鍼灸師が何を考え、どこに鍼を打っているのか?「上肢部症状をやわらげるために」編

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はじめに

 鍼灸が生体に及ぼす作用は、主に次のようなものです。

筋緊張の緩和、興奮した神経の鎮静化、機能低下している神経筋の賦活化、内因性鎮痛物質の分泌、自律神経の調節、痛みの情報伝達の調整、血流促進、血球成分の変化、等々。

これらの働きによって痛みが軽減したり、コリがほぐれたり、体調がよくなったりします。

解剖学や生理学をベースに行う鍼灸を「現代医学的鍼灸」、経絡や経穴・経筋、気血水、陰陽、五臓といった概念に基づいて行う鍼灸を、一般的に東洋医学(中医学)鍼灸などとよびます。

鍼灸師は、どこに鍼や灸をすれば最も効果的か、といったこと考えながら鍼灸施術を行っています。ここに記すものは、私が鍼灸専門学生時代のカリュキュラムにあった、「似田先生の『現代医学針灸』」という科目に対しての理解をより深めることを目的の一つとしています。 非常に中味の濃い授業であり、時間をかけてしっかりと勉強したいと思っていましたが、学生時代は国家試験に合格することに専念しなければならないため、あまり時間を割くことができませんでした。臨床に携わる鍼灸師として、諸先輩方の残してくれたものをできるだけ自らの血肉骨にして、少しでも世の中の役に立てればと考えております。

上肢部症状とは

上肢部に出る症状はすべて上肢部症状ですが、ここでは上腕部、肘部、手部・指部がストレスを受けたことにより同部(神経走行上の症状も含む)に現れた症状、および頚部がストレスを受けたことによるもの(いわゆる頚腕障害)について説明していきます。

●上腕に起因するもの

 上腕三頭筋腱炎、高位橈骨神経麻痺、高位正中神経麻痺、高位尺骨神経麻痺

●肘部に起因するもの

 肘内障、テニス肘、ゴルフ肘、野球肘

●前腕部に起因するもの

 ・低位橈骨神経麻痺→後骨間神経(橈骨神経深枝)麻痺(回外筋麻痺)

  および橈骨神経浅枝(皮枝)麻痺

 ・狭窄性腱鞘炎、ド・ケルバン病、弾撥指、へバーデン結節、槌指、母指内転筋症

 ・低位正中神経麻痺(円回内筋麻痺、手根管症候群)

 ・前骨間筋神経麻痺(骨折、腫瘤、腫瘍など)

 ・低位尺骨神経麻痺(肘部管症候群、ギヨン管症候群)

※ギヨン管症候群:尺骨神経管症候群のこと。尺骨神経が手関節付近のギヨン管(尺骨神経管)内で圧迫されたり牽引されたりすることで発声する神経障害

●手部に起因するもの

 ・狭窄性腱鞘炎

●頚部に起因するもの(神経絞扼障害)

 エルプ麻痺、クルンプケ麻痺

・エルプ麻痺(上位型麻痺):C5、C6、C7神経根損傷による麻痺

・クルンプケ麻痺(下位型麻痺):C8、T1神経根損傷による麻痺

どちらも分娩時に生じる。

※骨折、外傷、腫瘤、腫瘍など、組織の損傷によって発症部位は様々。

★ストレスを受けた部位局所、もしくは神経走行上の遠位部に症状が出る!

上肢の筋肉

〇上腕部(5筋)

烏口腕筋(筋)、上腕筋(筋)、上腕二頭筋(筋)、上腕三頭筋(橈)、腕橈骨筋(橈)

〇前腕屈筋、指内転筋(12筋)

橈側手根屈筋(正)、長掌筋(正)、尺側手根屈筋(尺)、円回内筋(正)、方形回内筋(正)

浅指屈筋(正)、深指屈筋(正・尺)、長母指屈筋(正)、短母指屈筋(正・尺)、母指対立筋(正)、母指内転筋(尺)、掌側骨間筋(尺)、短小指屈筋(尺)、小指対立筋(尺)

〇前腕伸筋、指外転筋(11筋)

長橈側手根神筋(橈)、短橈側手根神筋(橈)、肘筋(橈)、回外筋(橈)

総指伸筋(橈)、示指伸筋(橈)、小指伸筋(橈)、長母指伸筋(橈)、短母指伸筋(橈)、長母指外転筋(橈)、短母指外転筋(正)、背側骨間筋(尺)、小指外転筋(尺)

〇その他(1筋)

虫様筋(正、尺)

合計32筋

●橈骨神経支配(15筋)

上腕三頭筋、腕橈骨筋、肘筋、回外筋、円回内筋、方形回内、長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋、総指伸筋、示指伸筋、小指伸筋、長母指伸筋、短母指伸筋、長母指外転筋

●正中神経支配(9筋)

橈側手根屈筋、長掌筋、浅指屈筋、深指屈筋、長母指屈筋、短母指屈筋、母指対立筋、短母指外転筋、虫様筋

●尺骨神経支配(7筋)

尺側手根屈筋、深指屈筋、短母指屈筋、母指内転筋、掌側骨間筋、短小指屈筋、小指対立筋、虫様筋

合計32筋

橈骨神経麻痺、正中神経麻痺、尺骨神経麻痺(「第3節 上肢の神経麻痺」にて後述)のポイント

上肢部(上腕、前腕、手、指)を走行する神経は、代表的的なものに、筋皮神経、橈骨神経、後骨間神経(橈骨神経分枝)、正中神経、前骨間神経(正中神経分枝)、尺骨神経などがあり、上肢部の運動と知覚を支配している。

★上肢部の運動と知覚を支配している神経は、筋皮神経、橈骨神経、後骨間神経(橈骨神経分枝)、正中神経、前骨間神経(正中神経分枝)、尺骨神経など!

外傷(骨折や打撲)などによって神経が損傷するだけでなく、日常生活においての特有の動作作業や、腫瘤や腫瘍なども神経への圧迫ストレスなり神経を麻痺させる。また他の病気(糖尿病、リウマチ)や、透析、妊娠や甲状腺疾患なども神経障害を起こす要因となる。

★神経損傷の原因は、外傷、特有の動作、腫瘤・腫瘍による圧迫、他の病気、透析、妊娠、甲状腺疾患!

●橈骨神経麻痺

①高位麻痺

原因  :上腕骨骨折、Lover’s(ハネムーン)症候群 

運動マヒ:下垂手。前腕のすべての伸筋、外転筋、回外筋。

知覚マヒ:母指、示指、中指の背側、前腕橈側

治療点:手五里(大・橈)、消濼(三・橈)

②低位麻痺(後骨間神経(知覚)麻痺)(=回外症候群)(低頻度)

※曲池あたりから橈骨神経深(筋)枝と橈骨神経浅(知覚・後骨間神経)に分枝

原因  :ガングリオンなどの腫瘤、腫瘍、尺骨の骨折、橈骨頭の脱臼、神経炎、運動過多による神経絞扼障害

運動マヒ:下垂指。総指伸筋・小指伸筋(各指のMP関節伸展不能)

知覚マヒ:なし

治療点 :手三里(大・橈)→フロセのアーケード(前腕部回外筋入口の部)。長・橈側手根伸筋の深部にある回外筋に刺入。

●正中神経麻痺(正しい猿の涙)

①正中神経高位麻痺(マレ)

原因  :上腕骨骨折

運動マヒ:猿手。正中神経支配筋

感覚マヒ:手掌の橈側(母指・示指・中指)

治療点 :旧天泉(心包・筋)→腋窩横紋前端から曲沢(心包)に向かい下2寸・烏口腕筋中

②正中低位麻痺-1(円回内筋症候群=前骨間神経麻痺)(マレ)

原因  :上腕骨骨折、ガングリオン(腫瘤)、腫瘍

運動マヒ:猿手。涙のしずくサイン。短母指球筋、短母指外転筋、母指対立筋

感覚マヒ:手掌の橈側(母指・示指・中指)

治療点 :孔最移動穴(大)→孔最から尺側1寸(深部に円回内筋)

②正中神経低位麻痺-2(手根管症候群)(多い)

原因  :手首のオーバーワーク、リウマチ、透析、糖尿病、妊娠、甲状腺疾患など

運動マヒ:猿手。涙のしずくサイン。掌側外転、母指小指対立運動

知覚マヒ:母指・示指・中指・環指と手掌

治療点 :労宮(心包)

●尺骨神経麻痺(わしゃフローマン)

①尺骨神経高位麻痺(マレ)

原因  :変形性肘関節症によるもの、骨棘形成、ガングリオン、幼少期の上腕骨遠位部骨折後の変形、肘部管症候群、上腕骨骨折など。

運動マヒ:鷲手。小指球筋のすべて。中手筋(掌側と背側の骨間筋・虫様筋)、母指内転筋、短母指屈筋。

知覚マヒ:手掌と手背の尺側。

治療点 :青霊(心)、小海(小)(肘部管)   

②尺骨神経低位麻痺

原因  :尺骨骨折、ギヨン管症候群、ガングリオン(腫瘤)。

※ギヨン管:手の小指側にある豆状骨と有鉤骨と、その二つの骨をつなぐ豆鉤靭帯によってつくられる管。

運動マヒ:鷲手。

     小指外転筋マヒ→手を広げられない

     ※ジャンケンでパーを出す時、短小指外転筋・短母指外転筋・背側骨間筋が働く。

     母指内転筋マヒ→フローマン徴候

     掌側骨間筋マヒ(小指内転困難となり、ポケットに手を入れようとすると引っかかる)。

     背側骨間筋マヒ(手を広げられない)

     虫様筋マヒ(第4・5指のPIPとDIPが屈曲、MPが過伸展→鷲手)

     フローマン徴候

知覚マヒ:母指・示指・中指・環指

治療点:小指外転筋マヒ→後谿(小)、養老(小)

    母指内転筋マヒ→合谷(大、尺)、魚際(肺、尺)

    背側骨間筋マヒ→中渚(三、尺)、液門(三、尺)

上肢部症状と鍼灸

 肘関節に生じる痛みや肘関節の機能不全を起こす疾患には、主に以下のものがある。

肘内障、上腕三頭筋腱炎、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)および各種スポーツ障害。これらに対して、圧痛点部や筋緊張部へ鍼灸治療が疼痛の緩和や機能の改善に有効。

★肘の障害は肘内障とスポーツ障害が多い!

第8章 上肢部症状

第1節 肘関節

1.肘関節の解剖と機能

1)肘関節は、腕尺関節(蝶番関節)、腕橈関節(球関節)、上橈尺関節(車軸関節)の3関節からなる。肘関節の一部となる上橈尺関節は、下橈尺関節とともに前腕の回内・回外にも関与する。

★肘関節は、腕尺関節、腕橈関節、上橈尺関節の3つ!

2)肘関節は主として肘の屈曲・伸展に働き、これには上腕の筋が作用する。

①肘の屈曲に働くのは上腕二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋。

②上腕二頭筋は、橈骨粗面に停止するので、上腕屈曲の他にも回外作用もあり、前腕の回内位(肘を曲げ、掌を下に向けた状態)からの「回外を伴なう肘の屈曲」(ワインのコルク栓を抜くような動作)を行う。

③腕橈骨筋は、大部分は前腕にあるが、上腕部筋に分類され、その作用は中間位における肘の屈伸。

④上腕三頭筋は肘関節の伸筋として作用する。

★肘関節の作用は屈曲・伸展・回内・回外!

2.肘内障

 橈骨頭は輪状靭帯によって尺骨の橈骨切痕に固定され、上橈尺関節を形成している。小さな子供が親に手を引っ張られるなどして、前腕が回内状態でけん引された結果、解剖学的未発達な橈骨輪状靭帯から橈骨頭が逸脱した状態。小児は腕を痛がって手を使わなくなる。肘関節脱臼とは異なる。成長とともに固定が強固となり、成人での発症はまれ。

 非観血的に簡単に整復できることが多いが、上腕骨顆上骨折を発症している恐れもあるので、安易に肘内障と診断し、整復してはならない。鍼灸は禁忌。

★肘部管症候群は、前腕回内時にけん引されることで起こる!

3.上腕三頭筋腱炎

1)上腕三頭筋の解剖

 上腕三頭筋は、内側にある長頭、外側にある外側頭、深層の内側頭の3種からなる。前腕の伸展作用があり、停止はどれも肘頭。

2)上腕三頭筋腱付着部症とは

 加齢やオーバーユース、多大な外力等により、上腕三頭筋の収縮が強いられると、肘頭付近にある上腕三頭筋腱付着部が引っぱられて虚血や微小断裂が起こる。前腕を伸ばす時に上腕三頭筋長頭の停止部である肘頭両側に痛みを感じる。この時、TPは上腕三頭筋県部の天井穴(肘頭上方1寸)、清冷淵(肘頭上方2寸)にある。特に、オーバースローなど、腕を縦振りで投げる選手に多い。

★上腕三頭筋腱炎は、上腕三頭筋腱付着部が引っ張られることで起きるオーバーユース!

3)鍼灸治療

 上腕三頭筋腱の肘頭付着部上のTP(天井や清冷淵付近)や、症状部である上腕三頭筋外側頭の肘付着部に圧痛点を見出し、運動鍼を行うのが効果的。

 この時、圧痛硬結を触知するには、患者の肢位が重要で、患側上の側臥位にて肩関節90°外転、90°回外、肘関節90°屈曲位のようにするとよい(似田先生)。

★上腕三頭筋腱炎治療点は、天井(三)、清冷淵(三)!

4.テニス肘(上腕骨外側上顆炎)

 単にテニス肘という場合、バックハンドテニス肘のこと。テニスのバックハンドでボールを打つ際、利き手の上腕骨外側上顆付近の短橈側手根伸筋部とくに長橈側手根伸筋に痛みを感ずる。主婦では雑巾絞りでテニス肘を起こしやすい。

 フォアハンドテニス肘はテニス上級者に多い。トップスピンサーブやストロークの際の手首のスナップが原因。痛む部位はゴルフ肘様となり、前腕屈筋群に負荷がかかり、その起始部である上腕骨内側上顆部痛が生じる。

★フォアハンド肘は上級者に多い。トップスピンサーブやストロークによる上腕骨内側上顆炎!

1)症状

 テニスでバックハンドで打つ度に痛みが出る。雑巾絞り動作(前腕回外筋負荷)でも起こる。

 手関節背屈時、前腕の回外時の上腕骨外側痛。前腕回外筋にも負荷が掛かる、ドアノブを回す、タオルを絞るとった動作により起こる。

 ステージ1 テニス中に痛みはないが終了後に痛む

 ステージ2 テニスのプレー中に痛み、プレーに支障をきたす

 ステージ3 日常生活でも痛み、テニスはできない

★バックハンド肘は、前腕回外筋負荷で起こる!

2)所見 

①チェアテスト

 肘伸展、前腕回内位で、4㎏程度のものを持ち上げた際、肘部に痛みがでれば陽性。

②トムゼンテスト(コ―ゼンテスト)

 前腕を固定し、こぶしをつくり、手関節を背屈(検者は抵抗を加える)。外側上顆に疼痛が出れば陽性。

③中指伸展テスト

 掌を下にして肘以下をベッド面につける。中指を伸展させる。検者は被験者の中指の先を押圧し抵抗を加える。肘部に痛みが出れば陽性。

外側上顆の腱起始部圧痛(++)、伸展筋腹(おもに短橈側手根伸筋)の圧痛。

※腕橈骨筋は、上腕屈筋に分類され、肘関節屈曲作用。テニス肘とは無関係。腕橈骨筋に刺鍼した状態で手関節の背屈底屈をしても鍼は動かない。

★テニス肘(バックハンド)のテストは、チェアテスト、トムゼンテスト、中指伸展テスト!

3)病態

 テニスで相手からの返球をバックハンドでレシーブする際、ボールを受け止めるため手関節は屈曲を強いられるが、ボール衝撃力を緩和するために短橈側手根伸筋は緊張している。すなわち伸張しながら筋力を発揮していて、これを伸張性筋収縮(=エキセントリック筋収縮、ネガティブ)とよび、筋の微細損傷を生じやすく、トリガーポイント活性の要因にもなる。

 この方法で筋トレを行うとオーバーワークになりやすいために注意が必要。

 またバックハンドでのボールを受ける姿勢(雑巾絞りも同様)は、前腕の強い回内を伴なうので、回外筋は伸展を強いられるため、回外筋上も圧痛が出現しやすい。

★バックハンド時に最も緊張しているのは、短橈側手根伸筋(エキセントリック収縮)!

4)テニス肘の鍼灸治療

①手三里刺鍼しての手関節背屈運動

 前腕伸筋群の短縮により、外側上顆に加わる腱付着部の牽引ストレスが増強する。

 →掌をベッドにつけ、中指伸展テスト(上述)を実施。この状態で、短橈側手根伸筋上の圧痛点(手三里の5mm~1cm尺側)を探索して刺鍼。手関節の背屈運動鍼を行う。

②手三里刺鍼しての前腕回内回外運動鍼

 短橈側手根屈筋の深層に回外筋がある。雑巾絞りのような回外運動時の痛みは、手三里から骨に至るような深刺をした状態で、ゆっくりと大きな前腕の回内・回外運動を5~10回行わせることで、回外筋の過収縮あるいは伸展痛を改善する。

★バックハンド肘の治療点は手三里(大)。短橈側手根伸筋(浅・橈)と円回外筋(深・正)!

5)鍼灸治療効果

 鍼灸治療は、腱炎であれば効果的であり、多くの場合、数回の治療で症状は消失する。もちろん、治療期間中は患部の使用を避ける(もしくは使用頻度を下げる)ことが必要。微細断裂や骨膜炎などの重症例ではギプス固定が必要となる。

★鍼灸治療は、腱炎には効果的!

6)治療と予防

①痛みがとれるまではテニスを休止

②前腕の最も太い場所にサポーターやテーピングをして練習。この処置は、前腕伸筋群の収縮力を上腕骨外側上顆(患部)に伝達しにくくさせる意味がある。活動終了後は患部を15分ほどアイシング。

③局所のステロイド腱鞘内注入。これらで寛解がみられなければ、手術(AI輪状靭帯切離手術、腱切離術など)を検討。

★テニス肘は、保存療法でダメなら手術を行うことも!

5.ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)

1)病態

 利き腕とは反対の肘(右利きの者は左肘)に生じる。右利きの場合、ゴルフボールを打つ際、左肘を伸ばし手関節を強く背屈・回外するため、手関節屈曲作用のある前腕屈筋群に共通腱の起始部である上腕骨内側上顆部の腱や骨膜に炎症が起こる。

2)症状:上腕骨内側上顆部の運動時痛

3)現代医学的治療→テニス肘と同じ

★ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)は利き腕の逆側に起こる!

4)鍼灸治療

①上腕骨内側上顆部と、内側上顆部に付着する前腕屈筋群の筋緊張点に刺して運動鍼。

 上腕骨内側上顆は、仰臥位で触知するには肘を屈曲させたほうがわかりやすい。

②円回内筋緊張に対する治療は、少海・孔最あたり。これらの穴から円回内筋に刺鍼した状態で、ゆっくりと大きな前腕の回外・回内動作を5~10回行うことで、円回内筋の過緊張を改善させる。

※少海(少陰神経):肘を半ば屈曲し、肘窩横紋の内端で上腕骨内側上顆から橈側へ入ること5分。円回内筋部。

※孔最:前腕前橈側、太淵穴の上7寸、尺沢穴した3寸。腕橈骨筋上。深部に円回内筋がある。

★ゴルフ肘の治療点は、少海(心)、孔最(大)。前腕屈筋群(橈)、円回内筋(正)!

6.野球肘

1)病態

 小学校高学年から中学校低学年までは肘の障害が多い。成長期の障害の特徴は、骨端線(骨が成長していく力学的気脆弱部)があるために、骨の障害を生じやすい。

 投球動作によって生ずる肘関節の障害を総称して野球肘とよぶ。投球の加速期において、肘内側には牽引力が加わり、外側には圧迫力が加わる。これらのストレスによる軽微な損傷の繰り返しにより障害が生ずる。

★野球肘は、肘内側部に牽引力、外側部に圧迫力が加わり起こる!

2)現代医学での治療

 まず投球動作を中止。温熱療法や関節可動域改善訓練、肘周辺筋のストレッチ、筋力強化。痛みがひどい場合、薬物療法としては短期間の非ステロイド系抗炎症剤の処方。

 このような治療により「肘の内側部の障害」はほとんど完治するが、「肘の外側部の障害」では、保存的な治療期間は長くなり(1年以上を要することもある)、手術が必要となるケースもある。

★肘外側の障害は長引く!

3)内側野球肘の病態と鍼灸治療

 一連の投球動作によって、牽引力や張力および収縮力が繰り返しかかることによる肘の内側、内側上顆骨端線の損傷。

 いわゆる筋付着部炎として、上腕骨内側上顆に付着している前腕屈筋群起始に運動鍼を実施。これは運動痛に対して有効だが、筋の微細損傷を治したわけではない。あくまで1~2ヵ月の投球中止が必要。比較的容易に完治する。

★鍼灸治療(どのような治療)を施したとしても投球中止が必要!

4)外側野球肘の病態と鍼灸治療

 投球動作により、肘関節に圧力や回旋力が繰り返し加わるため、橈骨頭と上腕骨小頭が衝突し、上腕骨小頭の軟骨に血行障害起こる、カーブなどの変化球を投げることで橈骨の回旋は増強され、進行する。

 やがて離断性骨軟骨炎や関節内遊離体(関節ネズミ)を発生し、肘の完全伸展不能となる。軟骨破壊が生ずると完治は困難で、保存療法の期間も長くなり(1年以上もある)、手術が必要となるケースもある。

※離断性骨軟骨炎

 腕橈関節の骨軟骨が変性し壊死 → 次第に周囲から分離し、遊離体(関節ネズミ=関節包内の小骨片)となる。→ 遊離体が腕橈関節内に挟まると急に関節が動かなかくなる。10~20歳の少年野球にの選手に好発。

★関節ネズミは腕橈関節の骨軟骨壊死から始まる!

第2節 手関節・手指痛

手根骨は計8個

遠位:舟状骨  月状骨  三角骨 豆状骨

近位:大陵形骨 小菱形骨 有頭骨 有鉤骨

橈側←              →尺側

※手関節ROM:掌屈70°、背屈90°、橈屈25° 尺屈55°

1.狭窄性腱鞘炎

1)手指部腱鞘炎の病態生理

 手指に至る腱で手関節走行部付近は腱鞘に包まれ、腱を滑りやすくしているが、腱への非生理的ストレスや過度の反復運動は、腱鞘の充血や肥厚を生じて腱と腱鞘間の摩擦が強くなる。その結果、関節運動により腱が動く疼痛が起こる。

 腱鞘炎の好発部位は、手関節の背側伸筋(橈)、尺側手根伸筋(橈)、長母指外転筋(橈)と短母指伸筋(橈)。

★腱鞘炎の好発部位は、手の背側伸筋(橈)、尺側手根伸筋(橈)、

長母指外転筋(橈)、短母指伸筋(橈)(親指を広げたときに見える2本の腱)!

※手掌側ではバネ指になりやすく、手背側では狭窄性腱鞘炎になりやすい。

※化膿性腱鞘炎:手掌の屈筋の腱鞘には化膿性の炎症が起こることがある。これを化膿性腱鞘炎とよぶ。本症では、腫脹・疼痛・指の屈曲拘縮が起こる。

2)ド・ケルバン病

①病態 

 長母指外転筋と短母指伸筋は共通の腱鞘に入っている。母指自体の可動性が大きいこともあって、構造上、狭窄性腱鞘炎を起こしやすい部位。腱鞘炎の中で最も高頻度。

★長母指外転筋と短母指伸筋は共通の腱鞘に入っている!

★この狭窄性腱鞘炎を別名ド・ケルバン病という!

※長母指外転筋(橈)と短母指伸筋は(橈)、外関穴付近の橈側で、蛇頭とよばれる筋隆起を形成。

蛇頭部に、遍歴穴(大腸経、手関節の上方3寸)を取ります。

橈骨神経皮枝は前腕の大腸経を下り、合谷付近まで皮膚知覚を支配。なお橈骨神経筋枝は前腕の三焦経を通り前腕の伸筋を運動支配するので、橈骨神経麻痺では下垂手が起こります。

※インターセクション(交叉)症候群とは

 親指を伸ばしたり、外へ開いたりする動作に関係する腱のグループと、手首を返す動きに関係する腱のグループは下図の赤丸印のところで交叉しているので、手作業やスポーツ動作で指や手首を返す動作を繰り返すことにより、交叉部で腱鞘炎を生ずることがあります。これをインターセクション(交叉)症候群とよぶ。この疾患は大工仕事や、手作業が多いデスクワークなどの職業でよくみられる。

 症状は、手首を返す痛みと、親指でキーボードなどを打つ時の痛みなど。整形での治療方法は親指と手首の動きを制限する装具を装着。

②検査:フィンケルステインテスト

 母指を他の4指に包むようにして拳をつくり、小指側に手関節を屈曲(尺屈)させる。この動作で、手関節橈側に強い痛みが出現すれば陽性。

3)腱鞘炎の鍼灸治療

①腱鞘炎での痛みは腱鞘に起因するが、病状自体は皮膚に放散された橈骨神経皮枝の興奮に起因する。痛みを訴える部の撮痛点への局所皮内鍼が効果的。

②筋の柔軟性が高ければ、腱に加わる衝撃は穏やかなものになるが、筋緊張があると腱へ短時間に大きな力が加わる。該当腱の中枢側にある前腕部伸筋の圧痛点への運動鍼をすることで、腱へ加わる瞬間的な力が穏やかなものになる。

 第2~5指の腱鞘炎であれば、疼痛部と上腕骨外側上顆を直線で結んだ伸筋上の圧痛点を探して運動鍼を行います。ド・ケルバン病であれば、蛇頭(長母指外転筋と短母指伸筋の筋隆起。偏歴穴に相当)の圧痛点に運動鍼。

※偏歴:手関節橈側横紋上に陽谿を取穴。その上3寸で長母指外転筋と短母趾伸筋の筋溝部)

★ド・ケルバン治療点は前腕部伸筋の圧痛点≒偏歴(大)!

2.弾撥指(バネ指)

1)指の屈筋腱を包む構造

 手の指は運動性に富むので、屈筋腱は腱鞘に包まれ、腱鞘からは滑液が出て摩擦を防止している。さらに指掌側には、腱の浮き上がりを抑制するための滑車装置である輪状靭帯(A)と十字靭帯(C)が要所に点在しています。バネ指を起こすのはA1が多く、次いでA2。A3以降やCはバネ指を起こさない。

※輪状靭帯は近位(中手骨側)から遠位(末節骨側)に向かって、A1~A5がある。

2)バネ指の病態生理

①使いすぎ、②更年期障害、③糖尿病や腎不全が原因となりやすい。糖尿病では腱そのものが太くなるのでA1と同時にA2も侵されやすい。

★バネ指の原因は、使いすぎ、更年期障害、糖尿病や腎不全!

※乳小児のバネ指は母指に好発する。小児バネ指はホルモンによるものとされる。幼児のバネ指はあまり痛がらない。腱の部分的肥厚のみで、腱鞘や輪状靭帯に炎症は認められない。自然治癒してゆくことがほとんど。

★乳小児のバネ指は母指に好発。自然治癒がほとんど!

 通常の生活では、腱と靭帯の機械的刺激により生じた炎症は、おおよそ一晩寝れば治まるが、一晩の間に修復できる範囲を超えたほどの無理を繰り返せば、徐々に輪状靭帯は肥厚し、腱を締め付けるまでになる。これが狭窄性腱鞘炎。この結果、腱の一部にシワがより、シワが次いに大きくなって結節が生じる。

★無理を繰り返せば、徐々に輪状靭帯は肥厚し、腱を締め付けるまでになる!

3)分類・症状・所見

 保存療法によるバネ指の自然治癒率は、30~40%とされている。糖尿病由来のバネ指では糖尿病の治療が重要。

★糖尿病性バネ指であれば、糖尿病の治療が重要!

<第1期>

 MP関節の手掌側に痛みや圧痛があり、指の運動時痛がある。バネ現象はなく関節の動きも正常。日常生活にはほとんど支障はない。このまま自然治癒することもある。治療は安静。

★バネ指の第1期はバネ現象なし。自然治癒が望める!

<第2期>

 腱鞘内への注射(ステロイド剤+局所麻酔剤)。効果を実感するのは数週間後。9割の者が効果を感じるも、元に戻ることも多い。腱への注射は腱を傷つけることでもあるため、2ヵ月に1回計2~3回注射して、それでも戻る場合は手術に踏み切る。

★バネ指の第2期は腱鞘内への注射!

①バネ現象

 指が一定の角度に達すると、自動運動が障害される。かろうじて指は屈伸できるが、指がスムーズに伸びない現象。重度バネ指でなければ、無理に伸展させると、轢音を発し、完全伸展可能。

②モーニングアタック

 夜間就寝中に、無意識に指を屈曲するせいか起床後に指を再伸展させる際に強く痛む。

③MP関節掌側部の圧痛・運動痛・腫瘤を触知。

<第3期>

 バネ指は消失するが、指の完全伸展はできなくなる。関節拘縮状態で、日常生活で非常に支障をきたす。輪状靭帯の開放手術。手術以外に方法がない。

★指の完全伸展不能となった場合、輪状靭帯の開放術以外に方法はない!

4)バネ指の運動療法(代田文志「鍼灸治療の実際・下巻」)

 屈曲した指関節を補助することなく自分で再伸展できるのであれば、運動療法および鍼灸治療効果が期待できる。手関節掌側部の腱のところを、術者の母指で強く圧迫し、患者はその状態で、指を全力で10~数10回屈伸する。すると今までできなかった指の伸展が、自力でできるようになる。代田文志氏が昭和8年に発見。

★バネ指の自力治癒法は、手関節掌側部の腱のところを圧迫して、指の屈伸!

5)バネ指の鍼灸治療

①母指バネ指の鍼灸 

 母指バネ指では、長母指屈筋腱上に結節ができる。長母指屈筋の走行は、前腕骨間膜を起始とし、母指末節骨に停止する。仮にこの筋の筋トーヌスも筋長も生理現象内にあれば、腱に加わる伸張力は弱くなり、結節が存在したとしても、再伸展の際、輪状靭帯にぶつからなくてすむ、と仮定する(似田先生)。

 具体的には、前腕屈筋側中央に郄門(心包経。前腕部の中央)をとり、同じ高さの肺経上に治療点を定める。そこから長母指屈筋に向けて斜刺し、母指屈筋の運動鍼を実施。長母指屈筋中に刺入できていれば、母指の動きと同期して鍼柄が上下に動くことを観察できる。

★母指バネ指の治療点は郄門(心包経。前腕部の中央)と同じ高さの肺経上!

②第2~5指バネ指の鍼灸

母指以外の4本指でDIP関節屈曲は深指屈筋、PIP関節屈曲は浅指屈筋、MP関節屈曲は虫様筋というように役割分担されていて、比較的大きな物を握る時は深指屈筋が働き、握力計や比較的握りやすい物を握る時は浅指屈筋が働き、握りしめたり細い物を握る時は虫様筋が働く。ただし、実際には互いに協調して握力を生み出す。

 バネ指は、浅・深指屈筋腱にできた結節が、両腱共通の輪状靭帯を通過できなくなった状態。もし浅・深指屈筋が弛緩・伸展した状態では結節が腱鞘に入らなくても指伸展が可能となると考え、前腕屈筋側中央に心包経の郄門をとり、その高さの心経ルートを刺入点とし、浅指屈筋または深指屈筋中に刺入できていれば、母指の動きと同期して鍼柄が上下に動くことが観察できる。(臨床上、浅指屈筋中に刺入しても治療効果は上がる。

★母指以外のバネ指の治療点は郄門(心包経。前腕部中央)と同じ高さの心経上!

5)注射針、そして小鍼刀による輪状靭帯切開法

 かつて注射針を使ってバネ指手術(局所麻酔注射後、腫瘤部に注射針を刺して、針先を小刻みに動かすことで小分けして輪状靭帯を切断する)も行われていたという。この技法は、屈筋腱損傷などの合併症が報告されていて、現在ではあまり行われていない。ただし中国では小鍼刀(鍼先がマイナスドライバーのようになっている鍼)が考案され、輪状靭帯を突っついて押し切るバネ指治療も行われているとのこと。 エコー装置を使えば鍼先と腱鞘の位置関係が確認できる。

★中国では小鍼刀による輪状靭帯を突っついて押し切るバネ指治療も行われているとのこと!

3.へバーデン結節

1)病態

 手指のDIP関節にみる変形性関節症。DIP関節基底部背側中央の伸筋腱付着部を挟んで、2つのコブ(結節性隆起)ができているように見える。関節の炎症により関節包がゆるみ、屈曲方向に曲がり始め、また摩耗した骨が周囲に骨棘を増生させて骨性の膨隆が生じる。一つの指のみならず、多数の指に生じるのが特徴。閉経との関係が指摘されている。40才以上の女性に多い。

★へバーデンはDIP関節の変形性関節症!

※プシャール結節:手のPIP関節にみる変形性関節症。

★プシャールはPIP関節の変形性関節症!

へバーデン結節ではつまみ動作を多用する示指・中指に多いのに対し、プシャール結節は握り動作で多用する尺側の指に多い。

★原因として、遺伝、更年期(閉経)、妊娠・出産時のホルモンバランスの乱れ、腎機能の低下などが考えられている!

※関節リウマチは、PIP関節を侵すことはあっても、DIP関節は侵さない。

★リウマチはDIPは侵さない!

2)症状

①初期に一時的にDIP関節が左右対称的に赤く腫脹し、自発痛を伴なうことがある。DIP関節の変形進行(関節の狭小化と軟骨の変性)。やや屈曲する。

②基本的には運動時痛。骨棘形成によDIP関節の竹のフシのように太くなる、関節の可動域制限により、手が十分に握れない、手がこわばるなどの訴えがある。

③一定期間(3ヵ月~)経過し、ある程度変形が進んで関節の動きが悪くなると、痛みがなくなる者が多い。苦しい機能障害を来すことは少ない。

★へバーデン結節は、ある程度変形が進んで関節の動きが悪くなると、痛みがなくなる者が多い!

3)一般治療

 冷えると痛む場合、温水で指を温める。痛みが強いときは、テーピング(幅20mm前後テープをDIP関節周囲にぐるぐる巻きにして関節の動きを抑える。

★へバーデン結節の一般治療は、温熱とテーピング!

4)鍼灸治療

①似田先生は、鍉鍼などで関節部圧痛点を見つけ、3~5のゴマ大灸をすることが多い。これは関節包刺激になる。関節包は腱鞘につながって関節と連動して牽引収縮されるので、運動時痛を生じる。

★へバーデン結節にゴマ大灸が効果的!

②DIP関節基部背面の左右に、へバーデン結節が出現するが、その中点に伸筋筋腱が走行している。指神筋腱の末梢骨に停止している部の圧痛点に治療点を求める。

③上記圧痛点へは細鍼にて浅刺置鍼または糸状球数壮を行う。その際、効果増大のためにDIPとPIPともに屈曲、指伸筋腱を緊張させた状態で行うようにします。一般的に施術直後は減痛しますが、持続作用は一両日なので、自宅施灸を毎日行います。

★灸の効果は持続時間が短いので、自宅で毎日行う!

4.槌指(ついし)

1)概念

 野球・バレーボール・バスケットボールなどの球技で、ボールを受け損なった時や転倒して指を突いた時に発生する指周囲の外傷の総称。いわゆる突き指。PIP関節の掌側を損傷しやすく、左右側部に圧痛が出ることが多い。側副靭帯損傷のこともある。

★槌指に多いのは、PIP関節の掌側!

2)マレットフィンガー

 指の第一関節(DIP関節)が曲がったまま伸ばせなくなっている状態。軽傷では靭帯捻挫や腱停止部症であり、放置しても自然治癒する。

 重症はⅠ型・Ⅱ型・Ⅲ型に分類。Ⅰ型は指伸筋腱断裂でDIP関節は常時屈曲した状態。Ⅱ型・Ⅲ型は脱臼を伴なう。腱断裂した場合、やがて痛みはなくなるが自然治癒はしない。早期治療が大切。Ⅰ型、Ⅱ型は装具固定。Ⅲ型は手術。

★マレットとは「槌(ハンマー)」のこと!

3)鍼灸治療

側副靭帯捻挫や伸展筋腱停止症の場合、指側面の局所に単刺で速効が期待できます。突き指では「指を引っぱるとよい」というのは間違い。応急処置は、RICE(安静・冷却・圧迫・挙上)処置。外観上の異常があれば整形外科に急送する。

★槌指は、指側面局所の単刺が効果的!

5.母指内転筋症

1)病態

 母指内転筋は、第3中手骨を起始とし、母指MP関節部を停止とする筋で、母指を内転(示指に近づける)作用がある。手の合谷部おいては、手背側と手掌側の中心に位置する深部筋。利き手側の母指内転筋を酷使する理容師や美容師や庭師が障害を受けやすい。

★母指内転筋症は、母指内転筋を酷使する理容師や美容師や庭師に多い!

2)症状

 負荷をかけた母指内転運動で、合谷(第1・第2中手骨底間)が痛む。

★母指内転筋症の疼痛部位は合谷!

3)病態と理学検査 

 母指内転筋は母指球中にありながら、尺骨神経支配(他の母指球筋は正中神経支配)。特性を利用して尺骨神経麻痺を調べるのがフローマン徴候です。すなわち母指内転筋力が低下するので紙を挟む力が弱くなります。代償として短母指屈筋(正)が働き、母指MP関節が屈曲して紙を挟もうとします。

★母指内転筋症(母指内転筋麻痺)ではフローマン徴候がみられる!

🥰フローマン徴候、涙のしずくサイン・チネル徴候について

●フローマン徴候

尺骨神経麻痺時にみられる。

母指と示指で紙を挟む際、母指IP関節が過屈曲を示し、母指の指尖でしか掴めなくなる。母指内転筋麻痺(母指内転力低下)により、代償的に長母指屈筋が働くため。

★フローマン徴候は、尺骨神経麻痺(母指内転筋力低下)によって起こる長母指屈筋の代償動作。

●涙のしずくサイン

正中神経麻痺(前骨間神経麻痺)時にみられる。

正中神経麻痺(前骨間神経麻痺)によって手指の屈筋力が低下し、母指と示指の第1関節の屈曲ができなくなる。これにより、母指と示指で丸を作らせると母指の第1関節過伸展(そり返り)、示指の第1関節過伸展となり、涙のしずくに似た形となる(きれいなOKサインがつくれない)。これを涙のしずくサインという。

★涙の雫サインは正中神経麻痺。きれいなOKがつくれない!

●チネル徴候

末梢神経の損傷部位を叩いたときに、神経の支配領域にチクチク感や蟻走感が生じるもの。これにより神経の損傷部位の特定や神経の回復状況を把握できる。

★チネル徴候は末梢神経障害。叩くとチクチク感!

3)鍼灸治療

 合谷から第1中手骨の内縁に向けて押圧すると、第1中手骨内縁に強い圧痛を認める。この圧痛方向に深刺すると、第1背側骨間筋を貫き母指内転筋に達する。効果を確実にするため、合谷刺鍼との併用として、魚際から第1中手骨内縁に沿って、母指内転筋に刺入する鍼を行ってもよい。

★母指内転筋症は、合谷刺鍼+魚際から第1中手骨内縁に沿って刺鍼!

 刺鍼した状態で負荷をかけた母指内転筋の運動鍼を行うと、鎮痛できることが多い。具体的には、母指を示指方向に動かすように指示し、短収縮性筋収縮(コンセセントリック収縮、筋が収縮しながら力を発揮する状態)させる。母指を示指に近づける運動をリズミカルに5~10回行う。

※魚際の位置と特色

手掌部。第1中手骨の中点の橈側。赤白肉際に取穴。魚菜は母指球筋を構成する4筋(短母指外転筋→母指対立筋→短母指屈筋→母指内転筋)に刺鍼できる得意的な部位。

★魚際は、短母指外転筋→母指対立筋→短母指屈筋→母指内転筋)に刺鍼できる!

※労宮の位置と特色

掌中央で、第3第4屈筋腱の間。深部には正中神経が走行。この腱間には虫様筋(MP関節屈曲作用)がある。

 指のDIP屈曲→深指屈筋。代表治療点:前腕肺経上で手関節から1/3の部。

 指のPIP屈曲→浅指屈筋。代表治療点:前腕心経上で手関節から1/2の部。

 指のMP屈曲→虫様筋(トランプを広げて持つ。ピアノを弾く)。代表治療点:労宮

6.指関節軋轢音について

1)現象

 軽く握った指に対し、もう片方の手で関節を強く過屈曲(あるいは過伸展)させると、指関節がポキッと鳴る(人による)。やりすぎることで関節が摩耗することはない。

★指関節を鳴らしても関節が摩耗することはない!

2)関節が鳴る機序

 どの関節も関節包で覆われている。関節包内部は透明な関節液で満たされていて、関節の摩耗を防ぐ潤滑油として機能している。関節のコキッとする音の発生する機序は次のように説明されている。

 指を過屈曲または過伸展させると瞬間的に関節包内部の容積の増加→内圧の減少→これまで関節液中に溶け込んでいた空気が溶け込めなくなって気泡を発生→次の瞬間には気泡は破裂してボキッとする音を発生

※この音をキャピテーション(液体中に泡が生じる現象)ノイズといい、船のスクリューの回転の際に生じ、発生する気泡の破裂がスクリューを傷つける原因になる。また現代の潜水艦では、敵に音波探知されにくくするため、大きなスクリューをゆっくり回転させてキャピテーションノイズを減らす工夫をしているとのこと。

★関節を鳴らしたときの音をキャピテーション(液体中に泡が生じる現象)ノイズという!

※関節鳴らしとカイロプラクティックの理論

 関節とくに背骨をポキポキと鳴らす行為で有名なものにカイロプラクティックがあります。

 カイロプラクターは背骨のズレをアジャストメント(=矯正)目的で、背骨に微少な外力を加えて、ボキボキ・バリバリといった音を出します。カイロにおける背骨のズレとは脱臼や亜脱臼といったものではなく、サブラクセーションとよばれている。これはカイロプラクティック独自の概念で、「関節面の接触が保たれつつ、動きの一貫性さらには生理学的機能が変化している状態」と定義されている。いずれにせよ関節音は、関節内部の気泡の破裂音に過ぎないので、これをもってアジャストされたとはいえない。

★関節音がしたからといって、アジャストされたわけではない!

<筋・腱パターンと鍼灸治療の法則>

1.胸鎖乳突筋起始部にある完骨穴で、仰臥位にて完骨に置鍼したまま、顔を左右に回旋させることで胸鎖乳突筋の緊張を緩め、頚の回旋の可動域を広げることができる。膝関節痛の場合、膝蓋骨内上縁にある内側広筋(下血海)に置鍼した状態で膝関節の屈伸を行うことで、内側広筋の緊張を緩め、この部の膝痛が緩和させることができます。テニス肘では上腕骨外側上顆への前腕伸筋群の起始部(手三里辺り)に刺鍼し、手関節の屈伸運動を行うと、これら筋群の緊張が緩み、肘痛も改善します。

●代表疾患:テニス肘、鵞足炎、アキレス腱付着部炎、オスグッド病、ジャンパー膝

★胸鎖乳突筋なら完骨(胆)、

内側広筋(膝痛)なら下血海、

前腕伸筋群(テニス肘)なら手三里、

鵞足炎なら陰陵泉、

アキレス腱炎なら承山、

オスグッド病・ジャンパー膝なら鶴頂、

の運動鍼により各筋緊張を緩和!

●治療手段:針管などを用い、腱の骨付着部にある限局的な圧痛を発見。数ヵ所見つかることが多い。圧痛点から刺鍼し、抵抗を感じ時点で小刻みに強めに捻鍼し患部に得気を感じさせる。この際、鍼先に線維が絡み付く抵抗を感じた場合は、緊張を緩めずそのまま短い幅で素早く抜鍼する(筋線維が切れる感覚を得るようにする)。

★圧痛点への刺鍼および捻鍼も有効!

2.筋々膜症

 筋線維自体に痛覚はなく、筋膜に痛覚がある。炎症状態の筋は、筋膜に信号を送り、筋膜痛が生じる。筋膜痛は、とくに筋の伸張性収縮(=エキセントリック収縮)時(手にダンベルを持ち、肘を伸ばしながら筋力を発揮。下山時の大腿四頭筋や下腿三頭筋)でみられる。筋は一様に緊張するのではなく、筋線維中にいくつかの硬結が出現。ここを治療点とする。ちなみに筋肥大のためには、筋微細損傷後に生ずる新生筋の増大新生が必要で、エキセントリック収縮は筋の増大に適している。しかしオーバーワークに陥りやすいため要注意。

●代表疾患:いわゆる筋々膜痛症候群

●治療手段:運動鍼法が優れている。

★筋々膜症には硬結への刺鍼を行う!

3.腱炎、腱鞘炎

 腱の役割は、筋を骨に連結させること。筋に大きな力が加わった場合、筋の柔軟性が高ければ腱に加わる衝撃は、穏やかなものとなる。しかし筋が硬化し衝撃吸収能力が低下すると、腱へは短時間に大きな力が加わることになるので、最悪の場合腱断裂を起こします。腱鞘炎による痛みは、腱と腱鞘間に生じた摩擦によるものだが、それが近傍を走行する知覚神経に影響を与えた結果である。

 臨床的な観点として、「腱は痛むのか」といったことは不明な点が多い。アキレス腱断裂であっても痛みを感じないことがあり、バネ指でもほとんど痛みを感じないことも少なくない。ちなみに、ド・ケルバン病の痛みの直接原因は、橈骨神経皮枝の興奮、すなわち皮膚に感じる痛みである。

★腱が痛むかは不明!

●代表疾患:腱鞘炎

●治療法:腱炎や腱鞘炎の痛みが、皮膚への放散痛であるこの確認は撮診で行う。撮痛部に皮内鍼を数本刺すだけで、痛みが消えることが多い。

★炎症部、撮痛部への皮内鍼が痛み消失に効果的!

第3節-1 上肢の神経麻痺と神経絞扼障害

1.腕神経叢麻痺

1)腕神経叢の解剖

 腕神経叢は、C5~T1神経根の前枝により形成されていて(頚神経叢の後枝は頚部の筋と知覚を支配)、神経根、神経幹、神経束の3つからなる。

★腕神経叢=神経根→神経幹(上・中・下)→神経束(外・内・後)の3つからなる!

鎖骨の上部では、高さ別に上・中・下の3本の神経幹に統合されている。鎖骨下部では末梢神経分別に、外側・内側・後側の3本の神経束に再統合されて上肢に向かう。

<鎖骨上部>

上神経幹(C5・C6の前枝)

中神経幹(C7の前枝)

下神経幹(C8・T1の前枝)

★鎖骨上部=上神経幹、中神経幹、下神経幹!

<鎖骨下部>

外側神経束(上・中神経幹の前部)  →上腕骨の前方を通り→筋皮神経

内側神経束(下神経幹の前部)    →上腕骨の内方を通り→尺骨神経

後側神経束(上・中・下神経幹の後部)→上腕骨の後方を通り→橈骨神経

★鎖骨下部=外側神経束、内側神経束、後側神経束!

2)エルプ麻痺とクルンプケ麻痺

 腕神経叢の神経絞扼には、上位神経幹障害(C5、C6神経)と下位神経障害(C8、T1神経)、全位麻痺(両者の合併)の3種がある。

 頚部が伸展され、肩甲部が下方に牽引されると、上位型麻痺(=エルプ麻痺)が起こり、上肢が挙上位のまま牽引されると下位神経型麻痺(=クルンプケ麻痺)となる。どちらも分娩時に生じる。

 オートバイ事故などで強大な外力が加わると全方マヒとなる。全方では脊髄神経根が脊髄から引きちぎられ、硬膜外に引き抜かれた状態(神経根引き抜き損傷)になる。全型は中枢神経損傷に属し、手術の適応はなく神経再生も望めない。

 分娩のときに新生児は頭から娩出するが、肩が産道にひっかかって生ずる腕神経叢麻痺を分娩麻痺とよぶ。分娩麻痺の多くは上位型麻痺に属し、自然に回復(生後6か月以内)するものが多い。

★エルプ麻痺(C5,C6、C7)とクルンプケ麻痺(C8、T1)は腕神経叢麻痺。分娩時に生じる!

〇エルプ麻痺(分娩麻痺)

障害部位:上位神経障害(C5、C6神経)

主な原因:肩甲部の下方牽引。分娩時など

主症状:手首から先は動くが肩や肘動かない。

    C5:肩の挙上困難(三角筋麻痺)

    C6:前腕屈曲困難(上腕二頭筋麻痺)

★エルプ麻痺は肩甲部の下方牽引!

〇クルンプケ麻痺(分娩麻痺)

下位神経幹障害(C8、T1神経)

主な原因:上腕外転挙上での牽引。分娩時など

主症状:手首から先は動かないが肩や肘は動く。

    母指球筋・小指球筋・骨間筋の萎縮。ホルネル徴候(+)

★クルンプケ麻痺は上腕外転挙上での牽引!

※ホルネル徴候

 眼に対する交感神経支配の消失状態。頚部交感神経機能低下により縮瞳になる。ホルネル徴候の3大徴候は、縮瞳・眼球後退・眼裂狭小。

 眼と脳をつなぐ神経回路が分断されるとホルネル症候群が起こる。自然発生することもあれば、他の病気が原因で発生することもある。肺ガン、リンパ節の腫れ、胸部大動脈瘤など。

 ホルネル症候群は、眼の交感神経機能低下や星状神経ブロック時に出現する。星状神経節ブロックは、バレリュー症候群時の頚部副交感神経刺激症状の改善目的や、顔面神経麻痺時の頭蓋内血流改善目的で実施される。

★ホルネル徴候とは交感神経支配の消失状態。縮瞳・眼球後退・眼裂狭小!

※眼瞼下垂

 眼瞼下垂を起こす疾患は次の3つ。①ホルネル症候群(片側軽度眼瞼下垂+縮瞳) ②動眼神経麻痺(片側眼瞼下垂+散瞳) ③重症筋無力症(両側眼瞼下垂。瞳孔は正常)

★眼瞼下垂を起こす疾患は、ホルネル症候群、動眼神経麻痺、重症筋無力症!

3)腕神経叢刺激点

 腕神経叢刺激点には、鎖骨上部のエルプ点と、腋窩部の極泉がある。

★腕神経叢刺激点は、エルプ点と極泉!

①エルプ点(≒天鼎)

位置:3つの神経幹が走行する部。仰臥位、治療側の反対に顔を向ける。肩鎖関節から鎖骨上縁に沿って内側1/3。その部位から3cm上方の頚側を取穴。胸鎖乳突筋後縁。

★腕神経叢刺激点のエルプ点は天鼎穴!

エルプ点近くには前斜角筋症候群の理学テスト部としてモーレイ点がある。モーレイ点はエルプ点の下方で、胸鎖乳突筋鎖骨枝上で鎖骨上縁。

刺鍼:寸6#3。直刺。上肢への鍼響を得る。橈骨・正中・尺骨・筋皮神経刺激になる。気胸に注意。

★エルプ点の下方で、胸鎖乳突筋鎖骨枝上で鎖骨上縁にあるのがモーレイ点!

②極泉(心)移動穴

位置:仰臥位で肩関節外転90°、肘屈曲45°。腋窩中央に通常の曲泉を取ります。そこから1寸上腕寄り。3つの神経束が走行する部。

刺鍼:寸6#3で、肘方向に向けて直刺5分~1寸。上下に鍼を素早く雀啄。電撃様鍼響を上肢に得る。橈骨・正中・尺骨・筋皮神経刺激。

★腕神経叢刺激点は、エルプ点(≒天鼎)と極泉移動穴!

2.末梢神経損傷後の分類と予後

 末梢神経は、有髄神経で構成されている。軸索の周りは絶縁体である髄鞘(=ミエリン鞘)に覆われ、所々髄鞘が切れている部分があり、これをランビエの絞輪とよぶ。

 神経伝達は、次々にランビエの絞輪を伝わり、跳躍伝導する。これが素早い伝導速度を生む原理である。

★ランビエの絞輪があるため、これが素早い伝導速度が生まれる!

1)一過性神経伝導路障害 

 一過性神経伝導路障害では軸索は温存されている。脱髄により神経の伝導が脱髄部でブロックされ、それより末梢には刺激が伝達されなくなってしまった状態。

 神経回復には損傷部からの再生神経の伸張を必要としないため、麻痺筋は解剖学的位置とは関係なくほぼ同時に完全回復する。回復に要する時間が髄鞘の損傷の程度により、数分から数週を要する。正座後のしびれや運動障害が最も軽い。該当する病態として腓骨神経麻痺などがあるがが、予後はさまざまで手術を要するものもある。

★一過性神経伝導路障害は、軸索が温存されていれば麻痺筋は回復する!

2)軸索断裂

 軸索は断裂し、損傷部以遠ではワーラー変性が生じる。

※ワーラー変性:末梢神経が圧迫や挫傷により神経組織の機能に悪影響を及ぼす状態。軽いものとしては、正座時や腕枕時に生じる痺れ。長時間神経が圧迫や絞扼を受けることにより、神経組織に流れる血流が途絶え、酸素が欠乏した結果として、痺れや麻痺などの症状が現れる。ワーラー変性が特に問題となるのが、顔面神経麻痺で、重症化してしまった場合には、神経が再生するときに混乱が生じてしまい、結果として回復が難しくなってしまう。

★ワーラー変性の軽症例は正座や腕枕による痺れ、重症例は顔面神経麻痺!

 損傷部位近位からすみやかに再生軸索の伸長が始まり、元来の終末目的器官に正しく到達する。再生軸索は末梢方向に1日1~3mm程度伸びていくので、損傷時損傷部に陽性であったチネル徴候は時間とともに末梢神経に沿い遠位に移動し、神経支配の順番にしたがって麻痺筋は回復していく。平均1~3ヵ月で完全回復が期待できる。

手根管症候群や肘部管症候群などの絞扼性神経障害が本症に相当。

※チネル徴候:末梢神経の損傷部位をたたいたときに、神経支配領域に、チクチク感や蟻走感が生じること。

★末梢部における代表的な神経絞扼障害は、手根管症候群、肘部管症候群!

3)神経断裂

 鋭い刃物で切ったり刺したりなど外傷によって、神経が断裂、軸索・髄鞘の連続性が断たれた状態。近位断端から再生軸索は伸張を開始するが、遠位断端までの間に間隙があることが多く、自然治癒による神経回復はほとんど望めない。

 そのため、間隙を埋めるための神経縫合術、神経移植術が必要となる。

 軸索断裂と神経断裂の鑑別には神経幹伝導検査を利用します。遠位の応答収縮を観察したい筋に低周波パットを固定し、近位の応答収縮を観察したい筋にもう一つの低周波パッドを固定。両パッドに低周波電流を流すと、神経断裂では応答収縮が認められない。

★神経が断裂、軸索・髄鞘の連続性が断たれた場合、間隙を埋めるための神経縫合術、神経移植術が必要!

第3節-2 橈骨、正中、尺骨 それぞれの神経麻痺

●橈骨神経麻痺 :下垂手

後骨間神経麻痺:下垂指、知覚麻痺はない

●正中神経麻痺 :猿手(涙の雫サイン)

前骨間神経麻痺:猿手(涙の雫サイン)、知覚麻痺はない

●尺骨神経麻痺:鷲手(フローマン徴候、OKサイン)

3.橈骨神経麻痺

①橈骨神経高位麻痺:

 上腕骨骨折、Lover’s(ハネムーン)症候群→ 下垂手

治療:手五里、消濼(三)

★橈骨神経高位麻痺治療点は手五里(大)、消濼(三)!

②低位麻痺:後骨間神経麻痺(=回外症候群)→ 下垂手

治療:手三里

●手三里の局所解剖:長・短手根伸筋の均衡に位置。深部には回外筋がある。すべて橈骨神経支配。テニス肘で圧痛好発部位。

★橈骨神経高位麻痺治療点は手三里(大)!

1)橈骨神経高位麻痺(高頻度)(下垂手)

①橈骨神経は腕神経叢より起こり、上腕外側の橈骨神経溝を下行し、上腕骨外側上顆(曲池)に向かう。→上腕外側部圧迫で、橈骨神経麻痺が起こることが最も多い。その原因は上腕骨骨折、ハネムーン症候群(長時間、新婦を腕枕)

★橈骨神経高位麻痺の原因は、上腕骨骨折、ハネムーン症候群!

②橈骨神経は前腕の全ての伸筋、外転筋、回外筋を運動支配、手関節や指関節の動きに関与するので、運動麻痺時には下垂手になる。

※下垂手:手関節とMP関節の伸展障害。PIP、DIPは侵されない。

★橈骨神経麻痺は下垂手!

③治療点

・手五里(大):曲池の上3寸。上腕三頭筋の外縁。上腕部の橈骨神経幹走行部位。本穴は神経絞扼障害部位そのもの。

・消濼(三):上腕後面。肘頭から上4.5寸(ほぼ中央)。上腕部の橈骨神経幹走行部。

★橈骨神経高位麻痺の治療点は、手五里(大)、消濼(三)!

2)橈骨神経低位麻痺(=回外症候群)(低頻度)

①曲池あたりから橈骨神経深枝と橈骨神経浅に分枝。

★橈骨神経深枝と橈骨神経浅に分枝するのは曲池辺り!

②橈骨神経深枝(筋枝)は前腕背面の三焦経に沿って走行。本神経は後骨間神経の別称がある。

★橈骨神経深枝(筋枝)は前腕背面の三焦経に沿って走行!

③橈骨神経深枝は、フロセのアーケード(前腕部回外筋入口の部)=手三里を通る。この部は狭いトンネルであり、可動性が少なく、神経絞扼障害が起こりやすい。これを橈骨神経低位麻痺とよび、下垂指になる(手関節部の障害は起きない)。

★橈骨神経深枝は、フロセのアーケード(前腕部回外筋入口の部)=手三里を通る!

④後骨間神経麻痺(橈骨神経が肘下から分岐し、名前を変えたもの)となる原因は、ガングリオンなどの腫瘤、腫瘍、尺骨の骨折、橈骨頭の脱臼などの外傷、神経炎、運動過多による絞扼性神経障害。

★橈骨神経低位麻痺の原因は、ガングリオン、腫瘍、尺骨骨折、橈骨頭脱臼、運動過多による絞扼性神経障害!

※下垂指:肘関節末梢で後骨間神経が麻痺し、総指伸筋・少指伸筋の麻痺により、各指のMP関節が伸展不能となる。ただし、手関節、PIP・DIPは動く。

⑤治療点

手三里(大):曲池の下2寸。長・短橈側手根伸筋の深部にある回外筋に刺入。

★橈骨神経低位麻痺の治療点は、手五里(大)、消濼(三)!

3)橈骨神経浅枝(皮枝)症状について

①橈骨神経麻痺では、橈骨神経浅枝も当然麻痺し、上肢部分の大腸経・三焦経領域の軽度知覚低下を生じるが、筋皮神経の前腕支配部分である外側前腕皮神経と重複支配しているので実際には目立たず、橈骨神経固有支配の合谷部に限局した知覚低下をみる。

★橈骨神経浅枝(皮枝)症状は、橈骨神経固有支配の合谷部に限局した知覚低下!

②ド・ケルバン病の痛みは、橈骨神経皮枝の興奮による。

★ド・ケルバン病の痛みは、橈骨神経皮枝の興奮!

4)装具

下垂手に対する手関節の固定装具を利用。

★下垂手には固定装具!

4.正中神経麻痺(猿手)

1)正中神経の走行

①極泉から起こり、上腕内側から曲沢に向かう。上腕部の障害に原因がある正中神経障害は、ほとんど起こらない。

 かつての天泉(心包)は、腋窩横紋前端から曲沢に向かい下2寸。烏口腕筋の筋上に取穴したので、天泉は上腕部正中神経幹刺激点としての特徴がありました。しかし、現行の標準天泉の位置は腋窩前縁から曲沢に向かうこと2寸となり、長頭と短頭間になったために、この解剖学的特徴は今はない。

②前腕は心包経(代表穴は郄門、内関)に沿って下る。前腕を走る正中神経は、尺側手根屈筋(尺骨神経支配)を除く前腕屈筋群を運動支配する。

★高位正中神経麻痺(上腕部障害)はほとんど起こらない!

●正中神経―高位麻痺:マレ

     ―低位麻痺―円回内筋麻痺(=前骨間神経麻痺)マレ。孔最付近(肺)      

          ―手根管症候群(多い):労宮と大陵の中点

<円回内筋症候群(=前骨間神経麻痺)>マレ

前腕では円回内筋部で圧迫を受けることがある。円回内筋の治療は孔最の1寸尺側あたり。

孔最移動穴:尺沢から橈骨茎状突起部に下ること3寸で、腕橈骨筋中に孔最(肺)を取る。

③手関節部では手根管に入る。この部(≒労宮)で神経絞扼障害を受ける。

<手根管症候群>←労宮刺鍼を行う。

★手根管症候群治療点は労宮!

④正中神経は、母指球筋を運動支配。例外的に母指内転筋は尺骨神経支配。すなわち短母指屈筋、短母指外転筋、母指対立筋は正中神経支配。

※母指球筋

手の親指の付け根のふくらみを構成する4つの筋肉の総称。短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋、母指内転筋のこと。

★正中神経運動枝は、母指球筋(短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋、母指内転筋)を支配!

⑤知覚枝は手掌の橈側(母・示・中指)を支配。

★正中神経知覚枝は、手掌の橈側(母・示・中指)を支配!

2)正中神経麻痺の運動麻痺症状

 母指球筋はほぼ正中神経の運動支配であり、麻痺時は母指球筋の萎縮症状が出現する。

①短母指外転筋麻痺により掌側外転(親指を開く運動。大きな物をつかむときに必要な動き)が不能。

②母指球が萎縮し、猿手。(母指球が萎縮)。

③母指対立筋麻痺により母指の対立運動が不能。

★正中神経麻痺は猿手になる!

3)正中神経麻痺の知覚麻痺所見

 知覚麻痺が、手の母指・示指・中止・環指と手掌にみられる。固有支配は示指端と中止端部。

※野球で直球を投げる手の握りで、ボールに触れる部分に相当。

4)原因

手首の骨折後、手根管内の腫瘍、リウマチによる滑膜炎、妊娠、糖尿病、アミロイドーシス、腎疾患、痛風など。

最も多いのは、中高年の女性に多く発生する原因のはっきりしない特発性と手の使いすぎによる滑膜炎(指を曲げる腱の炎症)によるもの。

★正中神経麻痺の原因で多いのは、特発性と手の使いすぎ!

5)前骨間筋麻痺(正中神経麻痺)

 ※前骨間神経とは、正中神経が肘下から分岐し名前を変えたもの

 円回内筋を通過する部分(≒孔最)における前骨間神経麻痺。頻度は少ない。正中神経低位麻痺の所見を呈する他に、母指IPと示指DIP関節が屈曲不能となる。

 この結果、母指と示指で丸を作らせると母指のIP関節過伸展(反り返り)、示指DIPの過伸展となる。この形を「涙のしずくサイン」とよび、前骨間神経麻痺時に陽性となる。

★前骨間神経(正中神経からの枝)麻痺は涙のしずくサインとなる!

 局所治療点という意味で孔最を刺入点とし、腕橈骨筋→円回内筋へと刺鍼する。

★前骨間神経(正中神経からの枝)麻痺は治療点は孔最!

6)装具:母指と他の4指を対立位に保持(猿手)するための装具を用います。

<母指球筋と疾患>

1)母指内転筋と短母指屈筋

①尺骨神経麻痺では、フローマン徴候となる。すなわち母指内転(尺)筋力が低下するので紙を挟む力が弱くなる。代償として短母指屈筋(正)が働き、母指MP関節が屈曲して紙を挟もうとする。

★尺骨神経麻痺(鷲手)は紙を挟む力が弱くなり、フローマン徴候(OKサイン)となる!

②合谷から刺鍼すると、第1背屈骨間筋(尺)を貫き、次いで母指内転筋(尺)に入る。

③魚際刺鍼で短母指屈筋刺激になる。短母指屈筋は内在筋なので、腱構造を持たない。

★魚際(直刺)刺鍼は短母指屈筋刺激!

 短母指屈筋と長母指屈筋は、その腱がバネ指の好発部位。

★バネ指の好発筋腱は、長短の母指屈筋腱!

2)短母指外転筋

 正中神経麻痺時、本筋が麻痺するので母指の掌側外転不能となる。

3)母指対立筋

 正中神経麻痺時、母指腹と小指腹を合わせるのを不能にする。

原因は、手首の骨折後、手根管内の腫瘍、リウマチによる滑膜炎による手根管内の上昇によるもの、妊娠、糖尿病、アミロイドーシス、腎疾患、痛風などホルモンの変化や代謝性疾患に随伴するものもある。

しかし、最も多いのは、中高年の女性に多く発生する原因のはっきりしない特発性と手を酷使する労働者に発生する滑膜炎(指を曲げる腱の炎症)によるもの。

★バネ指の最多原因は手指の使いすぎ!

5.尺骨神経麻痺(鷲手、鉤爪変形)

 尺骨神経麻痺―高位麻痺:青霊(心)マレ

       ―低位麻痺―肘部管症候群:小海

            ―ギヨン管症候群:神門の末端部

※ギヨン管:豆状骨と有鈎骨、豆鈎靱帯によって形成されたトンネル(管)。尺骨神経と尺骨動静脈が通る。

★尺骨神経麻痺で多いのは肘部管症候群とギヨン管症候群!

1)尺骨神経の走行

①上腕内側の浅層を心経に沿って走行(代表穴は青霊)する。

 青霊(心):小海から極泉に向かい上3寸。上腕三頭筋内側頭中に取る。

②その後肘部管(=小海)で神経絞扼障害を受けることがある。

 小海(小腸):上腕骨内側上顆と肘頭のとの間、尺骨神経管部。

★肘部管症候群(尺麻痺)の治療点は小海!

③前腕部は心・小腸経を走行(代表穴は支正、神門)し、尺側手根屈筋を運動支配し、手関節部でギヨン管に入る。ギヨン管部分で尺骨神経絞扼障害を受けることがある。

※ギヨン管:手首の小指側にある豆状骨と有鉤骨と、この2つの骨をつなぐ豆鉤靭帯によって形成されたトンネル 

・支正(小腸):手を胸に当て、手関節の上5寸の尺側手根伸筋の尺側。尺骨上。

・神門(心) :手関節尺側前面豆状骨の上縁で尺側手根屈筋の橈側。

④手指部では、手の小指球筋の全部と、中手筋の大部分と、母指内転筋を運動支配する。

⑤皮枝は手掌と手背の尺側に送る。固有支配は小指全体。

★ギヨン管症候群(尺麻痺)の治療点は支正(小腸)と神門(心)!

2)低位麻痺の症状

①知覚麻痺:手の尺側、第4、5~手背手掌

②運動麻痺(低位麻痺)

a)母指・示指でものを挟む力の低下=母指内転筋力低下

☆フローマン徴候(+)

★肘部管症候群の治療点は小海(小腸)、ギヨン管症候群なら支正(小腸)と神門(心)!

b)小指球筋委縮←小指球の筋すべてを尺骨神経が支配する。

 掌側骨間筋萎縮←骨間筋を支配:掌側骨間筋麻痺のため、小指内転困難となり、ポケットに手を入れようとすると、小指が引っかかる。

★尺骨神経麻痺(肘、ギ)では小指内転困難(ポケットに手を入れようとすると、小指が引っかかる)!

 尺側虫様筋麻痺→MP過伸展、PIPとDIPは屈曲位。

 虫様筋の作用は、DIPとPIPの伸展とMP屈曲。また虫様筋は、橈側2筋は正中神経、尺側2筋は尺骨神経支配。したがって、尺骨神経麻痺時には第4・5指のPIPとDIPが屈曲位、MPが過伸展位になる。この指の形と骨間筋萎縮を併せた形をワシ手とよぶ。

★尺骨神経麻痺はワシ手!

4)原因

大工や工場などの仕事による肘の長時間酷使など

★尺骨神経麻痺の原因は、大工や工場などの仕事による肘の長時間酷使など!

5)装具

 第4・5指のMP関節過伸展位に対して、これを関節屈曲位に保持することを目的装具を使用。

★尺骨神経麻痺(ワシ手)には装具!

<小指球筋の機能>

1)短掌筋(尺)と長掌筋(正)

 短掌筋は小指球尺側縁の皮膚を緊張させる。本筋の親戚である長掌筋は手掌腱膜を緊張させる。猿などが木登りや木の枝にぶら下がる際に使われた。ネコが爪をしまう時にも使う。今日ヒトはその機能は退化している。

★短掌筋(尺)と長掌筋(正)は猿などが木登りや木の枝にぶら下がる際に使用!

2)短小指屈筋

 小指基節の屈曲作用。本筋の親戚である短母指屈筋は、母指基節の屈曲作用。

3)小指外転筋

 小指の外転(環指から引き離す)。ジャンケンでパーを出す時、短母指外転筋・短小指外転筋、背側骨間筋(第3指を中心にこれより第2・4・5指を遠ざける)が働く。

★小指外転筋はジャンケンでパーを出す時に使われる!

4)小指対立筋

 母指対立筋と共同して、母指腹と小指腹をくっつける作用。

※小指球には、母指球にある母指内転筋がなく、小指内転は掌側骨間筋の働きによる。

<中手筋の機能>

 第2~5指のPIPとDIPを伸展しを屈曲させる。トランプを扇形に広げ持つ指の形。

※浅指屈筋(正)→第2~5指のPIP屈曲。

①深指屈筋(橈側半分は正中、尺側半分は尺骨神経支配)→第2~5指のDIP屈曲。

②掌側骨間筋(尺):第3指を中心に、これに第2・4・5指を近づける(内転)。

③背側骨間筋(尺):第3指を中心に、これから第2・4・5指を遠ざける(外転)。

 中渚(三)・液門(三)からの刺鍼は、背側骨間筋刺激になる。

★小指対立筋は、母指対立筋と共同して、母指腹と小指腹をくっつける!

6.手根管症候群

1)病態生理 

 手根骨と屈筋支帯の間隙のトンネルを手根管とよぶ。根管中を9本の腱と正中神経が通っている。腱膜や、それぞれの腱を連結している滑膜が炎症を起こし、腫脹すると、この正中神経が圧迫され、指にしびれが起こるようになる。女性に多い。妊娠・出産を機に多発し、透析患者(透析中、手がしびれると訴える)にも多い。

★手根管症候群は、正中神経圧迫。妊娠・出産を機に多発!

※透析アミロイドーシス:ある種の繊維状淡泊質が屈筋支帯に沈着し正中神経を圧迫。

※手根管を通るもの:深指屈筋、長母指屈筋、正中神経、浅指屈筋

※屈筋支帯:近位は豆状骨~舟状骨、遠位は有鉤骨~大菱形骨間を結ぶ。手根管が縦走する。正中神経圧迫の好発部位。

2)症状

 母指、示指、中指、環指の母指側にピリピリ感や知覚鈍麻が出現。上着のボタンをかける動作がしづらい。進行すると正中神経麻痺症状(母指球萎縮、モノをつまむ動作が困難)。手を振る動作で、一過性に症状軽減。

3)正中神経麻痺

 正中神経の麻痺は、高位麻痺はあまりなく、低位麻痺(肘から遠位での神経絞扼障害)がほとんど。手根管症候群はその代表。円回内筋症候群も正中神経低位麻痺だがマレな疾患。

★正中神経の麻痺は、低位麻痺(肘から遠位での神経絞扼障害)がほとんど!

4)理学テスト

①正中神経走行部(小指以外の指端)の痛みと異常知覚(ピリピリ、ジンジン)。母指対立筋の筋力低下、短母指外転筋の筋力低下、母指球萎縮。正中神経麻痺症状。とくに環指の母指側面と小指側面の知覚を比較してみて、母指側面が知覚低下しているのに、小指側面の知覚が正常であれば、正中神経麻痺の可能性が高い。

★母指側面の知覚低下は正中神経麻痺の可能性が高い!

②ファーレンテスト

 手首を強く屈曲(掌屈)すると、手根管が屈筋支帯に圧迫され、痛みが出現するか否かをみる。

★ファーレンテストは、手首を強く屈曲(掌屈)すると、手根管が屈筋支帯に圧迫され、痛みが出現!

5)手根管症候群の鍼灸治療

 手掌中央で、第3・4指屈筋腱の間に労宮穴を取る。労宮と手関節横紋の中央=(大陵)間を三等分し、大陵に近い1/3の部を「労宮移動穴」と定め、直刺。労宮移動穴から直刺すると、屈筋支帯→手根管→虫様筋腱と入る。なお手根管中には深・浅指屈筋腱と正中神経が走行している。

★手根管症候群の治療点は労宮移動穴!

6)労宮穴の局所解剖 

 虫様筋はカードを扇状に広げた際、MP関節は屈曲、PIPとDIP伸展して持つ肢位に寄与する。またボルダリング、ピアノを弾くなどでのMP関節屈曲作用がある。

 背側・掌側骨間筋を鍼刺激するのであれば、手背から刺鍼する方が適している。骨間筋の作用は手指の開扇作用。

★虫様筋は、ボルダリング、ピアノを弾くなどでのMP関節屈曲作用!

7.ギヨン管症候群(尺骨神経管症候群)

1)原因

 尺骨神経が、豆状骨と有鉤骨との間の尺骨神経管(ギヨン管)内で絞扼された状態。マレな疾患。

※ギヨン管を構成するもの:豆鉤靭帯、豆状骨、有鉤骨

★ギヨン管症候群(尺骨神経管症候群)はマレ!

2)症状

 尺骨神経絞扼症状(小指球部の萎縮、手の第4~5指の異常、フローマン徴候)、チネル徴候(+)

★肘部管症候群もギヨン管症候群も尺骨神経麻痺であるため、フローマン徴候、チネル徴候ともに(+)!

3)治療

 神門移動穴(豆状骨の遠位側縁)から直刺

★手根管症候群→正中神経(労宮)

 尺骨神経麻痺→肘部管(小海)とギヨン管症候群(支正・神門)!

8.筋皮神経麻痺

 上腕部では筋を、前腕部では皮膚を支配するため、このような名前がついている。

1)筋皮神経の走行と機能

①筋皮神経は腕神経叢から出る混合性の神経。

②筋枝:上腕屈筋群(烏口腕筋、上腕二頭筋、上腕筋)に分布。

③皮枝:外側前腕皮神経として前腕橈側(肺・大腸)に分布。

※橈骨神経皮枝と重複支配

2)原因:外傷や手術後遺症。神経絞扼障害は少ない。

3)症状:運動→肘の屈曲困難。知覚→前腕橈側の知覚低下

4)治療点:天泉(心包経、腋窩横紋前端の下2寸で、上腕二頭筋に長頭と短頭の筋溝)

★筋皮神経という名前は、上腕部では筋を、前腕部では皮膚を支配するため!

9.遅発性尺骨神経麻痺(肘部管症候群)

1)原因:幼少期の肘骨折

2)病態:肘骨折治療後、成長するにつれて外反肘が増強し、尺骨神経診時(=小海部分)付近の弓場靭帯部尺骨神経が絞扼されて麻痺する。

→治療はこの靭帯を切開手術することが多い。

3)症状・所見

 第4・5指の知覚低下やピリピリする痛み。進行するとつまむ力=ピンチ力(母指内転筋力)が低下し、第4・5指の変形が生ずる。

 チネル徴候(+):肘部管内で圧迫された尺骨神経を軽く叩くと、第4・5指へ痛みが放散。

★遅発性尺骨神経麻痺(肘部管症候群)の原因は幼少期の肘骨折!

10.指神経損傷

1)病態と症状

 手の指の特定部位に強い力が日常的に加わることで、この部を走行する指神経が圧迫(楽器演奏やボーリング練習)や損傷(カッターなどでの創傷)を受けたことで、指の特定部位の皮膚の知覚麻痺が起こる。運動神経は正常。

※手掌は正中神経と尺骨神経皮膚知覚紙枝が知覚支配。この神経枝の問題。

2)診察

 知覚麻痺部の少し上部に、チネルサイン(指先で軽く叩くと症状部に放散痛)陽性。

3)治療と予後

 いつまでも症状が改善しない場合、神経切断を予想するが、この部の神経は非常に細いので、顕微鏡を使って神経断端を糸で縫合する必要がある。断裂して離れてしまっている場合は自然には回復しない。

★手の指の特定部位に強い力が日常的に加わることで、この部を走行する指神経が圧迫(楽器演奏やボーリング練習)される!

☯東洋医学で捉える末梢神経麻痺

東洋医学では、運動マヒを「痿(い)」、知覚マヒを「痹(ひ)」と捉える。

痿や痹の原因となっている神経や経絡走行上の穴に鍼灸を行い、組織の修復や神経の興奮を促すということでは、西洋医学と同様である。また、神経麻痺早期回復のため、証に対しての治療を行う。

★登場した筋皮神経・橈骨・正中・尺骨神経刺激の代表穴一覧

〇上腕部

<経穴>

・極泉 (心)   :腋窩中央       →

・手五里(大)(橈):上腕外側、曲池の上3寸→ 

・青霊 (心)(橈):上腕内側上顆の上3寸 → 上腕三頭筋

・消濼 (三)(橈):臂臑と清冷淵の中央。肘頭の上4寸5→上腕三頭筋

〇肘部

<経穴>

・小海(小腸)(筋):上腕骨内側上顆と肘頭の間→尺側手根屈筋

〇前腕部

<経穴>

・手三里(大)(橈):曲池の下2寸→橈側手根伸筋

・郄門(心包)(正):手関節前面中央上5寸(正)→橈側手根屈筋、長掌筋

・内関(心包)(正):手関節前面中央上2寸→橈側手根屈筋、長掌筋、浅指屈筋

・支正(小腸)(尺):手関節後面尺側で陽谷穴上5寸→尺側手根伸筋

〇手部

・神門(心) (尺):豆状骨上際で尺側手根屈筋腱の橈側→尺側手根伸筋

・合谷(大) (尺):母指と示指のMP関節基底部間→第1背側骨間筋

・陽谿(大) (橈):母指を伸展してできる長・短母指伸筋腱の溝→長・短母指伸筋腱

・偏歴(大) (橈):陽谿から曲池に向かい上3寸長母指外転筋・短母指伸筋

・魚際(肺) (尺):母指CM関節の上、橈側陥凹部、表裏の肌目→短母指外転筋

・労宮(心包)(正):手掌中央で、第3・4指屈筋腱の間→浅指屈筋腱、虫様筋

・中渚(三) (尺):第4MP関節の上、尺側→第4背側骨間筋

・液門(三) (尺):第4MP関節の上、尺側→第4背側骨間筋

・後谿(小) (尺):第5MP関節の上、尺側陥凹部→小指外転筋

計18穴

※合谷:第1背側骨間筋を貫き母指内転筋に達する。

    「第1背側骨間筋(尺9→母指内転筋(尺)」

※魚際:本穴より直刺深刺により、母指内転筋に達する。

    「短母指外転筋(正)→母指対立筋(正)→短母指屈筋(正・尺)→母指内転筋(尺)」に刺鍼出きる特異的な部位。

kiichiro

鍼灸師。東洋医学について、健康について語ります。あなたの能力を引き出すためには「元気」が何より大切。そのための最初の一歩が疲労・冷え症・不眠症をよくすること。東洋医学で可能性を広げられるよう情報を発信していきます。馬込沢うえだ鍼灸院院長/日本良導絡自律神経調整学会会員/日本不妊カウンセリング学会会員//日本動物愛護協会会員