鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか?「精神症状をやわらげるために」編
はじめに
鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。
筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化、等々。
これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。
解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。東洋医学の治療は、東洋医学独自の病の見立てである「弁証」と、状況に応じた対処の仕方「論治(選穴、取穴、刺鍼施灸、手技)」によって成り立っています。西洋現代医学、東洋医学と、背景にある考え方が違っていても、治療にあたって用いるツボが同じになることは珍しいことではありませんが、日本において、患者さんが東洋医学の病名や用語を口にすることは、まずありません。よって現代医学的な診断を参考にしながら、東洋医学的な分析をしつつ、ことにあたる必要があります。
鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、主に現代医学的観点から病態を捉える、治癒率向上を図る、鍼灸適応不適応の再確認、といったことと合わせて、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代鍼灸臨床論』」という科目に対しての理解をより深めることを目的の一つとしています。非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。
※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。
〇遠隔療法と反射について
肩が凝っているときに、その凝っている筋肉に鍼灸をすると、コリが和ぎます。その理由は、筋肉の伸長収縮度合いが正常に戻ったり、凝っている部分の血流が促進されることで疲労物質の滞りが解消されたり、するからです。ですから症状が出ている(凝っている)部分に鍼灸をすることには意味があります。では鍼灸が、内臓の異常に働きかけるためにはどうしたらよいでしょう?内臓に直接鍼を打つといった方法もありますが、受け手の負担も大きく、一般的ではありません。そこで反射(東洋医学なら経絡)といった概念が用いられます。
反射とは、刺激に対して無意識(大脳を介さず)に、機械的に起る身体の反応のことです。例えば、熱いものに手を触れたとき即座に手を引っ込めるのは反射によるものですが、これは身体を守るために、考えてから引っ込めたのでは遅いからです。鍼灸刺激によって反射(体性内臓反射)を起こし、生体に元々備わっている治癒力が賦活(活性化)されます。
・内臓体性知覚反射
内臓の異常は、その内臓を支配している自律神経とほぼ同じ脊髄反射区の皮膚領域を過敏にし、普通では痛みとはならない程度の皮膚刺激でも、その部位に疼痛また異常感覚を伴なうようになるというもの。
・内臓体性運動反射
内臓異常による求心性の興奮は、対応する体壁(皮膚や筋肉)に運動性の変化として、筋緊張・収縮などを起こすというもの。いわゆる凝りの現象で、内臓疾患による筋性防御のあらわれ。
・内臓体性栄養反射
交感神経を切断すると支配下の筋群は緊張を失って代謝障害に陥る。内臓に慢性疾患が長期に渡ると、体壁に萎縮・変性があらわれてくるというもの。
・内臓体性自律系反射
皮膚にある汗腺、皮脂腺、立毛筋、および末梢血管系を支配する自律神経系の反射で、交感神経性皮膚分節の領域に反応があらわれるというもの。
汗腺反アセ汗として、立毛筋反射は鳥肌、皮脂腺反射は皮脂として、皮膚血管反射は皮膚の冷え、ほてりとなってあらわれる。
・内臓体性反射
一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄の同じ高さに神経支配を受けている内臓に反射作用があらわれるというもの。このときに、内臓にあらわれる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)である。
この章で取り上げる疾患・症状は、不眠症、発汗過多、疲労倦怠、貧血、甲状腺機能低下症、不定愁訴症候群、神経症、更年期障害、線維筋痛症、筋筋膜性疼痛症候群、神経症、心身症、小児疳の虫、肥満等です。
第1項 不眠症
1.睡眠とは
ヒトや動物にとって、睡眠は不可欠であり、睡眠不足は心身にとってストレスとなる。睡眠に関する様々な問題は睡眠障害と総称される。
1)眠りの目的
・「眠り」の目的として、脳の休養・メンテナンス、記憶の整理・定着、ホルモンバランスの調整、免疫力の向上などが挙げられる。つまり、眠りが不十分であれば、これらのことがうまく行われないために、様々な体調不良を引き起こす可能性が高くなる。
★睡眠の目的は、脳のメンテナンス、記憶の整理・定着、ホルモンバランスの調整、免疫力の向上!
〇睡眠の概要
体温や脳の深部は、心身の活動に比例しており、起床時に低く就寝時に高い状態にある。
睡眠の直接的な目的の一つが前頭葉の温度を下げることであり、前頭葉が過熱すると能力が低下して眠気を生じる。最初に起こる睡眠は、ノンレム睡眠(=除波睡眠)で、脳深部の血流が減少して加熱を防ぎ、また深部体温を強く下げる作用がある。疲労は睡眠中に回復するが、その主役は成長ホルモンによるもの。
※脳の温度は平均38.5℃で体温よりも高い。
★最初に起こる睡眠のノンレム睡眠の目的は前頭葉の温度を下げること!
2)天然の睡眠薬メラトニンと松果体
①地球上の生物は体内に有している体内時計を、日の出、日没など自然界のリズム(サーカディアリズム)に合わせて生活を営んでいる。この機能をつかさどっているのが脳にある松果体で、松果体から分泌されるメラトニンは、強い光では分泌量が減り、暗くなると分泌量が増え、メラトニンは天然の睡眠薬として作用している。
人間のサーカディアンリズムは25時間であるため、1時間の誤差を調整することができないと、社会生活に支障をきたすことになり、これをサーカディアンリズム障害とよぶ。 太陽光などの光、時間を認識する物(時計)、食事・労働・学習などの習慣などにより、1時間の調整が行われている。
★松果体から分泌されるメラトニンは天然の睡眠薬!
②松果体は、脳の深部中央にあり、松果(松ぼっくり)の形をした、直径8ミリほどの内分泌器官。大脳が進化発達して巨大化した結果、押しやられて脳の中心部に移動し、視覚機能は退化していったと考えられている。しかし脳の中心にあることで、第六感としての機能をつかさどっているとされるようになった。開眼という言葉は、この第三の眼の能力が身についた、すなわち悟ったという意味。
※第六感:五感を超えるもので、物事の本質を掴む心の働きのこと。もともとは西洋的な概念であり、この言い方を始めたのは、17世紀末のイギリスの哲学者シャフツベリとされている。 類義語として、インスピレーション、直感、霊感など。
※手塚治虫原作の「三つ目が通る」。主人公・写楽保介の正体は、古代ムー大陸で高度な古代文明を繁栄させた「三つ目族」の末裔で、額に貼られた絆創膏をはがすことにより、超能力と天才的頭脳を発揮するというもの。
※盲の人がハチマキをすると(額を隠すと)運動能力が著しく低下するといった話も。
※フランスの哲学者デカルトは精神と身体とは完全に交流がないとする人間観を主張する一方、精神と肉体の相互作用を松果腺(体)の役割だと考た。
★松果体は第三の目!
③メラトニンとセロトニン
メラトニンは夜になると分泌量が増え、セロトニンは日中に太陽光を浴びると体内でつくられる。メラトニンとセロトニンは、夜の睡眠と日中の活動のバランスよく営まれるために非常に重要な物質。メラトニンには睡眠をサポートする働き、セロトニンには精神を安定させる働きがあり、互いに深く関わり合っている。
★セロトニンが増えればメラトニンも増える!
③仏像の白毫(びゃくごう。眉間のやや上に生えているとされる白く長い毛。光を放ち世界を照らすとされる)やヒンズー教のシバ神の額にある第三の目などの神性と松果体の関連は不明。
インドの既婚女性ヒンズー教徒がする、ビンディー(前額部につける赤く小さな丸模様)は、元来は貞操を守る風習から、既婚で、なおかつ夫が存命中の女性がつけていたものであるが、現在では一種のおしゃれとして既婚未婚を問わず行われている。
④眉間は、中国医学では「闕(けつ」ともよばれ、肺病の診察点。「闕」には要塞や都市を守る城壁の左右の門あるいはもの間の通路という意味。一方人相占いでは印堂とよばれる。印鑑を押す部位との意味で、これはヒンズー教のビンディと似ている。印堂は鍼灸学では経穴名にもなっている。闕はヒンズー教やヨガではチャクラの発する場所一つとしている。道教では上丹田といい神を蔵す場所として重視されている。
チャクラ:円、車輪が語源。体のエネルギーを補給、コントロールするポイントとされていて、人体の正中線上に6つ(もしくは7つ)ある。眉間の奥にあるのはアジュナチャクラで、直感力を生むとされている。
★アジュナチャクラは上丹田!
😊ウルトラセブンの額にもそれらしきものがあり、そこから必殺のエメリウム光線が発射されます。第三の目、白毫、チャクラ、上丹田と、名前は違っても非常に重要なところであると、昔の人はわれわれ現代人以上に感じていたのだと思います。
2)意識状態と脳波
α波を基準とし、α波より速い周波数を速派(→β波)、遅い周波数を徐派(→θ派とδ波)とする。
①覚醒時の脳波:速派(β波)。周波数が高く、振幅の小さい波形。
②閉眼時の脳波:α波(ぼんやり)=瞑想・座禅の状態
③睡眠時(レム、ノンレムとも)の脳波:徐派(θ派)。周波数が低く、振幅の大きな波形。
④熟眠時の脳波:θ派中にδ波が混じる。
★覚醒時はβ波、瞑想時はα波!
3)ノンレム睡眠とレム睡眠
①ノンレム睡眠(徐派睡眠)non-rapid eye movement sleep
(rapid eye movement sleep)ではないという意味。
ノンレム睡眠は、睡眠の前半に多く現れる。大脳皮質休息の意義があるので、夢をみない。一方、寝返りをうつなど身体は良く動く。睡眠は、まずノンレム睡眠(徐は睡眠)から始まる。ノンレム睡眠には4段階ある。
段階1→段階2→段階3→段階4の順番に深くなり、段階4→段階2と浅くなる(段階3と段階1はない)。これら段階の区別は、脳波に占めるθ派δ波の比率による。
★ノンレム睡眠は大脳皮質の休息!
第1段階:θ派出現=うとうと
第2段階:すやすや、寝息
第3段階:θ派中、δ波が20~30%。ぐっすり。発汗作用亢進による体温低下
第4段階:θ派中、50%以上がδ波。さらにぐっすり。
※座って眠った場合、第3段階には移行しない。非常に疲れた状態で第3~4段階に移行した場合、ソファに横になって寝込むか、転げ落ちてしまう。
★θ波中にδ波が50%。爆睡!
②レム睡眠 rapid eye movement sleep
レム睡眠時の脳波はθ波(ノンレム睡眠の第1段階と同じ)だが、瞼の下で眼が動くので、REM(Rapid Eye Movement 急速眼球運動)睡眠とよぶ。
レム睡眠の意義は身体休息で、骨格筋は弛緩して、その間あまり寝返りなどの動きはないが、精神は活動して夢をみる。生理的な日中活動時は、基本的に交感神経優位状態であるが、このレム睡眠は、きつく巻かれたゼンマイを緩めるように、副交感神経優位状態にする役割がある。
★レム睡眠は副交感神経優位にする働き!
入眠困難約90分でレム睡眠に移行。約90分周期でレム睡眠が起こり、1回平均20分間持続する。一晩にこの周期を3~4回繰り返すが、レム睡眠の比率は、新生児に長く、加齢とともに割合は減少する。
レム睡眠時、成人男性は生理的に一晩に3~5回勃起する。これは性的刺激とは無関係。「朝立ち」は、最後のレム睡眠のタイミングで目覚めた場合に生ずる。
※早朝覚醒や短時間睡眠では、レム睡眠が不足してくる。脳の疲労の回復はできても、身体の疲労回復は十分ではないので、自律神経失調症をきたしやすい。仮に1回90分未満の睡眠を計8時間分とっても、レム睡眠時間は不十分である。
★早朝覚醒や短時間睡眠ではレム睡眠は不足し、自律神経失調症をきたしやすい!
※自然に目覚める時は、1度のレム睡眠から覚醒状態になるので気分がよい。急に叩き起こされるなど、4度のノンレム睡眠から覚醒すれば非常に気分が悪い。
※筋肉が弛緩して動けない状態「金縛り」は、レム睡眠から急に覚醒した場合に生ずる。
★金縛りはレム睡眠から急に覚醒した時!
〇ノンレム睡眠
特徴:睡眠前半に多い。
徐波(θ波、δ波)
目的:精神(大脳)の休息
加熱した大脳を冷やすため発汗し、血流量が減り、体温下降。
現象:①発汗、体温低下
②筋緊張、いびき、歯ぎしり、夢遊歩行
③精神は休息、身体はよく動く(無目的な動作)
〇レム睡眠
特徴:睡眠後半に多い。
θ波+急速眼球運動
目的:身体の休息
日中の交感神経緊張を緩め、疲労回復させるために副交感神経優位になる。骨格筋の弛緩
現象:①夜尿症、勃起、喘息、安静時狭心症など、副交感神経緊張で憎悪する疾病の発病。
②精神は活動し、筋は弛緩
③夢をみる
★ノンレムとレム、どちらも必要!
😊ノンレム睡眠中に起こる寝返りは、睡眠中に、同じ体勢による筋等への負担を軽くし、身体をほぐす目的で行われ、身体にとって生理的なものです。一方、ノンレム睡眠が脳を休めるためにあるとはいえ、この時間にすべての者にいびきや歯ぎしり、夢遊歩行が出るわけではありません。もし、いびきや歯ぎしり、夢遊歩行が頻繁に起こるようなら、原因を究明し、手をうつべきであると考えます。
2.不眠の分類
・入眠障害:心の動揺に関係。興奮、不安神経症
・早朝覚醒:精神疾患、鬱病 ←レム睡眠の減少による
・熟眠障害:
-老人性不眠:睡眠時間は充分なので起床時爽快だが、夜に眠れないことで気分的につらい。
-鬱病:寝覚めの時間は早いが、レム睡眠が不足しているため、午前中は倦怠感が強い。
※臨床的には神経症性不眠、老人性不眠、二次性不眠(原疾患は精神疾患)に分類する。
★精神疾患や鬱病→早朝覚醒→レム睡眠不足→自律神経失調症!
3.不眠の特徴と対応
・神経症性不眠
比較的神経質な人が必要以上に不眠を気にすることによる場合が多い。眠ろうとすることがストレスとなり、いっそう眠りにくくなる傾向がある。睡眠中に脳波を記録すると、本人の意識以上に実はよく眠っている。
特徴:「不眠」を苦にしての不眠。一過性不眠→不眠自体がストレスを生む→持続性の不眠
対応:①患者の苦痛に耳を傾ける。
②睡眠に対する正しい知識を説明。
眠れないことがストレスになり、余計に眠れなくなる。早く眠ろうと考えないことがコツ。
★神経症性不眠は「早く眠らないと」と考えないように!
・老人性不眠
一種の老化現象。睡眠と日中の活動はバランスが取れている。活動量が多ければ睡眠の総量も多くなる。老化によって日中の活動量が減り、結果として眠りも浅く、時間も短くなる。
特徴
①多相性睡眠:視床下部や網様体の機能が衰え、覚醒維持困難
→何度も寝たり起きたりを繰り返す睡眠
②睡眠状態誤認:生理的には不眠ではない
③早朝覚醒:体力衰退により早めに就寝。結果として早朝覚醒。
対応
①眠れないことを苦にしている気持ちを尊重し、傾聴する。
②高齢者の睡眠の特徴を説明し、特別の事態ではないことを理解させる。
③不眠が原因で認知症になることはないと説得
★不眠で認知症になることはない!
1)神経症性不眠と脳幹網様体興奮
※脳幹網様体とは:
脳幹にあって、神経線維が網の目のように張り巡らされ、神経細胞が豊富に分布しているところ。
働き:
①運動調節(筋の緊張・姿勢や運動に関するニューロンの連絡統合)
②意識の保持:網様体には、身体全体から感覚情報、前頭葉の運動皮質からの運動情報などさまざまな情報が送られてくる。 これらの情報に基づいて意識下の活動が制御される。
脳幹網様体は、延髄・橋・中脳内部にある脳神経核(白色)と神経線維(灰白色)がネットワークを形成している部分。白質中に灰白質が散在する外見をしている。
大脳皮質が興奮して、下行性に網様体賦活系を刺激することで不眠状態になる。その一方で、末梢からの知覚情報は、脳幹網様体を経由し、大脳皮質に伝達される。
末梢からの知覚情報には、体内刺激として痛みやかゆみ、体外刺激として身体運動があるが、これらはすべて網様体を通過する知覚情報インパルスとして捉えられ、このインパルス数が多いほど意識は明瞭になり、少ないと意識は不鮮明になる。
したがって睡眠誘導には、網様体を通過するインパルスの数を減らすことを考える。具体的には暑さ寒さ、明るさ、雑音を遮断する睡眠環境にすることや、思い悩まないこと。逆に眠気をさますためには、身体運動を行う。とくに歩行(大腿四頭筋活動)やあくび(咬筋活動)は効果的。
★睡眠誘導には、網様体を通過するインパルスの数を減らす!
2)老人性不眠と視床下部機能衰退
老人性不眠は、前述の脳幹網様体に加え、視床下部の機能衰退が関係している。視床下部の主な役割は、①哺乳類共通の自律神経中枢(体温調節、水分調節、食欲調節、睡眠調節)と、②生体時計(意識に応じた内分泌の活動調整)である。
老人性の生体時計は、24時間という覚醒と睡眠のリズムを刻むことは難しくなり、分断睡眠や昼寝、早朝覚醒が起きやすくなる。
★老人性不眠は、脳幹網様体・視床下部機能の衰えが関係!
5.睡眠薬について
不眠患者はすでに医師から睡眠薬を処方されている者も多い。服用している睡眠薬を知ることができれば医師の考えをある程度知ることができるので、鍼灸師であっても睡眠薬の知識は必要。町のドラッグストアなどで売っている睡眠改善薬(ドリエルなど)の正体は抗ヒスタミン剤であり、催眠作用は弱い。感冒薬中にも含まれ、この副作用として眠気が起こる。
覚醒を促す成分として、ヒスタミン、ノルアドレナリンなどがある。。抗ヒスタミン薬は、この成分の働きを弱めることで眠気を生じさせる。ステロイドは、この成分の働きを強め、不眠の原因となる場合がある。
★ドラッグストアで売っている睡眠改善薬(ドリエルなど)の正体は抗ヒスタミン剤!
・超短時間作用型
アモバン、マイスリー、ハルシオン
効果が速やかに現れる。寝付くことができない(入眠障害)に使用。
・短時作用間型
デパス、レンドルミン
入眠障害や中途覚醒に使用
・中間作用型
ロヒプノール、ベンザリン、ユーロジン、ネルボン、イソミタール
早朝覚醒、しっかり寝た感じがしない(熟眠障害)に使用。「持ち越し効果」に注意。
①「持ち越し効果」:薬が長く効き過ぎ、朝頭がボーっとしたり、ふらついたりする。
②反跳性不眠・睡眠薬をしばらく飲んでいて、突然飲むのを止めた場合に、眠れなくなることがある。
③退薬症候:睡眠薬を突然中止した際にみられる。頭痛・めまい・耳鳴り・しびれ・不安・焦燥などが一過性に現れる。
★睡眠薬は主に3種類。いずにも副作用がある!
😊心配事があると寝つきが悪くなったりなど、睡眠に支障をきたすことがあります。このときの不眠の原因は心配事であるのだから「心配事を解決せずして、単に睡眠薬で眠っても意味がない」といった意見があります。しかし眠れないから気持ちが前向きにならない、だから心いつまでも心配事は心配事のまま、といったこともあるでしょう。そこで「とりあえず眠りましょう」となるのですが、睡眠薬に頼ってしまうと、薬の依存性からいずれ睡眠薬なしでは眠れなくなってしまう、といったことが懸念されます。そこで鍼灸などの副作用のない治療の存在意義があるといえます。もちろん日中に日光を浴びて、しっかりと体を動かすことで眠りを取り戻せるなら、鍼灸を受ける必要はありません。
6.不眠の鍼灸治療の理論と実際
1)ノンレム睡眠不足と精神疲労の鍼灸治療
ノンレム睡眠の意義は、大脳皮質の疲労回復。鍼灸治療は、頭皮上の圧痛点、項部筋や胸鎖乳突筋が頭蓋骨に付着する部の圧痛点(寛骨や安眠)に施術する。大脳皮質の過剰興奮は頭部の筋疲労を生じるが、やがては頭頚部の筋疲労が自体が網様体刺激となる。これらのコリを緩めることが網様体に対する入力を減らし、眠りにつきやすくなる。
★頭頚部の筋疲労自体が、やがて網様体刺激となってしまう!
①上天柱深刺
取穴:天柱(瘂門穴の外方1.3寸)の上方で、風池(後頭骨とC1結節間で、瘂門と乳様突起の間)の並び。※瘂門:項窩の中央。
意義:深刺しすると、僧帽筋→頭板状筋→頭半棘筋と通過し、後頭下筋群に至る。
★後項部正中線より、瘂門、天柱、風池、完骨、安眠!
後頭下筋は後頭骨とC2椎体間の運動をつかさどる。項板状筋や頭半棘筋が後頭部のコリと痛みに関係するの対し、後頭下筋は知覚(-)で、運動線維のみに支配されている。従って項深部のコリと関係する。
後頭下筋の役割は、首以下の身体のブレを吸収することで頭位を安定させることとされている。この機能により我々は歩きながらでも前方の細かい情景をみることができる。もし後頭下筋の機能が不十分ならが、対象物に視点を定めることが難しくなり、容易に眼精疲労になるであろう。よって、眼精疲労時に上天柱へ深刺することとも合理性がある。
★身体のブレの吸収をつかさどっている後頭下筋の疲れをとることは、眼精疲労の予防にもなる!
②完骨(胆)刺鍼
取穴:乳様突起の後下縁、乳突起先端より後上縁に上ること約一横指の陥凹部。胸鎖乳突筋腱の後頭骨付着部。その深部に後頭下筋(大後頭直筋)がある。
手技:患者側臥位。2~3番鍼に直刺。骨膜に当たる直前の処まで刺入。鍼の深さは1.2~3.5cm。3~5分間、患者の呼吸に合わせながら補する(ゆっくりと鍼の抜き差しを繰り返す)と、治療中に深い睡眠状態になる。(宗台錫:一針で麻酔的催眠に卓効な完骨穴について:医道の日本 1975.10)
意義:上天柱は深刺して後頭下筋を刺激できるのに対し、完骨は容易に後頭下筋を刺激可能。
※この宗台錫氏の記事は、鍼麻酔報道以前に発表されたものであることから、鍼麻酔を予言するものとして注目を集めた。
★後頭下筋を刺激するには上天柱よりも完骨のほうが容易!
③頭部圧痛点への置鍼
ツボにはこだわらず、検者の指頭(指腹ではない)で、患者頭皮をゴシゴシとこすりつけるように探り、陥下を探る。陥下には骨のくぼみと限局性皮下浮腫があるが、後者が反応点であり、やや強く押圧する、患者は鍼で刺されたかのような強い痛みを感じる。圧痛点が即治療点となる。置鍼する。
★頭部圧痛点、即治療点!
④百会の灸
通常5~7壮実施。人によっては、まれに眠れなくこともある。筑波大の報告によれば、百会の灸により、脳波はβ波(覚醒状態)からα波(瞑想状態)に移行するという。
★百会の灸はα波が出やすくなる!
2)レム睡眠と身体疲労の鍼灸治療
①背部兪穴置鍼
就寝時に副交感神経優位になっていないと眠りにつけない。したがって交感神経緊張状態となっている身体の緊張緩和する方法として、背部兪穴置鍼(切皮置鍼が効果的だとする見解もある)に代表されるような、臥位にして行うリラクセーション目的の鍼治療が効果的である。
★寝つきを良くする背部兪穴!
ストレス筋群とは「攻撃が逃避か」の状況で動くことが必要になる筋群で、主なものとしては、僧帽筋、胸鎖乳突筋、咬筋、脊椎列の伸筋、棘下筋、大殿筋と中殿筋がある。咬筋が入っているのは、動物の主要な戦う手段として「噛みつき」があるからと考えられる。顎関節症とストレスとの関係を伺わせるものといえる。この中ではとくに僧帽筋(身構えるときに働く。要するに肩に力が入った状態)を治療することで、身体全体をリラックスさせることができるという。(C.CHAN GUNN 大村昭人訳「ハリ治療の西洋医学的手法」)
★不眠症はストレス筋群を緩めるべし!
😊ストレスやそれによって生じる肩や首のこりが不眠の要因となるため、鍼灸刺鍼部位として、肩首周辺の僧帽筋や棘下筋、胸鎖乳突筋、脊椎列の伸筋(夾脊穴、背部兪穴)には馴染みがあります。ストレスと顎関節痛は関係が深いことも知られています。しかし不眠治療に大殿筋や中殿筋への刺鍼というのはあまり行われません。とはいえ不眠に限らず大殿筋や中殿筋といった筋肉は、健康であるために、様々な理由から非常に重要な筋肉であり、臀部の筋肉への刺鍼も肩こり治療ひいては不眠治療に有意義であるといえるでしょう。できる得るならば、日頃からこれらの筋肉を鍛え、疲労が溜まりにくいようにしておけば、肩こりや不眠の悩みも半減するのでないかと思います。
ストレス筋群に対する臨床的な治療点としては、起立筋群緊張緩和目的に行う他、側頭筋(頭維、頷厭、懸顱、懸釐、太陽など)が使われる。
・頭維:側頭筋の上縁。額角髪際から入ること1寸。
頷厭、懸顱、懸釐は、頭維から、順に下方に向かい、1寸刻みに並んでいる側頭筋上の穴。すべて胆経。
・太陽:眉毛と外眼角の中央の高さで、外眼角の外方2cm。約1.5直刺。
★不眠に側頭部の緊張緩和が有効
6.不眠の日常的対処法
1)睡眠環境の整備
2)寝つきの悪さと対策
寝つきがわるいことを入眠障害という。眠る予定時刻の2時間前からは、明るすぎない照明にして、睡眠物質メラトニンの分泌を促す。(2時間ほどで充分な量にまで増え、眠くなる)。逆に寝覚めの悪い者は、起床時に強い光を十分浴びる。
★照明を味方につけるべし!
3)熟眠するためのの対策
①ACTH分泌増大
熟眠とはぐっすりこと。熟眠感を得るには、眠った後の最初のノンレム睡眠を深くすることが重要。疲労回復、細胞修復してくれる成長ホルモンは、ほとんどが1回目のノンレム睡眠中に分泌される。
ノンレム睡眠を深くするためには、ストレスホルモン(副腎皮質刺激ホルモンACTH)が必要である。ストレス物質そのものは、眠りを妨げるが、ストレスのない状態に変化すると、ストレス物質は分解されて睡眠薬様物質に変わる(多忙な仕事後や、深い悲しみの後はぐっすりと眠れる)。精神的ストレスを除けない場合は、運動ストレスを与えることで、精神的ストレスを軽減させることができる。これを眠る2時間前(まで)に行う。
ノンレム睡眠がとれないと眠りは浅く、病気にもかかりやすい。風邪をひきやすく、癌細胞の発生を抑制できなくなる。これは免疫細胞であるNK細胞がノンレム睡眠のときに最も活動が活発になるため。
★ノンレム睡眠がとれないと癌細胞の発生を抑制できない!
②脳深部温上昇
脳には体温が一定の高さまで上がると、それを脳が危険と判断し、活動を一旦停止して脳を休めようとする性質がある。その時に、大量の睡眠物質が放出されるので、眠りが深くなる。脳深部温と体温は一致(≒比例)するので、眠りたい時刻の2時間前に体温を1℃上げるような軽い運動を行ったり、入浴したりする。
上がった体温が下がるときに眠気を催すので、体温が低かったり、冷え性の人は寝つきが悪い傾向にある。
★不眠対策として、眠りたい時刻の2時間前、そして日頃ら定期的に運動するのがよい!
7.ベンゾジアゼピン系睡眠薬
現在よく使われているマイナートランキライザーで、睡眠誘導剤ともよぶ。
マイナートランキライザーは、γアミノ酪酸(ギャバ)が活性化され、つまり抑制系神経が活性化して眠くなる。製品名:セルシン、ベンザリン、ハルシオン
1)バスビツール系睡眠薬
精神病者の強度の不眠症用に使う。本薬は入眠は早く持続性もあるが、レム睡眠が短くなって本能の休息ができず、性欲・食欲・集団欲が正常でなくなる懸念がある(レム睡眠時は精神は活動している)。メジャートランキライザーで、本薬や脳内物質のドーパミンに影響を与える。製品名:フェノバール、バルピタールなど。現在ではほとんど使われていない。
〇三大脳内伝達物質
・ノルアドレナリン
ストレスに打ち勝つ
不足→無気力状態、低血圧
過剰→攻撃的、ヒステリー、高血圧、心悸亢進
・ドーパミン
喜び、快楽、意欲
不足→無関心、性機能低下、運動機能低下、パーキンソン病
過剰→自分を制御できなくなる、過食、アル中、統合失調症
・セロトニン
幸福感、気持ちの安定。ノルアドレナリンとドーパミンのバランス調整
不足→不安、混乱、イライラ、低血圧
★脳内三大物質、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン!
😊いわゆる特効穴とよばれるツボがあります。不眠においての特効穴は、失眠、安眠、百会など。眠れないことが諸問題の原因になっているのであれば、まずは眠る、とりあえず眠ることには大きな意味があり、そのためにこれら特効穴を有効に活用するのは有意義なこと。しかし李世珍氏によれば「眠れない理由(証)は一人一人皆違う。だから安易に特効穴に頼るのではなく、しっかりと証を立てて、そこにアプローチしていかなければならない」とのことです。弁証論治をベースに特効穴を用いるのがよさそうです。
第2項 発汗過多
汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗線があり、エクリン汗腺の機能亢進による過剰発汗を発汗過多という。発汗過多となる原疾患には、甲状腺機能亢進症、褐色脂肪細胞腫、更年期障害、低血糖などがあるが。ここでは機能性の発汗過多について記す。
※アポクリン汗腺:体の限られた部分にあり、特に脇の下に多く分布。アポクリン腺から出る汗はもともとはフェロモンの役割を果たしていたと考えられる。
※褐色脂肪細胞腫:アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミンの産生能を有する腫瘍。狭義では副腎髄質由来の腫瘍のこと。
★エクリン汗腺の機能亢進による過剰発汗を発汗過多という!
1.発汗の種類
汗をかくの要因には、温熱性、精神性、味覚性などがある。
1)温熱性発汗
暑いときや運動をしたときに、上昇した体温を下げるための汗。手のひらや足の裏を除く、全身から持続的に発汗する。暑い時の激しい運動によって、1時間に約2リットル発汗する。
身体の温度上昇を体温中枢が感知し、発汗命令を出す。すると体表面全体の発汗量を高めることで、気化熱を利用して体温を低下させる。これら全身の汗腺には、交感神経第8頚髄~第3腰髄の交感神経が関与している。交感神経遮断術後の代償性発汗はこの類。
※辛い物や香辛料が効いた物を食べたときに鼻や額などにかく汗を味覚性とするむきもある。
★全身の汗腺には、交感神経第8頚髄~第3腰髄の交感神経が関与!
2)精神性発汗
人前に出るなど緊張したときや驚いたときに出る汗。
汗が出る部位は手掌、足のうら、ワキの下など限られた部位で、短時間に発汗するのが特徴。
手掌・足底の発汗は体温調節とは無関係で、精神的に興奮に反応することによる。精神性発汗の中枢機構には大脳皮質の前運動野、大脳辺縁系、視床下部などが関与する。多汗症での、手掌からの発汗はこの類で、「手に汗握る」の好例。「冷や汗をかく」と表現されるのもこれに該当。
3)寝汗について
睡眠はノンレム睡眠から始まるが、とくに寝入りばなのノンレム睡眠時には体温や脳内温度を強く下げる作用がある。発汗は温度を下げる手段であって、視床下部の発汗中枢による命令である。厚い布団に入って寝れば、さらに発汗量も増える。
寝汗を多量にかくのは、脳内温度が高すぎる場合であり、夜遅くまで残業したなど、長時間の脳活動を強いた結果と考えられる。
室温が特に高いわけでもないのに、多く寝汗をかく(パジャマがぐっしょり濡れる、夜中に何度も目を覚ます)場合は自律神経の失調を考える。更年期障害の一症状として多い。
★ひどい寝汗は自律神経失調、更年期障害!
〇多汗症について
他の病気がないのに、汗の量が多いために日常の生活に支障をきたすものを多汗症とする。
具体的には、汗のために、テスト用紙などがぬれて破ける、鉛筆が滑る、握手ができない、脇汗のシミが気になるなど。診断基準は以下の通り。
①最初に症状がでるのが 25 歳以下
②左右対称に多汗がある
③寝ている間は汗で悩まない
④汗で困ることが1週間に1回以上
⑤家族で似た症状の人がいる
⑥汗のために日常の生活で困っている
以上の①~⑥の症状のうち2項目以上あてはまり、それが6ヶ月以上続く場合に多汗症と診断される。
★汗の量が多いために日常の生活に支障をきたすのが多汗症!
2.発汗過多の現代医学的治療
1)塩化アルミ外用薬
手部の発汗に対する対症療法として、塩化アルミ水溶液を、手掌~指など発汗部位に塗布する方法がある。塩化アルミは、汗管の細胞に作用して、この管を一定期間閉塞させる作用があるとのこと。就寝前に塗布して乾燥させ、翌朝に洗い流す。数日~1週間で効果が現れ、一度効果が現れると、7~10日間持続する。効果が途切れたら、再び塗布。
〇エロックゲル5%が日本初の原発性腋窩多汗症(わき汗)の治療に対する外用薬として、2020年9月に保険適用薬として承認された。
原発性腋窩多汗症は交感神経から出るアセチルコリンという物質がエクリン汗腺を刺激することで起こるが、エクロックゲル5%によって、アセチルコリンによる刺激を阻害し、汗の分泌を抑えることができるというもの。簡易(塗るだけ)で、副作用も少ないことから、多汗症治療の新たな選択肢の一つとして期待されている。
★多汗症治療のニューフェイスはエロックゲル!
2)胸部交感神経遮断術
発汗過多、とくに手掌の発汗を止める方法として、胸部交感神経遮断術が知られる。人間の身体は、第一に脳の加熱を防止するよう制御されている。マラソンなど激しい運動をしたときや夏の暑いときに、まず最初に顔や頭から汗が出るのはこのため。
胸部交感神経遮断術は全身麻酔で行なわれ、手術時間は1~2時間、1週間程度の入院が必要。上肢からの発汗をほぼ永久的になくなる。
胸部交感神経遮断術を行うと、代償性発汗が必発するが、交感神経遮断部位と代償性発汗は交感神経デルマトームに従う。高位の神経を遮断するほど代償性発汗は高度になる。
★胸部交感神経遮断術は代償性発汗が必発!
〇代償性疾患:今まで上肢から出ていた汗が別の部位から出てくること。
①T1~2交感神経の遮断:頭・顔面の汗は、第1~2胸部交感神経が支配。T2交感神経の遮断では、手掌や顔の汗が全く出なくなる。すると熱から脳を守るために視床下部からもっと汗を出すように命令出されるが、顔や頭から汗が出ないので、少しでも熱を発散するために背中や胸、大腿などから大量に発汗するようになる。これを代償性発汗とよぶ、T1交感神経を遮断すると、ホルネル徴候が起こる。
※ホルネル徴候:交感神経遠心路の障害によって生じる中等度縮瞳、眼瞼下垂(眼裂縮小)、眼球陥凹を三大兆候とする症候群。
②T3交感神経遮断:手掌の汗が完全に出なくなる一方、代償性発汗が多くなることがある。
③T4交感神経遮断:手掌の過剰発汗が停止し、代償性発汗の程度もわずか。腋窩の発汗(おもに第4~5胸部交感神経支配)にも有効。
★頭・顔面の汗は、第1~2胸部交感神経支配!
3.寝汗の鍼灸治療
1)視床下部の血流増加
視床下部の体温中枢は、自らの設定した体温と、現在の体温のズレを監視している。体温を下げるために発汗させたいのだが、頚肩のコリなどで視床下部に行く血流が減少すると、視床下部は正しくモニターできない可能性がある。
発熱時、鍼灸治療で、天柱や肩井を刺激して解熱させる意図はここにあるが、有効となるのは限定的である。
2)身体全体としての交感神経緊張の是正
発汗作用は、身体としては交感神経緊張状態で生ずる。発熱しているが発汗していない患者に対し、上背部や胸腹部に多数の速刺速抜をする方法がある。追試してみると、有効となる条件は限定的(悪寒はなく、暑苦しく感じる。つまり視床下部の設定温度が狂っているのではなく、発汗できない)だが有効であった。(似田先生)
★発熱しているが発汗しないものに、上背部や胸腹部に多数の速刺速抜が有効!
3)胸部交感神経遮断術からの着想
胸部交感神経遮断術は、近傍に胸膜があり、気胸事故を起こしやすいので、鍼灸では真似することは危険。しかし胸椎棘突起の直側にある棘筋に刺鍼することに危険性はない。胸椎の左右の際のところに、細い木の枝のように感じられる筋肉にコリをとることで寝汗の症状は出なくなるという。( 村上守氏のHP「マッサージ鍼灸の魅力」)
★胸椎夾脊穴刺鍼は寝汗に効果的!
😊寝汗を盗汗ともいいます。ひどい盗汗は、背後に重篤な病気が隠れているかもしれないので、要注意です。中医学で盗汗は陰虚の症状としています。陰虚とは体内において、心身の熱を下げる機能が弱くなって、相対的に陰分よりも陽分が増えている状態です。対処法としては、補陰の食べ物を摂ること、なるべく睡眠を充実させることです。陽分が増えているからといって、無理やり体を冷やすようなこと(水風呂に長時間入る、夜風に当たり過ぎるなど)は、生命力そのものを奪ってしまいますから、やってはいけません。
第2節 疲労倦怠および貧血
1.用語と概念
厳密には仕事をした後に生ずる疲れを疲労、仕事をする前から存在している疲れを倦怠と区別するが、日常的には同じような意味で用いられている。
疲労には身体的原因と精神的原因がある。身体的疲労は身体能力を維持するための筋肉の一時的な能力の低下。精神的疲労は長期の認知活動が原因となる認知能力の一時的低下。精神的疲労は傾眠(眠気)、無気力として現われる。
疲労には、多くの考えられる原因があり、多くの異なる状態を伴う。疲労は、痛み、発熱と並んで生体の3大危険信号であり、身体にとって生命と健康を維持する上で重要な信号のひとつ。病者における疲労(病的疲労)では、癌、糖尿病、慢性疲労症候群、多発性硬化症、貧血、甲状腺機能の異常、また薬の副作用によるものなどがあり、負荷の少ない状態でも慢性的な作業効率の低下や倦怠感を認めることもある。
倦怠には「普通に休息しても改善しない疲労」という意味もあり、持続性の疲労(=慢性疲労)と同じ概念になる。両者の中間に相当するのが過労。
ここでは、貧血、甲状腺機能の異常について記す。
※多発性硬化症:視力障害、感覚障害、運動麻痺などさまざまな神経症状の再発と寛解を繰り返す病気。詳細な原因は分かっていないが、何らかの免疫異常による中枢神経の障害と考えられている。厚生労働省指定難病。
★精神的疲労は傾眠(眠気)、無気力として現われる!
2.疲労・倦怠の主な原因
①貧血→後述
②甲状腺機能亢進症・低下症 ※甲状腺ホルモンは、基礎代謝に関係
③低血圧:めまい:たちくらみ
④薬の副作用:降圧剤、ジキタリス、アルコール症、睡眠薬中毒
★甲状腺ホルモンは基礎代謝に大きく関与!
3.貧血
貧血とは、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの量が少なくなった状態のこと。
ヘモグロビンは全身に酸素を運ぶ重要なはたらきをしているため、ヘモグロビンの量が少なくなると運べる酸素の量も少なくなって全身が酸欠状態となる。これにより、疲労・倦怠、立ちくらみ、頭痛などのさまざまな症状が現れる。
貧血は軽度な場合であっても重要所見で、いろいろな症状の原因となる。また貧血を治療することで症状が改善する場合がある。「貧血=全身の虚血」と考える。
貧血には鉄欠乏性貧血、悪性貧血、溶血性貧血、再生不良性貧血の4種があるが、溶血性貧血と再生不良性貧血は重篤疾患であり、貧血以外の症状も出現するので、鍼灸治療に来院することはまずない。
★鍼灸適応貧血は、鉄欠乏性貧血と悪性貧血!
1)鉄欠乏性貧血
原因:赤血球をつくる減量のヘム(鉄)の不足。貧血の95%はこの鉄欠乏性。
鉄の摂取量が少なくて鉄が足りないということは、現代の日本では考えにくい。多くは出血が原因。出血性は、再利用できる鉄が不足するので、鉄欠乏性貧血の形を呈する。出血の原因は若い女性は「月経」、中年以降では「消化管出血」が多い。
所見:小球性低色素性貧血、サジ状爪、鏡面舌(舌乳頭萎縮)
★貧血の95%は鉄欠乏性貧血!
2)悪性貧血(巨赤芽球貧血)
原因:ビタミンB12不足
葉酸、ビタミンB12の欠乏による。赤血球の親である赤芽球の合成に障害が生じ、赤芽球が巨大化し、赤血球がうまく作られないために起こる貧血。また、巨赤芽球性貧血のうち、胃壁から分泌される内因子(キャッスル内因子)の欠乏によりビタミンB12の吸収が低下することから起こる。
慢性萎縮性胃炎(胃炎膜萎縮)→キャッスル内因子分泌不足→VB12吸収障害
※ビタミンB12:細胞のDNA合成に関与。VB12不足時は細胞分裂が低下するので、大球性になる。
※キャッスル内因子:胃液中に分泌。VB12吸収に必要。
所見:大球性色素性貧血、萎縮性胃炎、ハンター舌炎、下肢のしびれ、深部知覚障害
※ハンター舌炎:舌表面の糸状乳頭が委縮して平滑になり、舌が赤くなる、食物がしみる、舌が乾燥する、舌の痛みなどの症状を呈する。
※深部知覚障害:
表在覚は触覚、圧覚、温痛覚など身体の表面に関するもの。
深部覚は関節覚、振動覚等があり、深部覚は関節の位置や筋肉の伸張具合など内部の状態を感じるもの。たとえば普通に立っていることもこれら感覚が重要となる。特に関節の位置や筋肉の伸張具合を感じる深部覚で、深部覚が障害されると、目をつぶったとたんにふらふらしたり倒れてしまったりする。
★悪性貧血の原因はビタミンB12不足!
3)再生不良貧血
血液をつくる骨髄の機能が低下し、赤血球が十分に作られなくなるために起こる貧血。
4)溶血性貧血
何らかの原因によって、産生された赤血球が通常の寿命(約120日)より早く壊れてしまうために起こる貧血。
★この2つは鍼灸単独治療は不適!
※チアノーゼと貧血の違い
チアノーゼは酸素と結合していないHb(還元ヘモグロビン)が5g/㎗以上に増加した場合に出現する。これは心疾患や肺疾患時のほかに多血症でも起こる。貧血とは、還元型・酸素型を問わず、ヘモグロビン値低下のことをいう。
貧血患者はチアノーゼになりにくい。というのは貧血者は、もともとヘモグロビン濃度が低いので、低酸素状態でも、酸素結合していない還元型ヘモグロビンの量が、チアノーゼとしてわかるほどの絶対量になりにくいため。
※還元型ヘモグロビン(Hb):酸素と結合していないヘモグロビン
※酸化ヘモグロビン(HbO2):酸素と結合したヘモグロビン
・中枢性チアノーゼ:呼吸機能の障害、生まれつきの心臓病、標高が高く酸素が少ない環境などによる
・末梢性チアノーゼ:低血糖、閉塞性動脈硬化、動脈瘤などによる
★チアノーゼと貧血、それぞれに適した治療をすべし!
4.鍼灸院における疲労の診察
「実地医家のための会」の統計による疲労倦怠の原因としては、風邪症候群60%、精神神経疾患30%、器質的疾患10%となっている。風邪症候群を別にすれば、器質的疾患の割合は少ない。疲れやすいことを主訴として鍼灸に来院する者は、次の3者が多い。
①基礎体力不足、老化現象
②精神疲労-生理的
-病的(鬱病、神経症)
③症候性(貧血、慢性汗炎、慢性腎炎、糖尿病など)
★鍼灸院に来る疲労は、体力不足、精神疲労、症候性!
5.疲労に対する鍼灸の考え方と治療→不眠の鍼灸治療参照
1)精神疲労の考え方
脳に疲労が溜まり、日常生活に支障が出たものを精神疲労とする。
持続性の疲労で、頭痛、不眠、苦悩などがあり、肉体的疲労がなく、十分な休息がとれている場合には、精神疲労を考慮する。睡眠欲は、食欲、性欲、集団欲と同じく、人間の本能の一つで、大脳辺縁系が支配している。この本能に干渉するのが大脳皮質である。大脳皮質が過剰興奮するならば、眠れない状態となる。
多くの患者は、頭部や項部への軽刺激の鍼で、リラクゼーション状態(α波出現)または、うたた寝レベルのノンレム睡眠になる。通常は10分ほど置鍼する。ノンレム睡眠は、大脳皮質の休息の役割があり、脳の深部温を強く下げる作用がある。
こうした場合、前述の「不眠症」項と同様、頭部や項部に対する鍼灸治療が有効。
★精神疲労の鍼灸治療は頭部や項部への刺鍼が有効!
2)身体疲労の考え方
日中活動時は交感神経緊張状態となるが、それが続くと身体疲労状態となる。この身体疲労を回復させるのがレム睡眠である。レム睡眠は、眠りについて90分ほど経過して初めて出現するので、治療室内でレム睡眠状態にすることは事実上不可能なので、治療は要所の筋が緩む→身体がリラックスするという機序を目指す。
※精神的ストレスが溜まると、背中の肝兪あたりの起立筋に強いコリを感ずることが多い。古典では肝兪を「怒りのツボ」捉えている。ただし生理学的にはストレスは胃の反射と考える。
★精神疲労は肝兪のコリとなって現れる!
😊肉体疲労と精神疲労の違いは睡眠。肉体疲労が溜まっているとすぐに眠たくなり、また眠りも深くなります。一方、精神疲労はうまく眠ることができません。つまりは、精神疲労蓄積時は、体を疲れさせることが一つの解決策となる可能性があります。
6.甲状腺機能低下症の鍼灸治療
甲状腺機能低下症とは、慢性的な甲状腺の炎症などにより甲状腺ホルモンの分泌量が減り、活動性が大きく低下するとともにむくみや全身のだるさなどが現れる病気。
甲状腺ホルモン分泌低下が原因なので、鍼灸では無理だろうと考えがちだが、施術してみると、効果絶大で、しかも速効性があることがわかる。その治療効果は、一言でいえば疲労倦怠感の大幅な減退である。
似田先生は、とくにどのツボを必須とするのではなく、全身とくに体幹背面の筋を緩めるような鍼灸(仰臥位で10~20本程度の置鍼10分間。その後の伏臥位でも10~20本程度の置鍼10分間、座位で肩井、天柱への単刺程度の治療)で、十分な効果が得られることが非常に多いとのこと。ただし治療効果はの持続時間は、多くは1~2日程度であるとも。
連日鍼灸治療をすることは時間的・経済的に困難なので、一時的に交感神経亢進状態をつくり出すため、熱いシャワーを短時間浴びるなどを併用したい。
ホルモン補充療法としてチラージン(甲状腺ホルモンであるサイロキシン)の服用は重要で、鍼灸治療はこれに取って代わるものではない。ただしホルモン補充療法を行えば検査データが改善されるものの、自覚症状が一気になくなるものではない(似田先生)。
★甲状腺機能低下症の主訴は疲労。鍼灸治療は疲労に効く!
第3節 不定愁訴症候群・神経症・更年期障害
第1項 不定愁訴症候群と中枢感作症候群
1.不定愁訴症候群
不定愁訴症候群とは、急を要さない症状が体のあちこちに出るが、検査上異常が認められにくい、つかみどころのない状態。もしくは「不安定で消長しやすい自覚症状を訴え、それに見合った所見の得られない病態」のこと。しかし実際には主訴が多数ある場合や、診断のつかない病態を含めて不定愁訴症候群としている。
多愁訴であるが、自律神経失調症も心因性もないタイプの多愁訴の一部は、近年線維筋痛症や慢性疲労症候群と診断されるようになった。不定愁訴症候群の分類はさまざまであって以下はその一例。
★多愁訴の一部は、近年線維筋痛症や慢性疲労症候群と診断される!
1)慢性的な交感神経緊張症
自律神経失調症という名称は、日本でも医学的な正式名称としては認められていない。しかし不定愁訴症候群の中には、慢性的な交感神経緊張によるタイプがあると考えられる。このタイプに対しては、星状神経節ブロック、交感神経を緩和させる薬物、理学療法や運動療法が有効である。安定剤などの向精神薬の安易な投与は問題である。
★不定愁訴症候群の中には、慢性的な交感神経緊張あり!
3)筋膜性疼痛症候群とトリガーポイント
筋膜性疼痛症候群とは、筋膜の異常が、原因となって痛みやしびれ、またはそれ以外の症状を引き起こす病気。
重い物を持つ、無理な姿勢等、繰り返し筋肉に負荷がかかるなどのことにより、筋膜が過負荷状態になり、それにより筋肉(筋膜)痛が生じる。通常数日程度で自己回復するが、筋肉のオーバーワークや寒冷にさらされるなど血行の悪い状態が続くと、短期間で自己回復できなくなる。この状態が筋膜性疼痛症候群とよばれるもの。
本症候群は、痛み以外にも様々な症候(四肢のしびれ感や冷え、消化器症状、めまい、耳鳴りなど)を生じさせる。これはトリガーポイントが原因で、慢性的な交感神経緊張や低下・身体の冷えを起こすこともある。逆に、交感神経緊張や冷えが、トリガーポイントを悪化させることも多い。さらに心理的な問題やライフスタイルなども悪化因子となっている。
例)間欠的な咽頭違和感の原因が、胸鎖乳突筋の筋筋膜性疼痛症候群(MPS)である場合がある。間欠的な胸部・腹部不快感がMPS由来のことも少なくない(心臓神経症、機能性胃腸症、過敏性腸症候群などと誤診されている場合がある)。
治療にあたっては、咽頭、胸鎖乳突筋の双方からアプローチ、さらに体全体を治療する。
★痛みの緩和(TPの治療)が症状緩和につながる!
2.線維筋痛症
1)症状
関節や筋肉、腱など全身の広い範囲に、3か月以上も激しい痛みが続く。「体の中で火薬が爆発するような痛み」「万力で締め付けられるような痛み」「キリで刺されたような痛み」「ガラスの破片が(体の中を)流れるような痛み」などと形容される。また疼痛以外に、様々な身体性の症状を伴なう。代表的なものとしては、抑鬱状態、過敏性腸症候群、口内炎、胃腸症、膀胱炎、シェーグレン症候群に似たドライアイ、ドライマウス、末梢神経炎と思わせる手足のしびれなどが挙げられる。とくに睡眠障害の現れることが多い。重症になると社会生活を送ることすらできなくなる。
線維筋痛症と診断がつくまで、平均4年を要している。男性よりも女性の方が5~7倍多い。原因不明で、血液検査、CT、MRIなどは正常。
脳における痛みの情報処理の過程に何かしらの障害が存在可能性も示唆されている。
★線維筋痛症と診断がつくまで、平均4年!
2)筋筋膜性疼痛症候群との相違
筋筋膜性疼痛症候群の場合、痛む場所の筋肉に索状硬結(筋短縮と関係する筋筋膜内のスジ状のしこり)がある。線維筋痛症では硬結はみられない。筋筋膜性疼痛症候群では圧痛点とトリガーポイントがあるのに対し、線維筋痛症では圧痛点のみである。
※トリガーポイントと圧痛点の違い
同じとするむきもあるが、同じではないと考えると、デルマトーム上に関連痛が出るのがトリガーポイント、単なる圧痛が圧痛点とする場合が多いよう。
★筋筋膜性疼痛症候群は、痛む場所の筋肉に索状硬結がある。線維筋痛症にはない!
3)線維筋痛症と慢性疼痛の違い
線維筋痛症も慢性疼痛も圧痛点は多数現れる。しかし線維筋痛症は、それ以外の症状として、次のような多彩な機能性神経身体障害を呈する。要するに線維筋痛症の方が苦痛怒が激しい。微熱、疲労感、発汗、動悸、息切れ、体重の変動、顎関節症、生理不順、間質性膀胱炎、蕁麻疹、湿疹、喘息等のアレルギー症状、手足の痺れ、震え、めまい、耳鳴り、筋力低下、脱力感、集中力や注意力の低下、物忘れ、レイノー現象、こわばり、過敏性腸症候群、頭痛。
ただし画像検査や、血液検査等の客観的な指標が存在せず、慢性疼痛に身体機能障害(不安、抑鬱、倦怠感等)が重なれば線維筋痛症と結論づけられる。誰しも疼痛が慢性化すれば、不安や抑鬱状態になる。であれば慢性疼痛で心が病むと、皆、線維筋痛症の診断に至ってしまうため、疾患概念そのものの存在を否定する医師や学術論文が多数存在しており、世界的にも診断が確立していないのが現状。
★線維筋痛症の概念そのものの存在を否定する医師もいる!
筋筋膜性疼痛症候群(MPS) 線維筋痛症(FM)
・診断基準:TPの存在 全身の圧痛
・関連痛 :高頻度 低頻度
・性別 :性差なし 女性が多い
・疲労 :通常は限局性 全身性
・疲労 :なし 半数以上にあり
・睡眠障害:疼痛による睡眠障害 不眠症。睡眠による回復なし
・交感神経:一部に緊張 半数以上にレイノー現象
・関連疾患:なし 顎関節症、慢性頭痛など多彩
★線維筋痛症は睡眠による回復がみられない!
4)重症度分類(西岡久寿樹氏ら)
線維筋痛症のステージⅠ、Ⅱの人は意外と多く、ヘルニアとか椎間板症に誤診されている。死に至る病気ではないが、痛みのため自殺する者もいる。患者の1/4は2年後に寛解したとの報告もある。しかし538年を7年間追跡したところ、機能的レベルは徐々に低下し、疼痛、疲労、睡眠障害、不安、抑鬱の程度は不変であったとの報告もある。一般に機能的予後は不良。
★線維筋痛症のステージⅠ・Ⅱは椎間板ヘルニアと誤診されることも多い!
ステージⅠ:痛みはあるが、日常生活に重大な影響を及ぼさない。
ステージⅡ:末端部にも痛みが広がり、不眠、不安、抑鬱があり、日常生活に障害。
ステージⅢ:激しい痛みが続き、軽い皮膚、髪などへの刺激でも激痛を生じる。自力での生活は困難
ステージⅣ:激痛で自力で体を動かせない。ほとんど寝たきり状態。
ステージⅤ:激痛で意識障害。目の乾燥、尿路感染、直腸障害などの全身症状が出て、日常生活は完全に不可能。
★線維筋痛症は日本での疫学はあまりなく(2012年)、欧米の報告が多い!
6)原因要素
①中枢感作症候群
「中枢過敏の結果、末梢の疼痛閾値が下がった状態」といわれる。痛みと感じない程度の刺激を皮膚に連続的に加えると、徐々に痛みを感じる。これは皮膚の感覚受容器から脊髄に送られる信号は増加していないのに、中枢が疼痛の感度を増大させる過剰反応である。
中枢感作症候群の代表疾患には線維筋痛症の他に、顎関節症・慢性疲労症候群・過敏性c腸症候群などが知られている。
※感作:繰り返される刺激によって、それに対しての反応が徐々に増大していくこと。
★中枢感作症候群の代表疾患の一つが線維筋痛症!
②ワインドアップ現象
末梢に繰り返し加えられる小さな刺激により、次第に痛みを強く感じる現象をワイン度アップ(巻き上げ)現象とよぶ。健常者でもこのワインドアップ現象は起こるが、顕著なワインドアップ状態を中枢感作とよび、全身の線維筋痛症として発症することも多い。
ワインドアップは、脊髄後細胞の異常による。末梢のC線維に反復性の短時間の刺激を加えた後に、二次ニューロン反応が徐々に増強し、そのため継続的な刺激に伴って、以前のものよりも強くなる(強く感じる)現象である。
★顕著なワインドアップを中枢感作とよぶ!
7)タイプ別分類と鍼灸治療方針
筋緊張亢進・筋付着部炎型・鬱症状型、身体性症状型の4つに分類する。この分類を前述の重症度分類を併用して病態分類をする。
①筋緊張亢進・筋付着部炎型
骨格筋の激しい痛みと緊張ということでこの2つは類似している。全体の35%と最も多い。筋肉の短縮が認められ、その中にトリガーポイントが存在していることが多い。トリガーポイント治療を積極的に取り入れることが効果的。
★筋緊張亢進・筋付着部炎型に対してはトリガーポイントを攻めよ!
②鬱症状・身体性症状型
痛みに対して不安が強いため、トリガーポイント治療で行う筋肉への触診や筋肉へ鍼を刺入するときに得られる響き感覚そのものが痛みを増強することが多い。このタイプと相性が悪いのはAγ線維の刺激で、相性が良いのはC線維の刺激である。Aγ線維の刺激となる<叩く・ぶつける・つねる>ではなく、<なでる・さする・こする>といったC線維刺激が理にかなっている。C線維の刺激はAγ線維伝達をマスクするため、痛みを抑える効果もある。
★線維筋痛症の治療はC線維を刺激(なでる・さする・こする)せよ!
8)西田皓一医師の鍼灸治療
鍼を刺す部位は、主に患者が苦痛に感じる部位(阿是穴)。手の太陽経筋(小腸経)、とくに肩甲骨周り、足の太陽経筋(膀胱経)、後頚部周辺を治療せよとのこと。この2経は精神的に侵されやすい経絡(筋)であるためというのがその理由。線維筋痛症で痛みが出やすいとされている部位は線維筋痛症特有のものではなく、状況に応じて、大椎、内関、四神聡、期門、太衝、陽陵泉、肩井、天突、照海、神闕などを用いる(西田皓一「東洋医学見聞録・下巻」医道の日本)
★精神的興奮・疲弊を念頭において治療すべし!
9)線維筋痛症に対する似田先生の印象
筋緊張亢進・筋付着部炎型で、触診して筋中に硬結を発見できれば、一般的な筋膜症候群のように筋膜に対して刺鍼できるが、残念ながら症状緩和につながらないことが多い。中には切皮痛が我慢できないほど痛みに過敏な者もいて、この場合鍼灸治療効果ができない。
刺鍼自体はできても押圧して筋コリが発見できない場合、刺鍼目標が分からないので、自信を持った治療ができない。治療自体では、パルス鍼治療が効果的だとする見解や、経絡治療は効果がないとする見解がある。
★切皮痛が我慢できないほどの者には鍼灸治療効果ができない!
10)大脳指向型咬合療法(翼突筋除痛療法)について
Wolfは線維筋痛症が、外側翼突筋のトリガーポイント活性より起こることを指摘した。
この考え方に基づき丸山剛郎歯科医師は、外側翼突筋から、中脳の痛み中枢を構成する三叉神経中脳路核や中脳中心灰白質へと送られている痛みの信号をブッロクする治療である大脳指向型咬合療法を考案した。
外側翼突筋→線維筋痛症→大脳指向型咬合療法
外側翼突筋からの痛みの入力が起こらない位置に下顎の位置を固定し、必要な場所の歯牙の形状を変える治療(たとえば患者が過去に歯冠治療をしている歯の歯冠をはずし、必要な形状に作成した歯冠をその上にかぶせるなど)をする。この歯冠によって、外側翼突筋からの痛み入力が起こらない位置に下顎の位置を固定する。
要約すると、歯牙の形状を変える(噛み合わせを適正にする)ことで、噛み合わせの悪さにより生じた外側翼突筋のトリガーポイントの活性を抑えることがでるということか?
※三叉神経中脳路核:筋肉もしくは骨の位置を感じる固有感覚に関わる中脳の神経核
※固有感覚:自分の身体の位置や動き、力の入れ具合を感じる感覚のこと。
例)卵を握るときはそっと握る。姿勢を保つなど。
★痛みの信号をブッロクする大脳指向型咬合療法は、線維筋痛症に光明をもたらすか!
11)慢性痛と認知行動療法
〇偏桃体と側坐核
どこかに痛い原因があると、痛みの信号が送られるが、その状態では恐怖とか不安とかの感情を同時に引き起こすことが多い。このような負の感情は偏桃体興奮による。一方、痛みの信号が脳に伝達された後、痛みを和らげる物質を放出するのが側坐核である。
側坐核の機能が低下すれば偏桃体興奮を鎮めることができないが、問題となるのは長く続く痛みの場合である。痛みが長く続くと、扁桃体自体が異常な興奮状態に陥ってしまい、痛みの信号が来なくなっているのに、興奮し続けてしまう。この時に、側坐核の機能が低下していると、痛み・恐怖・不安などの感情が持続してしまう。
側坐核を活性化させるには「報酬」が関係している。達成感を感じることでも、側坐核はそれを「報酬」と捉える。つまり「達成感」を積み重ねることで脳の側坐核は活性する。
★恐怖・不安→偏桃体興奮による。緩痛物質は放出するのは側坐核!
〇認知行動療法
主に精神疾患の治療に用いられる。現在生じている問題を具体的にし、考え方や行動などを少しずつ変えていくことで、問題の解決をめざすというもの。
慢性痛の患者は、以前は簡単にできていた日常の生活ができなくなることで、達成感を得にくくなっていることが少なくない。目標を立ててそれに向かって行動する。大きな目標を立て、それに向かって小さな目標を立てて行動していく。日常の小さな達成感を積み重ねること。「痛みがあってもこれだけできた!」と感じることが、側坐核をいわば元気にして痛みを抑えてくれる。この治療を認知行動療法とよぶ。
例1:歩行困難な人
家族で旅行に行きたい→少し遠い本屋さんまで旅行の本を買いに行く。
例2:肩腕が動かない人
習字を上手になりたい→1文字1文字上手に書けるように目標を立てる
例3:頚部痛の人
軽めのダンベルを持ち上げることを目標にして、そこから徐々に、重くしていった。軽いとところから始めて、できた!という体験を積み重ねる。
例4:腰痛と下肢全体の痛み
上記症状のため杖をつかないと、歩けない→趣味のスキーで滑る時間を、5分、10分と延ばしていった→今では、ほとんと杖を使わず歩けるようになった。
★達成感積み重ねて側坐核を元気にしよう!
3.慢性疲労症候群
1)概念
自律神経失調症というのは、いろいろな症状を訴えるが、検査をしても異常がみられないという場合に付ける診断名である。慢性疲労症候群は、簡単にいうと半年以上原因不明の、生活が著しく損なわれるような疲労が続いている状態なのだが、厚生労働省の決めた診断基準は以下の通り。
慢性疲労症候群の定義:
・6ヵ月以上、強い疲労感が続く。十分な疲労をとっても回復しない。
・検査により倦怠感を伴なう疾患を罹患していない。
・多くの者が、インフルエンザのような症状を伴ない、関節痛や筋肉痛、喉痛、頭痛がある。
★慢性疲労症候群は原因疾患が見当たらない!
2)薬物療法
決定的な治療法がない中で、抗鬱剤(パキシルなど)がよく用いられる。
最近ヘルペスウィルス治療薬のバルガンシクロビル(免疫抑制剤)を投与して25人中21人がかなり改善したとの報告があり、今後の展望に明るい兆しが見えてきたかもしれない。その他、漢方薬の補中益気湯、ビタミンC大量投与などが用いられる。またウィルス性疾患の発症後に起きた慢性疲労症候群に対して、海外では原因ウィルスの特定が積極的に行われる。日本の場合、本病罹患者の約3割がインフルエンザやヘルペスウィルスなどの感染をきっかけに発症している。
★慢性疲労症候群は原因も、症状も、治療法も多彩!
3)予後
約60%が再発を繰り返しながらも徐々に軽快し、20%が症状悪化または不変、20%程度が自然治癒する。本疾患が直接の死因となった例は知られていない。
★慢性疲労症候群では死なない!
4)除外疾患
甲状腺の機能異常、関節リウマチ、結核、鬱病、不安神経症、低髄液圧症候群
※低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症):
脳と脊髄の周りを満たす髄液が少なくなることにより、頭痛・めまい・首の痛み・耳鳴り・視力低下・全身倦怠感などのさまざまな症状が現れる病気。
これまで脳脊髄液は漏れることがないとされてきたが、ラジオアイソトープで診断できるようになって、脳脊髄液症が認知されるようになった。交通事故のむち打ち後遺症、慢性疲労症候群や線維筋痛症といった疾患とも関連があるということも示唆されている。
脳脊髄減少症の症状は極めて多彩で、頭痛が主訴の他、広汎な不定愁訴を呈する。
★低髄液圧症候群はラジオアイソトープで診断できるようになった!
5)鍼灸治療の考え方
慢性疲労症候群は、セリエのストレス学説の疲憊期(ひはいき)に似ている。漢方薬では補中益気湯が用いられ、一部の患者に有効である。しかしながら慢性疲労症候群に鍼灸治療が有効だったとの報告もあるが、一般的には効果を出すことは難しいと認識されている。
黄敬偉氏は慢性疲労症候群を、同時に多くの経筋や経脈が障害される「多経併病」であると述べている。(『経筋療法』中国中医薬出版社)
経筋病巣ができやすい経筋は、足太陽経、足少陽経、手太陽経などで、これらの経筋上に圧痛や異常反応が現れやすい。
★慢性疲労症候群の治療は難しいが、経筋病として治療にあたることができる!
〇セリエのストレス学説
①警告反応期(警告期)
急性疲労期。警告期には非常事態に対応するため、血糖値上昇・心拍数上昇・食欲低下・性欲低下などが出現。
a)ホルモン系:視床下部→下垂体→副腎皮質(副腎皮質ホルモン分泌 ↑)
②抵抗期(適応期9
警告期に生じた内部環境は、あくまでも緊急避難であり、身体には歪みが生じている。ストレスを回避したり、ストレスに順応した後は、この歪みを元に戻さねばならない。
適応できた場合 →健康状態に回復
適応でにない場合→第3段階である「疲憊期」に移行
③疲憊期
抵抗期異常にストレスが強すぎたり長期間にわたると、抵抗力が弱まり消耗してしまう時期。血圧や体温、血糖値が同時に下がり、副腎皮質の機能も低下する。副腎皮質ホルモンは免疫系を抑制するため、病気やケガが治りにくくなる。風邪をこじらせて大病に発展したり、心臓血管障害・腎臓病・喘息になりやすい。
★セリエのストレス学説は、警告期→抵抗期→疲憊期!
第2項 自律神経失調症
自律神経失調症とは、交感神経と副交感神経からなる自律神経のバランスが崩れることで起こるさまざまな症状を総称したもの。
1.白血球構成比からみる自律神経状態(安保徹「医療が病をつくる」岩波書店より)
白血球は免疫を担当する血球成分。単球(マクロファージ)、リンパ球、顆粒球(好中球、好塩基球、好酸球)のを含んだ総称的物質。
白血球のうち、顆粒球(実際にはその大半を占める好中球)は交感神経支配を受けて活性化し、リンパ球は副交感神経支配を受けて活性化する。安保徹氏は、2つの構成比を調べることで、自律神経バランスを判定できると主張している。
★交感神経優位なら顆粒球、副交感神経優位ならリンパ球が活性化する!
〇白血球百分率
顆粒球60% - 好中球95% :炎症時 ↑ 貪食作用
- 好塩基球5%:好塩基球 ↑はアレルギー反応 ↑を意味。
- 好酸球 5%:これを抑制するために好酸球 ↑となる。
リンパ球35%:好中球数と反比例 抗原抗体反応
単球5%:ウィルス感染症時 ↑
★好中球は炎症時 ↑、好塩基球はアレルギー反応 ↑!
正常 交感神経緊張 副交感神経緊張
顆粒球 60% 70% ↑ 45% ↓
リンパ球 35% 25% ↓ 50% ↑
★顆粒球60%、リンパ球35%が正常比率!
リンパ球比率41%以上が副交感神経緊張とする(来院患者の1割)
35~41% 正常レベル
30~34% 軽度交感神経緊張
20%台 中等度交感神経緊張
10%台 高度交感神経緊張
★リンパ球41%以上は副交感神経に傾き過ぎ!
〇自律神経の二重支配
交感神経系(アドレナリン) 副交感神経(アセチルコリン)
血圧 :上昇 下降
気道 :拡張 収縮
心拍 :促進 緩徐
胃 :弛緩
消化管:蠕動抑制 蠕動促進
顆粒球増多 リンパ球増多
※アドレナリン :交感神経が興奮状態になる時副腎髄質より分泌されるホルモン兼神経伝達物質
※アセチルコリン:副交感神経や運動神経の末端から放出され、神経刺激を伝える神経伝達物質
〇アドレナリンとノルアドレナリンの違い
ノルアドレナリンとアドレナリンの違いは、脳への精神的な作用の有無。ノルアドレナリンは、脳内で神経伝達物質として分泌されるため、恐怖や怒り、不安などの精神的な作用にかかわる。一方、アドレナリンは脳内ではほとんど分泌されず、また、副腎髄質で分泌されたアドレナリンは血液脳関門を通過することができないため、精神的な作用には関与しない。
★交感神経はアドレナリン、副交感神経はアセチルコリン!
2.交感神経緊張症
ストレス → 交感神経緊張 → 血流障害による諸症状
脈拍増加、高血圧、高血糖、痛み、コリ、不眠、いらいら、便秘、食欲不振、歯槽膿漏、痔疾、傷が化膿しやすい
3.副交感神経緊張症
身体を休める他、消化と排泄なども優位になる。この状態で免疫機能が高まるが、これが破綻するとアレルギー現象になる。副交感神経緊張症は全身的なものであるが、その人の体質的弱点へ特に強く症状を呈してくる。
※脳神経で副交感神経を含むのは、第3(動眼)、7(顔面)、9(舌咽)、10(迷走)神経。
★副交感神経優位で免疫が高まるが、過ぎればアレルギーとなる!
①動眼神経:めまい・立ちくらみ
②迷走神経:嘔気、胃の不快感、食欲不振、心臓衰弱感、遅脈
③気管支:喘息様症状、乾咳
④末梢血管や皮膚:蕁麻疹、皮膚の痒み
⑤情緒:元気が出ない、不眠、ため息、生あくび、物忘れ
古くから言われているのが、脳が酸素不足の状態に陥り、そのシグナルとしてあくびが出るという説。また、あくびによって口を大きく開くことで、脳に覚醒を促しているという医師や研究者もいる。
多くの場合、あくびが出るのは眠いとき。覚醒、つまりは目覚めを促すサインという説にも頷けるが、眠くもないのにあくびが出ることもある。眠気のないときに出るあくびは一般的に「生あくび」と呼ばれ、緊張しているときや、反対にボーッとしているときに出るという人が多い。リフレッシュ(脳への刺激)を求める生理現象と考えられている。
★あくびはリフレッシュを求める生理現象!
4.自律神経失調症の鍼灸治療方針
1)西条一止氏の考え方
西条一止氏は、自律神経と鍼灸の関係をライフワークとし、一定の生理学的変化を見出しすものの難解であり、この基礎理論を応用した治療効果も不明瞭といわざるを得ない(似田先生)。要するに臨床に使えるかも不明。以下、似田先生の解釈。
①副交感神経を興奮(優位に)させることが治療となる。その方法とは、浅刺・呼気時・坐位の刺激。浅刺・呼気時・坐位の刺激は、臨床では治療開始時と治療修了時の場面で行う。
浅刺 →刺激部は、皮膚・皮下組織。筋を刺激しないこと。
体幹よりも四肢抹消の方がよい。臨床的には外関を使用。
呼気時→副交感神経機能は、呼気時に高まる方向に、吸気時には低下する方向に働く。
坐位 →姿勢による交感神経機能は、臥位<坐位<立位の順に高くなる。
★多くの場合(特にストレス過多による病態において)、副交感神経を興奮させることが治療となる!
②副交感神経が興奮すると、それに引っぱられる形で交感神経も興奮してくる。
★(治療により)副交感神経が興奮したからといって、交感神経の活動が低下するわけではない、はず!
③しかし副交感神経緊張者の場合、副交感神経を緊張させることを意図した治療をしても、交感神経は興奮せず、副交感神経緊張になり過ぎるので注意が必要。
★副交感神経緊張になり過ぎるので注意が必要!
④交感神経を興奮させるには、長坐位にての低周波通電を行う。気管支喘息・咳・片頭痛・鬱症状などは、この方法が適している。
★交感神経を興奮させるには、長坐位(臥位ではなく)にての低周波通電!
2)全日本針灸学会東京地方会学術部の方法
A:交感神経優位に対して(副交感神経を優位にさせるため)の治療
伏臥位にて背部兪穴や夾脊穴置鍼
B:副交感神経優位に対して(交感神経を優位にさせるため)の治療
坐位にて単刺、鍼より灸
C:強刺激(瀉法)
D:弱刺激(補法)
★治療肢位に関しては、交を優位に→坐位、副を優位に→臥位ということで同じ!
A:伏臥位にて頚部から腰部にかけての背部兪穴に細鍼で置鍼
B:灸を中心とする治療。鍼治療では浅い鍼か坐位での単刺術
C:いわゆる実証に対する治療法である瀉法ないし強刺激の治療
D:浅い鍼、ゴマ大の少壮灸というように虚証に対する軽い補法
★副優位にするためには灸を使え!
以下は似田先生のアレンジ。
実際には、Aの手技またはBの手技で、C(強刺激)またはD(弱刺激)の刺激量を行うので次の4つの組み合わせができるが、使いづらい理論であろうとのこと。
①A-C型(交感神経優位→副交感神経優位を図る治療)
熱い風呂に、長時間我慢して浸かるイメージ強刺激(瀉法?)
伏臥位にて、太い鍼で背部兪穴に深刺置鍼→強壮者に対する止痛や強度のコリに対する治療。
②A-D型(交感神経優位→副交感神経優位を図る治療)
ぬるめの風呂に、ゆっくりと浸かるイメージ=リラクゼーション(交感神経緊張緩和)
伏臥位にて、細い鍼で、背部兪穴に浅刺置鍼→交感神経緊張(不眠、ストレス)の治療
③B-C型(副交感神経優位→交感神経優位を図る治療)
熱いシャワーをサッと短時間浴びるイメージ=リフレッシュ(交感神経緊張に誘導)
坐位にて太い鍼で、上背に部速刺速抜→副交感神経緊張症状の治療
④B-D型(副交感神経優位→交感神経優位を図る治療)
ぬるめのシャワーをサッと短時間浴びるイメージ弱刺激(補法?)
坐位にて細い鍼で、上背部に速刺速抜 →虚証(≒虚弱体質者)治療
Q.平均からすれば、Aは刺激過多、Dは刺激過少であるが、患者に合わせた(適した)刺激量ということ。多く用いられるのはBとCになるであろう。
★刺激法、刺激量は患者(体質、病態)によって決まる!
3)似田先生の考え方
筆者(似田先生)の日常行っている現代針灸を中心とし、その観点から西条先生の方法を眺めるならば、その方法も変化してくる。鍼灸来院患者で最も高頻度なのは、関節痛・神経痛・筋肉痛であろう。これらは一括して体制神経症状と捉えることができる。鍼灸治療は神経や筋肉を刺激する、いわゆる「現代鍼灸」的手法を行うとすれば、愁訴部位を中心とした解剖生理学的な要所に行うことで、解決できることが多い。これらの症状は自律神経的な要素があまりないので、西条先生の方法を使う必要はない。
★運動器疾患は愁訴部位への鍼灸が治療の中心!
①交感神経機能興奮の鍼灸治療
交感神経緊張傾向にある患者は非常に多い。現代に需要の多い按摩マッサージ指圧の得意分野は、ストレス・疲労の回復であって、これらは交感神経緊張に分類されるのであり、浅刺・呼気時・坐位の法則が成り立つ。経絡治療派であれば、西条流を取り入れることは、比較的抵抗が少ないかもしれない。
しかし多くの鍼灸師は、伝統的経験的に仰臥位・伏臥位での、浅刺・多種穴・置鍼を行うことで患者の需要に応えて生計を営んできた。これは患者にウトウトするような眠気を誘うもので、副交感神経の興奮レベルを上げること意図している。副交感神経を興奮させることにより、それと拮抗関係にある交感神経緊張を緩めるという考え方である。ただし新理論では交感神経興奮状態と釣り合う状態にまで副交感神経の興奮性を上げるというのが新解釈になる。
★?
②副交感神経機能興奮の鍼灸治療
交感神経緊張と比べると数は少ないが、副交感神経緊張状態の者(喘息、アトピー、鬱傾向)を治療する機会も時々あるだろう。これはよくいえばリラックス状態、悪くいえば気合が欠けている状態である。気管支喘息者は、夜間に呼吸困難発作が起こることが多く、起坐呼吸することで呼吸苦が軽減することが知られている。これは夜間は必然的に副交感神経優位になるため発作が起きやすく、坐位になることで交感神経優位に導き、症状軽減させているのである。深夜に鍼灸治療を行うことは困難なので、熱いシャワーを短時間、首肩に浴びると効果的である。治療院来院時では、交感神経優位にもっていくことを考え、坐位で大椎付近に強刺激(米粒大灸7壮程度の有痕灸や太鍼による刺激)を行う。
※起坐呼吸:横になると呼吸が苦しく、体を起こすと楽。心臓の機能が落ちた、心不全でよくみられるサイン
★夜間の喘息発作は短時間の熱いシャワーが効果的!
③自律神経失調症と鍼灸の守備範囲
器質的疾患の多くは、同時に自律神経失調的症状を呈することは珍しいことではない。この場合、器質的疾患を治療することで自律神経失調症状となっていた根本原因は取り除かれ、自ずと自律神経失調症状も改善する。
病の原因として自律神経の問題を過大視するわけにはいかないだろう。自律神経失調症に対して鍼灸が効くといった言い方は、「自律神経の整理的ブレ」から少々逸脱した状態にのみ対処できると捉えるべきであり、これが針灸の守備範囲なのであろう。
感染症は勿論、ステロイド使用している気管支喘息、アトピー性皮膚炎、鬱病などの根本原因を副交感神経緊張に求めることは無理があるので、鍼灸治療の適応疾患とはいいづらい(似田先生)。
★気管支喘息、アトピー性皮膚炎、鬱病などの根本原因を副交感神経緊張に求めることは無理がある!
😊自律神経の失調、もしくはそれに関連する症状の緩和に鍼灸が貢献することは、これまでの経験からもできると考えられており、そのような臨床例も多くあります。一方で、あまり(もしくは全く)効果を感じられなかったとするものもあります。とくに副交感神経過剰となっているものに対しては、鍼灸だけを行うのではなく、生活全般の見直しおよび改善が必要です。とくにいい意味で心身が活性化する、一時的に交感神経が緊張するような刺激(の長期的継続)、すなわち運動は必須であると考えます。
第3項 更年期障害(月経停止期=メノポーズ)
1.概念
更年期とは閉経の前後数年を含む45~53才くらいまで、生殖期(性成熟期)と非生殖期(老年期)の間の移行期のことで、卵巣機能が減退し始め、消失するまでの時期。また閉経前後の5年間、合計で10年間をいう。閉経の年齢は個人差が大きく、40歳代前半に迎える女性もいれば、50歳代後半になっても迎えない女性もいて更年期の年齢は個人差が大きい。
程度の差あるが、更年期女性の7割に更年期障害が出現するといわれている。更年期障害は、正式には更年期不定愁訴証拠群とよばれる。
★更年期障害は個人差が大きい!
2)病態生理
女性ホルモンが急激に低下すれば、強い更年期障害を生じる。女性ホルモンのゆっくりとした減少では、更年期障害の程度も軽い。年齢を問わず、卵巣全摘手術を受けた者は、急激に女性ホルモンが減少するので、強い更年期障害を生ずる。通常身体が女性ホルモン不足状態にも順応してくるにつれて、更年期症状は自然に治まっていく。
★更年期障害の程度は女性ホルモンの低下するスピードによるところが大きい!
1)ホルモン分泌不全
更年期の卵巣機能低下によりエストロゲン分泌が減少し、排卵がなくなる。
→下垂体前葉からの性腺刺激ホルモン(FSH)が増加し、卵巣からエストロゲン分泌するよう指令を出す→それでもエストロゲン血中濃度が上がらないので脳が混乱。
※エストロゲン:卵胞から分泌されるホルモン。乳房や生殖器の発達、子宮内膜の増殖、月経、妊娠だけでなく、皮膚や骨、内臓、筋肉、脳、血管など全身の働きに大きな影響を与えるホルモン。卵胞期(月経後、排卵前)に多く分泌される。
★更年期障害の主たる原因は、卵巣機能低下によるエストロゲンの減少!
2)自律神経失調と心因性(心身症)
卵巣ホルモンの減少が、自律神経に悪影響を及ぼして、初めて更年期障害が出るので、自律神経が強靭な更年期女性は、更年期障害が出にくい。
一方で、更年期障害の1割が心因性に起こり、精神症状が生じる。
★卵巣ホルモンの減少が、自律神経に悪影響を及ぼして、初めて更年期障害が出る!
・自律神経失調症:自律神経性更年期不定愁訴症候群(9割)
・心因性:心因性更年期不定愁訴症候群(1割)
★更年期障害の約1割が心因性、精神症状が生じる!
3.症状
1)エストロゲン分泌低下によるもの:骨粗鬆症、高脂血症
※エストロゲンには、コレステロール血管沈着防止剤作用と、骨芽細胞の増殖促進作用がある。
★エストロゲン分泌低下は、骨粗鬆症、高脂血症を引き起こす!
2)自律神経性
・血管運動神経症状(更年期特有):ほてり、のぼせ、顔面紅潮、発汗異常
・一般自律神経症状:不眠、疲労感、食欲不振、肩凝り、口内炎など
※ほてり:カーッと熱くなるような感じが1日に何度となく起こる。エストロゲン減少を感知した視床下部から黄体化ホルモンがパルス状に分泌され、発汗中枢を刺激するため。
※更年期口内炎の病態生理:女性ホルモン分泌低下→唾液分布減少して口腔内乾燥
→唾液中にある免疫物質が減少するので細菌増殖
★更年期障害のほてりは、エストロゲン分泌低下にともなう黄体化ホルモン分泌による!
3)心因性(=心身症)
精神症状:環境因子、心の空洞化(子供の親離れ、夫の多忙など)
更年期障害にともなう精神症状を更年期鬱とよぶことがある。過去に鬱病を経験したことがあると、更年期に再発しやすい。
★更年期は鬱症状がでることも!
4.現代医学的治療
1)ホルモン補充療法
更年期障害は、閉経を迎えた女性の「卵巣機能不全」によって生ずるが、本症の治療にはホルモン補充療法(不足するエストロゲンを中心にホルモン補充する)を行うこともある。ホルモン補充療法をすると、3~4週間でのぼせや発汗などが軽減し、3~4ヵ月でコレステロール上昇を抑制、半年~1年で骨代謝を改善する。
※補充療法とは
治療法には、原因療法と対症療法の中間に位置づけられるものとして補充療法がある。その代表は、本態性高血圧症に対する降圧剤や、糖尿病に対するインスリン注射など。治療自体には病気を治癒させる力はないが、継続することで正常域にコントロールできる。したがって長期間使用が普通となる。
★ホルモン補充療法は、病気を治癒させる力はないが、継続することで正常域にコントロールできる!
※ホルモン補充療法の副作用
エストロゲンの長期投与では、子宮内膜が厚くなる恐れが高くなるので、予防措置として子宮内膜を剥がす黄体ホルモンを併用する。ただしホルモン補充療法を10年以上続けると乳癌の発症率が高まる。
・エストロゲン →子宮内膜増殖
・プロゲステロン→エストロゲンによって増殖した子宮内膜維持→その後剥離
★10年以上のホルモン補充は乳癌の発症率が高まる!
2)有酸素運動
筋肉を動かすことで自律神経の調子を整え、またストレス発散に効果あり。ウォーキング・ジョギング・エアロビクスなどの有酸素運動が推奨される。無理なくできるのであれば、有酸素運動にプラスして、ウェイトトレーニングとストレッチが行うの理想的。
★運動で更年期障害がやわらぐ!
5.更年期障害の鍼灸治療
血管運動症状(のぼせ、ほてり、発汗など)にはホルモン療法がよく効くが、日本人が更年期症状で、つらいと訴えるのは、のぼせや発汗よりも、肩凝り・腰痛・頭痛・イライラ・冷え・めまいなどが多い。八重樫氏らはホルモン療法(HRT)施術中で、肩凝りを強く訴え、バッブ剤などが無効な患者の難治性肩凝り者に対して、筋弛緩薬と(治療の比較を行ったところ、鍼治療は筋弛緩剤よりも有効かつ安全であったと報告した(八重樫稔・他:更年期障害と針灸、産婦人科治療、1 9 8 8 : 7 6 : 8 0 2 – 0 7 )。一般自律神経失調症に対しては、ホルモン剤よりも、鍼灸や漢方薬のほうが有効性が高いようである。
★更年期障害とは更年期に起こる自律神経失調症。鍼灸が効果的!
1)交感神経緊張症に対する鍼灸治療 伏臥位にて背部兪穴などに置鍼。リラクゼーションを目的とした施術。
★更年期障害時、リラクゼーションは非常に大事!
2)副腎に働きかける治療
更年期障害は、卵巣から出る女性ホルモン分泌低下が原因であるが、これは自然の変化であって病的とはいえない。卵巣機能停止後の高齢女性では、エストロゲンおよびアンドロゲン(男性ホルモン)の産生は卵巣から副腎(第3の性腺)へと移行するので、腎虚証としての鍼灸治療を行うことが考えられる。
アンドロゲン:男性ホルモンの総称。男性では精巣、女性では卵巣で産生される。卵巣で産生されたアンドロゲンは女性ホルモンであるエストロゲンへ変換される。また、男女ともに副腎皮質でも産生される。
★更年期障害に補腎(益気)が有効!
3)のぼせ・ほてりに対する治療
のぼせ・ほてり、視床下部から放出される性腺刺激ホルモンそのものの症状である。鍼灸よりも、ホルモン補充療法の方が効果があると考えられている。ホットフラッシュに対する鍼灸治効メカニズムには、CGRP感受性(カルシトニン遺伝子関連ペプチド。37個のアミノ酸からなる。血管の拡張に関係し、血管の平滑筋細胞に作用して、血圧を下げる作用がある)や視床下部におけるIL- 8(=インターロイキン8。サイトカインで、白血球によって分泌され、細胞間コミュニケーションの機能を果たす)産生の抑制が想定されている。
血管拡張、細胞間コミュニケーションの低下→血圧低下・のぼせ・ほてり
※頑固な更年期障害は、甲状腺機能低下症を疑うべきである。本症であれば、甲状腺ホルモン、TSHの上昇、と甲状腺ホルモンであるサイロキシンT4の低下をみる。
※のぼせ・ほてり:エストロゲン減少を感知した視床下部から黄体化ホルモンがパルス状に分泌され、起こり発汗中枢を刺激するため
★のぼせ・ほてりには鍼灸よりもホルモン補充療法が効く!
第4項 神経症(ノイローゼ)
1.精神疾患の基本的分類
クルト・シュナイダー(1887~1967)は精神科世界の世界地図として次のような概念を示した。これは現在でも概念の整理に有用である。まず、以下の①を考えて次に②を考えて、そして③を考えて、どれでもなければ④を考える。神経症は、他の類似疾患を除外した後に初めて診察できるという意味では、診断は大変厄介である。
①器質疾患(=外因性精神病)
器質疾患とは、脳に明らかな障害がある場合。
例)アルツハイマー病、HIV脳症、脳外傷。
これは②~④で出現するような症状はすべて出現する可能性がある。
★神経症診断は、アルツハイマー病、HIV感染、脳外傷等々を除外!
②精神病
おもに統合失調症(旧名→精神分裂病)や非定型精神病のこと。妄想や幻聴など一般論理では了解不能な症状。「了解不能」という言葉がキーワード。本症は②~④の症状がすべて含まれる可能性がある。
※非定型精神病:定型精神病(統合失調症と躁鬱病)ではない精神病。統合失調症と躁鬱病の両者が混在しているようにみえる、そのいずれとも特定できない精神疾患の総称。
※了解不能:健康である者が共感することができない幻想や恐怖・不安など。
★了解不能があれば精神病とする!
③気分障害(躁鬱病)
気分の変動により日常生活に支障をきたす病気の総称。以前は「感情障害」とよばれていたが、喜怒哀楽といった感情よりも、もっと長期的で身体全体の調子という意味で「気分障害」にかわった。鬱病(=単極性鬱病)や双極性障害(=旧名は躁鬱病)などが含まれる。気分の波がきわめて大きく、日常生活にも支障をきたすが了解不可能ではない。そこが上記②との違い。これは④が含まれていてもよい。
★気分障害には鬱病や双極性障害などが含まれる!
④神経症
摂食障害や強迫性障害、人格障害などが含まれる。上記の③ほど気分の波が多くはない。これには①~③までの症状が含まれてはいけない。
※神経症という範疇の中に、発達障害・パーソナリティ障害・強迫性障害・パニック障害等々、いろいろなものが詰め込まれている。そしてここにいる人たちは、一昔前なら「病気ではない」と言われていた。このような人たちに、精神科はどんどん病名治療をつけていった。病名を付けることで投薬が可能となった。現在の精神医学が起こした錬金術によるものである。
★一昔前なら「病気ではない」とされたものが、現在では病気とされる!
1.神経症
ストレスを思うように処理できないサイン。非器質的疾患であり、心身両面に症状が出現。神経症は精神科外来の5~6割、内科外来の2~3割を占める。
「神経症」という名称は、「ノイローゼ」を日本語訳したもの。しかし、この名称では、「神経」そのものの器質的病変だと間違いやすいという点から、「不安障害」という名称に統一しようとする動きが現れた。ただし神経症との名称があまりにも普及しているため、「不安神経症」という折衷名称も誕生した。
★神経症は神経の器質的疾患ではない!
神経症は、一昔前までは、不安神経症・抑鬱神経症・強迫神経症・恐怖症・離人症・ヒステリー・心気神経症・神経衰弱などに細分化されてきた。しかし実際には、心因性なのか内因性なのかの客観的判別は難しい。そこでアメリカでは、現代の世界標準指針ともなっている精神医学会編「精神障害の診断と統計マニュアル」1980年に発表した第3版(DMS-Ⅲ)以降、原因論に基づく病気の分類をやめ、症状の現れに基づいて病気を分類し診断する方が合理的であるとする考え方に変化した。
この関係から、最近では「神経症」という単語さえ使わず、不安障害やパニック障害(旧名:不安神経症)、強迫性障害(旧名:強迫神経症)というように、〇〇障害とよぶようになったが、旧来の分類の方が慣れ親しんでいることもあり、実際には従来の名称が使われることも多い。
★最近では「神経症」ではなく、「〇〇障害」というようになっている!
〇旧名:神経症の概念
・ヒステリー:転換性障害、解離性健忘、解離性遁走
・不安神経症:全般性不安障害、パニック障害
・強迫神経症:強迫性障害
・恐怖症 :広場恐怖症、社会恐怖症、特定の恐怖
・離人神経症:離人性障害、解離性同一障害
・抑鬱神経症:大鬱病性障害、気分変調障害
・心気症 :心気症
2.代表的な神経症
1)不安障害(旧名:不安神経症)
①全般性不安障害
不安発作はないが、常に強い不安があり、日常生活が制限される。
②パニック障害
発作性に激しいパニック発作が出現する。パニック発作では、急性の呼吸困難や心悸亢進や窒息感やめまい感、手足にしびれ、発汗といった不安発作が起こる。非発作時は、まったく症状なし。不安発作の代理として身体の特定部分に集中した状態。かつては器官神経症(心臓神経症、咽頭神経症、過呼吸症候群など)とよばれた。
2)ヒステリー
※古典ギリシア語の「子宮」に由来する。以前に用いられた精神医学用語。現在では転換性障害、解離性障害とよばれる。身体症状、特に四肢の痙攣などで症状が出るものを転換性障害という。 ヒステリーというと女性ギャーギャーとわめき立てるというイメージがあるが、これはヒステリー的性格の特徴の一部で、ここでいう病気の「ヒステリー症」とは異なる。
★性格特性のヒステリーとヒステリー症とは異なる!
①転換性障害
心理的葛藤や欲求が阻止されたとき、主に身体症状に変えて(転換)、そこに逃避することで安定を図ろうとする、一種の防衛反応。身体には何の問題もないのに、随意運動機能や感覚機能に異常をきたす障害。歩けない、話せない、見えないなどの身体的症状として発生する「アルプスの少女ハイジ」のクララがこれ。
★心理的欲求が阻止されたとき、身体症状に転換するのが転換障害!
②解離性健忘症(記憶障害)
本来ひとつになっている人間の人格が緩み二つ(もしくはそれ以上)に分離する症状。多重人格、生活史健忘(自分が誰でどこに住んでいるか分からなくなる)、意識がもうろうとしたり健忘症(=記憶障害。自分にとって重要な情報が思い出せない)となったりする。
「多重人格症」も大別すると、このヒステリー症に入る。
★多重人格は解離性健忘症!
3)抑鬱神経症
主症状は抑鬱状態。悲痛な体験や過剰なストレス(死別、いじめ、仕事のノルマに対するプレッシャー、重病等)により発症。心配性の人、気配りが効く人、完璧主義者がこの病気になる傾向が高いといわれる。ストレスを発散できず、ストレスを蓄積していくことで発症の確率が高くなる。体験内容に比べて不相応に強く感じたり長時間続いたりする(例:子供が病死した母親)。日内変動がない(身体的症状があらわれた場合、日内変動がある)。自責感は軽い。
→R/O 内因性鬱病(自責感が強い。気分に日内変動がある)
★抑鬱神経症は体質+キッカケで発症する!
4)心気症:自分の健康状態に対して必要以上に心配し、不眠、めまい、肩凝り、頭重感、疲労感など、多彩な身体症状を執拗に訴える。どれだけ検査をしても病気が診断できない。別の問題に直面している際、それから目を背けようと意識を「重篤な病気」に向けることから発症することもある。
★心気症は、現実逃避かもしれない!
5)強迫性障害(旧名:強迫神経症)
強迫観念:自分でも馬鹿げているという考えが次々に頭に浮かぶ。疑感癖、恐怖症など。
強迫行為:ある行為をせずには居られない状態。家の鍵をかけたかどうか”を不安に思って繰り返し家に戻る。何度も手を洗うなど。
★様々な診断名が付けられる精神疾患でが、病前性格には特徴がある!
3.心身症
心身症とは、心理社会的ストレスが原因となって発症したり症状が悪化したりする体の病気の総称。神経症、うつ病などの精神疾患とは異なり、ストレスに応じて体に明らかな器質的または機能的異常が現れる病態。訴える身体症状の根底に、心理的因子が密接に関与しているものとされるが、病気になれば多少なりとも心理的要素が出てくるのがむしろ当然であって、非常に多くの疾患が心身症に相当している。
※「心身症」という診断について
心身症は独立した病名とは言い難い。自律神経失調症としての身体症状を起こした原因、患者のストレスに根ざしている場合をこうよぶ。したがって診断名としては「自律神経失調症」と表記する方がよいという見解もある。
★心身症は自律神経失調症と表記した方がよいとの見解もある!
4.神経症・心身症の鍼灸治療
鍼灸は種々の体性神経症状の改善に非常に効果があり、自律神経症状にも適応するが、心因性や精神症状にはあまり適応がない。一般的には次のように適否を判断する。
・自律神経失調症:身体症状を訴える-交感神経緊張症 :背部兪穴置鍼など
-副交感神経緊張症:坐位にて大椎強刺激など
・心身症:精神症状+身体症状を訴える→精神面を配慮すれば鍼灸適応
・神経症:精神症状を訴える→原則として鍼灸不適応
しかし、精神症状だけというケースは現実的なほとんどない(あり得ない)。
★現実的に、自律神経失調症、心身症、神経症は鍼灸を試みる価値はある!
神経症の鍼灸は、鍼灸で身体的苦痛を軽減させることで、まず身体から楽にし、そのことが精神症状に好影響を与えることを目標にする。すなわち心身一如の考え方による。
鍼灸治療は患者を魅了するプラス面をたくさん持っている。東洋的な神秘、時間かけて自分一人に治療してくれること、治療者とのふれあい、治療されているという実感などである。これらの特徴はプラシーボ効果を他の何よりも引き出す特徴である。(Edzard Ernest & Adrian White 山下仁ほか訳「鍼治療の科学的根拠」医道の日本社2001)
★鍼灸にはさまざまな良さがある!
上述の自律神経失調症(交感神経緊張症や副交感神経緊張症)と異なり、神経症要素が強い場合、前頭から頭頂部の頭皮圧痛点への置鍼、膻中への鍼灸、天柱深刺などを追加することが多い。
★神経症要素が強ければ、前頭・頭皮圧痛点、膻中、天柱に鍼灸すべし!
膻中(両乳頭間中央で胸骨上)の圧痛は、第4肋間神経興奮によるので、閾値以下の肋間神経興奮と考えてよいが、肋間神経過敏の原因として、東洋医学では「胸塞いで気鬱状態」として捉え、心臓疾患または神経症(とくに心臓神経の反応)として捉える。
※膻中:心包経の墓穴、気会穴
ただし膻中の圧痛を、胃十二指腸潰瘍の圧痛点として捉えたり、膻中~玉堂(第3肋間正中線上)あたりの圧痛を胆嚢の反応点とする者もある。これらを統合すると、胃や胆嚢の反応といっても、結局はこれらの臓器よりも閾値が低い、横隔膜の反応点とも考えられる。
★膻中の圧痛すなわち肋間神経過敏は、東洋医学では「胸塞いで気鬱状態」として捉える!
5.薬物療法の意義と現状
精神科の治療の基本は、休養、薬物療法そして再発の防止である。しかしこれだけでは解決できないケースは多くある。「適切な治療を行えば、通常3~6ヵ月程度で症状はなくなる。軽症の場合は仕事を続けながら薬物療法を行うこともある」といった内容が、精神科の教科書に書かれているが、通院しても一向に改善せず、その旨を医師に話すと、単に薬を増量したり別の強い薬に変えたりといった対応になりがちで、事実上薬物中毒状態にされ長期入院を余儀なくされる。精神科患者は増加の一途を辿るという問題が社会的に指摘批判されている。ただし鍼灸師としての心得なるが、服薬中止等の指導は、投薬した医師以外、口出しすべきではない。
★服薬に関しては医師とよく相談すること!
😊精神疾患発症の理由は一つに限定できないことも多くありますが、性格的素因にプラスして、発症の引き金となったであろう生活環境が挙げられます。病気の治癒、発症の予防にあたって最も重要なのは変えるべき環境を変えることではないかと思われます。しかし、いろいろな理由でそれが許されないケースが少なくありません。
精神科の薬は速効性がない。体内の脂に溶け込む性質をもっているので、効果を表すまでに最低2週間を要する。その一方で、薬を中止しても数ヵ月間、脂に溶け込んだ薬が血管に放出されて、薬でコントロールされた状態を保つので、自己判断で服薬を中止しても、しばらくは平静な状態が続くので、「もう治った」と考えがちになる。
しかし2~3ヵ月すると症状は再燃し、また精神科に通院せざるを得なくなる。再燃すると、それまでうまいっていた患者の社会的立場が破壊されることも少なくない。
★服薬に関して、医師に思いは伝えても、自身のみの判断は行うべきではない!
①睡眠導入剤
ベンゾジアピン系(ハルシオン、デパスなど)、非ベンゾジアゼピン系薬剤(マイスリー、アモバンなど)ともに、長期投与により、慢性的な過度の交感神経緊張状態に陥ることがあり、これがMPS(筋筋膜症症候群)の治療の妨げになる場合がある。
※非ベンゾジアゼピン系は、ベンゾジアゼピン系の副作用である筋弛緩やふらつきを軽減したもの。
②抗うつ剤
睡眠導入剤と同じく、長期投与により慢性的な過度の交感神経緊張状態に陥ることがある。
・三環系抗うつ薬:「トリプタノール」など。
歴史的に古いタイプの抗うつ薬。効果は強いが副作用も強い。肩こりなどの緊張が強く。神経質と自分ではあまり認識していない者に用いられる。
抗鬱薬は、開発された年代順に、古いものから「三環系→四環系→SSRI→SNRI→NaSSA」。新しく開発された薬ほど、脳内のターゲットにより選択的に作用し、治療効果が高く、副作用が少ない。しかしとされる。人によっては新しい薬より昔からの薬の方が良く効くという場合もある。
★抗鬱薬は、三環系→四環系→SSRI→SNRI→NaSSAの順で開発された!
・四環系抗鬱剤「テトラミド」など
三環係抗うつ剤の副作用を解決。そのぶん抗鬱剤としての効き目も少し弱くなり、それほど広く普及していないのが現状。神経症気質による不眠や熟眠感低下。神経質と自分で認識している者に用いられる。
★四環系抗鬱剤は、自ら神経質を認識している者に用いられる!
・SNRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬):「デブロメール」「ジェイゾロフト」
三環系の場合、セロトニンを増やす以外の余計な働きをしてしまう。本剤は選択的に、発生したセロトニンのみが脳の神経細胞にある「シナプス」という小さな穴に吸収、分解されてしまうのを防ぐ。それ以外の余計な働きをしないようになくなったおかげで副作用は軽減され、不整脈のような命にかかわるようなことはほとんどなくなった。今日で第一選択薬。おもに運動中枢や夢中なとき(交感神経緊張状態)に疼痛が減弱するタイプに適する。
抗鬱薬のうち、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は主にセロトニンだけを増強する。 一方、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)はセロトニンだけでなく、ノルアドレナリンも増やす。
・セロトニン :精神の安定
・ノルアドレナリン:交感神経を高め、やる気を起こす
★SSRIはセロトニンのみ、SNRIは+ノルアドレナリンも増やす!
③プレカバリン:「リリカ」など
本剤は海外で抗てんかん薬として承認。日本では神経障害疼痛、線維筋痛症で用いられる。
催眠作用がある。神経痛に強力な効果があるが、依存性に関する報告も増えてきている。
神経障害疼痛:神経自体が損傷(異常興奮)して起きる痛み。痛覚受容器への刺激ではなく、末梢または中枢神経系の損傷または機能障害によって発生する疼痛(痛み)。
★プレカバリン(リリカ)には依存性の報告も増えている!
第5項 小児疳の虫
1.胎毒と丹毒
乳幼児の頭部や顔面にみられる湿疹の古い俗称。現代医学的には一部の先天性梅毒(稀)によるものを除き、大部分は脂漏性湿疹や急性湿疹(胎毒)か、ブドウ球菌による膿痂性湿疹(丹毒)。母体の毒物により病気になった状態を、胎毒や丹毒によるとされた。
1)胎毒
本態:かつては胎児の間に蓄積した毒が、出生後の体内に残存することによるとされた。さらに戦国~江戸時代初期には、乳児~幼児期に起こる大半の病気の原因になると考える説もあった。
症状:脂漏性湿疹。新生児黄疸・高熱。拡大解釈されて頻繁な発熱、自律神経不安定(夜泣き、熱性けいれん=ひきつけ)
治療:かつては散気を目的として刺絡。
★胎毒は乳幼児の湿疹!
2)丹毒
本態は連鎖菌による膿痂疹(かさぶたをともなったただれ)。年齢、季節を問わずに生じ、黄褐色の厚い痂皮と周囲の発赤を特徴とする。昔は胎児の間に蓄積した毒が、出生後の皮膚に発現したものとされた。最近では乳幼児よりも高齢者に多くなった。俗名とびひ。飛び火するように、身体のあちこちに痂疹が出現し、他者に接触感染しやすい。「丹」とは赤の意味。
症状:悪寒発熱を伴なって、境界鮮明な浮腫性の紅斑が顔面や下肢皮膚に発生する。
治療:かつては刺絡したが現在では鍼灸禁忌。皮膚科で抗生物質が行われる。
★丹毒は連鎖菌による膿痂疹!
3)丹毒と散気(チリゲ)
丹毒とは、皮膚の表層に発生する皮膚の感染症(蜂窩織炎)の一種で、その多くはレンサ球菌によって引き起こされる。
チリゲとは中国医書に出所のないわが国特有の概念。丹毒の和俗名を散気(または塵気)とよんだ。チリゲとは、本来は丹毒という皮膚病の別称であり、後に小児疳の虫のことをいうようにもなり、さらには灸点を意味することにもなった。今日、チリゲというと小児疳の虫の治療で行う身柱穴の灸という意味にほぼ限定されている。
★丹毒は皮膚病のこと。チリゲはもともと丹毒の別称!
2.疳の虫
1)概念
疳の虫は民間用語であり漢方では「疳」という。疳の虫とは、夜泣き、かんしゃく、ひきつけなど、乳児の異常行動を指していう俗称。日本では乳児の異常行動は疳の虫によって起きていると信じられていた。
疳は肉食甘物を食べるものに因を発すると考えられ脾疳ともいう(五行で甘は脾を破る)。具体的には、成分に異変がある場合、または乳児に歯が生えた後も母乳を与え続けた場合によるとされる。
また「癇」の意味もある。これは痙攣を主症候とする病気をすべて包括する概念で、癇癪(かんしゃく)の癇である。おもちゃ売り場の床にひっくり返って大声で泣き叫ぶなど。
※乳幼児の離乳後(生後8~10ヵ月)に多い。子供に乳歯が生え始めるのは生後6ヵ月前後であり、2才頃までには生え揃う。歯が生えてきた後も母乳を与え続けることは、子供に疳が生ずるので好ましくないとされる。現代では、離乳は5ヵ月頃から始め、母乳を完全に離すのは生後8~10ヵ月までがよいとされている。
五行説では、甘により、脾(主に消化器系のこと)が破られるという。甘い物を摂り過ぎることで、他の味や、必要とされる栄養が不足すれば健康な心身は養われない。いわゆる「切れやすい子供」の背景には不十分な食生活が大きく関係しているといった指摘もある。
★大人も子供も食は命!
2)原因と症状
原因:神経性素因、騒がしい環境、栄養の不適切。ただしその主因は、精神と身体の急速な発育のために生ずるとされる。小児精神身体症に相当。
症状:不機嫌、夜泣き、不眠等の神経症状があり、顔面に一種の精神興奮状態を示す。
★疳の虫は身体的因子+環境因子で生ずる!
3)疳の虫封じ(まじない)について
小児鍼は、乳幼児の瘀血を刺絡するための鋒鍼(三陵鍼)が起源であるとされる。
日本において、江戸時代には存在し、明治から大正にかけて大阪を中心に普及した。しかし1883年に医師免許規則が公布されるに及んで、鍼師が皮膚を切開することは禁止され、1912年からは鍼灸業は免許制になったことで、医師以外は治療として刃物のような鍼は使えなくなった。
その頃、小児鍼の治効の現代医学的理論づけを行ったのが藤井秀二医師(大阪大学、1884~1981)で、鍼に関しての初の博士号を取得となった。藤井の実家で行っていた小児鍼は、これまでの小児鍼とは異なり、小児按摩のような刺さない鍼であり、今日行われているような軽刺激の小児鍼法にとって変わった。それまで小児はりだったものを「小児鍼」に定着させ、今日「小児鍼」といえば「強壮保健」のための「皮膚刺激」であるという基底概念としてたのも藤井氏である。
小児はりは昭和30年代の国民皆保険制度などで、一時的に人気が衰えたが、臀部への注射による大腿四頭筋短縮、薬剤による副作用などに対する現代医学への不信などにより、現代でも関西地方では多くの需要がある。
★小児鍼の普及には藤井秀二の功績が大!
〇小児鍼における資料が乏しい理由
日本独自の鍼法とされるのが、打鍼、管鍼、小児鍼。打鍼は天皇に召された御薗意斎(1557~1616)、管鍼は将軍に仕えた杉山和一(1610~1694)に不可分の関係にある。一方、小児鍼は地域の民衆の間に広まった鍼法であり、記録がほとんど残っていない。
★小児鍼は大阪の民衆の間で広まった!
2)藤井秀二の小児鍼の治効理論
藤井の小児鍼の治効理論とは、「小児は自律神経が成人に比べて変動しやすく、自律神経が不安定になりやすいことに注目。小児鍼の治効は、皮膚知覚刺激を介して交感神経の不安定を調整することにある」とした。(藤井秀二:「小児はり」について知られざれる事項、医道の日本、昭和50年1 月)
点への刺激よりも面への刺激を行うのは、内臓体壁反射理論的方法だと解釈できる。
★小児鍼の治効は、皮膚知覚刺激を介して交感神経の不安定を調整すること!
5.疳の虫の鍼灸治療
疳の虫に対する小児鍼は、小児のいわゆる健康増進の治療と同じであり、生後1ヵ月頃から5才頃までを中心に行われる。身柱や頭頂部を中心に全身的に行う。小児鍼だけで効果に乏しい場合には、ちりげの灸(身柱穴への灸で気を散らす)や細い豪鍼にて全身的に浅刺する。
小学生ではボディブラシ、乳幼児では歯ブラシを使用。以下の部位を3~5分以内で終わるように、軽くリズミカルにサッサッと擦る。施術部の発赤や発汗をもって適度とするとされるが、実際にはこれでは刺激量過多となりやすい。
〇施術部位
体前面:鎖骨下、胸骨中央、季肋部、臍周り、下腹部(少腹と臍下)、前脛部。
体後面:項部、肩部、脊柱起立筋の両側、腰部、大腿後面、下腿後面。
★疳の虫の小児鍼は、身柱、頭頂+ちりげの灸!
〇小児斜差(すじかい)の灸
男児は左肝兪と右脾兪、女児は右肝兪と左脾兪を用いる。糸状灸程の灸を年の数だけすえる(2才なら2壮)。疳の虫を治するとして有名。
★男児と女児で治療が同じではない!
6.トーマス式小児理論について
近年、トーマス・ウェルニッケ小児科医(ドイツ国際日本伝統医学協会会長)は、次のような見解を示した。胎児が生まれる際、狭い産道を身体が一回転して通過するため、頚椎に異常をきたし、特に上位頚椎周辺の際を走行する脳神経である迷走神経・舌咽神経・舌下神経・脳神経(これら4つの脳神経始点は延髄)への圧迫が、疳症状につながる。
したがって、頚椎周辺が固定化される(要するに生後3~5ヵ月)以前に、小児鍼を開始することが大切であると記した。
★生後3~5ヵ月に小児鍼を開始すべし。by トーマス・ウェルニッケ!
〇小児鍼師VS小児科医
当時(1931年・昭和6年、満州事変の頃)小児鍼だけでなく、墨つけの疳虫ふうじ等も行う施術所もあった。小児鍼の専門家の谷岡賢徳によれば、「『大阪は商人の街で、理屈より実益、名声より実利を重んじたようだ。何故に効くんだ !なんて事は、大阪人は気にしない。問題が解決すれば、どんな方法・手段でもよい』という気質ゆえ、術者も患者も、虫封じを抱き合わせたくらいでは全く動じなかったようである」と述べていたとのこと。
※「墨つけ疳の虫封じ」の方法は、手のひらに墨を付けた筆で「虫」という字を何度も書き、最後にぐるぐると円を描くように塗りつぶしながら、疳の虫退治の呪文を唱える。そして子どものおでこにフッと息を吹きかけ、洗面器に汲んでおいたぬるま湯で手のひらの墨を綺麗に洗い流す、というもの。現在でも東北地方などでは行われているそう。
このように信仰にも似た〈小児鍼〉の風習を快く思わなかった医師の一人、大阪府立医学校(大阪医科大学の前身)の附属病院・小児科医長の長浜宗佶氏は、古来の風習と西洋伝来の学理の間で育児に戸惑う母親のために、学理で風習を払拭する、ということで明治36年(1903)に『小児養育の心得』を刊行。
小児鍼は害あって益なしとの見解を示している。大阪の実情を踏まえ、医師・医学の立場から庶民に向けて冷静に行動するよう呼びかけている。長浜の立場からすれば「小児鍼」を迷信の一言で片付けるのは当然として、発言の裏を返せば、20 世紀初頭の大阪では地元の権威ある小児科医がどう説明しようとも、親が子に〈小児鍼〉を受療させる習慣を打ち砕くことはできなかったということである。
<小児鍼の起源について ―小児鍼師の誕生とその歴史的背景― 長野 仁、髙岡 裕
神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野ゲノム医療実践学部門>
★何故に効くんだ !なんて事は、大阪人は気にしない!
😊「疳の虫」という虫が本当にいるのか、いないのか?を科学的に証明することなど、多くの一般人にはできません。おまじないであっても、それが効くかもしれないのであれば、取り合えずやってみよう思うのは、親としての、極ふつうの、当たり前の感情です。科学で全てを証明する必要はないと思いますし、全てを証明できるわけがありません。
第4節 肥満
1.肥満症の概要
1)定義
①体脂肪率(体重に占める体脂肪の比率)が標準より30%以上増加した場合を肥満という(正常体重者の体脂肪率は18%とされる)。
②便法として標準体重の20%以上増加を肥満とする。
〇肥満症:肥満があり、それが原因で糖尿病や脂質異常症、痛風、睡眠時無呼吸症候群などのさまざまな健康障害が引き起こされた状態
★肥満と肥満症は同じではないが、肥満は肥満症を発症しやすい!
2)肥満の判定
①標準体重
a.ブローカの桂変法(かつらへんぽう):(身長−100)×0.9が標準体重。標準体重の20%以上を肥満と判定する。
b.BMI22法:22×身長(m)²の体重を標準とする。この体重が統計的に最も長寿。1989年日本肥満学会で提案され、1999年同学会でBMI指数25以上を肥満と定めた。
※BMI(Body Mass Index)とは体質量指数と和訳。
計算例)身長160cmの者の理想体重は、22×身長(1.6)²=56.3kg
53.6kgが理想体重とする。実際の体重は60kg
BMI指数は、体重/(身長)²=60/1.6²=23.4(普通と判定)
②肥満の判定(日本肥満学会 1999)
洋梨形 :皮下脂肪型。尻に肉がついている
リンゴ型:内臓脂肪型。腹に肉がついている
皮下脂肪型は内臓脂肪型に比べ、代謝との因果関係は少ない。
★リンゴ型は内臓脂肪型!
BMIは25以上か?
-✕非肥満
-〇肥満による健康障害があるか?
-〇肥満症
-✕ウェスト計測
男85cm以上 女90cm以上
-✕肥満
-〇腹部CT検査で内臓脂肪面積100平方cm以上か?
-✕皮下脂肪型肥満
-〇内臓型肥満「肥満症」
※「肥満症」が肥満症で、具体的には次の場合を指す。
①肥満による健康障害がある
②内蔵脂肪肥満型肥満
※BMI25以下でも内臓に脂肪が蓄積している「隠れ肥満」もある。
★内臓脂肪型肥満は病気を併発しやすいが、運動で落としやすいのも内臓脂肪!
3)肥満症の分類
・単純性肥満:体質的因子+過食+運動不足
摂取カロリー>消費カロリー
・続発性肥満-クッシング症候群、副腎皮質ホルモン投与時
-甲状腺機能低下症
-糖尿病初期。内臓脂肪は、インスリンの分泌を悪くするため。
※ただし完全に糖尿病になると糖が組織に入らないので、細胞は栄養不足となり、体重は減少する。
★単純性と続発性の鑑別を!
2.単純性肥満
現代人は肥満者(隠れ肥満を含む)の割合が多く、メタボリック症候群が増加している。これを避けるためダイエットが推奨される。ダイエットにはメタボック症候群(またメタボリック症候群から生じる疾病)を避けるだけでなく、老化速度を減速させ長寿をもたらす。ダイエットすると。身体がいわゆる「倹約モード」に入り、基礎代謝が低下する。そのため肥りやすくなるのだが、この倹約モードが若さを保ち長寿をもたらすと考えられている。
※低酸素状態では、酸化スピードが遅くなるので、やはり長寿になる。将来的に宇宙旅行をするには、宇宙船内部を低酸素状態に保つことが検討されている。
※ダイエット:もともとは「食事療法」を意味する言葉。現在は、痩せるために行う行為全般のこと指して使われる。
視床下部の接触中枢を養う血液の血糖値が一定化(100mg/㎗程度)に低下すると、空腹感が生じて食事をしたくなる。食事を摂ると、血液が食事中に含まれる糖分を吸収して脳に運び込み、満腹中枢を刺激して「満腹ですよ」という信号を出すと同時に、食欲が抑えられる。すなわち空腹感は血糖が上昇し、脳のエネルギーが確保されると解消する。人間は通常1日3回程度、このような循環を繰り返している。
一昔前単純性肥満は、摂取カロリー>消費カロリー状態なので、食事量を減らし身体運動を増やせばよいと単純に考えられていた。それができないのは、もっぱら本人の意志の弱さが原因だとした。しかし1990年代になった肥満と食欲の関係について、大きな進展があった。
★意志の力だけではどうにもならない!
1)レプチンとグレリン
①食欲抑制ホルモン「レプチン」
1994年に体脂肪から分泌され、食欲抑制作用のあるホルモンであるレプチンが発見された。一般に血中にレプチンを注入すると、視床下部の接触中枢がレプチンを感受して満腹感が得られるので食欲が抑制される。
しかし一部の肥満者では、視床下部でのレプチン受容体の感受性が低下しているのでレプチンを投与しても満腹感が得られず、食べ続けるようになる。その食欲は、血糖値が上昇しても抑制されない。
神経性食思不振者は、レプチンが過剰分泌しているので食欲が抑制されているが、ある一定以上に脂肪細胞が減少すると、いくら体脂肪がレプチンを多量に分泌して血中濃度が高くなっても、死亡を回避するため、視床下部のレプチン受容体がレプチンに反応しなくなるという状態(リバウンド時状態に)なる。この時は、体脂肪が一定上に増加するまで、いくら食べても満腹感がない状態となり、食欲増進状態が継続する。
※肥満の人がダイエットをして体脂肪が減少しても、レプチン抵抗性が改善されるだけで飢餓感は起こらない。痩せた人が体脂肪を減らす場合が問題で、飢餓感が生ずる。
★一部の肥満者では、レプチン(食欲抑制ホルモン)を投与しても満腹感が得られない!
②食欲増進ホルモン「グレリン」
グレリンは1999年に日本の研究者によって発見された成長ホルモン分泌促進因子(growth hormone-releasing peptide)の略称.
長時間食事を摂らないと低血糖状態になるが、それ以前に胃が空になるだけで空腹感が生じている。胃が空になると、胃壁から強力な食欲増進ホルモングレリンが分泌される。グレリン濃度と血糖値は関連がない。正常な身体のバランスの状態では、グレリンは肥満になると低下し、やせると上昇する。つまり体重を適正にするように調整が行われている。しかし太りやすい体質の人では、食後にもグレリンが低下せず、このことが太りやすい原因の一つだと考えられている。
ダイエットが順調にすすむと、ときに突然猛烈な食欲に襲われることがある。これは空になった胃壁からグレリンが大量に分泌された結果であり、ダイエット行う上で失敗原因になる。(グレリンは最強のホルモンで、分泌すると摂食せずにいられなくなる)
胃の中にある程度食べ物が入ると、速やかにグレリン分泌は減少にするので胃を膨らませるもの(例えば豆腐やこんにゃく)を食べ5分間ほど我慢することで、食欲が消退する。
★グレリンは肥満になると低下し、やせると上昇!
2)睡眠不足と肥満
睡眠不足ではグレリンの分泌は亢進し、食欲増進することが確かめられている。とくに1日睡眠5時間以内の者はとくに夕食後のお菓子や夜食などを摂ることが多いので体重増加を招きやすい。したがって肥満を防ぐ意味でも、1日8~9時間の睡眠が必要である。
睡眠不足をつくる原因の一つに天然の睡眠薬であるメラトニン不足があるので、就寝数時間前からメラトニン分泌を増やす落ち着いた環境形成が大切である。
★メラトニンを出して、グレリンの分泌過多を抑えよう!
3)夜食べると太る理由
これまで漠然と夜食べると太ることが知られていたが、その科学的根拠がわかってきた。1997年池田正明氏は遺伝子中にBMAL1(ビマールワン)を発見。BMAL1の生成量は人の概日リズムや自律神経の活動リズムと連動していて、昼間は量が少なく、夜間に多くなるという性質があり、日中は少ないが夜10時~深夜2時頃が増加のピークになる。つまり肥満防止のポイントは、この時間の食事を避けること。
BMAL1は脂肪細胞をつくる酵素を増やす働きがあるので、生成量が特に多い深夜は死亡を溜め込みやすい(太りやすい)時間であるといえる。
★夜10時~深夜2時頃がBMAL1(ビマールワン)増加のピーク!
〇睡眠不足・睡眠の質の悪化と生活習慣
メラトニン不足 → 睡眠不足 → 活動量低下 → 肥満
↓ ↓
交感神経活性化・コルチゾールの亢進 レプチン減少・グレリン増加
↓ ↓ ↓
高血圧 インスリン抵抗性 食欲増進・食事量増加
↓ ↓
糖尿病 肥満
★つまりは規則正しい生活が大変重要!
4)低炭水化物ダイエットについて
体重減少させるためには、食事療法と運動療法が二大柱。食事量を減らして運動量を増やせば痩せるのが当たり前である。しかし運動すると消費カロリーは減るが、それ以上に食欲は増加してしまう。これを守れるのはプロボクサーの減量時くらいなもので、、実際は実行困難場合が多い。要するにダイエットとしての重要性は9対1程度で、圧倒的に食事療法が重要になる。
ここではアメリカ人医師、ロバート・アトキンスが開発した低炭水化物ダイエット(=ローカーボダイエット)を説明する。アトキンスのダイエット手法は2003-2004年頃に北アメリカでブームになった。
★運動すると消費カロリーは減るが、それ以上に食欲は増加してしまう!
血糖値が上昇するとインスリン分泌を強いられる。インスリンは血中のブドウ糖を身体組織が取り込むための媒介として機能するが、インスリンは血液中のブドウ糖を体脂肪に変えてしまう働きもあるので、ダイエットにはインスリン分泌を増やさない食事が必要になる。
★ダイエットにはインスリン分泌を増やさない食事が必要!
①低炭水化物、中脂肪、高タンパク質食が重要
インスリン増加は炭水化物摂取の結果である。その一方で、脂質やタンパク質はインスリン分泌は増やさない(かつては低脂肪食がダイエットに適しているとされた)。
脂肪摂取量の多さが肥満につながるわけではない。高タンパク質食もインスリン分泌を増やさず、しかも基礎代謝を高め、ダイエット中の筋肉量低下を抑制することもあり推奨される。痩せるための食生活は、高タンパク・中脂肪・低炭水化物が適切。炭水化物は、摂取カロリーの5%程度にするのがよい。キノコ、サラダ、ツナ缶、豆腐、納豆、ひじき、こんにゃく、スープ、しらたき、ゼリーなどを「お腹が空いたら食べてよい食材」と位置づけるとよいとのこと。
★脂肪摂取量の多さが肥満につながるわけではない!
②糖新生(炭水化物以外の栄養素からブドウ糖を製造する=ケトン体ダイエット)
炭水化物を摂取しないと血糖値が上がらないので、空腹信号も出せなくなる(空腹信号は上がっていた血糖値が下がるときに出るため)。このような食生活を続けていると、3日目くらいから空腹感がまったくなくなる(らしい)。一方、身体はエネルギーを必要としているから、肝臓に蓄えられているアミノ酸からブドウ糖を合成して脳のエネルギー源とするようになる。なお、このような炭水化物以外の栄養素からブドウ糖を製造することを糖新生という。
アミノ酸から生成できるブドウ糖だけでは脳のエネルギー源を100%補給することはできず、体は緊急非常処置として、アミノ酸から生成したブドウ糖を利用する糖代謝から、中性脂肪を分解する際に副産物として生成されるケトン体を利用する脂質代謝経路へ切り替える。この状態をケトーシスとよぶ。この回路では体脂肪が効率よく燃焼する。
★ケトーシスとは、中性脂肪を分解する際に副産物として生成されるケトン体を利用する脂質代謝経路!
③ケトーシスとケトアシドーシスの違い
ケトン体は酸性物質であるが、ケトン体量が増えても血中の炭酸イオンの働きにより、血液のPHが大きく変動するのを抑制しているので、身体に悪いわけではない。
ケトアシドーシスも血中のケトン体の量が上昇した状態だが、上記の炭酸イオンの働きを超えてしまったために、血液が酸性になった状態。ケトアシドーシスは糖尿病などの病気が合併したときに生じ、意識消失や死に至ることもある。
★ケトアシドーシスはケトン体の量が上昇し過ぎて血液が酸性になった状態!
血中のケトン体濃度が上がり、ケトン体を体外へ排出するため、多量の水を必要とするので、脱水を避けるために1日2ℓは水分補給しなければならない。この時期には、ケトン体の甘酸っぱい匂い(いわゆるダイエット臭)がするようになることがある。
※体がケトン体を利用し始めたら脳の活動能力が一気に低下し、基礎代謝も大幅低下を招き、体力、抵抗力、思考力、そして食欲自体も低下するので空腹感なしに減量される。
※長い人類の歴史の中で、炭水化物を直接摂取するようになった歴史はせいぜい数千年であり、現在の野生動物がそうであるように肉食が中心だった。一昔前までイヌイットは生肉を食べていた。すなわち糖新生をエネルギー源としていた。
※ケトン体ダイエットのデメリットは、体臭がきつくなる、食べられるものが少なくなる、(一過性に)集中力がなくなる、お金がかかる等
分解されると さらに分解
糖質 → グリコーゲン → ブドウ糖
タンパク質 → アミノ酸 → ブドウ糖
脂質 → グリセロール → ブドウ糖
脂質 → 脂肪酸 → ケトン体(ブドウ糖の代役)
★ケトン体ダイエットはお金がかかる!
3.メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群 直訳では代謝症候群)
メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満に高血圧・高血糖・高脂血症のうち2つ以上を合併した状態で、これまでインスリン抵抗性症候群、「死の四重奏」などと称されてきた病態である。それぞれ単独でもリスクを高める要因であるが、メタボリックシンドロームの定義を満たすと相乗的に動脈硬化性疾患の発生頻度が高まる。とくに内臓脂肪の蓄積(ウェストが男性85cm以上、女性90cm以上)が問題とされる。
蓄積された内臓脂肪は様々な内分泌因子を分泌し、なかでもアディポネクチン、レプチンなどの産生異常が代謝異常を引き起こし、動脈硬化などにつながるとされている。
肥満の合併症を診察する上では、糖および脂質代謝の検討が非常にじゅうようである。
①耐糖機能低下:インスリン感受性が低下し、インスリン分泌亢進している者が大部分。
②脂質代謝異常:コレステロールと中性脂肪が増加。HDLコレステロールは減少。
上記の異常や、高血圧・高尿酸血症は、いずれも減量によって改善される場合が多い。
日本の中年男性の半分近くがこの症候群またはその予備軍に該当する。
※2007年4月25日、日本動脈学会は「高脂血症」の呼称を、「脂質異常症」と変更した。脂質異常症の診断基準は、LDLコレステロール140mg以上、HDLコレステロール40mg未満、中性脂肪150mg以上である。従来あった総コレステロール値220mg以上の数値は診断基準から外された。
★内臓脂肪は様々な内分泌因子を分泌し動脈硬化につながる、とされる!
※コレステロールは体に必要で、食事から摂れないと肝臓などで余計に合成するので、コレステロール値と食事は無関係(厚労省も発表している)。血中コレステロールの7~8割は肝臓でつくられる。コレステロールは脂質の一種で、細胞膜やホルモン、胆汁の原料にもなる。
※元来、中性脂肪は私たちが元気に活動するための「エネルギー源」となる脂肪のことで、本来は悪者ではない。しかし食生活の乱れや運動不足で、身体のエネルギーが消費されないと。余分な中性脂肪が蓄積される。余剰の中性脂肪は血中に漏れ出して動脈硬化→動脈閉塞→心筋梗塞→脳梗塞を起こす要因になる。
4.鍼灸院における肥満の鑑別
・月経異常-あり:ステロイド内服-あり:クッシング症候群
-なし:婦人科手術、閉経
-なし-口渇、頻尿:糖尿病
-脱毛、冷え:甲状腺機能低下症
-過食:単純性肥満、過食症、糖尿病予備軍
★肥満に対して鍼灸ができることは、ダイエット時の体調管理!
😊インスリンを増やすことが肥満につながる。であるならば、インスリンを分泌させなければいい、と糖質制限が推奨される。理論的にはその通りですが、日本人の一人当たりの炭水化物の消費量は、パンやうどん、パスタなどの小麦が、年間29.0kg(1965年度)から31.7kg(2020年度)へと3kgとやや増。米は、117.4kgから50.7kgに60kg以上減少。つまり日本人の炭水化物の消費量は大きく減っていますが、糖尿病の発生率は戦後激増しています。これをどう解釈すべきでしょう?ケーキ、チョコレート類は曝上がり。個人的には米を食べない食事は考えられません。
☯東洋医学からみた精神疾患(鬱証)
鬱には、流れが悪い、塞がるといった意味がある。東洋医学では、情志(人の内面に生じるこころの動き)憂鬱により、気機(気の動き)が鬱滞して起こる病症のことを鬱証とよび、情緒不安定、怒りっぽい、よく泣く、不眠といった精神症状だけでなく、喉の梗塞感(ヒステリー球)、胸脇苦満など身体身体症状が現れる。さらには、他の臓腑に波及すれば多彩な症候を呈す。また、痛みに対して敏感になるなど、もともとあった症状がひどくなるもある。
主な原因は、七情(過ぎた感情、怒・喜・思・憂・悲・恐・驚の七つが基本)である。明代(1368年~1644年)頃から、鬱証は、気鬱、血鬱、痰鬱、湿鬱、食鬱に分類されたが、基礎にあるのは気鬱である。
〇実証
実証の鬱証は肝との関りが深い。治療は、肝気の流れをよくし、鬱を解消することを中心(疏肝理気)とする。また気の鬱滞を悪化させる痰や湿、瘀血といったものの存在を考慮する必要がある。
〇虚証
実証から始まった病も、時が経てば虚へと転じていく。これは鬱証も例外ではない。例えば肝火上炎やそこから生じた心肝火旺は実証であるが、いずれ心神不寧となれば補の治療をしなければならない。また脾や腎、状況に応じて肺への施術も必要である。
★実証から始まった病も、時が経てば虚へと転じていく!