鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか?「皮膚科系症状をやわらげるために」編
はじめに
鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。
筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化、等々。
これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。
解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。東洋医学の治療は、東洋医学独自の病の見立てである「弁証」と、状況に応じた対処の仕方「論治(選穴、取穴、刺鍼施灸、手技)」によって成り立っています。西洋現代医学、東洋医学と、背景にある考え方が違っていても、治療にあたって用いるツボが同じになることは珍しいことではありませんが、日本において、患者さんが東洋医学の病名や用語を口にすることは、まずありません。よって現代医学的な診断を参考にしながら、東洋医学的な分析をしつつ、ことにあたる必要があります。
鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、主に現代医学的観点から病態を捉える、治癒率向上を図る、鍼灸適応不適応の再確認、といったことと合わせて、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代鍼灸臨床論』」という科目に対しての理解をより深めることを目的の一つとしています。非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。
※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。
〇遠隔療法と反射について
肩が凝っているときに、その凝っている筋肉に鍼灸をすると、コリが和ぎます。その理由は、筋肉の伸長収縮度合いが正常に戻ったり、凝っている部分の血流が促進されることで、疲労物質の滞りが解消されたりするからです。ですから症状が出ている(凝っている)部分に鍼灸をすることには意味があります。では鍼灸が、内臓の異常に働きかけるためにはどうしたらよいでしょう?内臓に直接鍼を打つといった方法もありますが、受け手の負担も大きく、一般的ではありません。そこで反射(東洋医学なら経絡)といった概念が用いられます。
反射とは、刺激に対して無意識(大脳を介さず)に、機械的に起る身体の反応のことです。例えば、熱いものに手を触れたとき即座に手を引っ込めるのは反射によるものですが、これは身体を守るために、考えてから引っ込めたのでは遅いからです。鍼灸刺激によって反射(体性内臓反射)を起こし、生体に元々備わっている治癒力が賦活(活性化)されます。
・内臓体性知覚反射
内臓の異常は、その内臓を支配している自律神経とほぼ同じ脊髄反射区の皮膚領域を過敏にし、普通では痛みとはならない程度の皮膚刺激でも、その部位に疼痛また異常感覚を伴なうようになるというもの。
・内臓体性運動反射
内臓異常による求心性の興奮は、対応する体壁(皮膚や筋肉)に運動性の変化として、筋緊張・収縮などを起こすというもの。いわゆる凝りの現象で、内臓疾患による筋性防御のあらわれ。
・内臓体性栄養反射
交感神経を切断すると支配下の筋群は緊張を失って代謝障害に陥る。内臓に慢性疾患が長期に渡ると、体壁に萎縮・変性があらわれてくるというもの。
・内臓体性自律系反射
皮膚にある汗腺、皮脂腺、立毛筋、および末梢血管系を支配する自律神経系の反射で、交感神経性皮膚分節の領域に反応があらわれるというもの。
汗腺反アセ汗として、立毛筋反射は鳥肌、皮脂腺反射は皮脂として、皮膚血管反射は皮膚の冷え、ほてりとなってあらわれる。
・体壁内臓反射
一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄の同じ高さに神経支配を受けている内臓に反射作用があらわれるというもの。このときに、内臓にあらわれる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)である。
体壁:胴体(=体幹)の内臓を守るように取り囲んでいる、筋肉と一部では骨でできた壁のこと。胸部の胸壁、腹部の腹壁に分けられる。
しかし、複雑な反応をみせる生体においては、横の反応帯である分節にそって内臓体性反射として現れる場合もあるし、おそらくは脊髄レベルよりも、より高次の中枢が関与しているものもある。
(「はりきゅう理論」社団法人東洋療法学協会編・教科書執筆委員会)
皮膚科系症状には主に次のようなものがあります。
尋常性痤瘡(ニキビ)、オデキ、疣贅(イボ・ウオノメ・タコ)、瘭疽、アトピー性皮膚炎、毛髪の異常(脱毛症)等
第1節 皮膚腫瘤
1.尋常性痤瘡(ニキビ)
10代から20代にかけて多く発症する。通常、20歳を過ぎる頃から自然となくなっていくが、30歳代まで続くこともある。
1)好発部位
ニキビは、必ず毛孔にできる。すべての毛孔深部には皮脂腺があり、皮脂を分泌している。このような毛孔と皮脂腺の出口が共通である構造を、毛嚢脂腺系とよぶ。皮脂はすべての毛孔から分泌される。分泌が盛んなのは、頭・額・鼻・胸・上背である。
※頭皮は構造上、毛孔は塞がらないのでニキビはできない。
※手掌や足裏には毛孔がないのでニキビは出来ない。
★ニキビは毛孔にできる!
〇皮膚の分泌腺
皮膚の分泌線には、汗線と皮脂腺がある。
・汗腺
-エクリン腺(小汗腺):全身に存在。発汗による体温調節(毛穴から分泌)
★エクリン腺は、発汗による体温調節!
-アポクリン線(大汗腺):腋窩や外陰部に存在。異性を引きつける汗臭あり(毛穴から分泌)
ニオイの元となる汗を出す。このニオイにはフェロモンを分泌し、異性を引きつける作用がある。分泌液は乳白色で粘性がある。アポクリン線は、いわゆる毛のある部分から分泌される。これはニオイを付着させることで、ニオイを長持ちさせるという意味がある。アポクリン線中に含まれる脂肪酸が空気に触れて酸化し、過酸化脂質(ニオイの物質)となってワキガの原因をつくる。
★アポクリン線は、フェロモン。ワキガの原因!
・皮脂腺:全身の真皮層に存在し毛穴に開口している。皮脂膜をつくり水分の蒸散を防ぐ。肌や頭髪に潤いを与え、皮膚を弱酸性に保つことで外敵から保護する。気温が高くなると増加する。
★皮脂腺は肌や頭髪に潤い。皮膚の保護!
2)ニキビの機序と進展
①男性ホルモン過剰分泌による皮脂量の増大
思春期には男女ともに下垂体前葉からのホルモン(成長ホルモン、副腎皮質ホルモン、性腺刺激kホルモン)が分泌増大する。
副腎皮質刺激ホルモンが副腎に作用すると、副腎皮質男性ホルモンの分泌も増加し、皮脂分泌を促進する。
思春期女性では、卵巣機能発達を促すため、月経前後にはより多くの下垂体前葉から男性ホルモンの分泌が増大し、皮脂分泌を促進させニキビの原因をつくる。
★ニキビは思春期に副腎皮質男性ホルモン過剰分泌によって、皮脂腺が増量することで起こる!
下垂体前葉 → 成長ホルモン
性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン) ↓ ↓ 副腎皮質刺激ホルモン
卵巣 副腎皮質 → 副腎皮質刺激ホルモン増多→皮脂腺増多
※副腎皮質から出るホルモン:以下の3種類ある。副腎皮質男性ホルモンとニキビの関係
・アルドステロン(電解質バランス)
分泌亢進-原発性アルドステロン症(症候性高血圧)
分泌低下-アジソン病(低血圧、低血糖、色素沈着)
★アルドステロン分泌亢進で原発性アルドステロン症(高血圧)。分泌低下でアジソン病(低血圧)!
・コルチゾール(糖質代謝)
分泌亢進-満月様顔貌、中心性肥満、多毛、ニキビ、無月経⇒クッシング症候群
分泌低下-アジソン病(低血圧、低血糖、色素沈着)
★コルチゾール分泌亢進でクッシング症候群。分泌低下でアジソン病(低血圧)!
・副腎皮質男性ホルモン
分泌亢進-満月様顔貌、中心性肥満、多毛、ニキビ、無月経⇒クッシング症候群
★副腎皮質男性ホルモン分泌亢進でクッシング症候群!分泌低下でアジソン病(低血圧)!
②毛孔の狭窄=白ニキビ
副腎皮質男性ホルモン増多で角質が肥厚し、毛包開口部が狭窄すると、皮脂が毛孔に貯留閉塞して白く見える。これが面皰(コメド)で白ニキビとよばれる。
※面皰:粟粒大の小さな固い丘疹
★白ニキビは毛穴に皮脂が貯留したもの!
③アクネ菌による炎症=赤ニキビ
毛孔に貯留した閉塞した皮脂に、アクネ菌が増殖して炎症を起こすと、発赤し熱感のある隆起(丘疹)となる。
※アクネ菌:毛包内に常在する好脂性の嫌気菌。肌を弱酸性に保ち細菌などの侵入を防ぐ役割がある。
★赤ニキビは毛孔に貯留した閉塞した皮脂に、アクネ菌が増殖して炎症したもの!
④炎症進展による化膿=膿ニキビ
炎症がさらに進展すると、白血球がこれを攻撃するので、毛包の中心が化膿し、ズキズキと痛み、熱をもつ。これを膿疱とよび、表面に黄色い膿が透けて見える。
★化膿ニキビは白血球攻撃によるもの!
⑤アクネスカー
白血球の攻撃が長く激しく続くと、細菌は死ぬが自分の皮膚組織も傷つく。この皮膚組織の破壊が大きく、組織が収縮して凸凹したクレーターになってしまったものがアクネスカー。
★アクネスカーとはニキビの瘢!
2)ニキビの現代医学的治療
従来からアクネ菌除去の目的で抗菌薬(細菌を殺して炎症を抑える抗生物質)使った。これは確かに赤ニキビに対しては有効だった。ただし皮脂が毛孔に溜まらなければ、赤ニキビの前段階である白ニキビにもならないが、白ニキビに対して、洗顔・ボディーケアだけでは効果不十分であった。
しかし平成19年9月からアバタレン(商品名=ディフェリン)が保険適応になった。本剤は毛孔が詰まる原因となる表皮細胞の増殖を抑え、毛孔の表皮を剥がれやすくする作用がある。
★ディフェリンは毛孔が詰まる原因である表皮細胞の増殖を抑える!
近年、効果的ケミカルヒーリングも開発された。これは2~3週間ごとにグリコール酸希釈液を皮膚に塗布し、古い角質を取り除く方法。2週間に1回施術で、6~10回治療を実施する。
※グリコール酸:表皮の上層と、古くなった角質層を剥がす作用をもつ。
★ケミカルヒーリングとは、グリコール酸によって古い角質を取り除く方法!
3)ニキビの鍼灸治療
①全身治療
皮脂分泌腺過剰がニキビの誘因となるのは、副腎皮質男性ホルモンの分泌過剰による。このホルモン分泌過剰は、思春期にみられる下垂体前葉ホルモンの分泌の一端である副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌過剰による。
すなわち根本的には下垂体前葉ホルモンの乱れを正すような治療を行うことが重要であるが、その一助として鍼灸では、便秘・不眠・ストレスといった皮膚状態に関係する不定愁訴の改善を目的とした施術を行うことになる。
★便秘・不眠・ストレスに働きかけることがニキビの全身治療となる!
②局所治療
a)局所への毛鍼置鍼+赤外線15分照射
(久住真理「広汎に多発頻発する尋常性痤瘡の鍼治療」医道の日本、昭60.7)
b)局所下部横鍼(代田文誌「鍼灸臨床録」創元社)
顔面の面皰や膿皰の下部を1番程度の細鍼で数ヵ所に横鍼。経絡的には大腸経が関与することから曲池、合谷の切皮鍼。必要に応じて便秘の治療を併用。ニキビでは隔日で1~2ヵ月程度継続治療が必要。
★局所刺鍼と大腸経治療を併用する!
😊思春期は誰にも訪れます。この頃に分泌が盛んになるホルモンがニキビに大きく関係しています(特にニキビと関係が深いのは、下垂体前葉ホルモン→副腎髄質ホルモン)。ニキビは、人によって程度の差が大きく、思春期であってもキビがあまりできない若者もいます。規則正しい生活にプラスして、冷えに目を向け、そこへの働きかけがニキビの軽減につながることがあります。
2.いわゆるオデキ
1)概念
ニキビが毛孔のアクネ菌感染によるのに対し、オデキは毛孔の黄色ブドウ球菌による炎症をいう。オデキと総称する。オデキは病巣の広がりにより名称が変化し、毛嚢炎・癤(せつ)・癰(よう)・面疔の区別がある。
癤・癰
★オデキとは黄色ブドウ球菌による炎症。毛嚢炎・癤(せつ)・癰(よう)・面疔!
毛嚢炎(毛包炎):毛嚢とは、毛が皮膚に埋まっている表層部分のことで、毛嚢炎とは、黄色ブドウ球菌の繁殖により毛根を包む毛包や毛嚢に炎症が起こった状態。毛穴に限局した化膿性の炎症。通常、痛みやか痒みはない。古くは疔(ちょう)と称した。毛嚢炎はレーザー脱毛でしばしば問題となる。
★毛嚢炎とは毛根を包む毛包や毛嚢の炎症!
癤(せつ):黄色ブドウ球菌感染症。嚢の周囲や脂肪層で化膿が拡大したもの。数日で自壊れ排膿し、瘢痕を残して自然治癒する。重症では切開排膿の必要がある。
★嚢の周囲が脂肪層で化膿したもの!
癰(よう):もしくは癤(せつ)より深い部分で起きたもの。隣り合う複数の毛包が同時に侵される。
★癰(よう)は癤「せつ」より重症!
2)面疔
顔にできるできるもののなかでも、口元から鼻を中心に、、めんちょうとよぶ。デパ虫ともいわれる。
めんちょうは、毛穴や汗腺に黄色ブドウ球菌などの細菌が感染して炎症を起こしたもの。これに対して、ニキビは思春期に多く分泌される皮脂が原因で、皮膚常在菌のひとつであるアクネ菌が酸化して炎症を起こします。
目や鼻周囲や、手のひらで覆うことができる辺りにできるもので、黄色ブドウ球菌の感染症による毛嚢炎(癤や癰)をとくに面疔とよぶ。
★ニキビはアクネ菌、面疔(毛嚢炎)は黄色ブドウ球菌!
ダニが黄色ブドウ球菌を媒介して感染する。 段ボールなどに付着する埃の中に生息しているダニが、人間の皮膚に付着する。ダニが皮膚を噛むと、毛穴から黄色ブドウ球菌が侵入し増殖する。 肌の露出が多いということで、女性よりも男性のほうが感染しやすい。
★黄色ブドウ球菌を媒介するのはダニ!
面疔とニキビはともに赤く腫れていたり膿をもっていたりするので見分けは難しいが、面疔は強烈に痛んだり、悪寒発熱など全身症状がでることもある。面疔の誘因は、加齢・運動不足・ストレスによる免疫力の低下。糖尿病患者に多い。
面疔ができる部分は他と比べて皮膚が薄いために細菌が繁殖して、皮膚の下へ入りやすくりなり、感染拡大すると、頭蓋骨や脳に細菌がまわり脳髄炎や骨膜炎などを起こし死に至ることもあった。また面疔は1カ所だけでなく、血管などを通して他の部分に感染して敗血症になることもあり得る。
軽度な面疔あれば、排膿後2週間ほどで自然治癒する。強い痛みが出たり、腫れがひどくなったり、またなかなかなか治らない症状の際には、医療を受診し抗生物質を服用しないと手遅れになることもある。面疔ができたら、爪や指で引っ搔いてはならない。感染拡大することがある。澤田流創始者の澤田健氏は、面疔で死亡したとのこと。
★面疔は強烈に痛んだり、悪寒発熱など全身症状が出ることもある!
3)面疔の鍼灸治療
まず手三里と合谷に30~100壮灸、これを1日3回程行う。そうすると早く吸収されて治る、もしくは化膿してその後治癒(自然に口が開いて膿が出てくる)。膿の出る口を開けるには、吸い出し膏薬を貼るとよい。なるべく刃物で傷つけないほうがよい。(代田文誌「簡易灸方」より)
※吸いだし軟膏:含まれる成分の角質軟化作用により、はれものの口を開き、膿を排泄する。
代田文誌(しろたぶんし、1900-1974、鍼灸師)長野県鍼灸師会初代会長。息子は医師の代田文彦。澤田健に弟子入りし、太極療法(澤田流)を正式に継承。
★面疔の灸治療。手三里と合谷に30~100壮を1日3回!
①下頤(かい)の灸
下顎中央の縦溝下端の骨上。灸の熱感が浸透して排膿するまで5~20壮。(入江靖二「灸療夜話」緑書房
②患側合谷に多壮灸(家伝:桜井戸の灸)
痛みが消えるまで毎日、5週間ほど数十~二百の多壮灸を行う。50壮ほどで面疔のズキンズキンする痛みが止まってくる。灸を止めると痛み出すので、さらに続けて施灸する。そのうちに痛みが止まり、ひとりでに口が開いて膿が排出される。((深谷伊藤三郎「家伝灸物語」より)。要するに合谷に灸をするだけだが、その据え方に秘訣がある。
★面疔に患側合谷の多壮灸!
※桜井戸の灸:桜井戸とは静岡県清水市にある地名。桜の巨樹と源泉があることからこの名がついた。抗生物質などがなかった江戸時代、この桜井戸のそばに住む漆畑佐治右衛門という人物が旅の行者を助け、そのお礼にと、先祖から伝わっているという腫れ物によく効く灸法を伝授された。その後「桜井戸の名灸」の名で広まったという。あまりにも患者が溢れるため、この地に旅館まででき、東海道線草薙駅はこのお灸の患者のためにできた駅ともいわれる。現在、この地で、ご子孫が現在もこの地で内科医院を開設している。
★桜井戸の灸は、腫れ物によく効く!
〇皮膚の構造と機能
1.表皮
皮膚は表皮(約0.2mm)と真皮(約2mm)から成り、表皮は、角質層→淡明層→顆粒層→有棘層→基底層の5壮から成る。
知覚神経は有棘層まで分布している。(アトピー性皮膚炎では、表皮浅層まで自由神経終末が伸びてきている)。基底層から次々に新しい細胞が生産され、次第に表面に盛り上がり、4週間で表皮は入れ替わる(表皮のターンオーバー)
★アトピー性皮膚炎は、表皮浅層まで自由神経終末が伸びてきている!
①角質層
角質層は、死んだ細胞(=垢)で、ブロック状に何層にも重なり、肌の新陳代謝によって自然に剥がれ落ちる。15%~20%の水分を含み、微生物や、有害物質からの防御機能がある。厚みは0.02mmで、ラップ一枚の厚み。角質層の上には、皮脂膜がある。皮脂膜とは皮脂腺と汗腺からの分泌物が混和したもの。
★角質層は0.02mm、ラップ一枚の厚さ!
②痰明層:手掌と足底のみに存在。摩擦に強い構造。手掌と足底は、表皮が厚い。
★痰明層は手掌と足底のみに存在!
③顆粒層・有棘層・基底層:障害があると、皮膚発赤する。
★皮膚障害により発赤するのは顆粒層・有棘層・基底層!
④基底層
表皮の最下層。表皮の下にある真皮と接合している。真皮から毛細血管を通じて栄養を吸い上げ、細胞分裂を繰り返し、新しい皮膚を生成している。メラニン産生細胞があり、紫外線から皮膚を守る役割がある。この部にあるメラニン色素がシミ・ソバカスをつくる。人種の肌色もここで決まる。
★表皮の最下層にあるのが基底層。メラニン産生細胞があるのがここ!
2.真皮
真皮と皮下組織には、血管・神経・脂腺・汗腺がある。真皮の血管は、盛んに分裂増殖する表皮の基底層に、栄養や酸素を送り届ける役割をもつ。
真皮自体は増殖の乏しい組織なので、注入した物質はそのまま残留する。この仕組みを利用したのが入れ墨。
真皮には触覚受容器のパチニ小体・マイスネル小体がある。
★触覚受容器があるのがマイスネル小体!
①線維:主成分はエラスチンとコラーゲンで、網目構造となって皮膚の弾力を保つ。
②基質:線維の間に満たされた水性のコラーゲン等の物質で、真皮の保湿機能をもつ。(シワ取りとしてコラーゲン注射が行われる)
◎皮膚にある感覚受容器
受容器 順応速度
・触覚 メルケル盤 遅い 表皮
マイスネル小体 速い 真皮
・圧覚 パチニ小体 順応しない 真皮・皮下組織
・温覚 ルフィニ小体 遅い 真皮
・冷覚 クラウゼ小体 非常に遅い 真皮
😊自由神経終末について。痛みを感じる受容器(侵害受容器)には自由神経終末とポリモーダル受容器があります。強い圧迫などの機械的刺激のみに応じるのが自由神経終末。すべての侵害刺激(機械的、化学的、熱的)に応じるのがポリモーダル侵害受容器です。
自由神経終末はAδ線維、C線維などの痛覚神経の先端にあり、皮膚、皮下組織、筋肉の腱や靱帯、骨膜、筋膜、神経を覆う膜、椎間板の一部に存在していて、とくに皮下に多く分布しています。それらに刺激が加わった場合に危険信号として脳へ痛みを伝えます。
体の一部をぶつけたときにすぐに感じる痛みはAδ線維によって伝えられ、後から来るジーンとした痛みはC線維によって伝えられます。
3.皮下組織
皮下組織は皮膚のもっとも深層にあり、表皮と真皮を支えている。 皮下組織は多量の脂肪を含んだ組織で、血管・神経・汗腺などを保護しています。 皮下組織の平均的な厚さは、頭部、額、鼻などで約2mmと薄めですが、大部分は4mm~9mmです。
皮下組織には脂肪成分が分布しており、栄養の貯蔵と体温保持の働きがある。圧覚受容体であるファーテル・パチニ小体がある。 皮下組織の平均的な厚さは、頭部、額、鼻などで約2mm、それ以外の大部分は4mm~9mm。
インフルエンザワクチンなどの皮下注射が痛いのは、皮下組織に注入した薬液がすぐには拡散されないため周囲組織を圧迫するため。同様のことは真皮注射にもいえる。円皮鍼や皮内鍼があまり痛くないのは、鍼が細い理由による。
★皮下組織の厚さは、頭部、額、鼻などで約2mm、それ以外の大部分は4mm~9mm!
3.疣贅(ゆうぜい) 通称イボ
皮膚から盛り上がっているイボ状の突起物を一般にイボとよぶ。医学用語では疣贅(ゆうぜい)。ヒトパピローマウィルスが小傷から皮膚の内部に入り込むことによって発症するものを尋常性疣贅とよぶ。ウイルス感染が関与する場合には、イボがどんどん広がっていくこともある。
他のウイルス感染によるものや、ペンだこやウオノメなどのように皮膚の一部に慢性的な刺激が加わることによって生じるものもある。
疣も贅も「余分なもの」の意味。イボと水イボに分かれる。
★疣も贅も「余分なもの」の意味!
2)尋常性疣贅(イボ)の概要
手指や足底にできる、小さく硬い良性腫瘍。表面は白くざらついている。円形~楕円形で隆起。
接触感染。ヒト乳頭腫ウィルス(ヒトパピローウィルス HPV)が皮膚の傷口から侵入し、表皮の最深部にある基底細胞に感染し増殖したもの。
※青年性扁平疣贅:平の丘疹で、とくに顔面に好発する。
※ヒトパピローマウイルス:子宮頸癌や良性のイボの原因となる。性的接触のある女性であれば50%以上が生涯で一度は感染するとされている一般的なウイルス
★尋常性疣贅は、ヒトパピローマウィルスが小傷から皮膚の内部に入り込みイボをつくる!
3)伝染性軟属腫(水イボ)の概要
まだ免疫力不足状態の4~7才の子供に多くみられる感染症で、他の部位に次々にできる。伝染性軟属腫ウィルスが皮膚に付着、ウィルスは真皮にまで潜り込む。感染した真皮の細胞は風船のように膨らみ、さらに細胞分裂を繰り返して増殖していく。風船のような細胞が集まることで、その部分がプックリと膨らみ、中に水が入っているかのような外見になる。真珠のような白からピンクの湿疹。
実際に入っているのは、液体ではなく白い乳液状のもので、この中に伝染性軟属ウィルスがある。引っ掻いたりつぶしたりすると、このウィルスが外に飛び出し、他部位に接触することで感染が拡大する。感染力は弱いが、尋常性疣贅よりは強い。数個~十数個できるのが普通。感染経路はプールなどでの他者との接触や、タオルや衣類を介しての接触等。痒みや痛みはない。ピンセットで水イボを1つ1つ潰す方法は、90%以上は1年以内に自然治癒するため、また激痛をともなうこともあり、必要性を疑問視する声もある。
★水イボは1年以内に90%が自然治癒!
4.鶏眼と腁胝(ベンチ、タコ)
皮膚の最外層の角質層が局所的に増殖したもの。絶えず圧力が加わる足の裏は、最も角質層が厚いところで、原因は、歩き方や履いている靴にある。歩き方の癖や合わない靴のために、体重がいつも決まった部位に偏って加わると、圧力がかかる部位の皮膚がわざと角質を厚くして皮膚を守ろうとする。これは声帯の防御反応である。
圧力がかかる範囲がある程度広ければ、その部位の角質が厚くなるだけの胼胝(タコ)となるが、ピンポイントに圧力がかかり続けるとその部位の角質が内側に向けてくさび状に厚くなるためウオノメ(鶏眼)となる。
ウオノメはふつう足の裏にできるが、タコは足の裏以外にも、生活習慣や職業やその人の癖などにより、身体のあちこちにできる。例)ペンダコ、座りダコ、拳ダコ等。
★足にタコができる人は靴、もしくは歩き方を見直そう!
1)鶏眼(通称、ウオノメ)
特定の部位に圧迫や摩擦が繰り返し起こることで生じる。皮膚の防衛反応による角質の肥厚。表面が固くなるだけなので押圧痛(-)。感覚が鈍くなっていることの方が多い。
5.イボ、水イボ、ウオノメ、タコの一般的な治療法
イボはヒトパピローマウィルス感染症、水イボは伝染性軟属腫ウィルス感染症、ウオノメとタコは皮膚の圧迫摩擦による角質層肥厚とそれぞれ異なっているが、タコを除く3者の共通点は表皮最深部の基底層あたりが障害部だということ。
★イボ、水イボ、ウオノメは表皮最深部の基底層が障害部位!タコは角質層!
一般的な治療法は、皮膚表面から表皮を削り、基底層を刺激するという点が共通となる。尿素希釈液を塗布する「軟膏療法」は、カンナのようにゆっくりと角質を削り取る方法。尿素には、肌の乾燥を防ぐだけでなく、皮膚を柔らかくするという効果がある。カサカサを通り越し、ガサガサやゴチゴチに、厚くなってしまった肌の改善にも効果的である(商品名:ケラチナミンコーワ)。スピール膏やイボコロリのようにサリチル酸溶液を塗布するのも、角質を軟化腐食させる方法。
肝心なのは、基底層に刺激を与えることだが、堀り進んでいくにしても、ある程度の時間は必要である。そこで、角質層を取り除くのではなく、爪切り用ニッパーなので表面に避け目を入れ、さらに爪で裂け目を拡大し、なるべく基底層に達するような深いヒビを入れるようにする。ただし基底層のすぐ下は真皮で知覚があるので、痛くならない程度に行う。その裂け目に上記薬液を塗布し、ラップで巻くテーピング固定。治療は毎日行う。
タコは皮膚一定表面の角質層の肥厚なので、ナイフなどで削り、その上で尿素クリームの塗布を行う。
※スピール膏は、サリチル酸を塗布した絆創膏。サリチル酸は、角質を軟化させ、角質を剥離する。
★イボ、水イボ、ウオノメの治療は角質を軟化させる!
6.イボ、ウオノメ、タコの焦灼治療と水イボのせんねん灸治療
1)焦灼灸の定義
イボ、ウオノメ、タコに対しての灸法として焦灼灸がある。焦灼灸の治療的意義は、灸熱刺激で、患部の温度を90℃くらいに高め、急速にタンパク変性を起こさせ、組織を炭化させることにある。炭化とは、タンパク質の最終加熱状態で、熱傷による痂皮(=かさぶた。死滅組織が組織から剥がれかかっている状態)のことだと説明される。
イボ、水イボ、ウオノメには古来から焼灼灸が使われてきたというが、この具体的な意義は、基底層にまで高い温度の灸熱を加えて組織を炭化することにあると考えられる。
イボと水イボはウィルス感染症で、ウオノメは機械的刺激によるものだが、治療法は同じである。ウオノメの構成物質も一種のタンパク質であるため、焦灼灸の適応となる。
★イボと水イボはウィルス感染症、ウオノメは機械的刺激によるものだが、共に焦灼灸の適応!
2)イボの焦灼灸
イボの頂点に施灸するが、基底層に灸熱が到達しやすくなるように、なるべく角質層を削る下準備を行っておく。半米粒大にして壮数(数十壮)を増やすような焦灼灸を行う。連日行った方がよいが、2回目以降の治療では、痂皮をカットしてから施灸するとよい(岡田明三「皮膚疾患の灸療法いぼ・魚の目・たこについて」医道の日本、平成16年11月)
★焦灼灸を行う前に、角質層を削る下準備を行っておく!
3)水イボのせんねん灸
水イボの頂点に施灸するが、角質層が厚くなっている訳ではなく、小児に多いこともあって、通常の透熱灸は実施し難い(非常に熱い)。せんねん灸などを行っても効果がある。隔日施灸4~5回で自然落屑する。ヨクイニンを服用させる手もあるが、速効はしない。(皮膚科で行わるピンセットでつぶす方法は非常に痛い)
※ヨクイニン:イネ科に属するハトムギの種皮を除いたものを乾燥させた生薬。皮膚の新陳代謝を促す働きがあり、イボ取りや肌を滑らかにする効果があるとされている。
★水イボにはせんねん灸も効果的!
4)鶏眼の焦灼灸
表面の角質層をなるべく薄くナイフ等で削ぎ落した後に施灸する。角質化した部分(半透明に見える部)から艾柱がはみ出さない大きさの艾柱で、焦灼灸を行う。焦灼灸を繰り返すうちに、施灸面は縮んで硬化し、またヤニが付着してベタベタしてくる。
角質化している部分は焦げて黒く炭化していく。毎回の施灸は、しっかりと炭化させるまで行う。ただし一度に取ろうとして過剰に行うと、周辺の火傷が発生してしまう。
大きさにもよるが、1~2週間のうちにとれることが多い。取れた後は、クレーターのような穴が空くが、次第に肉が盛り上がって埋まっていく。(増田真彦:いぼ・魚の目・たこの鍼灸施術、「皮膚疾患の灸療法いぼ・魚の目・たこについて」医道の日本、平成16年11月)
★鶏眼の焦灼灸は一度に取ろうとしてはいけない!
5)タコの棒灸と焦灼灸
まず棒灸などを使い、タコ表面を広範囲に加熱し、軟化させる(熱を加えることで、皮膚尿面のタンパク質が変性して柔らかくなる)。次にタコの部分を削った後、米粒大の2倍の大きさの艾柱を、タコ部にまんべんなく、皮膚表面が褐色に変化するまで施灸。3日ほどで痂皮ができる。1週毎に黒くなった痂皮をカットして、同様の方法で施灸する。(岡田明三:皮膚科疾患の灸療法-いぼ・魚の目・たこ-について、医道の日本、H16.11)
★タコに対して焦灼灸を行うときは、最初に棒灸でタコ表面を熱して軟化せておく!
7.化膿性爪囲炎(瘭疽・ひょうそ)
1)概念
指に限局した蜂巣炎(=蜂巣織炎)。蜂巣炎とは、皮膚と皮膚直下組織の急性最近感染症で、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌などによる。定型的なものは刺傷や陥入爪などを誘因とした指頭にみる皮下蜂巣炎で、化膿性炎症をきたしたもの。
指先の皮下組織は強靭な結合組織線維により多数の小房に分かれており、滲出液による小房の緊満により、指端知覚神経の圧迫による激痛、栄養血管圧迫による組織壊死などが起こりやすい。炎症がリンパ管に沿うように広がっていき、リンパ管炎となることもある。
★瘭疽の原因菌は黄色ブドウ球菌や連鎖球菌!
2)症状:拍動性の疼痛発赤が主症状。
3)治療:安静や抗菌薬、切開排膿など
4)鍼灸治療
深谷灸法:患部の指爪を横に3等分し、上1/3の処にできる線の中央に施灸。半米粒大の灸を多壮する。悪ければ熱さを感じない。感じるまで施灸、1日2回朝夕施灸、1壮目で熱く感じるまで継続する。
※この方法は、爪水虫にも効果がある。
😊ここに記した、タコ・水ダコ・ウオノメ・に対しての灸治療(せんねん灸、焦灼灸、棒灸)は、当院では行っておりません。タコ・ウオノメ・瘭疽は、特に糖尿病の患者さんでは重症化し易いので注意が必要です。早めに病院(皮膚科)を受診し、適切な処置を受けてください。
第2節 アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能(角質層)が低下することが原因で引き起こされる病気。
バリア機能低下のメカニズムは明確には解明されていないが、遺伝やアレルギー体質などが関与していると考えられている。近年ではアトピー性皮膚炎患者は皮膚の水分保持を担うフィラグリン(タンパク質)が少ないために皮膚が乾燥しやすいことが分かっている。
★アレルギー性皮膚炎はフィラグリン不足か!
1.アトピー性皮膚炎の位置づけ
-(一次)刺激性接触皮膚炎 ←例:うるしかぶれ
湿疹-皮膚炎-接触性皮膚炎-アレルギー性(接触)皮膚炎←例:Ⅳ型アレルギー
-アトピー性皮膚炎
-脂漏性皮膚炎 ←真菌による。頭や顔面からの黄色い脂肪塊
※Ⅳ型アレルギー:ヘルパーT細胞由来のアレルギー。おもな症状としてはアトピー性皮膚炎やツベルクリン反応、接触性皮膚炎
★アトピー性皮膚炎は、ヘルパーT細胞由来のアレルギー(Ⅳ型アレルギー)!
◎自然免疫と獲得免疫
身体には外敵からの防御機構があり、自然免疫(好中球、マクロファージ、NK細胞が活躍)と獲得免疫に大別される。
自然免疫とは、免疫細胞が自分(自己)と自分以外(非自己)を認識する人間に元々備わっている仕組みのこと。非自己である病原体をいち早く認識し、攻撃することで病原菌の排除を行う。
獲得免疫とは、一度侵入した病原体の情報を記憶、学習し、再び侵入された時に対処する免疫のこと。獲得免疫は、生まれたときには備わっておらず、後天的に獲得される。ワクチンは獲得免疫を利用した病気の予防法。
獲得免疫系にはB細胞が産生する抗体(免疫グロブリン)が主体となった液性免疫とT細胞が主体となる細胞性免疫がある。
アトピー性皮膚炎は、Ⅰ型アレルギー、Ⅳ型アレルギー反応が関係しているとされるが、アレルゲンはまだ特定されていない。アレルギー疾患は獲得免疫(T細胞やB細胞が主役となる免疫の方法)の異常とされてはいる。
★アレルギー疾患は獲得免疫(T細胞やB細胞が主役となる免疫の方法)の異常か!
発展途上国では寄生虫をもっている者が多いが、そうした国ではアトピー性皮膚炎患者が少ないことが知られている。群馬大学の石川治氏らは、平成26年8月19日、寄生虫感染すると、ナチュラルキラー細胞が増加することで、アトピー性皮膚炎の症状がよくなることを証明した。感染以外の方法でもナチュラルキラー細胞を増やすことができれば、アトピー性治療の新薬ができるとしている。
★寄生虫感染すると、ナチュラルキラー細胞が増加し、アトピーの症状がよくなる!
※NK(natural killer)細胞:がん細胞やウイルスに感染した細胞などの異常な細胞を見つけ、攻撃するリンパ球の一種。リンパ球の10~30%を占める。
2015年4月22日、慶応義塾大学医学部によるアトピー性皮膚炎は皮膚の異常細菌巣が引き起こすと報道発表があった。ヒトの皮膚は無数の細菌が繁殖しているが、そのことが病原性微生物の繁殖する余地をなくすという有用な面があった。アトピー性皮膚炎患者の皮膚には黄色ブドウ球菌が異常繁殖し、本来多様性を見せるはずの皮膚細菌巣を覆い尽くすという現象が見られたという。黄色ブドウ球菌自体は感染症や食中毒などを引き起こす起因菌という一面もある。また皮膚にある黄色ブドウ球菌を完全に排除することは事実上できない(いつの間にか戻る)。黄色ブドウ球菌の繁殖を抑制できる技術の発見が、今後重要視されるかもしれない。
★アトピー性皮膚炎患者の皮膚には黄色ブドウ球菌が異常繁殖している!
アトピー性皮膚炎では白色皮膚猫記症(皮膚をこすった時に、白い線が出る)が出る。これは血管反応の異常であり、引っ掻くという機械的な刺激に対して血管が収縮してしまうために起こる。
一方、赤い線が出れば赤色皮膚猫記症で蕁麻疹が代表。蕁麻疹では機械的刺激により肥満からヒスタミンが分泌され、血管が拡張するために引っ掻いた場所が赤くなる。
★アトピー性皮膚炎で出る白色猫記症は血管反応の異常、蕁麻疹で出る赤色皮膚猫記症はヒスタミンの分泌!
2.概念
日本皮膚科学会によるとアトピー性皮膚炎は、「憎悪・寛解を繰り返す、掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因をもつ」と定義されている。つまり「痒みのある湿疹」「よくなったり悪くなったりを繰り返す」「アトピー素因をもつ」という特徴がある。アトピー素因とは「アレルギーを起こしやすい体質」と考える。IgE異常。
IgE:免疫の中で大きな役割を担っている免疫グロブリン(Immunoglobulin、略称Ig)。血液中や組織液中に存在している。免疫グロブリンには、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類があり、それぞれの分子量、働く場所・時期に違いがある。
IgE:喘息や花粉症などのアレルギーを起こす抗体。
IgA:腸管、気道などの粘膜や初乳に多く存在する。局所で細菌やウイルス感染予防を担う。
★免疫グロブリンE(IgE)の異常とアトピー性皮膚炎は深く関わる!
3.アトピー性皮膚炎の原因
アトピー性皮膚炎は皮膚の保護機能が低下すると異物の混入を招き、免疫異常が起きて発症する。
◎アトピー性皮膚炎の概念
1)皮膚側の要因
表皮バリア機能の欠陥がまずあり、そのためにアレルゲンなどが容易に体内に侵入するので、アレルギーが成立する。
★アトピー性皮膚炎は、バリア機能に欠陥があるため、アレルゲンが容易に体内に侵入する!
①セラミド形成不全
角質層(表皮最上層にある)が並ぶ隙間を、セラミド(=細胞間脂質)が埋めているのが正常。アトピー性皮膚炎は、角質層に存在するセラミドが少ないので、皮膚のバリアーが十分に機能せず、水分が逃げやすく皮膚は乾燥し、アレルゲンが容易に侵入する。
★アトピー性皮膚炎は、セラミド(=細胞間脂質)が少ない!
②フィラグリン遺伝子異常
セラミドは角質細胞の深層にある顆粒細胞内で生成され、代謝により表皮側にせり上がって角質細胞になる。フィラグリンというタンパク質は、表皮の角質細胞に存在するケラチンを束ねることで、角質層を強固にする働きがある。フィラグリンは最終的には分解されて天然保湿因子として働くため、皮膚のバリア機能の維持に欠かせない。
フィラグリンが少ないと、顆粒細胞が放出されるセラミド量も少ないため、角質は乾燥して隙間が出来やすくなる。セラミド形成不全の原因としてフィラグリン遺伝子異常がある。
★フィラグリンはセラミドとともに皮膚の保湿に欠かせない!
京都大の椛島健治教授らは、平成25年9月17日、フィラグリンを数倍に増やす効果がある「JTC801」という化合物を見つけたと発表した。この化合物を水に溶かしてアトピー性皮膚炎のマウスに毎日飲ませたところ、4~6週間で量がほぼ回復し、症状も改善した。目立った副作用はなかった。臨床試験は10年後がメドとのこと。
ステロイド外用剤は一時的にフィラグリンを増加させるが、免疫細胞の働きによって発現が抑制されるため、結局はフィラグリンを減少させてしまうことが判明した。
★ステロイド外用剤は、最終的にフィラグリンを減少させてしまう!
2)免疫側の原因
白血球中のリンパ球は、T細胞、B細胞、NK細胞などに細分化される。T細胞の前駆細胞(ヘルパーT細胞)の、さらにその前駆細胞(ヘルパーT前駆細胞=Th0細胞)は、Th1とTh2に分化して、次第にヘルパーT細胞へと発達していく。ヘルパーT細胞は、抗原の種類によって、Th1細胞になるか、Th2細胞になるかが変わる。Th1細胞が増加すれば、Th2細胞が減少し、Th1細胞が減少すればTh2細胞が増加するという拮抗関係にある。Th1とTh2が互いにバランスを取ることで、免疫応答の質を変化させており、バランスの乱れがアレルギーの原因になっている。
★ヘルパーT細胞は抗原の種類によってTh1とTh2になるかが変わる。Th1とTh2のバランスが取れていればアレルギー反応は起こりにくい!
①Th1細胞(細菌やウィルスに反応。Ⅰ型アレルギーの主役)→IgE抗体がつくられにくい。
②Th2細胞(花粉・ダニ・ホコリなどに反応。Ⅳ型アレルギーの主役)→IgE抗体がつくられやすい。
※IgE抗体:免疫グロブリン。アレルギー反応を起こす糖蛋白。
★Th1細胞はⅠ型アレルギーになりにくく、Th2細胞はⅠ型アレルギーになりやすい!
新生児の免疫反応はTh2細胞分化が優位であるが、本来的には、成長に伴い、適当な刺激や細菌暴露による環境におかれることで、Th1細胞分化が誘導され、TH1/Th2細胞バランスが確立される。
母親から供給される免疫は、生後4ヵ月~半年頃にはほとんどなくなってしまうため、その後乳児は免疫力が下がり病気にかかりやすくなる。
戦後わが国では多量の抗菌薬やワクチン接種により、Th1細胞分化を誘導する細菌感染やウィルス感染が減少してしまったことが、アレルギー疾患を増加させる一因と考えられている。
さらに腸内細菌はTh1細胞の誘導物質であることから、抗菌薬の過剰摂取による腸内細菌のk破壊もTh1/Th2細胞の乱れの原因となっている。
★Th1細胞分化を誘導する細菌やウィルスの感染が減少したことが、アレルギー疾患を増加させている!
〇皮膚側の要因
・気候や生活習慣、体質による皮脂不足
・皮膚の細胞の結合分子の異常
・皮脂分泌関連分子の異常等
〇免疫側に要因
・Th2サイトカインの亢進、高IgE
・炎症関連細胞・分子の異常活性化等、いわゆるアレルギー体質
★アトピー性皮膚炎は、皮膚側の要因と免疫側の要因がある!
3)皮膚表在菌の問題
朝日新聞(H27.4.23)の記事:アトピー性皮膚炎は、皮膚表面の細菌の種類の偏りがあると起きることを、マウス実験で解明したとの研究結果を、慶応大学と米国衛生研究所(NIH)の部ループが22日、米科学誌に発表した。
研究グループは、アトピー性皮膚炎のモデルマウスをつくり、皮膚表面の細菌の種類を調べた。健康なマウスの皮膚には、たくさんの種類の細菌がいるが、モデルマウスでは黄色ブドウ球菌のなど少数の細菌のみで占められていた。黄色ブドウ球菌の出すある種の抗原によりインターロイキン31というサイトカイン(細胞間の情報伝達物質)が多量に産生される。
★アトピー性皮膚炎のモデルマウスには、黄色ブドウ球菌のなど少数の細菌のみで占められていた!
3.現代医学的治療の原則
アトピーの治療に根治法はなく、どの治療法も対症療法になる。
・アレルギー反応を起こした原因・悪化因子の除去→室内の掃除、入浴、転地療法。
※転地療法:気候の異なるところへ転居し、気候の人体に及ぼす影響を積極的に利用する治療法。気候療法。
・壊れた皮膚の防御能力を改善するためのスキンケア→保湿剤の塗布。
・炎症(湿疹)自体を抑えるための薬物療法。
→ステロイド外用薬:炎症反応を鎮める対症療法。
→抗ヒスタミン内服薬:痒みを抑える目的。副作用は少ないが効果不明。
→抗アレルギー剤:Ⅰ型アレルギーの肥満細胞や化学伝達物質の合成や放出を阻止。皮膚の痒みをある程度軽減できる。3ヵ月程度の継続性服用が必要。
★アトピー性皮膚炎の対処(治療)法は、悪化因子も除去、転地療法、スキンケア、薬物療法など!
1)掻痒と炎症の改善
①ステロイド外用薬
肥満細胞から放出されるヒスタミン等による真皮の血管透過性が亢進し、痒みや浮腫や膨疹となる。抗ヒスタミン剤やステロイド剤には、この抑制作用がある。
※ステロイド:副腎皮質ホルモンの1つ。 ステロイドホルモンを薬として使用すると、体の中の炎症を抑えたり、体の免疫力を抑制したりする作用がある。 副作用も多いため、注意が必要な薬である。
★ステロイド外用薬はヒスタミン等による真皮の血管透過性を抑制する!
※ステロイドの目的
ステロイドはIgE抗体を減少させることができる。すなわち人体が有害だと認識したアレルゲン(=異種蛋白質)と反応させなくすることで強力な抗炎症作用を生む。根本治療にはならない。
★ステロイドはIgE抗体を減少させることができるが、根本治療にはならない!
※ステロイドの副作用
皮膚萎縮(皮膚表面の皮脂膜がなくなる。皮膚が薄くなる。長期使用では真皮の部分まで障害)と毛細血管拡張(真皮にある毛細血管が障害され、血流減少)、さらに汗腺まで影響を受けて、汗が出なくなる。また免疫力低下により感染症に対して脆弱になる。
こうした皮膚であっても、皮膚は4週間の再生サイクルをもっているので、厚くする努力をすれば皮膚は厚くなる。
★ステロイドの長期使用は汗腺を傷害し汗が出なくなることもある!
②免疫抑制剤タクロリスム水和物(免疫抑制剤・プロトピック軟膏)
ステロイド外用薬は炎症を早期に鎮静化できるが長期使用には適さない。これに対し、タクロリムス外用薬にはホルモン作用もないので皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用がなく、炎症がある程度軽快した後の維持療法として適しているとされ発売時に話題になった。現在、顔や首の痒みや皮膚炎には、ステロイド外用薬よりもプロトピック軟膏の方がよく処方される。有効成分の分子量が大きいので、皮膚の状態の悪いところからは吸収され、正常な皮膚からはほとんど吸収されないと考えられている。そのため、吸収率が悪いことにもなり、その理由はプロトピック軟膏のプロトピック軟膏だけでは痒みを十分に抑えられず、ステロイド外用薬と一緒に使ってうまくコントロールしている人が多い。
プロトピック軟膏に副作用が少ないとはいっても、一時的に皮膚の刺激感(ほてり、ヒリヒリ、かゆみ)が出ることがありそれを不快と感じる場合は、コレクチナム軟膏が勧められる。
★タクロリスム(プロトピック)は副作用が少ないが、吸収率が悪い!
③コレクチナム軟膏
細胞内の免疫活性化シグナル伝達に重要な役割を果たしているヤヌスキナーゼ(JAK)の働きを阻害し、免疫反応の過剰な活性化を抑制する。抗炎症作用及び抗そう痒作用によるアトピー性皮膚炎の皮疹に対する改善作用を示す。
★コレクチナム軟膏はヤヌスキナーゼ(JAK)の働きを阻害する!
④痒みを直接抑える新薬「ネモリズマブ」注射
アトピー性皮膚炎の痒みを誘発するサイトカインであるインターロイキン31に働きかけ、その働きをブロックすることで痒みを抑える作用。治験は、京都大学の椛島健治教授(皮膚科学)製薬会社マルホ(大阪市)の研究チームが行った。
※インターロイキン:ヘルパーT細胞から分泌されるサイトカイン
※サイトカイン:細胞から分泌される低分子の蛋白質で生理活性物質の総称。
軟膏など従来の治療で十分な効果を得られていない中等症から重症の13才以上の男女215人を対象にして、143人にネモリズマブを、残りの72人には偽薬を4週間に1度皮下注射。外用薬を併用し、16週間にわたって比較した。
ネモリズマブを注射されたグループは、痒みの程度が平均42.8%改善。湿疹の症状にも回復がみられた。偽薬のグループでは、痒みの程度は平均21.4%の改善だった。
★ネモリズマブ注射群は42.8%痒みが改善、偽薬群は21.4%!
2)スキンケア
①菌を洗い出す
アトピー性皮膚炎の乾燥した皮膚からはアレルギー症状を起こすアレルゲンが容易に侵入するが、うるおいのある皮膚はこれを防ぐ。よって入浴はシャワーではなく、37℃程度の温度の湯に10~30分程度浸かる(できれば1日2回)。石鹸は使わない。汗とともに皮膚についた細菌、アレルゲンを洗い流すことを目的とする。お風呂から出たあと汗が出てくる程度が望ましく、入浴による外からの水分補給とほどよい汗によって角質の水分量を保つ。
★アトピー性皮膚炎の人は適温の湯船に必ず入ろう!
※アトピーの小学生児童53名に対し、6~7月の6週間、平日昼休みに学校で温水シャワーを3~5分実施。全身を25部位に分け、強い痒みの部を2点、弱い痒みの部は1点、痒みのない部を0点として、50点満点で評価した。施術前は平均11.2点だったが、施術後は4.0点と好転した(2005.11.20 第42回日本小児アレルギー学会、望月博之氏の発表)
※熱いシャワー:長田裕は、ステロイド離脱時の症状改善として、43~44℃くらいの熱いシャワーを。激しい勢いで吹き付けることを試みた。
治験例:顔のシャワー療法を始めて半月目に来られた時には顔が腫れ、滲出液が表れ、びらんもあってリバウンド状態を呈していた。患者は不安を訴えていたが、リバウンドであることを説明し、そのままシャワー療法継続。さらには2週間後来院。喜びの顔をみて驚いた。2ヵ月目の来院で、すっかり元の皮膚に戻っていた。
★熱いシャワーが効果的なこともある!
②乾燥を防ぎ保湿する。
風呂からあがってすぐ、水分を拭き取らずワセリンを塗る。すると広がって細いひび割れのある皮膚の中に入っていく(アトピー皮膚はザラザラしているので水分を拭き取ると、塗るのに多量のワセリンが必要)。30分~1時間ほどするとベタベタは消える(消えないようなら好転している証拠)。
※ワセリン:石油を精製した保湿剤
★入浴後は水分を拭き取らずに、すぐにワセリンを塗る!
3)経過と予後
アトピー体質(アレルギー体質と乾燥肌による皮膚のバリアー障害)は、簡単に変えることができないので、アトピー背皮膚炎を完治させることは難しい。症状をコントロールしながら、うまく付き合っていくこと。対症療法でも、TARC(タルク)を低く抑えることはできる。
※TARC(タルク):アトピー性皮膚炎の重症度評価に用いられる検査値(血液検査)。
★アトピー体質は簡単に変えられない!
4)患者指導
①抗原の回避
・1日数回、シャワーなどでアレルゲンをサッと洗い流す。ただし皮脂膜(汗、皮脂、垢)は洗い流さないように、ゴシゴシ擦らない。このことは保湿剤を使わなくてよいことを意味する。皮脂膜を洗い流すと粘膜表面に分泌される免疫グロブリンA(IgA)までも流してしまうことになる。
※分泌型免疫:特に、眼・鼻・喉や消化管などの粘膜組織において、粘膜表面に分泌されるIgAのこと。
※IgA:免疫グロブリンAのこと。免疫グロブリンとは、異物が体内に入った時に排除するように働く「抗体」の機能をもつタンパク質。免疫グロブリンには、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類がある。
・アトピーを悪化させる食品、化学物質を摂らない(チョコレート、砂糖、油脂、化粧など)
・ダニのいない清潔な部屋にする
★アトピー性皮膚炎の人は、シャワー時に皮脂膜まで洗い流すな!
②アレルゲンが体外に排出されるよう、アトピー皮膚症状を最小限に抑える
アトピー皮膚炎体質が改善されているのであれば、脱ステロイドを行っても問題は起こらない。
一方、アトピー性皮膚炎体質が体質が重度の状態で、脱ステロイドを行う、次から次へとアレルギー反応は起こり続け、これを止められないので皮膚状態は長期間悪化した状態となる。その状態が落ち着いた後は、皮膚の炎症患部が乾燥し、動くと皮膚が割れるため、痛くて動けない状態になる。この状態を3ヵ月から1年、耐えねばならない。とはいうものの耐えるのは非常に困難であり、多くの者が脱ステロイドに中途挫折する現状がある。
アトピー性皮膚炎の治療で、ステロイド軟膏を使わざるを得なくなったのだから、ステロイド軟膏の使用を中止すれば、アトピーが治るという論理には矛盾があるともいえる。
ステロイドを減らすには、ある程度の我慢も必要となる。どうすれば比較的楽に、この期間を乗り越えられるか。1つ目は体内のアレルゲンを抜くための減量、2つ目は入浴して汗や滲出液をしっかり出す(刺絡治療も含む)、3つ目は、痒み対策の補助として抗アレルギー剤の使用とされている。
①減量(体内のアレルゲンを抜くため)
②入浴(汗や滲出液を出し、皮膚を清潔に保つため)
③抗アレルギー剤の使用(補助として)
★脱ステロイドのために、減量、入浴、抗アレルギー剤!
😊アトピー性皮膚炎の治療は確立されておらず、いかに症状を抑えるかが重要視されます。アトピー性皮膚炎は遺伝的疾患であり、完治ということはあり得ないという声もあります。症状を抑えるとはいっても、その方法によって返って症状が悪化するようなことは避けなければなりません。治療において、体調を良好に保つことが基本となるのは、アトピー性皮膚炎に限ったことではありません。ポイントとなるのは、食事の管理、充実した睡眠、適度な運動です。これらが適切であれば、いい意味で体調の変化も期待できます。また、脱ステロイドには多少の我慢が強いられますが、ストレスがあると耐えることができず挫折してしまいます。つまり何か一つのことに頼るのではなく、生活全般にわたってできることはすべてやる、ということです。
5.アトピー性皮膚炎の鍼灸治療
動物実験では、鍼刺激によりTh2細胞の増殖を抑制するある種のサイトカイン増加の報告がある。またアレルギー性鼻炎の鍼の臨床では、Th1サイトカイン産生を抑制するサイトカインが減少したことから、これらのサイトカイン調整によりTh1/Th2細胞バランスを調整し、アレルギーを抑制していることが考えられるという。
サイトカイン:細胞から分泌される低分子のタンパク質。生理活性物質の総称。細胞間相互作用に関与し周囲の細胞に影響を与える。液性免疫と細胞性免疫のバランスを調節し、ある特定の細胞集団の成熟、成長、および反応性を制御するなど、免疫系において殊に重要である。ある種のサイトカインは他のサイトカインの作用を複雑な方法で増進または抑制する。
※サイトカインAh1、Ah2:どちらもリンパ球の一つであるヘルパーT細胞。
★鍼刺激によりサイトカインTh1とTh2のバランスが調整される!
2)鼻粘膜非特異的過敏性を抑制
アレルギー性鼻炎患者の、ヒスタミンによる鼻粘膜誘導試験テスト下の鼻症状が、誘発前あるいは誘発直後の頚部交感神経幹近傍刺鍼により抑制される(安藤文紀・他:頸部交感神経幹近傍刺針に関する研究、頭頸部自律神経、1992:6/:63-66)。
また抗原による鼻粘膜誘発テスト下の鼻症状も誘発直後刺鍼により抑制される。(安藤文紀・他:アレルギーに対する星状神経節刺針の効果、全日本鍼灸学会誌、1988:38(3):281-287)。
すなわち鍼刺激の影響が免疫系に及ばなくても、鼻粘膜の非特異的過敏性が抑制されることで、症状改善が起こる。
※鼻粘膜誘導試験:花粉症かどうかを調べるための検査。原因と考えられる花粉エキスのしみこんだ紙を鼻の粘膜に貼り付け、反応が現れるかどうかを調べる。5分程度待って、くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった花粉症の症状が現れるかどうかで判定する。
★鍼刺激はその影響が免疫系に及ばずとも、頚部交感神経幹近傍刺鍼により鼻症状が抑制される!
3)刺絡の作用
正常者の自由神経終末は皮膚の表皮と真皮の境界部にあるが、アトピーでは角質細胞から分泌される神経成長因子の作用で、さらに浅層にまで自由神経終末が伸張する。痒みは、痛みと同じく無髄C線維で中枢へ伝達される。
・正常者の自由神経終末:表皮と真皮の境
・アトピー患者の自由神経終末:さらに浅層。(神経成長因子による)
★アトピー患者の自由神経終末は、角質から分泌される神経成長因子により浅層に伸びている!
アトピー性皮膚炎の鍼灸治療は、痒みのある皮膚層面に対し、止痒目的に刺絡することが多い。刺絡は主に井穴(爪の生え際にある穴)から行うが、刺絡は副交感神経の働きを抑えることでアトピー性皮膚炎なのどのアレルギー症状に効果があるとされる。とくに掻き始めると、どんどん痒みが強くなり、痒い範囲が広がっていくタイプに刺絡は効果があるらしい。
★刺絡の目的は痒み止め!
※自由神経終末:
痛みを感じる受容器。侵害受容器ともよばれる。
自由神経終末は、強い圧迫などの機械的刺激のみに応じる機械的侵害受容器と、すべての侵害刺激(機械的、化学的、熱的)に応じるポリモーダル侵害受容器がある。多くの刺激モードに応じることからポリモーダル とよばれる。
・機械的侵害受容器→機械的刺激にのみ反応。Aδ線維
・ポリモーダル侵害受容器:すべての侵害刺激(機械的、科学的、熱的)に反応。C線維
自由神経終末はAδ線維、C線維などの痛覚神経の先端にあり、皮下に多く分布する。皮膚、皮下組織、筋肉の腱や靱帯、骨膜、筋膜、神経を覆う膜、椎間板の一部(線維輪の外側2層まで)に存在していて、それらに異常が生じた場合に危険信号として脳へと痛みを伝える。
★機械的侵害受容器はAδ線維、ポリモーダル侵害受容器はC線維の末端にある!
4)痒み部に対する高温熱刺激
高熱に加熱した器具を、数秒間皮膚にあてるという治療は、民間療法として以前から知られていた。熱した金属コテで皮膚を軽く叩く平田内蔵吉(ひらた くらきち、1901-1945) の平田心療法、線香を金属の筒に入れ、皮膚や擦過する伊藤金逸のイトオテルミー(1929年に伊藤金逸医師により発明された)などである。これらは、独自の道具を購入する必要があることや、熱した道具で皮膚を察する動作を週十分繰り返し行うという手間のかかる施術であることが普及を妨げた感がある。
③アイロンによる温熱療法
三井とめ子創案。専用の機器(マイハンドらくらく)用いて、気になる処に当てる。次第に熱さを感じ「アチチ」なるくらいまで続ける。刺激の強さは患者の状態をみて調節する、およそ1時間かけて全身に施術することが基本になっている。
※平田内蔵吉(ひらた くらきち、1901-1945。日本の医学者民間療法家)
※テルミー:ギリシャ語が語源で温熱療法を意味する
※三井兎女子:(みついとめこ、1915-2001。丼龍堂(せいりゅうどう)を開設者)
簡便性に優れている方法としては、以下のようなものがある。
①カユキモチー
熱水の入ったウィーダーインゼリーの容器(スパウトパウチ、ピースパック=アルミをコーティングしたプラスチック製容器)を、フリース地で包み、さらにガーゼ袋に入れたもの肌にあてるというもの。熱く感じたら容器を取り除く。
注意点:最初に水を入れて満杯にして(空気が残っていると電子レンジ内で膨張して爆発する)、電子レンジで熱水にする。70~80℃になるまで2~5分間加熱。
この方法は、平成28年2月28日放送MXテレビ放送の「探偵ナイトスクープ」において、〃ある人にしか伝わらない謎の快感〃という題目で、アトピー性皮膚炎の者の皮膚に、熱水の入った小袋を布で包んだものをつけると、非常に気持ちよいという内容で放送された。
発案者自身がアトピーで、転地療法と自然食品、そしてカユキモチーにより克服した。上記方法は、皮膚の症状が正常になるにつれて、単に熱く感じるだけで、気持ちよい感覚はなくなるとのこと。
②ペットボトル温灸
「ペットボトル温灸」若林理砂氏(鍼灸師)が称す。容量薬300㏄のペットボトルに、温湯70~80℃にしておいたものを皮膚に当てるというもの。100㏄の水を入れておき、それから沸騰した湯200㏄を徐々に入れるようにする。ペットボトル温灸を当て続けると次第に熱くなるので、熱さに我慢できなくなったら皮膚から離す、これを数回繰り返す。
適温とする温度は、カユキモチ―と同じ。
③熱いシャワー療法の利点と欠点 アトピーで痒いところに、熱いシャワーを浴びせるという方法は、以前から有名な方法だった。このシャワーの温度は本人が適温だと感じるものだが、45~50℃となる。この方法も、アトピー患者にとって、非常な快感を得ることができるとのこと。
しかし熱い湯が皮脂を落とす。皮膚バリアがなくなるので、皮膚がカサカサになり、有害であるという見解もある。前述のカユキモチ―やペットボトル温灸そしてアイロン加熱では、このようなことはない。
④高温熱刺激の治療理論
a)ヒートショックプロテイン
皮膚に対する熱刺激は、なぜアトピー性皮膚炎に有効なのか。これは熱ショックタンパク質(ヒートショックプロティン)が関係にしていることが考えられる。ヒートショックプロティンによってダメージを受けた傷や異常細胞の修復が行われる。その際に免疫力が高まるということも起こるらしい。
※ヒートショックプロテイン:細胞の損傷を防ぐタンパク質。熱刺激により体内で発現する。
西村淳著の実録小説「南極料理人」の中で、しなびた野菜を50℃の湯で洗うと、シャキッとするという内容のことが書かれているとのこと。西村氏自身はその理由はわからなかったが、平山一政氏(ひらやま いっせい。早稲田大学社会システム工学研究所・スチーミング調理技術研究所代表)は次のように説明。
収穫後の野菜の細胞の水分は少しずつ失われていくが、少しでも乾燥するのを防ぐため、野菜表面の気孔は閉じた状態になる。これが〃しなびた状態〃。この状態であっても50℃の温水に入れるとヒートショックで葉の表面の気孔が開き、失われていた水分が瞬時に吸収されてシャキッとした収穫直後のような状態に戻る。
同様の現象は、あさりの砂抜きにも応用できる。あさりは塩水につけて最低2~3時間寝かせて砂抜きをしないと食べられないというのがこれまでの常識であった。しかしこれも50℃の温水に5~15ほど漬けておくだけでお湯が濁るほどの砂が出て食べられる状態になることが判明した。この現象について平山氏は次のように説明している。あさりを50℃のお湯に入れると、ヒートショックを受けて身を守ろうとする。すると、水分を最大限に吸収し身を殻から押し出してくる。付着した異物や汚れを排除しようとする挙動だと考えられる。
b)自律神経の調整
温かいと感じる刺激は副交感神経を優位に、熱いと感じる刺激は交感神経を優位にさせる。日ごろストレスを多く感じている者が副交感神経を優位にするために、積極的に気持ちよいと感じる温熱刺激を受けることは間違いではない。しかしそれだけではなく、「アチチッ」と感じるくらいの刺激で交感神経を刺激することで、いい意味でより自律神経の働き活発になる。
★ときどき「あつーっ」もしくは「あちちっ」と感じるくらいの刺激を!
第3節 毛髪の異常
1.毛髪の生理
1)毛周期
毛は生えてきたら、ある一定期間は生え続け、やがて抜け落ちる。これを毛周期(ヘアサイクル)とよぶ。頭髪の毛周期は4~5年。毛周期には各段階がある。
★頭髪の毛周期は4~5年!
①成長期(2~6年):毛を生み出す源の毛包が大きく成長する。全周期の85%は成長期で、この時髪の毛を抜こうとすると抵抗があり、痛みも感じる。抜いた毛の毛根にゼラチン様のカプセルが付着する。
※毛包:毛を産生する哺乳類の皮膚付属器官
★毛髪サイクルの成長期は2~6年!
②退行期(2~3週間):毛包は小さくなり、成長が止まる。退行期は約1%
③休止期(3~4ヵ月):細胞分裂休止。休止期は約14%。抵抗なくブラシで抜ける毛であり、細く毛根が棍棒状である。
人間の毛髪は青年で約10万本あるが、それぞれの毛が毛周期に従い、混然一体となっている。毛周期が何らかの原因で短縮すると、毛髪が十分太く長く育たないうちに、成長期の初期段階で抜けてしまうことになる。ただし健康者でも1日50~70本の毛髪は脱落している。
④脱毛期:毛が抜ける
★毛周期は、成長期、退行期、休止期、脱毛期!
2)毛根(毛乳頭細胞と毛母細胞)
頭髪は、毛根にある「毛母細胞(毛髪の原材料)」と「毛乳頭細胞」ある。母細胞が分裂し、硬くなり古い細胞を押し上げて伸び、成長する。脱毛しても、毛母細胞が活動がする限りは、髪の毛は再生する。その時鍵となるのが「毛乳頭細胞」である。
毛乳頭細胞とは、母細胞を被うように毛根の中央に位置しており、毛母細胞に必要な栄養や、「生えろ」「抜けろ」の指令を送る「髪の毛の司令塔」である。
また毛母細胞にある色素細胞がメラニンをつくり、毛の細胞に分配している。
※金髪は黄色メラニン、黒髪は黒色メラニンが成分になるが、日本人の髪にも黄色メラニンはある。黄色と黒色の割合で、髪が茶色味を帯びる。
★毛乳頭細胞からの指令と栄養を受け、毛母細胞が成長する!
3)毛髪の加齢的変化
①毛髪は加齢とともに毛周期が長くなる。
※眉毛は成長期が50%、従って短いうちに自然に抜ける。老人では眉毛が長くなる傾向にある。
②白髪
白髪は(しらが)は毛髪の老人性変化であり、メラニン色素をつくる色素細胞の大幅な減少による。白髪は先天性要因によるが、バセドウ病・悪性貧血・自己免疫疾患に続発することがある。
※バセドウ病:甲状腺のはたらきが異常に活発になることで甲状腺ホルモンが過剰に産生される病気。
※悪性貧血:胃粘膜の萎縮による内因子の低下によりビタミンB12が欠乏することで生じる貧血。
※内因子:胃から分泌される糖タンパク質。ビタミンB12と結合して腸でのビタミンの吸収を促進する機能がある。キャッスル内因子ともいう。
★白髪の生理的原因は加齢による色素細胞の現象。病的なものは、バセドウ病、悪性貧血等!
4)毛髪とホルモン
生毛、眉毛、睫毛は性ホルモンの支配を受けないので年令に関係しない。腋毛、陰毛は性ホルモンの支配を受けるので、思春期から出現する。頭髪も影響を受けている。髭や陰毛、体毛は男性の二次性徴と関係がある。男性ホルモンはこれらの発育を促すが、頭髪の若禿げも促進する。
副腎機能亢進時(クッシング症候群等)やあるいは副腎皮質ホルモン服用時には多毛となり下垂体機能亢進時にも多毛となる。一方、下垂体機能低下時には毛髪の発育は阻害され、陰毛や腋毛が失われる、甲状腺機能障害によっても発毛の異常が起こる。
※クッシング症候群:副腎のコルチゾールが過剰に産生・分泌され満月様顔貌や中心性肥満などの症状を示す状態。糖尿病、高血圧症、脂質異常症、骨粗鬆症などを合併することが多い。指定難病。
★副腎皮質ホルモン方は多毛&頭髪減少!
5)脱毛症
脱毛症の大部分は生理的か、または毛周期の病定異常から起こっている。
①成長因子の異常:薬物投与(抗癌剤、経口避妊薬、抗凝固剤)などでみられることが多い。毛根部破壊され、細くなり脱落する。
★脱毛が起きる薬物は抗癌剤、経口避妊薬、抗凝固剤等!
②休止期の異常:成長期の期間が短縮された結果、休止期の毛髪が増えることで脱落、つまり毛髪本来の寿命が短縮することになる。この場合脱毛後にも次の毛髪は生成される軟毛化が進行する。
★脱毛症はヘアサイクルの異常でも起こる!
③分類
脱毛症:円形脱毛症、トリコチロマニア(脱毛癖)、壮年性脱毛症
症候性の脱毛症:膠原病(SLE、皮膚筋炎)、薬剤、内分泌障害(甲状腺機能低下、副甲状腺機能低下)
トリコチロマニア:抑えきれない衝動により、自らの毛髪を引き抜いていてしまう。抜毛に至る原因として、家族・友人・学校関係における問題を原因と指摘する報告が多くある。
★症候性の脱毛症には、膠原病、薬剤、甲状腺機能低下、副甲状腺機能低下等!
2.男性型(壮年性)脱毛症(AGA Androgenetic Alopecia)
男性では、主に30~50代で発症する場合が大半だったが、10~20代でも増えてきている。日本で抜け毛や薄毛に悩む人は、1300万人といわれるが、その大半はAGAである。
2)原因:遺伝(8割)、男性ホルモン
男性ホルモンのテストステロンが、5αリダクターゼという変換酵素の働きを受け、男性ホルモンDHT(デヒドロテストステロン)に変換される。このDHTが毛根の細胞分裂を阻害し、本症を発症。
★男性型毛症は変換したデヒドロテストステロンが毛根の細胞を阻害するため!
3)治療
①男性ホルモン抑制剤:プロペシア内服(有効成分がDHTを直接刺激。発毛剤)
5α-R内服(主成分ノコギリヤシによる男性ホルモン抑制サプリ)
②末梢血管拡張剤:ミノキシジル塗布(頭皮の毛細血管拡張作用→毛乳頭への栄養補給)
この類として、育毛剤「リアップ」などがある。
★男性型脱毛症の治療薬は、プロペシア(ノコギリヤシ)、ミノシキジル(リアップ)!
・発毛剤:(発毛促進剤):毛母細胞の働きを活発にし、長い間脱毛状態にある毛穴から再度発毛させる。
・育毛剤:脱毛を予防し、今生えている髪の毛を太く丈夫に育てる効果のあるもの。
・養毛剤:水分や油分などを補い、頭皮と毛髪の保全用←従来からあるタイプ
★発毛剤、育毛剤、養毛剤がある!
3.円形脱毛症
1)原因
円形脱毛症の原因には、現在のところ、自己免疫説、末梢神経異常説、ストレス説、感染アレルギー説などが挙げられている。なかでも注目されているのが自己免疫説である。
自己免疫説:ウィルスや細菌を排除するリンパ球が、毛根を「異物」と勘違いし、攻撃してしまうことで起こる。毛根が炎症を起こして、毛の根元が細くなったり、途中で切れてしまったりする。脱毛機序は、ヘアサイクルとは無関係。
かつては精神的ストレスに関係があるされた。これはストレス→交感神経緊張→頭皮の血管収縮→末梢の血流障害という機序である。患者の半数にアトピー性皮膚炎がある。
★円形脱毛症の原因として自己免疫疾患説。精神的ストレスが引き金になるか?!
2)症状・所見:突然頭髪の一部が円形、楕円形に脱毛。健康部との境界は明確。毛髪を引っ張ると簡単に抜ける。抜けた毛をみると、根元ほど細く、感嘆符(!)が特徴。
進行期:毛根を異物とみなしたリンパ球が集まり攻撃→炎症が起こり脱毛する。
固定期:毛が抜けて止まる。→自然に新たな毛が生えて来るかは否かは予測困難。
★円形脱毛症の予後は予測困難!
3)分類と予後
①単発型:10円玉ほどの脱毛が、1~数個できる。自然治癒が多いが、再発しやすい。
②多発型:単発型が融合した状態。自然治癒が多いが、再発しやすい。
③汎発型:多発型を繰り返して全身の毛まで抜ける。治療予後は不良。
★円形脱毛症は、単発型、多発型、汎発型の3種!
4)円形脱毛症の現代学的治療
進行期か固定期かで治療法を決める。
年齢、脱毛状態、脱毛が進んでいる「進行期」か症状が落ち着いた「固定期」かで、治療法を決める。固定期では、脱毛部位への、免疫や炎症を抑えるステロイド注射や、局所免疫療法が効果的。進行期に脱毛をすぐに止める治療はない。抗炎症作用などがある飲み薬(セファランチンやグリチルリチン)や、紫外線などによる光線療法、液体窒素を使う冷却療法を併用することもある。
※局所免疫療法:特殊な薬剤を使って人工的にかぶれを起こし、免疫機能を正常にして脱毛症を改善する治療法。毛根を攻撃する別のタイプのリンパ球を散らして脱毛を防ごうというもの。脱毛面積の広い脱毛症に効果的とされる。
★進行期ならステロイド注射、局所免疫療法。進行期に脱毛を止める治療はない!
5)円形脱毛症の鍼灸治療
①局所の施灸
局所の施灸は、局所免疫療法と同様のメカニズム。脱毛部の中心に1~2ヵ所毎日施灸する。やや大きな円形脱毛症では、周囲を囲むように施灸する。数ヵ月後に治療する。
禿部への施灸は、先端部が丸くなっているブラシで叩くのもよい。梅花鍼や七星鍼では消毒に難点がある。
※1980年代、我が国では、中国製の「101」という育毛剤が一大ブームとなった。有効率が97.5%という触れ込みで、一部マスコミが報道したためだった。しかし使用者にカブレが起こるという事件があって、ブームは一過性で終わった。以後も禁煙や痩身に効果ありとする石鹸などの事例もあって、中国医薬品は信頼性に欠けるといわざるを得ない。
★局所の灸により脱毛部の免疫を正常化する!
②上部胸椎督脈上の施灸
禿げている部へ直接灸、灸をした部にのみチョロチョロと短毛が生えてくる程度に留まる。督脈では、身柱、神道、霊台に、頚部では瘂門、風池に反応がありこのあたりに各穴3壮実施する。3~4ヵ月で発毛してくる(深谷伊三郎「お灸で病気を治した話」)
★円形脱毛症に、身柱、神道、霊台、瘂門、風池に各3壮の施灸!
③閻三鍼
1990年代、北京の中医師、閻世燮(エン・スーシェ)氏が考案した円形脱毛症に対しての特殊な頭鍼療法。脱毛症は結局、自律神経の乱れから起こるとして、自律神経を調節する作用のある治療として考案された。大変な効果があると中国で評判になった治療で、有効率80%とのこと。
頭頂部にある 「防老」、 頚部の両側の「健脳」 2穴の計3穴を基本点に治療を行う。
以下の穴を補助穴として用いる。
・大星:上星と神庭の間。上から、上星・大星・神庭と5分間隔で並ぶ:皮脂の多い人に。
・第6頚椎下際:霊台の下際。頭皮に痒みのある人に。
・脳戸:督脈。外後頭隆起上際の陥凹部。1年以上行って効果がみられない場合に。
この治療法は毎日のように鍼治療に通うことを原則としているが、日本では週一回程度の治療でなければ続けるのが難しいとのことから、明治鍼灸大学との共同研究では、体鍼と併用する独特の治療法を確立した。円形脱毛症に対する下記穴を梅花鍼、毫鍼等で刺激する。
灸頭鍼もよく行われる。灸頭鍼の場合でも皮膚中には水平刺するが、皮膚から出た部から鍼を直角に折り曲げる。これは一見すると頭皮に直刺しているように見える。そして灸頭鍼を行うようにする。
本治療を行う際に忘れてならない、閻氏の「五つの誓い」とは次のようなもの。①シャンプーはぬるめの湯で、②度数の高いアルコールは飲まない、③刺激的な食物(辛い物など)、④規則正しい生活をする、⑤怒ったり、イライラしたりしない。
★閻三鍼とは、防老(灸頭鍼)と健脳!
a)生髪:風府と風池をつなぐ線の中心
b)防老:百会の後1寸。五頂や四神聡のうちの一つ後四神聡とほぼ同じ部位。
鍼尖を斜め前方に向けて鍼柄が頭皮と平行になる様に皮膚に沿わせる。得気を確認すること。
c)健脳:風池の下1.5寸。
鍼尖を下に向けて0.2寸(約3mm)刺入。このツボは頭皮の中にあるので、ぴったりの部位に正確に刺入しなければ効果は薄い。
★頚部と頭部のコリ部に刺鍼!
😊円形脱毛症には、 単発型、多発型、汎発型があります。多発型、汎発型はすでに円形ではありませんが、円形脱毛症です。円形脱毛症は脱毛という一症状であり、その病態を全身から捉えるべきです。どの型であっても、全身の調整と局所への施術の両方を行うことで治療の効果が高まることはいうまでもありません。局所への施術のみで良くなることもありますが、脱毛部への刺激によって全身の調整がなされたと考えられます。つまりここでこれまでに紹介したツボは、脱毛症に対してだけに用いられるわけではないということです。
☯東洋医学からみた脱毛症
1.総説
東洋医学では脱毛症を「髪堕」「脱髪」という。髪は腎との関係が密接で、また髪は「血余」ともいわれ血との関りも深い。腎は髪の製造能力、血は髪をつくる原料。
腎:腎は髪の寿命(毛髪サイクル)に関係
腎虚→実年令よりも老化が進行。白髪。※男性に多い悩み
血:髪の栄養。つや、潤いに関係。 ※女性に多い悩み
血虚→髪が細い、髪がパサつく。
〇髪=血余、歯=骨余
◎病因
病因(病気の原因)には、外因、内因、不内外因があり、これは脱毛症であっても同様である。外因とは外気温や湿度などの環境のことで、風・寒・暑・湿・燥・火の六つがあり六淫ともよぶ。内因とは過度の感情のことで、怒・喜・思・憂・悲・恐・驚の七つがあり七情ともよぶ。不内外因は、飲食不摂、労捲(労働のし過ぎ)、房事、外傷。
病気を治療もしくは予防し、良好な体調保つためには、これらの因子をなるべく排除することが重要である。多くの場合病気には前段階があり、慢性病にいたっては発症してから長い月日が経っている場合も少なくなく、よって治療を施してもすぐに病気が治らないことは当然ある。どのような病気であっても、治癒のためには環境を整えることが不可欠である。
2.血の病変
1)血熱生風による脱毛(激怒、外寒熱病による脱毛)※山火事状態
病態:精神的刺激により心身が攪乱され、心火が盛んとなって血熱により生風が生じ、内風により脱毛する。随伴症状として、イライラしやすい・口渇・尿が濃いなどを伴なうことが多い。
精神的刺激→心火旺盛→血熱→亢じて内風
↓
血が濃縮→頭皮脂が多くなり脱毛
※血熱:臓腑の熱が旺盛となってその熱が血に波及した症候。
※内風:臓腑の病理変化によって体内で生じる証候(状態)。風・寒・湿・燥・火の五つがあるとされ内生五邪とよばれる、六淫とは区別して考えるべきもの。六淫と内生五邪が密接に関係して病証が成り立っている場合もある。
症状:突然生ずる円形脱毛(山火事のような)。口渇、便秘、黄色い尿
舌脈:舌質紅、舌苔黄
治療:局所治療に加え、手陽明経、足厥陰経、足少陽経、背部兪穴、心包経、督脈の穴を取り、刺鍼施灸を行う。
〇陰血虚損による脱毛
病態:「髪は血余」→肝腎陰虚による陰血不足→毛髪栄養不良
※乾燥し過ぎて、水も栄養も不足している状態。
肝腎陰虚により陰血が不足すると、毛髪に栄養がされず脱毛する。フケ・かゆみを伴なうことが多い。男性型脱毛は本証に該当することが多いが、男性型脱毛はほとんど生理的なもので病気といえない。よって陰血虚損による他の症状(不眠、口渇、耳鳴り、めまい、イライラしやすい等)を緩和することはできても、脱毛症を治すことは困難である場合が多い。足少陰経・足厥陰経を主に全身の調整を行う。
症状:持続的に脱毛。頭頂または両額角から次第に脱毛する。
舌脈:舌質紅:舌苔少、脈細数
治療方針:補腎養血
処方例:足少陰腎経、足厥陰肝経、手足陽明経。鍼補法。
〇気血両虚による脱毛
病態:産後などの気力体力不足による脱毛。
慢性病・産後など気血の不足により毛髪が栄養されないことによる脱毛。血熱生風による円形脱毛症などに比べると、毛髪は乾燥して艶がなく、全頭が平均して薄くなる。動悸・息切れ・脈数などの症状を伴ないやすい。出産後、膠原病、内分泌障害(甲状腺機能低下等)による脱毛が該当する。
慢性病・産後→気血の不足→毛髪の栄養不足→脱毛
※気血両虚となる原因:肝腎陰虚、脾胃虚損
気虚症状(活力、呼吸と関係):息切れ、自汗、動くと疲れる
血虚症状(貧血、心臓や睡眠と関係):顔色不華、めまい、心悸、不眠多夢
※気血両虚の典型は、心脾両虚証(デプレッション+気血両虚)で、脾虚のため貧血となり、貧血のため心神(=精神)を養えなくなる。また過度のストレスがあれば食欲が低下して、血をつくれなくなる。心脾両虚は、心腎不交(ストレス+陰虚症状)と共に、更年期障害でよくみれられる。
※デプレッション:憂鬱、意気消沈
舌脈:舌質淡、舌苔白。脈細無力
治療方針:補気養血
処方例:足陽明経、百会、気海、脾兪等。鍼補法
〇血瘀による脱毛
病態:瘀血の停滞により血行が阻害され、毛髪の栄養が悪くなることで起こる脱毛。
血瘀→頭皮の穴が停滞→老廃物の蓄積と栄養の欠乏→脱毛
↓
血液の粘度が強→どす黒い皮膚色
症状:部分的または広範な脱毛。持続的に経過。頭部に刺痛。どす黒い顔色。口乾
※口渇と口乾
①口渇:口が渇いて水が飲みたくなる状態。
熱症などで、津液が不足していることで生じる。
②口乾:口は乾くが、あまり水は飲みたくない状態。
・痰飲(水滞)で、体内に水分は多量にあるが、口内にまで水が回らないに口乾を生ずる。ドライマウス ←シェーグレン症候群
・瘀血(冷えや外傷による血行不良)では、血液の粘度が高くなり、これを薄めるのに水を欲し、口乾を生ずる。この場合、水分は体内に多量にあるので、口渇は生じない。
舌脈:舌質暗紅または瘀斑、脈濇(=血瘀)
治療方針:活血化瘀(瘀血の除去、血行の改善)
処方例:手足陽明経、足太陰脾経、膈兪(血会穴)、三陰交(脾)、血海(胃)、上廉(大、曲池下3寸)風池、鍼補法
主に足太陰経、足少陽経、背部兪穴、督脈を取穴する。患者がアトピー体質であった場合、本証への働きかけが必要である。
😊 尋常性痤瘡(ニキビ)、オデキ、疣贅(イボ・ウオノメ・タコ)、瘭疽、アトピー性皮膚炎、毛髪の異常(脱毛症)等は体内の異変が症状となっての体の表面(皮膚)上に現れたものです。なのでその部位だけに処置を施しても、決して十分はありません。閻氏の円形脱毛症治療に行うにあたっての「5つの誓い」は、円形脱毛症に対してだけではなく、全ての皮膚疾患、いや全ての疾患に対していえることです。