に出る部。背部兪穴に相当。

②側胸点(外側点):前腋窩線上。前枝の外側皮枝が表層に出る部。

③前胸点(胸骨点):胸骨外方3cm。前枝の前皮枝が表層に出る部。

※第6肋間神経以下は腹部肋間神経痛として現れ、前胸点に相当する。圧痛点は腹直筋外縁部に出現し、「上腹点」と称する。

★肋間神経痛時の圧痛は、神経が深層から表層に出る部にみられる!

4)治療

 特発性(原因不明)の肋間神経痛は、これまで神経の刺激によるものと考えられていた。そして神経が深層から表層に出る部が治療点だとされていることから、脊柱点・外側点・肋間前胸点を取穴するのが定石だった。しかし生理的に上流の知覚神経が興奮しても、下流にその興奮(痛み)を伝達することはないわけで、MPS(筋膜症候群)の考え方で、中枢側の筋々膜症症状が末梢に放散痛を生ずる状況を、肋間神経痛と呼んでいるのが真実である。(ただし本態性肋間神経ではなく、帯状疱疹性の肋間神経ならば知覚神経が興奮する)。

 肋間神経絞扼障害を生ずる脊柱付近の筋膜症とは、具体的にどの筋なのかが模索されている。(似田先生談)

★中枢側の筋々膜症症状が末梢に放散痛を生ずる状況を、肋間神経痛と呼んでいるのが真実!

①肋横突関節付近への刺鍼(長尾正人:「一本鍼四題」医道の日本 H12.6)

 ほとんどの肋間神経痛、胸痛、背部痛、側胸痛などの原因は、椎間孔から肋横突関節付近の脊髄神経の障害による放散痛と考えられる。つまり棘突起下、外方1cm~2cmの範囲内になる。鍼はここに有効深度(3㎝程度)だけ入れればよい。鍼先は椎間関節、回旋筋、多裂筋(=短背筋と総称する)。

 以上が長尾先生の主張だが、このやり方で似田先生は十例以上の本態性肋間神経痛症例に施術してきたが、あまり良い結果を出せなかったとのこと。効果のない理由は、長尾先生の刺鍼は脊髄神経後枝を刺激するもので、いわゆる背部一行筋の筋膜性腰背痛には効果があるが、前枝走行に関係する筋を刺激していないためだと、似田先生は結論づけている。

②肋間神経痛の傍神経刺(木下晴都:肋間神経痛に関連する傍神経刺の臨床研究、日鍼灸誌、29巻1号、昭和55年.2.15)

★肋間神経痛を対象とした刺鍼は背部一行(夾脊)だけでなく、二行(背部兪穴)も!

2寸#5鍼使用。棘突起の外方3cmから脊柱に向けて10°傾けて静かに4cm刺入。約5秒とどめて、静かに抜鍼する。棘突起の外方3cmから直刺すると、多くの場合肋骨または胸椎横突起にぶつかり4cmも刺入できない。しかし胸椎棘突起4~10の高さにおいては、およそ棘突起下縁の高位取穴すれば、鍼は胸椎横突起間に刺入でき、目的を達する場合が多い。鍼を脊柱に向けて10°傾けるには、気胸防止のため。

 治療間隔は、初めの2~3回は毎日、その後は隔日、または1週間に2回程度とした。

 102例の肋間神経痛患者に対し傍神経刺を行ったところ、91%が優、6%が良、3%が不変、悪化はなかった。うち優の結果を得た93例をみると、発症1~7日の52例では平均2.9回治療。8~15日の18例では4.6回、16~30日の12例では7.9回、3ヵ月以上経過した4例では11.5回だった。

★肋間神経興奮を鎮めるには、2寸#5鍼使用。棘突起の外方3cmから脊柱に向けて10°傾けて静かに4cm刺入!

③体操療法(静的、動的ストレッチ)&セルフマッサージ

立位、座位のどちらでも可。手指を組んで背筋を伸ばす、回旋(捻る)、側屈。ゆっくりと、慣れてきたら少しリズミカルに行う。動きに呼吸を合わせるとよい。多少の痛みが走るが我慢。

 次右手を熊手のような形にして、その指先で左胸の肋骨およびその隙間をマッサージする。右胸も同様も実施。

★肋間神経痛に対して自分でできることがある!

1.帯状疱疹後肋間神経痛

1)帯状疱疹の原因 

 水痘(水疱瘡)帯状疱疹ウイルスを原因として発症する病気。初期段階には皮膚がピリピリ・チクチクする痛みを感じ、時間経過とともに赤みや水疱形成などの皮膚症状が現れる。

 水痘ウィルス感染者の症状(発疹、水疱)消失後、ウィルスが脊髄後根神経節に達し、潜伏し続ける(免疫力により活動が抑制される)。数十年後、免疫力が低下した際に再活性化。水痘ウィルスは帯状疱疹ウィルスと名前を変え、神経節から末梢神経を下行して当該皮膚に水疱を形成する。神経根症となってデルマトームに従った痛みが出現。帯状疱疹は他人への感染はまずないが、水痘に罹患したことのない小児には水痘として伝染する。

★帯状疱疹は、水痘ウィルスが数十年後、免疫力が低下した時に再活性化!

2)帯状疱疹の症状

 皮膚がチクチク痛み出し、次第に痛みが増強。その数日後に、罹患皮膚が発赤→水疱→痂皮と移行。この間約2週間で、皮膚症状や疼痛は自然治癒することが多い。皮膚所見が現れない前の痛みは、診断を下すのが難しい。

 帯状疱疹は、知覚神経のどこにでも発症するが、肋間神経と三叉神経(1枝領域)に多い。三叉神経第1枝領域に発症して眼の角膜(三叉神経第1枝知覚支配)まで罹患すると、角膜は痛みとともに水疱→痂皮形成して透明性を失い、失明の危険性がある。

★帯状疱疹は、肋間神経と三叉神経(1枝領域)に多く発症する!

3)帯状疱疹後神経痛

 免疫力低下者では、発症から3ヵ月が経って皮疹が治った後も痛みが残存する者がいる。これをPHN(帯状疱疹後神経痛)とよぶ。60才では60%、70才では70%が帯状疱疹後神経痛に移行する。一度発症すると、6ヵ月間程度は難治性の強い痛みが持続する。

4)帯状疱疹の疼痛機序

①急性帯状疱疹痛:皮疹が出現しているときに起こる痛み。主に皮膚の炎症による痛み。創傷、火傷、打撲、骨折、肩関節周囲炎、腱鞘炎などと同じ種類の痛みで、侵害受容性疼痛とよぶ。通常の消炎鎮痛剤で効果がある。交感神経の過緊張による影響も大きい。←星状神経節ブロックを行う理由

★急性帯状疱疹は皮膚の炎症による痛み!

②慢性帯状疱疹痛:皮疹が治癒した後も続く痛み。神経の切断や圧迫による痛み。帯状疱疹後神経痛、糖尿病合併による痛みやしびれ、脳卒中・脊髄疾患による痛みで、神経障害性疼痛とよぶ。従来の鎮痛剤ではあまり効かない。後述のリリカが効果あり。

★帯状疱疹後神経痛は神経の切断や圧迫による痛み!

5)帯状疱疹の現代医学的治療

①抗ウィルス剤+交感神経ブロック

 治療方針は、ウィルスの増殖を抑えること・皮膚の炎症を抑えること・痛みを抑えることの3つ。このうち、抗ウィルス剤はウィルスの増殖を抑えることに効果がある。

 要するに抗ウィルス剤は、ウィルスが増えきってしまう前に、診断がついたらできるだけ早めに使用する。点滴または内服薬。2010年から本剤は保険適応になり、以来広く使われるようになった(それでも十割負担では一錠7000円)。しかし帯状疱疹後神経痛への移行には変化をもたらさない。また抗ウィルス剤では交感神経の緊張を抑制できず、除痛効果もない。

★帯状疱疹の治療は、ウィルスの増殖・皮膚の炎症・痛み、このを抑えること!

②リリカ(新薬):一般薬物名はプレガバリン。末梢神経障害により生じた神経痛の治療に効果を発揮。従来の消炎鎮痛剤では強い痛みに対してあまり効果がなかったが、リリカは強い痛みに対しても効果がある。

★リリカは、末梢神経障害性疼痛に効く!

6)鍼灸治療

 帯状疱疹発症後1ヵ月以内に治療を介したものは予後良好であり、1年以上経過したものは治療効果が悪い。帯状疱疹後神経痛への移行を予防するのが重要(移行しない場合には自然治癒する)。抗ウィルス剤が保険適応になる以前は、鍼灸でも帯状疱疹後神経痛患者は来院。

 帯状疱疹後神経痛への移行予防には局所+星状神経節ブロックが有効だが、帯状疱疹神経痛となって1ヵ月以上経つものについては、現代医学では(東洋医学でも)期待薄。要するに、神経ブロック治療でプラトーに達した後にも鍼灸は一応適応があるが、器質的な神経痛であるため難治であり、頻回の治療を必要とする。

★帯状疱疹後神経痛への移行予防には「局所+星状神経ブロック」が有効で、1ヵ月経つと期待薄!

①初期:小水疱が狭い範囲に出現している程度であれば、罹患部を囲むように横刺とデルマトーム内夾脊刺鍼で良好。早期に痂皮化に移行させるのが目的。

★狭い範囲の小水疱であれば、罹患部を囲むように横刺&デルマトーム内夾脊刺鍼!

②移行後:上記と同様だがバルス治療を併用した方が効果ある。パルス治療後一両日は鎮痛効果作用が得られる。しかし再び元の痛みに戻りやすいので、難治例では小型の家庭用プレート低周波治療器を買わせ、1日3~5回、1回15分程度実施させる。要するに、間隔を空けずに低周波通電を行うのがコツである。

 中国では疼痛部から好んで刺絡する。現代医学的治療に加えて鍼灸治療を行うことが効果を増大させるという報告が多数ある。

★神経痛に移行後はパルス併用により効果大!

第2節 動悸・息切れ

1.動悸・息切れを生ずる疾患

・動悸:心疾患(器質的疾患および刺激伝導系異常)

 進行すると→左心不全により生じた肺鬱血(=心臓喘息)

 心・呼吸器疾患以外:貧血、甲状腺機能亢進症、心因性

★心疾患が進行、左心不全により肺鬱血を生じ心臓喘息となる!

・息切れ:呼吸器疾患(主にCOPD=慢性閉塞性肺疾患) 

 進行すると→肺性心から右心不全に

 心・呼吸気疾患以外:貧血

 ※肺性心:肺高血圧を引き起こす肺疾患によって生じる心疾患(右心不全)

★肺性心から右心不全!

1)動悸

 心疾患による動悸時には不整脈が出現。問診により次のことが理解できますが、どのタイプの不整脈でも、危険なものも、当面放置してよいものがあります。この見極めは専門医が行います。

★不整脈の危険度は専門医に!

 ・軽い労作時にも出現:心臓の器質的疾患(心臓弁膜症、心筋障害、冠状動脈疾患

 ・心負荷とは無関係:刺激伝導系異常-ドッキンと1回→期外収縮(最も多い不整脈)

                  -ドキッドキッと連続→発作性頻拍 

                  -不規則な脈拍→心房粗動、心房細動

★動悸は、心臓の器質的疾患もしくは刺激伝導系異常!

2)息切れ

 息切れでは、まず呼吸器疾患を考慮します。その代表はCOPDすなわち慢性閉塞性呼吸器疾患であり、気管支喘息、肺気腫、慢性気管支炎の3者がこれに該当。なおこの3疾患以外の呼吸器疾患は、そのほとんどが慢性拘束性呼吸器疾患に分別されます。

★息切れは、(慢性閉塞性呼吸器疾患)=「気管支喘息、肺気腫、慢性気管支炎」!

3)心不全

 心臓のポンプ機能の働きが弱くなった状態を心不全といいます。1回の心収縮で送る血液量が低下するので、たくさん心拍数を増やして十分な量を送ろうとします。この場合、息苦しさを感じ脈拍数も増加。心ポンプ力が弱くなることは、肺循環系に鬱血が生じ、肺毛細血管内圧の上昇をきたします。

★心ポンプ機能低下→1回拍出量低下→心拍数増加&肺循環系に鬱血→肺毛細血管内圧上昇!

 胸膜には壁側胸膜と臓側胸膜の2層があります。健常者では2層間に、ごく少量の胸水が存在しているますが、これは呼吸に際しての摩擦軽減させるためです。胸水は壁側胸膜で生成され臓側胸膜で吸収されます。肺循環の結果、臓側胸膜の静脈圧が高くなると胸水の吸収力が低下し、胸水が停滞するようになります。左心室が衰弱すれば、右肺に胸水が貯留(両側心室衰弱すれば両側肺に胸水が貯留)するようになります。なお胸水を生ずる原因として最も多いのは肺炎であり、2番目に多いのがうっ血性心不全です。

★胸水を生ずる原因は1位肺炎、2位鬱血性心不全!

 充分な血液量が環流できないということは、末梢血液の回収が不十分になるのことでもあるので、浮腫(とくに下肢)が生じやすくなります。見た目で浮腫が確認できなくても、身体内部の水分が増加していることも。その場合、1週間に2kgの体重増加というのが目安になります。

★心不全は浮腫をきたす!

・左心不全:起坐呼吸、頻脈、肺水腫、チアノーゼ、喘鳴、さび色喀痰

・右心不全:頚静脈怒張、胸水、腹水、肝腫大、浮腫(下肢)

★浮腫(下肢)きたすのは右心不全!

第3節 咳嗽・喀痰の鍼灸治療

1.鍼灸院に来院する下気道・肺疾患

〇鍼灸単独での施術

・上気道疾患(咳は喉から出る感じ)。乾咳→〇、湿咳→✕

・下気道疾患(咳は胸から出る感じ)。乾咳→✕、湿咳→✕

★鍼灸単独で治療が行えるのは、上気道疾患かつ乾咳のみ!

 鍼灸に来院する下気道・肺疾患とは、発熱なく重篤感もないこと、慢性症であること、医師にかかっていても症状が満足いくほど改善しないこと、等の要件を満たすものになります。

 咳嗽喀痰の診断は感染症が絡むので難しく、診断がつかなければ治療可能かどうかはわからない。しかしながら上気道疾患で乾咳(痰の伴わない咳)であれば、喉頭炎やかぜ症候群なので、鍼灸単独でみることは可能です。それ以外は医師の診断から判断することになります。

★鍼灸適応となる下気道・肺疾患は、発熱、重篤感なし。慢性症、医師にかかっていることが条件!

〇慢性咳嗽の鑑別ツリー

 ・慢性の乾性咳

  -次第に憎悪傾向:初期の肺結核や肺癌(医療受診)

  -咳は喉から出る感じ:慢性喉頭炎→鍼灸単独治療可

・慢性の湿性咳

  -咳は胸から出る感じ→まずは医療受診し病名を明らかにする。

             →感染症(発熱あり)→現代学的治療単独   

             →非感染症→重篤感(+)→現代学的治療単独  

                  →重篤感(-)→現代医学+鍼灸治療併用可

2.慢性閉塞性肺疾患と慢性拘束性肺疾患

 ・閉塞性:肺気腫、慢性気管支炎、気管支喘息

 ・拘束性:肺線維症、間質性肺炎、気管支拡張症

★慢性閉塞性と慢性拘束性!

 肺気腫は息切れ、慢性気管支炎は咳嗽喀痰、気管支喘息は呼吸困難が主症状である。この3者には気道狭窄という共通項があり、合併することも多いの慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)と総称されている。

  chronic :慢性

  obstructive:邪魔な、妨害する、閉塞性

  pulmonary :肺

  disease:疾患

 COPDの最大危険因子は喫煙(1日20本以上のタバコを20年以上)。

 喫煙と肺気腫の関係:喫煙を続けていると、肺局所の白血球(とくにマクロファージ)が増えてくるらしい。この白血球が出す「組織を破壊する物質」が肺組織を溶かして肺を破壊してしまう。この反応はリンパ球が関与していないので、免疫反応の狂いによるものではない。

 検査:肺活量は正常(ないしやや低下)、1秒率は低下。

★肺気腫は息切れ、慢性気管支炎は咳嗽喀痰、気管支喘息は呼吸困難!

※1秒率:一気に息を吐き出す時、最初の1秒間に吐き出すことのできる呼気量。閉塞性肺障害では、空気の通路が狭まっているので、1秒率は低下(90%以下)するが、肺活量は正常。拘束性肺障害では、肺の呼吸運動を妨げている状態で、胸郭にきついコルセットを巻いた状況に例えることができる。拘束性肺障害では、1秒率は正常だが、肺活量は低下する。

★閉塞性肺障害は1秒率低下、肺活量正常。拘束性障害は1秒率正常、肺活量低下!

・気管支喘息

 病態:気管支炎がベースにあり、わずかな刺激により気管支の痙攣と浮腫を起こす。

 症状・所見:喘鳴、呼吸困難

★気管支喘息は気管支炎がベースにある!

・慢性気管支炎

 病態:喀痰が2年以上連続し毎年3ヵ月以上続いた状態。気道の改変が起こり気管支の粘液分泌過剰。ほぼ全例が40才以上の喫煙者。

 症状・所見:咳嗽、喀痰。憎悪時は膿性痰。血痰が出ることも。

★慢性気管支炎はほぼ全例が40歳以上の喫煙者!

・肺気種

 病態:肺の老化現象。肺胞壁の破壊により、隣合う終末気管支の細胞壁が崩壊融合され、大きな空間になる。喫煙者、老人男性に多い。

 症状・所見:息切れ、樽状胸郭、鼓音、太鼓バチ指

★肺気腫は肺の老化現象。肺胞壁の破壊!

2)慢性拘束性呼吸器疾患の特徴

 代表疾患としては、肺線維症、間質性肺炎、気管支拡張症など。

 検査:肺活量は低下、一秒率は正常。ベルクロ・ラ音(有響性の捻髪音)聴取。

 ※ベルクロ・ラ音とは

 血圧測定の際、腕に巻きつける布をベルクロとよぶ。これをはがす時、マジックテープは外れるのでバリバリという音がする。胸で聴けるこのような有響性の捻髪音をベルクロ・ラッセル音とよび、これを省略してベルクロ・ラ音となった。ラッセル音とは、肺の聴診で聴かれる異常呼吸音のこと。ベルクロ・ラ音は、拘束性肺疾患でみられる。

★慢性拘束性呼吸器疾患の代表疾は、肺線維症、間質性肺炎、気管支拡張症!

①気管支拡張症

概念:気管支内腔の非可逆的拡張をきたした状態(←慢性気管支炎とは逆)。

病態:気管支や肺の慢性炎症を繰り返す→気管支壁の平滑筋が破壊され弾性消失→気管支は脆く太くなる→咳やイキミで気管支壁から出血して血痰。

主訴:咳嗽・喀痰。多量の濃淡と血痰。

★気管支拡張症は、気管支や肺の慢性炎症から始まる!

鑑別診断-慢性気管支炎→気管支全体の破壊  

    -気管支拡張症→中等気管支の変性拡張

 気管支拡張症は拡張した気管支部分に痰が溜まる。とくに睡眠中は長時間痰が貯留するので、朝方は特に多量の喀痰が出る。これを満口喀痰とよぶ。気管支拡張症は気管支もろくなるので、咳などで血管が破れると血痰となる。

 慢性気管支炎の痰量は気管支拡張症ほど多量ではなく、血痰も出ない。

※喀:のどに詰まったものを吐く、という意味

★気管支拡張症は、朝方に多量の喀痰が出る!

②特発性間質性肺炎

本態:原因不明の進行性肺線維症。

症状:咳嗽、喀痰、息切れ、呼吸困難、チアノーゼ、太鼓ばち指。

※肺線維症:肺に線維が増殖し、肺が硬化萎縮する。進行すれば呼吸機能不全を生ずる。

予後:抗生物質無効で副腎皮質ホルモンが唯一の治療。予後不良。

★特発性間質性肺炎は、肺は線維化する!

3.下気道疾患に起因する咳嗽・喀痰の鍼灸治療

1)脊髄神経前枝と後枝の反応

 肺や器官(支)の内臓体壁反射には、心臓とは逆に、交感神経<副交感神経の臓器であり、起立筋や大胸筋の反応は比較的弱く、これらの部のコリ痛みを緩めても症状の改善につながりにくい傾向にある。要するに内臓-体壁反射は弱く、体壁内臓反射による治療効果も弱い。

 交感神経優位にすることが症状を改善させるので促通手技として坐位にし、上背部への強刺刺激を行う。

★肺や気管支疾患は、起立筋を緩めてもダメ。交感神経を優位にせよ!

①治喘

位置:大椎穴(C7-T1棘突起間)の外方5分(実際には直側)

※定喘→坐位。大椎穴の外方1寸。ただし最近では、治喘よりも定喘の方が知られるようになり、定喘を治喘と同じく大椎の外方5分と取穴する方が主流。

刺鍼:坐位で#3~#5鍼にて、3cm刺入し強刺激の雀啄。この間、患者に命じて軽く数回呼吸させる。頚部交感神経を興奮させることで副交感神経亢進を是正。

※治喘刺鍼の響き:鍼を脊柱い沿って下方に向けて1.5寸ほど刺入すると、響きは脊柱と並行に5寸ほど下方に届いた。抜鍼して今度は1寸直刺すると頚の方から咽の方に達した。その後間もなく咽が楽になり咳が鎮まってきた。(代田文誌「鍼灸臨床ノート」④)

★治喘、強刺激、雀啄、呼吸 → 交感神経興奮 → 副交感神経是正 → 症状緩和!

②至陽・霊台(反応の強い方を選択)(清水厳、田中昭三)

位置:霊台は第6胸椎棘突起下、至陽は第7胸椎棘突起下

適応:久咳、慢性の咳。慢性気管支炎、横隔膜の過敏性を緩和。

★肺や気管支疾患に至陽、霊台!

2)横隔膜反応

 下気道や肺疾患に起因する咳や痰症状の改善は、鍼灸しても効果に乏しい場合が多く、効果のある例でも一過性にとどまる傾向にある。鍼灸が効果がある例では、毎日の自宅施灸を行い、毎日体調良くすごすことを目標にする。病像の進行した者や、高齢者にはあまり効果がない。

★下気道、肺の疾患は鍼灸をしても一過性にとどまる。毎日自宅灸をすべし!

①息切れに効果

 明治国際鍼灸大学の研究によれば、慢性閉塞性肺疾患の主訴である息切れ(労作性呼吸困難)患者68名を、薬物+鍼群、薬物+偽鍼群に分け、12週間治療した結果、薬物+鍼群の方が、労作時息切れ・その他QOLに改善が得られたとのこと。この時に使ったツボは、中府、太淵、中脘、関元、扶突、太谿、足三里、完骨、肺兪、脾兪、腎兪。(京都大学HP、研究の項、2012.5.23) 

★肺疾患に対して、(薬物+鍼)>(薬物+偽鍼)!

②痰がキレやすくなる-線毛運動の活発化

 乾性咳は「鎮咳」、湿性咳は「去痰」が目的になる。「去痰」とは、痰を消滅させることではなく(それは最終目標)、痰を容易に排出させることである。痰の多い状態では気道感染も起こりやすくなる。 

 気管と大中気管支には線毛(繊毛)があり、痰や異物を上方へ送る運動をしているが、繊毛運動は交感神経興奮で活発化することが知られる。背中や胸を叩くと痰や異物を出やすくなることは医療上の処置としても行われる。この目的のため、胸骨付近や上背部に交感神経興奮目的で刺激するとよい。鍼灸は、喀痰排出を容易にする効果があるようだ。

※暴飲暴食後に嘔吐を誘発させるには、背中をこすり、胃の副交感神経を優位にする。

★繊毛運動は交感神経興奮で活発化。鍼灸はこれを後押し!

第4節 気管支喘息と鍼灸診療

1.気管支喘息の概略

気管支喘息(喘息)とは、空気の通り道である気管支が慢性的に炎症を繰り返す疾患。

1)原因

 これまで気管支喘息は気管支が痙攣などで、一時的に狭くなる病気だと考えられてきた。しかしこの十数年来は、気管支の収縮に加えて、気管支粘膜が炎症腫脹することにより、粘液が溜まって空気の通り道が狭くなる慢性の病気と考えられるようになった。

★気管支喘息は気管支の痙攣で、気管支の内腔が狭くなるのではなく、気管支粘膜の炎症によって粘液溜まり、空気の通り道が狭くなるため!

<気道閉塞のメカニズム>

             気道炎

   ↓       ↓       ↓      ↓

 遺伝的要素 → 気道過敏性 → 気道閉塞 → 喘息症状

               ↑  

            引き金(トリガー)

2)分類

①外因性≒アトピー性(とくにⅠ型アレルギー)

 特徴:吸入性・食餌性抗原、若年発症(35才以下) 

 機序:

Ⅰ型アレルギー:アレルギーは4種類に分類され、一般的にアレルギーとⅠ型のことを指す。IgE受容体に結合したIgE抗体が抗原と反応することでマスト細胞が活性化、放それによって出された細胞内顆粒のヒスタミンが血管や平滑筋に作用して蕁麻疹や気管支収縮などのアレルギー症状を引き起こす。

抗原暴露→IgE抗体産生→肥満細胞破裂→ビスタミン症状出現(血管透過性亢進、平滑筋収縮、粘液分泌亢進)

★アレルギーとは一般的にⅠ型のこと。IgE抗体が抗原と反応することでマスト細胞が活性化!

②内因性≒感染性

 特徴:ウィルス感染が多い。中年以降に発症(35才以上)

 機序:ウィルス感染→粘膜上皮の刺激物受容体を露出→粘膜浮腫と血管透過性亢進

★ウィルス感染によっても気管喘息となる!

③混合性:外因性と内因性の混合型

気管支喘息者の気管支は正常者の気管支に比べて

①粘膜腫脹 ②粘液分泌増加 ③気管支平滑筋緊張

★気管支喘息者の気管支は、粘膜腫脹 粘液分泌増加 気管支平滑筋緊張(収縮)!

3)症状

 三大症状は咳、喘鳴、呼気性呼吸困難。

 強度発作時は起坐呼吸(下半身に血液が集まり肺鬱血が軽くなる)

※起坐呼吸:横になっていると呼吸困難が強まり、座位または後ろに寄りかかると楽になるため、この姿勢をとりたがる状態。

※起坐:上体をほぼ90°に起こし、テーブルや机を乗せ、そこにもたれかかるように座った姿勢。

①気道分泌物過多:咳嗽、喀痰、喘鳴、湿性ラ音

②気管支攣縮:呼吸困難(特に夜間)、閉塞性障害

③内因性のみの所見:アレルギー反応(IgE増加、好酸球増加)

★気管支喘息の三大症状は、咳、喘鳴、呼気性呼吸困難!

4)現代医学治療

①吸入ステロイド薬+気管支拡張剤 

 治療の2本柱は、吸入ステロイド薬と緊急処置としての気管支拡張剤(=交感神経β2刺激剤)である。先述のとおり、気管支喘息は気管支の炎症が本体だと認識されたので、治療の重点は気管支の炎症を軽くして気管支の腫れを引かせる方に置かれるようになった。

 炎症改善にはステロイド剤が最も効果的である。ただし現在の治療は、発作がでてからではなく、気道狭窄の度合いに応じて、必要十分な量のステロイドを吸入(服用するより量が少なくて済む)するように変化した。旧来の治療は、副作用を考えて、ステロイド錠剤を少なめに服用していた。

★気管支喘息の治療の2本柱は、吸入ステロイド+気管支拡張剤!

抗IgE療法:

 平成21年からは、上記治療をしても、なお発作が起きやすい重症の喘息患者には、新薬オマリズマブ(商品名ゾリア)の皮下注射が行われるようになった。ゾレアは、喘息などの即時型アレルギー反応を引き起こす元であるIgEに直接結合して、IgEの働きを遮断する作用がある。アレルギー物質が体内に取り込まれても、それに反応するIgEが働きをなくしてしまうので、アレルギー反応を消滅させることができるという。

気管支喘息は、長期に使用する吸入ステロイド薬が一般的となってから、効果的な発作予防が可能になり、喘息死は減少傾向にあるとされる。とはいえ、わが国でも1年間(2006年)に約2800人が喘息により死亡(その多くは重症喘息患者)しており、重症者の長期管理の方法が必ずしも確立されていない。

オマリズマブの登場は、喘息の重症喘息患者にとって朗報と考えられている反面、米国では2007年、市販後調査で遅発型アナフィラキシーが報告され問題化している。

また、週1回ペースで数ヵ月行う注射だが、1回10万円(3割自己負担では3万円)と高額であることと、新薬なので副作用への不安もあり、平成28年の現在でもまだ普及していない。

吸入ステロイド+気管支拡張剤がだめなら、ゾレアの皮下注射!

②BT療法(気管支の加熱治療)

 2015年4月に保険適応となった治療。複数の薬剤を使用しても、頻繁に喘息発作が出てしまうような患者が適応となる。局所麻酔あるいは全身麻酔で内視鏡を気管支に入れ、65℃の温度の肺の内側を1回1時間ほど温めることで、喘息症状を引き起こす原因となる気管支平滑筋の働きを弱める狙いがある。最初は右肺の下部、2回目に左肺の下部、3回目が左右の肺の上部に実施。各回の治療は3週間以上間をあける。平均で3ヵ月後くらいまでには効果を実感する患者が多い。

 本治療は喘息を完治させる治療ではなく、BT療法治療後も引き続き吸入薬などの薬剤を使用していくことになる。

★BT療法は気管支平滑筋の働きを弱めるのがねらい!

③予後

 喘息では、薬なしで発作が2年以上起きない状態を「寛解」、5年以上続いている状態を「治癒」と判定。患者の10%弱は、寛解か治癒に誘導できると考えられている。「気管支喘息は完全に治せないかもしれないが、上手につきあうことはできる」(東京喘息シンポジウム 2001.9.8)。

 気管支喘息による死亡者は、18年前の半数である2500人(2016年)にまで減少した。しかもその90%が60才以上の高齢者である。本患者の平均余命は、正常人に比べて12年ほど短命。

★喘息による死亡者・重傷者を減らすことが望まれる!

2.気管支喘息の類似疾患

1)急性気管支炎

 気管支に急性の炎症が生じ、咳や痰などの呼吸器症状を引き起こす疾患。発症原因としては、ウィルス、細大気汚染物質の吸引など。

気管支を罹患部位とする急性の下気道炎と、急性上気道炎すなわちカゼ症候群に続発することが多い。主訴は咳嗽と多量の喀痰で、呼吸困難はない。

※気管支の慢性炎症や過敏症の結果として、湿性咳(粘液分泌亢進で喀痰・咳受容体刺激)の病理変化が強いものが慢性気管支炎、呼吸困難(気管支痙攣・気道浮腫)の病理変化が強いものが気管支喘息。

 慢性気管支炎:湿性咳

 気管支喘息 :呼吸困難

★慢性・急性気管支炎に呼吸困難はない!

2)喘息様気管支炎(=アレルギー性気管支炎)

 喘鳴を伴なう気管支炎のこと。気管支炎の一種。ウイルスなどの病原体が感染して、気管支炎を起こし、気管支の粘膜が腫れ、そのために息を吐くときにその細い部分を通って空気を送り出すことによって、ゼイゼイやヒーヒーいう音が聞こえる。低年齢の乳児に多くみられる(成人の場合アレルギー性気管支炎と呼ぶこともある)。気管支からの粘液分増大して痰が多いため、乳児のように言葉で自分の症状を訴えられない場合は、あたかも呼吸困難があるかのように思えてしまう。喘息と比べて治癒しやすい。

★喘息様気管支炎は喘息よりも治癒しやすい!

3)咳喘息(=アトピー咳嗽)

 咳は数ヵ月(8ヵ月)以上続くものの痰は絡まない。喘鳴はなく、呼吸困難もあまり起こらない。ダニ・カビ・ペットのフケなどに対するアレルギー反応で、気道粘膜が過敏になるため、カゼを契機に発症し、放置しておくと気管支喘息に移行することもある。通常の咳止めは効果なく、気管支喘息と同じように、気管支拡張剤やステロイドホルモン剤が有効。

★咳喘息から気管支喘息へと移行することもあるための注意!

4)小児喘息について

 思春期までに治癒するものが多いとされる。この理由は、治りやすい類似の呼吸器疾患(喘息様気管支炎など)や、喘息に似た一過性の自律神経失調症を含めて、小児喘息と診断されていた経緯による。小児喘息(ほとんどがアトピー性)は必ずしも治癒しやすいものではない。増加傾向にある。

★小児喘息は治癒しやすくない!

😊小児喘息を患っていた幼少期に、医師の勧めで毎週末母親と二人で海に行き、1年で喘息がすっかり治った、という年配の女性の話を聞いたことがあります。喘息を治すために、しょうがなしに海に行っていたわけではないでしょう。ストレスの発散の方法は人それぞれですが、自然の中に身を置くと心身が細胞レベル、魂のレベルでよろこぶということは、全ての生きとし生けるものに共通していると思います。

5)心臓喘息

心臓機能の低下に起因する喘息。心不全の状態となると、肺の気管支周囲に水がたまり、水様性の痰が増えることで気管支が狭くなる。

・気管支喘息

 呼吸困難の様式:呼気性呼吸困難

 痰の性状   :無色透明で高粘稠度

 モルヒネ投与 :喘息発作中は禁忌(気管支分泌機能抑制)

 ※呼気性呼吸困難:息を吐こうとするときに気管支が狭くなり、スムーズに吐けない

★気管支喘息はうまく吐けない!

・心臓喘息

呼吸困難の様式:呼気吸気性呼吸困難

 痰の性状   :サラッとしたピンク色の泡沫状痰。肺鬱血の結果、血液成分が血液から気気管支へ滲出

 ※吸気性呼吸困難:うまく吸えない

★心臓喘息はうまく吸えない!

3.気管支喘息の鍼灸治療 

 昔からいろいろな鍼灸治療が試みられていますが、薬物療法の進歩によって現代では気管支喘息で来院する患者は大幅に減少しています。

 鍼灸は、非発作時に行い体調を良好に保つことで、次回喘息までの期間を長引かせる目的で行うのが一般的です。喘息発作を止めるのは、現代薬物療法の方が圧倒的に優位。

★気管支喘息に対しての鍼灸治療は、非発作時に行う!

1)治療の適否と治療目標

①気道狭窄はアレルギー反応や感染が直接原因ですが、鍼灸は気道の炎症や自律神経に対する治療効果が期待できます。ただしこの作用機序は喘息のメカニズムの一部分に働きかけているにすぎないため、効果があることも、ないこともあるというのが本当のところです。

★鍼灸は気道の炎症や自律神経に対する治療効果が期待できる!

②鍼灸は軽症発作における呼吸困難症状を軽減することはある程度可能ですが、中等度以上の喘息発作では鍼灸の効果は確実ではありません。つまり本当に困った発作の場合、鍼灸は薬物療法に及びません。気管支喘息に対しての鍼灸は、やはり非発作時に行い、次の発作を起こりにくくしたり、発作を軽くすることが治療目標となります。

★中等度以上の気管支喘息(発作)に対して鍼灸単独治療は不適!

2)大椎(または治喘)の坐位での強刺激短時間刺激

 喘息発作が、アレルギー反応の結果として気管平滑筋に分布する迷走神経が緊張し、気管平滑筋が病的に緊張し、また気管支粘膜の腫脹が起きている状態とするなら、交感神経優位に転じてやることが発作の改善に効果がある。要するに気管支拡張剤のような使い方ができる。気管支の線毛運動も、交感神経亢進させると運動活発化して、痰を喉の方に運ぶ作用が活発化する。

 その方法として星状神経刺激(星状神経節ブロックとは逆。星状神経節ブロックは副交感神経優位に転じる)を目的に大椎(または治喘)に座位での強刺激短時間刺激を行う。強刺激で長時間を行うと、その直後の治療効果は良好だが、交感神経優位にしたことにより、副交感神経優位に転じ、喘息発作を起こしやすい(=リバウンド)。ここでは「刺激の強弱」という質と、「刺激量」という量の2元のパラメーター(=可変要素)が絡んでいるが、これをイメージとして理解しやすいものにするために、似田先生は次のように例えている。

★気管支喘息に対しての鍼灸治療は、発作の改善(気管支拡張剤様)、繊毛運動活発化(去痰剤用)!

・熱いバスタブ

①バスタブに浸かる時間が長い

→気管支喘息治療に用いると、その直後は有効だが数時間後には発作が起きる。

②バスタブに浸かる時間が短い

→熱い風呂にサッと入る。気管支喘息治療に良い。 

ぬるいバスタブ

③長い

→リラクゼーションの治療補法

④短い

→治療有効刺激に満たない

😊鍼灸院における治療としては、③が最も現実的かもしれません。最終的には寛解を経て治癒を目指す(すなわち自然治癒力を発揮させる)わけで、そのためには心身の疲労を取り除かねばなりません。つまりリラクゼーションが必要です。しかしリラクゼーションによって副交感神経優位となり(もしくはリバウンドが起きて)発作が誘発されるというジレンマが生じます。最終的な目的を達するために、発作を起こさないようしつつ、長期治療を勧めていくことが重要と考えられます。

★発作を抑えつつ、疲労除去や治癒力向上を行っていくべし!

※生活の見直し改善:喘息発作は、副交感神経が最も優位にな、かつ体温の低い明け方に、眠っていて息苦しくなり目が覚めて発覚します。この時、非常に熱いシャワーを首肩に1~2分浴びることによって発作が治まります。寒冷時に裸になるのが大変な場合、洗面器に熱い湯を張り、両手を入れるだけでも効果はありませう。

★明け方の喘息発作は熱いシャワーで対処!

 気道が乾燥すると気管支の線毛運動が弱まり、異物の排泄が困難となり気道の過敏性が高まります。よって気管支喘息の発作時に気管支拡張剤を入れないただの生理食塩水であっても、気道粘膜の湿度が増し、過敏性が低下するので呼吸が楽になることがあります。そのために加湿器の利用もお勧めです。

★気道の湿気を保つべし!

3)伏臥位にて治喘深刺パルス刺激(北林達也・玄珠堂HP)

症例:気管支拡張剤とステロイドの吸入剤が効かなくなると、当院に来る患者がいる。治喘あたりの最硬結点を探り、骨面に至るまで刺鍼。脊柱両面のこわばりを一気に取るために脊柱管棘突起間刺鍼を加え、パルスと遠赤外線を併用して筋肉の緊張を取る。45分後には安心して出発できた。

 この鍼治療の特徴は、置鍼して10分もすると効果が現れること。途中で咳込んでも、構わずに治療を続ける。そうすると気管が一気に開いて来て、呼吸が楽になるのが実感できる。胸郭の圧迫感も消える。

 気管支は副交感神経優位になると収縮(気管軟骨等の平滑筋緊張)する(呼吸が苦しくなる)。よって気管支拡張剤を用いて気管を拡張させるのだが、それがままならないとき別の方法で気管支を拡張させる必要がある。先述の「強刺激短時間の鍼灸」で交感神経を優位にするか、本法で筋肉(脊柱両面の筋)の緊張を取るか。筋緊張を取ることでリラックスモードになり、よって副交感神経が優位になり、かえって気管支が収縮、つまり余計に息苦しくなるということはない。これは頚肩の筋肉の緊張が強いと、それによって正常に働かなくなった自律神経を本来に機能に戻していると考えられる。

★治喘あたりの最硬結点にパルスと遠赤外線で筋緊張を緩める!

4)灸での減感作療法(浅野周:北京堂HP)-発作を起こりにくくするため

①理論

 中国で喘息に対するメインの治療法は埋植療法であるとのこと。これは喘息のツボに、絹糸や羊腸線、ウサギの脳などを入れる方法であり、減感作療法と似た面をもつ。

 身体に中に異物が入ってくると、身体はそれを退治しようして、アレルギー反応が起きる。しかし、その異物は大した悪さをしないことが分かると、同じような刺激にあっても以降は過敏反応を呈さなくなる。そこで用いられるの手術用の糸や絹糸の埋め込みである。

 異種蛋白を皮下に埋め込む方法は、日本の鍼灸師は許可されていないが、その代用として直接灸がある。これは皮膚を焼いて蛋白質を変性させることにより、異物を皮下に埋めたのと同様の効果がある。ただし皮下に異種蛋白ができなければならないので、上質のモグサでは効果が乏しい。灸頭鍼用の質の悪いモグサを使い、米粒大の灸をすえる。

★直接灸で異種蛋白をつくることは減感作療法に同様の効果!

②方法

伏臥位。大椎~至陽(大椎、陶道、身柱、神道、霊台、至陽)(督脈上の棘間穴の中から、圧痛の強い2穴を選択)、(左右の肺兪と左右の膏肓。できるだけ肩甲骨を開かせてその内縁)を選択。計6点を選ぶ、灸頭鍼用もぐさを使用。底辺直径2~3mm、高さ5mmの艾柱をつくり、上記穴に9壮づつすえる。9壮×6カ所=54壮になる。熱さは1壮で30秒間はほど続く。粗悪もぐさを使う処が治療のカギ(異種蛋白をつくる)である。

 10日前後または発作時に、再び動揺に施灸する。3回程度の治療で改善するのが普通で、1年に3回治療というパターンを継続する。10日毎ならば何回すえてもよい。

★気管支喘息に対して、上背部兪穴6穴に9荘ずつ、1年に3回

5)首こり肩こりの治療

①理論

 高岡松雄氏は、気管支喘息患者発作時の治療とし皮内鍼を実施した結果、同じ患者でも、効く場合と効かない場合があることを経験し、次の結論を得た。

 「患者によっては、アレルゲンや感染によって発作が起こるのではなく頚肩部の筋のコリが発作の誘因になっている場合がある。コリを緩めることで発作が楽になることもある」(高岡松雄「痛みの治療」医道の日本社)

★気管支喘息の主原因は、アレルゲンでも感染でもなく、頚肩部のコリかも知れない!

②前鋸筋への刺鍼

 トラベルのトリガーポイント図に前鋸筋がある。それには前鋸筋にトリガーが発生すると、肋骨の動きを制限するため、呼吸が難しくなり、「息苦しい」「息切れする」「空気が足りない」といった訴えを起こすようになると記載あり。

※前鋸筋:起始・第1~8肋骨、停止・肩甲骨内側縁、肩甲骨前進

 具体的には、淵腋(腋窩中央の下方3寸)のやや下方にあり、まさしく高岡松雄氏のいうコリをきっかけに生じた喘息様症状だろうと思えた。

 なお赤羽幸兵衛は、喘息様患者の側胸部へ皮内鍼をして呼吸苦の改善をみた例を経験し、この施術ポイントを腋窩点と名付けていた。ただし似田先生が多くの喘息患者に追試してもみても、効果が出来なかったとのこと。要するにアレルギー性や感染性の気管支喘息では効果がないということだろう(似田先生)。

★筋のコリに刺鍼をしても、筋(前鋸筋)のコリが主原因でない(アレルギー性や感染性)気管支喘息には効果ない!

😊胸部症状に対処するには薬剤による症状のコントロールも必要ですが、まずはアレルゲンを排除するなど身の回りの環境を整えること。その上で、睡眠を充実させ、バランスのよい栄養を摂取し、適度に運動し、ストレスを溜ない、体を冷やさないといった生活を送ることです。鍼灸施術には、自己治癒力を高め、病気予防し、症状を軽くする働きがあります。

〇本章に出てきたツボおよび刺鍼施灸部位一覧

・左尺沢(肺)

・大椎(督)

・陶道(督)

・至陽(督)

・霊台(督)

・身柱(督)

・治喘(奇)

・淵腋(胆)

・上背部穴(膀)

 大杼、風門、肺兪、厥陰兪、心兪、膈兪、附分、魄戸、膏肓、神道

・上背部夾脊穴

・星状神経節 

☯東洋医学からみた胸部症状

 東洋医学では、胸部の気の流れが悪くなることを胸痹といい、それが軽度であれば胸悶が、重度であれば胸痛が現れます。冠状動脈疾患、慢性気管支炎、肺気腫などの、心肺、循環器、呼吸器の病変に伴って起こる胸部症状は、心肺を主に他の臓との関りや、陰陽、気血水の状況を考慮しながら、次のように弁証論治していきます。

〇虚寒による胸痹

 平素から陽気が不足し心肺気虚の状態になっていると、胸陽不振となり気血が阻滞しやすくなります。その状況下で、さらに外邪の侵襲を受けると、寒の凝滞性により気が流れが滞り、経絡がつまり胸痛がおこります。

〇痰濁による胸痹

 飲食不節や飲酒などにより脾胃を損傷すると、体内において痰濁を形成しやすくなります。この痰濁りが胸陽を阻滞させ胸痛を起こします。

〇血瘀による胸痹

 情志の抑鬱により気機が阻滞すると気滞となり、この状況が続くと血も阻滞し瘀血を形成。この瘀血が胸部の経脈絡脈に阻滞すると胸痛が起こります。

😊東洋医学の「急なれば標を、緩なれば本を」という言葉は、急性期にあるものはまずは症状をやわらげることを目的とした治療を行い、慢性にあるものは根本治療を行う、という意味で、「緩なれば本を」には予防も含まれます。体質は個人によって異なり、予防のための鍼灸治療時に用いるツボは人によって異なります。しかし、感冒に限らず、体調を良好に保ち病気にならないめには、どんな体質のひとであっても、しっかりとした睡眠、栄養のバランスのよい食事、適度な運動、太陽光を浴びることが大切ということに変わりはありません。

 

 

    

     

 

 

 

 

 

kiichiro

鍼灸師。東洋医学について、健康について語ります。あなたの能力を引き出すためには「元気」が何より大切。そのための最初の一歩が疲労・冷え症・不眠症をよくすること。東洋医学で可能性を広げられるよう情報を発信していきます。馬込沢うえだ鍼灸院院長/日本良導絡自律神経調整学会会員/日本不妊カウンセリング学会会員//日本動物愛護協会会員