鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか?「膝痛をやわらげるために」編
はじめに
鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。
筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化、等々。
これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。
解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。東洋医学の治療は、東洋医学独自の病の見立てである「弁証」と、状況に応じた対処の仕方「論治(選穴、取穴、刺鍼施灸、手技)」によって成り立っています。西洋現代医学、東洋医学と、背景にある考え方が違っていても、治療にあたって用いるツボが同じになることは珍しいことではありませんが、日本において、患者さんが東洋医学の病名や用語を口にすることは、まずありません。よって現代医学的な診断を参考にしながら、東洋医学的な分析をしつつ、ことにあたる必要があります。
鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、主に現代医学的観点から病態を捉える、治癒率向上を図る、鍼灸適応不適応の再確認、といったことと合わせて、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代針灸臨床論』」という科目に対しての理解をより深めることを目的の一つとしています。非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。
※東洋医学とよばれるものには中医学の他に、インドのアーユルヴェーダ、イスラムのユナ二医学、チベットのチベット医学などがあります。
◎膝痛とは
膝関節痛は急性と慢性痛に大別され、針灸で対応できるものとできないものがあります。急性は、発症のきっかけが明瞭で、外傷(スポーツ外傷や打撲)によるもので、膝内障の可能性があります。膝内障とは膝関節構造に直接関係した部分の障害であり、前後の十字靭帯損傷、内外の半月板損傷の総称をいいます。膝内障の重度障害は外科手術の対象となります。軽度~中度障害は赤経外科でも保存療法を行うので、まったく針灸不適応というわけではありませんが、必ず病院での診察を要します。
膝関節が発赤して熱感のあるものは、化膿性関節炎などの急性炎症性関節炎であると考え、針灸は禁忌となります。慢性的なもの、直接的な受傷機転がないものが針灸適応であり、変形性や使い過ぎ症候群が最適応疾患となります。
・外側半月板:大きなC型
・内側半月板:小さなOもしくはC型
・前十字靭帯:脛骨前方→大腿後方
・後十字靭帯: 脛骨後方→大腿前方
★変形性膝関節症や使い過ぎ症候群の保存療法として針灸は適応!
半月板損傷
〇半月板の機能
膝関節は、体重負荷が大きいことと、歩行や走行で酷使されることから、大腿骨と脛骨間にクッションの役割をする半月板とよばれる軟骨があり、膝にかかかる負担の分散と安定に寄与している。
半月板には、内側半月、外側半月の2つがある。内側半月板は、大きくC型をしていて、外側半月板は、小さくO型ないしC型をしている。
★内側半月板は大きなC型、外側半月板は小さなO型もしくはC型!
〇急性半月板損傷
スポーツ中に膝を捻る、高い所から飛び降りる、膝を深く曲げるなどで、地面に踏ん張っている状態で、下肢をねじったり回旋運動を行った場合に半月板に亀裂が入る。亀裂は、運動を繰り返しているうちに次第に拡大することが多い。
★地面に踏ん張っている状態で、下肢をねじったり回旋運動を行った場合に半月板に亀裂が入る!
受傷時、膝の突然の激痛が生じて、動作の中断を余儀なくされる。重症では2~3時間後には膝関節腫脹し、膝関節の嵌頓(ロッキング:膝に何かがはさまったような感覚で、膝を伸ばすことも曲げることも困難になる)が出現する。
★半月板に亀裂が入ると、膝の突然の激痛が生じて、動作の中断を余儀なくされる!
この時は、歩行不能はもちろん立位にもなれない。関節血種が生じることもある。関節血種の有無は、膝関節液穿刺で確認される。軽症例では、(キャッチング=膝の曲げ伸ばしの際、ある角度で引っかかって痛む感じがする。ただし膝の可動域性は保たれている)が起こる。キャッチングは軽いロッキング状態といえる。
★半月板損傷。キャッチングは軽いロッキング状態といえる!
半月板には知覚はないので、半月板に亀裂があっても痛みの直接理由にはならないが、膝関節の進展や内旋・外旋時には、半月版のスムーズな動きが阻害されるので、半月板周囲の関節包知覚・筋膜が刺激されて痛み、立位になることや、健側を浮かせて患足のみに体重をかけることができなくなる。
★半月板には知覚はないので、痛むのは半月板周囲の関節包知覚・筋膜!
・半月板亜脱臼
激しいスポーツなどの受傷動機がないのに、急に膝痛が生じて、ロッキングやキャッチングが起こることがある。これは中高年者に多くみられる半月板症状だが、整形外科では先天的な奇形・老化・肥満などが原因とされている。
★激しいスポーツなどの受傷動機がないロッキングやキャッチングは、先天的な奇形・老化・肥満などが原因!
しかし本当に半月板に亀裂が入った非可逆的状態ならば、一度生じたロッキングやキャッチングは改善することはないはずだが、実際には1~2ヵ月程度の安静によりこうした異常所見は少なくなり、痛みも軽減することがある。このような状態を、半月板の亜脱臼とする場合もある。
★半月板。受傷後1~2ヵ月後に異常所見がなくなるものは亜脱臼とする場合も!
・理学テスト
膝伸展時に半月板は前方に辷り、かつ脛骨の外旋を伴なう。膝屈曲時に半月板は後方に辷り、かつ脛骨の内旋を伴ないます。この機構を利用したのが膝関節半月板の理学テストである。
・膝伸展時→半月板は前方辷り。脛骨は外旋
・膝屈曲時→半月板は後方辷り。脛骨は内旋
★上記の機構を利用したものが膝関節半月板の理学テスト!
①マクマレーテスト
仰臥位で患者の膝関節を、踵が臀部につくように最大限に曲げる。検者は患肢の踵部を握り、他方の手でぐらつかないように保持しつつ、指を膝関節の裂隙に置く。その状態にして下腿を内旋・外旋したまま股関節と膝関節を伸展していく時の(このとき半月板は脛骨とともに動く)、クリック音や疼痛の有無を調べる。
・マクマレー内旋時痛→外側半月板損傷
・マクマレー 外旋時痛→内側半月板損傷
★マクマレーは仰臥位!
②ステインマンテスト
足が宙に浮く位の高いベッドに座位。検者は被験者の足首をつかみ、内・外に急速に回旋。痛みやクリックが出現すれば(+)。
・ステインマン内旋時痛→外側半月板損傷
・ステインマン 外旋時痛→内側半月板損傷
※テストによって悪化しないように注意
★ステインマンは坐位!
③アプレ―テスト
a)アプレ―圧迫テスト
伏臥位にて膝関節を90°屈曲位にし、足部をもって圧迫しながら回旋して疼痛の有無をみる。
(+)時:半月板損傷
※OAでも疼痛が見られることがある。
★アプレ―圧迫は伏臥位!
b)アプレ―牽引テスト
伏臥位にて膝関節を90°屈曲位にし、 検者の膝部を患者の大腿の上に固定し、足部を持って引き上げながら回旋させ、疼痛の有無をみる。
(+)時:関節包や側副靭帯や十字靭帯の軟部組織障害
★アプレ―牽引も伏臥位!
〇半月板損傷に対しての治療
①手術療法の適否
早期に手術が必要なのな、痛みに加えて半月板のひっかかりで膝が動かない
(すなわち歩行はもちろんまともに立てない)などの症状がある場合、または痛みが長く続き、くり返して水が溜まるなどの症状があって、スポーツ活動、日常生活、職業上大きな支障がある場合。若年者の半月板を摘出することは。将来的に膝関節変形を助長させることになる。
★若年者の半月板を摘出することは。将来的に膝関節変形を助長させる!
②保存療法
膝の腫れや痛みが強い時は、患部に負担をかけないように可能な範囲で膝の安静を保つ。強い痛みがある場合は、痛みや炎症を抑える目的で消炎鎮痛剤を使用。膝に多量に水がたまった場合は針を刺して内容液を取り除く。また、関節の潤滑性を高め炎症を鎮める効果のある薬剤(ヒアルロン酸)を関節内に注入する方法もある。
★消炎鎮痛剤、水を抜く、ヒアルロン酸!
半月板の栄養血管は外側の1/3にしか存在しない。つまりこの範囲の半月板辺縁部の損傷であれば自然治癒機転の働きを期待して、保存療法(ギプス固定、装具装着を含む)を選択する。
いわゆる半月板亜脱臼では、歩行時に脱臼の助長を防止するため、内外半月板外周用のサポーターも用いられる。
★半月板の栄養血管は外側の1/3にしか存在しない!
③運動療法
半月板損傷では、強い膝痛が生じる。すると膝に負担がかかることを行わなくなり、大腿四頭筋の筋肉量減少、筋力低下により体重が支えられなくなる。これにより関節変形が助長されるという悪循環をたどりやすくなる。
この悪循環に陥らず、また悪循環からの離脱を図るために、大腿四頭筋の強化運動は重要視されている。
★半月板損傷 →強い膝痛 →膝の負担を避ける →筋力的 →関節変形助長!
〇大腿四頭筋と膝痛の関係
膝関節の運動療法として大腿四頭筋の強化が非常に重要だとされるが、それはどのような理由によるものか?膝関節を伸展させるための筋は、大腿四頭筋のみである一方、膝関節が完全伸展位になると膝の内旋・外旋が不能となるので負荷をかけても膝は構造的に安定する。すなわち大腿四頭筋(とくに内側広筋)筋力低下→膝完全伸展しづらい→膝にかかる「ひねり」の力に対して脆弱ということになる。
★大腿四頭筋(とくに内側広筋)筋力低下→膝完全伸展しづらい→膝にかかる「ひねり」の力に対して脆弱!
〇靭帯損傷
・膝靭帯の役割
膝には大きな体重負荷がかるので、関節は強力に靭帯補強されている。前方への動揺防止目的(大腿骨に対して脛骨が前に出ないようにする)に前十字靭帯、後方への防止目的に後十字靭帯がある。外反動揺防止に内側側副靭帯、内反動揺防止に外側側副靭帯がある。
★膝は前後左右を靭帯によって補強されている!
・側副靭帯損傷
①原因
a.内側側副靭帯:膝靭帯損傷の8割を占める。外反が強制されて発症する。
b.外側側副靭帯:頻度は多くありません。膝の内側から外力が加わり、内反が強制されて起こる。またO脚など膝の内反変形に伴い、疲労による炎症として生じることがある。
★外側側副靭帯の損傷は、O脚など膝の内反変形に伴い、疲労による炎症として生じることがある!
c.不幸の三徴候
内側側副靭帯損傷は、前十字靭帯損傷と合併が多い。これら2者に内側半月板損傷が加わったものは、膝の代表的な重症な外傷で、手術が困難で予後もよくない。Unhappy trid(不幸の三徴候)(不幸の連続)とよばれます。
★膝の不幸の三徴候とは、内側側副靭帯損傷+前十字靭帯損傷+内側半月板損傷!
なお単独の損傷でも、側副靭帯損傷は外側より内側、十字靭帯損傷は後より前、半月板損傷は外側より内側に多い。
★膝の損傷、側副靭帯→外側<内側、十字靭帯→後<前、半月板→外側<内側!
②症状・所見
膝の疼痛、側方不安定感、靭帯部の圧痛がみられ、陳旧化すると動揺関節を呈す。
第Ⅰ度:靭帯線維の一部断裂。
外反・内反テストは正常。不安定感なし。保存療法実施。針灸適応。
第Ⅱ度:靭帯断裂はあるが連続性は確保。
膝30度屈曲位にての強制内反テスト(+)、膝伸展位では正常。
第Ⅲ度:靭帯の完全断裂で不安定性がある。
★膝疾患の症状所見。膝の疼痛、側方不安定感、靭帯部の圧痛がみられ、陳旧化すると動揺関節!
③内反強制試験と外反強制試験(ベーラー徴候)
方法:膝の側面に手を置いて支え、他方の手で足首のところを内方あるいは外方へ押して内反および外反を強制し、疼痛および移動性を調べる。
意義:
・内反強制時
→膝外側に痛み:外側側副靭帯牽引による痛み
→膝内側に痛み:内側大腿脛骨関節面または内側半月板の損傷
・外反強制時
→膝内側に痛み:内側素靭帯牽引による痛み
→膝外側に痛み:外側大腿脛骨関節面または外側半月板の損傷
※完全伸展位にして実施すると、十字靭帯緊張のため不安定性が出にくいので、30°屈曲位で内反・外反強制試験を実施する。
★内外反強制(ベーラー徴候)を見る時は、膝30°屈曲で行う!
④整形治療:側副靭帯は比較的血行があるので、装具着用などの保存療法が行われる。
★側副靭帯は比較的血行があるため、装具着用などの保存療法が行われる!
⑤針灸治療
保存療法を行うのであれば、内外の側副靭帯の損傷部局所への施灸がいい(似田先生)。針を横刺することもできるが、部位的にお灸が使いやすい。または腸脛靭帯に圧痛があれば、施灸、刺鍼する。
★膝の局所治療はお灸がいい!
〇十字靭帯損
①症状・所見
前十字靭帯損傷は、ジャンプ時の着地・急激なストップ・ターンなど、非接触損傷が特徴。後十字靭帯損傷の頻度は多くはない。損傷時は、激痛と関節内血腫(必発)が起こる。圧痛点は判然としない。前十字靭帯損傷は、内側側副靭帯損傷に次いで多い疾患。
★前十字靭帯損傷は、ジャンプ時の着地・急激なストップ・ターンなど、非接触損傷が特徴的!
②検査
a.前方引き出しテスト、後方押し込みテスト
方法:下腿上部前面(脛骨上部)に母指を、後面に四肢を置いて把握し、前方へ引っ張ったとき、あるいは後方へ押し込んだときに、下腿が移動するかをみる。
このテストの際、足部が動かないように足背部に検者の大腿を乗せて固定する。
★前方引き出しテストの膝の角度はほぼ90°!
b.ラックマンテスト
方法:膝30°屈曲位で、検者の両手で大腿骨遠位部と脛骨近位部を保持し、脛骨を前方に引き出す操作を加える。
意義:ラックマンテスト(+)→前十字靭帯損傷、前方引き出しテストより診断価値が高いとされる。
★ラックマンの方が前方引き出しより診断価値が高い!
③治療:スポーツを指向する場合は「靭帯再建術」手術を必要とする。スポーツ行わないのであれば、まずは保存的治療が適応されるが、他の靭帯組織や関節包に負担がかかり、後に日常生活で膝崩れ感がでることがある。
★前十字靭帯を損傷後、スポーツを続けるのであれば手術!
〇化膿性関節炎
細菌感染による関節炎で、大部分は関節穿刺後数時間後に起こる。症状としては、急激な疼痛、発赤、腫脹、熱感、運動制限など。悪寒発熱出現。関節部への直接的な抗生物質投与が必要。鍼治療で使う針は注射針に比べて非常に細いので、関節リスクは相対的に高くはないが、それでも感染を起こすことがある。内・外膝眼への深刺は関節包内刺針になるので、感染過誤を起こさぬよう、鍼の滅菌、刺針患部の消毒、施術者の手指の消毒など細心の注意が必要である。
★鍼治療で使う針は注射針でも化膿性関節炎には注意!
膝関節痛の鑑別診断
鍼灸における膝関節痛の適応は、変形性膝関節症(OA)と、スポーツでの使い過ぎ症候群(オーバーユース症候群)が挙げられる。膝内障の軽度なものは鍼灸適応となるが、その判定は鍼灸臨床の場では困難なため、整形外科での診察が不可欠となる。
※膝内障:膝関節を構成している要素のなにかに損傷がみられることによる、膝に腫れや痛みが起こることの総称
★鍼灸における膝関節痛の適応は、変形性膝関節症(OA)と、スポーツでの使い過ぎ症候群(オーバーユース症候群)。整形外科での診察が不可欠!
※痛風による膝痛
風発作は突然、足母趾つけ根MP関節部の激痛と熱感・腫脹が起こることがよく知られている。突然に激しい膝関節痛を起こすことがあるが、数日~2週間で症状は自然軽快する。そして一定期間が経った後に再び痛みが起き、こうした発作を繰り返す度に痛みは強まり、複数の関節に広がっていく。痛風との診断は、血中尿酸値を調べることが重要である。痛風を放置すると、尿細管に付着した尿酸が腎臓の働きを阻害するため、慢性腎炎から腎不全を起こすことが最も注意すべき点になる。
★痛風で最も注意すべきは、尿細管に付着した尿酸が腎臓の働きを阻害することによる、慢性腎炎から腎不全を起こすこと!
鍼灸適応の膝痛疾患の鍼灸治療
◎膝痛部位からの診断
1.腸脛靭帯炎(大腿外側上顆部の腸脛靭帯部)
2.膝蓋靭帯炎(膝蓋靭帯部)
3.膝蓋骨軟骨化症(膝蓋骨周囲)
4.タナ障害(膝蓋骨内下方と大腿骨間)
5.鵞足炎(鵞足部)
6.オスグッド病(脛骨粗面部)
〇鵞足炎
鵞足が炎症を起こすのが鵞足炎。膝関節屈筋腱である半腱様筋・薄筋・縫工筋の脛骨付近の腱組織の集合体を、鵞足とよぶ。ガチョウの足の形状に似ているためにこのように名付けられた。
鵞足を構成する上記3筋はすべて大腿外旋筋であり、大腿外旋ストレスが加わりやすい動作で過使用となりやすい。具体的には陸上競技やサッカーの選手に多く、ランニング動作で脚を後ろに蹴り出すときや、サッカーのキックで蹴り出した脚を減速させるときなどの角の負荷で起こる。
★鵞足形成筋(半腱様筋・薄筋・縫工筋)はすべて大腿外旋筋。大腿外旋ストレスが加わりやすい動作での過使用から鵞足炎となる!
また鵞足と内側腹靭帯とがこすれあったりしても起こる。過使用にようる浅鵞足炎の場合、その近傍を通る伏在神経を興奮させるために、痛みが出る。浅鵞足の直下にある浅鵞足滑液包炎のこともあり、この場合は熱感や滑液貯留を確認する。
★鵞足炎は鵞足と内側腹靭帯とがこすれ合うことでも起こる→伏在神経興奮!
〇伏在神経と内転筋管
伏在神経は、大腿神経の最長枝。大腿神経は、大腿部前面部の知覚と大腿四頭筋を支配するが、伏在神経は筋の運動支配はなく、膝部内側皮膚~下腿内側皮膚知覚を支配している。大腿内側の下方で、伏在神経は内転筋管(ハンター管)に入る。この内転筋管は、大内転筋の筋膜が伸びて内側広筋とつながってできた空洞で、内転筋管内は大腿動脈・静脈と伏在神経が通る。
★伏在神経は、大腿神経の最長枝。膝部内側皮膚~下腿内側皮膚知覚を支配!
※チネル徴候とは、末梢神経の損傷部位を叩いたときに、神経の支配領域にチクチクするような痛みが生ずるもの。
内転筋管の中で伏在神経が圧迫を受けて生ずる伏在神経絞扼障害を内転筋管症候群(ハンター管症候群)とよぶ。これはタイツやスパッツなどで大腿内側を圧迫、ハンター管周辺の筋緊張が憎悪して伏在神経絞扼を生じて起こる。症状は伏在神経が皮膚を走行する部である膝の内側や脛の内側の痛み・しびれ・感覚異常など。チネル徴候試験で、膝の内側やすねのの内側へ放散するように痛む。
★きつ過ぎるタイツはハンター管症候群(伏在神経扼障害)になる!
〇内転筋管症候群に対する陰包刺鍼
患側下の伏臥位(シムズ肢位)。大腿骨内側上顆の上4寸、縫工筋と薄筋の間に陰包を取る。圧痛硬結ある部位から、寸6#2番で直刺2cm程度し、ドンとくる響きを下腿内側~下肢に与えるようにする。
★内転筋管症候群に対する刺鍼点は陰包(大腿骨内側上顆の上4寸、縫工筋と薄筋の間)!
※仰臥位で陰包から直刺しても響きにくい。陰包刺鍼の意義は、伏在神経直接刺激ではなく(細い神経である伏在神経に安定して直接刺鍼することは困難)、大内転筋ー内側広筋間にある筋膜刺激であり、本筋膜緊張による伏在神経圧迫の解放を目的とする。
★陰包刺鍼の意義は大内転筋ー内側広筋間にある筋膜刺激。本筋膜緊張による伏在神経圧迫の解放!
伏在神経は、途中から大腿動脈と分かれ、膝関節内側の表層に出て、次の2枝に分かれる。これらの皮膚痛が、内転筋症候群によるものであれば陰包刺激が適応になると考えられる。
★皮膚痛が、内転筋症候群によるものであれば陰包刺激が適応になる!
①膝蓋枝:縫工筋を貫き、膝関節内側の皮膚に行く枝。この枝が鵞足炎時の内側痛をつくる。鵞足部、膝蓋骨内縁の圧痛をみる。
★鵞足炎時の内側痛をつくるのは伏在神経膝蓋枝!
②内側下腿皮枝:下腿内側および足背内側の皮膚に分布。本枝が三陰交撮診時の撮痛反応をつくる。
★三陰交撮診時の撮痛反応をつくるのは伏在神経内側下腿皮枝!
〇鵞足炎の鍼灸治療
鵞足部を触診し、圧痛を発見する。撮痛反応も陽性となることが多いので、鵞足部の正体は皮膚を知覚支配している伏在神経と思われ、皮膚痛の改善目的で皮内針を数カ所置くのが効果的。
★鵞足炎は撮痛反応も陽性となることが多いので、鵞足炎の正体は皮膚を知覚支配している伏在神経興奮。皮内針を数カ所置くのが効果的!
浅鵞足部構成筋である半腱・薄筋・縫工筋の緊張により、鵞足部腱の伸張ストレスが生じている場合、患部を下にして、これら筋群の圧痛点を探し、そこに膝屈伸動作の運動鍼も行ってみる。深鵞足炎では、半腱様筋が内側側副靭帯の下をくぐる際の絞扼障害による痛みを生じていることもあるので、曲泉辺りも圧痛があれば治療点になる。
※深鵞足:半腱様筋・薄筋・縫工筋で構成され、この3筋が脛骨に付着する部が浅鵞足。半腱様筋の隣(大腿二頭筋側)にある半膜様筋の付着ぶが深鵞足。一般的に鵞足とは浅鵞足のことをいう。
★鵞足炎は、圧痛があれば曲泉辺りも治療点になる!
〇腸脛靭帯炎
過使用によって局所の炎症で、ランナー膝の一つ。ランニング中に膝の屈伸を繰り返すことによって腸脛靭帯が大腿外側上顆部で擦れ、炎症を起こす。
・症状:運動時の膝の大腿外側上顆部の痛み
・理学テスト:グランピングテスト(+)
方法:仰臥位。膝90度屈曲位で、大腿骨外側上顆部あたりを母指で押さえ、そのまま膝を少しずつ伸展する。すると徐々に腸脛靭帯が母指に近づく。
判定:完全伸展位直前で、母指で押さえた辺り腸脛靭帯部に痛みを訴えれば陽性。
★ランナー膝は、ランニング中に膝の屈伸を繰り返すことによって腸脛靭帯が大腿外側上顆部で擦れることによる同部の炎症!
〇腸脛靭帯の鍼灸治療
まずは患者の痛む部に運動鍼。これで効果不足ならば、大腿筋膜張筋や小殿筋前部線維の関連痛の可能性を考え、それぞれのTPを見つけて刺鍼。
★腸液靭帯炎には患部の運動鍼。+大腿筋膜張筋や小殿筋前部線維への刺鍼!
〇膝蓋靭帯炎(ジャンパー膝)
バレーボールなどでジャンプするスポーツ選手に多発。激しいジャンプの繰り返しにより、膝蓋靭帯に過大な負荷がかり、膠原繊維の小断裂、循環障害などにより膝蓋靭帯中に炎症を生じる。大腿四頭筋腱付着部症が併発することも多い。
・症状・所見
膝蓋骨下端(犢鼻穴)や膝蓋骨上端(鶴頂穴)に限局する圧痛や運動痛、自発痛。
・整形外科での治療:保存療法で十分、膝バンドが有効。
★膝蓋靭帯炎(ジャンパー膝)には、膝バンドが有効!
〇平泳ぎ膝
平泳ぎの際のキックにより、膝内側側副靭帯に繰り返し張力が加わり、脛骨付着部炎を生じたもの。
・症状:内側側副靭帯の脛骨付着部の痛み
平泳ぎの選手の半数が内側側副靭帯に痛みを生じるという報告がアメリカでなされ、以降は健康づくりには有害な面があるとして、平泳ぎは推奨されない傾向にある。
★平泳ぎの選手の半数が内側側副靭帯に痛みを生じ、アメリカでは平泳ぎは推奨されない!
〇オスグッド・シュラッター病
成長期(10~15歳頃)の運動ストレスが膝蓋腱付着部の脛骨粗面部に集中し、脛骨結節が徐々に隆起して痛みや熱感をもったりする骨軟骨炎。
脛骨結節には膝蓋靭帯がつき、膝蓋靭帯は膝蓋骨とつながり、さらに大腿四頭筋へと連絡している。
大腿四頭筋の作用は、下腿伸張や股関節を屈曲にも作用するが、スポーツなどで度重なる牽引力が加わると脛骨結節部の軟骨の剥離骨折にいたることもある。
・症状・所見:脛骨粗面隆起、圧痛、熱感、歩行や階段昇降時に痛む、ランニングが困難。
・整形外科での治:2~3ヵ月、過度な(痛みが出るような)運動をを禁止。膝蓋骨部をくりぬいたサポーター、膝バンドなどを使用。
★大腿四頭筋にスポーツなどで度重なる牽引力が加わると、脛骨結節部の軟骨の剥離骨折にいたることもある!
〇鍼灸治療
患部の負担を軽減させるよう大腿四頭筋を緩め、同筋の柔軟性を高めるためのストレッチを行う。
筋腱付着部症として捉え、膝蓋靭帯の脛骨粗面付着部の圧痛点を刺入点とし、置鍼5分。この圧痛点は、まさにピンポイントであるため、ボールペンの先(芯は出さない)などで、いろいろな角度で押圧し発見に努める。頑固な痛みを訴える場合は、靭帯に対してしこりに当たるまで直角に斜刺し、強めの捻鍼を行い筋腱線維を絡ませて抜鍼する。
★オスグッドに対しては、ボールペンの先などでピンポイントの圧痛点に見つけて刺鍼!
膝蓋腱付着部異常な伸張力が作用するのは、大腿四頭筋とくに大腿直筋の異常緊張・短縮の結果なので、大腿直筋起始部にも緊張感が高まっていると考えて、大腿直筋起始部(下前腸骨棘部、ほぼ髀関穴)も治療点となり、同部に圧痛があれば運動鍼(大腿挙上)させる治療効果が高まる。これ以外にも大直筋の筋腹にも圧痛点を探し刺鍼する。またPNF手技なども併用するとよい。
★オスグッドは大腿直筋起始部(下前腸骨棘部、ほぼ髀関穴)も治療点となる(運動鍼)!
〇タナ障害
1)病態
膝関節腔の内側には滑膜があるが、胎生期のなごりとして成人でも約半数の者には滑膜ヒダ状になっている。とくに膝蓋骨内下方と大腿骨の間にある膝蓋骨内側滑膜ヒダの部分が障害を受けやすい。関節鏡で見た時、その外見が棚のように見えることから、タナとよばれる。15~25歳までの若年女性に多い。
★膝関節におけるタナとは、滑膜ヒダのこと。タナ障害は15~25歳までの若年女性に多い!
2)病態生理と症状
軽微な外傷(打撲や捻挫など)や膝の過使用によるタナの慢性反復刺激→タナが肥厚硬化→膝屈伸の動作で、タナが運動時に膝蓋大腿関節に挟みこまれたときにコクンコクンという音が生じる。またタナが膝蓋骨と大腿骨の間に挟み込まれた瞬間に、突然痛みが出る。強い引っ掛かり方では転倒してしまうこともある。
重度になると、痛みがひどくスポーツはもちろん、歩行にも支障をきたすことがある。
★タナが膝蓋骨と大腿骨の間に挟み込まれた瞬間に、突然痛みが出る!
3)整形治療
保存的治療が原則。鎮痛剤、温熱療法、大腿四頭筋のストレッチ、筋力強化訓練。これで改善しない場合は関節鏡下でのタナ切除術を検討。
★保存療法で改善しなければ、タナ切除を検討!
4)鍼灸治療
似田先生の臨床3例として、圧痛点治療+安静で3~6ヵ月間の治療(20~50回程度)により軽快。治療経過は非常にゆっくりであったとのこと。
★タナ障害の治療経過には時間がかかる!
第3節 変形性膝関節症
〇変形性膝関節症について
中年期(40才代)以降、とくに女性や肥満者に、非常に多い退行性(いわゆる老化現象)疾患。65才以上で急増する。90%が一時性(原発性)。二次性の原疾患としては、半月板損傷、靭帯損傷、化膿性関節炎、関節リウマチ、骨折脱臼など。本症は鍼灸の適応症だが、高度の膝関節変形は不適応で、一般に80歳を超えると鍼灸も効きが悪くなる。そうなると人工関節置換術を行うということになる。
★変形性膝関節症は、80歳を超えると効きが悪い!
1)疼痛
①初期:動作開始時痛(立ち上がりや歩き始めの痛み)。これは関節変形と滑液不足により動作に見合う関節の適合が不十分な結果、筋筋膜へ強い負荷がかかり、疼痛が出現。
②中期:運動痛。運動開始すると、次第に関節症状は楽になるが、長時間の運動では、再び運動時痛を生じるようになる。これは関節変形に由来した筋膜痛や関節包痛。
③末期:歩行困難
★膝関節痛。末期は歩行困難!
2)関節可動域制限
正常膝屈曲ROM:屈曲135°、伸展0°
膝の伸展や屈曲動作の終点では、靭帯や関節包が緊張し、関節軟骨の負担が大きくなる。
①初 期:痛みのためROM制限
②進行期:関節面の変形、関節包の拘縮、筋力低下が原因。和式トイレや正座が困難
★変形性膝関節症。進行期では和式トイレや正座が困難!
3)関節不安定性(ぐらつき)
半月板軟骨の欠損や骨の形態変化により、歩行時に膝が側方にぐらつく。この現象を(スラスト・突っ込み)とよぶ。一次性では前後方向の不安定性はみられない。
★変形性膝関節症に伴う半月板軟骨の欠損や骨の形態変化により、歩行時に膝が側方にぐらつく!
4)内反膝(O脚)・外反膝(X脚)
OAになりやすい大きな要因がO脚やX脚である。変形性膝関節症では内反膝(O脚)が多い。
★変形性膝関節症では内反膝(O脚)が多い!
①内反膝の測定
仰臥位で両踵を接触させる。内反膝であれば両膝関節間は接触しない。この間隙に何本指が入るかを調べ、指2本が入れば、「内反変形24横指)。
★内反膝の目安は両膝間に指2本入る!
②外反膝の測定
仰臥位で両膝を接触させます。外反膝では両踵は接触しません。両踵間に指が何本入るかをみる。指1本半程度であれば、「外反変形、1.5横指」と記録する。
※FTA(FT角):大腿骨と脛骨のなす角のことを大腿脛骨角という。この角度の測定は、X写真上で行う。正常では外側の方が少し小さく、175°~178°が正常な角度である。この角度の小さいものを外反膝(=X脚)、大きいものを内反膝(=O脚)とよぶ。
FTA(FT角)175~178°が正常。
大腿脛骨角小→外反膝
大腿脛骨角大→内反膝
★大腿脛骨角大(180℃を超える場合もある)→内反膝!
5)大腿周囲径
疼痛→活動の低下→筋委縮という過程により、大腿四頭筋が萎縮する。大腿四頭筋の萎縮の有無と程度を計測するには、仰臥位で、膝蓋骨上縁から10cmの部を測定。大腿周囲径に左右差があると病的意義が大きいといえる。
〇関節病症の病理変化
①関節滑膜の肥厚
②関節軟骨の摩耗
③関節裂隙の狭小
④骨棘形成
⑤O脚
★大腿周囲径を測定。仰臥位で、膝蓋骨上縁から10cmの部を測定。大腿周囲径に左右差があると病的意義が大きい!
〇鍼灸における変形性膝関節症の診療
変形性膝関節症との診断は、X線写真を撮った際の骨の変形程度をみて行われる。しかし骨の変形そのものが痛みをもたらしているのではなく、痛みをもたらしているのは関節変形を基盤にした筋筋膜や関節包。
★変形性膝関節症の、痛みをもたらしているのは関節変形を基盤にした筋筋膜や関節包!
鍼灸治療にあたっては、問題となる筋筋膜や膝関節包に、上手に効くように鍼灸を行うことが肝要で、変形性膝関節症そのものの治療があるわけではない。医師が変形性膝関節と診断し、理学療法や湿布を出すといった大雑把な治療ではなく、鍼灸師は、どのポイントを刺激するというところまで見極めて施術を行うことが重要となる。そのためにも変形性膝関節症との診断名では治療法が決まらない。問題となっている筋や関節包に関わるものが診断名ということになる。
★変形性膝関節症の鍼灸治療は、どのポイントを刺激するというところまで見極めて施術を行うことが重要!
1.ベーカー嚢胞(膝窩嚢胞)
1)ベーカー嚢胞とは
ベーカー嚢胞とは、膝窩部に袋状に突出した水腫のこと。
①滑液包と滑液包炎
膝関節周囲には、いくつか滑液包があり、運動に伴う骨と皮膚間の摩擦を減らす役割がある。滑液包は内部び少量の滑液を含んでいるが、外傷や過使用により炎症を起こし、内部の滑液が増加することがある。滑液が増加しても無痛で機能障害がないのであれば放置してかまわない。
★滑液が増加しても無痛で機能障害がないのであれば放置してかまわない!
②症状
膝窩に鶏卵大の、触るとブヨブヨした水腫がみられる。痛みはあまりない。正座や和式トイレなど、膝を曲げる動作で圧迫感や不快感を感じる。
★ベーカー嚢胞は、痛みはあまりない!
※関節包と滑液包の違い
関節包は、文字通り関節を覆い包む膜で、内部には滑液がある。滑液包とは腱や筋の下にあって、その運動を滑らかにする。滑液包の多くは、関節包と交通している。
★関節包は関節を覆い包む膜。滑液包は腱や筋の下にある、その運動を滑らかにする膜!
②関節包の水腫
関節包内膜にある滑膜からも滑液は分泌され、関節内部の順滑液として、あるいは関節への栄養補給として機能し、使用後の滑液は再び関節滑膜から吸収される。いわゆる「膝に水が溜まっている」というのは、膝関節包滑液増多状態のこと。
★いわゆる「膝に水が溜まっている」というのは、膝関節包滑液増多状態のこと!
③滑液包と関節包の交通
膝窩部の滑液包(=後膝窩嚢)は50~70%の者で関節包と細い通路でつながっているので、膝窩の滑液包に炎症が生ずると、関節液が関節腔から一方通行に滑液包に流れ込み、膝窩部に袋状に突出した水腫ができる。これをベーカー嚢腫とよぶ。
★ベーカー嚢腫とは、関節液が関節腔から一方通行に滑液包に流れ込み、膝窩部に袋状に突出した水腫のこと!
3)整形での治療
①穿刺して滑液(やや粘性のある透明黄色液体)を抜き、長時間作用型ステロイド薬を注射して滑液の産生を抑える。再発することも多く、数日~数週間で元の状態に戻りやすい。6時間程度で元に戻る例もあるが、数回穿刺後に、水が溜まらなくなることもある。安静にしていると膝窩滑液包の炎症が軽減するのは、関節包からの関節液が膝窩関節包に流入しなくなるためと考えられる。
★ベーカー嚢胞が安静により軽減するのは、関節包からの関節液が膝窩関節包に流入しなくなるため!
②局所を冷却(10~30分)、または免負荷目的で松葉杖の使用。
③痛みが強いものには、滑液を切除する手術を行うこともある。ただし血管や神経が密で解剖学的に難しく、実施頻度は低い。
★ベーカー嚢胞の手術は、血管や神経が密で解剖学的に難しく、実施頻度は低い!
4)鍼灸治療
①運動量増加に伴う滑液量産生を減らすことを目的とし、膝運動を控えるようにする。
②膝関節の炎症で過剰に産生し貯留した関節液が、膝の動きの妨げにならない部分である膝窩部に逃げ込んだものがベーカー嚢胞であるため、元の疾患である膝OAなどの治療を行うこととなる。
③ベーカー嚢胞に対する直接的な決め手となる鍼灸治療はないが、負担を減らすことで自然治癒することが多いです。
★ベーカー嚢胞に対しては、元の疾患である膝OAなどの治療を行う!
2.膝窩筋腱炎
1)症状:膝窩(委中)部の圧痛を訴える。
2)診察
膝窩中央部が痛む者に対して、膝関節90度屈曲位にして膝窩(委中穴)あたりを深々と押圧した際、委中付近に2~3ヵ所膝窩筋の硬結があり、硬結を押圧すると非常に痛む。これをもって膝窩筋腱炎と判断する。
★膝窩筋腱炎は委中の硬結圧痛が顕著!
3)治療
臥位で、症状である委中に刺鍼してもスカスカした感じしか得られず、治療効果もあまりない。
膝関節90度(四つん這い、または膝立ち)にし、押圧のある委中あたりの膝窩筋の硬結数か所に刺鍼。速刺速抜。(体位的に不安定なので置鍼は難しい)
★膝窩筋炎には、膝関節90度(四つん這い、または膝立ち)にし、押圧のある委中あたりの膝窩筋の硬結数か所に刺鍼!
4)膝窩筋の機能
膝窩筋の筋力は強くないが、膝ロック状態を解除するという役割がある。すなわち完全伸展にある膝を歩行開始モードに切り替える役割があり、歩行中は、完全伸展位になって歩行運動を停止させないよう、緊張している。
★膝窩筋の働きは、歩行中、完全伸展位になって歩行運動を停止させないこと!
膝屈曲時は上体を筋で支えているが、四頭筋筋力低下時は支えきれず、膝折れが生じてしまう。これを回避するには、膝完全伸展にして体重を骨支持にすることだが、この場合、歩行時に突然膝完全伸展(一本の棒のよう)となり、スムーズな歩行動作が阻止される。とくに階段を下りる際は、つまずきやすくなる。
★スムーズな歩行は、スムーズな膝の伸展屈曲によって行われる!
※足底筋を長掌筋について
足底筋は、大腿骨側踝の上方で、腓腹筋の外側頭の領域と膝関節の関節包から起こり、腓腹筋とヒラメ筋の間を走って下方へ向かい、アキレス腱内側縁に停止する。アキレス腱断裂時でも、足の底屈ができるのは、足底筋収縮によるもの。足底筋が存在しない者もいるが、機能的には問題はない。
★アキレス腱断裂時でも、足の底屈ができるのは、足底筋が収縮するから!
前腕における長掌筋腱は、手関節を屈曲時に浮き出るという解剖学的特徴がある。木を登る際に重要とされ、上肢における足底筋といえるべきもので、 人間では退行している筋肉。
★前腕における長掌筋は、木を登る際に重要とされ、上肢における足底筋といえるべきもので、 人間では退行している!
3.膝関節包過敏症
〇症状
歩行時に膝蓋骨の直下の左または右が痛む。歩行時には膝関節包が緊張し、変形性膝関節症の病理である関節滑膜の肥厚、関節軟骨の摩耗、関節裂隙の狭小が生じ、関節包が過敏になることがある。
★膝関節包過敏症は、関節滑膜の肥厚、関節軟骨の摩耗、関節裂隙の狭小によるもの!
〇鍼灸治療と考察
仰臥位で内外膝眼が痛まないのは、この体位では関節包は弛緩しているため。仰臥位で内・外膝眼から直刺すると、皮膚→膝蓋下脂肪体→膝関節包へと入る。仰臥位で 内外膝眼に刺鍼しても、鍼響はあまり起きず、治療効果もあまりない。
★仰臥位では関節包は弛緩しているため、 内外膝眼に刺鍼しても鍼響はあまり起きず、治療効果もあまりない!
立位では、四頭筋収縮して膝蓋骨は挙上し、これに伴って膝関節包は引っ張られて緊張する。この体位で関節包を刺激すると、響きを感じるようになる。これが再現痛効果生むことになる。関節包内刺激になるので、化膿性関節炎にならぬよう、鍼・刺鍼部位・施術者の手指の消毒を厳密に行う必要がある。
★立位では関節包は緊張しているため、響きを感じるようになる!
〇膝蓋骨外(内)縁の圧痛(+)、膝関節外(内)縁裂隙圧痛(+)→ <外側広筋付着部症>
1)症状:歩行時の膝蓋骨内側炎(または外側縁)の痛み
2)病態
膝蓋大腿関節の内側中央の間隙部(内膝蓋穴)が痛み、圧痛がある。大腿骨圧迫テストでガリガリした感触を感じる。これは大腿ー膝蓋関節面の不適合による。不適合の原因は、歩行時や立位では四頭筋が収縮して膝蓋骨が挙上するが、この時膝蓋骨外縁部に停止する外側広筋(または内側広筋)の線維の一部の筋収縮が不十分なため、膝蓋骨を挙上しきれないことにあると考えられる。
★外側広筋や内側広筋の筋収縮不十分→膝蓋骨挙上不可→大腿ー膝蓋関節面の不適合→痛み!
3)治療
①仰臥位で、膝下に高めのマクラを入れ、膝関節屈曲位にする。内膝蓋部は内側広筋の停止部であり、大腿部の内側筋部の圧痛点を調べた後、大腿前面を三等分して、膝側から上1/3あたりの圧痛点を術者が強圧する。強圧した状態で、膝関節の自動運動を10回程度で行う。
★膝蓋骨n大腿内側の圧痛点を強圧した状態で、膝関節の自動運動を10回行う!
②膝下マクラを外し、膝関節完全伸展させ、治療前にくらべて伸びているかを調べる。
③変化がなければ、別の圧痛点を求め、上記同様の運動療法を行ってみるる。
④治療効果があれば、外圧した部に刺鍼し、運動鍼+円皮鍼を行い、効果を持続的なものにする。
なお、内膝蓋の圧痛点は内側膝蓋大腿靭帯部でもあるので、外傷性ならば本靭帯の断裂も疑う必要がある。(外科、整形外科領域)
★内膝蓋の圧痛点は内側膝蓋大腿靭帯部でもあるので、外傷性ならば本靭帯の断裂も疑う!
以下は似田先生の症例。
〇打撲直後に生じた膝関節外側裂隙(外隙穴)の痛み(66才、男性)
1週間ほど前、自転車の運転操作を誤って左側に転倒。転倒の際、左外膝部に擦過傷を生じた。他に症状はなし。翌日から、左膝を深く屈曲した時や、左右にひねった際、左膝外側の深部にひきつれ様の痛みを感じるようになった。膝関節周囲の圧痛を調べたが、弱い圧痛を外隙穴に確認。この痛みは受傷後5日経っても軽減しなかった。
①外傷後に発症、②圧痛が外隙穴部にあった、③筋肉痛のような感じでなく5日経っても症状が軽減しなかったことなどから、外側半月板断裂を考え、気持ちが塞ぐ。とりあえず、左外隙へせんねん灸(強)を3壮行ったみたが、症状に変化なし。
外膝蓋部の痛みに外側広筋への鍼灸が有効なことを思い出し、外側広筋の圧痛を探ってみると、梁丘からその10cmほど上に、筋走行に沿って強い圧痛のあることを発見。椅坐位で、それらの圧痛点を強圧しつつ、膝屈伸運動を10回ほど行った。するとその直後から、左膝屈曲時の痛みや、左右にひねった際の痛みが半減。まずは外側半月板損傷でなく一安心した。
このことから外膝蓋部の痛みだけでなく、外隙部の痛みも、根本原因は外側広筋のトリガーの活性である場合があることが確認された。
★外膝蓋部に痛みも外隙部の痛みも根本原因は外側広筋のトリガーの活性である場合がある!
〇膝蓋骨上縁の圧痛(+)時 → 大腿直筋付着部症
・症状:歩行時の膝関節上縁部痛。ただし患者は膝蓋骨部が痛いと訴えることが多い。
・病態
歩行時は四頭筋が緊張収縮して膝蓋骨も挙上する。この動作の酷使により大腿直筋は常に緊張を強いられる。大腿骨ー膝蓋骨間に強い牽引力が生まれ、大腿直筋停止部症が生じる。
★歩行時、大腿骨ー膝蓋骨間に生じる牽引力により、大腿直筋停止部に痛みが起こる!
3)鍼灸治療
単に圧痛がある膝蓋骨上縁にある鶴頂穴に刺鍼しても効果はない。大腿直筋をなるべく伸張させた姿勢(すなわち仰臥位で股関節伸展、膝関節屈曲位)で、鶴頂の圧痛(2~3ヵ所)を探し、刺鍼または施灸。これにより大腿直筋の緊張が緩み、筋長が伸びるので膝痛が軽減されることが多い。これはⅠb抑制の機序を利用したもの。
※Ⅰb抑制:筋の持続的伸張などでゴルジ腱器官を興奮させることにより、Ⅰb線維を介して、目的とする筋の緊張が低下する現象。筋腱の骨付着部などゴルジ腱器官の集まる部位を鍼灸などで刺激すると、これと連なる筋の緊張が緩和する。
★膝蓋骨上部の圧痛には、大腿直筋を伸展させ鶴頂に刺鍼または施灸!
4)運動鍼の方法
a.坐位もしくは仰臥位。硬結をめがけて刺鍼。そのまま膝関節屈伸の自動運動を片膝につき5~10回実施した後、抜鍼。この時術者は患者の踵を支え、スムーズな膝屈伸運動がでるように指示。
b.仰臥位。膝が痛まない程度の屈曲にして被験者の足底をベッドに密着させる。術者は足背を押さえ、四頭筋の伸張状態を保つようにする。術者は指頭で、膝屈曲の頂部分(大腿四頭筋の腱)にある圧痛・硬結を調べる。圧痛部(数ヵ所のときもある)あれば直刺雀啄してただちに抜鍼。
c.通常の治療は上記段階までで十分であると考えられる。正座できることを目標にするならば、ベッド上で正座を試みる。(大腿と下腿の間にマクラをはさみ、膝にかかる負担を軽減させる)
d.正座状態で、痛む部を指で示させ確認。または術者の指頭で圧痛点を探して、圧痛硬結に雀啄手技を行う。
★正座状態で、痛む部を指で示させ確認。または術者の指頭で圧痛点を探して、圧痛硬結に雀啄!
〇膝蓋骨ストレッチ法(似田先生)
椅坐位で患側の内・外膝眼に、術者の左右の母指を置き、膝蓋骨を上方に押圧。その状態のまま、患者は少々の屈伸運動を10回程度行う。椅坐位で膝の屈伸とはレッグレイズのこと。
★椅坐位。膝蓋骨を術者の左右母指にて上方にあげておいて、レッグレイズ!
〇痛み以外の主な所見と対処法
1)関節の熱感・腫脹
老化や外力により関節の軟骨が摩耗→摩耗の際にできた軟骨の破片が関節液中を浮遊→滑膜内の細胞を刺激して関節内に炎症→熱感・腫脹→この反応自、知覚神経を刺激→膝関節痛。
熱感が強い時、鍼灸を行うと症状が悪化しやすい。数日~数週間は安静か冷却。熱感が落ち着いた後に、鍼灸治療を行うようにする。熱感がさほど強くない場合でも、鍼治療は軽度にとどめる。
★鍼灸を行うのは熱感が落ち着いた後!
2)関節水腫
①関節液(=滑液)の機能
関節包内膜である滑膜が血液から栄養を取り込む→関節液をつくる→関節軟骨の栄養(関節軟骨には血管がないので、血液ではなく滑液で栄養されている)と関節間の潤滑油として機能する→古くなった関節液は再び滑膜から吸収されるので、常に一定量を保持している。
★関節軟骨は血管がないため滑液で栄養されている!
②関節水腫の病理変化
加齢などによって関節表面の軟骨が摩耗→軟骨表面の辷りが悪くなる→軟骨の小さな骨片などが削れ関節中に浮遊→これが滑膜対する有害刺激とな関節液を排出→関節液の吸収が追いつかず関節水腫状態→このことがさらに滑膜を刺激する。
※水腫になると関節包内圧が増加して膝関節痛が憎悪する。
※関節軟骨が損傷した際に関節液が大量に分泌されるのは、有害な刺激物を排除するため。
※関節水腫が起こりやすいのは、変形性関節症の前期から初期の、関節軟骨がすり減り始めた頃、この頃は関節軟骨の損傷が急激に進行する。
★関節軟骨が損傷した際に関節液が大量に分泌されるのは、有害な刺激物を排除するため!
③関節水腫の整形外科について
関節液穿刺で水を抜くと、関節包内圧が減るので一時的に痛みは減るが、炎症が改善していない場合は、多くは数週間には再び水腫ととなる。
関節水腫の整形外科としては、水を抜くと同時に、膝関節内に薬剤を注入しする治療が行われる。この薬剤としてステロイドホルモン(膝関節の炎症と痛みを抑える)が旧来から知られているが、長期間にわたって使用すると、関節軟骨や骨に悪影響を及ぼしたり、感染の原因を作ることが知られている。
近年ではヒアルロン酸注射が用いられるようになった。
★関節液穿刺で水を抜き、関節包内圧が減って一時的に痛みが軽減されても、炎症が改善していない場合は、多くは数週間には再び水腫ととなる!
④膝蓋跳動テスト(+)
膝関節が腫脹している原因には、関節水腫と関節包肥厚がある。本テストは関節液の貯留の有無をみる。膝上方にある腫脹を下方に押し下げ、その状態で膝蓋骨をコツコツと指頭で叩く。この時、水腫があれば膝蓋骨が大腿骨から浮き上がっているので、骨と骨がぶつかる手応えを感じる。
★膝関節が腫脹している原因は、関節水腫と関節包肥厚。関節液の貯留で膝蓋跳動テスト(+)!
⑤鍼灸治療
軽度の関節水腫は鍼灸治療の対象となり、とくに水腫部を中心に施灸することで次第に水は消退していくこと多い。ただし代田文彦先生は、灸で水腫をとるには時間がかかるので、整形外科で水を抜いてもらい、その後に灸治療をした方が関節症状改善が早まると話していたとのこと。灸治療には水腫の再発を防ぐ目的もある。
★整形外科で水を抜いてもらい、その後に灸治療をした方が関節症状改善が早まる!
3)関節包の肥厚
慢性反復性刺激から関節包を守るため、関節包が肥厚関節包は次第に肥厚してくる。この結果、柔軟性に乏しくなり、ROMが制限される。膝蓋跳動テスト(-)。
★慢性反復性刺激から関節包を守るため、関節包が肥厚関節包は次第に肥厚→ROM制限!
関節包の肥厚は、関節裂隙への刺鍼や筋腱付着部への刺鍼を行っていると、膝関節可動域が増し、それとともに自然と関節の病的肥厚もとれてくる。
★関節包の肥厚→局所への鍼灸→ROM改善→関節の病的肥厚の自然消失!
4)膝折れ giving way
歩行時、踵が着地した瞬間に、急激に膝関節が曲がる現象。体重を支えきれず、ガクッと上体が崩れることもある。歩行中は立脚期であっても膝は完全伸展することはないので、体重は筋で支えている。この場合、大腿四頭筋の筋力が低下すると、大腿骨と脛骨に くっつけておく力が不足します。膝折れを防ぐために、四頭筋強化運動または四頭筋セッティング訓練を行う。
★膝折れ(giving way)改善には四頭筋の筋力強化!
5)膝関節完全伸展不可
膝完全伸展不可では、仰臥位にすると、膝窩とベッドの間に隙間があいた状態になる。膝窩とベッド間の距離を指が何本入るかで簡易測定できる。変形性膝関節などの骨の変形由来のものは治せないが、筋緊張性であればこれを是正できることも多くある。
仰臥位にして膝も伸ばした状態で、大腿外側の風市あたりの圧痛点に何ヵ所か単刺を行うと、膝が伸びているのを発見できる。
※風市:気を付けの姿勢をすると手の中指があたるところ
★膝関節完全伸展不可には、仰臥位にして膝も伸ばした状態で、大腿外側の風市あたりに刺鍼!
6.保存療法
軽度~中等度の例に対しては保存療法。保存療法の柱は何といっても運動療法である。歩行困難な例に対しては、外科手術(高位骨切り術や人工関節置換術)が行われる。
運動療法はこれまで四頭筋強化運動が推奨されてきたが、即効的効果は得られないので続かないことが多い。最近では四頭筋の筋力増大を目的とするのではなく、膝関節の可動域増大と膝関節軽減を目的として大腿セッティング(または膝蓋骨セッティング)とよばれる運動療法が注目されている。
★膝疾患の保存療法の主役は運動療法。大腿セッティングが注目されている!
1)大腿四頭筋強化運動
2)大腿四頭筋セッティング(=パテラセッティング)
①意義
大腿四頭筋セッティングとは、膝軽度屈曲位(あるいは膝を伸ばしてリラックスした状態)から最大伸展するトレーニングであり、リハ科でも使われる方法。四頭筋の等張性収縮力を増大させることで膝完全伸展位ができるようにするという目的がある。
★大腿四頭筋セッティングは、膝完全伸展位できるようになることが目的!
大腿四頭筋セッティング程度の運動では筋に対する負荷が少なすぎて、筋力増強効果が期待できないという見解もあるが、実際に膝関節痛に有効であることから、四頭筋に力を入れる→四頭筋が短縮→膝蓋骨は大腿骨(大腿膝蓋滑車面上)を滑走→滑液包の癒着を防止し、大腿四頭筋の筋力効率が落ちないようにする、といった意義があると考えられてる。
★大腿四頭筋セッティングには滑液包の癒着を防止する目的もある!
①方法
・仰臥位または長坐位で膝下へ丸めたタオルを入れ、タオルをつぶすように力を入れ、膝を完全伸展させる。この時、内側広筋の収縮を意識する。
・力を入れた状態を5~10秒間キープ(等尺性収縮)。この動作を10回繰り返して1セットとし、1日2~3セット行います。まずは3~4週間実施。
★大腿四頭筋セッティングの具体的方法はマクラ潰し!
3)膝関節のテーピング
大腿四頭筋筋力低下していたり、膝蓋骨周囲に圧痛が出ていたりする場合は、膝関節のテーピングを行うのも一つの方法だが、テーピングのもつ引っ張り弾性は2時間程度なので、慢性症状向けではない。また皮膚に対しての影響を考えても、常時行うのは難しく、サポーターで代用することになる。
★長期的はテーピングよりサポーター!
😊膝を支えるための筋力トレーニングにはいろいろとあります。お馴染みのスクワットもその一つ。無理なくスクワットができるのであれば、ぜひ行ってください。もしできないのであれば、それに代わるものをやりましょう。変形性膝関節症がO脚の人に多いということを考えれば(そもそも日本人はO脚が多い)、O脚に働き掛けるのも一つの方法です。O脚とは、膝が外側に広がってしまう状態ですから、そうならないためには脚(股関節)を閉じるための筋肉(内転筋群)をしっかりと使えるようにします。やり方としては両脚の間にゴムボールやタオルを丸めたものを挟んで、それを両脚を閉じて潰すようにします。毎日10×3セット。すぐに効果が現れなくても、あきらめてはいけません。少なくとも3ヵ月は続けましょう。
4)ヒアルロン酸注射
ヒアルロン酸は正常な関節軟骨の成分のひとつである。加齢とともに身体のヒアルロン酸は減少し、関節が生じやすくなると考えられている。関節包の中の関節腔へ注射する。適応は関節炎や変形性症などで、関節包内に痛みの原因がある場合になる。本方法により関節の動きを円滑にして摩耗を抑えることで痛みをとる(正常であれば知覚のない半月板だが、知覚神経が伸びて知覚が出現するようになる)。
★膝関節内へのヒアルロン酸注射の目的は、関節の動きを円滑にして摩耗を抑え痛みをとること!
通常、週1回ペースで5回注射し、維持として2~44週に1回の注射を継続。約7割の患者様の関節痛や腫脹が改善するとのこと。ヒアルロン酸は副作用がほとんどなく安全で長期に使用できる。
★ヒアルロン酸は、週1回ペースで5回注射し、維持として2~44週に1回の注射を継続!
薬液が関節包に入ればいいので、痛む部位(膝関節内側が多い)に関係なく、外上方から刺入することが多いようである。この部位は比較的知覚神経が粗であり、刺痛感が少ないため。
★ヒアルロン酸注射は痛む部位(膝関節内側が多い)に関係なく、外上方から刺入することが多い!
※関節ステロイド液注射:頑固な疼痛を認める症例や関節水腫を認める症例に対して、強力な抗炎症作用が期待されます。長期使用は好ましくない。
※グルコサミン、コンドロイチン、ヒアルロン酸の役割と効果
軟骨と関節液は、スポンジと水に例えられます。軟骨に関節液が染み込んででスムーずな関節の動きを生み出します。
①ヒアルロン酸:水分が少なければ、関節は摩耗が大きくなってスムーズに動きづらくなるが、この水に相当するのがヒアルロン酸である。ヒアルロン酸は、患部の関節包内に直接注射する。1週間に1回で5回程度行うと、しばらくは痛みが和らぐ。
★ヒアルロン酸注射は、1週間に1回で5回程度行うと、しばらくは痛みが和らぐ!
②グルコサミン:軟骨がスポンジに相当するというのは、軟骨は繊維状のコラーゲンにスポンジ様のプロテオグリカンが絡みついたためで、プロテオグリカンは軟骨内に関節液を留めたり、逆に放ったりする機能がある。プロテオグリカンの原料となるのがグルコサミン。
★軟骨は繊維状のコラーゲンにスポンジ様のプロテオグリカンが絡みついたもの。プロテオグリカンの原料となるのがグルコサミン!
膝に体重がかかると、スポンジのよう軟骨同士が押し合って、関節液が中から出される。体重がかからなくなると、スポンジのような軟骨が元の状態に戻って、中に関節液が再び入る。加齢により次のような変化が起こる。
グルコサミン製造力減少→プロテオグリカンが減少→軟骨が減少→関節痛
★加齢により、グルコサミン製造力減少→プロテオグリカンが減少→軟骨が減少→関節痛!
③コンドロイチン:プロテオグリカン中に存在する成分。つまりコンドロイチンはグルコサミンから作られる。コンドロイチンには直接軟骨を作り出す働きはないが、軟骨の分解を抑制して、軟骨に水分を保つという大切な役割がある。
プロテオグリカン(コンドロイチンが含まれる)。コンドロイチンの原料がグルコサミン。
★コンドロイチンはグルコサミンから作られる。コンドロイチンは軟骨の分解を抑制!
5)減量
膝には立位でほぼ体重の負荷がかかっているが、歩行で約3倍、階段昇降で7~8倍、走ると10倍の負荷となる。体重が重ければ重いほど、膝関節の負担が高くなる、よって、減量によって膝への負荷を減らすことが痛みの軽減へとつながる。
★減量によって膝への負荷を減らすことが痛みの軽減へとつながる!
7.鍼灸治療期間について
スペインのジョージ・バス氏は、膝OA患者97名を対象に、鍼群(鍼+ジフロフェナク)と対象群(プラセボ鍼+ジフロフェナク)をランダムに割り付け、WCMACとVAS(痛みの程度を測る評価法)も用いて検討した。その結果、鍼群は対照群に比べて、疼痛の軽減とジフロフェナクの服用量が有意に減少したと報告。本文献によれば、膝OAに対する鍼灸治療期間は、4週目までは急速に症状が改善し、12週間でプラトー(停滞)に達するとのこと。
※ジフロフェナク:非ステロイド系抗炎症薬
★膝OAに対する鍼は、痛みの軽減と薬(ジフロフェナク)の服用量を減少に貢献!
😊その名の通り、膝が本来の形状にないために起こるとされるのが変形性膝関節症。他の名前が付いている膝疾患もベースには変形性膝関節症があると考えられています。しかし、加齢等によって減ってしまった膝の軟骨を元に戻すことはできません。膝変形に伴う痛みを軽減させための基本は、何といっても運動療法。膝の痛みを和らげるためには、加齢→活動量低下→筋力低下・関節可動域低下・人によっては肥満→膝への負担増→痛み→活動量低下という悪循環を断ち切る必要があります。ひどいO脚の人が必ずしも強い痛みを訴えているかといえば必ずしもそうではありませんが、膝に痛みあるのであれば運動療法は不可欠です。少しずつレベルアップしていきましょう。
☯東洋医学からみた膝の痛み
東洋医学では、膝の痛み(膝関節症)を「痹」と捉えている。痹には、しびれ、不通、狭義ではリウマチの意味があり、行痹、痛痹、着痹、熱痹がある。不通とは気の流れの流れの滞りである。なぜ気が滞るのかといえば、寒邪、湿邪、冷え、痰飲などにより、形態異常もその一つである。
つまり患者本人が行うべきことは、寒邪、湿邪を避け、熱の産生量を増やし、痰飲を減らすこと。具体的には、運動により気の流れを良くし、筋力を強化する。栄養バランスの取れた食事を心がけ、充実した睡眠を得ることである。
鍼灸治療行うにあたっては、局所への施術だけでなく、弁証した上での標本同治を行う必要がある。