鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか?「産婦人科系症状をやわらげるために」編

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はじめに

 鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。

筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化、等々。

これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。

解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。東洋医学の治療は、東洋医学独自の病の見立てである「弁証」と、状況に応じた対処の仕方「論治(選穴、取穴、刺鍼施灸、手技)」によって成り立っています。西洋現代医学、東洋医学と、背景にある考え方が違っていても、治療にあたって用いるツボが同じになることは珍しいことではありませんが、日本において、患者さんが東洋医学の病名や用語を口にすることは、まずありません。よって現代医学的な診断を参考にしながら、東洋医学的な分析をしつつ、ことにあたる必要があります。

 鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、主に現代医学的観点から病態を捉える、治癒率向上を図る、鍼灸適応不適応の再確認、といったことと合わせて、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代針灸臨床論』」という科目に対しての理解をより深めることを目的の一つとしています。非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。

※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。

〇遠隔療法と反射について

 肩が凝っているときに、その凝っている筋肉に鍼灸をすると、コリが和ぎます。その理由は、筋肉の伸長収縮度合いが正常に戻ったり、凝っている部分の血流が促進されることで、疲労物質の滞りが解消されたりするからです。ですから症状が出ている(凝っている)部分に鍼灸をすることには意味があります。では鍼灸が、内臓の異常に働きかけるためにはどうしたらよいでしょう?内臓に直接鍼を打つといった方法もありますが、受け手の負担も大きく、一般的ではありません。そこで反射(東洋医学なら経絡)といった概念が用いられます。

 反射とは、刺激に対して無意識(大脳を介さず)に、機械的に起る身体の反応のことです。例えば、熱いものに手を触れたとき即座に手を引っ込めるのは反射によるものですが、これは身体を守るために、考えてから引っ込めたのでは遅いからです。鍼灸刺激によって反射(体性内臓反射)を起こし、生体に元々備わっている治癒力が賦活(活性化)されます。

・内臓体性知覚反射

 内臓の異常は、その内臓を支配している自律神経とほぼ同じ脊髄反射区の皮膚領域を過敏にし、普通では痛みとはならない程度の皮膚刺激でも、その部位に疼痛また異常感覚を伴なうようになるというもの。

・内臓体性運動反射

 内臓異常による求心性の興奮は、対応する体壁(皮膚や筋肉)に運動性の変化として、筋緊張・収縮などを起こすというもの。いわゆる凝りの現象で、内臓疾患による筋性防御のあらわれ。

・内臓体性栄養反射

 交感神経を切断すると支配下の筋群は緊張を失って代謝障害に陥る。内臓に慢性疾患が長期に渡ると、体壁に萎縮・変性があらわれてくるというもの。

・内臓体性自律系反射

皮膚にある汗腺、皮脂腺、立毛筋、および末梢血管系を支配する自律神経系の反射で、交感神経性皮膚分節の領域に反応があらわれるというもの。

汗腺反射は発汗、立毛筋反射は鳥肌、皮脂腺反射は皮脂として、皮膚血管反射は皮膚の冷え、ほてりとなってあらわれる。

・体壁内臓反射

一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄の同じ高さに神経支配を受けている内臓に反射作用があらわれるというもの。このときに、内臓にあらわれる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)がある。 

体壁:胴体(=体幹)の内臓を守るように取り囲んでいる、筋肉と一部では骨でできた壁のこと。胸部の胸壁、腹部の腹壁に分けられる。

しかし、複雑な反応をみせる生体においては、横の反応帯である分節にそって内臓体性反射として現れる場合もあるし、おそらくは脊髄レベルよりも、より高次の中枢が関与しているものもある。

(「はりきゅう理論」社団法人東洋療法学協会編・教科書執筆委員会)

 婦人科疾患には次のようなものがある。

子宮筋腫、子宮癌、子宮内膜症、卵巣嚢腫、卵巣癌、月経異常、不正性器出血、帯下、月経前症候群、月経困難症、不妊症、妊娠嘔吐(つわり)、妊娠高血圧(妊娠中毒症)、胎児位置異常(逆子)、分娩陣痛、陣痛遅延、乳汁分泌不全、乳房腫瘤、乳房痛、乳癌、乳腺症、乳腺線維腺腫、鬱滞性急性乳腺炎、急性化膿性乳腺炎等。

第1節 性周期とホルモン

1.性周期(卵巣周期)

 性周期は、卵胞期、排卵期、黄体期、月経期よりなる。卵巣の周期は下垂体前葉より分泌される2種類の性腺刺激ホルモン(FSHとLH)の変化に伴って起きる。

 卵胞期(1~14日目ごろ)、排卵期(14日目ごろ)、黄体期(14~28目ごろ)、黄体の後半が月経期となる。

 婦人科基礎体温は、視床下部でコントロールされている。4週間(28日)単位で低温相と高温相の2相生を繰り返す。

 卵胞期(低温期)→排卵(低温→高温相)→黄体期(高温相)→月経(高温→低温相)というパターンになる。低温相は男性と同じ感じで、比較的元気。高温期とは、排卵~月経前(妊娠を維持しなければならない時期)までの間。無排卵では高温相に移行しない。月経開始時には高温→低温になるが、妊娠している場合、月経は起こらず出産まで高温相を維持する。

〇卵胞期(1~14目ごろ)。月経周期なら増殖期

 ①元気状態

 ②低温相-下垂体前葉のFSHの分泌が増すにつれて、卵巣で卵胞が多数生育。第5~6日ごろに1個の卵胞のみが成長する(他は退縮)。それとともに卵胞から分泌されるエストロゲンが増加し、これにより子宮粘膜の肥厚が始まる。

★卵胞期は元気!

〇排卵期(14目ごろ)=

 ①血漿エストロゲン濃度が急激に増加し、これが視床下部に作用しゴナドトロピン放出ホルモン(=GnRH)急増+下垂体前葉からの性腺刺激ホルモン(=ゴナドトロピン。FSHとLHの総称)であるLHの急激な分泌増加(LHサージ)を引き起こし、その結果排卵が起こる。

 ②排卵後、低温相→高温相に移行(低温相のみでは無敗卵)。

 ※排卵日前後の10日間は最も妊娠しやすい(卵管膨大部で、卵子と精子が出会うチャンスがある)

★排卵期の前後10日間は最も妊娠しやすい!

〇黄体期(分泌期)。月経周期なら分泌期

 ①LHの作用で排卵後、卵子が飛び出した後の卵胞は黄体に変化し、妊娠に備えて黄体ホルモン(=プロゲステロン)が、黄体から分泌される。プロゲステロンの作用により、受精卵が子宮内膜に着床した際、受精卵に栄養を与えるために子宮内膜を肥厚させる。

 ②高温相。保持黄体ホルモンの分泌増加。妊娠維持に適した体温になる。

 ③月経前症候群出現

 月経は月経血を放出するが水を失うことでもある。脱水に備えるため体内に水分を蓄える。この水滞に伴う機能障害を月経前症候群とよぶ。

★月経前症候群が出るのは黄体期!

〇月経期

 ①受精しなった場合:プロゲステロン分泌停止により子宮内膜崩壊→月経となる。

 月経(出血)期間は3~5日間。プロゲステロン ↓で、高温相が低温相になる。

 ③高温相が3週間以上持続すれば妊娠を意味。妊娠中、月経期は消失。月経困難症発症。

★月経が来ず、高温相が3週間以上続けば妊娠を意味する!

 ※女性のエストロゲンは、男性のテストステロンに相当し、卵子や精子の製造、すなわち生命誕生の役割がある。女性にとって生命誕生に必要な要件は、男性の精子であるから、男性を魅了する女性というのも、生命誕生の役割と理解できる。

 プロゲステロンに相当するものは男性にない。プロゲステロンは受精卵を体内で育てるという女性特有の役割が与えられているため。

★女性のエストロゲンは、男性のテストステロンに相当!

2.女性ホルモンの分泌と作用

 ①視床下部

  ↓ 4週間周期でGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)を放出=月経周期の決定

 ②下垂体前葉

    性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)分泌=分泌ピークに排卵 

   ※ゴナドトロピン=卵胞刺激ホルモン(FSH) + 黄体形成ホルモン(LH)

               ↓              ↓

      卵胞ホルモン(エストロゲン)   黄体ホルモン(プロゲステロン)     

     ・卵胞成熟と女性二次性徴      ・妊娠維持。分泌 ↓ で月経

     ・排卵期に前に分泌増        ・排卵後~月経開始前に分泌増

 ※エストロゲンの役割:女性のプラス面=男性を魅了する女性美。卵を産むまでの役割。

 ※プロゲステロンの役割:女性のマイナス面=出産準備。卵をかえす(出産)までの役割。

★視床下部→下垂体前葉→卵巣!

3.受精から妊娠まで

 排卵後の卵子は約1日、また女性生殖器内の精子は2日の程度の寿命をもつ。

★排卵後の卵子の寿命は約1日、精子は2日!

1)受精

 成熟卵が卵巣から排出され、輸卵管を下降。これが卵管膨大部で膣から上がってきた精子と出会い、合して受精卵になる。

★受精するのは卵管膨大部!

2)着床

 受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管を下降し、子宮内膜に着床する。着床によって妊娠が成立する。

★受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管を下降、子宮内膜に着床!

3)胎盤 

 着床後に受精卵は胎盤をつくり、胎盤から栄養を摂取する。胎盤はヒト絨毛性ゴナドトロピンを分泌し、排卵後にできた卵巣の黄体を連続刺激する。妊娠によって黄体は退化せず、妊娠黄体に移行し、プロゲステロンを産生維持させる作用をもつ。これにより排卵・月経は阻止される。

★胎盤はヒト絨毛性ゴナドトロピンを分泌し、黄体を連続刺激→妊娠を維持!

 性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)

 -下垂体性

  ①排卵(日)を決定 

  ②排卵誘発剤←不妊症の治療として使用。

自然排卵では一度に一つの排卵だが、本剤使用により複数排卵と鳴る結果、多胎妊娠となることが多い。

★性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)によって排卵。不妊症の治療として使用される!

 -胎盤性(絨毛性)

  ①出産までプロゲステロンの分泌(妊娠環境維持)

  ②つわり(妊娠6~7週から出現し、1~2ヵ月続く)を起こす。

  ③妊娠判定←尿中の胎盤性ゴナドトロピンを検査

★絨毛性ゴナドトロピンによって、出産までプロゲステロン分泌。妊娠環境の維持!

4)妊娠の判定

 妊娠確定になるのは、医師の問診や超音波検査などにより、胎胞の中に胎児の心拍が確認できた時点。

★妊娠確定は、胎児の心拍が確認できた時点!

〇基礎体温

 基礎体温とは、食事や運動、気分など体温に影響を与えるような諸条件を避けて測った体温のこと。一般的に起床時の安静な状態で測定。

①基礎体温を調べている女性では、高温期が3週間以上続く(2週間は正常)ことで妊娠を疑う。基礎体温を調べていない女性では、あるべき月経が1週間経っても来ない場合に妊娠を疑う。

★高温期が3週間以上続けば妊娠を疑う!

②妊娠の正確な判定では、尿中にゴナドトロピン排出の確認による。先述の通り、妊娠確定となるのは胎児の心拍が確定できた時点。

※避妊(受胎調節)

 避妊法には、基礎体温法(リズム法)やピルなどがある。


・基礎体温法:
排卵日がわかれば翌々日からは妊娠の可能性はなくなるため、この時期の性交を控えて避妊する。しかし基礎体温を計っていても排卵日を確実に見つけることは困難であり、体調にも左右されるので注意が必要。あくまで補助的な方法と考えるべき。

・ピル

他に女性側でできるものとして、ピル(正式には混合型経口避妊薬)がある。ピルは、プロゲステロンとエストロゲンの混合薬剤のことで、プロゲステロン投与により、疑似妊娠状態をつくるので、新たに妊娠することはなくなる。この結果、子宮内膜が肥厚して子宮癌の危険が増すが、エストロゲンを加えることで子宮内膜の肥厚を制限している。ピルは毎日の服用を必要とする。避妊だけでなく、月経痛や過多月経、PMS、ニキビなどの症状改善にも作用する。

★ピルはプロゲステロンとエストロゲンの混合薬。疑似妊娠状態をつくる!

5)妊娠日数

 正常妊娠は、4週つまり28日を妊娠歴1ヵ月とし、40週280日が妊娠期間となる。週を数える起点は、最も(最終)の月経初日を0周0日とし、順に0周1日とする。従ってこの0周目月経中は、実際には妊娠していない。2週目になって精子と卵子が受精し、受精卵となり子宮に着床した時をもって、実際の妊娠となる。

★妊娠日数は40週280日が満日満週!

😊新月から次の新月まで、あるいは満月から次の満月まではおよそ29.5日。女性の生理のことを「月のもの」とよぶのは、月経周期と月様の満ち欠けがほぼ同じサイクルで行われているから。人間の女性も大宇宙に生きる一つの命です。一体いつからお月様は29.5日で地球の周りを周っているのでしょう? 一体いつから女性は月経の周期を営んでいるのでしょう? 昨今の月経にまつわる様々な問題の増加は、出産回数の減少が大きな原因と考えられています。だからといってすぐに子どもを産むというわけにもいきません。状況を好転させるために、せめて今よりもう少し、宇宙や大自然というものに思いを馳せることができたら、と思ったりします。

第2節 婦人科の主要疾患

1.子宮筋腫

1)原因

 子宮平滑筋にできた良性腫瘍。エストロゲン分泌により子宮筋腫が大きくなる。

2)一般事項

①子宮体部と子宮頸部にできる。子宮体部が多い(子宮癌は子宮頸部の方が多い)

②中年女性に多い。女性の20%が40才までに子宮筋腫になるが、大半の者は症状は出現しない。自覚症状ばなければ放置しても、問題はあまりない。

③卵巣が機能しなくなる更年期以降は、子宮と子宮筋腫ともに萎縮する。

④母親が子宮筋腫を発症している場合、その娘が子宮筋腫を発症するリスクは2.5倍との報告もある。

3)症状

①月経痛:子宮筋腫に筋腫ができ、子宮平滑筋の過緊張が生ずることによる。

②他臓器圧迫:他臓器を圧迫する程度に子宮筋腫が増大した場合。症状は頻尿が最も多い。多に便秘、腰痛、腹痛など。

4)筋腫の部位別の症状

 子宮内面にできた筋腫ほど症状は強い(月経血流を妨害するため)。主症状は、過多月経(→貧血)、月経困難症、ときに不正出血、下腹部痛、不妊。

①漿膜下筋腫:袋外側にできる。症状弱い。

②筋層内筋腫:最も高頻度。中程度の症状。

③粘膜下筋腫:袋内側にできる。強い症状。

5)治療

 小さいうちは放置。機能障害が起これば摘出手術(婦人科手術の8割以上を占める)。

★子宮内面にできた筋腫ほど症状は強い!

2.子宮癌

1)分類と特徴

子宮癌には、子宮頸癌と子宮体癌がある。子宮頸癌の比率が発展途上国で高いのに対し、欧米先進国では子宮体癌の比率が高い。

①子宮頸癌

 子宮頸癌はから部位的に、婦人科の診察で観察や検査がしやすく、発見されやすい。早期に発見すれば比較的治療しやすく予後のよいが進行すると治療が難しい。

 原因:HPV(ヒトパピローマウイルス)。ヒトパピローマウイルスとは、イボをつくるウィルスとして知られほか、子宮頸癌の原因としても有名。HPV自体は珍しくなく、性交経験のある女性のほとんどは一度は感染するが、9割の者は免疫によりウィルスが消滅する。残りの1割が残存し、長期感染者の0.15%に子宮癌が発生する。40~50才の経産婦に多い。

検査:検診時に内診機(コルポスコープ診)で容易に発見しやすい。

※子宮頸癌に対するワクチンについて

 わが国の場合、ハイリスクHPV感染による子宮頸癌は6割。子宮頸癌ワクチンにより、ハイリスクHPV感染を予防できる(すでに感染している場合には効果はない)。ただし副作用が強いこと、ワクチンは3回接種する必要があって自費で約5万円かかるため、問題視されている。

★子宮頸癌の原因は、HPV(ヒトパピローマウイルス)!

②子宮体癌(子宮内膜癌)

 子宮内膜はエストロゲンによって増殖し、プロゲステロンによって増殖が抑えられ、定期的に廃棄される。これにより子宮体癌は起こりにくい。しかし更年期が近づく、若くても卵巣の働きが悪い、出産歴がない(少ない)などの理由で、月経不順になると、排卵が周期的に起こっていないことが多く、そのためプロゲステロンが分泌されない時期が多くなる。そのため子宮内膜は、エストロゲンの影響で増殖し続け、前癌状態である子宮内膜増殖症という病変が発生する。そこに発癌因子が作用し、子宮体癌を発症すると考えられている。

原因:エストロゲン(卵胞ホルモン)による影響の蓄積。そのため中高年(50~60才)・初経が早い・閉経が遅い・出産歴がないなど、エストロゲン分泌が長期化した人はリスクが高くなる。近年増加傾向。

検査:簡単は検査がない。子宮頸癌に比べて発見しづらい。

2)症状

 不正出血および血性帯下(この2つが最も重要な症状)、過多月経。他に臓器圧迫症状(頻尿、排尿困難、便秘、腰痛、下肢痛など)。

★子宮体癌は、少子化(妊娠経験の減少)などにより増加傾向!

3.子宮内膜症

 本来子宮の内側の壁を覆っている子宮内膜が、子宮の内腔以外の部位(卵巣や腹膜、子宮壁の中など)に発生し、発育を続ける病気。肝臓の周囲や肺などに発症するケースもある。

1)原因

 月経開始後、エストロゲン分泌期間のトータルが長いほど子宮内膜症になりやすい。したがって40代でピークを迎える、エストロゲン分泌が休止(すなわち妊娠や授乳期)すれば、子宮内膜症になりかけの者も無月経の間に自然治癒するが、現代では初経が早くなる一方で結婚が遅く、少子化もあって昔に比べてエストロゲン分泌期間が長引いている。

 出産や授乳の機会が減って、日本の女性の生涯の「生理(月経)」回数が、かつては50回程度だったのが450回に増えてどもいわれている。 

★子宮内膜症のピークは40代。エストロゲンの分泌期間のトータルが長いほど本症に罹患しやすいため!

2)病態 

 月経時、月経血は膣外に排出されるが、わずかな月経血は卵管を逆流し、卵管開口部から腹腔に流れ込む。月経血中には、子宮内膜類似の細胞があるので、子宮内膜以外の場所にこの細胞が定着し活動する。

 子宮内膜症が発生しやすい場所は、卵巣や子宮、ダグラス窩(子宮と直腸の間のくぼみ)、膀胱や直腸など。

★子宮内膜症は、月経血中にあるわずかな子宮内膜類似細胞が卵管開口部から腹腔に逆流する!

3)症状

①続発性月経困難症の主原因となる。主症状は、月経時の下腹部痛・腰痛・性交時痛・不妊症。月経終了時に症状消退。

※性交痛の理由:子宮裏側の下部にできた子宮内膜症では、性交時にこの部が圧迫されて痛む。

②卵巣嚢腫や腹腔内癒着を合併する。※腹腔内着が手術を困難にしている。

③チョコレート嚢腫:卵巣内で子宮内膜細胞が蔵虚すると、古い月経血が貯留し、内用液がチョコレート色になるので、こうよばれる。

★子宮内膜症は続発性月経困難症の主原因!

4)治療

 とりあえずは月経を止める。月経を止める治療薬として、抗ゴナドトロピン放出ホルモン剤(視床下部に作用して、視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモンと拮抗させる)を使用。更年期はホルモン補充療法(傾口避妊薬など)。

 妊娠することは問題ないが、本症による不妊症は3割を占める。

 卵巣脳腫の合併や癒着が強い場合は、手術療法(子宮全摘または患部の部分摘出)。

★子宮内膜症の治療はとりあえず月経を止める。抗ゴナドトロピン放出ホルモン剤!

4.卵巣嚢腫と卵巣癌

 卵巣に発生する腫瘍。

1)卵巣嚢腫と卵巣癌の形態について

 卵巣嚢腫:嚢胞中の成分が充実性(=固体性)と液体性の2タイプある。大部分は液体性で、これをとくに卵巣嚢胞腫とよぶ。一部は固体性で、これを卵巣嚢腫とよび、これは卵巣の良性腫瘍である。

 卵巣癌:卵巣にできる悪性腫瘍で必ず固体性。

 すなわち卵巣の充実性腫瘍には、卵巣嚢腫と卵巣癌がある。卵巣の腫脹原因が、液体性であることが分かれば、少なくとも卵巣癌を否定できる。

★卵巣嚢胞腫→液体性、卵巣嚢腫(良性)→固体性、卵巣癌→固体性!

2)症状

 若年者には良性が、中年以降には悪性が多い。卵巣癌の頻度は多いわけではないが、早期に発見しにくいこと、膜に転移しやすいことなどで、死亡率は高い(治癒率3割)。

①小さい場合:卵巣は沈黙の臓器。卵巣嚢腫も卵巣癌も、初期であれば無症状。卵巣機能低下もなく月経も正常。やや大きくなれば腹部腫瘤を触知することがある。通常検診で発見される。開腹検査しなければ、厳密には両者を区別できない。

★開腹しなければ、卵巣嚢腫と卵巣癌の区別は厳密にはつかない!

②大きい場合:大きくなれば、腫瘍の卵巣実質の破壊などにより不正子宮出血。

③卵巣茎捻転:卵巣が大きくなると、重さで骨盤底に垂れるようになり、卵巣と子宮を結ぶ靭帯が「く」の字型になる。この状況で卵巣が捻転すると茎部も捻転し、突然、虚血性の下腹部激痛が発生する。(急性腹症→緊急手術を実施)

★卵巣嚢腫の症状として、不正子宮出血、卵巣茎捻転!

3)現代医学的治療

 良性腫瘍と確認できれば子宮筋腫と同様に経過観察する。大きくなるようであれば患側の卵巣嚢腫の摘出をする。妊娠を希望する場合は、可能であれば腫瘍部分のみを切除して卵巣を残す卵巣嚢腫摘出術が行われる。閉経前に卵巣を切除すると、卵巣欠落症候群(卵巣ホルモンの欠乏による強い更年期症状)が術後2ヵ月目位から生じ、2~4年続く。

★閉経前に卵巣を切除すると、卵巣欠落症候群が生じ2~4年くらい続く!

😊やまいだれに品の山と書いて「癌」。身辺を整理し、心身をいつもスッキリさせておけば、癌の予防になりますでしょうか。やまいだれに積もると書いて「癪」。癪とななんぞや?平安時代に書かれた「維新方」には、内臓に積んだ気が腫瘤となったものが癪であると記されていて、癪は癌(とくに胃癌)との説が有力です。癌、癪。昔の人は「多すぎる」ことがで問題が生じるととらえていたようです。食べ過ぎを改め、悩みを減らす、でスッキリ。

第3節 婦人科疾患の体表反応と鍼灸治療

1.婦人科内臓の内臓体壁

〇婦人科内臓           交感神経     骨盤神経(副交感神経)

卵巣・卵管・子宮・膣上部     ±)T10~L4      +

膣下部             -)L2~4 +

2.卵巣・卵管・子宮・膣上部の反応と治療点

 骨盤臓器は、副交感神経優位である。

 交感神経は、婦人科内臓を弱く支配するが、膣下部は支配していない。

★婦人科臓器は副交感神経(骨盤神経)優位!

1)副交感神経反応

 骨盤神経(S2~4)支配で、S3に相当する中髎を治療点として用いる。

★婦人科臓器にまつわる疾患には中髎鍼灸!

2)交感神経反応と脊髄神経反応 

 婦人科臓器はT10~L4と交感神経支配が非常に広範囲であるが、その体壁反応は弱いので鍼灸臨床上重視しなくてよい。

 しかし月経痛などでの強い痛みは、交感神経線維の興奮が大きくなるので同一脊髄分節から出る体性神経も興奮するが、L2~S2間は交感神経反応を脊髄に伝達する交通枝が欠如しているので脊髄神経反応は伝達されず、T10~L1デルマトーム上に体性神経反応(筋のコリ痛み、皮膚過敏)が出現する。これが高じれば自発痛(関連痛)を生じる。

※少腹急結:婦人科の血瘀証(血行鬱滞)を伺わせる重要な腹症で、左下腹部を指頭で軽く迅速に擦過したした際にみる擦過痛をいう。T11脊髄神経前皮枝の過敏反応と考えられる。

★L2~S2間は交感神経反応を脊髄に伝達する交通枝欠如。よって治療点は次髎(S2)ではなく中髎(S3)!

①T10~L1脊髄神経後枝支配

 後枝内側枝が表層に出る→脾兪~三焦兪

 後枝外側枝が表層に出る→京門、外志室

※京門(胆):第12肋骨前下際。腎募穴

②T10~L1脊髄神経前枝支配

 前枝の前皮枝が表層に出る→天枢~横骨付近

 なおL1脊髄神経に強い入力が加われば、腰神経叢(L1~3)全体が刺激され、腸骨化副神経、腸骨鼠経神経、陰部大腿神経などの走行上の筋痛や皮膚過敏を引き起こす。

〇卵巣・卵管・子宮・膣上皮反応の基本治療点

 前枝:T10~L1(天枢~横骨)

 後枝:T10~L1(脾兪~三焦兪)

 副交感神経(S3)(中髎)

天枢 (胃):臍の外方2寸

横骨 (腎):曲骨穴の外方5分

脾兪 (膀):T11・12棘突起間外方1.5寸

胃兪 (膀):T12・L1棘突起間外方1.5寸

三焦兪(膀):L1・ L2棘突起間外方1.5寸

中髎 (膀):第3後仙骨孔

★婦人科臓器疾患刺激点は、脾兪、胃兪、三焦兪、京門、外志室、天枢、横骨、中髎!

3.膣下部の反応と治療点

1)交感神経反応と脊髄神経反応:ほとんど出現しない。

2)副交感神経反応:骨盤神経(S2~4)支配で、S3に相当する中髎が代表。

3)陰部神経反応(脊髄神経)

 体性神経反応としてS2~4から出る陰部神経は、知覚線維は外陰部・陰核・膣下部に分布し、これらの部の知覚と運動をつかさどっている。

治療点は仙骨部(仙骨傍)では陰神経刺鍼点が、下腹部では中極・大赫が代表。

※陰部神経刺鍼点:上後腸骨棘と坐骨結節下端内側を結んだ線上で、上方から50~60%の領域。仙極靭帯上部の陰部神経の位置。2寸5番鍼で、本点より50mm刺入。得気が肛門、会陰部、陰核(茎)にいずれかにあるように刺鍼。

★陰部神経刺激は、陰部神経刺鍼点、中極・大赫!

〇膣下部反応点の基本治療点

・陰部神経(体性神経)(中髎、陰部神経刺鍼点、中極)

・骨盤神経(副交感神経)(S3)(中髎)

★膣下部反応点は、陰部神経→中極。骨盤神経→中髎!

😊大赫というツボの名前の由来。「赫」には、盛ん、はっきりと現れる、あかるい、などの意味があります。足少陰腎経と衝脈との交会穴で、陰(腎)気が盛んで精気が集まる場所(下腹部、中極の外5分)に位置しています。この経穴の深層には、子宮があり、妊娠時にここが大きく膨らむことから、この名が付けられました。

第4節 月経異常

 月経とは、性成熟した女性において、子宮内膜が周期的に剥離・脱落する際に生じる生理的出血のこと。思春期に始まり、閉経時期までの間におよそ28日周期で起こり、通常3~7日間続く(正常月経周期:25日から38日)。

 月経異常の訴えは、月経自体の異常と月経随伴症状(月経困難症)に分けられる。月経自体の異常は、身体の苦痛は伴わない。月経自体の異常で鍼灸を訪問することは多くはないが、不妊症などで来院する者の問診で知れることがある。

 苦痛が伴なうのは月経随伴症状であり、鍼灸院に来院する月経異常者は、月経随伴症状が多い。

★月経自体の異常は、不妊症で来院する際にわかるケースが多い!

1.月経の正常値

①初潮:平均初潮年齢は、12.2才(小学5年生)

    小学校高学年から中学生の間に所長が起こるのが正常。

 早発月経: 9才(小3)未満で初潮

 遅発月経:16才(高1)以降に初潮

②月経周期:平均28日周期で、28~30日が最も多い。26~38日間までが正常範囲。

 頻発月経→月経周期が25日以下。

 稀発月経→月経周期が38日以上で、年間月経回数は5~10回のもの。

③月経持続日数:3~5日間が最も多い。8日以上の持続は病的。

④月経量:50~250㎗で平均100㎗

★稀発月経は月経周期が38日以上!

2.月経そのものの異常

1)種類と原因

①卵巣は卵胞を産生する部なので、卵巣機能障害では月経を少なくする方向に導く。

②子宮は月経血を生ずる部であり、子宮機能障害では月経を多くする方向に導く。

③頻発過多月経と月経痛は重複しやすい。この場合、子宮筋腫・子宮癌や子宮内膜症を疑う。

 ・月経周期異常  ― 視床下部の障害

 ・続発性無月経  ― 精神性、高プロラクチン血症

          \

 ・稀発性過少月経 ― 卵巣の問題

 ・頻発性過少月経 \

 ・月経痛     ― 子宮の問題(子宮筋腫、子宮癌、子宮内膜症など)

                  →器質的疾患により生じた月経痛

★卵巣機能障害→月経を少なくする。子宮機能障害→月経を多くする!

・原発性無月経

 定義:18才以上になっても初潮か来ない場合

 原因:大部分は先天性のもの

 視床下部・下垂体の障害、卵巣の障害、ミュラー管分化異常など。高ゴナドトロピン性である卵巣の障害が最も多い。

※ミュラー管分化異常:胎生期にミュラー管から子宮、卵管、腟などが形成される。ミュラー管が発生途中で障害され、これらの臓器に起こる欠損。

★原発性無月経の多くは先天性のもの!

・続発性無月経

 定義:前回の月経から8週間以上、月経がない場合

 原因:中枢性)間脳(視床下部)-下垂体機能の異常による

     例:ストレス、神経性食思不振症、高プロラクチン血症→下垂体腫瘍

    末梢性)卵巣機能の低下による

     例:卵巣腫瘍、性腺形成不全

※高プロラクチン血症の病的要因としてもっとも多いのがプロラクチノーマ(良性の下垂体腫瘍)。

★続発性無月経の原因は、ストレス、高プロラクチン血症→下垂体腫瘍など!

・頻発過多月経

 定義:前回の月経から24日以内に次の月経が始まる性周期異常。

 頻発+過長(8日以上出血が続く)+月経量過多

 原因:月経随伴症状を伴なうことが多い。大部分は子宮筋腫

★頻発過多月経の原因の大部分は子宮筋腫!

・稀発過少月経

 定義:39日以上たっても次の月経が始まらない状態のこと。

    稀発+過短(出血が2日以内で終わってしまう)+月経量過少

 原因:自覚的な苦痛はあまり感じない。卵巣機能の異常が多い。

★稀発過少月経の原因は卵巣機能の異常が多い!

2)女子スポーツ選手の無月経と易骨折

 女子スポーツ選手は、競技成績を上げるため、体重を制限している者が少なくない。ヒトの身体は、体重が著しく減少するなど、いわば飢餓状態だと認識して体そのものを守ることを優先して生殖機能を後回しにし、月経が止まってしまう。無月経になると、女性ホルモンの値が下がる。女性ホルモンは骨を守る働きもしているため、無月経になることで骨が弱くなり、骨折しやすくなる。

 この理論は、ストレス過多では自分の身体を守ることを優先し、生殖機能を後回しにすることで無月経となり、ひいては不妊になる状況に対する治療指針となろう。すなわちストレスを減らすことが無月経や不妊改善に貢献するという理論が生まれる。

 月経がきちんと発来するような「女の体」になってしまっては競技力が低下する、と豪語する指導者まで存在する。しかし、思春期から性成熟期の女性アスリートにとっては、排卵があり月経があることは、「身体が妊娠可能な余力を残している」という指標でもある。したがって、月経に伴うコンディショニングや貧血の問題、懸念に対して適切に対応しないと、「無月経の方がまし」という誤った観念を助長することに繋がってしまう。(『女性アスリートのコンディショニングと栄養』埼玉医科大学病院 産婦人科 難波聡)

★体重制限→無月経→女性ホルモン値低下→易骨折!

3.不正出血

 定義:月経と無関係に起こる性器からの出血

 疾患:膣、子宮出血が大部分。

 原因:炎症、ホルモン異常、良性の腫瘍、流産など。機能性出血が 多いが、子宮癌の重大症状。

★不正出血は重大な病気が原因となっていることもある!

4.帯下(たいげ、こしけ、おりもの)

 定義:膣、子宮からの分泌物のこと。狭義には白帯下(血液を含めない)のこと。正常でも膣の自浄作用のため、無色透明~半透明の少量の帯下はある。無色・白色であれば、あまり心配はいらない。閉経後に帯下はなくなる。

 血性帯下(=赤帯下)は、子宮癌を疑う。血性帯下が続いた場合、不正性器出血を考える。

 ※古典では、「帯下に赤白あり、赤い場合が血の不調。白い場合は気の不調」としている。

 疾患:異常帯下の9割は膣性(トリコモナス膣炎、カンジタ膣炎など)

★異常帯下の9割は膣性(トリコモナス膣炎、カンジタ膣炎など)!

①トリコモナス膣炎

 帯下を起こす最多の疾患。膣トリコモナス原虫症。悪臭(腐敗した魚)+おりもの。

 外陰部が湿って不快。掻痒あり。

②カンジタ膣炎

 外陰膣菌症。2番目に多い。帯下量、色、臭い(酒粕臭)は普通。

 強烈な痒み+おりもの。

★帯下を起こす最多の疾患はトリコモナス膣炎、2番目はカンジタ膣炎!

第5節 月経随伴症と鍼灸治療

第1項 月経前症候群(PMS)

 月経が開始する3~10日ほど前から身体的、精神的に現れる不快なさまざまな症状。これらの症状は月経が開始すると同時に改善する。なかでも著しい気分変調を来すものは月経前不快気分障害(PMDD)と呼ばれる精神疾患のひとつとして考えられ、抗うつ薬などを使用することもある。

★月経前症候群(PMS)のなかでも、著しい気分変調を来すものを月経前不快気分障害(PMDD)とよぶ!

1.原因

 黄体ホルモン(プロゲステロン)は、高温期(=黄体期)すなわち月経前1週間~月経開始直前に、最も多く分泌される。黄体ホルモンには体温上昇作用の他に、来るべき月経に備えて水分貯留作用(=浮腫)が起こる。水分貯留は電解質の乱れを引き起こし、身体・精神症状が起こる。

★黄体ホルモンにも水分貯留作用もある!

2.症状

1)身体症状:特徴的なのは、乳房痛と浮腫

 頭痛60%、乳房痛79%、胃腸症状、水分貯留症状(浮腫、体重増加)、顔面紅潮、ニキビ

2)精神症状:イライラ、不安、、緊張感、情緒不安定、抑鬱、疲労感、傾眠不眠、嗜好変化

★PMSで特徴的なのは乳房痛と浮腫!

3.現代医学的治療

 対症療法以外にない。症状自体は、月経困難症の方がはるかに強い。

★月経前症候群(PMS)の現代医学治療は対症療法だけ!

第2項 月経困難症

 月経困難症とは、月経痛が非常に強くなる病気のこと。様々な症状を伴なうこともある。

 子宮などの臓器に異常がみられない機能性のものと、子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が原因で引き起こされる器質性のものとがある。治療法としては、低用量ピル(排卵を抑制する)、黄体ホルモン製剤、手術など。

★月経困難症には、器質性と機能性がある!

1.月経痛

 下腹部不快感、下腹部痛、腰痛や肛門に響く痛み、頭痛。月経開始日やその前日位から始まり、月経終了時まで持続する。

 日常生活を妨げない程度の苦痛(多くは月経1~2日目の下腹の鈍痛)は生理的な範囲とみなし、月経困難症とはよばない。

 ・月経痛:下腹痛(痙攣性)82%、腰痛44%

 ・全身症状:悪心嘔吐89%、易疲労85%、イライラ67%、下痢60%、めまい60%、頭痛45%

★月経痛は下腹痛、腰痛。全身症状は悪心嘔吐、易疲労、イライラ、下痢、めまい、頭痛!

2.分類(重要)

 来院する月経困難症の中から、器質性月経困難症を除外した後に治療を開始する。

〇機能性(原発性)月経困難症

 年令:思春期女性。初経から1~2年以内

 痛みの始まり:月経直後から開始時期

 痛む部位:下腹部が主体

 付帯症状:頭痛・悪心嘔吐・下痢等

 症状の推移:成熟とともに軽快

 痛みの原因:子宮頸管の過緊張、強い子宮収縮

★月経痛の原因は子宮頸管の過緊張と強い子宮収縮!

〇器質性月経困難症

 年令:20~30才代以上の女性。初経から2~3年以降

 痛みの始まり:月経数日前から。または月経と無関係

 痛む部位:広い範囲

 付帯症状:異常出血や異常帯下

 症状の推移:年々増加傾向

 痛みの原因:原疾患→子宮筋腫、子宮内膜症

★器質性月経困難症、痛みの原因は子宮筋腫、子宮内膜症!

<月経痛に対する開業鍼灸師の判断指針>

思春期~10代女性で月経直後から開始時期の痛みか? はい→機能性月経痛

    いいえ ↓  

    20~30代女性か? はい→子宮内膜症 

                →エストロゲン分泌期間が長いほど出やすい。

    いいえ ↓

    中年女性か?    はい→子宮筋腫・子宮癌・子宮内膜症  

               →エストロゲン分泌期間が長いほど出やすい。

 

 ※月経は正常→卵巣嚢腫、卵巣癌(初期)。※卵巣は症状が出にくい

 ※月経痛+不妊→子宮内膜症

★子宮内膜症、子宮筋腫、子宮癌はいずれもエストロゲン期間が長いほど出やすい!

3.原発性月経困難症の痛みの機序

1)過剰なプロスタグランジン産生

 黄体期には子宮内膜でプロゲステロンからプロスタグランジン(PG)が産生される。過剰なPG産生は、子宮筋収縮の過剰→子宮内圧亢進→子宮筋の虚血 という悪循環で月経痛が生ずる。

 月経時に見られる嘔気、嘔吐、腰痛、下痢、頭痛などの全身症状はPGとその代謝物質が子宮内に限局せず。体循環に流入することによる。

 ※プロスタグランジン(PG)

  細胞や血小板でつくられるホルモンの総称で、炎症性疼痛を起こす物質。PGが胃や食道で増えれば嘔吐に、腸で増えれば下痢に、気管支では咳に、頭部血管が収縮すれば頭痛になる。そして子宮で増えれば強い月経痛になる。

 この仕組みから分娩促進剤としても用いられる。アスピリンは、プロスタグランジン合成を阻止することで消炎鎮痛剤作用をもたらす。(アスピリンがなぜ消炎鎮痛効果をもつのか、長い間不明だった)

★月経痛の理由の一つが、黄体期に子宮内膜でプロゲステロンからつくられるプロスタグランジンによるもの!

2)子宮頸管の過緊張

 出産経験のない若い女性では子宮頸管が緊張して固く閉じていることが多い。このような場合、月経血を外に出そうとすれば、子宮頸部を無理に押し流すようになるので、強い子宮収縮や子宮痙攣が起こる。

 子宮頸管とは:胎児が出産のときに出てくる通路。産道。通常は40mmほどだが、妊娠後期になり、子宮が大きく膨らむと、それに伴い子宮頸管長が短くなる。

★月経痛の理由の一つが、子宮頸管の過緊張!

4.月経痛の鍼灸治療

1)治療の考え方 

 月経痛は、プロスタグランジン産生による子宮頚平滑筋の収縮によるとされるが、末梢神経的にはS2以下の脊髄神経興奮が症状をもたらしていることが多い。

 最近の研究では、鍼による月経痛鎮静作用は、子宮収縮の程度を弱めるのではなく、関連痛の鎮痛によるものだとしている。すなわち脊髄神経の興奮緩和が鍼の治効理由ということ。ゆえに陰部神経刺鍼点・中髎・中極などの刺激が効果的となる。

★月経痛は、末梢神経的にはS2以下の脊髄神経の興奮。よって、陰神経刺鍼点・中髎・中極を取穴!

2)高岡による生理痛の皮内針治療(高岡松雄「痛みのハリ治療」医道の日本社)

①圧痛点の調査

 月経痛で出現しやすい圧痛点

 腰陽関(L4・5棘突起間)83%、上仙(L5・S1棘突起間)22%、三陰交(内果の上3寸骨際)88%であった。

 似田先生註:子宮内臓興奮→交感神経を介して腰神経叢興奮→腰神経前枝・後枝反応

★月経痛で圧痛点が出現しやすいのは、腰陽関、上仙、三陰交!

②皮内鍼治療

 これら3ヵ所の圧痛点に、次回月経予定日の2~14日前から皮内鍼を貼ると、18名中、著効11名(痛みまったく消失)、軽減6名、無効1名(直後は痛み消失したが、3ヵ月後再発)だた。皮内鍼後に、なお残存する腰腹部の重苦しい感じは内臓痛であり、皮内針で速効させるのは困難。

★月経痛時の皮内鍼で、腰陽関、上仙、三陰交の有効率は9割以上!

6.三陰交について

1)古来から産婦人科症状に対して、三陰交が多用されている。この理由は不明だが、次のような見解がある。これらを総合すると三陰交は子宮平滑筋(とくに子宮頸部)を緩めて血行をよくする効能があると考えられる。これに対して、逆子矯正で有名な至陰の灸には、子宮体部平滑筋の緊張を緩める効果があると考えられる。

★産婦人科症状に三陰交が効くのは、子宮平滑筋(とくに子宮頸部)を緩めて血行をよくするから!

①三陰交がS2デルマトーム上にあることで八髎穴と同じような用途がある。

 八髎穴と同様の効果をもつ下肢遠隔治療穴に裏内庭があり、裏内庭は急性食中毒による下痢・下腹部痛に効果があるとされる。一般には肛門に近い病変ほど症状が激しくなるので、裏内庭は直腸~下部大腸の病変をカバーする。同じことが三陰交も言え、子宮頸部平滑筋の緊張による痛みに効果があるのではないか?

 妊娠初期に三陰交が禁忌とされるのは、子宮頸部を緩めることで、墜胎につながる恐れが考えられる。

 ※デルマトーム上で、三陰交はL2支配領域に位置するがS2神経の関与もあるのか?S2遠隔治療領域にあるのは承筋や承山?

★三陰交はデルマトーム上、S2領域でもあるため、八髎穴と同じ作用をもつと考えられる!

②三陰交の皮神経支配は伏在神経。

 伏在神経(知覚性)は大腿神経(知覚性・運動性)の枝で、大腿神経は腰神経叢(L1~3)からの枝である。腰神経叢からは腸骨下腿神経や腸骨鼡径神経が出て、鼡径部や下腹部を知覚支配しているので、これらの痛みに有効なことが予想できる。伏在神経は皮膚知覚支配なので、三陰交には、灸や皮内鍼などの皮膚刺激が適する。

 なお伏在神経刺激点は三陰交だけとは限らない。伏在神経は次の3ヵ所で神経絞扼を生じやすい。

★腰神経叢→大腿神経→伏在神経(皮膚知覚支配、三陰交)!

a.伏在神経が内転筋を貫く処(≒陰包(肝))

 陰包:曲泉穴と足五里穴を結ぶ線上で、大腿骨内側上踝の上4寸、縫工筋と薄筋の間。ただし曲泉は膝を深く屈し、膝窩横紋の内端にとる。

 足五里:前正中線から横2寸、鼠経溝の上に気衝をとり、その外方3寸で大腿動脈拍動部にとる。

b.伏在神経の膝蓋下枝が急に走行を変える処(≒曲泉)

★三陰交以外の伏在神経刺激点→陰包(肝)、足五里(肝)、曲泉(肝)!

2)三陰交皮内鍼は、下腹痛を軽減する

 月経痛の治療で、腰部反応点のみに皮内鍼をすると、たいていは腰痛・下肢痛ともに消失するが、なかには下肢痛のみ残存することがあり、このような場合には三陰交に皮内鍼を追加することで下肢痛は消失できると高岡松雄氏は記している。

★月経痛の下肢痛に三陰交の皮内鍼が有効!

3)三陰交には月経困難症予防効果がある

 遠藤美咲氏らは20名の月経困難症に対し、週1回皮内鍼を交換する方法で、3周期の改善度を調べたところ、著効10%、有効45%、やや有効30%、無効15%となり、半数以上の者に対して月経困難症を半分以下に抑えることができた。普段体調がよい者ほど効きがよく、治療前の月経困難症の程度が軽い者ほど有効性が高かった。

★三陰交は月経困難症の予防に有効!

第6節 不妊症

1.定義

 不妊症とは健康な男女が一定期間(約1年)避妊をせずに性交しているにもかかわらず、妊娠に至らない状態。

一般的に排卵日付近に避妊せず性交をして妊娠する確率は約20%、3か月で約50%、6か月で約70%、1年以内には約90%が妊娠に至る。男女共に年齢が上がるにつれて妊娠する力が低下、とくに女性では35歳を過ぎると妊娠率が大きく低下するが、30歳代であっても多くの場合1年以内に妊娠する。

日本産科婦人科学会は2015年、妊娠を望んでも2年かなわない状態と定義している不妊症について、「2年」を「1年」に見直すことを発表した。以前は約10組に1組のカップルが不妊であるといわれていたが、近年では晩婚化等の理由で妊娠を考える年齢が高くなっていることもあり、不妊症の割合はさらに高くなってきていると考えられている。実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は18.2%(国立社会保障・人口問題研究所 2015年)となっており、カップルの5.5組に1組が不妊症と考えられる。

★カップルの5.5組に1組が不妊症!

2.原因

 女性側の不妊症には主に4つの原因が考えられる。卵子の質が低下しているもの(加齢など)、排卵がうまく行われないもの(卵巣機能低下、視床下部性、高プロラクチン血症など)、卵管に問題があるもの(卵管炎)、子宮に問題があるもの(子宮内膜症、子宮筋腫、黄体機能不全など)。

※ピックアップ障害は卵管に問題がある場合に含めて考える。

 不妊の原因は女性側1/2、男性1/4、不明1/4。不妊の原因は複数因子が存在することも多く、原因追及は難しいことが多い。これを機能性不妊症とよんでいる。

1)女性不妊症

 最多は子宮内膜症。他に卵管通過障害、黄体機能不全、高プロラクチン血症、子宮内膜の増殖不全、クラミジア感染などによる卵管炎、卵巣機能低下、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺機能の異常、抗精子抗体など

※卵管通過障害の原因:

クラミジアによる骨盤内感染症、子宮内膜症、チョコレート嚢腫。治療としては原疾患に対しての薬物療法。手術。

※多嚢胞性卵巣症候群:

 卵巣で通常より多くの男性ホルモンが分泌されることによって卵胞の成熟に時間がかかり、排卵しにくくなる病気。これにより月経周期が長くなる・不規則になるといった月経異常が引き起こされる。男性ホルモンが多いことから、ニキビ・毛深くなる・体重増加などを伴なう。

★器質性女性不妊症の原因で最も多いのは子宮内膜症!

2)男性不妊症

 大部分は造成機能障害。他に精子通過障害やインポテンス(ED)。特発性=原因不明)の造成機能障害があり、効果のある治療薬もない。

〇造精機能障害

・視床下部・下垂体障害

脳の障害により男性ホルモン分泌する機能低下によって、精子の形成に影響が及ぶもの。

・精巣炎

流行性耳下腺炎(おたふく風邪)などに伴う精巣の炎症。精巣炎の治癒後、精子数の減少をきたすことがある。

・精索静脈瘤

 精巣静脈に逆流が生じ、血管に瘤ができ。男性不妊のおよそ30%。痛みを生じることもある。

・停留精巣

精巣が陰嚢に下降しきっていない先天異常。

・染色体異常

染色体の異常による精巣の形成が障害。

〇精路通過障害

 先天性の病気や、精巣上体に細菌が入り込むことによって起こる精巣上体炎などによって、精子の通り道が塞がれるなど、精子が精液に含まれにくくなるもの。

★男性不妊症の原因の大部分は造成機能障害!

3.所見

①基礎体温:二相に分かれ、かつ高温期が長ければ妊娠できる可能性は高い(排卵の後、高温相に移行する)。低温相と高温相の差が0.3℃以上、また月経開始時に高温相から低温相に顕著に下降するのが正常。高温期が10日以内であれば、黄体機能不全を疑う。

※黄体機能不全:排卵後に形成される黄体からのエストロゲン・プロゲステロンの分泌不全により、子宮内膜が十分な厚さにならない状態。

★低温相と高温相の差は0.3℃!

②乳房:乳房の発育が悪ければ女性ホルモンの低下の可能性。

③乳汁漏:高プロラクチン血症を疑う。無月経や過少月経の可能性。

※高プロラクチン血症:催乳ホルモン分泌亢進。子を産んでいないのに乳汁分泌がある。授乳状態の体内環境になっているので、生理は停止し、妊娠もしない(不妊症の原因)。性欲低下もする。単なるストレスが原因で生ずることもあるが、下垂体性(下垂体腫瘍、シモンズ病)や薬剤性も多い。

★乳汁漏れは高プロラクチン血症を疑う!

④男性化徴候:全身の発毛状態、声調、体格など。女性ホルモン投与で改善の可能性あり。

石門:古来、不妊の女性は、石女(うまずめ=不生女)といわれ、さげすまれた。臍下2寸には石門穴があるが、石門穴が石のように固い(あるいは冷たい)と、妊娠できないと云われてきた。

帰来:昔中国では、結婚後3年経っても子宝に恵まれぬ病弱な嫁は、離縁され実家に帰された。しかし、実家で帰来(胃経。下腹部で天枢穴の下4寸、中極穴の外2寸)を使って元気になり、不妊症だった嫁も再び、夫の元に戻ることができた。すなわち本来帰るべきところに帰ってきた。そうしたことが帰来の由来になったという説がある。帰来は、古くは「歸來」と書き表した。この「歸」という字には「とつぐ、嫁に行く」という意味がある。(帰来堂鍼灸院HPより)

😊石門穴について。「石」は詰まって通らない、「門」は開合(開閉)する場所という意味。古来、石門に鍼をすると、石の門が固く閉ざされてしまい、子どもができなくなるという理由から、女性の禁忌穴とされていました。しかし石門穴の周囲には、不妊症治療に用いるツボが多数あります(関元、中極、気海、子宮など)。にも関わらず、なぜ石門穴だけが禁忌穴なのでしょうか?解釈はさまざまあるでしょうが、ここ(下腹部)に鍼灸を行うときは「他の処以上に慎重に」ということではないかと思います。

1)排卵誘発剤

 不妊治療で排卵誘発薬を用いるケース

①排卵障害、②排卵はあるものの、タイミング指導などでは妊娠しないときのステップアップ、③人工授精を行う場合、④生殖補助医療を行うために採卵をする場合等。
 

 生殖補助医療では多数の成熟卵を採取する目的で、ゴナドトロピン製剤などで強力に刺激。(調節卵巣刺激)する。

〇クロミフェンクエン酸塩製剤(クロミッド)およびシクロフェニル製剤(セキソビット)

 対象:比較的軽い視床下部性排卵障害(内服剤であり、通院が少なく副作用が少ないので投与しやすい)。人工授精を行う際、適切な排卵日を設定するためにも用いられる。

 性機能中枢である視床下部に作用してゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌を高め、最終的に下垂体からの黄体化ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進する。

〇ゴナドトロピン製剤(注射剤)

 対象:無排卵、無月経など。

 強力な排卵誘発効果をもつ。一方で、副作用として多発排卵による多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群などの発生頻度が高い。
 一般に、hMGやFSH製剤を連日投与して卵胞の発育を促し、一定の大きさに達し後、LH作用のあるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を投与して排卵を誘起させる。

hMG:ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン:女性ホルモン分泌のために卵巣を刺激するホルモン

hMC:ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン:ヒトの胎盤から分泌されるホルモン、排卵誘起作用

★hMGで卵胞の発育を促し、hCGで排卵を誘起させる!

〇ドパミン作動薬

高プロラクチン性排卵障害に対して用いられる。血中プロラクチン値が低下すると、高い確率で排卵が回復する。

★排卵誘発剤はクロミッド・セキソビット(内服)。ゴナドトロピン製剤(注射)!

2)人工授精

 人工的に子宮に注入し体内受精を促す方法のこと。精子と卵子の出会いを助けるだけ
 体外受精は、卵1個に対して10万から20万の運動精子が必要。
男性不妊の障害もかなりクリアできます。

1回1~3万円。保険は効かないが一部助成金が出る。夫から取り出した精子を妻の子宮に入れる。成功率2割。成功例では4回以内で7割が妊娠に成功する。これで妊娠できなければ体外受精を検討する。1回1~3万円。

★人工授精は精子と卵子の出会いを助けるだけ!

3)体外受精

 卵子と精子を取り出して人工的に受精しやすい環境において精子自身の自然の力で受精させ、できた受精卵をに体内に戻す方法。
 体外受精と呼んでいるのは媒精という方法で、採ってきた卵子に精子をふりかけて、精子が自然と入っていくのを待つ。1回20~60万円

★体外受精は、精子自身の自然の力で受精→受精卵を体内に戻す!

4)顕微授精

 顕微鏡下で1ぴきの精子を捕まえて卵の中に注入する方法。受精卵が出来た後は、体外受精と同様に培養して子宮に戻す。約80%は3回までに、約90%は5回まで妊娠に至る。卵管通過障害では、本治療を行う。1回25~75万円

★人工授精、体外授精(培養)、顕微授精とステップアップ!

6.女性の機能性不妊症の原因

 受精卵が着床するため大きな条件が、子宮内膜の血流増加が豊富なこと。その子宮内膜の血流量を減少させる要因にストレスがある。ストレスがあると、鬱血および末梢循環を減少させ、「冷え」をひどくする元凶となる。冷えが瘀血を生じて、子宮・卵巣・卵管の血流量が減少すると、おのずと卵胞の発育成熟も遅れて無排卵になる。同時に子宮頸管粘液の分泌機能に障害をきたして受精・着床障害を起こすことも考えられる。

★ストレス→末梢循環減少→冷え→瘀血→子宮・卵巣・卵管の血流低下→卵胞の発育不全→無排卵。同時に子宮頸管粘液の分泌低下→授精。着床障害! 

7.女性不妊症に対する鍼灸治療

1)鍼灸治療成績 

 不妊の鍼灸治療を受けようとする者は、人工授精や体外受精を行っていることが多いため、鍼灸単独での治療効果は判然としないが、総合的には約5割程度の妊娠成功率であるとされている。現代医療での成功率が3~4割程度なので、1~2割程度の上積みが針灸の効果だろうとする厳しい見解もある。

 懐疑的な見方も少なくない中で、<不妊針灸ネットワーク>が立ち上げられている。鍼灸による不妊症改善率向上、客観的論拠などの最新知見を、巷の鍼灸師に普及させるべく努力が行われており、全般的に鍼灸治療成績は向上しつつある。

①越智正憲氏(産婦人科医)の見解

 東洋医学だけでの機能性不妊施術の妊娠率は5%以下に過ぎない。その理由は、機能性不妊症の90%以上は、卵管采でのピックアップ障害か精子の受精障害であって、これらの障害には東洋医学の効果は全くない(越智正憲:「概説 不妊症の検査と施術」医道の日本 第752号 平成18年6月号 より)

★機能性不妊症の90%を占める卵管采でのピックアップ障害もしくは精子の受精障害であり、それらの改善に東洋医学の効果は全くない、という意見もある!

②形井秀一氏(前日本伝統鍼灸学会会)の治療結果

 約3年間に不妊患者20名に対して鍼灸治療を試みた。11回以上治療を受けた15例についての平均治療回数は27.4回、治療期間は平均11.7ヵ月だった。このうち妊娠に至ったのは4例だった。この4名はいずれも21回以上治療をしたものだった。妊娠した4例の治療回数は13~27回で治療日数は95~274日であった。(形井秀一:婦人科疾患に対する鍼灸治療「鍼灸臨床の科学」医歯薬出版、20009.25)

 ※端的にいえば、妊娠成功者は、20例中4例で、成功率20%になる。

2)鍼灸治療の考え方 

 自分自身の生命が不安定な状況では、新しい生命を誕生させる余力がない。機能性不妊症では、基本的には母体がある一定以上に健康体である必要がある。不妊に対して鍼灸ができるアプローチとしては、①子宮内膜を厚くすること、②子宮・卵巣に対する血流動態の改善、 ③ストレス改善が考えられている。

★不妊に対して鍼灸ができることは、子宮内膜の増殖、子宮・卵巣の血流改善、ストレス改善!

①子宮内膜を厚くし、子宮・卵巣に対する血流動態を改善。

 子宮内膜が厚くならない場合にその改善を目指す。内膜が8mm以上と未満とでは、体外授精の妊娠率も有意に異なることが知られている。内膜の状態は妊娠率を左右する。大切なのは子宮周辺の血行の促進が内膜の厚さに関与するという研究結果があることで、局所の血行促進は、鍼灸の得意とするところである。

 子宮血流に関係している子宮動脈の血流において9割の者に改善がみられた。また子宮内膜と関係している子宮放射状動脈の血流がの改善が7割の者にみられた。

(俵史子、本庄久司他「中髎穴刺針が不妊患者の子宮・卵巣血流に及ぼす景況」全日本針灸学会)

 本治療法は、左右中髎穴から斜刺深刺し、左右で計10分間上下動の少ない雀啄を行った。

★子宮内膜は8mm未満では妊娠しにくい!

②ストレスの緩和

 卵巣は視床下部から脳下垂体を経て、ホルモンによる指令を受けるが、ストレスが大きいと、この指令に不調和を起こす。ゆったりとした治療でストレスの緩和を行う。

★鍼灸にて視床下部-下垂体に働きかける!

第7節 産科の主要疾患

1.妊娠嘔吐(つわり)

1)病態

 妊娠初期の6~7週で現れ1~2ヵ月続く吐き気、むかつき。とくに早朝空腹時に強い。妊娠12~16週ごろにはよくなることが多い。妊娠の初期症状。妊婦の50~80%に起こる。つわりの程度がひどいものを妊娠悪阻(つわり者の1%)とよぶ。栄養状態が多少悪くなっても胎児の影響を与えないことがほとんど。つわりによって体重が5%減少した場合、点滴治療が必要になることがある。

★つわりは早朝空腹時に強い!

2)原因

 妊娠すると、妊娠を維持するために黄体ホルモンが出続け、このホルモンの影響で消化器系の運動性が低下することで、つわりが生ずる。また胎盤性ゴナドトロピンが分泌され、CTZ(第4脳室にある嘔吐刺激を中継するところ)仲介により嘔吐中枢を刺激するとされる。

★妊娠→黄体ホルモン→消化器系の運動性低下→つわり!

※妊娠により胎児という異臓器が体内に存在することによる、一種の拒否反応だとする考え方もできる。妊娠初期は流産しやすく。「つわり」があることで安静を維持できるという面もある。

※嘔吐症状が強く、しっかりと食事が摂れない状態が続くと、身体のエネルギー源であるブドウ糖を消費しつくし、ダイエットしている状態になる。ブドウ糖の不足を感知した肝臓はケトン体を含む脂肪酸を生成するようになり、脂肪酸をブドウ糖の代用エネルギー源として使用するようになる。このため体脂肪減少が著しくなり、この状況では血中のケトン体値が上昇する。このような場合、ブドウ糖を点滴する。

★つわりは、妊娠中に出続ける黄体ホルモンの影響で消化器系の運動性低下による!

3)鍼灸治療

 妊娠中(とくに妊娠3ヵ月まで。この頃までに胎児の主要器官は完成する)は胎児奇形を防ぐ意味から、薬物やX線撮影は極力使用すべきではないので、鍼灸の意義は大きい。鍼灸治療は、通常の悪心嘔吐の鍼灸治療と同じように、胃に働きかける目的で、上腹部や中背部を刺激するのが普通である。

 なお妊娠2~3週は、下腹部の刺激を避けた方がよい。合谷はよく堕胎に使われるとされているが、この部分の重治が強いドーゼになりやすい(響きやすい)ためだろうと代田文彦氏は話していたとのこと(似田先生)

★つわり防止の治療点は、上腹部や中背部!

①内関の指圧

 1997年、アメリカでつわり症状に対する内関指圧の有効性が認められた。つわり症状を有する妊婦を対象に、内関指圧群と内関付近の非経穴指圧群に二分し、つわり症状の出やすい朝に十分間の指圧刺激を行い。悪心と嘔吐のスコアを比較した。その結果、内関は非経穴に比べて、悪心嘔吐とも有意に効果があることを認めた。

(笹岡知子:東洋医学でみる「妊娠悪阻」医道の日本、第677号(平成12年8月号)

★つわりに内関穴指圧が有効!

③高岡松雄氏の皮内針治療(「医家のため痛みのハリ治療」医道の日本社、昭和55年)

 つわりでは、日中起きている時に吐き気や不快感が強いが、夜間就寝時には少ないことから、立位で反応点を診察する。 

 壁に背中をつけた姿勢で上腹部を探ると、巨闕~中脘あたりの任脈を中心に圧痛点が発見できる。また壁に胸腹をつけた姿勢で腰背部を探すと脾兪~胃兪あたりで、胃の裏あたりに相当する起立筋上に圧痛点を発見できる。これらの反応点に皮内鍼は貼る。

 似田先生考察:CTZ→延髄→横隔膜というルートではなく、横隔膜過敏反応を緩めた結果であろう。

※CTZ(Chemoreceptor trigger zone):第四脳室底にあり、脳内刺激、前庭刺激、代謝異常や嘔吐惹起物質などの刺激をCTを延髄にある嘔吐中枢に伝えるところ。

★つわりに、巨闕、上脘、中脘、脾兪、胃兪の皮内鍼が有効!

2.妊娠高血圧症候群(旧称:妊娠中毒症)

1)定義

 妊娠24週以降に生ずる高血圧。浮腫(体重増加)、尿蛋白、高血圧。子癇前症ともよぶ。

2)分類

①純粋妊娠中毒症(妊娠24週以降に現れる)

 体や胎児の変化に妊婦の身体が対応できず、腎機能が低下することが考えられている。

 糸球体腎炎の症状に似ている。出産を修了すると症状は消失する。

 ※糸球体腎炎:腎臓の糸球体が炎症を起こす病気。浮腫、高血圧を特徴とする。原因は、感染症、遺伝性疾患、自己免疫疾患など。

②混合型妊娠中毒症

 以前から基礎疾患があり、妊娠によって症状が憎悪または顕在化したもの。

 腎疾患、高血圧、動脈硬化、内分泌疾患など。

③子癇(しかん)

 妊娠中毒により起きたテンカン痙攣発作。機序は不明だが脳血管収縮や脳浮腫だとされる。子癇が起これば、母体は重症。

★子癇とは、明らかな原因のない妊娠中の痙攣発作!

3)検査所見:BUN(尿素窒素)↑、PSP(クレアチニンクリアランス)↓

 ※尿素窒素は、血中蛋白質の老廃物。クレアチニンは、筋肉の代謝老廃物。

 クレアチニンクリアランスとは、クレアチニンを排泄する腎の能力をみている。

★クレアチニンクリアランスとは、クレアチニンを排泄する腎の能力!

4)治療:安静、食事療法(低塩分、低カロリー)、薬物療法(降圧剤、子癇予防)

★妊娠高血圧時、無理は禁物!

3.胎児位置異常(逆子)

1)病態

 正常な体位は後頭位(頭位)であり、後頭部から産道を出てくる。逆子とは、骨盤位のこと。頭が横を向いているものを横位という。胎児が小さいうちは子宮の羊水内で自由に位置を変えている。胎児が成長するにつれて徐々に子宮に余分なスペースがなくなる。妊娠30週の時点で30%は逆子状態である。

★正常体位は後頭位、骨盤位は逆子!

 胎児の位置が固定化してくると妊娠7ヵ月頃になると、逆子の有無が確認できる。分娩までの自己回転率は、28週で90%、32周で80%、36週で65%と、出産予定日が近づくにつれて大きく低下し、満期産では3~5%。

★分娩時までの自己回転率は28週で90%、満期40週では3~5%!

 骨盤位であることは、妊娠中のトラブルにはならないが、骨盤位での分娩の児死亡率は5%(頭位分娩時の死亡率の2~5倍)となり、出産時のリスクは高まる。

 通常の出産では先に頭が出てきて、自然な形で圧迫され、その後呼吸ができるようになる。しかし逆子では、最初に足が出てきて頭部は最後になるから、臍帯が頭と産道との間に挟まれ圧迫される。この時出産が長引くと、頭部への血流が阻害される。

 37周を過ぎた逆子は、わが国ではほぼ100%帝王切開に踏み切る。

★骨盤位での分娩の児死亡率は5%(頭位分娩時の死亡率の2~5倍)!

2)現代医学的治療

①出産までは逆子体操を続けて、自然に正常位になるのを期待する。逆子体操を行うのは妊娠30~35週の間。効果のほどは医師によって意見が異なる。

②外回転術:正常位にするために、外から胎児の位置を矯正しようとする。この場合には胎児仮死や胎盤剥離の危険性があるので帝王切開ができる準備をして行う。最近ではあまり行われず、帝王切開での分娩が増加している。

★逆子体操は医師によって意見が分かれる。外回転術は最近はあまり行われない!

3)鍼灸治療の有効率

 早めに鍼灸治療を開始することは差し支えないので、妊娠後期を28週以降の妊婦が、逆子の鍼灸治療の対象となるが、この時期に逆子矯正できたとしても、単なる自然経過であって、鍼灸の作用と結論づけるのは難しい。医学的には30週以降が勝負になる。

★妊娠30週以降、鍼灸により逆子が改善したら、鍼灸の効果である可能性が高い!

 砺波総合病院東洋医学科(富山県)では、妊娠28~32週で逆子だった妊婦に、<とやまプロトコール>と称する鍼灸パターン治療を行い、210例中187例で改善した(89%有効)。しかし同じ方法を亀田総合病院(千葉県)で妊娠34週を過ぎた逆子の妊婦に実施してみると、逆子矯正率47%に低下した。亀田総合病院の産婦人科医は、「鍼灸で34週を過ぎて逆子の改善を図ってくれると格好いいけどね!」と語ったとのこと。形井秀一氏は、35週までに治療を開始すべきで、36週を超えると困難だと記している。(形井秀一:Mainichi INTERACTIVE 毎日ライフ)

 とやまプロトコール:プロトコールとは、実験手順のこと。片側の三陰交に刺鍼後灸頭鍼3~5壮。対側の至陰に糸状灸20壮。次回は足を左右替える。週3回治療。治療ごとに左右交互に施術する。

★妊娠34週を過ぎた逆子の鍼灸による改善率は47%(亀田総合病院)!

4)至陰の灸について

 逆子に対する至陰の灸が語られたのは戦後らしく、もともとは難産時に利用されたとこと。現在、難産には別の治療が用意されているので、至陰=逆子との関連が有名になった。

★至陰の灸は、以前は難産治療に用いられた!

①施灸の方法

 施灸:起坐位。至陰穴に鉛筆の芯大の灸をする。ジーンと染み込んでくるような熱さを伴なった響きを求める。だいたい10壮以内にこの感じが得られる。

 条件・成功率:施灸すると、胎児が腹の中で動くのを感じることが多く、これが成功の前兆となる。週2回の施術で3~4回治療までで逆子是正の効果が出る場合が多い。正常位に回復したかどうかは、産婦人科医の超音波診断による。

★逆子は週2回の施術、3~4回で効果が出ることが多い!

②至陰への施灸の作用機序

 至陰へ施灸すると、子宮動脈と臍動脈の血管抵抗が低下することが観察される。この現象は、子宮筋の緊張が低下したことにより、胎児は動きやすくなり(灸治療中に体動が有意に増加することが確認されている)矯正に至るのではないかと推察される。

(高橋佳代ほか:骨盤位矯正における温灸刺激の効果について。東京女子医大雑誌、65,801-807,1995)

★至陰への施灸→子宮不動脈・細動脈の血管抵抗低下(子宮筋の緊張低下)→胎児が動きやすくなる→矯正!

5)三陰交の灸について

 医師信安氏は、産婦人科医師として、世界で初めて、逆子に対して三陰交の灸が有効であることを昭和25年に学会発表した。それ以前は、妊婦に対する三陰交の灸は禁忌とされていた。

 石野氏は、妊婦に対して三陰交の灸をする効能として、他に下腿浮腫軽減・下腿だるさ軽減・分娩時間の短縮(分娩促進)、分娩時出血量の減少、和痛分娩などの効果を指摘している。

★妊婦に対して三陰交への施灸の効果は、逆子、下腿浮腫軽減、下腿だるさ軽減、分娩時の短縮、分娩時出血量の減少、和通分娩!

6)参考文献

①至陰と三陰交の鍼灸で成功率約9割(形井芳一:Mainichi INTERACTIVE 毎日ライフ)

 妊娠28週~37週の逆子妊婦584例に、至陰の灸または鍼と、三陰交の鍼または灸または灸頭鍼を行い、成功率89.9%(525例)だった。24時間以内に半数以上が頭位回転を認め、施術4回までに約8割の者が成功していた。この成績は従来の骨盤正法と比べ、成功率と安全性からみて驚異的。(原書は1987年『東邦医学会雑誌』発表

★逆子治療に至陰と三陰交の鍼灸の成功率は9割!

②至陰の棒灸をした例での出産頭位率は75.4%(非処置群47.7%)

 妊娠33週で超音波で骨盤位との診断を受けた初産婦260名を対象に、至陰への灸(棒灸)治療群と無治療群に分けて、両群とも1~2週間の治療後の矯正率を調べた。その結果、35週で矯正成功率は、出産時頭位率は、75.4%対47.7%となり、灸治療の有効性が確認された。

(CardiniF.Etal : Moxibustionforcorrectionnofbreechpresentation : randomizedcontrolledtrial. JAMA.280(18).1584.1998)

★逆子に対して至陰の棒灸成功率。棒灸75.4%、無治療47.7%!


仮説:三陰交への皮内針や施灸→子宮頚部を緩ませるので、月経痛や減痛分娩に有効なのか?

   至陰への灸→子宮体部→一時的に緩ませるので、逆子是正に有効なのか?

★三陰交は子宮頸部を緩ませる(月経痛が楽)、至陰は子宮体部を緩ませる(逆子が治る)!

4.分娩陣痛

 広義の陣痛は、妊娠、分娩、産褥時にみられる周期的な子宮収縮で、前駆陣痛、本陣痛、後陣痛があり、しばしば痛みを伴なう。分娩時にみられるのが狭義の陣痛(本陣痛)で、分娩陣痛とよぶ。分娩陣痛は、分娩の進行によって「イキミ」+「子宮収縮」が、胎児を押しだす力となる。

※後陣痛:出産後に子宮が戻ろうとすることで起き陣痛のこと。

★陣痛は、前駆陣痛、本陣痛、後陣痛の3種!

①分娩第1期(開口期)

 陣痛が始まって子宮口が開きだしてから全開大(10cm)となるまでの時期。初産婦で約8~12時間、経産婦では4~8時間。

 子宮上部の平滑筋の強い収縮による痛みであり、交感神経性の下腹神経(T10~L2)が痛みを伝達する。腰部~上殿部痛。下腹神経とはT10~L2から出て骨盤内臓器を支配する交感神経。

※胎児が子宮口を押し広げることで脊髄神経性の陰部神経(S2~4)興奮による痛みも合併。

★開後期、子宮上部平滑筋の収縮痛→下腹神経(T10~12・交感神経)が伝達!

②分娩第2期(娩出期)

 子宮口が全開大となり胎児が胃まれるまでの時間。初産婦で2~3時間、経産婦で1~2時間。 

 膣道や会陰が、胎児により伸展されて痛む。体性神経である陰部神経(S2~4)の興奮による痛み。仙骨~尾骨部痛出現。

★娩出期、膣道や会陰が胎児による伸展痛→陰部神経(S2~4・体性神経)が伝達!

③分娩第3期(後産期)

 弱い痛み。

2)和痛分娩の現代医療

 腰部の持続硬膜外麻酔が広く行われている(目的は、痛みを完全になくすことではなく、痛みを軽減させ、スムーズに分娩させることとされる)。しかし麻酔医が必要となるため、麻酔医が不要な処置である陰部神経ブロックが行われ始めた。これらの処置で痛みは大幅に軽減できるが、いきむことはできるので分娩時間が長引くことはない。

★陰部神経ブロックが多用されるようになったのは麻酔医不用のため!

3)和痛分娩に対する三陰交灸治療

①辻内氏らは、助産院に通院中の健康な妊婦137例中、灸治療を希望した48例に対して、妊娠後16週以降から三陰交へ関節灸(1日1回、1カ所1~3壮)を行って分娩時の影響を調べた。その結果、施灸群の方が分娩所要時間は短く会陰裂傷が少なかった。

(辻内敬子ほか「妊婦による三陰交施灸の効果」全鍼誌第50巻2号)

★妊娠中に三陰交に施灸をすることで分娩所要時間の短縮、会陰裂傷の減少効果あり!

②仙骨部圧痛点への刺激

 高岡松雄医師によれば、分娩第1期(開口期)の激しい腰痛および下腹痛を訴える30名の産婦について、その最も痛い場所を指示させ、その付近の圧痛を探すと下図のようになった。これらの圧痛点に皮内鍼を施すと、30名中24名が産痛の軽減をみた。この皮内鍼により産痛は直ちに軽減するか消えた。痛みは関連痛であり、消えなかった残りの痛みは子宮の内臓痛であろう。(高岡松雄「痛みの針治療」医道の日本社)

★腰・下腹圧痛部への皮内鍼により産痛軽減!

 高橋律子氏らは、分娩第1期における妊婦15名の背腰仙部の圧痛分布を調べた。選定した経穴は、①脾兪、②胃兪、③腎兪、④大腸兪、⑤関元兪、⑥小腸兪、⑦胞肓、⑧秩辺、⑨次髎の計9穴であった。これらの経穴を圧迫し、陣痛が楽になるかを聴き取り調査した結果、①~③はほとんど効果なし。④⑤は半数に効果あり、⑥から⑨は大部分に効果があった。

 ①脾兪、②胃兪、③腎兪→効果なし

 ④大腸兪、⑤関元兪→半数に効果あり

 ⑥小腸兪、⑦胞肓、⑧秩辺、⑨次髎→大部分に効果あり

※胞肓(膀):第2仙椎棘突起の下外方3寸

※秩辺(膀):第3仙椎棘突起の下外方3寸

 陣痛の経過と共に痛みは次第に下降するが、押圧して効果のあるツボは子宮口とも関係し、進行すればさらに脾兪・胃兪・腎兪・大腸兪への押圧は効果が乏しくなった。

(高橋律子、川﨑佳代子:分娩第1期における産痛範囲のつぼ圧迫と和痛効果の研究、日本助産学会誌、第9巻 第1号、1995)

★小腸兪、胞肓、秩辺、次髎への圧迫刺激が大部分に効果あり!

※似田先生註:1期の圧痛点も2期と同じく、仙骨部中心になる。これは、下腹神経由来の痛み以上に、胎児が子宮口を押し広げることで脊髄神経の陰部神経(S2~4)興奮による痛みの方が強いことを示していると思われる。

★1期分娩時の圧痛は仙骨部中心(下腹神経(交感神経))由来。胎児による子宮口開口痛は(陰部神経(脊髄神経))由来!

 ※和痛分娩の鍼灸治療の問題点:分娩に伴う関連痛をとる程度の鍼灸治療であれば差し支えないが、分娩中に下腹神経の興奮をとるような治療を行うならば、分娩に必要な子宮収縮が不十分となり分娩時間が長引く結果になる。

 ※下腹神経(交感神経):交感神経T11~L2

★下腹神経(交感神経)を完全にとってしまうと子宮収縮が不十分となり、分娩時間が長引く!

 鍼灸治療を行うにあたっては、交感神経反応はとらえにくいので、鍼灸臨床では交感神経興奮により引きづられて生ずるT11~L1脊髄神経反応(皮膚の痛みや過敏、筋コリや深部痛)を探し、これらの反応を目安として施術することで、交感神経興奮の抑制を図ることになる。

★交感神経興奮により生ずるT11~L1脊髄神経反応点に施術することで、交感神経興奮の抑制を図る!

☆骨盤内臓器の反応の特異性について
 内臓反応は、内臓→交感神経節→脊髄と刺激が伝達され体壁反応が出現し、基本的に交感神経系は脊髄分節T 11~L2の間で(体性神経1:交感神経1)の関係で対応しているが、脊髄はT1より上とL2~S2の範囲で交感神経節の興奮を受け入れることができない。

★脊髄はT1より上とL2~S2の範囲は交感神経の興奮を受け入れられない! 

C1~C8は頸、肩、上肢の体性神経系(運動や知覚)支配に専念し、L2~S2は腰下肢の体性神経系の支配に専念しており内臓支配する余力はない(白交通枝がない)。子宮の体壁反応は、Th11~L2上に現れるべきものだが、L2の反応は脊髄に届かないので、体性神経デルマトーム反応としてはT11~L1として出現する。

★C1~8は頸、肩、上肢の体性に専念、L2~S2は下肢の体性に専念。よって、子宮の体性神経デルマトーム反応はT11~L1に出現(L2の反応は脊髄に届かない)!

☆仙骨神経とその分枝について

 4つある仙骨孔から出る仙骨神経によって仙骨神経叢(S2~4)がつくられる。

 臀部・大腿後面・下腿・足の皮膚感覚(知覚)と筋(運動)支配し、副交感神経を含む。

 仙骨神経からの枝に陰部神経(体性)・骨盤神経(副交感)がある。

 ・陰部神経(体性神経)は下直腸神経、会陰神経、陰茎背神経に分枝する。

 ・骨盤神経(副交感神経)は膀胱・尿道・生殖器に分布し、これらの知覚と運動(平滑筋)をつかさどる。

なお、膀胱・尿道・生殖器に分布し、これらの知覚と運動(平滑筋)をつかさどる交感神経は、下腹神経(T11~L2)である。

★骨盤(内・外)臓器を支配するのは、陰部神経(体性神経・仙骨神経叢分枝)、骨盤神経(副交感神経・仙骨神経叢分枝)、下腹神経(交感神経・T11~L2)!

〇出産時の疼痛と神経支配

・子宮体部→運動神経→T4~12、知覚神経→T10~L1

・子宮下部、子宮頸部、膣上部→仙骨神経(運動・知覚)→S2~4 

・膣下部、外陰部→陰部神経(運動・知覚)→S2~4

★和痛分娩のため、つまり鍼灸を行う部位はT10~L1、S2~4デルマトーム上!

4.陣痛遅延

 出産予定日になっても、陣痛が来なかったり陣痛微弱の場合、三陰交や至陰に灸をすると、陣痛を引き起こすことができるとされる。陣痛誘発剤を使っても陣痛の起きない患者の場合、灸をすえて陣痛が起きる場合があるらしい。

 三陰交の灸の陣痛促進効果については、松山優鍼灸師の研究がある。陣痛促進を目的とした妊婦100名(初産府婦70名、経産婦30名)に対して、古典的本治法を用い、他に三陰交・至陰に刺鍼したところ、正常分娩92%(うち鍼灸単独75%、陣痛促進剤+鍼灸は17%)、出産予定日超過による帝王切開2%だったとのこと。(松山優:鍼灸治療による陣痛促進治療の検討)

 ※陣痛促進剤:オキシトシン(子宮収縮ホルモン。下垂体葉製剤)、プロスタグランジン。

★三陰交や至陰の灸は陣痛促進効果が期待できる!

第8節 乳房症状

第1項 乳汁分泌

1)乳汁非分泌

①思春期:エストロゲンにより、乳管=(母乳の通路)がのびることで、乳房が膨らみ始める。

②成人:多量に分泌されるエストロゲンにより乳管の成長はさらに促進させる。またプロゲステロン分泌によって乳腺葉(=乳汁分泌腺作用の本体)が発育する。出産が近づくと、乳腺が発達してさらに乳房は大きくなるが、母乳分泌は起きない。

 生理前に、乳房が張るのは、プロゲステロン分泌によるもの。

★乳房、乳腺、乳管の成長はエストロゲンの働きによる。生理前に乳房が張るのはプロゲステロン!

2)乳汁分泌期

①プロラクチン(催乳ホルモン)

 出産により卵胞ホルモンと黄体ホルモンは分泌を停止する(黄体ホルモンの役割である妊娠管理の終了)。これらのホルモンの停止により、下垂体前葉ホルモンの一つプロラクチンが分泌され、乳腺で母乳の製造が始まる。

 ※連想:プロラクチンの「ラク」は、酪農の「酪」。だから乳。

★妊娠によりエストロゲンとプロゲステロンは分泌停止。プロラクチン分泌開始!

②オキシトシン(射乳ホルモン、子宮収縮ホルモン)

 新生児の乳首吸引が刺激となり、おもに下垂体後葉からオキシトシンが分泌される。オキシトシンは導管周囲の平滑筋弾力線維を収縮させ、乳汁を射出させる(射乳反射)。オキシトシンには子宮収縮作用もある。

★オキシトシンの主作用は、乳汁分泌、子宮収縮!

 ※他にオキシトシンには、抗ストレス作用、摂食抑制作用がある。また、近年オキシトシン「愛情ホルモン」としての作用もあることが判明した。スキンシップ、親子間や恋人間の交流、ペット(犬など)を飼うなどでオキシトシンは分泌が増える。なお脳内三大伝達物質は、ノルアドレナリン(ストレスに打ち勝つ)、ドーパミン(喜び、快感、意欲)、セロトニン(気持ちの安定)である。オキシトシンとセロトニンの働きは似ているが、セロトニンは、日光を浴びる・深呼吸・リズム体操・バランスのよい食事などで分泌増加する。オキシトシンの働きは基本的には男性も同じ。

※プロラクチン(催乳):妊娠中の乳腺発達、出産後乳汁分泌 

※オキシトシン(射乳):乳腺の筋線維収縮、乳汁分泌

★オキシトシンは乳汁分泌、愛情ホルモン!

3)乳汁分泌不足と鍼灸治療成績

 乳汁分泌不良の婦人99%例に対して、「乳房マッサージ」と「乳房マッサージ+円皮鍼群」に2分した治療効果を調べた。円皮鍼は中府・膻中・少沢に貼付し週に1回交換。希望があれば数回繰り返した。この結果乳房マッサージ+円皮鍼群の方が有意に効果があった。

 乳汁分泌不足には、内分泌の問題と、産後の体力低下や情緒因子の問題がある。鍼灸治療は後者に対して効果がある。(立浪たか子:乳汁分泌促進のためのツボ療法とその効果の検討;母性衛生、第38巻4号)

★中府・膻中・少沢の円皮鍼が乳汁分泌不全に効果あり!

第2項 乳房腫瘤と乳房痛

 乳房に異常を認め医療を受診する者の大部分は乳房腫瘤(シコリ)を主訴としている。乳房にシコリを生ずる疾患は、乳房の悪性腫瘍・良性腫瘍(おもに乳腺線維腺腫)・乳腺症であり、乳腺症の頻度が最も多い。乳房のシコリで問題になるのは、乳癌との鑑別なので、シコリを発見したら専門医に診断を依頼する(とくに30才代以降の者)。

★乳房のしこりで最も多いのが乳腺症!

〇乳のシコリ

 -乳腺症(大部分)

 -悪性腫瘍:乳癌

 -良性腫瘍:乳腺線維腺腫が最多

〇乳腺症

 乳腺のしこり、痛み、乳頭から分泌物などの症状を伴う良性疾患の総称。近年では病気ではなく生理的な変化の1つとされている。

 乳房腫瘤

  ↓

   →両側性、生理前に憎悪し、生理が来ると軽快→乳腺症  

   →乳房痛(+)、乳房発赤(+)→乳腺炎(痛む)

  ↓

 乳房の腫瘍(40~50才代→乳癌、20~30才代→乳腺線維腺腫)

 

〇乳房痛

 -鬱滞性乳腺炎

 -化膿性乳腺炎

1.乳癌

1)概念 

 乳腺の組織にできる癌。乳癌のほとんどは乳管から発生する。癌細胞が間質へ進展すると、そこにある血管、リンパ管に癌細胞が侵入するため、乳腺以外の部位に転移をきたす可能性がある。とくに肝臓、肺、脳、骨等に転移を起こしやすい。

 乳癌は40~50才代の閉経前後に多い。近年増加傾向にあり、現在では子宮癌よりも乳癌の方が多い。5年生存率70%(腋窩リンパ節に転移しやすい)

★乳癌は、肝臓、肺、脳、骨に転移しやすい!

2)危険因子

①食生活の欧米化、肥満、アルコール過飲

②エストロゲン分泌期間が長い

(初経が早い、未婚、初産が遅い、出産経験なし、閉経が遅い)

★乳癌の危険因子は、食生活、肥満、アルコール、エストロゲン分泌期間!

3)所見:シコリと乳頭分泌物(血性)

 視診では、えくぼ様陥凹。触診では硬い、表面は凹凸、無痛、境界不明瞭。乳房の外上方1/4部に好発(乳腺組織が最も多い部位)。

 乳癌の自己チェックは、月経終了時後1週間以内に行う(月経直前は乳房が張るため)。

※硬く境界不明瞭なことから、「鉄を真綿で包んだよう」という表現をされる。

★乳癌の所見はシコリと乳頭分泌物(血性)!

4)検査:超音波、マンモグライフィ―(装置に乳房をはさみ圧迫しながらX線撮影)

※マンモグラフィー:

 乳房専用のX線検査、いわゆるレントゲン検査で、板状のもので乳房をはさ圧迫するのは、平たくして撮影することで病変をより鮮明に写し出すとともに、厚みを薄くすることでX線の被ばく量を減らす効果がある。

※美容形成手術で豊胸手術をすると、乳癌の早期発見が困難になる。

※乳癌発見の症例(似田先生):

 74才女性。主訴は下腿ツッパリ感。鍼灸治療3回目、右乳房上外方に直径3cmほどの腫瘤を発見(本人は気づかなかった)。患者は肥満体で乳房も大きいので、シコリは「鉄を真綿で包んだような」に該当せず柔らかく感じた。また高齢(74才)でもあるので、おそらくは乳癌ではないと思うが、一応検査をするように指示。その4日後検査をし、乳癌が判明。1ヵ月半後手術した。術後、上肢のリンパ浮腫が発生したが次第に軽快した。術後は放射線治療を継続している。8年後の現在、左乳房に転移したが、元気で生活している。

★シコリは「鉄を真綿で包んだような」に該当しないものもある!

5)リンパ浮腫

 乳癌手術で腋窩リンパ節を切除した場合、高タンパク質のリンパ液が患側の腕の皮下組織に溜まり腫脹することがある。これをリンパ浮腫とよぶ。このリンパ浮腫は術後早期に発症することもあれば、十年以上経過してから発症することもある。

 症状は、腕が腫れてこわばる、違和感がある、皺の減少(消失)など。初期の段階では皮膚を押圧すると痕がつくが、重症化すると皮膚は硬くなり、指で押しても痕がつくなくなるなど。 

 リンパ浮腫は予防が重要であって治療は困難だが、リンパ浮腫マッサージは行われている。他、弾性包帯による圧迫療法、圧迫療法をしている状態での運動療法など

★リンパ浮腫は予防が大事!

2.乳腺症

1)病態

 乳腺のしこり、痛み、乳頭から分泌物などの症状を伴う良性疾患の総称。近年では病気ではなく生理的な変化の1つとされている。乳癌を心配して外来を受診される方のなかで最も多い疾患。乳腺の萎縮退縮過程で発生する生理変化。30才~更年期に好発。女性の60%に出現。相対的なエストロゲンの過剰状態が関係しており、生理とある程度の周期性をもっている。

 痛みは月経前に強くなり、月経が始まると軽減する、という周期性をもつことが多い。

 乳頭から分泌物が見られることがある。閉経後には徐々に乳腺症症状は消失していく。

★乳腺症は病気ではなく生理的変化!

2)所見

 乳房の表面に、でこぼこした柔らかいシコリ状のもの(=乳腺そのもの)を触れる。両側性に出現することが多い。

★乳腺症のシコリは両側性が多い!

3)治療

 ホルモンバランスを正常に戻すように生活を整える(具体的にはストレスを避ける。十分な睡眠をとるなど)。痛みが強いようなら、ホルモン剤や鎮痛剤を投与。

★ストレスを避け、十分な睡眠が大切なのは乳腺症も同じ!

3.乳腺線維腺腫

 乳腺間質の増強(ちなみに乳癌は乳腺にできる)。乳房に発生する良性腫瘍(正常な細胞が過剰に増えてできたもの「退形成」であり、厳密にいえば腫瘍ではない)では、最も高頻度。10代後半から30代の比較的若い女性に多くみられる。主訴は乳房部のシコリ。一般的には痛みはなく1個だけのことが多いが、ときに多発性のこともある。

 閉経後には頻度が少ないためエストロゲンの影響が考えられており、またホルモンの補充療法を実施中の患者に、線維腺腫の発生頻度が高いことも報告されている。治療はシコリのみ切除。

★乳腺線維腺腫は10~30代に多い!

4.鬱滞性急性乳腺炎 

 乳房痛を生じる疾患では、鬱滞性急性乳腺炎が代表。これに感染症が加わると急性化膿性乳腺炎になる。

1)病態

 乳汁が乳腺や乳管内に溜まってしまうこと。乳汁の分泌はあるのに、乳腺閉塞がある、または授乳技術が悪いなどで、乳汁が乳管に鬱積する。出産後、ホルモンのはたらきにより乳汁の分泌が盛んになっているところに、乳管が充分に開いていない鬱帯が起こりやすい。乳房内の乳管閉塞部に一致した発赤・圧痛・熱感を伴なう硬結(鬱積髎が多い場合は漬物石様)形成される。

★乳汁分泌は盛ん、しかし乳腺閉塞があると鬱滞性急性乳腺炎になりやすい!

2)現代学治療

 初期であれば乳房をシャワーや熱い濡れタオルで温める。数回の搾乳(積極的な授乳や搾乳機)が効果的。乳房に熱があるようならば、冷湿布をする。感染予防目的に抗生物質投与。乳房マッサージ(乳管閉塞を開通させ、シコリをほぐしてゆく)。ひどい場合には薬で一時的に乳汁分泌を止める。

★鬱滞性急性乳腺炎は搾乳機を使うのも一手!

3)鍼灸治療

①全身要因 

 授乳分泌と維持には、乳汁酸性に関与するプロラクチンと、射乳を促進させるオキシトシンの分泌を調整する視床下部-下垂体系が正常であることが不可欠である。一方、母親は生まれたばかりの赤ちゃんの世話で、慢性疲労状態で、かつ情緒不安定となりがちで、ホルモン系に変調をきたしやすい。こうした者への治療は、ストレス改善目的で治療を行う。とくに肩こりと背部圧迫感の改善に主眼をおいた治療を行う。頻回授乳と休息が大事。

※射乳(射乳反射):母乳を出す反射。乳首を吸われたり、乳児の泣き声を聞いたりしたときに、脳下垂体からオキシトシンというホルモンが分泌されること。

★母親は慢性疲労状態。肩こりと背部圧迫感を治療せよ!

②乳房要因

 乳房の硬結部に対する局所刺鍼と、膻中施灸(せんねん灸など)、肩井、天宗などが知られる。鍼灸治療では細鍼で乳腺の周囲に4本程度、鍼先が乳腺の底辺に達する角度で3.5cm刺入郡山七二)。

 深谷伊三郎は特効穴として、天宗(膏肓でもよい)への多壮灸を推奨している。古典では、乳汁分泌は小腸経に関係するとされているので、小腸経の天宗をとる。整体観念では、乳房は肩甲骨に対比するものと考えられる。

 大胸筋の上に乳房脂肪組織が乗っている。乳房外縁から、細い鍼でこの境の膜を、ゆっくりとほぐすように横鍼、置鍼するとよい(加藤雅和ATによる)。

★乳腺炎治療時の取穴は、硬結部局所、膻中、肩井、天宗、膏肓!

・膻中刺鍼または施灸:大胸筋+胸鎖乳突筋の線維が交わる点と小林は理解している。

※家人の乳腺炎:出産1ヵ月後に鬱滞性乳腺炎出現。片側乳房が重くパンパンに腫れて痛み、また漬物石のように重く冷たくなった。腫れている乳房中の、シコリに0番鍼で刺鍼を試みるも、刺痛が激しく治療拒否。やむなく夜中に病院受診。看護婦が数分間、乳房を揉みほぐしていると、ポタポタと乳汁が垂れ始め、最後には噴水のように乳汁が噴き出すとともに乳房の腫れが急速に萎み始めた。

★乳腺腫に乳房マッサージが効果的!

4.急性化膿性乳腺炎

1)原因・病態

 鬱滞性乳腺炎からの進展によるものと、乳頭亀裂(乳頭の先や根元の部分にできる裂けたような傷のこと)からの化膿菌感染によるものとがある。

乳房局所の症状としては、前記の鬱滞性乳腺炎と同じだが、症状はより激しく、また全身症状として、悪寒・発熱(多くは39℃以上)が起こる。

★急性化膿性乳腺炎は、悪寒・発熱が起こる!

2)現代学的治療

 保存療法として、抗生物質や消炎鎮痛剤の投与と冷罨法、乳房マッサージ。膿瘍を形成した場合の外科的療法としては穿刺排膿と切開排膿がある。

★急性化膿性乳腺炎の治療は、抗生物質、消炎鎮痛剤、乳房マッサージ!

5.乳汁分泌不足(心因性)

 乳児の体重があまり増えないと、吸いにくい乳頭の形ではないのか、母乳の分泌が悪いからではないかと思い悩む母親がいる。乳頭の形は、初めから乳児が吸いやすい形になっているとは限らない。陥没乳頭など乳頭の問題で乳児が上手く乳汁を吸えていない場合は、乳頭を引き伸ばすなどして乳児が吸いやすくなるようにする。難解も授乳を続けているうちに、次第に吸いやすい形に是正される。またストレスが乳汁分泌不全の要因ともなる。乳房マッサージにより母乳が噴出すると安心することができる。

★赤ちゃんと楽しい時間を!

☯東洋医学からみた婦人科系症状

 東洋医学では、痛経、月経不調、崩漏(不正出血)、帯下、妊娠悪阻、体位不正、子癇、滞産、産後血暈、産後腹痛(後期痛経)、乳少、不孕(不妊)などの婦人科疾患症状を緩和させるべく、鍼灸などの施術を行う。

◎病因

 病因(病気の原因)には、外因、内因、不内外因があり、これは婦人科疾患であっても同様である。外因とは外気温や湿度などの環境のことで、風・寒・暑・湿・燥・火の六つがあり六淫ともよぶ。内因とは過度の感情のことで、怒・喜・思・憂・悲・恐・驚の七つがあり七情ともよぶ。不内外因は、飲食不摂、労捲(労働のし過ぎ)、房事、外傷。

 病気を治療もしくは予防し、良好な体調保つためには、これらの因子をなるべく排除することが重要である。多くの場合病気には前段階があり、慢性病にいたっては発症してから長い月日が経っている場合も少なくなく、よって治療を施してもすぐに病気が治らないことは当然ある。どのような病気であっても、治癒のためには環境を整えることは不可欠である。

〇痛経

 痛経とは、月経痛のこと。月経あるいはその前後に周期的に起こる小腹部(下腹部)や腰部の痛み。手足厥冷、悪心、嘔吐をともなうこともあり、ひどいと顔面部から冷や汗が出るほど。

 気血水の運行がスムーズでないことが原因であり、証(発生機序)を見極め、気血水を通調すことが治療となる。

・肝鬱気滞

 精神ストレスにより情志が失調し、気機不利となり気血の流れがスムーズでなくなる。これが衝任脈に影響し経血が胞中(子宮)に阻滞し痛経が起こる。気血の巡りをよくするためには定期的な運動が有効である。

・寒湿凝滞

 冷たい飲食物や生ものや体を外から冷やすようなことにより、寒湿が胞宮を阻害すると、経血が凝滞し痛経が起こる。痛経を予防軽減するには体を冷やさず、飲食に気をつけ、必要であれば積極的に暖をとることが重要である。また月経期以外の体調のよいときを見計らって、筋トレや有酸素運動などの運動を行い、産熱量を増やすことに努めるべきである。

〇乳少

 産後の乳汁分泌が十分でないもの。多くは身体虚弱による生化不足あるいは、肝気鬱結による乳汁の阻滞である。よって本病症の治療原則は、虚証では補血益気、実証では疏肝解鬱となる。

・気血両虚

乳汁は母体内で血を原料としてつくられ、気によって運行される。したがって気血生化の源である脾を補うことを主に治療を行う。

・肝鬱気滞

 産後に情志失調から抑鬱となり、気機停滞し経脈の運行がスムーズでなくなる。これにより乳汁の分泌が阻害され乳少となる。治療は、肝気の流れをよくすることを主に行う。

両証とも、処方に少沢(小腸経の井金穴)を取穴する。本穴は経験的に通乳効果が高いことが知られている。

〇不孕(女性不妊)

 結婚して3年(現代医学では1年としている)以上経ち、男性側の生殖機能が正常であり、避妊をしていないにも関わらず妊娠に至らなかったり、一度妊娠を経験したものの、それ以降数年妊娠しないものを「不孕」という。

※「孕」ははらむの意

※染色体:細胞の核内に存在する遺伝情報を持つDNAの塊のこと。流産(不育症)の胎児側の原因の多くは染色体異常と考えられている。

 本症の病理機序は、先天的な染色体異常を除き、腎気不足や衝任脈の気血不足である。以下は、東洋医学的な受胎の生理機序である。

 腎気が旺盛となり真陰が充足し、衝任脈が旺盛になると女子胞が成熟する。また衝任脈の充実に伴い天癸(性ホルモン)が至ると来潮し、妊娠出産の能力が備わる。

 したがって腎虚や血虚により衝任脈を滋養できないと、受胎(妊娠)できない。また胞脈が寒凝したり、痰湿瘀血によっても衝任脈は阻滞され、受胎不能となる。

 本病の治療にあたっては、温補腎陽、益気養血、暖宮散寒、化痰除湿などの治療原則をもとに、鍼灸を施す。

 さらには精神的ストレス(妊娠しないことに対しての苛立ちや、不妊治療における不安なども含む。これは現代医学的不妊でいえば、いわゆる視床下部-下垂体性不妊に相当する)により、気血の巡りが悪くなっている場合、肝鬱気滞として、疏肝理気の観点からの治療も必要である。

😊機能性不妊の多くはピックアップ障害であり、東洋医学にピックアップ障害改善の効果はないとの説があるようですが、ピックアップ障害は検査の方法がないこともあり、ピックアップ障害に限定した治療というものはありません。

※ピックアップ障害:排卵された卵子を卵管采がうまくキャッチできないことによって、精子と卵子の受精の場が得られないこと

現代医学では、女性側の不妊症を主に4つに分類しています。卵子の質が低下しているもの(加齢など)、排卵がうまく行われないもの(卵巣機能低下、視床下部性、高プロラクチン血症など)、卵管に問題があるもの(卵管炎)、子宮に問題があるもの(子宮内膜症、子宮筋腫、黄体機能不全など)。

東洋医学ではピックアップも含めて、妊娠にまつわる諸々のこと中心になって行うのは腎です。現代医学的検査により、はっきりとした原因がわかれば、そこに的を絞って治療を進めていくのはある意味当然です。しかし、原因を限定できないことも多いという現代医学の現状があります。もちろん、東洋医学であっても、不妊の原因をすべて解明できるなどということはなく、それは未来永劫不可能でしょう。しかし基本に立ち返って、補腎、益気、養血を行うことは今すぐにでも可能です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

kiichiro

鍼灸師。東洋医学について、健康について語ります。あなたの能力を引き出すためには「元気」が何より大切。そのための最初の一歩が疲労・冷え症・不眠症をよくすること。東洋医学で可能性を広げられるよう情報を発信していきます。馬込沢うえだ鍼灸院院長/日本良導絡自律神経調整学会会員/日本不妊カウンセリング学会会員//日本動物愛護協会会員