鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか?「下肢症状を和らげるために」偏
はじめに
鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。
筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化、等々。
これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。
解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。
鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代医学針灸』」という科目に対しての理解をより深めることを目的のひとつとしています。 非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。
※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。
〇遠隔療法と反射について
肩が凝っているときに、その凝っている筋肉に鍼灸をすると、コリが和ぎます。その理由は、筋肉の伸長収縮度合いが正常に戻ったり、凝っている部分の血流が促進されることで、疲労物質の滞りが解消されたりするからです。ですから症状が出ている(凝っている)部分に鍼灸をすることには意味があります。では鍼灸が、内臓の異常に働きかけるためにはどうしたらよいでしょう?内臓に直接鍼を打つといった方法もありますが、受け手の負担も大きく、一般的ではありません。そこで反射(東洋医学なら経絡)といった概念が用いられます。
反射とは、刺激に対して無意識(大脳を介さず)に、機械的に起る身体の反応のことです。例えば、熱いものに手を触れたとき即座に手を引っ込めるのは反射によるものですが、これは身体を守るために、考えてから引っ込めたのでは遅いからです。鍼灸刺激によって反射(体性内臓反射)を起こし、生体に元々備わっている治癒力が賦活(活性化)されます。
・内臓体性知覚反射
内臓の異常は、その内臓を支配している自律神経とほぼ同じ脊髄反射区の皮膚領域を過敏にし、普通では痛みとはならない程度の皮膚刺激でも、その部位に疼痛また異常感覚を伴なうようになるというもの。
・内臓体性運動反射
内臓異常による求心性の興奮は、対応する体壁(皮膚や筋肉)に運動性の変化として、筋緊張・収縮などを起こすというもの。いわゆる凝りの現象で、内臓疾患による筋性防御のあらわれ。
・内臓体性栄養反射
交感神経を切断すると支配下の筋群は緊張を失って代謝障害に陥る。内臓に慢性疾患が長期に渡ると、体壁に萎縮・変性があらわれてくるというもの。
・内臓体性自律系反射
皮膚にある汗腺、皮脂腺、立毛筋、および末梢血管系を支配する自律神経系の反射で、交感神経性皮膚分節の領域に反応があらわれるというもの。
汗腺反アセ汗として、立毛筋反射は鳥肌、皮脂腺反射は皮脂として、皮膚血管反射は皮膚の冷え、ほてりとなってあらわれる。
・体壁内臓反射
一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄の同じ高さに神経支配を受けている内臓に反射作用があらわれるというもの。このときに、内臓にあらわれる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)である。
下肢症状とは
下肢に出る症状はすべて下肢症状ですが、原因が下肢にはない(臀部よりも上位)疾患によって下肢に症状が出るものがあります(脳梗塞後遺症による麻痺等)。ここでは原因と症状がともに下肢にあるものにのみ限定しています。※膝疾患に関しては別途。
〇下肢の常見疾患として
肉離れ(下肢筋膜裂傷、筋挫傷)、足関節捻挫、慢性足関節捻挫(足関節不安定症)、アキレス腱炎、シンスプリント、慢性コンパートメント、こむらがえり(腓腹筋痙攣)、むずむず脚症候群(下肢静止不能症)、閉鎖神経痛
計9疾患
〇足部の常見疾患として
外反母趾、足根管症候群、足底筋膜炎、踵脂肪体萎縮、モートン病、痛風
計6疾患
〇下肢の神経麻痺、神経絞扼障害として
腓骨神経麻痺、脛骨神経麻痺
計2疾患
合計17疾患について、それぞれみていきます。
第1節 下肢の常見所見
1.いわゆる肉離れ
1)肉離れ(下肢筋膜裂傷、筋挫傷)
肉離れとは、伸張性筋収縮による羽状筋の筋腱移行部損傷(筋腱の骨付着部断裂や筋断裂)をいう。伸張性筋収縮(エキセントリック筋収縮)とは、筋自体は収縮しつつあるのに、筋線維は伸張する状態であり、非常に強い負荷が筋に加わるため筋肉痛が強く出やすい。筋力トレーニングにおいて、いわゆるネガティブといわれるもの。
筋収縮-等尺性筋収縮(アイソメトリック):腕相撲での拮抗状態。
-等張性緊収縮(アイソトニック)
-短縮性筋収縮:腕相撲で勝っているとき(コンセトリック)
-伸張性筋収縮:腕相撲で負けているとき(エキセントリック)
★肉離れとは、伸張性収縮による羽状筋の筋腱移行部損傷!
①羽状筋とは
随意筋は、平行筋と羽状筋に大別できる。平行筋は収縮スピードが速く、可動範囲の大きい運動に適している。羽状筋とは、腱膜に向かって筋線維が鳥の羽のように斜めに集合している筋で、収縮スピードは平行筋に劣りますが、見かけ上、細い筋であっても強い力を発揮できる。
・平行筋:上腕二頭筋、 → スピードに特化している。スピード>力
・羽状筋:上腕三頭筋、大腿四頭筋 → 強い力を発揮できる。 スピード<力
★随意筋は、平行筋と羽状筋に大別できる!
②2関節筋とは
肉離れを起こす筋は、2関節筋(2つの関節にまたがって付着する筋)が多い。
★2関節筋は肉離れが多い!
2)原因(好発部位)
大腿二頭筋でいえば長頭、大腿四頭筋なら大腿直筋が二関節筋。
①ハムストリングス
最も高頻度に肉離れを発症する。とくに大腿二頭筋長頭(寛骨~腓骨と脛骨を結ぶ。股関節と膝関節を超える)に多発。ダッシュ(陸上の短距離走、サッカー、ラグビー)で好発。
★陸上の短距離走、サッカー、ラグビーで、大腿二頭筋長頭の肉離れが多発!
②大腿四頭筋
大腿直筋が2関節筋で、股間節と膝関節を超える。(寛骨~脛骨)。ジャンプ(バレー、バスケ)で好発。
★ジャンプで大腿直筋の肉離れが多発!
③下腿三頭筋
ヒラメ筋は1関節筋。腓腹筋が2関節筋。膝関節と足関節を超える。(大腿骨下部~足根骨)。長距離走、テニスで好発。
★長距離で下腿三頭筋(腓腹筋)の肉離れが多発!
3)分類
Ⅰ型:出血(普通に歩ける)
筋腱移行部に出血所見のみが認められる。数日~2週間程度でスポーツが可能となる。
Ⅱ型:腱膜損傷型(何とか歩ける)
筋腱移行部において筋線維が腱から引き離された状態。足を引きずって歩ける。復帰に1~3ヵ月を要する。
Ⅲ型:筋腱骨付着部断裂(立てない)
腱断裂とされることが多い。歩行困難。手術を検討。
★Ⅲ型(レベルⅢ、重症)の捻挫は手術もある!
4)病態生理
スポーツなどにより筋に力が加わることで、肉離れが起こる。肉離れの瞬間には、非常に強い痛みと衝撃を自覚する。その時には筋線維が裂けると同時に、周りの筋肉も萎縮し傷口は拡大している。
★肉離れは筋線維が裂けると同時に、周りの筋肉も萎縮する!
数週間の安静を保っていると、損傷して欠落した部分に再生細胞が増殖して瘢痕組織が形成される。瘢痕組織ができた段階で、直ちに激しい運動をすると、瘢痕線維部分または瘢痕組織と正常組織の移行部(境目)が損傷することがある。
★瘢痕化直後の運動は再発のリスクが大きい!
瘢痕組織は伸展も収縮しないので、それ以外の筋線維部分で筋収縮の代償をせざるを得ないために運動能力は低下する。ただし最低6ヵ月間、適切な負荷でのトレーニング(ストレッチ、軽い筋トレ)を続けることで、瘢痕組織は柔軟性を増し、他の筋肉も太さを増すので、通常、肉離れ以前と同様の運動機能にまで回復できる。
★瘢痕組織した筋の機能をとり戻すためには、適切な休養とリハビリが必要!
5)整形外科での治療
Ⅱ型肉離れでは、その状態のまま包帯などで固定し、2~3週間の絶対安静。その後、包帯がとれた後にリハビリが始まり、普通に歩けるようになるのにさらに2~3週間かかる。
筋肉が萎縮したまま包帯で固定しない方がよいと考えられている。固定すると、筋肉が短縮し、廃用性萎縮も加わるために、瘢痕ができた後も、筋が伸張しづらなる。結果として、歩行までに時間を要することになる。固定はあくまで応急処置として行う。
★肉離れ時の「固定」はあくまで応急処置!
6)鍼灸治療
Ⅰ型とⅡ型の肉離れに鍼灸は適応があり、Ⅲ型は不適応。Ⅰ型は安静を保つことで早期(数日~2週間)に治癒するので、問題となるのはⅡ型肉離れである。
受傷直後の治療目標は、これからできる瘢痕組織の狭小化。受傷部周囲に刺鍼し、受傷ショックで短縮した筋緊張緩和を図る。
鍼灸治療の間隔は2~3日、回復の程度に応じて歩行訓練を開始。筋収縮力の回復を目的に、リハ訓練中も鍼灸治療を行うようにする。
★鍼灸適応となる捻挫はⅡ型。受傷筋の緊張緩和!
2.足関節捻挫
1)足の骨の種類と構造
●足根骨-近位列:距骨、踵骨
-遠位列:舟状骨、立方骨、第1~3楔状骨
●中足骨:第1~第5中足骨
●足の指骨:近位から順に、基節骨・中節骨・末節骨(第1指は中足骨はない)
2)足関節の構造と機能
足の底背屈は距腿関節で行われ、足の回内(小趾側が引き上がる)・回外(母趾側が引き上がる)は距骨下関節で行われる。足関節とは、この距腿関節と距骨下関節の総称。
①足の内反:体重を足の小趾側にかけた時に生ずる動き(=回外)
②足の外反:体重を足の母趾側にかけた時に生ずる動き(=回内)
③足底屈→45° 足背屈20°
★足関節とは、距腿関節と距骨下関節の総称!
4)捻挫の重症度
①1度:靭帯の伸展
症状:腫脹と軽度の痛み。可動域制限なし。体重をかけて痛みがなければプレー可能。関節に生理的な許容を超える外力が加わると、靭帯損傷や関節包損傷が起こり、関節包腫脹が生じる。これは関節滑膜からの分泌物による。
治療:安静、テーピング。1週間以内で治癒
★1度の捻挫は靭帯の伸展。1週間以内に治癒!
②2度:靭帯の部分断裂
症状
何とか立てるが歩けない。ある方向に動かすと痛む。関節腫脹、強い疼痛、関節血種。放置すれば関節機能障害。
関節包内に滑液が充満すると関節可動域が狭まり、疼痛が生じまる。節部の靭帯が部分断裂を起こすと、その部分から出血を生じ、青黒い皮下出血斑が確認できる。この皮下出血斑は、時間の経過とともに拡大し、重力の作用で下方に流れる。
治療:捻挫直後はRICE。アイシングは15~30分。安静は24~48時間。
整形外科処置:ギプス固定3~5週、その後に筋力訓練。治療期間は2~6週間。
最近ではギプス固定すると治癒が遅れるとされ、サポーター程度の弱い固定が好ましいとされる。
★2度の捻挫は靭帯の部分断裂。治療期間は2~6週間!
③3度:靭帯の完全断裂
症状:歩けない、関節の異常可動性。
治療:応急処置としてRICE。圧迫したまま医療機関を受診。
整形外科処置:ギプス固定、機能的装具、手術療法(靭帯再建術)。治療期間2~3ヵ月。
★3度の捻挫は靭帯の完全断裂。治療期間は2~3ヵ月!
3)治療過程と処置
①第1段階(受傷2~3日目):安静
断裂部分は応急処置として一時的に瘢痕組織で補填される。受傷後2~3日で炎症は治まり痛みは大幅に軽減されるが、治癒したわけではない。
★靭帯の部分断裂は一時的に瘢痕組織で補填される!
②第2段階(受傷後2週間まで):安静
腫脹が軽減すると、靭帯内で結合組織の基をつくるべくコラーゲンが増殖し、組織の修復が開始する。この期間である衆生後2週間はなるべく安静を保つようにする。
★靭帯内で結合組織の基をつくるべくコラーゲンが増殖し、組織の修復が開始!
③第3段階(受傷4週間まで):リハビリ
受傷後2週間を経過すると、靭帯再生段階に入ります。新しいコラーゲン線維は古いコラーゲン線維と結びつき、しっかりとした靭帯になります。この時期に適切なトレーニングを行い筋と靭帯を強くし、再発予防に努めます。
★新しいコラーゲン線維は古いコラーゲン線維と結びつき、しっかりとした靭帯になる!
4)足関節外側捻挫(内反捻挫)
足関節強制内反により、足関節外側捻挫が起こる。足関節の外側靭帯には前距腓靭帯・踵腓靭帯・後距腓靭帯がある。これらの靭帯損傷を総称して外側側副靭帯捻挫とよぶ。外側捻挫は前距腿関節と距骨下関節の損傷が多く、2度以上の重度の靭帯損傷では、前距腓靭帯+踵腓靭帯となる。
※前距腓靭帯は、安定して二足歩行するためのヒトの進化形である。捻挫をしやすい人の要因の一つとして、この靭帯に何らかの異常がある可能性がある。
★内反捻挫で最も多いのは前距腓靭帯の損傷!
5)二分靭帯捻挫
踵骨から舟状骨に、また踵骨から立方骨に靭帯が分かれて付着しているので、この二つの靭帯を合わせて二分靭帯とよびます。二分靭帯捻挫は、発生機序は外側捻挫とほぼ同様。
★踵骨から舟状骨、踵骨から立方骨に付着している靭帯を二分靭帯とよぶ!
二分靭帯捻挫は、足関節捻挫の最多好発部位である前距腓靭帯と部位が近いので見逃しやすく、正確な触診による圧痛点(外果のやや前方の圧痛。丘墟穴の前外方1~2寸)の把握が診断に重要です。鍼灸治療もきちんと局所に刺鍼しなければ効果は得られません。二分靭帯捻挫は後遺症なく治癒するとされている。
★二分靭帯捻挫は、前距腓靭帯と間違いやすい!正確に圧痛点を捉えること!
6)足関節内側捻挫(外反捻挫)
足関節の外反捻挫は、前記の内反捻挫と比べて少ない。足の内果と足根骨は4本の靭帯で結合されている。全体として三角形に近いので、これらを総称して三角靭帯(三角靭帯は、前脛距靭帯、後脛距靭帯、脛舟靭帯、脛踵靭)とよぶ。三角靭帯は強靭なので、大きな捻挫を起こすことは稀だがが、強力な力を受けた場合は、剥離骨折を生じることもある。帯の4つからなる。
★三角靭帯は強靭なため大きな捻挫は少ないが、強い外力を受ければ剥離骨折することがある!
7)急性期捻挫の鍼灸治療
①急性期捻挫の治療では、提鍼などを使って、厳密に圧痛点と阿是穴を探し、そこに深刺する。骨と骨の隙間、靭帯の骨付着部などが狙い目。
★急性期の捻挫は、厳密に圧痛点を探し深刺!
現代医学においても、打撲・捻挫などの外傷の時に、圧痛点に局所麻酔を打つと治癒が促進されることが知られている。痛みを放置した状態→反射的に筋肉の緊張が強くなる→交感神経の緊張が続き、腫れや血行障害が続く、ということで局麻注射は痛みの悪循環を遮断する意味がある。
★急性捻挫に対しての局麻注射は、痛みの悪循環を遮断する意味がある!
圧痛点に鍼灸を行う意義も同様で、鎮痛→筋緊張緩和→交感神経緊張緩和→血行促進→自然治癒力増強という機序が作用する。なお代田文彦先生は、捻挫時の圧痛点刺鍼は、骨膜に至るまで深刺した方がよいと述べていたその理由は、骨膜は広汎に響きを与えられるので、刺鍼効果の及ぶ範囲が広くなるからとのこと。
★急性捻挫→刺鍼→鎮痛→筋緊張緩和→交感神経緊張緩和→血行促進→自然治癒力増強!
皮下内出血斑は重力で下方に留まるため、患部と一致するわけではない。一度血管外に出た血液は、組織に自然吸収されるのを待つしかない。とされていますが、静脈の流れを考慮したマッサージにより、自然吸収を早めることができるという意見もある。
★皮下出血斑は、静脈の流れを考慮したマッサージにより、自然吸収を早めることができるかも!
😊鎮痛により交感神経の緊張が緩和され血行が促進、自然治癒力が高まる。よって捻挫の急性期に行う鍼灸には意味がある。であるならば、捻挫に限らず他の病気であっても、急性期に鎮痛のために薬の服用は有効ということ。しかし薬には副作用が伴なうために、その点を考慮する必要があります。
②非伸縮性テーピング固定
必要に応じてテーピングで固定する。1度の捻挫では、この方法で症状は大幅に緩和されますが、数日間はテーピングが必要。2度以上の捻挫では、受傷直後に固定をしなかった場合慢性捻挫に移行しやすい。
★2度以上の捻挫は、受傷直後に固定しないと慢性捻挫に移行しやすい!
3.慢性足関節捻挫(足関節不安定症)
急性足関節捻挫による靭帯損傷が治りきっていない状態というのが、狭義の慢性捻挫である。この状態で、激しい運動を行ったり、や足首に負担のかかる姿勢をとると痛みが出現する。「治りきっていない」には、次の2つの意味がある。
1)靭帯の緩みが原因となるもの
靭帯断裂
↓
切れた靭帯線維組織間が瘢痕組織で埋まり、結果的に靭帯が長くなる(関節不安定症状態)
↓
普段は痛まないが、わずかなきっかけで捻挫を繰り返しやすい
↓
靭帯再建術(9割以上が治癒。残り数パーセントは本手術でも完全に回復しない。
★瘢痕組織で埋まった靭帯組織は、その分靭帯が長く(緩く)なってしまい、捻挫を繰り返しやすい!
2)とくに足根洞の固有知覚の異常が原因となるもの
靭帯の機能不全が軽度な場合でも捻挫を繰り返すことがある。それは、主に関節の固有知覚(関節の位置や関節にかかる力を感じる=バランス感覚を担う神経群)の異常が考えられる。足部の関節の固有知覚は、靭帯や関節包などのほかに、とくに足根洞部の神経終末が密集しており、足部の固有知覚に重要な役割あることが知られる。
★軽度であっても、捻挫より関節の固有知覚が異常となり、これが慢性捻挫の誘因となる!
①足根洞の構造と知覚異常
足の外果斜め前下方で、距骨と踵骨のつくる骨溝を足根洞(≒丘墟)とよぶ。この部位に痛みや圧痛があり、足関節の不安感や崩れ感を伴うものを足根洞症候群とよぶ。
足根洞は漏斗状で、内部には骨間距踵靭帯と、下伸筋支帯から分枝した3本の線維束がある。足根洞内部には、神経終末が集約されており、「足の目」ともいわれるほど地面から足に伝わる微妙な感覚を感知する受容器がある。
★足根洞には足に伝わる微妙な感覚を完治する受容器がある!
「足根洞」で捉えた足の感覚は、脊髄を上行して脳まで伝わり、脳が解析した感覚は脊髄を下行して腓腹筋に伝わります。つまり、足根洞部→反射弓→腓腹筋緊張という反射弓で制御されています。もし足根部の神経終末が何らかの原因で傷を受けている場合、足はつま先が下垂し、かつ内反足傾向になるので、足関節外側捻挫を繰り返しやすくなる。
★慢性捻挫の大きな要因に足根洞の固有知覚異常がある!
②足根洞症候群としての治療
ペインクリニックでは、このような慢性足関節捻挫に対しての効果的な治療として、足根部へのブロック注射があります。鍼灸でも太い鍼で、足根洞底部に到達するような深刺による骨膜刺激が、症状の緩和に有効です。単に仰臥位で丘墟から直接刺激をしても、響きはあまりありません。響かせるためには、跪坐位(両足の指を立て、踵の上に腰を下ろした姿勢)、または俗にいう和式トイレ座り(足裏を地面につけてしゃがむ姿勢)での刺鍼する。
★足根洞部への刺鍼は太い鍼(5番程度)を使って、跪坐位で丘墟に直刺深刺!
●腓骨筋群のトレーニング
前距腓靭帯が傷ついても、腓骨筋群(長・短腓骨筋)などが足関節をしっかりと支えることができていると、グラつかずに歩行ができる。腓骨筋群を鍛えることが捻挫の再発を防ぐことにつながる。やり方は、長坐位もしくは坐位(椅子に座る)で、両足間をゴムで連結して、足を外旋(踵を支点として両足母趾を遠ざける)させる。目安は10回×3セットを朝晩行う。
★前距腓靭帯の脆弱さを、腓骨筋群(長・短腓骨筋)でカバーする!
鍼灸治療では、長・短腓骨筋に対する刺鍼として、陽陵泉・懸鐘などが局所治療となる。
・足根洞のセンサーが内反足状態を検知できないため捻挫を繰り返す
→治療は足根洞(丘墟)刺激
・腓骨筋が収縮することで内反足を是正する→捻挫しにくい
腓骨筋がうまく収縮しないと捻挫を繰り返す。
→治療は腓腹筋(陽陵泉・懸鐘)刺鍼。足外旋トレーニング
★足根洞治療→丘墟(胆)。腓腹筋治療→陽陵泉(胆)・懸鐘(胆)!
4.アキレス腱炎・アキレス腱周囲炎・アキレス腱付着部炎・アキレス腱滑液包炎
上記のアキレス腱炎関連疾患のほとんどは、パラテノン(=健傍組織)の炎症を伴なっている。腱組織が修復されるまでの期間(通常3~6週間)は要安静。炎症が強い場合には、まずアイシングを行う。アキレス腱への伸張力免負荷目的で、同腱へテーピングを行う。
★アキレス腱炎の関連疾患はパラテノン(健傍組織)の炎症を伴なう!
1)アキレス腱炎
①病態
アキレス腱は下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)が収縮する力を、踵骨に伝達ししている。アキレス腱へ高い伸張負荷が加わると、腱自体に小さな損傷が発生し、この修復反応として炎症を生じたもの。
★アキレス腱への高い伸張負荷によって、腱自体に小さな損傷発生。修復反応として炎症!
②症状
踵のアキレス腱付着部から上方2~6cm部分のアキレス腱が伸張し、押圧で痛みが増強。慢性化すると腫脹が強くなり、足関節を動かす時の握雪音がして、運動している間も絶えず痛むようになる。
※握雪音:腱と腱鞘表面に繊維素が沈着。表面が乾燥してザラザラになるために、腱が腱鞘内を滑る時に起こるギュギュという音。
★アキレス腱炎は、慢性化すると腫脹が強くなり、足関節を動かす時の握雪音がして、運動している間も絶えず痛む!
2)アキレス腱周囲炎
①病態
アキレス腱は、周囲を腱鞘ではなく、パラテノン(=健傍組織)とよばれるゼリー状(塊)の膜で覆われている。パラテノンは血行に富む組織で、パラテノンから滲み出てくる潤滑液がアキレス腱を栄養している。
★アキレス腱を覆うのは腱鞘ではなく、パラテノン(健傍組織)!
もしパラテノンに炎症が生じて腫脹すると、腱にまで栄養が回らなくなる。この状態で激しい運動をするとアキレス腱断裂が起きることもある。
★パラテノンの炎症→腱の栄養不足→激しい運動→アキレス腱断裂!
②症状
アキレス腱炎とほぼ同じだが、圧痛は腱の内側または外側に限局。
★アキレス腱周囲炎の圧痛部は腱の内側か外側!
3)アキレス腱付着部炎
①病態
収縮または短縮した腓腹筋が原因となり、踵骨上のアキレス腱がが慢性的に牽引される。これによる踵骨後上面のアキレス腱付着部の痛み。
★アキレス腱付着部炎は、短縮した腓腹筋が原因!
②症状
付着部の痛み。その付着部の腱を触診しつつ、足関節を手で背屈させると、痛みが憎悪。
4)アキレス腱滑液包炎(踵骨部滑液、腱皮下滑液)
①病態
滑液包は、皮膚や筋肉、腱や靭帯、骨などの間の摩擦を少なくするためのクッションの役割を果たしている。アキレス腱滑液包が長期的強い摩擦にさらされていると炎症が起き、痛みと熱感が生じる。患部はアキレス腱付着部に近い部で、滑液包炎は外見からも分かる程度に腫脹し、圧痛の範囲はアキレス腱付着部症よりも広い。
★滑液包炎は外見からも分かる程度に腫脹し、圧痛の範囲はアキレス腱付着部症よりも広い!
5)アキレス腱炎関連疾患の鍼灸治療
①筋緊張緩和による腱伸張力減弱
アキレス腱の張力増大は、下腿三頭筋の筋収縮の結果である。下腿三頭筋を弛めるには、アキレス腱を伸ばすような姿勢で体重をかけつつ、運動鍼を行う。アキレス腱の力は強大なので、体重をかけてしっかりと伸ばした状態で刺鍼しないと、治療効果を得ることができない。
具体な方法としては、刺鍼してのカーフレイズ。足部の爪先側を台の上に乗せるとさらに効果的。細い鍼は使用しない。
★承山付近に刺鍼+カーフレイズ!
②アキレス腱への局所治療として
アキレス腱上の限局性の圧痛点に皮膚刺激(硬くひねった半米粒大灸3~5壮を実施。また皮内鍼)
③筋腱付着部症として
アキレス腱の踵骨付着部で、中央部の線維は踵骨隆起中央部に、側方部の線維は踵骨の内外側に扇形に開いて付着している。圧痛を示すのは骨隆起の先端の内側または外側。
局所のピンポイント圧痛を見出し、半米粒大灸3~5壮、または雀啄を行い抜鍼する。
★圧痛点に半米粒大灸を3~5壮!
😊これらのアキレス腱の障害をそのままにしておくと、アキレス腱断裂という事態を招きやすくなってしまいます。アキレス腱の障害はスポーツ障害としてだけのものではありません。坂道で踏ん張る、階段を踏み外すなどによってもアキレス腱は断裂します。アキレス腱の損傷や断裂の大きな要因の一つに、加齢に伴う筋腱組織の退行変性(柔軟性の低下)があります。日ごろから、アキレス腱および全身の運動を行い、事故やケガを未然に防ぐことが大切です。
5.シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)
Shin(シン)は向う脛、Sprints(スプリント)は短距離走の意味。短距離走を中心とするスポーツ選手が、運動中に生じやすい。長期に渡って繰り返し下腿の特定筋に負荷がかかることで、筋肉が損傷して傷ついた状態。本疾患と疲労性骨折とは鑑別が必要。脛骨のある部分が痛むのは共通だが、骨折では痛む部位は限局性で強い痛みが特徴的。シンスプリントの痛みはやや広い面で、痛みの程度もそれほど強くない。シンスプリントは後内側型と前内側型に大別される。前者の方が高頻度。単にシンスプリントといった場合は、後内側型シンスプリントのことをいう。
★通常シンスプリントといった場合、後内側型のこと!
シンスプリント患者は運動選手が多い。選手本人は、日常動作で痛みなく過ごせればよいというレベルではなく、障害前と同じパフォーマンスをができることを希望する。走っても痛みが出ない、全力で走っても痛みが戻らない。全力で走っても痛みが出そうな怖さがないといった高いゴール設定になる。
😊アスリートにとって、ケガから復帰するとは「日常生活レベルに支障をきたさない程度」ではなく「思う存分競技することができる」という意味です。これはシンスプリントに限りません。復帰を急ぐあまり、リハビリやトレーニングをがんばり過ぎてしまい、逆に復帰が遅れてしまうことには注意が必要です。
1)後内側シンスプリント
下腿後面の筋群(ヒラメ筋内側頭・長母趾屈筋・長趾屈筋・後脛骨筋で中心は後脛骨筋)の筋膜牽引痛。憎悪するとさらに脛骨の骨膜に微細損傷をきたした状態にまで拡大悪化。
★後内側型シンスプリントの対象筋は、ヒラメ筋内側頭・長母趾屈筋・長趾屈筋・後脛骨筋!
上記筋は、脛骨後部に起始を、足後部に停止をもつので、足関節を伸展させる共通の役割がある。これらの筋肉は走る・歩く・ジャンプする時によく使われる。
・ヒラメ筋内側頭-起始:腓骨頭・脛骨後面 停止:踵骨隆起
・長母趾屈筋 - 起始:腓骨体後面 停止:母趾末節骨底
・長趾屈筋 - 起始:脛骨後面 停止:第2~5趾末節骨底
・後脛骨筋 - 起始:下腿骨間膜、脛骨と腓骨の後面 停止:舟状骨・楔状骨・立方骨・台2~3中足骨底
痛みはまず、脛骨内側縁の下1/3ほどに出現し、悪化すると痛みの範囲が脛骨内縁の上1/3程まで長くなる。
下腿屈筋をみると、脛骨内縁下1/3の範囲には筋は付着していないので、筋膜痛と思われる。これらの下腿屈筋群の骨付着部は、中1/3~上1/3なので、痛みがこの範囲に及べば、骨膜牽引痛と考える。
★シンスプリントの痛みは、筋膜や骨膜!
2)後内側型シンスプリントの鍼灸治療
①脛骨後内側の下1/3の痛み
仰臥位で下腿屈筋の深部筋(ヒラメ筋内側頭・長母趾屈筋・長趾屈筋・後脛骨筋)に対し刺鍼し、置鍼した状態で足関節屈筋の自動運動を行う。下腿内側の脛骨内縁の下付近での圧痛点(三陰交あたり)を刺入点とする。2寸鍼を用い、腓骨下縁に向けて直刺深刺。
★後内側型シンスプリントの治療は、三陰交の運動鍼!
三陰交あたりの頑固な痛みをみることがある。この理由は、ヒラメ筋・後脛骨筋等の下腿内側~後側筋の緊張が強く、脛骨が弓のように彎曲してしまっているための骨膜痛ではないかという意見がある。このような場合、三陰交あたりの圧痛点を刺鍼点とし、脛骨々膜にぶつけるように刺鍼します。(小野寺文人氏)
★脛骨が弓のように彎曲してしまっているための骨膜痛は、三陰交から脛骨々膜にぶつけるように刺鍼!
②脛骨内縁中央辺りまで拡大した痛み
上記方法に加え、仰臥位で脛骨内縁の地機あたりの圧痛点を刺入点とする。2~3寸鍼を使用し、腓骨下端方向に向けて直刺深刺。脛骨内縁中央あたりの痛みは、筋の骨牽引なので、脛骨後内側縁の下1/3のみの痛み(筋膜痛)と比べて、治療効果は弱まる。
★脛骨内縁中央あたりの痛みは、筋の骨牽引。脛骨後内側縁の下1/3のみの痛み(筋膜痛)と比べて、治療効果は弱まる!
③運動療法
・カーフレイズ
踵の上げ下げ(足関節の底屈)。できれば、踵を踏み台に置き、足の前半分は踏み台の外においた状態で行う。10~15回×3セットが目安
・トゥレイズ
背屈運動を大きな動きで30秒間、早いスピードで行う。膝を伸ばした状態、曲げた状態の2種を行う。
3)ヒラメ筋と腓腹筋に対する刺鍼方法
ヒラメ筋は腓腹筋と同じくアキレス腱から分離し、脛骨と腓骨に直接つながっている短関節筋で、足の底屈のみに働く。膝関節の非伸展時(腓腹筋が緩んでいる)に足関節を動かすのはヒラメ筋の作用。
★ヒラメ筋は非膝伸展時、足関節底屈!
膝を伸ばした状態での「アキレス腱を伸ばす体操」は腓腹筋を、曲げた状態ではヒラメ筋が伸張される。障害筋を緊張させた状態にして刺鍼すると効果が高くなるので、鍼治療は次のように行う。
①下腿内側の脾経の圧痛を診るには、仰臥位で足底を自身の膝内側にピタッと接触させた状態(股関節外転)で行うと、ヒラメ筋は緊張、腓腹筋は弛緩しているので、とくにヒラメ筋の脛骨々際の圧痛硬結を探るのに適している。ヒラメ筋起始部に位置する地機穴はこのように取穴します。
★ヒラメ筋の圧痛は地機に出ることが多い!
②下腿後側の膀胱経の圧痛を診るには、伏臥位で膝伸展位にする。この肢位では腓腹筋・ヒラメ筋がともに緊張しているが、腓腹筋が浅層にあり、腓腹筋圧痛硬結を診るのに適している。
★伏臥位で膝伸展位は、腓腹筋圧痛硬結を診るのに適している!
4)前外側型シンスプリント
脛の前面と外側の筋膜(前脛骨筋、長母指伸筋→足関節の背屈)に牽引ストレスが作用して痛みを生じ、付着する脛骨々際の骨膜にも牽引ストレスが作用して痛む状態。足関節背屈がしづらくなります。
前脛骨筋の障害では、脛骨前面の足三里から中封に沿って重苦しく痛むが、我慢できなほどの強い痛みになることはあまりない。後内側シンスプリントに比べ治療に反応しやすい。
★前外側型のシンスプリントは足関節背屈がしずらくなる!
5)前脛骨筋への鍼灸治療
①前脛骨筋への刺鍼
足三里など、下腿直面の前脛骨筋外縁が脛骨に接する部の圧痛を探し、前脛骨筋の起始部骨膜に刺鍼(深刺)。そのままゆっくりと徐々に足関節背屈の自動運動を行う。急激な関節背屈運動では深腓骨神経の鍼響は非常に強くなり、鍼体も曲がりやすくなるので注意。
★足三里(前脛骨筋)の運動鍼!
②長母趾伸筋刺鍼
足関節背面には、3本の腱を触知できる。内側から外側に向けて、前脛骨筋腱・長母趾伸筋腱・長母指伸筋腱。足関節背面から2寸上方(脳清穴)に脛骨を触知し、その外方にある長母趾伸筋腱に刺入する。刺鍼方向は腓骨方向に45度の斜刺。置鍼したまま、母趾の背屈自動運動をゆっくり行う。
★脳清穴(足関節背面から上2寸。長母趾屈筋)から腓骨に向けて45°斜刺!
6.慢性コンパートメント筋区画症候群
1)病態
コンパートメント(筋肉が筋膜に囲まれた空間)と呼ばれる空間内の圧力が異常に高くなることにより発生する。何かしらの誘因(下腿の過使用など)で筋肉が腫れるようになると、コンパートメント内の圧力が異常上昇する。これにより固い筋膜で囲まれているコンパートメント内の血流が阻害され、筋肉や神経が虚血状態に陥る。
★コンパートメント症候群は、血流障害→下腿筋膜内の虚血状態!
下腿には脛骨と腓骨があり、この間には骨間膜がある。さらには筋膜に筋間中隔とよばれる膜がある。これらによって下腿の筋は4つの区画(コンパートメント)に分かれている。そのうち、高頻度に生ずるのは、深後方コンパートメント症候群である。
トレーニングを重ねて筋が発達した場合でも、筋膜はそれに応じてすぐには拡大しないために、筋が入っている各区画の圧が上昇すると、筋への十分な血液の供給ができなくなって筋の虚血が生じることになる。
★コンパートメント症候群。最も多いのは深後方コンパートメント!
※急性コンパートメント症候群
脛骨の骨折、打撲、筋断裂などの急性外傷がきっかけとなり、組織圧が上昇して急激な強い痛み、しびれ、疼きを訴える。これらに対しては外科的応急処置(筋膜切開して減圧)が必要となる。
★急性コンパートメント症候群には対しては、外科的応急処置が必要!
・前方コンパートメント
障害筋→足関節底屈時(前脛骨筋)。代表穴→足三里(胃経)
・外コンパートメント
障害筋→足内反時(腓骨筋)。代表穴→懸鐘(胆経)
・浅後方コンパートメント
障害筋→足関節背屈時(腓腹筋)。代表穴→承山(膀胱経)
・深後方コンパートメント
障害筋→母趾背屈時(後脛骨筋)。代表穴→三陰交、漏谷(脾経)
★コンパートメント症候群は骨折、打撲、筋断裂などの急性外傷でも起こる!
2)症状
初期ではスポーツ時、虚血性の強度の筋痛。やがて安静時も痛くなる。障害区画の伸長動作で痛みが出現。該当区画の神経絞扼による知覚障害も生じ、横紋筋融解症を発症することもある。ただし動脈本幹は閉塞されないので、足背動脈等の触知は可能。
※シンスプリントは、慢性コンパートメント症候群とは異なり、神経症状は出現しない。
※横紋融解症:薬やけがなどが原因で筋肉が壊れてしまう病気
★コンパートメント症候群は、横紋筋融解症を発症することもある!
3)治療と予後
まず安静と、下腿部分の高挙を行う。症状が強い時は、ギプスなどのしっかり固定や、入院による徹底的な安静が必要となる。進行した状態で放って置くと、筋が壊死してくるので、筋膜切開手術が必要なこともある。
鍼灸は、軽度の慢性コンパートメント症候群に関して、症状部に刺鍼すればよいとする報告がある。中程度異常のものは鍼灸不適応。
★コンパートメント症候群による筋組織壊死を防ぐには、筋膜切開!
7.こむらがえり=腓腹筋痙攣
1)病態生理
「こむら(=腓)返り」とはふくらはぎ、つ(=攣)ること。腓腹筋の有痛性痙攣。筋肉内に分布する運動神経終末部の自発性興奮に始まる。筋線維の一部が強く収縮すると、収縮した筋線維と収縮しない筋線維の間にずれの力が働き、筋肉の痛覚線維を刺激して、痙攣と痛みが生じる。
★こむらがえりは収縮した筋線維と収縮しない筋線維の間にずれの力が働き、筋肉の痛覚線維を刺激!
2)原因
①脱水時
夏の暑い時期、激しい筋肉労働で大量の汗をかいたとき。水分やミネラル分(CaやMg)不足になると、腱紡錘中のセンサーがうまく働かなくなり、筋を緩める機序が作用しない。
※筋紡錘の働きは筋の伸び過ぎを防ぐ。これに対し、腱紡錘の働きは筋の縮み過ぎを防ぐ。
★こむらがえりは水分やミネラル分不足により、腱紡錘中のセンサーの機能低下を起こすことによる!
②睡眠中
原因は定かではないが、有力な説として次なようなことが考えられている。
日中に比べて夜間は気温が低くなる。ヒトは就寝中、熱エネルギー産生力を低下させ、体温も午前3時から5時頃が最も低くなる。こうした時ではあっても体幹深部の内臓温は一定レベルに保つので、結果として手足末梢温は低下せざるを得ない。その結果、夜中から明け方にかけて、筋の血流が悪くなり、新鮮な酸素、栄養素の供給や老廃物の排除がうまく行われなくなり、こむら返りが起こりやすくなる。
下肢静脈瘤の原因である下肢の静脈瘤防止弁の不全では、血流が逆流して余計な水分が血管から滲出し、周囲の細胞の新陳代謝を悪くして、足の疲れ、だるさ、むくみとともに、夜中のこむら返りなどの原因にもなる。
★夜中から明け方にかけて手足末梢温低下→栄養の供給や老廃物の除去がうまく行かなくなる→こむら返り!
3)治療
①手足、とくに足の保温につとめる。具体的には腓腹筋部に保温のためのサポーターを使用する。
②高山瑩氏(高山整形外科病院名誉理事長)・伊藤博志氏(医療法人社団高山整形外科病院院長)は、腰痛変性疾患に伴うこむら返りで日常生活に支障が出ていた患者32人に対し、太衝穴から深腓骨神経ブロック(局所注射)を実施。全例でこむら返りの発生頻度が1ヵ月に1回以下に減少するとは発表した。一度行えば数ヵ月間、効果は持続。なお中封から深腓骨神経ブロックも試みたが、太衝の方が効果は高かったとのこと。(「腰痛などを伴っているこむら返りに難渋している症例に対しての治療効果」:日本腰痛会誌、8(1):126–130.2002)
★太衝穴から深腓骨神経ブロック(局所注射)によって、こむらがえりの発生頻度低下!
太衝の皮膚は特異的に深腓骨神経支配になっているが、こむら返りに、太衝穴へのソマセプトを貼って効いたという報告もある。著効機序としては、深腓骨神経ブロック自体が、坐骨神経痛に対する治療のような効果をもたらし、下腿筋群の筋弛緩に関与したことが考えれられる。
※ソマセプト:高さ0.15mmのプラスティック製の皮膚刺激用医療器具
★こむらがえりに、太衝穴へのソマセプトでも効果あり!
③PNF手技
a.コントラクトリラックス
コントラクト(収縮)とは短縮性(等張性)収縮のこと。静止維持(6秒間)→抵抗伸展→静止維持(6秒間)を繰り返す。抵抗伸展は、術者の抵抗に対して、可動域いっぱいの運動を行う。ちなみに等尺性筋収縮であればホールドリラックスということになる。ともに行う目的は、筋肉が原因で、関節の動きに制限のあるときに関節の可動域を拡げるため。痛みが顕著な場合は、ホールドリラックスを行う。
★コントラクトリラックスは短縮性!
b.ホールドリラックス
等尺性収縮をホールド(保持)といいます。静的ストレッチ(10秒)→ホールド(6秒)→静的ストレッチ(30秒)
★ホールドリラックスは等尺性。痛みがひどければこちら!
c.セルフ(応急処置として)ホールドリラックス
腓腹筋痙攣発作時には、発作が治まるまで母趾を強く背屈させて腓腹筋ストレッチをするのが有効。しかし夜間の発作最中にこれを行おうとすれば、起き上がらなければならない。そこで、患側の母趾のMP関節を背屈させその上に、反対の足をのせて、仰臥位のまま行うようにする。
★腓腹筋痙攣発作時には、発作が治まるまで母趾を強く背屈させて腓腹筋ストレッチをする!
④芍薬甘草湯
芍薬も甘草も筋緊張を緩める効果がある。即効性があり、効果発現まで平均6分といわれている。効果持続時間は4~6時間。睡眠前もしくはつった時に頓服として用いる。芍薬も甘草も筋緊張を緩める効果がある。
★芍薬も甘草も筋緊張を緩める効果がある。効果発現まで平均6分!
※芍薬甘草湯は、横紋筋(骨格筋)に限らず、平滑筋(内臓運動)にも有効。すなわち、生理痛や尿路結石、ときにしゃっくりなどにも効果を発揮する。 偽アルドステロン症(高血圧、低カリウム血症)のリスクを伴なうので、常用には注意を要す。
★芍薬甘草湯は、平滑筋(内臓運動)にも有効。すなわち、生理痛や尿路結石、ときにしゃっくりなどにも効果を発揮!
足がつる原因として、筋肉の収縮や神経の伝達をスムーズにする働きのあるカルシウムとカリウムや、もしくはこの2つを調整しているマグネシウムの不足がある。それ以外にも、カルニチンやCa不足が挙げられる。
★足がつるのは、カルシウムとカリウム、マグネシウム、カルニチン、Caの不足!
芍薬甘草湯で効かない場合、カルニチン不足か、Ca不足の可能性がある。抗てんかん薬のバルブロ酸などを服用によって、低カルニチン血漿になっている可能性がある。
※カルニチン:生体の脂質代謝異常に関与するビタミン様物質で、アミノ酸から生合成される。獣肉類の赤身に多く含まれる。
★芍薬甘草湯が効かなければ、カルニチン不足かCaの不足の可能性あり!
😊マグネシウムを多く含む食品には、アオサ、ワカメ、ヒジキなどの海藻類、ナッツ類などがあり、 カルシウムは小魚、納豆などの大豆食品、乳製品など。カリウムは、緑黄色野菜、イモ類、果物に多く含まれます。栄養バランスのとれた正しい食事を心がけた上で、これらの食品を積極的に食べましょう。
8.むずむず脚症候群(レストレッグス症候群)
1)症状
脚の不快感と動かしたい欲求。脚の表面ではなく深部に不快な感じがあり、動かすと少し軽減する。その不快感は様々に表現される。むずむずする、虫が這う、痛がゆい、など。
★むずむず脚症候群は、脚の不快感と動かしたい欲求。脚の表面ではなく深部に不快な感じがある!
症状は夕方から夜間にかけて強くなることが多い。自然治癒はまれで、進行性憎悪することが多い。人によっては背中や腕にも現れることがある。
★むずむず脚症候群は、進行憎悪することが多い!
2)原因:神経伝達物質であるドーパミンの機能異常。
神経伝達物質ドーパミンの機能低下
↓
A11とよばれる脳の神経細胞の機能低下
↓
脳に送る必要のない身体深部知覚の些細な信号をカットできず、脳が過敏状態に
↓
むずむず脚症候群
身体の中では、脳が認識する運動刺激や身体感覚の他に、一定の閾値に達しない「雑音」のような深部感覚が無数に発生している。これらの深部知覚は、間脳部に相当するA11領域から脊髄に伸びる下行性の神経細胞によって抑制されているので脳にまで達しない。
★雑音のような深部感覚は、間脳部A11領域から伸びる下行性の神経細胞により抑制されている→脳似田しない!
しかし何らかの原因によってA11の神経細胞の働きが弱まり、特に夜間、運動神経や身体感覚の刺激がなくなると、「雑音」のような深部感覚が上行しやすくなり、脳が感覚情報過多の状態になり、むずむずするような不快感を覚えるようになる。夜になると脳の松果体からメラトニンが分泌され、身体が眠りにつきやすいように深部体温が下がる。と共に、むずむずする異常感覚も現れてくる。明け方になってメラトニンの分泌が減って、深部体温が上昇し始めると異常感覚は消失する。
★むずむず脚症候群が夜に起こりやすいのは、夜は運動神経や身体感覚の刺激がなくなって、脳が感覚情報過多になるから!
A11の働きが弱まる原因として、ドーパミン神経細胞の機能障害が関係している。一部の統合失調薬(リスパダール)は、ドーパミン過剰活性を抑えるため、副作用としてむずむず症状が生じることがある。
A11の働きには鉄が欠かせないが、鉄をしっかり補給していても、遺伝や加齢によりA11の働きに反映されないこともある。
※ドーパミン:やる気を起こさせる神経伝達物質
3)現代医学での治療
本邦初のむずむず脚症候群の薬としてドーパミンアゴニスト錠(ビシフロール錠)を使用。この薬がよく効かない場合、抗てんかん薬(レグナイト、ガバベン)を使用。レグナイト、ガバベンは不快感、不快痛タイプのムズムズ脚症候群に有効とのこと。
※アゴニスト(=作動)薬で、ドパミンの代わりとなってドパミン受容体を刺激するもの。要するにドーパミン量を増やし、弱まったA11神経細胞に直接刺激を与え、脚の不快感のもとをブロックする。
本剤はパーキンソン病での治療薬だが、むずむず脚症候群に使われる場合はパーキンソン病治療に比べて、6分の1~18分の1という少ない量で効果がある。それでも長期間連用すると効かなくなってくる。
★むずむず脚症候群は、ドーパミン機能障害による脳神経細胞A11の機能低下!
4)鍼灸治療
①考え方(似田先生)
むずむず脚症候群は、A11神経細胞の機能低下により、脳に届ける必要のない深部知覚信号をカットできなくなっていると考えられる。であるならば脳へより大きい深部知覚信号(=響かせる鍼)を送ることで、先の「雑音」のような深部知覚信号をマスキングできるのではないか。この考え方はパーキンソン病の四肢攣縮治療も使える。
②足三里刺激:具体的には、足三里に深刺。ゆっくりと雀啄を行いズーンという響きを得る。
③下腿脛骨々膜刺激:中国鍼2~3寸を使用。シンスプリントの鍼治療と同様の刺激点(漏谷~地機)に、脛骨々膜に対して擦り付けるように雀啄。
😊体に起こる生理および病理の現象は全て必要があって生じ、むずむず脚症候群やパーキンソン病の不随運動も例外ではない。むずむず脚症候群時に下肢の不随運動は血流停滞を回避するため、パーキンソン病の震えは冷えを緩和させるために起こる、といった説があります。
9.閉鎖神経痛
1) 原因
腰椎や骨盤の問題、閉鎖孔ヘルニア、外傷(乗馬などによる)、悪性腫瘍などにより起こると考えられている。
※閉鎖神経:腰神経叢からの分枝。大腿内転筋群と大腿内側の内側の皮膚を支配する。
※閉鎖孔ヘルニア:骨盤にある閉鎖孔から、腸が飛び出してしまう病気
★閉鎖神経痛の原因は、腰椎や骨盤の問題、閉鎖孔ヘルニア、外傷(乗馬などによる)、悪性腫瘍など!
2)大腿内側の筋と神経の解剖
大腿内側には次の5つの大腿内転筋群がある。恥骨筋・長内転筋・短内転筋・大内転筋・薄筋。いずれも閉鎖神経が運動支配。大内側皮膚も閉鎖神経が皮膚知覚支配している。
閉鎖神経とは、腰神経叢から起こり、骨盤の閉鎖孔を貫通して、大腿内側の皮膚と大内転筋の運動を支配している。
★閉鎖神経に運動支配される筋肉は、恥骨筋・長内転筋・短内転筋・大内転筋・薄筋の5つ!
3)閉鎖神経痛の症状
大腿内側がラケット状に痛み、撮痛(+)。大腿内転筋群にも圧痛がみられる。
★大腿内側がラケット状に痛み。撮痛(+)、圧痛(+)!
4)閉鎖筋頚痛の鍼治療
①力鍼
L4棘突起下外方4寸で腸骨稜上縁に力鍼(りきしん)穴を取る。ここからの腰椎突起方向への深刺で腰神経叢刺激になる。閉鎖神経(L2~L4)は腰神経叢から出る枝なので、理論的には深刺で、大腿内側に響かせることができるはずだが、実際には難しい。ただし鍼響を得られなかったとしても、大腿内側痛を緩和させることはできるよう。
★力鍼からの刺鍼で閉鎖神経痛に効くはず!
②閉鎖孔への刺鍼
閉鎖孔は閉鎖膜で覆われている。その閉鎖膜の外側を外閉鎖筋が、内側を内閉鎖筋が付着する。外閉鎖筋は陰部神経が運動支配。内閉鎖筋は副交感神経支配。
★外閉鎖筋は陰部神経が運動支配(知覚支配は閉鎖神経)。内閉鎖筋は副交感神経支配!
閉鎖孔内縁に刺入するには、側臥位で坐骨結節の内縁から骨に沿うように深刺8cm(陰部神経刺鍼)。
★外閉鎖筋は陰部神経が運動支配(知覚支配は閉鎖神経)。内閉鎖筋は副交感神経支配!
④大内転筋の筋膜痛
五つの大腿内転筋を、まんべんなく押圧して調べる。患側を下にした側臥位で、押圧すると圧痛が捉えやすい(筋が移動せず、圧痛が逃げないため)。治療側を下にした側腹位で大腿内側部筋の圧痛点に刺入。
★閉鎖神経痛の鍼治療は、力鍼、閉鎖孔、局所圧痛点!
第2節 足部の常見疾患
1.外反母趾
1)定義
母趾の中足指節関節(MP関節)の外反(小指側に傾く)状態。中足基節関節角が「15°以上」を外反母趾とする(15°未満は正常とする)。外反の高度なものは、第2趾と重なる。男女比は、1:10で圧倒的に女性に多い。
★外反母趾は、MP関節の外反が15度以上!
2)外反母趾の病態生理(以下の順に進行)
①距骨下関節の過回内(オーバーフロネーション)
歩行時の接地は、まず踵後方→足底外側→母趾側へと体重は移動する。
小趾側から設置するのは衝撃吸収の役割からで、この時、距骨下関節は回内運動が起きている。回内運動は生理的なことだがが、過回内状態になると、重心が土踏まず方向に偏るので、足の横アーチが崩壊して(つぶれて)「開張足」になる。なお距骨下関節回内に、直接的には筋は関与しない。
★外反母趾の前段階として、オーバーフロネーション(過回内)、開張足がある!
②浮き☟
常に靴を履いた生活スタイルでは、母趾で地面を蹴って前に進む能力が乏しくなり、長・短母趾屈筋力が低下する。このため立位では母趾が宙に浮いた状態になります。これを「浮き足」とよぶ。
地面を蹴るのは第2趾MP関節底部に代償され、接地部はウオノメやタコができやすい。
★外反母趾防止のために長・短母趾屈筋力を鍛えよう!
③母趾の外反・内旋の強制
歩行時の体重移動が土踏まず側に偏った状態では、母趾内側に体重がかかり、重心移動が母趾の内側になる。また母趾で地面を蹴る筋力不足もあって、歩行時には母趾の内旋を強いられることになります。このようにして外反母趾が形成される。
※ハイヒールや先細りの靴を履くのが原因とする説もありますが、履かない者でも外反母趾になる人は多くいる。
★ハイヒールや先細りの靴を履いていなくても、外反母趾になる人は多くいる!
3)症状・所見
①母趾MP関節が突出し、靴との接触でバニオンとなり、発赤して腫脹。
※バニオン:靴との接触で母趾MP関節内側部が滑液包炎を起こしたもの。発赤腫脹して疼痛を訴える。
②開張足(足の幅が扇状に広がり、広くなったもの)
③足の横アーチの消失(土踏まずの消失)
④外反母趾になると歩行時に体重負荷がしにくくなる。その代わり第2趾MP関節底部で体重を支持することになり、圧痛や自発痛、鶏眼・タコ等が出現しやすくなる。
★外反母趾→第2趾MP関節底部で体重を支持→圧痛や自発痛、鶏眼・タコ等が出現!
4)現代医学的治療
外反母趾の外科手術は数週~2ヵ月の入院が必要。再発率は15%。保存療法の目的は、痛みの少ない日常生活を過ごせるようになることと、外反母趾の進行を防ぐこと。
★手術後の再発率15%!
5)外反母趾の鍼灸治療とストレッチ
距骨下関節の過回内は筋緊張とは無関係なので、鍼灸でアプローチする方法はない。ただし浮き指の治療として、長・短母趾屈筋の緊張を回復させる試みは行われている。
①短母趾屈筋に対するトリガーポイント刺鍼法
長・短母趾伸筋(作用:母趾の背屈)を伸張(緩める)させることは浮き指の治療として治療意義があると考えられるが、本筋に刺鍼し筋緊張を緩めることができるかは不明。
★鍼灸は外反母趾に関連している筋の緊張を緩めることには効果的!
②長・短母趾屈筋と長腓骨筋のストレッチ
踏み台に、足指を突き出した形で立ち、太衝(長・短母趾伸筋)・陽交(長腓骨筋)に刺鍼した状態で、足趾の底背屈運動を行う。
★長・短母趾屈筋の刺鍼点は、太衝・陽交!
6)キネシオテープによる矯正法
キネシオテープによる矯正直後から、外反母趾はかなり矯正されるが、これで変形が治るわけではない。テーピングを行うことは接着剤が皮膚の角質層を剥がす(傷める)ので、連続使用に向かない。キネシオテープでの強制目的は母趾の外反制限と母趾内旋制限になる。しかし距骨下関節の過内反や偏平足の矯正というからは足底矯正板の使用が望ましいと考えられる。
★キネシオテープの強制目的は母趾の外反制限と内旋制限!
7)足底筋力強化訓練(外反母趾変形に対する効果は乏しい)
足底筋の筋力強化にはタオルギャザー訓練(長・短母趾屈筋の訓練)が行われる。これは坐位で床にタオルを敷き、その端を足指でつかみ、たぐり寄せるというもの。長・母指屈筋は、足の横アーチ形成に関係しているため。母趾内転筋の横頭の筋力低下は、開張足を招くため、この筋の筋力低下防止の目的で、足指ジャンケンなども有効。。
😊外反母趾には、足底のアーチが潰れてしまうことが大きく関与しているため、アーチをサポートするような足底版や装具が有効です。母趾と第2指の間に挟むような(母趾を内反させる)はあまり効果的でない場合が多いです。外反母趾予防や改善のためには、内転筋群の柔軟性を高めたり、大腿骨外旋6筋をトレーニングするのはやってみる価値があります。
2.足根管症候群
脛骨神経-足底神経-内側足底神経
-外側足底神経
-内側踵側枝
1)病態
内果後下部において、屈筋支帯の下の足根管を、脛骨神経・脛骨動静脈・後脛骨筋・長趾屈筋、長母指屈筋が通過している。この足根管の狭窄により、脛骨神経末端の、外側足底神経や内側足底神経がマルアライメントなどによって圧迫された状態。
★足根管を通るのは、脛骨神経・脛骨動静脈・後脛骨筋・長趾屈筋、長母指屈筋!
他に足根管症候群を起こす原因として、関節リウマチ。心不全や腎不全、甲状腺機能低下症による浮腫。足首の捻挫、骨折、下肢静脈瘤、ガングリオンなど。
★足根管症候群の原因は、マルアライメント、甲状腺機能低下症による浮腫、足首の捻挫、骨折、下肢静脈瘤、ガングリオン!
2)症状
脛骨神経絞扼部より末梢、すなわち外側・内側足底神経走行部(足と足趾の底側)の灼熱痛、骨間筋の機能低下、足趾の内・外転や屈曲力の低下。症状は、足底から足指にかけてのしびれ、痛み、冷え、ものが付いているような違和感など。踵部には症状がないのが特徴。偏平足に起こりやすい。
★足根管症候群は、偏平足に起こりやすい!
3)治療
安静療法でも生活に支障がある場合は、足根管を圧迫している屈筋支帯の圧迫をとる手術をする。
★安静でも生活に支障があれば、足根管の圧迫除去のための手術となる!
4)鍼灸治療
外傷や浮腫や腱鞘炎による圧迫であれば鍼灸が有効となる可能性があるので、足根部あたりの圧痛点に置鍼。
照海(腎):足の内果下1寸、屈筋支帯の中に取る。後脛骨筋腱と長趾屈筋腱の間。深部を脛骨神経が走る。皮膚知覚は伏在神経支配。
脛骨神経→内側・外側足底神経刺激。
水泉(腎)
★足根管症候群の鍼灸治療は圧痛点(照海・水泉あたり)に刺鍼!
3.足底筋膜炎
1)病態
足底の筋は、表在性の足底筋膜に覆われています。足底筋膜は踵骨隆起から起こり、足の指に至って、足底の縦のアーチ維持に貢献している。
★足底筋膜は踵骨から足趾に至る。足底の縦アーチに貢献!
過度の足底筋膜に加わる張力の反復により、足底筋膜付着部に牽引ストレスが作用し、同部の炎症や足底筋膜の微小断裂を起こす。この微小断裂は、夜間就寝中に治癒機転が働くために固くなる。しかし起床後、固まった損傷部に体重が加わると、カサブタが破れてしまうように、再び引き伸ばされて強い痛みとなる。長距離の選手に多い疾患である。
※外側ばね靭帯:距骨を下方から支持し縦アーチ維持に貢献。第5中足骨底-踵骨外側
※内側ばね靭帯:内側縦アーチを支持。舟状骨-踵骨
★足底筋膜炎は、アーチ形成組織にかかる負担が増えることで起こる!
2)症状:痛みの直接原因は脛骨神経末端の興奮によるもの。
①脛骨神経内側踵骨枝刺激
歩行開始時や走行中に、踵に近い部分がビリビリと痛む。踵骨前方の圧痛。
②内側足底神経刺激:母趾背屈時の足底痛
★足底筋膜炎の痛みは、歩行開始時の踵骨前方の圧痛と母趾背屈時の足底痛!
3)所見:X線で、足底部の踵骨内前方に骨棘を認める。
★足底筋膜炎は、X線で足底部の踵骨内前方に骨棘を認める!
4)整形外科での一般治療:安静。ときに筋膜付着部への局所麻酔。スポーツ再開までには、数ヵ月の安静が必要。10%は治癒まで半年以上かかる。
★足底筋膜炎は安静第一+局所麻酔!
5)足底筋膜炎の鍼灸治療
・内在筋-局所である足底筋膜刺激 →足趾の底屈運動
-短母趾屈筋(公孫、然谷など)→足趾の底屈運動
・外来筋-深層筋:長母趾屈筋(陽交)、長趾屈筋(地機)→足趾の底屈運動
-表在筋:下腿三頭筋(承山、承金)→足関節の底屈運動
※陽交:外果から陽陵泉に向かい上寸
※長母指屈筋(ヒラメ筋に被われる深層筋)は外反母趾予防の作用がある。
※内在筋:手指骨・足趾骨に起始・停止をもつ。その中に筋膜を有している筋。
※外来筋:手首・足首より遠位位置に起始と筋腹があり、手足には腱として入ってくる筋。
★足底筋膜炎の鍼灸治療は、公孫、然谷、陽交、地機、承山、承筋!
①下腿三頭筋に対する鍼灸治療
a.足底筋膜と下腿三頭筋の発生学
乳児では下腿三頭筋に続くアキレス腱が、踵骨を通過して足底筋膜になっている。生後1才頃になって歩行するようになると、踵部のアキレス腱は踵骨に自然に吸収され、アキレス腱と足底筋膜に分かれるようになる。ふくらはぎがつった時の応急処置として、母趾を背屈させることが有効なのはこのため。
★乳児では下腿三頭筋に続くアキレス腱が、踵骨を通過して足底筋膜になっている!
b.足底筋膜と下腿三頭筋の代償関係
歩行での前進力は、主に足関節の底屈筋力と、足趾MP関節の屈曲力によるもの。足関節の柔軟性が乏しくなると、足趾MP関節の屈曲可動域を増して前に進もうとする。
★歩行での前進力は、主に足関節の底屈筋力+足趾MP関節の屈曲力による。足関節の柔軟性が乏しくなると、足趾MP関節の負担が増える!
逆に足趾MP関節の柔軟性が乏しくなると、足関節の可動域を大きくして前に進もうとする。足底筋膜炎では母趾MP関節の背屈動作を強制すると足底痛を誘発することが多く、この痛みを避けるために、母趾MP関節の背屈をなるべく行わない動作が身につく。これは歩行時、足関節の底背屈を余分に行うことを強いられている状況。とくに下腿三頭筋の収縮を余計に強いられる。
★足底筋膜炎では母趾MP関節の背屈動作を強制すると足底痛を誘発することが多く、この痛みを避けるために、母趾MP関節の背屈をなるべく行わない動作が身につく!
つまり足底筋膜炎では腓腹筋(承山・承筋)やヒラメ筋(三陰交)の筋収縮を強いられることが多くなりやすい。従ってこれらの筋を緩めることが足底筋膜炎の改善につながる。
★足底筋膜炎では腓腹筋やヒラメ筋を緩めるべし!
c.ヒラメ筋をストレッチさせての刺鍼
立位でアキレス腱をポーズ(膝屈曲)。この姿勢で、圧痛点(三陰交、地機など)に運動鍼。
★ヒラメ筋刺鍼は、立位ヒラメ筋ストレッチさせて三陰交・地機。+運動鍼!
d.腓腹筋をストレッチさせての刺鍼
立位でアキレス腱を伸ばすポーズ(膝伸展位)。この姿勢で、承山、承筋、太谿、崑崙など腓腹筋反応点に運動鍼。
★腓腹筋刺鍼は、立位で腓腹筋をストレッチさせて山、承筋、太谿、崑崙。+運動鍼!
②短母趾屈筋刺激としての公孫・燃谷
長母趾屈筋・長趾屈筋腱(足底を通過する)の伸展を強いられた結果として、足底筋膜炎と同様の症状を生むのではないか。これはバネ指に対する長・短趾屈筋刺鍼の治療根拠に似ている(似田先生)。※腱を避け、筋腹に刺鍼する。
★長母趾屈筋・長趾屈筋腱の伸展を強いられた結果として、足底筋膜炎と同様の症状を生むのではないか!
公孫・燃谷刺鍼は解剖学的構造は似ていて、母趾外転筋→短母指屈筋に入る。しかし公孫・燃谷から長母趾屈筋と長趾屈筋はともに腱になっているので直接刺激には向かない。そのため筋膜刺激には下腿から行うようにする。
・公孫、燃谷 :母趾外転筋→短母指屈筋
・三陰交、地機:長母指屈筋、長趾屈筋
★公孫・燃谷刺鍼は、母趾外転筋→短母指屈筋に入る!
③長母趾屈筋と長趾屈筋刺激としての外丘(胆・外果の上7寸。陽交の後)・地機(脾・内果から陰陵泉に向かい8寸)。
似田先生は長母趾屈筋に対する治療は、下腿中央の高さで行っているとのこと。その理由は、長母趾屈筋は腱となって足の内側(母趾の末節骨底)に停止し、長趾屈筋(第2~5趾の末節骨底)は腱となって足の外側に停止している。しかしこの2筋は下腿でクロスし、長母趾屈筋は下腿外側に起始し、長趾屈筋は下腿内側に起始する。ゆえに長母趾屈筋刺激は陽交から直刺し、長趾屈筋刺激は地機から直刺しているとのこと。
★長母趾屈筋刺激は陽交から直刺。長趾屈筋刺激は地機から直刺!
この刺鍼をより効果的にするには、足首から下をベッドから出した仰臥位、もしくは仰臥位で足首部にマクラを入れて足をベッドから浮かせた状態で、陽交から長母趾屈筋に、地機から長趾屈筋に刺鍼したまま、足趾の屈伸運動をすると効果的とのこと。
地機:下腿内側ほぼ中央。脛骨内縁骨際で、ヒラメ筋起始部。深部に長母趾屈筋がある。
陽交:下腿外側ほぼ中央。長腓骨筋の後縁。直刺すると脛骨の後をかすめ長母趾屈筋に入る。
★長母指屈筋(陽交)も長趾屈筋(地機)も運動鍼で効果大!
④局所刺鍼
刺痛をなるべく与えないよう細鍼を使い、足底の圧痛に直接浅刺。跪坐位にて刺鍼し、徐々に腰を下ろし体重をかけるよう運動鍼(1~2分)。
★鍼灸治療は、ヒラメ筋(地機)、腓腹筋(承山)、短母指屈筋(公孫、燃谷)、外丘(長母趾屈筋)、足底局所!
4.踵脂肪体萎縮(=踵脂肪褥炎)
1)概念・症状
踵のクッションである脂肪体が減少し、弾力を失っている状態で、とくに起床時に踵中心部(=失眠)が痛む。脛骨神経分枝の内側足底神経踵骨枝が、踵骨底と床に圧迫されて痛むのが直接原因。踵脂肪体減少の原因は不明だが、老化、過使用、打撲が考えられている。
※踵骨の前縁部の痛みは、足底筋膜が踵骨に付着する部分であり、足底筋膜炎の可能性が高い。
★踵骨脂肪体萎縮により踵(失眠)が痛む!
2)治療
安静にして脂肪体の増殖を待つ。対症療法としては、踵部を覆う非伸縮性テーピング、ヒールカップ、踵の部分をくり抜いたインソールなどを使用する。
★踵脂肪体萎縮による失眠の痛みには、テーピング、ヒールカップ等!
3)鍼灸治療
似田先生は、踵内・外側を刺入点として寸3#1鍼で直刺。踵骨底面をこするような刺鍼を試みているとのこと。
★踵脂肪体萎縮による失眠の痛みに、踵内・外側を刺入点として寸3#1鍼で直刺!
6.モートン病
1)病態
足の5つの中足骨の基部は深横中足靭帯により互いに固定され、足底の横アーチを形成している。横アーチの下には足趾間の知覚をつかさどる内側足底神経・外側足底神経が縦走している。
★横アーチの下には足趾間の知覚をつかさどる内側足底神経・外側足底神経が縦走している!
モートン病の痛みはこれらの神経興奮によるもので、足裏の指部にピリピリした感じが出現する。指神経圧迫は、第3・4趾間に最も多く、第2・3趾間に生ずることもある。第3・4趾間に痛みが多発する理由は、この部が内側足底神経と外側足底神経の枝が交流する部のため。生理的にこの部には神経腫が存在しているが、正常では増殖しない。滑液包炎により二次的に神経腫も過敏になり、圧痛を生じたり、チネルサイン陽性となったりする。
※チネルサイン:神経傷害部を叩くと、その神経の支配領域に「限定」して、ビリビリとした放散痛が生じるもの
★モートン病はチネルサイン(+)!
神経興奮の原因は、主に滑液包刺激によるもの。歩行時に床から繰り返し加わる下からの圧力によってMP関節の関節包が炎症を起こし、神経は圧迫され、足裏の指部にピリピリした感じが出現する。
★モートン病は、下からの圧力によるMP関節の関節包炎症!
2)筋膜症候群からみたモートン病
指間部から指先へと電気が放散するような臨床症状となるが、神経刺激が症状をもたらしているかは疑問の残るところ。
あるポイントを押圧して痛みが末梢に放散する場合、それは神経痛とみなすのがこれまでの常識であった。
たとえば梨状筋を押圧して下肢い痛みが放散する場合、筋膜症によるものだとする。上述(モートン病)の圧痛点にしても、筋膜症が原因だろうと推定されている。というのは知覚を伝える神経は上行性だから、神経痛では臀部を押圧して下肢に症状をもたらすことはない。もたらすとすれば筋膜症による関連痛になるはずである。
★梨状筋を押圧して下肢い痛みが放散する場合、神経痛ではなくて筋膜痛!
3)神経過敏部のクッションパッド免荷
症例(似田先生本人、66才、男性)。1ヵ月前から30分以上歩行を続けると、左側の第2~4中足骨基節関節部が痛むようになり、足横アーチが減っている状態に感じた。左第2・3中足基節関節の間から足趾末梢に、ピリピリした放散痛が生じるようになった。
下腿後側のヒラメ筋を自己指圧するも効果なく、百均で購入したフェルトのような感触の床キズ防止パッド(直径2cm、厚さ5mm、ポリエステル製)を圧痛点を挟むように第2・3MP関節(中足指節関節)部に貼ってみると、直後からピリピリ感は消失し、歩行時や階段を下りる際の痛みも消失した。坐位で踵を上げた(中足趾節関節が背屈した)姿勢をとる。痛む部位を1cm離してその両側に貼る。
★足底部にパッドを貼ってストレスを軽減したら痛みが消失!
7.痛風
1)概念
高尿酸血症による関節痛。血液に溶けきれない尿酸が尿酸塩となり関節滑膜と腎臓に沈着蓄積。尿酸値が高いだけでは痛風発作は起きない。
★痛風は、血液に溶けきれない尿酸が尿酸塩となり関節滑膜と腎臓に沈着蓄積→痛み!
ある時、衝撃を受けたり急に尿酸値が下がったりして尿酸塩の結晶が剥がれ落ちると、白血球はこれを異物と認識して貪食。この時炎症物質を大量に放出して、突然関節部の激痛が生じる。
★尿酸塩の結晶を白血球が貪食→炎症物質が大量に放出→痛み!
進行すれば結晶化した尿酸が腎臓の組織にも沈着し、腎不全(血液から老廃物をろ過する能力が低下)起こし小便が出にくくなる。40~50才の男性に多い。
★痛風が進行すれば腎不全。小便が出にくくなる!
尿酸はプリン体の最終分解物。プリン体は肉類に多く含まれるが、プリン体自体としては殆ど利用されることなく尿酸となる。プリン体を排泄するには尿酸として排泄するしかないが、尿細管で90%は再吸収される。ゆえに血中に蓄積されやすい。ヒト以外の哺乳類では尿酸をさらに簡単な物質にして排泄することができる。
★プリン体は尿酸として排泄される!
プリン体過多は、プリン体を多く含む飲食物の過剰摂取という食事が問題ではないことが明らかになっている。つまり食事療法はあまり意味がないということ。体内でアミノ酸から過剰合成される要因の方が大きい(プリン体そのものは体内で必要なものであり、合成される)。メタボリック症候群が関係していると考えられています。
※プリン体の働きには、体や臓器を動かすためのエネルギー伝達、細細胞の新陳代謝などがある。
★痛風の改善のためには、プリン体を減らすことよりも、太り過ぎを止めることが肝心!
2)痛風発作
痛風発作の70%は、第1中足骨趾節関節(MP関節)にでる。典型パターンは、ある日突然、母趾MP関節が赤く腫れて激烈な痛みを生じる。他に距腿(関節)・膝・アキレス腱などの下半身に発症するものが9割。下半身の方が体温が低いことや血流が滞る傾向が強いことによる。痛みは1週間から10日後に次第に自然軽快するが、多くの場合1年以内にまた同様の発作が起こる。
★根本治療をしなければ、痛風発作は繰り返す!
3)現代医学での治療
①救急処置
出来るだけ患部を高い位置に保ちつつ患部を冷やす。非ステロイド系消炎鎮痛剤(ボルタレン、ロキソニンなど)を用いて鎮痛させる。
★痛風発作の救急処置は冷却と挙上、鎮痛薬!
②薬物療法
「コルヒチン」には、白血球が痛風発作の発生部位に働いた時に出るプロスタグランジンを抑制する働きがある。関節痛を感じ始めたときに飲めば、激痛を未然に防げる。
尿酸降下薬には、尿酸生成抑制薬と尿酸排泄薬があり、状態に応じて処方される。尿酸生成抑制薬は肝臓で働き、プリン体が尿酸になるのを抑制する働きがある。いずれも長期服用が必要になる。
★痛風による痛みの改善にはコルヒチン薬。もちろん生活習慣の改善が大事!
4)痛風発作の鍼灸治療
局所が熱を持って痛む場合、局所から刺絡。母趾MP関節痛の場合、大敦に施灸。
症例:39才男性。検診で尿酸値が高いと指摘されている。8日前から突然左肘が痛く、熱感と腫脹も生じた。医師の診察を受けると痛風とのことで投薬治療を8日間続けている。しかし疼痛・熱感・腫脹不変。肘頭の1~2cm上方に強い圧痛点を2ヵ所発見し、それぞれ5壮米粒大灸実施。その直後から肘が伸びるようになり痛みも減少した。(似田先生)
★大敦以外にも、局所施灸として、隠白、大都も!
第3節 下肢の神経麻痺と神経絞扼障害
下垂足→腓骨神経麻痺(内反尖足、足関節の背屈不能、足関節の外反不能、鶏歩)
鉤 足→脛骨神経麻痺(外反鉤足、足関節の底屈不能、足関節の内反不能、踵足)
※尖足と下垂足の相違:尖足とは脳卒中後遺症時などで、下腿屈筋の痙縮により足関節が底屈し、固くなった状態。下垂足は深腓骨神経麻痺の結果、足関節が背屈できず、ぶらぶらと垂れ下がった状態。
内反尖足:脳梗塞後遺症の典型。マン・ウェルニッケ肢位の際の下肢の形。
内反→浅腓骨神経痙性麻痺で足裏が内側を向いて固まる。
尖足→深腓骨神経麻痺で、足は尖足状態で固まる。
★尖足は足関節底屈で固まる。下垂足は足関節背屈不能で垂れ下がる!
外反鉤足:臨床的に遭遇することはマレ。
外反→足裏が外側を向く(母趾より小趾が上に位置する)
鉤足→釣り針状になる。
★腓骨神経麻痺は多い、脛骨神経麻痺は少ない!
1.腓骨神経麻痺
1)総腓骨神経の走行
殿溝中央(承扶)から大腿後側を下行する坐骨神経は、大腿後側中央(殷門)~膝関節側1/3あたりで脛骨神経と総腓骨神経に分かれる。以降、総腓骨神経は膝窩腓骨側に下降(浮郄・委陽)し、腓骨頭直下(陽陵泉)に回り、長腓骨筋を貫き、外側腓腹皮神経(下腿外側皮膚に分布)を出した後、浅腓骨神経と深腓骨神経に分かれる。臨床的には総腓骨神経麻痺は少ない。
・承扶 →殷門 →総腓骨神経 →浮郄 →委陽 →陽陵泉 →(外側腓腹皮神経) →浅腓骨神経
→深腓骨神経
→ 脛骨神経 → 委中
★臨床的には総腓骨神経麻痺は少ない!
①原因:大腿後側での圧迫・損傷
②運動麻痺:深腓骨神経麻痺症状である下垂足と、浅腓骨神経麻痺症状である内反足が合併し、内反下垂足となる。
・深腓骨神経麻痺症状-下垂足
・浅腓骨神経麻痺症状-内反足
★総腓骨神経麻痺は内反下垂足!
③知覚麻痺:知覚麻痺が片側1/2に出現。腓骨頭後方の陽陵泉あたりにチネル徴候出現。
★総腓骨神経麻痺の原因は大腿後側での圧迫・損傷!
④主な鍼灸治療点
殷 門(膀):大腿後側ほぼ中央。大腿二頭筋長頭と半腱様筋の間。委中の上7寸。
委 陽(膀):膝窩横紋の外端。大腿二頭筋長頭の内縁。
浮 郄(膀):委陽の上1寸。大腿二頭筋長頭の内縁。
陽陵泉(胆):腓骨頭前下際。長腓骨筋部。
★総腓骨神経麻痺の鍼灸治療点は、殷門、委陽、浮郄、陽陵泉!
2)長腓骨筋への刺鍼(陽陵泉)
総腓骨神経は膝窩尺側に下行(浮郄・委陽)し、腓骨頭直下(陽陵泉)に回る、次に長腓骨筋腱のつくる腓骨トンネルを通過した後。すぐに浅腓骨神経と深腓骨神経に分かれる、腓骨頭前下際で、長腓骨筋部に陽陵泉をとる。陽陵泉刺鍼では総腓骨神経を刺激できるが、やや下方に陽陵泉をとるのであれば浅腓骨神経刺激にもなる。
下腿外側痛とくに腓骨頭直下の痛みに対する治療で陽陵泉刺鍼を行うが、直刺しても意外に下腿外側に響かせることは難しい。しかし仰臥位で陽陵泉から足三里方向に1cm寄った処からベッド面対してに垂直に刺入すると、下腿外側に響かせることができる。
★長腓骨筋刺激は陽陵泉(斜刺)!
3)深腓骨神経麻痺(下垂足)
①原因:膝窩や腓骨頭直下での長期臥床やギプス固定での圧迫・損傷等で起こる。
★深腓骨神経麻痺の原因は長期臥床やギプス固定での圧迫・損傷等!
②運動麻痺:深腓骨神経は、足関節背屈働く筋(前脛骨筋・長趾伸筋・長母趾伸筋)を運動支配する。深腓骨神経麻痺では足関節背屈筋力低下し、下垂足となり踵立ち不能となる。下垂足では鶏歩(床に足先がひっかからぬよう大腿を高く持ち上げる)になる。
③知覚麻痺:知覚麻痺が第1趾~2趾で、チネル徴候は足背の衝陽あたりに出る。
④重な鍼灸治療点:下腿胃経ルート。足背の内側支配。
足三里(胃):外膝眼の下3寸。前脛骨筋上。深刺して鍼響を得る。
解 谿(胃):足関節前面中央、長母趾伸筋腱の直側。
衝 陽(胃):第2・3中足骨底間前、陥凹部。足背動脈拍動部。
太 衝(肝):第1・2中足骨底中点。足背動脈部。皮膚も筋(第1背側骨間)も深腓骨神経支配。
★深腓骨神経麻痺は足関節背屈筋を支配!前脛骨筋は脛骨神経支配じゃないからね!
⑤前脛骨筋への刺鍼(足三里~下巨虚)
下腿後面の前脛骨筋上には胃経の、足三里・上巨虚・条口・豊隆・下巨虚といったツボが並んでいる。前脛骨筋は深腓骨神経が運動支配するが、深腓骨神経が前脛骨筋中に送る分枝は多数あって、これらの経穴はどれもモーターポイントとして作用している。同穴を順に調べ、最大圧痛点に刺鍼する。
★深腓骨神経麻痺(下垂足)は、足三里・上巨虚・条口・豊隆・下巨虚。最大圧痛点に刺鍼!
4)深腓骨神経痛
総腓骨神経の皮膚知覚支配領域は、下腿の外側~前面から足背領域の皮膚を知覚支配している。その皮膚知覚支配の大部分は浅腓骨神経であり、深腓骨神経は第1趾と第2趾の間の領域の皮膚を知覚支配するに過ぎない。この部分は、ほぼ太衝に相当。
深腓骨神経痛は、太衝部分の皮膚痛を生じる。本症は坐骨神経痛の部分症状や、足背部における深腓骨神経走行絞扼障害として生ずる。後者の場合、深腓骨神経走行上の圧痛点を軽く叩打すると太衝部へ痛みが放散する(=チネルサイン陽性)。
★深腓骨神経痛は太衝部の皮膚痛!
5)浅腓骨神経麻痺(内反足)
①原因:腓骨頭下方3~4cmあたりでの圧迫・損傷。ブーツやスキー靴による圧迫が多い。
★浅腓骨神経麻痺はブーツやスキー靴による圧迫等!
②運動麻痺
浅腓骨神経は、足関節外反に働く筋(長・短腓骨筋)を運動支配。すなわち外反運動に関与する。浅腓骨神経麻痺では、内反足になる。
★浅腓骨神経は、足関節外反に働く筋(長・短腓骨筋)を運動支配!
③知覚麻痺
下腿外側1/2以下に知覚麻痺が出現する、チネル徴候は下腿外側の光明・懸鐘あたりに出る。
★浅腓骨神経麻痺のチネル徴候は、下腿外側の光明・懸鐘あたりに出る!
④短腓骨筋への刺鍼 →懸鐘
懸鐘は足外果の上3寸にとる。別名を絶骨。絶骨の語意は外果から擦上するとこの部で骨(腓骨)に触れなくなるから。触れなくなるのは、短腓骨と長腓骨筋腱に覆い隠されるため。と同時に、下腿外側を下行してきた浅腓骨神経が下腿筋膜を貫き皮下に現れる部分でもある。浅腓骨神経はここから中間足背神経と内側足底神経に分枝し、それぞれ足背の知覚を支配する。
★浅腓骨神経麻痺(内反足)の刺鍼点は懸鐘!
懸鐘部分の下腿筋膜による浅腓骨神経は神経絞扼障害を起こすことがある。あるいは懸鐘部分では長腓骨筋と短腓骨筋が重なっているが、このことがインターセクション症候群となって痛みを発することも考えられる。
懸鐘から傍神経刺によって下腿外側に響かせるには、標準懸鐘の位置から前方(胃経側)に1cmずらした位置を取穴し、胆経側に向けて斜刺する。
※インターセクション症候群(腱交叉症候群):異なる機能を持つ腱が交叉する部位に生ずる腱周囲炎のこと。
★浅腓骨神経(長・短腓骨筋を運動支配)運動麻痺は外反ができなくなる。知覚麻痺は光明・懸鐘辺り!
2.脛骨神経麻痺
1)脛骨神経の走行と機能
坐骨神経から、大腿後側の膝窩側から1/2(殷門)~1/3の部で湧かれた脛骨神経は、まっすぐ膝窩(委中)を通り、下腿後側を下行する。脛骨神経は、足関節底屈に働く筋(下腿三頭筋、後脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋)を運動支配し、足底を知覚支配する。
※腓腹神経:脛骨神経の枝の知覚神経。小趾~外果外側~下腿後外側皮膚(下腿の胆経~膀胱経)を知覚支配する。※下腿内側皮枝は、伏在神経。
★脛骨神経は、足関節底屈に働く筋(下腿三頭筋、後脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋)を運動支配!
2)原因
坐骨神経麻痺に合併する形で生ずるが頻度としては多くありません。脛骨神経麻痺で最も多いのは、脛骨神経が圧迫される足根管症候群である。
足根管症候群を起こす原因としは、関節リウマチ。心不全や腎不全、甲状腺機能低下症による浮腫。足首の捻挫、骨折、下肢静脈瘤、ガングリオンなど。
★脛骨神経麻痺で最も多いのは足根管症候群!
3)知覚神経麻痺症状:足底に出現(低頻度)
4)運動麻痺症状
①鉤足(踵足)
下腿後側筋は、主として足関節の屈曲(底屈)に関与する。これらの筋の運動麻痺により、相対的に足は背屈する。これを鉤足(または踵足)とよぶ。足の底屈困難なことから、爪先立ち不能で、地面を蹴ることが困難になる。
②外反足
下腿の内側~深部筋(後脛骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋)は脛骨神経支配であり、足の内反に関与する。これらの筋の運動麻痺時には足は相対的に外反する。
5)主な鍼灸治療点(下腿膀胱経を下行し、内果下から足底を走行する)
①委 中(膀):膝窩中央。深部に膝窩筋がある。
②内合陽(奇):沢田流で多用された穴。委中穴の下方2横指に合陽穴を定め、その内方2横指の部。腓腹筋内側頭のTPに相当。深部に膝窩筋がある。
③照 海(腎):内果下1寸、屈筋支帯中。
④湧 泉(腎):足底中央よりやや前方、五趾を曲げ陥むところ。
⑤地 機(脾):内果上8寸。脛骨々際。
⑥三陰交(脾):内果上3寸、脛骨々際。通常の三陰交刺激は直刺浅刺または施灸でOK。脛骨神経に当てるには、太鍼を用いてアキレス腱方向に45°の斜刺。
★診断名は違っても鍼灸治療法が同じになる場合がある。足底筋膜炎、モートン病、シンスプリント(後内側型)は、鍼灸治療法(刺鍼部位)が似ている。すなわち足関節の底屈で痛みが憎悪するものはヒラメ筋・腓腹筋の過緊張を緩め、足趾の底屈で痛みが憎悪するのものに対しては、長・短母趾屈筋や長趾屈筋を緩める治療となる。
・足関節の底屈や伸張で痛みが憎悪 →ヒラメ筋・腓腹筋の過緊張を緩める
・足趾の底屈や伸張で痛みが憎悪 →長・短母趾屈筋や長趾屈筋を緩める
★ヒラメ筋が損傷時、本筋への押圧刺激(圧痛)、足の底屈(筋の収縮時痛)でも、背屈(筋の伸長痛)でもヒラメ筋に痛みが出る可能性がある。!
😊下肢症状には、痛風など全身性の病気の一症状が下肢に現れるものと、単純に下肢だけの障害や外傷とされるものとがあります。ただし障害において(外傷によるものではない)は、外反母趾のように、母趾だけに手を施しても治癒寛解には至らない場合がほとんどで、骨格を中心に全体を見て治療にあたる必要があります。また痛風なども症状が下肢にでますが、もちろん下肢だけの病気ではありません。下肢に障害があるとその障害の度合いによっては、活動量が著しく減り、そのことが二次的に他の病気を引き起こしてしまうことも少なくありません。どのような病気にもいえることですが、病気やケガをしてしまうときというのは、疲れが溜まっていたり、睡眠不足であったり、体が冷えていたりする場合が多くあります。日ごろから養生に努め、できるだけ病気やケガは未然に防ぎたいものです。