こころの調子がわるいと、お腹の調子もわるくなる
心と脾
心(しん)の働きは、二つ。一つは、「神を蔵し、神志を主る」こと。これは精神活動を行うという意味で、現代医学的にみれば「大脳」の働きに相当します。神は「心血」によって滋養されています。もう一つは、「血脈を主る」こと。心拍によって全身に血(酸素と栄養)を供給する心臓の働きです。
脾(ひ)は飲食物から体に必要な栄養素を生み出し、このため「後天の源」と呼ばれ、現代医学の消化器系に相当し、「心血」も脾の働きによってつくられます。
この二つがともに虚す(機能低下する)のが、心脾両虚です。
心血の不足
考え過ぎ、悩みすぎは心血を消耗させ、神を滋養することができなくなります。頭がぼーっとする、集中力がなくなるなどのことがおき、また心神不寧といって、クヨクヨと悩みやすく、これによって眠れなくなるったりするのも心血の不足によるものです。このとき胃腸の働きがしっかりとしていれば、不足した心血を補うことができ、思慮過度になることはありません。しかし心血が不足の状態は脾虚を招き、脾の機能を低下させるといった悪循環を生んでしまいます。
脾虚から心血不足となる
脾虚の人は心血が不足し、貧血気味、立ちくらみをしやすい、元気がない、思慮過度になりやすい、といった傾向がみられます。この状況を解決しようとしても、脾虚であるために栄養を十分に摂取することが難しく、心血を生み出すことができません。このジレンマから抜け出すために、どうしたらいいのでしょう?
心脾両虚からの脱出
まずは「体質」について。体質を調べると、生まれながらにもっている体の性質。もしくは、体質とは、遺伝的素因と環境要因との相互作用によって形成される、個々人の総合的な性質、とあります。
体質が、「生まれながらにもっているもの」だけというなら、体質は変えられないということになります。しかし、生活素因も関係しているのであれば、体質は100%ではないにせよ、変えらるものと考えることができます。体調を良好に保つことが、体質の改善につながるといえるでしょう。
いずれにしても、体質を変えるのは時間のかかるものです。しかし生活習慣を変えることはすぐにでもできます。また生活習慣を変えずに、体質を変えることはできません。心や脾の働きを活発にするためにできることは以下の通りです。
●お腹を空かせる
心や脾などを元気にするためには栄養が必要だからといって、無理に食べても、胃腸にさらなる負担をかけることになってしまいます。脾虚を解決するには、まずは食べる前に空腹の状態になっているということがポイント。そのためには、一回の食事の量を少なめします。そうすれば次の食事のときにはあらかた消化が済んでいて、毎度の食事でかかる胃腸の負担は軽くなります。
●適度に運動する
運動によってカロリーを消費すれば、それに見合うだけのカロリーを体は欲します。また、運動は脾だけでなく、心を元気にします。心が晴れやかであれば食欲もでてきます。
●体を温める
心脾両虚は、本来、お互いをサポートするはずのことができていない状態です。気・血・水の巡りをよくして、心と脾それぞれの、またお互いの関係を良好な状態に戻すためには、温めることが必要です。体が温まれば、心陽、脾陽ともに活発になります。
肝脾不和との違い
判別や治療など、東洋医学(中医学)は陰陽論・五行論をもとに行われます。ともに、極簡単にいえば、自然界を始めこの世の営みはすべてはバランスが大切であるということ。人間のにおいては体内のさまざまなバランスが崩れたときに病気になり、その崩れたバランスを元に戻すために、これらの理論を治療や生活習慣に応用するということです。
心は火、脾は土の性質をもち、火が燃え終わった後の灰が土なるということから、この二つは母子の関係にあります。心が脾の母で、脾は心の子です。心血が足りなければ脾を補うことができず、また脾(子)の不調は親を悩ませます。先述しましたとおり、脾は心の働きに大きく影響を受けていて、悩みごとがあると食欲がなくなるような状態が心脾両虚です。これ以外に、精神的なものの影響を消化活動が受ける現象として、「肝脾不和」があります。
肝は木の性質をもち、肝は心の母、脾のおばあさんということになります。木が燃えて火(心)が生まれるというわけです。
肝は人間の「怒」の感情に深く関わり、怒りによって生じた負のエネルギーが脾に向いて、消化機能に影響を及ぼしたものが「肝脾不和」です。高等動物とされる以外の動物は、悲しむ、憂うといった感情をもつことはあまりありませんが、怒ることはあります。このことからもわかるように、肝は、原始的なストレスを主っていて、例えば、熱い、寒い、痛い、痒い、物理的に苦しい、といった刺激を不快に感じ、その負のエネルギーが消化器に向いても肝脾不和の状態になります。
一方、心は、人間関係などのもつれで思い悩むなど、大脳が大きく関与するようなストレスに強く影響を受けます。昔とは大きく異なり、生活環境が調った現代では、心を病むことのほうが多いと考えられます。
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