鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか?「顔面症状をやわらげるために」編

はじめに

 鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。

筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化。これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。

 解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。

 鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代医学針灸』」という科目に対しての理解をより深めることを目的のひとつとしています。非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。

※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。

脳と脳神経の整理

●脳からは、脳神経12対が出ます。

終脳→①嗅神経 間脳→②視神経 中脳→③動眼神経・滑車神経④ 橋→⑤三叉神経・⑥外転神経・⑦顔面神経・内耳神経 延髄→⑨舌咽神経・迷走神経・⑪副神経・⑫舌下神経

●①臭(知覚性)、②視(知覚性)、③動眼(運動性・副交感性)、④滑車(運動性)、⑤三叉(知覚性・運動性)、⑥外転、⑦顔面(副交感性・運動)、⑧内耳(知覚性)、⑨舌咽(運動性・副交感性)、⑩迷走(運動性・知覚性)、⑪副(運動性、⑫舌下(運動性)

顔面症状

顔面症状とは、顔面部に起こる症状の総称で、痛みと運動麻痺、顔面痙攣があります。顔面痛には、三叉神経、舌咽神経、顔面神経膝状神経節の障害、帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛、ラムゼイハント症候群、顎関節症、脳腫瘍、トロサ・ハント症候群、非定型顔面痛などがあります。

〇顔面痛

①三叉神経

②舌咽神経

③顔面神経膝状神経節の障害(ラムゼイハント症候群)

④帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛

⑤群発性頭痛と片頭痛

⑥顎関節症

⑦脳腫瘍

⑧トロサ・ハント症候群

⑨非定型顔面痛

〇顔面麻痺

〇顔面痙攣

顔面神経麻痺とは、突然に発症する表情筋麻痺で、顔面神経核より中枢で傷害されたもの(核上性)、核またはその末梢で障害されたもの(核性、核上性))とに大別されます。顔面麻痺を起こす疾患は多岐にわたりますが、ほとんどが末梢性です。その60~70%がベル麻痺、10~15%がハント症候群です。

・顔面麻痺きたすもの

①特発性 ②感染性 ③外傷性 ④腫瘍性 ⑤中耳炎 ⑥先天性 ⑦代謝疾患 ⑧全身疾患など

第1節 三叉神経痛

1)三叉神経痛

 三叉神経痛は、腫瘍や炎症が原因となる症候性と原因が明らかでない特発性(本態性)に分けられます。

・症候性:腫瘍、炎症

・特発性:原因不明

顔面神経といえば三叉神経痛が代表的ですが、舌咽神経、顔面神経膝状神経節(ラムゼイハント症候群)も顔面痛を起こします。血管性要因としては群発性頭痛、片頭痛(血管拡張型頭痛)があります。

2)舌咽神経痛

 発症頻度は三叉神経つの1/100程度の稀な疾患で、血管が舌咽神経を圧迫して神経痛を生じます。嚥下時に、咽頭部や口腔に、発作性の電撃様疼痛が起こります。扁桃炎時の咽痛は舌咽神経痛によるものです。

 上咽頭知覚→三叉神経第2枝支配(鼻~上顎痛)

 中咽頭知覚→舌咽神経(舌根~咽痛)扁桃炎時の痛み

 下咽頭知覚→迷走神経の枝である上喉頭痛神経支配(舌骨~喉痛)

★扁桃炎時の咽痛は舌咽神経痛によるもの!嚥下痛があれば舌咽神経痛、なければ膝神経痛(ラムゼイハント症候群)!

3)顔面神経の膝状神経痛(ラムゼイハント症候群)

 ラムゼイハント症候群

 顔面神経の大部分は運動性ですが、膝神経節部には知覚があります。顔面神経膝神経は、外耳道と耳介中央部を知覚支配します。顔面神経の膝神経節が帯状疱疹ウィルスで傷害を受けた後、耳介~外耳道痛を発症します。疱疹が耳介や外耳道に認められ、末梢性顔面神経麻痺や聴神経障害を合併すれば鑑別は容易となります。

※舌咽神経痛と膝神経痛の鑑別:嚥下痛があれば舌咽神経痛。なければ膝神経痛。

※中耳と鼓膜の知覚は、舌咽神経の枝の鼓室神経支配。内耳は知覚支配なし(痛むことはない)。

★耳介中心の痛み+末梢性顔面神経麻痺+聴神経障害=ラムゼイハント症候群は耳介中心の痛み(膝神経節痛)!

4)群発性頭痛と片頭痛

 どちらも動脈血管伸張痛。これらは「頭痛」に分類されますが、群発性頭痛(頭蓋内血管痛)はこめかみや片眼の痛みの激痛です。片頭痛(頭蓋外血管痛)も同部の痛みを訴えるのことがあるので鑑別を要します。

※「頭痛」頁参照

5)帯状疱疹後神経痛

 三叉神経第1枝領域に(眼窩上部)に好発します。皮疹が確認されれば診断は容易ですが、疱疹消退後にヘルペスウィルスによって破壊された神経領域に持続性の痛み(灼熱痛)を発症します。

★帯状疱疹後神経痛は眼窩上部の痛み(三叉神経第1枝痛

6)顎関節症

 開口や咀嚼運動により側頭部や下顎部を中心に持続性の鈍痛を訴えます。また、顎関節の運動に伴いクリック音と咬筋や側頭筋の緊張が認められます。

7)脳腫瘍

 脳腫瘍による場合、頭痛も重要な所見となります(頭痛の頁参照)。頭蓋内圧の変化に伴い頭部および顔面部の痛み、運動、咳などで憎悪します。進行するものでは嘔気、嘔吐、その他神経症状を伴ない、鑑別診断にはCT、MRIを必要とします。

8)トロサ・ハント症候群

 良性の肉芽種が海面静脈洞や上眼窩裂に生じ、同部を走行する第3~5脳神経(動眼、滑車、外転)、内頚動脈周囲の交感神経を傷害し、片側の眼窩部痛と複視を主症状とする疾患です。ステロイドによる治療となります。

9)非定型性顔面痛

 20~40才代の女性に多く、痛みの特徴は深在性。三叉神経領域とは関連せず広範囲に疼くような痛みが出現。自律神経症状を伴います。原因不明。交感神経の過緊張症状を訴える場合が多い。心気傾向、ヒステリー、抑うつ傾向を示す。消炎鎮痛剤は無効。抗うつ剤が有効なケースが多い。

★鎮痛剤は無効、抗うつ剤が有効となるケースが多い!

1.三叉神経の解剖

 三叉神経は脳神経のひとつ(第5脳神経)で、橋から出た後、こめかみ部で三叉神経節を形成し、眼神経、上顎神経、下顎神経の3枝に分かれ、顔の皮膚および粘膜の知覚と咀嚼筋・顎舌骨筋・顎二腹筋前腹などの運動を支配しています。

①眼(角膜)部→第1枝 ②鼻梁部→第1枝 ③上唇と上歯部→第2枝 ④下唇と下歯部→第3枝 ⑤舌前2/3の味覚と口腔粘膜の知覚→第1枝

★三叉神経は、顔の皮膚および粘膜の知覚と咀嚼筋・顎舌骨筋・顎二腹筋前腹などの運動を支配!

 体表からアプローチできる神経は眼神経の枝である眼窩上神経、滑車上神経、上顎神経の枝である眼窩下神経、下顎神経の枝であるオトガイ神経です。

★体表からアプローチできるのは、

眼神経の枝である眼窩上神経、滑車上神経、

上顎神経の枝である眼窩下神経、

下顎神経の枝であるオトガイ神経!

2.三叉神経の顔面部走行と圧痛好発部

 三叉神経は眼神経、上顎神経、下顎神経の3つの枝に分かれます。

1)三叉神経第1枝の神経走行と治療点

 魚腰、陽白、晴明、攅竹、太陽

 上眼窩裂から眼窩に入り、前頭・上眼瞼・鼻根・鼻梁を知覚支配

 ◎印は、神経が通過する骨孔

 半月神経節→◎上眼窩裂→前頭神経→滑車上神経(攅竹)→前額~頭頂部へ分布

                 →◎眼窩上切痕(陽白)→前額~頭頂部へ分布

                   眼窩上切痕(魚腰)

①眼窩上神経ブロック点=魚腰

 眼窩切痕部。眉毛の上縁端で、正中から2.5~3cm外方で眉中。

②※陽白

 木下晴都の傍神経刺。陽白(胆経。眉毛中央の上1cm)の外方1cmに刺入点を定め、内下方横刺し、眉に達するまで前頭部の筋線維に、鍼が交差する方向に刺入。内部で3~4回旋捻して留める。前頭部の緊張を緩和します。

③睛明

 内眼角の内方1分やや上方。内直筋に刺入。深部に上眼窩裂がある。上眼窩裂からは三叉神経第1枝が出る。(他に動眼・外転・滑車神経が出る)

④攅竹:眉毛内端の陥凹部

⑤太陽:眉毛の外端と外眼角との中央から後1寸の陥凹部

2)三叉神経第2枝の神経走行と治療点

四白・客主人・下関・迎香

 正円孔を通り、頬上部、鼻翼、上唇を支配

 半月神経節→◎正円孔→眼窩下神経→眼窩下孔(四白)

           →◎上歯槽膿漏孔→上歯槽神経→上歯槽へ分布

⑥眼窩下神経ブロック点(=四白)

位置:三叉神経第2枝(上顎神経)は、正円孔を出た後、上歯槽神経となって上歯槽膿孔に入り、骨トンネルを貫通して眼窩下孔(=四白)から頭蓋骨の表面に出る。眼窩下孔は眼窩下孔は眼窩の下縁中央から下1cmの部。

刺鍼:四白から同側の外眼角に剝けて3cm程刺入すると、眼窩下孔から上歯槽孔を貫通して下眼窩裂にまで刺入できる。上歯槽神経は上歯に知覚枝を出しているので、こうした刺鍼をすると上歯に響くこともある。ただし四白斜刺深刺が上歯痛に効果があるわけではない。

⑦客主人(柳谷素霊、下歯痛の一本鍼)

 主に上歯痛時に用いる柳谷素霊の方法。下顎骨関節突起の後縁から前方へ3cm、頬骨弓下縁の下1cmに刺入点を定める。2寸鍼を用い、頬部の皮膚に30°の角度で外眼角に向け、4cm刺入。側頭筋に入る。内部で3~4回旋捻して留める。

 側頭筋のトリガーが活性化すると上歯~上奥歯に痛みが放散することが知られている。すなわち客主人からの頬骨下に刺入する用途は、側頭筋緊張による放散性歯痛に適応があると思われる。

⑧下関:頬骨弓の下際陥凹部

⑨迎香:鼻溝の外5分、鼻唇溝中

3)三叉神経第3枝の神経走行

オトガイ点・裏頬車・頬車・地倉

卵円孔を通り、耳介側頭神経、咀嚼筋枝、舌神経、下歯槽神経などの枝を出す。

半月神経節→◎卵円孔→咀嚼筋枝:側頭筋、咬筋、外側・内側翼突筋を運動支配

          →耳介側頭神経:舌咽神経の枝の鼓室神経(外耳道、鼓膜、顎関節知覚)と交通

          →舌神経:顔面神経分枝の鼓室神経(舌前2/3の味覚)と交通 

          →舌歯槽神経→◎下顎管、◎おとがい孔→おとがい神経(下唇の知覚)

                →◎下顎管、◎おとがい孔→下肢髄・歯齦知覚

⑩オトガイ(頤)神経ブロック点

位置:口角の下方で、下顎骨の縦幅の中点。該当正穴なし。

斜刺:45°下方(顎方向)に向けて45°の角度で斜刺すると、オトガイ孔を貫通できる。おとがい神経の上流にあたる下歯槽神経は下歯に知覚枝を送っているが、オトガイ孔に刺鍼しても下歯痛への効果はあまりない。

⑪裏頬車(柳谷素霊、下歯痛の一本鍼)

 側臥位で、歯にタオルを噛ませる。下顎角の内縁に触知するゴリゴリした筋肉様(内側翼突筋)と骨の間を刺入点とする。2寸で下顎骨内縁から刺入鍼が口角に向かうように刺入。鍼響を下歯に得る、とある。下歯槽神経刺激。裏頬車の下方で下歯槽神経は、下顎管中に入るので、頬車の代用として裏大迎の使用はできない。裏頬車刺鍼は、内側翼突筋刺鍼になっている。内側翼突筋緊張による放散性の下歯痛に対して有効という意味と考えられる。

⑫頬車:耳垂下端と下顎角の間の陥凹部

⑬地倉:口角の外4分

<まとめ>

〇第1枝

①魚越(眼窩上神経)(奇穴):正中線から2.5~3cm外方で眉中。内下方横刺

②陽白(眼窩上神経)(胆):内下方横刺

③晴明:(眼神経)(膀胱):上記参照

④攅竹(滑車上神経)(膀胱):眉毛の内端

⑤太陽:眉毛の外端と外眼角との中央から後1寸の陥凹部

〇第2枝

⑥四白(眼窩下神経)(胃):眼窩下神経ブロック点

⑦客主人(耳介側頭神経)(胆):上記参照

⑧下関:頬骨弓の下際陥凹部おとがい神経ブロック点

〇第3枝

⑨迎香:鼻溝の外5分、鼻唇溝中

⑩オトガイ(頤)神経ブロック点:口角の下方で、下顎骨の縦幅の中点

⑪裏頬車(下顎神経・大耳介神経)(胃):下顎角の内縁

⑫頬車:耳垂下端と下顎角の間の陥凹部

⑬地倉:口角の外4分

3.真性(特発性)三叉神経痛

1)原因

 特発性三叉神経痛は、かつて40~50歳代の女性に多く診られる原因不明の神経痛とされていました。しかし今日では三叉神経痛の9割が橋付近の血管による三叉神経圧迫があることが明らかになっています。なお特発性三叉神経痛と思われた1割で脳腫瘍が発見されています。

★三叉神経痛の9割が橋付近の血管による三叉神経の圧迫!

2)症状

 痛みは顔の右か左のどちらか一方に起こります。痛みの部位は、上顎部・下顎部・鼻翼外方に出ることが多く鼻や口唇の廻りなどを触ることにより、激痛が生じます。寒風に当たる、会話、髭剃り、刺激物の摂取などでも痛みが誘発されます。これをパトリックの発痛帯とよびます。夜間睡眠時はこれらの発痛帯に刺激が加わらないので痛みの発作は起こりません。トリガーポイントと違うのは非常に軽微な刺激でも発作が誘発されます。刺鍼が発作を誘発することもあり得るので、鍼治療は慎重を要します。今日では鎮痛効果のある治療薬が開発されているので、鍼治療はあまり用いられません。

★今日では鎮痛効果の治療薬が開発されている!

※ワレーの圧痛点との違い

 ワレーの圧痛点は、走行神経上の過敏点。とくに神経が深い処から浅い処にに現れた部に生ずる圧痛点で、攅竹、四白、オトガイ点など。三叉神経で、は絲竹空、魚腰、晴明、迎香、オトガイ点など。

どちらでもあって圧痛点は治療点となります。

第1枝:魚腰(奇穴)・晴明(膀胱)・陽白(胆)・攅竹(膀胱)・太陽(奇穴)

第2枝:四白(胃)・下関(胃)・迎香(大腸)・絲竹空(三焦)

第3枝:頬車(胃)・オトガイ点・地倉(胃)・大迎(胃)

3)真性三叉神経痛の現代医学治療

①「微小血管減圧術」手術

 三叉神経痛の約9割以上が脳幹出口部における三叉神経の「神経血管圧迫」であり、これに対しては、脳外科的に神経を圧迫している血管を神経から離し、圧迫を解除。有効率100%とのことですが、再発もあります。

※真性三叉神経痛と顔面痙攣の手術療法は、神経に動脈拍動刺激を与えている動脈走行位置をずらし固定するという点で共通しています。

★手術は脳幹出口部における三叉神経の神経血管圧迫を除去!

②薬物療法

 抗痙攣薬カルマバゼピン(商品名:テグレトール)が第一選択。多くの症例に効果があるが、服用の中止によって再び疼痛が生じることがあります。本剤は本来は抗てんかん薬で、てんかん発作の痙攣を抑制しますが鎮痛効果はありません。しかし、この中枢神経興奮抑制効果を利用して三叉神経痛など一部の末梢神経痙攣痛に対し、痛み発症以前の痙攣を抑制する目的で処方されます。元々痛みが発症する前に使われるので、痛みのあるなしは関係ないということです。

 近年ではリリカ(プレガバリン)が使われるようになっています。リリカは末梢神経障害性疼痛の治療薬であり、三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛に適応があります。従来の鎮痛剤であるロキソニンやボルダレンは無効。

★多用される薬はカルママゼピンとリリカ!

4.仮性三叉神経痛(=症候性三叉神経痛)

 1)「仮性」の意味

 一昔前の三叉神経痛の分類では、真性三叉神経痛のことを本態性三叉神経痛、仮性三叉神経痛のことを症候性三叉神経痛と呼んでいました。しかし真性三叉神経痛の原因がほぼ解明された一方、症候性には、ハント症候群・齲歯(虫歯)・鼻腔炎などがあるものの、原疾患が分からないものも多く、これらは仮性三叉神経痛と総称されます。

 現代医療では、とりあえず「三叉神経痛ということで対応しておきましょう」といった対応が8割を占め、これが仮性三叉神経痛とされています。

 今日では原因不明のものの大部分は、顔面の筋膜症と考えられています。

★原疾患がわからない顔面痛を仮性三叉神経痛とよぶ!

5.仮性三叉神経痛関連の鍼灸治療症例

1)原因不明の右頬下~右側頭部~鼻翼部の陳久性鈍痛の症例(72才、女性)

 十数年来の非特異的な顔面痛。症状は三叉神経第3枝~第2枝支配領域。医院にかかるも特別な処置はないといわれた。対照的に症状部に対し、2寸中国鍼で仰臥位で約15本、右側臥位で15本、伏臥位で15本それぞれ5分づつ置鍼。最初週2回の通院を要していたものが、後に2週に1回の施術で痛みが緩和した。

2)顎関節症Ⅰ型の鍼灸治療

 Ⅰ型顎関節症とは、顎関節周囲筋緊張による症状で、咬筋や外側翼突筋過緊張によるものが多い。咬筋緊張に対しては頬車・大迎の緊張部に刺鍼し、外側翼突筋に対しては下関直刺が有効となる場合が多い。

・頬車(胃):耳介下端と下顎角の間の陥凹部

・大迎(胃):下顎角の前1寸3部の陥凹部。動脈拍動部(顔面動脈)

・下関(胃):頬骨弓中央の下際陥凹部

★Ⅰ型顎関節症は、咬筋や外側翼突筋過緊張!

3)耳介側頭神経興奮による耳鳴り・難聴および耳痛の鍼灸治療

 三叉神経第3枝の分枝である耳介側頭神経は、側頭部皮膚知覚支配だけでなく、外耳道知覚、鼓膜知覚、顎関節知覚にも関与しています。このことにより顎関節症により二次的に外耳道や鼓膜症状の出現が示唆されます。似田先生によれば、鍼灸臨床上、顎関節症の治療治癒により、難聴の改善に至ることがあるとのこと。

★三叉神経第3枝(耳介側頭神経)は、側頭部皮膚知覚、外耳道知覚、鼓膜知覚、顎関節知覚にも関与!

 耳介~外耳道の神経痛は三叉神経痛第3枝痛ですが、3枝の分枝の耳介側頭神経によるもので、これを「神経性耳痛」とよびます。現代医療では、この治療に耳介側頭神経ブロックを行うことがあり、この方法は鍼灸でも応用できます。それには和髎(手少陽三焦経。耳珠前方で、頬骨弓上端の上際。ここに浅側頭動脈の拍動を触れ、同動脈に伴走して耳介側頭神経が走る部)、または和髎の上方1寸から、側頭部に響かせるよう斜刺。

★耳介~外耳道の神経痛は和髎(もしくは和髎の上1寸)から斜刺!

4)舌痛症の鍼灸治療

 舌神経を刺激します。それには裏頬車~裏大迎に刺鍼し、内側翼突筋を緩めるような刺鍼を行います。または下顎骨前面の内側縁の顎舌骨筋(三叉神経3枝支配)から、直刺し、舌の起始部へ向けて直刺。

第2節 顔面麻痺

第1項 顔面麻痺概説

顔面神経麻痺とは、顔面の筋肉(表情筋)の麻痺を起こし、瞼が閉じない、食べ物や水が口からこぼれ落ちるなどの症状により、日常生活に支障をきたす病気です。また美容の面からも患者の苦痛は相当なものです。

1.顔面神経の走行

 ①中枢部分:大脳皮質運動やから起こり、顔面神経核に至る。

 ②末梢部分:第7脳神経として橋から出て、内耳神経とともに内耳道に入る。その底部から顔面神経管(側頭骨の骨トンネル)を通り頭蓋外に出る。茎乳突孔(翳風)から頭蓋外に出て顔面表情筋に分布します。

2.顔面神経麻痺の分類 

 顔面神経麻痺は中枢性と末梢性に大別されます。

顔面神経核のうち、顔面神経上部核は両側の大脳皮質からの支配を受け、顔面神経下部は反対側からの片側支配。このため片側性の中枢性顔面麻痺では、顔面上部は麻痺せず、額のシワ寄せが可能。

〇中枢性(核上性)

・障害部位:橋にある顔面神経核により大脳皮質運動領に至る核上部の麻痺。

・代表疾患:脳腫瘍、脳血管障害。

・症状:麻痺は障害側の反対に起こる。額のシワ寄せ可能。片麻痺など四肢の神経徴候、構音障害などを伴なう。

★中枢性の代表疾患は脳腫瘍、脳血管疾患!

〇末梢性(核性、核下性)

・障害部位:核性、核下性の麻痺。

・代表疾患:ベル麻痺、ハント症候群。

・症状:麻痺は障害側に起こる。額のシワ寄せ不能。顔面以外の神経症状なし。

★末梢性の代表疾患はベル麻痺、ハント症候群

3.顔面神経の分類

 顔面神経は、運動神経性の顔面神経(アブミ骨神経)と知覚・副交感性の中間神経(鼓索神経と大錐体神経)に大別されます。各神経枝の障害で、顔面麻痺以外にも、聴覚過敏・味覚障害・唾液分泌障害・涙分泌障害などの症状を呈します。

〇顔面神経(運動性)    ― 顔面表情筋の麻痺

              ― アブミ骨筋神経(アブミ骨筋を運動支配)→ 聴覚過敏

〇中間神経→膝神経節(知覚、副交感性) ― 鼓索神経(舌前2/3の味蕾に分布)→ 味覚障害

                    (顎下腺・舌下腺に分布)→ 唾液分泌障害

                    ― 大錐体神経(涙腺に分布)→ 涙分泌障害

★顔面神経は、アブミ骨神経(運動性)、鼓索神経(知覚性)、大錐体神経(副交感性)に分類される!

4.顔面麻痺の障害部位と症状の関係

 顔面神経管の直径は、管の上部~膝神経節部の直径は1mm、茎乳突穴付近で直径2mmと非常に細いものです。これらのどのレベルで顔面神経の浮腫が生じているかによって、症状は異なります。顔面神経や搬送する中間神経から分枝した神経枝が圧迫されて機能障害を起こすこともあります。中間神経の膝神経節を帯状疱疹ウィルスが冒す疾患がラムゼイ・ハント症候群です。同疾患では顔面麻痺に加え、耳介~外耳道痛も生じます。

①鼓索神経分枝より末梢の障害:顔面麻痺のみで、ベル麻痺の典型。

②鼓索神経分枝の障害:上記+口症状(唾液分泌減少と舌前方2/3の味覚消失)

③あぶみ骨筋神経の分枝部:上記+耳症状(聴覚過敏)

④大錐体神経節の分枝部:上記+眼症状(涙分泌減少)

★帯状疱疹後神経痛:三叉神経第1紙枝領域(眼窩上部)に好発!

 ラムゼイハント症候群中間神経の膝神経節が侵される!

 ともに帯状疱疹ウィルスによる!

5.ギランバレー症候群

1)原因

 急性の感染(上気道感染)後、風邪や下痢などをもたらす細菌やウィルスを排除しようとする抗体が、自己の運動神経を特異的に攻撃する。急激な筋力低下と感覚障害を主訴とする炎症性脱髄性末梢神経障害。通常、四肢の遠位筋、近位筋の麻痺を呈するが、場合によっては顔面筋にも及ぶ。感染症々状が現れて1~3週間ほどで急に脱力症状などが現れた場合、ただちに病院を受診しなければならない。

※脱髄:有髄神経特有のもの。軸索は正常だが髄鞘が脱落する。

★風邪様の感染症状に脱力症状が現れたらギランバレーの可能性あり。ただちに病院を受診すべし!

2)症状

①運動神経の侵害:両側四肢や両側顔面の弛緩性運動麻痺。呼吸困難。

②感覚神経の侵害:手袋足袋型の知覚麻痺。

※周期性四肢麻痺では四肢の弛緩性麻痺を生ずるが、感覚障害は生じない。

③髄液検査でたんぱく細胞解離を認める。

両側性―はい:ギランバレー症候群の疑い

   ―いいえ:額のしわ寄せ―可能:中枢性疾患(脳卒中、脳腫瘍など)

              ―不能:外耳道の水疱―あり:ハント症候群

                        ―なし:ベル麻痺

★運動・知覚ともに両側性の障害であればギランバレー症候群の可能性大!

3)治療:血漿交換(感染した血漿を捨て、人工血漿を体内に入れる)。原因となっている免疫反応(抗体)を抑えるため、大量の免疫グロブリン製剤を点滴で投与。血液中の有害な物質を取り除いて体内に戻すなど。

4)予後:6割は完全治癒。3割は障害を残す。1割は死亡(呼吸筋麻痺によるもの)。

※多発神経炎(多発性ニューロパチー)とは、全身の多くの末梢神経に同時に機能不全が起こる病気。糖尿病性神経炎やギランバレー症候群が多い。先進国で、手足が動かなくなる病気は、脳卒中についでギランバレー症候群が多い。

6.ベル麻痺(特発性末梢性顔面神経麻痺)

1)原因

 「ベル」とは、スコットランドの解剖学者の名前。現在では、ベル麻痺の原因は顔面神経膝神経節部の単純ヘルペスウィルスの再活性化とされています。そのことが顔面神経管内の骨トンネル内での顔面神経の浮腫により、顔面表情筋の麻痺が起こる。

★ベル麻痺の原因は単純ヘルペスウィルスの再活性化!

神経炎→浮腫→絞扼→神経損傷→顔面麻痺という機序。

※単純性疱疹とは、単純ヘルペスウィルスによる。幼少の頃に感染するが、神経細胞に潜伏し症状の出ないことも多い。免疫力低下すると皮膚に症状が出現、突発的。Ⅰ型は唾液から感染、口唇部のヘルペスとなる。Ⅱ型は性行為により感染し、外陰部や臀部のヘルペスとなる。何度も感染する。ベル麻痺は単純ヘルペスウィルスによるⅠ型。

※膝神経節内での帯状疱疹ヘルペスウィルス感染は、ハント症候群になる。

単純ヘルペスと帯状疱疹ヘルペスの2つのウィルスはとてもよく似ている。両方とも、一度感染すると一生涯、体の中に潜伏し、免疫力が落ちたときに症状が出てくる。水疱や痛みといった症状も同じ。帯状疱疹は主に上半身の片側に帯状にできるのに対し、単純ヘルペスウィルスは口の周りや性器にできる。帯状疱疹にはワクチンがあるが、単純ヘルペスに対するワクチンは現時点ではない。

★帯状疱疹にはワクチンがあるが、単純ヘルペスウィルスのワクチンは現時点ではない!

2)症状・所見(右麻痺)

①顔面表情筋の主な麻痺所見

〇目を大きく開けた場合(麻痺側)

・前頭筋麻痺(額のしわ寄せ不能)

・口輪筋麻痺(口笛が吹けない)→地倉

〇目を強く閉じた場合(麻痺側)

・皺眉筋麻痺(額のしわ消失)→ 攅竹(膀):眉間の縦じわ消失。

・頬筋麻痺 → 地倉(胃)と大迎(胃)の中点:食物が頬に詰まる。口ふくらまし不能。

 ※顴髎穴の位置:頬骨下縁で外眼角の直下の陥凹部。

・眼輪筋麻痺:眼球上方回転、兎眼(閉眼不能)

 健常者でも強く閉眼すると、角膜保護のため眼球が上方回転するが、閉眼しているので観察できない。

 顔面神経麻痺→完全に閉眼できない

 動眼神経麻痺→完全に開眼できない

※眼瞼下垂を起こすのは、動眼神経麻痺、ホルネル症候群、重症筋無力症

②聴覚過敏→アブミ骨筋神経症状

③涙分泌減少→大錐体神経症状

④舌前2/3の味覚消失、唾液分泌減少→鼓索神経症状

 ちなみに、舌前2/3の知覚は三叉神経第Ⅲ枝(舌神経)。舌後1/3は舌咽神経。舌の運動は舌下神経。

⑤角膜反射の消失

 角膜反射:角膜(黒目部分)を脱脂綿の先などで刺激した際、迅速に眼輪筋の作用で閉眼する反射。

 反射弓:三叉神経→橋→顔面神経。顔面神経麻痺では眼輪筋が麻痺した結果、閉眼不能となり、また三叉神経第1枝の麻痺では、そもそも角膜を触れられた感じがしないので、角膜反射消失が起こる。

★ベル麻痺症状は、表情筋の麻痺、聴覚過敏、涙分泌減少、味覚消失、唾液分泌減少、角膜反射の消失!

3)ベル麻痺の医療機関での治療

①初期治療 

 ベル麻痺の7~8割は神経再生して自然に改善します。自然再生がうまく行かない場合、ワーラー変性(後遺症)へと向かう。病医院での治療は、発病当初は入院(もしくは外来)による副腎皮質ステロイド(抗炎症、浮腫改善)の10日間大量点滴療法が行われます。ベル麻痺の原因は単純ヘルペスウィルスなので、残存ウィルスを死滅させる目的で抗ウィルス剤が使われることも多い。

 麻酔科医によっては連日の神経節ブロックを推奨しています。顔面部交感神経機能を遮断し、相対的に副交感神経機能を亢進させます。これにより顔面血流量が増加し自然治癒力が高まるとのことですが、エビデンスは不十分。

※ワーラー変性:末梢神経線維が切断や挫滅などにより神経細胞との連絡が断たれたときに生じる変化。神経が再生するときに病的共同運動など、混乱が生じてしまい、回復が難しくなってしまう場合がある。

★ベル麻痺の7~8割は神経再生により自然治癒!

②予後不良者の治療

 ベル麻痺の約70%は自然治癒するとされています。治癒率を下げている原因は、ベル麻痺と診断された中に、隠れハント症候群(疱疹がない「無疱疹性帯状疱疹」)含まれていると考えられています。

 治癒まで3ヵ月以上かかると判定された場合、病的共同運動(4ヵ月以降:たとえば閉眼すると口が動き、口を開閉すると眼も閉じる)やワニの涙現象(食物を食べると涙が出る。これは唾液を出そうとして涙腺が刺激されているため)が出現しやすい。

 漠然と様子をみるのではなく、ステロイド追加投与さらには顔面神経管解放術(圧迫された顔面神経の周りの骨を取り除く手術)が考慮されます。

★ベル麻痺の予後が悪ければ手術も検討!

7.ラムゼイハント症候群

1)原因

 膝神経節に潜伏感染した水痘・帯状疱疹ウィルスの再活性化による顔面神経障害および患側の耳介を中心に持続性の疼痛を呈する。水痘・帯状疱疹ウィルスの初感染は、小児期の水痘罹患。成人になって過労やストレスなどで免疫力が低下した際、このウィルスは帯状疱疹ウィルス(水痘ウィルスと帯状疱疹ウィルスは同じもので、水痘帯状疱疹ウィルスともよぶ)と名称を変え、再活性化します。発症メカニズムはベル麻痺と同じ。末梢性顔面麻痺では、ベル麻痺の次に多く2割を占める。

※水痘:通称水疱瘡。2~6歳の幼児に好発。接触、飛沫、空気感染。潜伏期間は11~20日。38~39℃の発熱とともに、全身(頭髪や口中にも)赤く隆起した小さな発疹ができる。これはやがて2~5mmほどの水疱(内部に水をもった発疹)となり、2~3日で乾いて痂皮となり治癒する。終生免疫。

★ラムゼイハント症候群の原因は水痘・帯状疱疹ウィルスの再活性化!

2)症状・経過

 突然の顔面神経麻痺の発病後(この段階ではベル麻痺と区別がつかない)、4~5日程度で外耳道や耳介中央部に水疱ができた場合、ラムゼイハント症候群と診断される。水疱できる以前に、耳中や耳の後ろの痛みを伴なうことも多い。聞こえが悪くなったり、耳鳴りがしたり、ふらつきやめまいが生じることもある。麻痺と同側の涙の分泌低下、味覚の低下、聴覚過敏(物音が響く)を発症することもあります。水疱自体は、間もなく痂皮となり自然治癒します。

①末梢性顔面麻痺

②聴(内耳)神経(第8脳神経)症状:難聴・耳鳴・めまい

③中間神経膝状部神経痛:外耳道や耳介の痛みを伴なう小水疱(帯状疱疹)

★ベル麻痺は単純ヘルペスウィルスで顔面麻痺のみ、 

 ハント症候群は帯状疱疹ウィルスで顔面痛あり!

3)検査と治療

 血液検査により、水痘・帯状疱疹ウィルス再活性化が生じていることの確認。しかしながら、このような状態で抗ウィルス薬を投与しても、水痘ウィルスは既に発症から4~5日経過しており、外来受診まで約1週間経過した状態では、活性しきっていて、治療効果は半減以下となる。初期からステロイドと並んで抗ウィルス薬の同時投与を行います。

※抗ウィルス薬は、ウィルスの増殖を予防する効果はあるが、すでに滞在しているウィルスには無効。

★ラムゼイハントは罹患初期からステロイドと抗ウィルス薬の同時投与が一般的!

4)予後

 顔面麻痺以外の症状は、間もなく自然消失します。ラムゼイハント症候群の顔面麻痺症状はベル麻痺に比べ難治。自然治癒率は約40%。

★ラムゼイハント症候群はベル麻痺に比べ難治。自然治癒率は40%!

第2項 顔面神経走行と顔面麻痺の鍼灸治療

1.ベル麻痺の鍼灸治療総論

1)ベル麻痺の鍼灸治療開始時期

 通常、発症直後1週間程度は、医療機関でステロイド大量投与治療が行われます。鍼灸の自然治癒力増強作用は、生体のエネルギー利用を助ける方向に作用する副腎皮質ホルモン分泌に働きかけるという側面があるので、多くの場合、ステロイドホルモン使用時に鍼灸治療をしても治療効果は乏しいものになってしまいます。

 ステロイド大量投与が鍼灸の効果を削ぐのか、ステロイドを多量投与しなければならないほど重度の疾患だから鍼灸が効かないのか、という内容にもなります。

★ベル麻痺の治療として、医療機関でステロイド大量投与が行われる!

2)鍼灸院での予後推定

 一般的に発症してすぐに鍼灸治療を始める患者はあまりいません。医療施設で治療を続けるも、発症後7~10日間は目立った効果が現れず不安になり、鍼灸でも受けてみようかと考えるようになります。予後良好の場合は3週間以内に回復が始まり8割は自然治癒するとされているので、発症1~2週間後から鍼灸治療を始めれば、タイミング的に自然回復時期に鍼灸治療効果を行っているので、患者さんは鍼灸治療でベル麻痺が治ったように思います。このことは鍼灸治療院経営上、有利なことではあります。

 その一方で、残り2割は速やかには麻痺は回復せず、長い者で半年以上を要し、かつ麻痺は残存します。では、8割の早期回復者と2割の回復に時間がかかる者の事前予想はどのようにすべきか? 目安となるのが、発症7~10日で予後判定可能なNET(電気生理学的検査)に基づくものです。

 NETとは、顔面神経本幹または分枝を電気刺し、顔面表情筋の収縮度合いをみるもので、収縮が観察できる最小閾値と健側を比較します。これは鍼灸臨床で用いられることの多い低周波治療器で代用ができます。顔面神経数ヵ所に直接刺鍼し、そこにパルスを流すようにします。健常者に行えば、顔面表情筋の攣縮が観察できます。筋を攣縮させようと、通電電流量を一定以上に上げると刺痛がでます。

★パルスにより表情筋が攣縮するものは予後良好!

①NETで異常を認めるものは治癒率が悪い。

②発症後、3ヵ月過ぎているものは治癒率が悪い。

③NETで良好なベル麻痺は、90%治癒する。

④治療は、頻回行うほどよいので、最初は毎日または隔日。改善の進行にしたがって週2回、週1回というように間隔を空けていく。

4)低周波置鍼通電療法の是非

 かつては置鍼した後、低周波をつないだものですが、現在では筋攣縮しないほど高い周波数(100Hz程度)で通電するか、または通電せずに単に置鍼のみとなります。というのは、低周波刺激をすることで後遺症(病的共同運動=閉眼すると口の周りが動く、口を動かすと目が閉じるなど)が必要以上に強化され、病的共同運動プログラムが助長されてしまうと考えられるようになりました。このことは巧緻動作回復の妨げになります。

 そもそも単なる置鍼と置鍼+通電との治療効果に差があるのかは確認されていません。患者さんにしてみれば、通電してもらった方が「治療してもらった感」があることもあるので、100Hz以上のパルス治療も有用かもしれません。

★100Hz以下の通電は、病的共同運動プログラムが助長されてしまう可能性あり!

5)顔面神経麻痺の後遺症

 顔面神経麻痺の後遺症として、病的共同運動の他、ワニの涙があり、食事時に麻痺側の目から涙が流れます。この現象は、唾液分泌刺激が涙液の分泌を刺激することで生じます。唾液分泌線維である鼓索神経と涙液の分泌線維である大錐体神経は、ともに中間神経内を走行しています。それぞれの神経が顔面神経麻痺時に過誤再生を生じて出現します。

★低周波刺激をすることで後遺症が悪化する恐れあり!

4)神経変性が高度になると、パルスによる筋腫収縮が減弱あるいは消失し、早期では3ヵ月目頃より後遺症が出現する場合があります。このような場合、表情筋内の循環改善や筋の廃用性萎縮を防止する意味からも、神経近傍を目標とした治療から表情筋を対象とした治療へと変更します。この際は、各筋群に対し、30~50Hzの間歇通電を施行します。

★後遺症出現した場合、神経近傍を目標とした治療から表情筋を対象とした治療へと変更!

2.似田先生の考える顔面神経に対する刺激点

 顔面神経の顔面部走行は、翳風部から起こり、耳垂の直下を通り、顔面部に扇型に広がる。翳風穴と耳垂が顔面に付着する部の中央(深谷流難聴穴)の2点に10~20分間の置鍼。

1)翳風(三)刺鍼

 耳垂後方で、乳用突起と下顎骨の間に翳風をとる。ここは顔面神経幹が茎乳突孔を出る部。

 凹みの底の骨にぶつかるように刺入する。

2)下耳痕刺鍼

 翳風穴と耳垂が付着している頬部の中点「深谷流難聴穴(≒下耳痕)」。5mm~1cm刺鍼すると顔面神経幹に当たる。顔面神経幹に命中したかを確認するため(1~2Hz)通電しながら刺入し。唇や頬が最も攣縮する深さ(5mm~1cm)で鍼を止める。置鍼中はパルスはしない。

※直視2cmでは舌咽神経の分枝の鼓室神経(鼓膜の知覚支配)に命中し耳中に響く。この刺鍼は難聴耳鳴りの治療に使うことが多い。すなわち下耳痕穴は、浅層の顔面神経幹刺激として顔面麻痺に適応があり、深層の鼓室神経刺激することで難聴耳鳴りに用いられる。

3)耳下腺神経叢刺鍼

 顔面神経は、茎乳突孔から頭蓋に出て、耳垂の深部を通過し、耳下腺神経叢中を走る。耳下腺神経叢の中で多数分岐し、それぞれの顔面表情筋方向に放射状に走行する。

 耳垂部から顎角部にかけては顔面神経走行が密なので、経穴では、頬車~大迎の範囲に週的に刺鍼すると顔面神経に命中しやすい。

茎乳突孔「翳風(三)、下耳痕(奇)→耳下腺神経叢「大迎(胃)、頬車(胃)」

→顔面上半分:側頭枝、頬骨「下関(胃)、客主人(胆」」

→顔面下半分:頬筋枝、下顎縁枝「大迎(胃)、頬車(胃)」

4)下関(胃)

 頬骨弓中央の下縁陥凹部。側頭刺激になる。直刺する。パルス通電しながら深度を少しずつ深め、唇や頬が最も振動する処に鍼を留める。

 深刺すると咬筋→外側翼突筋に入り、三叉神経第2枝・第3枝に当たる。

・翳風(三・耳介神経)

・下耳痕(奇・顔面神経幹)

・耳下腺神経叢(頬車、大迎、耳下腺神経叢)

・下関(胃・下顎神経)、客主人(胆・耳介側頭神経)、聴会(小腸・耳介側頭神経)

3.顔面表情筋の種類と鍼灸方法

 顔面表情筋は20個以上あり複雑。下耳痕穴運動麻痺筋を直線で結んだライン上に治療点を求める方法と、麻痺筋そのものに治療点を求める方法があります。

 顔面表情筋に対する鍼灸は、顔面表情筋が多数ある中で、特に目の周囲や口裂周囲の筋群が、外観からの観察で繊細な表情をくみ取りやすく、以下は、似田先生がこれらの筋を中心にピックアップしたものです。これは後述する<柳原40点法>に準拠して選択した筋にもなっているとのこと。

 顔面表情筋は、一方が皮膚(表皮、真皮、皮下組織)で終わっているので皮筋と呼ばれる筋肉です。皮筋々膜は皮膚とピタッと密着していて。皮筋が収縮すると皮膚にシワが生じ、このことにより顔面に表情がつくられます。

※20個以上ある顔面表情筋の、とくに口周りは三層構造になっていることもあり、麻痺筋を特定するのは容易ではありません。

1)頭蓋表情筋

①後頭前頭筋の前頭筋(額に横シワ、目を見開く)→陽白

2)眼輪筋:眼窩周辺

①眼輪筋―眼輪部(目を軽く閉じる)→ 晴明(膀)、瞳子髎(胆)、承泣(胃)

    ―眼窩部(目を強く閉じる、片目つむり)→四白(胃)など眼輪筋眼瞼部の外周

※目を開けるのは上眼瞼挙筋(動眼神経)

②鼻根部:眉間の横シワ→印堂

③皺眉筋:額の縦シワ→攅竹

3)口筋:口周辺の表層筋の総称

①頬筋:(頬膨らまし、ラッパを吹く、頬側面の食物を追い出す)浅層に笑筋がある。

 →地倉(胃)と大迎(胃)の中点

②口輪筋:口すぼめ、口笛→地倉(胃)

③大頬骨筋:「イーッ」と歯を見せる→顴髎(小腸)(外眼角の下で頬骨直下)

 大頬骨筋は口角を上げる筋で、本筋を鍛えることで頬をリフトアップできる。頬の皮下脂肪を頬部の筋が支えられなくなると、ほうれい線ができるので、頬部や口部の筋を鍛えるのが有効。

④上唇挙筋:泣き顔

⑤口角下制筋:不満顔(口をへの字に曲げる)→オトガイ穴(=口角の下1寸)

⑥笑筋:微笑時のえくぼをつくる。深部に頬筋がある→地倉(胃)と大迎(胃)の中点

⑦下唇下制筋:下唇を前に突き出す→オトガイ穴

4)施術目的と方法

 顔面麻痺になると顔面表情筋が動かないので筋肉が萎縮してきます。すると神経が回復しても動きが回復しなくなります(完全麻痺になって1年から1年半ほどで後戻りしない表情筋委縮になる)。

 治療目的は、動かなくなった筋緊張をゆるめ、萎縮の防止。顔面表情筋は皮筋という薄い筋でできているので、刺鍼に際しては斜刺~水平刺がより効果的です。

★後遺症出現した場合、神経近傍を目標とした治療から表情筋を対象とした治療へと変更!

★表情筋刺鍼には、斜刺~水平刺が効果的

3.顔面麻痺の評価法

1)40点柳原法

 顔面麻痺の評価として普及しているのが「40点柳原法」です。顔面の主な表情を10ヵ所選び、4点=健側と明らかな差がない、2点=筋緊張と運動性の減弱、0点=喪失、とします。

0~8点=完全麻痺、10~20点=中等度麻痺、22~40点=軽度麻痺、と評価します。

以下は表記例で、顔面麻痺が軽減している経過を示しています。20以上ある顔面表情筋ですが、眼と口を動かす筋が評価の対象になっていることがわかります。

1.静止時非対称

2.額のシワ寄せ(前頭筋)

3.鼻根のシワ寄せ(皺鼻筋)

4.強く閉眼(眼輪筋、眼窩部)

5.弱く閉眼(眼輪筋、眼瞼部)兎眼→眼輪筋麻痺(目が閉じ切らない)

6.片目つぶり(眼輪筋、眼窩部)

 ベル現象→閉眼した時、眼球が上転する現象。 末梢性顔面神経麻痺では閉眼すると眼裂が閉じないので白い強膜が露出する。

7.頬ふくらまし(頬筋)

8.口笛(口輪筋)

9.イーッと歯を見せる(大頬骨筋)

10.口をへの字に曲げる(口角下制筋)

★対象となる表情筋は、前頭筋、皺鼻筋、眼輪筋、頬筋、口輪筋、大頬筋、口角下制筋!

2)簡易評価法

「40点評価法」は時間を要するので、簡易的なものとして5.7.8.9の4項目のみ行います。

第3節 顔面部の痙攣

1.顔面痙攣

1)症状

 中年女性に多い。一側の顔面が長期間、強く痙攣する状態。目の周り(特に下瞼)の軽いピクピクした痙攣が眼周囲か始まり、次第に同側の上瞼・頬・口の周りなどへ広がります。痙攣の程度が強くなると、顔がキューっとつっぱり、引きつれる状態になります。ひどい場合、耳小骨のアブミ骨(顔面神経支配)が過剰刺激され、カチカチという耳鳴りが生じることもあります。当初は緊張した時などに時々起こるだけですが、徐々に痙攣の時間が長くなり、一日中ときには睡眠中も起こるようになることもあります。

 自分の意志とは関わりなく顔面が動くということで非常に煩わしく、対人関係や仕事に苦労します。ストレスが一要因となり、自然治癒することはほとんどありません。

2)原因<神経血管圧迫>

 脳血管の異常走行により、脳幹より出る顔面神経に脳の血管がぶつかり、動脈拍動のたびに顔面神経が刺激されている状態。脳血管異常走行の原因としては、加齢、脳動脈硬化、先天的動脈奇形など。

★脳血管異常走行の原因としては、加齢、脳動脈硬化、先天的動脈奇形!

3)一般的治療

①ボツリヌス菌毒素注射

 ボトックス(ボツリヌス菌希釈液)の眼瞼や口角周囲の痙攣部への注射。持続効果は3ヵ月前後で、繰り返しの注射が必要。

※ボツリヌス毒素は、食中毒をおこして随意筋を麻痺させ、重症では横隔膜運動も麻痺して致死的になることも。この作用に注目して本菌を使って筋の運動麻痺を起こさせるのがボトックス注射です。

※皮筋が収縮することでシワが出来ます。ボツリヌス菌毒素注射は、美容整形として皮筋を麻痺させることで、顔面のシワ取りにも用いられます。

★ボツリヌス菌毒素注射は、美容整形として、顔面のシワ取りにも用いられる!

②手術(微小血管減圧術)

 顔面神経を圧迫している血管の位置を少しずらして固定させる手術で、根本療法になります。手術の後遺症として、数%~10%程度の者に聴力の障害が起こります(顔面神経と内耳神経は並走行しているため、手術中に内耳神経にストレスがかかることがあり、これが原因となります)。

 要するに、三叉神経痛と眼瞼痙攣の手術原理はよく似ています。

★現代学的に考えれば、顔面痙攣の根本療法は手術!

4)若杉式穿刺圧迫法を応用した刺鍼

 代田文誌氏は、顔面麻痺に対する鍼灸は無効と記していました。しかし30年ほど前に、ペインクリニックにおいて若杉式穿刺圧迫法が考案されました。本法は鍼でも応用できるかの試みがなされました。

 それは茎状突起(=翳風)への針タッピング術で、痙攣の程度を減ずることができることがわかりました。と同時に限界も明らかになりました。

①神経ブロック(若杉式穿刺圧迫法)

 関東通信病院ペインクリニック科では顔面神経の主幹を神経が頭蓋底を出た部位で、鍼を使って圧迫する治療法を創案。痙攣が止まっている平均有効期間は9.3ヵ月。痙攣が再発してもすぐにブロック前の強さに戻ることはないので、年に1回程度治療を行う症例が大部分ということ。

②鍼による若杉式穿刺圧迫法

a.2寸以上の中国鍼を使用。治療側を上に側臥位。

b.翳風を刺入点として茎状突起に鍼先を誘導する(方向を誤ると、強い刺痛を残す)

c.鍼先が骨に命中したら、3分間のコツコツとタッピング刺激を与える。その後7分間置鍼し、再び3分間タッピング刺激。トータルの治療時間は20分程度。

この治療を行っても、痙攣が軽くならないことは多い。効果があった場合でも鎮痙期間は数日間であり、その後は再度同治療が必要。

★若杉式穿刺圧迫法を行っても必ずしも効果があるわけではない!

2.眼瞼痙攣

 眼瞼痙攣となる疾患には、顔面痙攣初期の他に、眼瞼ミオキミアと本態性眼瞼痙攣があります。

1)眼瞼ミオキミア

①病態生理と症状 

 まぶたの一部(下眼瞼が多い)が痙攣。通常は片側。(本態性眼瞼痙攣は両眼の上下眼瞼とも等しく痙攣する。不規則で持続時間が長い小さな不随意運動で、自覚的にはピクピクとした感じ。通常、数日から数週間で自然治癒)

※ミオキミアとは、不規則で持続時間が長い小さな不随意運動のこと。

②原因

 顔面神経が支配する眼輪筋の一部に異常な興奮が発生することで生じる。特段の原因はなく、健康な人でも書類を見る、パソコンの長時間操作などによる眼精疲労や、寝不足の際に一時的に表れることがある。

③鍼灸治療

木下晴都氏は春先に3年間、毎年眼瞼振戦(痙攣)を経験していたが、3年目の時に自身に次の治療を行い、著効を得たそうです。振戦を起こす右下眼瞼3点に、3~4mm刺入した後、刺激を強める意味で、鍼を左右に5~6回旋捻した、その後抜鍼。翌日は振戦は依然と存在したが、3日間の治療継続により全く消失したとのこと。患者にも実施し、すべて症状の回復が早いことを確認。

2)本態性眼瞼痙攣

①原因 

 初期:まばたきが多く、眼が開けにくい。目がショボショボするのでドライアイと誤診されやすい。眼瞼が痙攣するというより開けにくい。

 進行期:両側性に、羞明感、眼の乾燥、眼を開けていられない、下眼瞼のピクピク。次第に上眼瞼に拡大。左右両方に進行性の眼瞼痙攣が出現。

 重症時:眼を開けていられない。視力があるにも拘わらず生活上は盲目と等しくなる。進行は緩徐だが自然軽快はまれ。

②症状

 パーキンソン病と同じく、大脳基底核の運動制御システムの障害。40歳代の女性に多い。

※大脳基底核=大脳皮質の底にある白質中の灰白質部分、随意運動の発現と制御の役割。

③治療

 初期症状には、眼輪筋に対してのボトックス注射が有効。眼瞼の痙攣部に数ヵ所注射する。ボトックスの持続効果は3ヵ月程度なので、繰り返しの注射が必要になる。目が開けられなくなれば、これといった有効な治療はなく、眼輪筋を切除する治療しかなくなる。

④重度眼瞼痙攣に対する鍼灸治療 

 似田先生は、瞼が開かないと訴える30代女性患者に対して鍼灸治療を試みたが無効だったとのこと。ただし色々とアプローチした中、患者自身が最も評価したのは、眉の1cmほど上方から眉と並行に水平し、滑車上神経・眼窩上神経に響きを与えたものだったとのこと。理由は、一時的に交感神経緊張状態になったためと考えられる。

なぜ顔面症状が起こるのか

 先述の通り顔面部に痛みを発症する病気には、三叉神経痛、舌咽神経、ラムゼイハント症候群、帯状疱疹後神経痛、群発性頭痛と片頭痛、顎関節症、脳腫瘍、トロサ・ハント症候群、非定型顔面痛といったものがあります。

以下がその原因とされています。

・三叉神経痛:腫瘍、炎症

・舌咽神経痛:血管が舌咽神経を圧迫

・ラムゼイハント症候群:帯状疱疹ウィルスの再活性化

・帯状疱疹後神経痛:帯状疱疹ウィルスの再活性化

・群発性頭痛と片頭痛:眼のすぐ後ろにある動脈(内頚動脈、眼動脈)拡張により三叉神経を圧迫

・顎関節症:歯のかみ合わせの異常、歯ぎしり、食いしばり、頬杖やうつぶせ寝、噛みくせなど

・脳腫瘍:腫瘍による頭蓋内圧の変化

・トロサ・ハント症候群:良性の腫瘍

・非定型顔面痛:原因不明(交感神経の過緊張)

 なぜこれらのことが起こるのかは不明ですが、多くは過労や精神的ストレスが大きく関与していると考えられています。また、治療法は、投薬か、鍼であれば痛む部位への刺鍼ということになります。ここで紹介されている顔面痛、顔面麻痺時に用いられるツボも、魚腰、攅竹、絲竹空、下関、陽白、承涙、四白、聴会、印堂、オトガイ穴、地倉、頬車、大迎、迎香、翳風とすべて顔面部にあり、これは対象が顔面麻痺であっても同様です。

 

顔面症状に対しての東洋医学治療

1.気の働き

 生体には正気が巡っています。生体内において、正気が過不足なく、すみやかに巡ることで生体は正常な生命活動を営むことができます。正気の働きには以下のものがあります。

・推動作用:人の成長・発育や、一切の生理活動および新陳代謝をする働き

・温煦作用:臓腑・器官などの組織を温め、体温を保持する働き

・防衛作用:体表において、外邪の侵入を防御する働き

・固摂作用:血・津液・精液などをつなぎ留める働き

・気化作用:精が気に、気が津液や血に変化したり、津液が汗や尿となって体外に出る働き

★正気の働きは、推動、温煦、防衛、固摂、気化!

2.病因

東洋医学では病因(病気の原因)には、内因、外因、不内外因の3種があるとしています。

・内因:怒、喜、思、憂、悲、恐、驚

・外因:風、寒、暑、湿、燥、火

・不内外因:飲食の不摂生、労捲、房事、外傷、ウィルスetc

内因とは、過ぎた感情(精神的ストレス)のことであり「七情」ともいいます。

外因とは、季節や気候の変化のことで「外邪」または「六淫」ともいいます。

不内外因は、内因、外因以外の病因です。

これらの因子によって、体内の気(正気)が弱くなったときに病気を発症します。つまり、内因、外因、不内外因の力が強かったとしても、それ以上に正気の力が強ければ病気にはなりません。

★正気の力が病因の力よりも強ければ病気にならない!

3.標治と本治療

 痛む部位や麻痺筋に対しての刺鍼は対症療法であり、対症療法とは東洋医学でいえば標治となります。標治と合合わせて、「養生+本治」を行うことが非常に大切であり、そのためには東洋医学による弁証論治が必要です。

★大切なのは、局所治療と合わせて「養生+本治」!

東洋医学では顔面痛を「面痛」「両頷痛」「頬痛」といいます。以下は代表的な病症です。

〇顔面痛

1)風寒による顔面痛

 風寒の邪が顔面部に侵入し、経脈が拘急(筋肉がひきつれること)して気の流れが悪くなり顔面痛が起こります。温めると軽減し冷やすと憎悪。

舌質は淡泊、舌苔は薄白、脈緊

治療:風寒除去。とくに顔面部の経気のめぐりをよくする。また、体質を見極めた上での本治法も行う。

治則と処方:解表散寒(風池)、温経散寒(曲池)、温陽逐寒(関元)督脈。

      もし湿があれば去湿(陰陵泉)を加える。

2)肝鬱化火による顔面痛

 イライラ、怒り、悩み、心配事などの精神的ストレスにより肝の疏泄作用が失調し、肝鬱から肝鬱化火となって顔面痛を発症します。情動の変化によって痛みの度合いは変化します。不眠、口が苦いなどの症状を伴ないます。

舌質は紅、舌苔は黄・燥、脈弦数

治則:疏肝理気

処方:疏肝理気解鬱「行間、太衝、合谷、蠡溝(肝絡)、陽陵泉(胆合)」

※疏泄:淀みなく巡るという意味

2)胃火について

 食滞により火が生じやすくなっていると、肝鬱が重なることで火の勢いが陽明経脈に沿って顔面部におよびやすくなります。。胃火による便秘などの症状を伴ないやすい。

3)気虚・血瘀による顔面痛

 体内の気の衰弱(気虚)により、正気が顔面部を滋養できなくなり顔面痛を発症します。また顔面痛が改善されないまま慢性化すると血瘀を生じ、ますます気の巡りが悪くなるという悪循環を呈します。

舌質淡泊、舌苔は薄白、脈細弱。

治則:補気、活血去瘀

処方:合谷、気海、三陰交、膈兪

4)陰虚による顔面痛

 腎は精を蔵し、水を主っている。腎精が不足すると火を制御できなくなり、そのため虚火が生じ顔面部に炎上して顔面痛が起こります。痩せている人に多い。精神疲労を伴なう。

舌脈:舌質紅、舌苔少、脈細数

治則:補陰、清熱。手陽明経、足厥陰経を瀉す。足少陰経にて補陰を図る。

処方:太谿、復溜、太衝、曲泉、腎兪、肝兪。

★顔面症状の実際

 東洋医学では、「急なれば標、緩なれば本を(治療せよ)」という治療原則があります。これは急性期と慢性期では治療が異なり、その時々において、すべき治療があるという意味です。

 顔面症状が発症したら、まずは病院に行くのがふつうです。その後、治りが思わしくない場合に鍼灸でも受けてみようとなります。つまり、顔面症状で鍼灸を受けるときは、すでに急性期ではなくなっていることがほとんどです。どんな病態であっても、時が経てば「虚」になることから、顔面症状に対しての鍼灸治療は局所治療に合わせて、「補」または「本」に対してのアプローチが不可欠となります。

 病院に行く以前に患者さん自身が自分で行えることは、蒸しタオルなどを使って温めること。肝火が上炎しているようなときであっても、顔面部の気血のめぐりをよくし、不全となっている神経や筋の機能を回復させるために冷やしてはいけません。温めることが不快に感じない限りは温めるのが基本です。

★気血のめぐりのため、神経や筋の機能を回復させるためには温めるのが基本!

 

★時期に応じた手当て(治療)

 先述のように、病気には時期があり、予防期(未病期)、急性期、慢性期によって、手当て(治療)の方法が同じではありません。

東洋医学の古典「難経」に次のようにあります。

上医は未だ病まざるものの病を治し、

中医は病まんとするものの病を治し、

下医は既に病みたる病を治す。

これは、予防によって病気にならない、もしくは未病期に手当てをして病気を発症させないのが重要である、と解釈できます。そのように事が運べば理想的であるのは間違いのないことです。

しかし私たちは、病気になるし、症状に苦しみます。虫歯にならないための歯磨きと、虫歯を治療するための治療は同じではありません。また、スポーツ選手がケガの予防やパフォーマンス向上のためにやることと、ケガをしてしまってから現場に復帰するまでにやることは違い、その時々において行うべきことがあります。

また一つの症状を緩和させるためには、体全体をよくするといった考えの元、治療に当たることが非常に大切であり、これがなければいわゆる対症療法に終始してしまうことになります。

★未病とは

 どのような人にでも体質があります。体質がない、なんてことはありません。東洋医学では、長年のデータの蓄積から、「今はどこも悪い処や痛い処がなかったとしても、体質的に将来このような病気になりやすい」といったことがおおよそわかっています。そのような判断のもと、体調を良い状態に保とうというのが「未病治」であり、「予防」より積極的なものです。

病気にならない(体内の正気を良好な状態に保つ)ためや、症状が自然に無くなるようにするためには、疲労、冷え、不眠に対しての治療が非常に重要です。

kiichiro

鍼灸師。東洋医学について、健康について語ります。あなたの能力を引き出すためには「元気」が何より大切。そのための最初の一歩が疲労・冷え症・不眠症をよくすること。東洋医学で可能性を広げられるよう情報を発信していきます。馬込沢うえだ鍼灸院院長/日本良導絡自律神経調整学会会員/日本不妊カウンセリング学会会員//日本動物愛護協会会員